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ファントム・ブラッド(11) 大志を抱く 投稿者:毒虫 投稿日:07/05-22:57 No.882



エヴァンジェリンを地に降ろす。 
心配そうに駆け寄ってくる茶々丸に微笑みかけると、バンダナで顔を隠し直し、ヨコシマンは未だぼうっと突っ立っているネギの方を向いた。 
和気藹々としている主従コンビとは対照的に、ネギと明日菜の間には、複雑な雰囲気が立ち込めている。 
ヨコシマンの意識が自分達の方へ向いたと知ると、2人揃ってぎくりと身を固くする。 
警戒と軽蔑と不審と、それらを遙かに上回る戸惑いを露わにしている明日菜とは違い、ネギは何か言いたげな視線をヨコシマンに向けている。 
ネギは、自分の代わりにエヴァンジェリンと戦ってくれた彼に、礼を言えばいいのか、謝ればいいのか、分からなかった。 
それに、自分にできない事を軽々とやってのけた彼に対して、若干の悔しさや羨望の念なども感じ、余計に複雑な気分。 
姿形こそ奇天烈かつ変態的だが、彼の力は本物なのだ。その口上を信じると、決して正義のヒーローというわけではなさそうだが…。 
声をかけるべきかどうか迷っているネギに、ヨコシマンの方から喋りかけた。 

「勝てなかったか、少年」 

「…ッ! ……は、はい」 

しょんぼりとうなだれるネギ。 
明日菜が激昂しかけて口を開こうとするのを、ヨコシマンは片手で制した。 

「悪いが取り込み中だ。文句があるなら後で聞こうッ」 

「ハァ? アンタ……ああ、うん、やっぱりいいや。もう好きにしなさいよ」 

反論しかけるが、諦める。下手に逆らえば、何をされるか分かったもんじゃない。 
もう私知らないからね、と言いたげに背を向けると、目を閉じて黙り込む。ヨコシマンは目の毒だった。悪い意味で。 
ヨコシマンは満足そうに頷き、まだ肩を落としているネギへと向き直った。 

「悔しいか?」 

「……はい」 

薄く涙を浮かべるネギ。 
しかし、ヨコシマンは遠慮しない。年少なれど、ネギは男だ。男に情けをかけてどうなるのか。 

「勝ちたかったか? 自分自身の手で、彼女を改心させたかったか?」 

「…はい」 

「この私に命を救われ、安心したか?」 

「あ、はい。あの、ありがとうございました!」 

「うむ。しかし、助けられているだけの自分を顧みて、情けないとは思わんか?」 

「………………はい。情けない……です」」 

「だろうな。そんな、情けない自分は好きか?」 

「いいえ……キライです」 

「なら、このままでいいとは思っていないな?」 

「はい、それは、そう思います」 

「強くなりたいか?」 

「はい……僕、強くなりたいです。もっと、もっと」 

「何の為に?」 

「え……?」 

「強くなって、それからどうする? 得た力を、何に使う?」 

「そ、それは……」 

「何の目的も信念もなければ、到底、真の強さなど得られはせんッ!! 
 まして、過ぎたる力は人を悪しき方向へと導く! 確固たる信念がなければ、力など欲するなッ!!」 

「確固たる、信念……?」 

「そう、信念だッ! 
 ちなみに私は、全世界の美女・美少女をモノにするという、鉄の如く固き信念の下……」 

拳を振って熱弁するヨコシマンを放置し、ネギは黙考する。 
信念。とりあえず今回の戦いでは、自分の受け持つ生徒達、ひいては学園全体を、エヴァンジェリンの魔手から救おうというのがそれだった。 
しかし、これから先といえば、返答に困る。マギステル・マギになる…というのもあるが、では実際にそれが成就した暁には、一体何をすればいいのか? 
立派なマギステル・マギになり、見事、父を探し出したとしよう。目標が、夢が叶った事になる。だったら、もう魔法は必要ないのか? 
……それは違う、と思う。立派な魔法使いになり、父を探し出す。確かにそれは自分の原点だろう。しかし、それだけではない気がする。 
燃え盛る町、逃げ惑う人々、石になったスタン爺さん、倒れる姉……。あの地獄が、目に焼きついて離れない。 

(そうだ……。あの時、僕は何もできなかった。みんなに守られてばかりで、僕はただ、泣いて逃げる事しかできなかった……。 
 もうあんな思いをするのは嫌なんだ。みんなが傷付くのも、それを見ているだけしかできない僕も……。 
 嫌なんだ。僕が弱いせいで、誰かが傷付くのは! もっと強くなって、誰よりも強くなって、みんなを…!) 

ネギは、キッ!と顔を上げた。 
ヨコシマンが演説を続けているが、気にせず割って入る。 

「……よーするにな、ゴムの伸びきった下着を常に身に着けておく事が大事なんだよ。 
 そうやっていつもリラックスした状態を保つ事が、健康でゆとりのある暮らしを……」 

「ヨコシマンさんっ!! 僕、決めましたっ!」 

「無視かよ……。まあいいけどさぁ……」 

一気にテンションを落とすヨコシマンに構わず、ネギは熱弁を振るう。 

「僕、もっと強くなって、大切な人達を守りたいです!! 
 誰も傷付くことがなくて、みんなが笑い合えるような……そんな風にっ!!」 

「これはまた、大きな旗を掲げたものだな。 
 しかし……その道は険しいぞ。並大抵の事では乗り越えられん」 

「アスナさんが教えてくれました! やってみなくちゃ分からない、って!!」 

「ネギ、アンタ……」 

今まで会話に参加していなかった明日菜が、思わず振り返る。 
感動に瞳を潤ませてもいいシーンだったが、明日菜はヨコシマンの風にはためく柄パンを目にして思い切り顔をしかめた。 
ネギはそんな明日菜を見て軽く頷くと、またヨコシマンに向き直る。 

「だから、まずは精一杯やってみます!」 

拳をギュッと握り締め、ネギは真直ぐヨコシマンの眼を見据える。 
いい眼をするようになったな、とヨコシマンは思った。幼さゆえの甘さも垣間見えるが、これはもう男の眼差しと言っていい。 
自分は今、熱い男と対峙している……否、自分がそうさせたのだ、少年を男に変えたのだ。そう実感すると、やにわにテンションが上がった。 
今ここに、ヨコシマンの漢メーターがゲージを振り切った。熱血なんちゃってヒーローの真の覚醒である! 

「うむッ。その心意気やよしッ! 男は野望を抱くべし! それは大きければ大きいほど、遠ければ遠いほどよいッ! 
 生涯かけて夢を追うと決めたなら、決してその道を諦めぬ事だ。たとえ届かぬとしても、夢は追う事にこそ意義がある! 
 野望を実現しようと己を研鑽し、そうして得た力は、決してお前自身を裏切らないッ! 
 そして何より、男が男たろうと足掻く様は美しい! ゆえに、いつかはお前の背に憧れる者が現れる事だろう。 
 そう、野望は、夢は受け継がれるのだッ! 男から男へ! その、たぎる血潮と! 熱き生き様と共にッ! 
 少年よッ! お前の意志は! 夢は! 野望はッ! 熱い男達の手によって! 永遠に生き続けるのだッ!!」 

「は、はいっ!!」 

いい返事だ!と、ネギの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。 
迷いが吹っ切れたかのように、無邪気に笑うネギ。男臭い笑みを浮かべるヨコシマン。 
男同士のコミュニケーションを終えると、くるりとヨコシマンは身を翻した。 

「精進する事だ、少年! 次に会える時を楽しみしているぞッ!」 

「は、はいっ!!」 

「では、さらばだッ!!」 

しゅた!と片手を挙げ、猛スピードで走る去る。 
帰り際に、ネギ達とは少し離れた所に突っ立っていたエヴァンジェリンと茶々丸をそれぞれ片手で抱きかかえた。 
半裸の男が脇に幼女と少女を抱いて疾走……。何ともはや、PTAのお母様方が見れば失神モノの光景だ。 
横島はまあ天然として、エヴァンジェリンと茶々丸も雰囲気に流され、何となくヨコシマンの格好を受け入れてしまっていた。 
それでも驚き、声を上げる。 

「うなっ!? な、なにをする!?」 

「……………」 

狼狽して騒ぎ出すエヴァンジェリンだったが、しばらくは放っておいて、そのままひた走る。 
腕の中で暴れるエヴァンジェリンとは対照的に、茶々丸はされるがままなので、ヨコシマンとしても非常に助かった。 
もう大分走ったところで、ようやく二人を解放する。地に足を下ろすやいなや、エヴァンジェリンはヨコシマンに食ってかかった。 

「な、何なんだ貴様は突然っ!! 一体、何のつもりだ!?」 

顔を隠すバンダナを取り、ヨコシマンから横島忠夫に戻る。 
一息つくと横島は、頬を真っ赤にして食い下がるエヴァンジェリンにへらりと笑いかけた。 

「いや、あそこでボウズ達と取り残されるのも、なんか気まずいかなーと思ってさ」 

「余計なお世話だっ!! 
 大体っ……いや、いい。それより、貴様には、訊きたい事が山ほどある」 

「申し訳ありませんが、プライベートな問題に関わる質問は、マネージャーを通してから…」 

「くびり殺すぞっ!!」 

「あ、マジすんません! もうしません! 許してっ!」 

ペコペコと頭を下げる。 
まだ溜飲下がらぬといった様子だったが、エヴァンジェリンはフンッと鼻から息を抜いた。 
気を取り直し、話を始めようとするも、また横島から制止がかかる。 

「こんなところでってのもなんだし、とりあえず移動しないか? 話は歩きながらでもできるだろ」 

確かに、ここは鬱蒼と生い茂る森の中だ。 
こんな所で好き好んで話をする事もあるまい。 
エヴァンジェリンは、仕方ないな、と言いたげに鷹揚に頷いた。 

「んじゃ、行こうか……って、エヴァちゃん、裸足じゃないか!」 

「ん? ああ……そういえば、そうだったな」 

すっかり忘れていた、とエヴァンジェリン。そもそも横島の格好がアレ極まりないので、自分の服装の事などもうどうでもよかったのだ。 
それに、戦いに集中していたのもあるし、魔力全開時はどれだけ怪我をしてもすぐに回復するので、足を守るための靴など頭になかった。 
このまま森の中を歩けば、足が汚れるどころか、小石や小枝が刺さったり、虫や何かに刺されたり咬まれたりして、大変な事になるだろう。 
少々見栄えが悪いが、茶々丸の背にでも乗るか……と思っていたところを、ひょいと横島に抱きかかえられる。俗に言う、お姫様抱っこだ。 

「ぬぁあっ!? な、き、きさ、きさぁ……っ!?」 

「ったく、危ないなー。怪我したとこからバイキンでも入ったらどうすんだ? 
 エヴァちゃんも女の子なんだから、そこらへんの事にはちゃんと気をつけなって」 

怒りと照れと驚きが複雑に混じり合い、全身を真っ赤にして、エヴァンジェリンは人語を話す事さえままならない。 
ついさっきと、空中で抱き上げられた時の事もあるが、やはり慣れるものではない。横島が半裸であるせいもあいまり。 
更にその上、不老不死の身の上であるのを知っているのに心配されるわ、自然に女の子扱いしてくれるわで、テンパり具合もMAX。 
もはや、頭から煙を上げ、横島の意外に逞しい腕の中で、茹で上がってカチコチに固まるしかないエヴァンジェリンであった。 
己の腕の中で乙女ってる元600万ドルの賞金首の事など意にも介さず、横島は茶々丸の方を向いた。 

「もう暗いし、家まで送って行こうと思うんだけど……茶々丸ちゃん、道わかる?」 

「はい、ご案内します」 

「ん、ありがと。助かるよ」 

にこり、と微笑みかける。 
いえ……と、茶々丸は横を向いた。何故か、あの笑みを直視する事が出来ない。 
もし、あの人を安心させるような笑みを自分だけに向けている横島を目にしたら、すぐにでもオーバーヒートしてしまいそうで。 
極力横島を視界に入れないようにして、しかしそれ以外のセンサー全てで横島を感じて、茶々丸は歩き出す。 
その後を、どう贔屓目に見ても変質者にしか見えない横島と、未だに呼吸さえ忘れて固まっているエヴァンジェリンがついて行く。 

…しばらく歩いていると、横島は視線を感じた。 
見ると、いつの間にか復活していたらしいエヴァンジェリンが、まだ頬も赤いまま、じっと横島の顔を見詰めている。 

「えっと……な、何か?」 

「………いや、見れば見るほど不細工な顔だ、と思ってな」 

「ひ、人が密かに気にしてることを…っ! 
 ドチクショー! どーせ俺なんて、両親の劣性遺伝子を選りすぐって受け継いだ落ちこぼれエリートですよー! 
 なぜ神は人を平等に創らなかったのか!? 所詮、不細工は二枚目には勝てないんか!? 人はなぜ戦争と言うあやまちを繰り返すのかー!?」 

「あ、いや、わ、悪かった……。ま、まさか、そこまで気にしていたとは…」 

うおおーい!と無駄に豪快に泣き叫ぶ横島を、不器用ながら慰める。 
横島が、自らの容姿に対してこうまでコンプレックスを抱えているとは知らなかった。 
大体、自分で不細工だと言っているが、実際そんな事はない。パーツ自体は何の変哲もない、ごくありふれたレベルの容姿だ。 
ただし、度々SFX技術を用いたかのごとく表情を崩すため、もう顔の造詣がどうこうという問題ではないのは確かだ。 
見る人間によっては、何かの間違いで男前に見える角度もあるのかもしれない。まあ、少なくとも顔が問題で女性に厭われる事は少ないだろう。 
そうフォローしようとする前に……茶々丸が足を止め、くるりと後ろを振り返った。 

「相対的に見て、あなたの顔形は、醜い、不細工と言われるようなものではありません。 
 私の判断基準では、むしろ整っていると言えます。ご自分を卑下するのはおやめください」 

「え、あ……そ、そう? マジで? ホントに?」 

「はい」 

こっくりと、確かに頷く。 
その瞬間、横島は、パァッ……と、明かりが点いたような笑みを浮かべた。 

「い、いやあ……こんな事言われたの初めてで、なんて言っていいのか分からないけど…… 
 えっと、とにかく、ありがとう。なんちゅーか、物凄く嬉しいよ、うん」 

「い、いえ……」 

また顔を逸らし、前へと向き直る。表情こそ動かないが、その様は照れているようにしか見えない。 
いやー参ったなーとか実に嬉しげに漏らす横島の腕の中で、エヴァンジェリンは加速度的に不機嫌になっていく。 

(こ、これでは、私が悪いみたいじゃないか……。というか、私が悪者になって、茶々丸が株を上げた気がするぞ。 
 …いや、実際、私は悪い魔法使いなんだが……そういう問題じゃないという気がするというか……ええい、とにかく気に喰わんっ!! 
 無性にムカムカするっ! 何かこう、無闇に小動物をイジメたくなるような気分だ! ……実際にはやらんがな。可哀想だし) 

胸の内に吹き荒れるどす黒い感情の嵐。人それを嫉妬と言う。 
このやるせない思い、一体どうしてくれようか……と悶々としていた中、ふと、まだてれてれと頬を緩ませている横島が目に入る。 
エヴァンジェリンは思った。全部このバカのせいだ。こいつが、ついからかいたくなるような顔をしているからだ。 
それに、最強の闇の魔法使いたるこのエヴァンジェリンではなく、その従者である機械人形にデレデレしているのも悪い。極悪だ。 
思い立ったが吉日と言わんばかりに、エヴァンジェリンはぐっと拳を固めると、それをイイ角度で横島のアゴに見舞った! 

「ほぐあっ!?」 

「フン、思い知ったか!」 

「な、何が!? 何を!? え、ちょ、コレどーゆーこと!?」 

混乱しきりの横島。油断していた時に喰らった分、余計に痛い。 
ひとまず、苛々は解消できたエヴァンジェリンだったが…… 

「俺、殴られるような事したか!? いくらなんでも理不尽だって! なあ、茶々丸ちゃんからも何か言ってやってく…」 

この一言がいけなかった。エヴァンジェリンの苛々が急速に燃え上がる。 
ゆえに、もう一発。 

「何故そこで茶々丸が出て来るっ!!」 

「ぶえべっ!? ほ、本気で痛いって! た、助けて茶々丸ちゃん!」 

「~~~~~っ!!」 

もう一発。 

「げぷろっ!? …ちょ、マジ洒落になんねぇ! わ、悪いけど茶々丸ちゃん、交代…」 

もう一発。 

「ぎあっちょっ!? ……こ、こりゃダメだ! 茶々丸ちゃ…」 

以下、無限ループ。 
一行がエヴァンジェリンのアジトまで辿り着いた頃には、横島の顔面はすっかり原形を失っていたんだとさ。

裏方稼業 ファントム・ブラッド(12) 彼と彼女の事情

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