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彼がそこに至るまで(1) いきなり新天地へ 投稿者:毒虫 投稿日:05/21-00:53 No.571


―――7年後。 

道場へと赴くと、待ち人は既にそこにいた。 
静謐な雰囲気を湛える道場の真中に正座し、目を閉じ、ぴくりとも動かない。 
まるで道場の一部かのようにしているのは、7年前のあの日より、ますます女ぶりを増した青山鶴子。 
横島が現れたのを察すると、鶴子はすうと片目を開けた。 

「来はりましたか」 

それだけ言うと、座るように視線で促す。 
待たせちゃってスンマセン、と謝るも、反応はない。 
しばらく、少々気まずい沈黙が続き……ようやく、鶴子の口が開く。 

「忠夫はんがウチに来はってから、もう7年になるんえ……。時の流れちゅうのは、早いもんどすな」 

「7年……。もうそんなになるんですね。あっと言う間でしたよ」 

7年。長いようで短い。その間、今に至るまで、色々な事があった……と、横島は過去を反芻する。 
魔族の自爆に巻き込まれた際、文珠の暴走によって、ここ……異世界へと跳ばされ。 
鶴子を始めとする、色々な人と出会い、また別れ。 
元いた世界へ戻る手段を探しながら、青山の仕事の手伝いもした。 
始めの方こそ、異世界に跳ばされたなんて突拍子もない出来事を信じる事などできなかった。 
自分が本当に、似て非なる異世界へと迷い込んでしまった事に気付いた時は、それはもう、アゴが外れる程に驚いたものだ。 
…いくら探しても、元の世界に帰る手段が見つからないのには絶望を感じたが……7年も経てば、新しい絆が生まれる。 
元いた世界と、こちらの世界。どちらの絆が大切かと問われても、答えなど出ない。 
しかし、今すぐにでも帰れるとなっても、迷ってしまうだろう。こちらの世界にも、それなりの執着というものを持ってしまった。 
この7年という期間は、実に濃密なものであった。そういえば、あの時も……と、感傷に浸りかけた横島の耳に、鶴子の声が響く。 

「忠夫はんも今では、立派な青山の一員、うちの家族も同然どす」 

「つ、鶴子さん……」 

感動する横島。 
鶴子の言葉は嘘ではないが、さりとて真実でもなかった。彼女自身はそう思っているが、青山での横島の立場は微妙なものだ。 
当の鶴子も、最初の内こそ、素性の知れない横島を警戒していたが……横島と接する度に、隠された彼の内面に惹かれていった。 
今ではもう、鶴子は横島にすっかり心を開いている。多少、開きすぎの感があるほどに。 

「そんな忠夫はんにしか、任せられへん仕事があるんどす。……聞いてもらえますやろか?」 

「当ったり前じゃないですか! 鶴子さんの頼みとあらば、もう何だって聞いちゃいますよボク」 

そうどすか、と軽く溜息をつく。 
横島が自分を信頼してくれているのは喜ばしい事だが、これから彼に切り出す話は、鶴子にとって残念な事なのだ。 
そして恐らく横島は、目先の事実に囚われ、寂しがっている自分の事など気付きもしないだろう。 
腹立たしくもあるが、もうそこらへんは諦めの境地にある。横島とはそういう男なのだ、と。 

「実は、麻帆良に行ってもらいたいんどす」 

「麻帆良? 麻帆良っつーと……確か、魔法協会の理事の爺さんが学園長だか何だかをやってるってアレですか?」 

「そのアレでおうとりますなぁ」 

どこかで聞いた情報を思い出す。 
麻帆良学園都市。街の根幹である学園から都市全体の運営までを魔法使いが取り仕切っている、とんでもない所だ。 
学園長が、極東にその人ありと謳われたほどの魔法使いなので、色々と事情があるそうで。時たま、突拍子もない噂を聞いたりもする。 
高位の魔道書が収められている図書館があるとか、森で魔法生物が繁殖しているとか、額に稲妻状の傷痕がある少年が在籍しているとか……。 
実際に行ってみた事はないが、何となく、ハチャメチャで面白そうな所だなあ、とは思っていた。 
しかし、青山が属するのは、関東魔法協会と対立している形を取っている、関西呪術協会である。つまり、導き出される結論は一つ。 

「要するに……スパイですね?」 

「…はぁ?」 

ぽかん、とはしたなく大口を開ける鶴子。 
作法に反しているが、仕方がない。横島の答えは、完全に鶴子の予想外だった。 
物凄い論理の跳躍に、ただ呆気に取られるしかない。 

「大丈夫、どーんと俺に任しちゃってください! 
 スパイにはちょいと自信がありまして……。なあに、見事にミッションインポッシブってやりますよ!」 

ぐっ!とサムズアップ。 
ぷっ…と、鶴子は思わず噴き出してしまった。 
くすくすと楽しげに笑う鶴子に、横島は情けなく眉を下げる。 

「つ、鶴子さぁ~ん…」 

「か、かんにんしとくれやす………っく、ふう……。 
 あぁ、おかし…。ほんま、忠夫はんはおもろいお人どすなあ」 

にっこりと微笑まれる。横島は複雑そうな表情を作った。 
まあ、多少おどけてみせたところはあったが、魔法協会理事のスパイをせよと言うのは割と真面目に推理したつもりなのである。 
しかし見当違いだったようで、じゃあ他に何があるのか…と、横島は首をかしげる。 
改めて真顔を作り、鶴子は話を切り出した。 

「学園長の近衛はんが、青山から優秀な人材をご所望どしてな。 
 まさかうちが行くわけにはいかんやろし、他に頼りにできるんは忠夫はんしか…。頼まれてもらえますやろか?」 

魔法協会の理事が、対立している組織の人材を要望している……。何とも、裏がありそうな話だ。 
しかし、どんな陰謀が隠されていようと、余程の事でない限りは潜り抜けられる自信はある。 
それに……命の恩人で、なおかつ極上の美女である鶴子が頼んでいるのだ。断る事などできはしない。 
逡巡したのは一瞬だけで、横島は軽く頷いてみせた。 

「ええ、分かりました。 
 でも、派遣されるのは構わないんですけど……なんでまた、そんな人がウチに?」 

「実は、近衛はん……関東魔法協会理事の近衛近右衛門はんは、関西呪術協会理事、近衛詠春はんの義父なんどす。 
 今の理事がお二人になってから、両方で、徐々に融和政策が取られて来て……なんでも、今回はその一環なんやそうどすえ。 
 ゆうたら、交換留学生みたいなもんどす。向こうさんからも、呪術協会の方にどちらさんか派遣されるんやて。 
 まあ……近衛はんは、他に思惑がありはるみたいどすけど」 

「思惑?」 

「近衛はんが学園長を勤めてはる麻帆良学園の女子中等部。そこに、お孫さんがいはるんどすわ」 

「孫、っつーと…」 

近衛近右衛門の孫というと、近衛詠春の子供という事だ。 
呪術協会理事の娘の事なら、横島も聞いた覚えがある。 
名前こそ忘れてしまったが……確か、とんでもない魔力を秘めた逸材であるが、何故か魔法や、その他『こちら側』の事には一切触れさせずに育てられて来たとか。 
最近、どうも噂を聞かないなと思っていたら、そんな所にいたとは…。 

「そのお孫さん……木乃香はん言いはるんやけど、どうも最近、その子の周りが物騒やあちゅうて。 
 元々、ウチから一人、護衛を出しとる……ちゅうか、勝手に出て行ったんやけど……それだけやと不安なんやそうどす。 
 まぁ、学園長のお孫さんやゆうても、呪術協会理事の娘さんでもあるわけどすから、色々、複雑なんどすやろ。 
 ウチと向こうさんから何人か出して、それぞれに護衛してもらおうゆう腹どすわ」 

「んで、俺に白羽の矢が立った、と」 

頷く鶴子。 
魔法協会理事の孫でいて、呪術協会理事の娘でもあり、そして、極東最大の魔力の保有者であるお嬢様。 
そんなVIPとも言える人間を護衛するのだから、生半可な者は送れない。青山の沽券に関わる。 
鶴子が自分を信頼してくれているのは嬉しい事だが……しかし、この仕事は一体、いつまで続くものなのだろうか? 
聞く所によると、件のお嬢様はまだ中学生らしい。少なくとも高校を卒業するまでは麻帆良にこもり切りだと考えるべきだろう。 
仕事で、全国と言わず、それこそ全世界を飛び回って来た横島だが、拠点とし、帰るべき家として来たのは、もっぱらここ、青山家だ。 
そりゃあ途中で交代の人員が来るかもしれないし、休みがないというわけでもないだろう。それでもやはり気が進まない。 
それに元来、横島は、誰かを守れ、とかいうのより、誰か(何か)を倒せ、という方が断然得意だった。 
何かを守りながら戦う……というのは、何とも自信がない。かつて、大切な人を守りきれなかった経験があるだけに。 
かと言って……断って、鶴子の面子を潰すのも憚られる。彼女には、本当に世話になったの一言では言い表せぬほどの恩義がある。 
受けるべきか、受けざるべきか……。本当に、迷わされる。 

うんうん唸っている横島を尻目に見、鶴子は、はあ、と一つ軽い溜息をついた。 
お茶淹れて来ますわ、とくるりと反転し、半ば腰を浮かしかけた鶴子の口から……ああ、そうやった、と白々しい言葉が飛び出す。 

「木乃香はんが属してはるんは麻帆良女子中等部。となると……自然、護衛の活動はそこらへんに絞られますなあ。 
 それに、向こうさんには女子高等部もあるし、不思議と生徒さんも教員さんもみんな別嬪さんやぁゆう話は、よう聞きますなあ」 

「行きます。麻帆良行きます。俺が行きます。断然行きます。絶対行きます。断られても個人的に行きます」 

即答である。 
鶴子は、もはや溜息しか出ない。 

「……ほんなら、荷物まとめ次第、出発してもらいますえ。 
 部屋とか家具の手配なら、向こうさんがしてくれはるみたいどすから、必要なもんだけ持って行きはったらよろしおすやろ」 

「早速、今から準備しまっす!」 

今にも喜びに叫びだしそうに駆け出す横島の背を見、鶴子はかなり複雑な表情を浮かべる。 
例えるなら、出来の悪い弟を見ているような姉のような。 

(これさえなかったら、結構ええ人やのになあ。 
 まあそれでも、7年前と比べたらえらい成長なんやろうけど……) 

今でこそ、それなりに歳相応の落ち着きらしいものを見せ始めている気がしないでもない、といった感じの横島であるが……最初の内は、それはもう酷いものだった。 
鶴子は言うに及ばず、容姿の整った女性は、使用人であろうと、門人であろうと、あろう事か依頼人であっても口説き倒したものだ。 
無論、その内の九割九分九厘は失敗に終わっているが……中には、本当に少数であるが、彼の本質の一端に気付いた者もいる。 
一番最初に彼の魅力に気付いた鶴子の立場からすると、何とも複雑な気分だ。 
可愛がっていた弟を、どこの馬の骨とも知れぬ女に掻っ攫われるような……そんな感じ。 

まあともかく、今心配すべきことは一つだけ。 

「……忠夫はん、なんか問題起こさへんかったらええけど…」 

それを横島に期待するのは、少々無茶というものだろう。

裏方稼業 彼がそこに至るまで(2) 特命

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