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ファントム・ブラッド(1) 初出勤 投稿者:毒虫 投稿日:05/28-23:25 No.630


横島が麻帆良にやって来てから2日目。今日は初出勤の日だ。 
部屋で清掃員の格好に着替え、昨日からの愛車のマッハ号(ちなみに電気自動車)で街を走る。 
仕事場へ向かう前に、100円ショップで伊達眼鏡を購入しておく。横島としては、眼鏡かサングラスありきの変装なのだ。 
似合わない眼鏡をかけ、俺ってひょっとしてインテリっぽい?とか的外れな事を考える。 
野暮ったいカートに乗り、ニヤニヤしている清掃員。登校中の生徒達の注目の的だ。早くも目立っている。横島は基本的に馬鹿だった。 

やがて麻帆良学園女子中等部に到着すると、しばし考えた末、とりあえずは中庭に向かう。 
学園長の話では、他にも清掃業者(本職)を幾人か派遣してもらっているため、なるたけ彼らと鉢合わせにならないように心がけなければならない。 
業者の中では、横島一人だけが浮いているわけだが、これでは清掃業者を装った侵入者とも間違われかねない。 
そこで学園長が考えた策が、横島の胸に燦然と輝く、モップを模ったバッジだった。 
黄金色のモップの下に刻まれた『SCS』の文字は、『スペシャル・クリーニング・サービス』の略だ。 
正式名称は、『特別権限保有指定広域清掃員』というのだが、長ったらしく、その上、名前など実際何の意味も持たないので、横島はもう忘れた。 
形としては、学園長直下の清掃員であり、いつ何時、学園内のどこでも自由に清掃できる権限を与えられている。 
これを生かし、使用中の女子更衣室を清掃しようかとも横島は一瞬考えたが、青山に報告が行くと地獄を見る事になりそうだと思って諦めた。 

とにかく、朝一番は生徒の行き来も激しいので、校舎内の清掃は難しい。 
中庭ならば校舎からそれほど離れていないし、何かあった時にも素早い対応が可能だろう。 
我ながら名案だと一人満足し、横島は慣れない作業を始めた。 

まずは竹箒で落ち葉などを集める。 
ある程度溜まるとチリトリで回収し、ポリ袋に入れる。 
大雑把に中庭全体を掃き終えると、次はベンチやテーブルが並べられた休憩所だ。 
床を掃き、ベンチ、テーブルの汚れを拭き取り、ゴミ袋を回収し、新しいのと交換する。 
地味で単調な作業だが、掃除した後を見ると、する前とは見違えて美しくなっている。当たり前の事だが、何故だかそれが妙に嬉しい。 
横島は初めての清掃作業に、意外にも充実感を覚えていた。一通り綺麗にした中庭を見渡し満足気に頷くと、ふう、と額の汗を拭う。 

「俺って結構こーゆー仕事、向いてるかもな……」 

今まで、悪霊やら妖怪やら悪人やら魔族やら、果ては神話に名を刻む魔神やらと戦って来たが、生来、横島は喧嘩とかそういうのは好きではない。 
気の合う仲間達と下らない話で盛り上がったり、美人のねーちゃんに特攻して玉砕しているだけで、充分楽しいのだ。 
高校卒業後、経験を重ね一人前のGSになり、一生遊んで暮らせるだけの資産を作って引退し、あとは美人の嫁さんもらって退廃的な生活を過ごす…… 
というのが、高校時分割と真剣に考えていた人生設計であったのだが、現状は、異世界で退魔組織の使いっ走りのような事をしている。 
一体、どこで人生を間違えたのか……と、自らの半生を思い返すとアラ不思議。何故か後悔する事ばかりで、鬱が進むばかりだ。 
しかしこれも青山の仕事の一環とはいえ、女子校の清掃員にジョブチェンジ。血生臭い裏家業から一転、一気に牧歌風である。 
学校で用務員の真似事をして、日がな一日、まったりとした時を過ごす。……悪くない。中々に悪くない人生だ。 
3年周期で入れ替わる子供達の人生の一端に触れながら、ほとばしる若さを羨ましがったりして、少しずつ歳を重ねる…。 
構内で拾った捨て猫に名前付けて飼っちゃったりなんかしちゃったり……。夢は膨らむ。 
ああ、本気で、用務員って人生もいいかもしれない…… 

「って、何、たかだか数時間足らずで洗脳されてんだ俺はぁぁぁっ!!」 

ぐおおー!と頭を抱え、仰け反り叫ぶ。 
慣れない作業に没頭するあまり、本来の仕事の方をすっかり忘れ去ってしまっていた。 
危うく道を踏み外す所だった……と冷や汗を拭っていると、ふと、人の視線を感じる。それも、一つではない。複数人のものだ。 
監視されている?と、注意深く辺りを探ってみる……までもなく、自分が生徒達に囲まれているのに、やっと気付いた。 

「うおっ…………と、ゲフンゲフン! ンフフフ~ン♪」 

危うく声を上げそうになるが、何とかこらえる。咳と鼻唄でごまかそうとするが、限りなく不自然だ。 
これ以上妙な事態になっては困る。横島はカートに飛び乗り、移動を開始した。 
…車を走らせていると、やけに生徒の数が目立つ。時間を確認すると、案の定、昼休みだった。 
それに気付くと、思い出したかのように腹が減って来る。 

(昼飯……だけど、そーいや、どうすりゃいいんだろ? 
 学生に混じって食堂で食うのはさすがに目立つだろうし……って、そもそも、食堂の場所すら怪しいんだけどな。 
 コンビニでもありゃいいんだけど……って、あれは…?) 

広場に出た所で、屋台らしい車が停まっているのが目に入る。 
とてもいい匂いが鼻先をかすめる。辛抱たまらなくなり、横島は少し離れた所にカートを停めた。 
近付いてみると、どうやら肉まんを売っているらしい事が判る。のれんには、『超包子』の3文字。 
ちょーほーこ…?とアホの子っぽく首をかしげつつ列に並ぶ。待ち時間はそれほどなかった。 

「いらっしゃいアルネ! いくつ包むカ?」 

売り子のお団子頭の少女が、朗らかな笑みで横島を迎える。 
普通なら、おいおいなんだよその胡散臭い中国訛りは、とツッコミが入る所だろうが、生憎、横島は彼女以上に胡散臭い中国人モドキを知っている。 
そういや厄珍のヤツ、今頃元気にやってっかなぁ…と、何となく心配になる。 
オカG辺りにガサ入れを喰らえば、いつしょっぴかれてもおかしくはない。オカルト関係の法律はもちろん、薬事法にだって引っかかるだろう。 
しかしまあ、正直、厄珍の事などどうでもいいので2秒で忘れて、横島はとりあえず肉まんを3つほど注文した。値段は安かった。 

「毎度ありネ! 再々(ツァイツェン)!」 

気持ち良く送り出してくれる。中華娘の売り子ってのもオツなもんだ……と、無意味に頷く。 
袋からあまりにも美味そうな匂いが立ち昇るので、カートまで我慢しきれず、横島は肉まんを手に取った。がぶりとかぶりつく。 
モチモチの皮、溢れ出す肉汁、ジューシーな具……! カッ! と横島は目を見開いた。 

「ンまァーーいッ!!」 

目じりに涙まで浮かばせながら、横島は絶叫した! 

「『ハーモニー』っつーか、『味の調和』っつーか…… 
 たとえるならサイモンとガーファンクルのデュエット! ウッチャンに対するナンチャン! 
 高森朝雄の原作に対するちばてつやの『あしたのジョー』! …つうーっ感じだよあ~っ」 

肉まんは美味かった。今まで食したどの肉まんよりも、確実に、そして段違いに美味い。 
感動すらもたらすその味に、インド人もビックリだぜ…!と間違った感想を漏らす横島であった。 






肉まんを3つも食べればそれなりに腹が膨れる。水飲み場で喉を潤し、昼食を終了とする。 
午後からは、広場と、グラウンドの隅を中心に作業を進めた。 
作業の傍ら、体育の授業に励む生徒達のブルマに幾度も目を奪われ、いやいや俺はロリじゃない!と葛藤したのは御愛嬌だ。 

幸い、他の清掃業者とかち合う事もなく、何事もなく作業を終える。 
気が付くと、もう放課後になっていた。時間が経つのは早いものである。 

鶴子の言う通りにするなら、これから近衛木乃香嬢の護衛をするべく、彼女の居所を探るべきなのだろうが……現段階では難しい。 
何しろ、情報が足りない。普段の行動範囲も知らなければ、彼女の属するクラスさえ知らないのである。 
判っているのは名前と、顔ぐらいなものだ。それさえも、一昔前の写真で、今現在のものではない。 
学園長としても、恐らくはそのために横島を呼んだのだろうと思うのだが……今のところ、特にその事に関しては何も言って来ない。 
それに、鶴子から聞いた、青山を出奔した形で木乃香嬢の護衛を務めている者の正体も気になる。 
横島はあくまで鶴子に尽くしているのであって、何から何まで青山の思惑通りに動くつもりはない。 
拾ってくれた恩義は感じているが、その義理はここ7年間の働きで全て返したものと思っている。 
ゆえに、例え青山で裏切り者とされている人物と手を組む事にも、何のわだかまりも感じないのだ。 
むしろ、積極的に協力していきたいとさえ思っている。同じ目的を持っているのにそれぞれ別々に動いているなど、非効率的だ。 
さっさと協力関係を築いて、ある程度連携を取れるようにすれば、木乃香嬢の安全も守りやすくなる筈だ。 
今度学園長に会ったら、その旨について相談してみよう……と、横島は掃除用具を片付け始める。 
今すぐ会いに行かないところが、横島のぐーたらな性格を表していると言えよう。 

小腹も空いたし、とりあえず軽くなんか食おう……とカ-トを走らせていると、視界の端にめんこいものが映り込む。 
横島は反射的にカートを停めた。猫。それも仔猫だ。可愛い。超可愛い。 
しゃがみ込み、チッチッチ……と呼んでみると、そのいたいけな瞳が横島を捉えた。横島の顔面全体が緩む。 
さすがは人間以外にモテまくる横島と言うべきか、仔猫は何ら警戒せずに横島へ歩み寄った。 
みーみーと可愛らしく鳴き、差し出した横島の指をぺろぺろと舐める。横島は悶絶したくなった。 

「あーもう! かぁいいなぁーっ! こいつめ! こいつめっ!」 

頭やアゴの下や耳の裏や背中を撫でまくったり、尻尾の付け根の辺りをコリコリしてやると、仔猫は大層喜んだ。 
完全に懐いた仔猫を、きゅっと胸に抱き締める。暖かい……。至福の時だ。今日一日の疲れが吹っ飛ぶ。 
美人さんが好きです!でも、猫さんの方もめっちゃ好きです!そんな感じだ。 

…完全にニャンニャンに没頭している横島の背後に、すっ…と近寄る影。 
背後に立たれればさすがに気付き、横島はさり気なく後ろを振り返った。 
そこにいたのは…… 

「……………」 

耳にアンテナらしきものを生やし、無言で佇んでいる少女。 
よく見てみれば、手の指や、膝などが不自然である事が分かる。球体関節、という奴か。 
そして虹彩のない無機質な瞳。なんかもうあからさまにロボットっぽかったが、その辺に頓着する横島ではなかった。 
横島が注目したのは、彼女が手に持っている猫缶だった。 

「あ……。この猫、君が?」 

「いえ、そういうわけでは」 

口ではそう言いつつも、その視線は仔猫へと注がれている。 
何となく手を離してみると、仔猫は一目散にロボっ子(仮名)へと駆け寄る。横島、ちょっとショック。 
ロボっ子は猫缶を開けると、ひっくり返して蓋の部分に中身を乗っけて、地面へと置いてやる。 
エサを貪る仔猫を見る彼女の瞳は、相変わらず無機質だが、どことなく優しい。 
彼女の仕草のどれもが、どうしても知り合いの機械少女……マリアを思い出させる。 
胸を締め付けられるような感傷を覚え、横島は目を伏せた。 

「…? どうかなされたのですか?」 

横島の変調に気付き、ロボっ子が声をかける。 
これはプログラミングされた行動だろうか?いや、そうだとは思えない。 
声に気遣わしげなものこそ感じ取れないが、しかし全くの無感情というわけでもない。 
横島は直感的に気付いていた。この娘は確かに機械だろう。だが、確かに心が宿っている。 

「君は………優しいんだな」 

マリアとダブらせ、横島にしては珍しく、とても優しげな目で彼女を見やる。 
ロボっ子は、どうやら戸惑っているらしかった。 


「優しい………?」 

優しい。データベースには記載されている単語。その言葉が持つ意味ならば、何度でも反復できる。 
しかし、誰かから彼女に向けてその単語が使用されたのは、これが初めてだ。 
見も知らぬ清掃員の青年。彼の言葉は明らかに矛盾している。感情というシステムを搭載していない自分が、優しい。ありえない事だ。 
ありえない。ありえないが………何故だろうか。否定する気が起きない。いや、否定したくない……のか? 
~する気が起きない、したくない、というのも、彼女のあり方に反する、ありえない事なのだが。 

対応措置を取れないでいると、清掃員の青年は、よっこらせ、と声をかけて立ち上がった。 
エサを食べている仔猫をしばらく眺めると、次に彼女へと視線を向ける。 

「そ。君は優しい。んで偉い!」 

ニカッと笑うと、青年は彼女の頭をくしゃっと撫でた。 
彼女の髪は放熱剤の役目も兼ねている。本来なら、乱されるのは好ましくない筈なのだが……その行為を自然に受け入れてしまっていた。 
青年はもう一度笑うと、軽く片手を挙げて踵を返した。 

「んじゃ、俺はこれで」 

「………ええ、また」 

去って行く清掃員の青年の背を見送る。 
何故か、彼の名は何と言うのだろうと、その事だけが気になった。 






陽も完全に落ちた頃……。 
桜通りから少し脇に逸れた桜林。その中で、異様な光景が繰り広げられていた。 
銭湯帰りの格好をした少女が力なくへたりこみ、背を桜の幹に預け……その上に、黒いものが覆い被さり蠢いている。 
いや……よくよく目を凝らせば、それが黒いマントを羽織った、小柄な人影である事が判る。 

「あっ……あ……あ、あ………」 

まだ乾ききっていない髪を二つ括りにした少女の瞳は、ただ虚空を彷徨い、何も映さない。 
瑞々しい唇から時折漏れる声は、苦痛とも快感ともつかない、複雑な感情を帯びているように聞こえる。 
まるで映画か何かのワンシーンのような、それは日常からあまりにも逸脱した風景だった。 
…しばらくもしない内に、黒マントが少女から身を離す。雲が晴れ、月明りがその正体を照らした。 

「フッ……。中々、美味かったぞ」 

意外にも、黒マントの下にあったのは、出来の良い西洋人形のような、可憐な少女だった。 
豪奢な光沢をたたえる黄金色の髪をかきあげ、薔薇の蕾のような口唇をぺろりと舐める。 
頬は、今まさに情事を終えたかのように上気し、その瞳は扇情的に濡れている。 
外見的にはまだまだ幼い少女のようだが、その身にまとう雰囲気は妖艶そのもの。化生じみた色気を放っている。 
黒の少女は、愉悦に目を細め、天に輝く満月を仰ぎ見た。 

「さて、ぼーやはどう出るか…」 

愉しませてくれるといいがな、と、マントを翻らせ、振り返る。 
その視線の先には、闇夜に紛れるようにひっそりとたたずむ影。 

「なあ、茶々丸?」 

「……はい、マスター」 

返事は、単調な声。 
それは、放課後、仔猫に餌をやっていた……あの、機械の娘だった。 
機械の少女がその瞳に映すのは、珍しく上機嫌な己の主ではなく、意識を失い、倒れている少女。 

(このような行為は、恐らく、一般的に『優しい』とされる行為に該当しない……) 

そう判断を下すと、何故か、胸の機関部の辺りに過負荷がかかる。 
それと同時に、昼間の清掃員の青年の笑顔が再生される。 
これまで稼働して来た中で、こんな事は初めてだ。故障かもしれない…。今度、念入りに整備してもらおう。 

「何してる、茶々丸。帰るぞ」 

いつの間にか、主は帰路についていた。 
はいマスターと返事を返すと、その後に続く。 
夜道に捨て置く形になるクラスメイトの事が気にかかった。 



一方その頃、横島は…… 



「く、くそ…! 何故だ! 何故なんだッ!? うおおぉーーッ!!」 

深い絶望が横島を襲う。 
それは酷い裏切りだった。そう、生きる希望さえ奪われるような…。 
号泣し、拳を床に叩きつける。何度も、何度も。…しかし、そんな事をしても、胸を覆う絶望が晴れる事はない。 
煌々と明かりを灯す天井を睨みつけ、力の限り、横島は叫ぶ。 

「なんでここのレンタルビデオ屋はどっこもえっちいビデオを置いてないんじゃあぁーーーッ!!」 

「い、いや、僕に言われても……経営方針ですし……」 

マジギレする横島に、冷や汗をかきながらツッコミを入れるアルバイトの店員。 
そりゃあ、人口の大半が学園関係者で、未成年の学生もかなりの比率を占める、ここ麻帆良学園都市。 
ちょっとエッチな雑誌程度ならともかく、流石にアダルトビデオなど、教育上マズすぎるものは取り扱われていない。 
…しかし、出張先は別として、青山本宅では雰囲気的にソレ系のアイテムなど見れないのだ。 
久々に趣味のAV鑑賞を心置きなく楽しめると思っていた矢先にこれでは、横島としてはたまったもんじゃない。 
心も体も成長し、さすがに霊力源が煩悩のみという事はなくなったが……それでも横島は横島。すけべえなところは変わっていない。 
むしろ、なまじ経験を積んだだけに、ある意味では悪化しているとも言えよう。 
職場で目に入るのは、実際に手を出すのは憚られる少女達。彼女らで発散するのは犯罪だ。 
しかし今更、生温いソレ本ごときでは、ありあまるエネルギーを全て燃焼させる事など到底不可能。 
もう、にっちもさっちもいかない。これが俗に言う、蛇の生殺し状態か。 

「ドチクショーーーーーーッ!!」 

号泣しながら走り去る横島の背を、もう二度とくんなよと切実に願いつつ、バイトの店員が見送っていた。 

裏方稼業 ファントム・ブラッド(2) 箱庭の満月(前)

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