HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

『彼』を追え!(2) 青山の鎖 投稿者:毒虫 投稿日:07/18-23:01 No.942



昼休み、食堂にて。 
和美は、アキラが席に着くなり、ごめんっ!と顔の前で手を合わせた。 

「昨日1日でできる限り情報集めたんだけどさ、あんまし手掛かりとか見つけられなかったんだよね。 
 判ったのは、麻帆良に『SCS』って名前の会社なんてなくて、多分、麻帆良のどの施設も、そんな名前のとこ利用してないってくらいかな」 

「1日でそこまで調べられたのは凄いと思う。謝ることなんてないよ」 

「あ、そう? ならいいんだけどさ」 

言い、サンドイッチにかぶりつく。 
結局、例のバッジの持ち主の謎は深まるばかりだ。 
正直、社章しか分かっていないこの状況では、できる事といっても限られる。 
昨日、やれるだけの事はやってしまった。となると、あとは自らの足を使いながら、網に情報が引っ掛かるのを待つだけだ。 
しかし、構内を闇雲に歩き回って偶然あのバッジの持ち主と遭遇する事など、まずもって有り得まい。 
かと言って、人海戦術を採用するにはこの案件は少々デリケートだ。どこから情報が漏れるか分からないので、無闇に関係者は増やしたくない。 
やはり、地道にやるしかないのか……。 

「まっ、私も私なりに捜すからさ。あんたも、じっとしてるだけじゃつまんないでしょ? 何か行動してみれば?」 

「……うん」 

確かに、和美に任せきりというのも悪かろう。 
放課後……は部活があるから、昼休みにでも、自分なりに捜してみよう。アキラはそう決めた。 
結果は期待できないが、努力したという事実は残る。何もしないよりは、ずっといい。 

サンドイッチをカフェオレで流し込み、手早く昼食を終えると、和美はさっさと席を立った。 

「ごめん、これからちょっと当たってみたいとこがあるからさ。先行くねー」 

「あ、うん…」 

一人、取り残される形となる。 
まだ半分以上残っているうどんを見下ろし、アキラはぼんやり思った。 

(修学旅行までに解決するといいんだけど…) 

楽しみにしている修学旅行まで、あと少し。 
心にしこりを残したままでは、心から楽しめまい。 
そのためにも、自分も頑張らねば。決意を新たにすると、アキラはちゅるりとうどんをすすった。 






放課後の校舎は、まだ生徒の数が目立った。 
その中を一人、モップを手にした清掃員が横切って行く。やはり注目を集めるが、横島は努めて気にしないように心がけた。 
が、学長室に到着する頃には、少々やつれてしまっていた。思春期の少女の好奇心に曝されるのは、思った以上に辛い。 
ノックと同時に、扉を開ける。 

「失礼しまーす」 

軽く帽子を持ち上げ、また被る。 
学長室の中には、学園長近衛近右衛門の他に、もうひとり小柄の少女がいた。 
前髪を半分残し、その横で髪をひっつめた、背に自分の身長ほどもある竹刀袋を背負った、凛とした少女。 
姿形と雰囲気で判った。この子が件の神鳴剣士だろう。 

「おお、待っておったぞい」 

「………」 

破顔する学園長とは対照的に、神鳴流の少女は、まるで値踏みするような視線を寄越すのみ。 
それもまあ仕方のない事だ、と思う。学園長から説明はされていると思うが、一度青山を抜けた身、横島に後ろめたい感情を抱いてしまうのも無理はない。 
だが、その辺の事は説明すれば解ってくれる筈だ。1人より2人。当然の理屈なのだから。 

2人の間に流れる緊張感を察したのか、学園長が仲立ちに入る。 

「この娘が、先日説明した、桜咲刹那君じゃ。 
 若年ながら、青山神鳴流の剣士での。今は木乃香の護衛についてもらっとる」 

「よろしくー」 

「………どうも」 

横島がフレンドリーに握手を求めるが、刹那は軽く頭を下げただけで、差し出された右手は完全スルー。 
あは、あはは、と苦笑ともつかぬ笑みを漏らしながら、横島はすごすごと手を引っ込めた。結構ヘコむ。 

「そしてこちらの、一見清掃員に見えるのが、青山から派遣されて来た横島忠夫君じゃ。二人とも…」 

「よ、横島忠夫っ!?」 

学園長がその名前を出した途端、何故か刹那は驚愕した。 
過剰な反応に、横島は戸惑う。俺って実は有名人だったの? 
幸い、刹那が見せた反応には、驚きだけで、敵意や畏怖などは混じっていなかったが…… 
ここまで大きなリアクションをされると、何か過去にあったのか、と不安を覚える。 

「あのー……俺、君に何かしたっけ?」 

「あ、ああ、いえ、別に。……取り乱してしまい、すいません」 

その年齢、スタイルの子には手ぇ出してない筈なんだけどな……と思いながら、おずおずと話しかける。 
刹那はあからさまに狼狽した。今度は、敵意といかないまでも、警戒心を感じる。 
さすがに不審に思ったのか、今度は学園長から声がかかった。 

「知り合いなんかの? 横島君には覚えがないようじゃが…」 

「知り合い……ではないと思います。私が一方的に知っているだけで」 

そう、刹那は横島を知っていた。というか横島は、青山の関係者の中では、最も有名な人間の一人に数えられるのだ。 
突然の爆発と共に現れたという出自から、鶴子に取り入り、青山に潜り込んだ男として。 
その人間離れした戦闘能力も勿論話題に上っていたが、それ以上に、門人達の間には、不穏な噂が広まっていた。 
何でも、関東から送り込まれたスパイだとか、その卓越したテクニックをもって鶴子を誑し込んだ色師だとか……。 
高弟でさえ近付きがたい鶴子に、ぽっと出の、何処の馬の骨とも知れぬ男が傍にいるのが気に喰わなかったのだろう。 
そしてまた、横島が厭われていた原因は、彼の剣にもあった。剣の道を究めんとする青山にあって、横島は、剣など戦闘手段の一つだと公言して憚らなかったのである。 
剣のみを修めていても、強くなれるには限度がある。そもそも、剣を失くした場合はどうするのか。これが彼の言い分だ。 
無論、そのような状況を考えての無手の技も神鳴流にはあるが、やはり、その本筋が剣にあるのは確かな事で。 
そんな組織の中、横島は独り、鶴子から見せて貰った神鳴の技を、自らの戦闘術の中に、多少のアレンジを加えて組み込んだのである。 
技を一目見ただけで修得してしまう横島の人智を超えた戦闘センスもまた、多くの嫉妬混じりの反感を買った。 
付いた渾名が『邪剣』である事からも、横島が青山において、どう思われていたのか察せられる。 
直接横島と関わっていれば、またその印象は変わったのであろうが、快復してからは横島は方々に仕事に出されていて、その機会もなかった。 
…実は、その数少ない機会を得て、心密かに横島を慕っていた人間も幾人かいたのだが……それは、刹那の知るところではない。 
とにかく表面上は、横島忠夫は実力だけは確かだがロクでもない男で、青山の信念に反する事ばかりやっていた、という事になっていた。 
青山にいた頃、そんな噂を日常耳にしていた刹那は、先入観に囚われまいと心がけても、横島を見る目にある種のフィルターがかかってしまう。 

(この人が、あの……) 

見た感じ悪人には見えないし、あの青山鶴子を誑し込めるほどの器にも見えない。 
しかし、警戒を解くべきではなかろう。何せこの男は、明日から自分と同じく、木乃香の護衛に付く身なのだ。 
噂が真実で、今度は木乃香を誑し込み、彼女の婿に納まり、呪術協会、ひいてはこの国の裏社会を牛耳ろうと企んでいる可能性も、ないとは言えない。 
常に最悪の事態を想定した上で動かなくてはならないのだ。何かがあってからでは遅い。こと木乃香に関しては、その『何か』は絶対にあってはならない。 
…しかし、横島を警戒する一方で、刹那は彼に不思議な親近感を感じてもいた。 
青山の中では疎まれていたというその身の上。刹那もやはり人外の匂いが漏れるのか、彼ほどではないが他の門人から好かれる事は少なかった。 
そんな中で、鶴子には可愛がられていたというのも、奇妙に一致する。 
また、剣に関する考え方も、少し似ているところがあった。刹那は、木乃香のためなら、剣のみに拘らず、たとえどんな手段であれ使う覚悟がある。 
似ていると言えるほど彼の事を知っているわけではないが、何となく、親しみに似た感情を抱く刹那であった。 

(この子、どっかで会ったっけなぁ……?) 

一方、横島としては戸惑うばかりだ。何せ、全く見覚えがない。 
青山に数いる剣士見習いの一人だったのだろう、それは推測できる。そうでもなければ、自分の名前までは知らない筈だ。 
ここで言う事ではないと黙っていたが、その気配で、横島は、刹那に何かしら人外の血が混じっている事に気付いていた。 
青山にハーフなどがいて、実際に接していれば、必ず印象に残っていただろう。刹那の容姿が端正であることも手伝って、忘れることはなかったと思う。 
…横島は知らなかったのだ。青山の中で、己が悪い意味で注目を集めていた事を。 
あんまし良く思われてないみたいだな、とか、なんか白い視線を感じるな、とは感じた事があるが、大層に考えていなかった。 
また、仕事で京都を空けている事が多く、帰って来ても、何故か鶴子が付きっ切りだったから、他の事まで眼が行かなかったのである。 
故に……この子もしかして、俺に憧れてたんか!?などと、お馬鹿な事を考えてしまうのだった。 

二人からそれぞれ流れ出す、先までとはまた違った妙な雰囲気を察し、学園長は話を進める事にした。 

「…ま、ともかく、明日からは、ワシからの連絡があり次第、横島君も木乃香の護衛に就いて貰おうかの。 
 刹那君とて、木乃香にかかりきりでは、何かと不都合な事もあろう。流石に、ロクに休みも与えんのは気が引けるわい。 
 他の魔法先生などにも、無論、通常任務を優先してもらう形になっとるが、木乃香の事は言い含めておる。 
 2人も、何か外せない用事などがある時には、遠慮せず申し出てくれればええ。できる限り、便宜を図るからの」 

「了解ッス。…けど、夜中とかはどうすんですか? 日中とかよりも、むしろ警護が必要だと思うんですけど」 

ふと思いついた事を口にする。 
横島の言う事にも一理ある。襲撃者がいたとして、人気の多い日中よりも、寝静まった頃を狙うだろう。 
そんな心配を、学園長は大丈夫じゃと切って捨てた。 

「木乃香はネギ君と明日菜君と同室じゃからの。それに、女子寮の中にも遣い手は幾人かおる。 
 侵入者が結界を通過した時点でエヴァンジェリンから報せが入るのじゃし、そう心配せずともよかろ」 

「ま……それならいいんですけどね」 

油断は禁物。しかし、それを口にして、寝ずの番を仰せ付けられてはたまらない。 
まあ、自分が来る前も充分やっていけていたのだ。自分の存在など所詮は保険にしか過ぎないのだろう、と横島は考える。 
ひょっとして、青山の幹部連中から疎まれてこっちに飛ばされたのかな……と、冷静になってみれば思わないでもないが。 
しかしまあ、今の横島に、これといった望みも別にない。ただ、鶴子の言われた通りに動くだけだ。今のところは。 
……女教師のハーレムを作る、という壮大な野望はあるが、まあそれとこれとは別の話である。 

「さて、とりあえず話は終わりじゃ。何か訊きたい事はあるかの?」 

いえ別に、とそれぞれ首を振る。 
もう行ってええぞいとの言を受け、横島と刹那は退室した。 
学長室の前で、自然と顔を合わす。刹那は、真剣な瞳で横島に詰め寄った。 

「…木乃香お嬢様は、呪術協会にとっても、魔法協会にとっても、とても大切なお方です。 
 私が言う事ではないのかもしれませんが……お嬢様の事、くれぐれもよろしくお願いします」 

深く頭を下げる刹那に、横島はひらひらと手を振った。 

「そんなに頭下げんでもいーよ。お給料もらってんだから、その分の仕事はきちんとこなすさ。こっちだって一応、プロなんだし。 
 ……それにしても、ホントにどこで俺の事知ったの? やっぱ、青山?」 

「あ、はい。……その、お噂は、かねがね…」 

少し、言い辛そうに俯く。 
何を勘違いしたのか、横島の口唇がにんまりと弧を描く。 

(噂、ねぇ……。『あの人チョーイケてない?』とか、そんな感じの? む、むふふ) 

緩みきったその顔。刹那は不安になった。本当に、この男にお嬢様を任せてもいいのだろうか? 
実力だけは確かな筈だ。青山でも、誰かが忌々しげにそう言っていたのを聞いた事がある。 
できる事なら、手合わせてでもして、その力を確かめたいのだが……今は、そんな事をしている状況ではあるまい。 
青山からこの麻帆良の地に人が送り込まれて来たという事は、余程、木乃香の周りが物騒な事になっているのかも知れない。 
そんな中、数少ないお嬢様専属の護衛が2人揃って任を抜けるなど、言語道断だ。 
いかにも頼りなさげな横島に不安は尽きないが、その分、自分が頑張ろうと心を決める。 

「…それでは、今日のところは用事がありますので、これで」 

「ん。それじゃ、また機会があったら」 

モップにもたれ、バイバイ、と手を振る横島に背を向ける。 
歩を進めながら、刹那は思案する。 

(実力は確かかもしれないが、あんな軽い男にお嬢様の護衛など務まるのか……? 
 やはり、私がもっと頑張らなくては。お嬢様を守るのは、本来なら私だけの役目なんだ。 
 それに、青山は何か思惑があって彼を送り込んで来たのかもしれない…。まさか、刺客という事はないと思うが) 

もし彼が木乃香に危害を加えるつもりなら、もっと早くに済ませているだろう。 
しかし、本当に青山や呪術協会が善意のみで人を送り込んでくるとは思いがたい。 
外からの刺客と、中にいる部外者。今日からは、この二つを同時に警戒しなければならないのだ。 
正直、骨が折れるが、それも木乃香のためだと思えばどうという事もない。 

「頑張ろう……!」 

決意も新たに、刹那はぐっと拳を握った。 




マンションに帰る道すがら、今日の出来事を振り返る。 
まず真っ先に思い出すのは、やはり桜咲刹那のことだった。 

(ちょっとキツそうな感じだったけど、なかなか可愛い子やったなぁ……。5年後が実に楽しみだぞ。 
 まあ……真面目な子っぽかったから、俺みたいなのが仲良くするのは難しいかもしれんけど。 
 しかし、コナをかけるとはまではいかんが、今の内に良い印象与えとけば、後々のためになるよなっ) 

青田買い、先行投資。そんな事を真面目な顔して考える。 
未来に期待といえば……ふと、チビッコ吸血鬼の事を思い出した。 

(そーいやエヴァちゃんも、成長したらかなりの上玉になりそうなんだよな…。 
 ピートの奴はちょっとずつ成長してったらしいけど……真祖の吸血鬼って、外見的に変わりあったっけ?) 

とりあえずブラドー伯爵は、外見的には700歳違いの息子と全くと言っていいほど区別がつかなかった。 
となるとやはり、吸血鬼として完全に覚醒した時点から滅ぼされるまで、外見年齢は変わりないという事か? 
しかし、それはあくまで横島が元いた世界での法則だ。こちらの世界に適用できるかどうかは定かでない。 
エヴァンジェリンほどの美少女が成長した姿となると、その期待値も相当なものだが……果たして、どうなのだろうか。 
結果如何によっては、これからのエヴァンジェリンの扱いが少し変わる事になるだろう。1,25倍(当社比)は優しくなれる。 

「……今度会ったら、さりげなく聞いてみよ」 

ばいーん、ばいーん、と胸の前で謎のジェスチャーをしながら、頬を緩ませる横島。 
時間帯的にまだ麻帆良学園の生徒も多い通りの真中での奇行は、それはもう大層目立っていたそうな。 

裏方稼業 『彼』を追え!(3) 掴んだ尻尾

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.