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ファントム・ブラッド(9) あばよ涙、よろしく勇気 投稿者:毒虫 投稿日:06/28-22:38 No.826
停電を告げるアナウンスが、不意に途切れた。
麻帆良から人工の灯りが全て消えたと同時に、濃密な魔の気配が街を覆う。
夜の巡回に出ていた横島は、ハッと弾かれるように月を仰ぎ見た。
「始まった、のか……?
それにしても、何だよこの魔力は? この前戦った時とは比べもんにならんぞ」
月は満ちていない。がしかし、この魔力……尋常なものではない。
エヴァンジェリンと麻帆良を流れる電力の因果関係は掴めないが、重要なのは結果だ。今はそんな事を気にしている場合ではない。
横島はカートを降りると気配を消した。ここから先は隠密行動。来たる時まで、その正体を悟られるわけにはいかない。
さて、と一息ついたところで、そろそろエヴァンジェリンと子供魔法使いの許へと赴かなければならないのだが……イマイチ気が進まない。
何せ、特別霊視ができるわけでもない横島が遠くからでもビシビシ感じられるほどの魔力を、エヴァンジェリンは放っているのだ。
格好つけて『俺が何とかしてみせる!』的に熱血したのはいいものの、まさかエヴァンジェリンの本気がここまでとは思わなかった。
正直ビビる。できれば見て見ぬフリして布団に潜り込みたい気分だ。さすがに退魔にも慣れたが、それでも怖いもんは怖い。
しかし……これも仕事だ。飯を食うためなのだ。致し方ない。なに、上手くやれば痛い思いをする事はないのだ。多分。
そう諦めをつけると、横島は物陰に隠れ、ぐっと拳を握った。漏れる光。掌を開いて出て来たのは、淡く翡翠色に光る球。文珠だ。
(誰も見てないよな…?)
それだけ確認すると、作りたての文珠に『捜』と文字を込める。
要は見鬼君の代替品。実に勿体ない使い方だ。美神あたりに知られれば、怒り狂って半殺しにされただろう。
しかし、こちらの世界に来てから能力をひた隠しにし続けた結果、相当数の文珠が溜まってしまっているのだ。
この先使う機会もそうないだろうし、ここはひとつ何も考えずにパーッと使ってしまおうと思っていた。
エヴァンジェリンを強く思いながら、文珠を発動させる。
途端、直感が下る。大浴場だ。彼女はそこにいる。
傍から見れば何の根拠もないように見えるが、文珠がもたらす感覚には絶対的なものがある。疑う余地のない説得力だ。
使用したものの、文珠は消えてはいない。若干強く発光しながら、まだ横島の掌の上にある。
これは、エヴァンジェリンが移動を開始すれば、リアルタイムでその位置が分かるという事だ。
その日のコンディションによるが、感覚からすると、あと1,2時間はもつ感じがする。それだけあれば決着に持ち込めるだろう。
「しっかし……大浴場、ねえ。でもまあこっちも仕事なんだし、しょうがないよな? ぬふ、ぬふふっ」
大浴場→混浴露天殺人事件→火野正平→ポロリ、と、一部不穏当な単語が混じったが、ともかく黄金の方程式が一瞬で構築される。
これで視聴率アップ(?)もお手の物だぜ!と息巻くも……エヴァンジェリンの矮躯を思い出し、ガックリ。
アレじゃあなぁ……。肺の空気全てを搾り出すような、深い深い溜息。
若干やる気をなくすと、背を丸めてとぼとぼと歩き出す。その後姿には、切ない諦観が貼り付いていた。
霊力を全身に、特に脚部には過剰なほどに充填し、疾走する。
世界が溶けるように同化し、流れる。今の横島のスピードは、人間離れと言った言葉が生易しく感じられるほどのものだ。
その勢いで大浴場まで迫るが、あと一歩というところでエヴァンジェリンが移動を開始するのを感知した。
説明しがたい独特の感覚で、これまた高速で大浴場から離れて行っているのが分かる。頑張れば、追いつくのは無理ではない。
しかし……何か予感のようなものを感じ、横島は割れた窓から大浴場の中を覗き見た。
中はこうなってるのか……と感慨に浸るのも一瞬、中で女性が2人倒れているのを発見する。
慌てて中へ飛び込むと、2人を抱き起こす。両方ともまだ少女と言っていい外見だった。ちょっと期待はずれだなと思ったのは内緒だ。
「おい、大丈夫か!? 色んなトコがモロ見えしちゃってるんだけど、そういう意味でも大丈夫なのかこの状況はッ!?」
少女らは全裸だった。いや、靴と靴下だけは残している。若いのになかなかモノが分かっている子達だな、と感心。むしろ歓心。
しかも、長い黒髪をポニーテールにしている少女の方は、これがまあ横島も安心なプロポーションだったりするので嬉しい限りだ。
が、変なところで真面目な横島。チラリとだけその瑞々しい肉体を見ると、すぐ目を逸らして、今度は自分が服を脱ぎだす。
といっても、年齢規制がかかりそうな事を考えているのではない。いや、服を脱いでいて、ちょいとギリギリな心境になったのは否定できないが…。
とにかく、横島は上着を脱ぐと、ポニーテールの少女にかけてやった。胸と大事なところを隠すので精一杯といった様子だが、仕方あるまい。
次に、下に着ていたシャツを脱ぐ。それを引き裂いて一枚の布にすると、髪の短い方の少女にかける。これで横島の理性は保たれるだろう。
いや、むしろこのキワドさが逆にそそるかも……と、イケナイ考えが浮かんだが、床のタイルに頭突きかまして強制的に忘れる。
頭に上っていた血を抜く事で、ようやく少し落ち着けると、少女達から、エヴァンジェリンの魔力の匂いが立ち昇っている事に気付く。
「……ひょっとして…」
気になってポニーテールの方の唇を少し持ち上げると、常人より長めの犬歯。もう一人の方を調べてみても、結果は同じだった。
今は、おそらくは魔法で眠らされているのだろうが……起き出したら厄介な事になりそうだし、第一このまま放置しておくのも可哀想だ。
まあストックは腐るほどあるんだしな、とまた新たに文珠を2個作る。両方とも『治』と入力すると、惜しげもなく使ってやった。
パァッ……と、闇に包まれた大浴場の中に、暖かな光明。
「ん……う…?」
すると、弾みでポニーテールの少女が薄っすらと目を開いた。
幸い、意識は覚醒していないようだ。さわさわと頭を撫でながら、優しい声で囁く。
「大丈夫だ。何も心配ない。だから、今はお眠り……」
「ん……ん………」
安心したのか、魔法の効力か、少女はまた眠りについた。
短髪の少女は先程からずっと眠ったままだ。ほっと息をつく。
そっと2人を床に寝かせると、そろそろ行くかと立ち上がり……眠っているポニーテールの少女を目にして、ふと横島は思った。
「この子、素子ちゃんに似てるな……」
青山素子。鶴子の実妹だ。
確かに、この少女は素子に……正確に言うなら、少し昔の素子に似ている。多少、線が柔らかいだけで、あとはそっくりだと言っていいだろう。
青山にいた頃のことを思い出す。横島は、鶴子とは非常に上手くやっていけたが、素子との関係は、決していいものだったとは言えない。
軽薄な男が嫌いなのか、姉の鶴子にやたら親しげにしていたのが気に喰わなかったのか、とにかくまともに話した記憶すらない。
横島としては、可愛い妹のような感じで接して来たのだが……打ち解ける前に彼女が京都を出て行ってしまったので、これといった思い出もない。
女性に嫌われるのは慣れっこなのだが、やはり、それが懇意にしている女性の妹となると、また話も違う。
郷愁と切なさ。複雑な想いが胸に去来したが、今はそれを噛み締めている暇はない。雑念を振り払うように、横島はまた割れた窓から飛び出した。
横島が全裸少女ズの介抱をしている間に、エヴァンジェリンは大分遠くまで行ってしまったようだ。
時々、魔力が爆発するのを感じるので、恐らくは、空でも飛びながら、あの子供魔法使いと戦っているのだろう。
いや、何しろエヴァンジェリンはこの魔力だ。子供魔法使いが遊ばれている、と言った方が正しかろう。
やりすぎるかもしれない子供魔法使いを止める、というのが当初の目的の一つだったのだが、どうやらそれは杞憂になりそうだ。
こうなれば、逆にあのボウズがエヴァちゃんに殺られるのを防がないとな、とさえ思う。
(どっちにしろ、俺が動かなくちゃならんのか……。
めんどくせぇ……つか、あの魔力は嘘だろ。反則だぜ。正直、こえぇっつーの!)
と、情けなく表情を歪める。既に半泣きだ。今の横島は半裸で街中を爆走している状態なので、なんかもうどうしようもなく怪しい。
が、それも仕方のない事だ。エヴァンジェリンが放っているであろうこの魔力、下手すれば元居た世界の上級魔族にも匹敵しかねない。
それを、罠も策もなしに真っ向から戦り合おうというのだ。基本的に小心者のビビリ屋である横島としては、たまったものではない。
もう何もかもほっぽりだして一目散に逃げ出したいのだが、そうも言ってられないのが社会の厳しさである。組織人はつらいね。
…しかし、随分と走らされる。そろそろ麻帆良と外部とを繋ぐ橋へ差し掛かったぐらいだ。
まさか、このまま麻帆良から出るつもりではあるまいな……と危惧半分、もう俺の手から放れるんじゃね?と安心半分、複雑な気分。
が、その心配(そして期待)は無用だったようだ。橋の終わり辺りでエヴァンジェリンが止まったのを感じる。どうやら決着をつけるつもりらしい。
「さて、と。そろそろ真打の出番かねっ!」
フハハハハ!とヤケクソ気味に哄笑すると、首の骨をポキポキ鳴らし、ぐるぐると肩を回す。
その他、一通りの準備体操を終えると、横島はおもむろに文珠を2つ作り出した。
それらを3本指で挟み、高々と天に掲げると、力の限り咆哮する!
「 『蒸』・『脱』 !!」
そして辺りは、凄まじい光に覆われた―――!!
捕縛結界を茶々丸に破らせると、エヴァンジェリンは得意げに口許を歪めた。
最後の策を破られ、頼みの杖さえ眼下に流れる川へと投げ捨てられ、涙を浮かべて足掻くネギ。
そんなサウザンドマスターの息子を見て、エヴァンジェリンは心底から苛立つ。
これが貴様の実力か。眼前にそびえ立つ壁に、立ち塞がる強敵に、ただ感情に任せてみっともなく喚くのが限界なのか。
確かに、子供にしてはよくやった方だろう。捕縛結界に追い込むというのも、まあ悪くない案だ。
しかし、従者であろう神楽坂明日菜を連れて来ていないのはどういう事か。
まあ……甘ちゃんなネギの事、恐らくは、彼女を巻き込むのを恐れての事だろうが……とんだ勘違いだ。
決意が自分だけにあるとでも思っているのか?そして自分が負け、エヴァンジェリンに魔力が戻るのが一体どういう事なのか、理解しているのか?
結局、ネギは何も分かってない。周囲に気を遣っているつもりでいて、しかしそれは自分の都合を、理想を押し付けているだけだ。
まだ子供だからそういう部分があるのは仕方がないが、今回に限っては、状況が悪すぎた。
それに……エヴァンジェリンを苛立たせている要因は、もう一つある。
戦いが始まり、こうして終局に至っても、全く姿を現さない横島忠夫の事だ。
止めてみせるとかやけに自信ありげに断言していたのは、一体なんだったというのか。
理事長のジジイが手を回して、この件をネギにのみ任せたというのも、十分ありうる事だろうが……
それでも、言われた通りに引き下がってしまうのは許せない。あそこまで自分達に介入しておいて…。
言いたい事だけ、やりたい事だけやっておいて、後は放ったらかし。男はみんなそうだ。苛々する。
その苛々を発散するかのように、未だ騒ぎ立てるネギの頬をパシンと打つ。
「一度闘いを挑んだ男がキャンキャン泣き喚くんじゃない!!
この程度で負けを認めるのか!? お前の親父ならば、この程度の苦境、笑って乗り越えたものだぞ!!」
檄を飛ばすエヴァンジェリンに、ネギは、尻餅をついて、叩かれた頬を押さえて呻く。
情けない姿だ。普通の子供が親に怒られた時のそれと、何ら変わりはない。
こんな餓鬼に、私は一体何を期待していたというのか……。軽い失望を覚える。
いや、ネギに父、ナギ・スプリングフィールドの影を求めるのは、あまりに酷だったのだろう。
苦笑して首を振ると、エヴァンジェリンはネギに覆い被さるように腰を落とした。
「だが、今日はよくやったよ、ぼーや。一人で来たのは無謀だったがな」
これから何が行われるのか察したのだろう、ネギは抵抗する事も忘れ、ただ震えている。
怯える獲物を更に追い詰めるのは実に愉しい。エヴァンジェリンはその長い犬歯を見せ付けるように口を開いた。
「さて……血を吸わせてもらうか」
「ううう……っ!」
その牙が、ネギの首筋に突き刺さる……かのように見えた、次の瞬間!
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッッ!!!」
やけに良く通る声で、制止がかかる!
エヴァンジェリン、茶々丸、ネギの3人は辺りを見渡すが、人影は見当たらない。
「誰だ!! どこにいるっ!!」
「私はここだッ!!」
バッ!!と、橋の上の方に照明が燈る!
一斉に頭上を見上げると、ネギとエヴァンジェリンは揃ってあんぐりと大口を開けた。茶々丸でさえ、大きく目を見開いている。
3人が目にしたのは……橋の天辺の部分に、腕組みし、ビシッと直立している一人の男。しかし、驚くべきはそこではない。
なんと彼は、赤いバンダナを顔の下半分に巻きつけているだけで、後は胸に赤く輝く『Y』の字が入ったランニングシャツと柄パンという格好だった!
変態さんだ……。呆然と呟くネギ。それも気にせず、男は声を張り上げる!
「その決闘、この私が預かったッ!!」
「だ、誰だ!? …ああ、いや、貴様が誰だかは大体察しがついていて、それでも僅かな可能性にかけて敢えて訊いているんだが、一体誰なんだ貴様はっ!?」
「私か? 私は……」
言いかけ、ビシッ!と両手を右斜め上方45度に傾け、片膝を曲げ、珍妙なポーズを取る。
「主に18歳から35歳ぐらいまでの見目麗しい女性の味方!! 煩悩闘士(リビドーファイター)・ヨコシマンッ!!」
そう名乗りを上げた瞬間、何故か背後で、ドドーン!と七色の爆炎が昇る!
完全に取り残されている3人に見向きもせず、ヨコシマンは颯爽と宙に身を投げ出した!
「とおーーーうッ!!」
くるくると空中で幾度か回転すると、腕を組んだままの体勢で、ズドンッ!とアスファルトをクレーター状に陥没させながら、豪快に着地する。
眼前に降り立った変態に、3人は全く同じタイミングで後じさり。
ヨコシマンは、おもむろに、ビシィッ!とエヴァンジェリンに人差し指を突きつけた。
「勝負だッ!! エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルッ!!」
「え、えぇっ! わ、私!? 私かっ!?」
わたわたと慌てふためくが、珍妙な事態と関わり合いになるのを恐れたのか、茶々丸からの助けはない。
相変わらずマイペースに、ヨコシマンは話を続ける。
「もし私が勝てば、今後一切、この少年を含め、学園内の人間から直接血を吸わない事を約束してもらおうッ!!
その代わり……もし君が勝てば、願い事を一つ叶えてやるッ!! もっとも、私に可能な範囲に限るがなッ!!」
「ぬ、ぬう……?」
唐突な申し出だが、エヴァンジェリンは考える。負ければ代償は大きいが、勝った分の見返りはどうだろうか。
この男、風貌と、ヨコシマンとかいうふざけた名前からして、その正体は横島忠夫なのだろうが……彼に叶えられる範囲の願い事。
『登校地獄』の呪いを解く、というのは無理だろうか。横島から学園長にかけ合ってもらって……。いや、やはり無理か。無理だろう。
となると、他には、横島を一生自分の奴隷にするとか……。ふむ、これはなかなかいい案かもしれない。
大体からして、負ける事などまずありえないのだ。ならば、圧倒的にこちらに有利な取引ではないか。
エヴァンジェリンは余裕を装って笑みを作ろうとしたが、まだ混乱が抜けきっておらず、結局、頬が奇妙に引きつるまでに留まった。
「分かった。いいだろう、勝負してやる。
だが、私が勝てば、貴様は一生、この私の奴隷だぞ?」
「望むところだッ!!」
「望んでるのかそんな事ーっ!?」
瞬時にツッコミを入れるが、ヨコシマンはHAHAHAと笑うのみ。
人の話を聞け!と彼女らしくなく、極めて常識的な理由で苛立つ。
とにかく、勝負する事は決まった。一対一という事で、茶々丸は見学だ。
「この私に勝負を挑むとは、中々にいい度胸だ。褒めてやろう。
貴様がどこまでやれるのか、愉しみにしているぞ。まあ、精々……そこで震えて縮こまっているぼーやのようにならないよう、気をつける事だ」
フフン、と余裕の笑みをくれてやるが、ヨコシマンは、バンダナのマスクの下で不敵に笑った。
「その心配は無用だ。
そっちこそ、こんな時分にそんな露出度の高い服なんて着て、また風邪を引かないよう、注意する事だなッ!!」
「貴様が言うのか、貴様がっ!!」
風にはためき、ヘソやら、パンツの横から大事なモノやらが見えそうになっているヨコシマンに、力の限りつっこむ。
うん?と、何を言われたのか分からない、といった様子のヨコシマン。エヴァンジェリンは、これ以上踏み込むのはやめた。頭が痛い。
ネギと茶々丸が手持ち無沙汰になっているので、そろそろ決闘を始める事にする。
期せずして決闘の立会人になってしまった2人を巻き込むのを恐れ、少し離れると、どちらからともなく構えを取る。
「それでは……始めようか、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルッ!!」
「いちいちフルネームで呼ぶな、鬱陶しい……」
多少緊張感を欠いたまま、二人の決闘が、今、始まる!!
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