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『彼』を追え!(3) 掴んだ尻尾 投稿者:毒虫 投稿日:07/22-23:13 No.964



朝倉和美は興奮した。 
昨日ついに、あの謎の作業服の持ち主に関する情報を入手したのだ。 
とは言っても、『女子中等部では見慣れぬ若い男性の清掃員がモップ片手に学園長室へ入って行った』、というそれだけの事だが。 
記者としての和美の勘が、その男が怪しいと告げている。無論、勘だけで動くわけにはいかないので、ここからが頭の使いどころだ。 
まず、件の清掃員が姿を現したのは昼休み。確認したところ、その時間帯、学園長は在室だった。まず、これがおかしい。 
学長室を掃除するとしても、普通、学園長が不在時にやるものだろう。それに、道具がモップ1本だけというのも腑に落ちない。 
他にも、何故年若い男性が女子中等部校舎の担当になっているのか、それも不自然だ。麻帆良にしては配慮が足りなさ過ぎる。 
目撃者は、彼が学長室に入るその瞬間を見ただけなので、彼の顔立ちや、例の『SCS』のバッジが胸にあったのかは確認できていない。 
目撃者の話によると、彼の背格好は、清掃員の作業服に帽子、軍手。清掃員として当たり前の格好だ。何の個性も見出せないのが痛い。 
身長は175~180cm、髪は長過ぎず短過ぎず、靴は白っぽいスニーカー。姿勢は悪くなかったように思う。これが引き出せた情報の全てだった。 
ルーズリーフに、簡単にその姿を描く。これだけでは手掛かりになるか怪しいが、一応、コピーしておく。 

放課後になってから、他の目撃者を求めて駆けずり回り、いくつか証言は得たのだが…… 
往来で珍妙なポーズ(胸を寄せて上げる感じ?)を取りながら歩いていただの、何やら変態チックな笑みを浮かべていただの。 
目撃者の数自体は少なくないのだが、何というかこんな目撃証言をされても困る。信用していいのやら。 
彼女らが口裏を合わせているといった感なかったが、果たしてそんな変質者っぽい清掃員がこの麻帆良学園女子校エリアに存在できるのか。 
数ある証言に共通して、件の清掃員の人相は誰も覚えていなかったという特徴もあり、それならとこの問題はスルー。ただの変質者かもしれないし。 
まあ、清掃員の正体を突き止めた後ではっきりさせればいいだけの事。今は彼を捜し出すのが先決だった。 



清掃員を見たとの情報を入手した、その翌日。 
和美は、昨日刷った清掃員の姿絵(肝心の人相が描かれていないが)のコピーを持参して、朝の教室に入った。 
なるたけ関係者を増やしたくなかったが、そうも言っていられない。ネタの宝庫である修学旅行がもうすぐそこまで迫っているのだ。 
当初は長期戦を覚悟していたが、件の清掃員が日常的にこの校舎近辺に姿を現している可能性を発見した今、短期決戦も可能かと踏んだ。 
しかし肝心のネタの鮮度が失われるのは避けたいので、なるべく顔の広く、それでいてあまり情報通でない生徒を探す。 
自分のやっている事、調べている事件を悟られたくないのだ。新聞記事は鮮度が命。新鮮でないネタなど何の価値もない。 
…朝からかしましいクラスメイト達の顔々を、まるで吟味するように一人一人確かめ……一人の生徒の狙いを定める。 
机にあぐらを掻き、長瀬楓相手に、身振り手振りを交え何やら熱心に話し込んでいる様子の中華娘。出席番号12番、古菲。 
去年の学園祭の格闘大会の優勝者であり、中国武術研究会の部長であり、中華点心『超包子』の売り子でもある彼女。それなりに顔も広かろう。 
それに、こう言っちゃあ何だが、彼女はあまり賢くない。和美が調べようとしている事に気付いても、その意味までは悟られまい。 
楓との話が一段落付いた頃を見計らい、和美は後ろから声をかけた。 

「くーちゃん、ちょっといいかな?」 

「ん? 朝倉カ。何か用アルか?」 

あぐらのまま、くるりと反転する。ありがたい事に、楓は『込み入った話のようでござるな……』と、場を離れてくれた。 
和美は鞄から例のコピーを取り出し、古菲に渡した。 

「ちょっと分かりにくいんだけど、今、こーゆー感じの人、探してるのよ。 
 くーちゃん、もし知ってたり見かけたりしてたら、教えてくんない?」 

小声で懇願する和美。 
んー……、と少し考え込むと、パッと目を輝かせ、古菲は胸の前でパチンと両手を合わせた。 

「コイツかどかわからないケド、こんな格好のヤツなら見たネ! 中々の遣い手だたアルよ」 

「え、マジで!? そ、それどこで? いつ見たの!?」 

いきなりのヒット。興奮して古菲に詰め寄る。 

「どこでというか、結構しょちゅう見てるアル。いつも、『超包子』の肉まん買いに来てるネ」 

「ちょ、それ、ホントに身近じゃん!」 

あちゃー!と額に手をやる。 
まさか、そんな近場にいるとは思っていなかったのだ。本当に盲点だった。 
外部の、作業服を着るような職種の会社をしらみつぶしに当たってみても、全く見つからないと思ったら…。 
いや、今、反省する必要はない。和美はポケットからペンとメモ帳を取り出した。 

「その人よく見る場所と時間帯、教えてくんない?」 

「昼休み、広場に屋台広げてれば、大体来ると思うネ」 

昼休み、広場。神速でメモる。 

「じゃあ悪いけど、早い内に確認したいからさ。今日の昼休み、くーちゃんが売り子やってよ!」 

「アイヤー! 悪いガ、ワタシ今日当番じゃないアルよ! また今度にするネ」 

「それじゃダメなんだって! お願い! ホラ、肉まん好きなだけ奢っちゃうからさぁ!」 

「ホントアルか!?」 

俄然、食いつきがよくなる古菲。繰り返し述べるが、彼女はあまり勉強ができない子だった。 
和美とて、こと肉まんにおける古菲の食欲の凄まじさについてはわきまえている。それに加え、現在そう懐が暖かいわけでもない。 
しかし、いち新聞記者としてやらねばならぬ時というものがある。そしてまさに、今がその時なのだ。 
取材経費で落ちるかな?やっぱ無理かな?と冷や汗を掻きつつ、見栄を張ってドンと自慢のボリュームを誇る胸を叩く。 

「朝倉和美に二言はない! 大抵の場合はねっ!!」 

「その基準が気になるアルが、まあいいヨ。シフト変わてもらうネ」 

頷き、古菲は超鈴音と四葉五月の許へ駆けて行く。 
続いて、和美はポケットから携帯電話を取り出すと、メールを打ち始めた。相手はアキラである。 
手掛かり発見。昼休み、広場まで同行願いたし。こんな感じの文面だ。送信ボタンを押す。 
肝心の、『SCS』バッジの持ち主の顔形は見ていないというアキラだったが、夢心地に、おぼろげながら印象の欠片でも覚えているかもしれない。 
実際に会ってみて思い出す事もあるかもしれないし、依頼主を置いていくわけにもいかないだろう。 
どうやらメールは無事届いたようで、アキラがちらりと和美を見やった。微かに頷いて応える。 
…さて、これであとは昼休みを待つだけだ。当然の事ながら、午前中の授業には全く身が入らなかった。 




そして、待ちに待った昼休み。 
午前の授業終了の鐘が鳴ると、和美は古菲とアキラと共に、急いで『超包子』の屋台を広場に設置した。 
さすがに先走りすぎたのか、まだ広場に生徒はちらほらといったところ。落ち着いてみると、和美は自分が空腹だった事を思い出した。 
と同時に、肉まんの、実に食欲をそそる匂いが鼻腔を侵略する。和美はあっけなく降伏した。 

「くーちゃん、コレ1個もらっていい?」 

「ちゃんとお金払えばいいアルよー」 

ちぇー、と若干不貞腐れ気味に、2つ分の代金を払う。毎度ありネ!と古菲の営業スマイルが炸裂する。 
見ると、アキラは既に肉まんを頬張っていた。意外とちゃっかりしている。 
肉まんを頬張ると、口いっぱいにアツアツの肉汁がまろび出る。火傷しそうになったが、やはりコンビニのものとは段違いに美味い。 

「ッッかぁー! やっぱ、くーちゃんとこの肉まん、美味しいわーっ!!」 

「作てるのは、ワタシじゃないアルよ?」 

「知ってるよ、四葉でしょ? でも、こーゆーのってやっぱ気分じゃん?」 

中国人が作ってると思っとけば美味さ倍増じゃん?と和美。 
そーゆーもんアルか、と古菲は簡単に納得した。ちなみにアキラは先程から、一言も発さずに肉まんを食している。 
まかないの肉まんを食べ終える頃には、そろそろ客足も伸びて来ていた。和美とアキラも、慣れないなりに古菲を手伝う。 
人出もピークを過ぎた頃に、和美はそれを発見した。 

「……あれ? あれって…」 

どこからともなくやって来た、ゴルフカートのような車。広場の端の方に停められる。 
和美は、直接見たわけではないが、そのカートに覚えがあった。1週間ほど前、麻帆良スポーツの記事での事である。 
その記事の見出しは、確か『怪奇! 夜の街に現る爆走カート伝説!!』という、非常に胡散臭いものであったように思う。 
麻帆良スポーツは麻帆良新聞と違い、取り上げる記事全てが限りなく嘘臭く、実際9割方は嘘で塗り固められている。 
そのため、新聞と言うより、一種のエンターテイメントとして親しまれているのであるが…… 
しかしそれにしては、『爆走カート伝説』の記事は、意味不明な、どこにでもある都市伝説的なネタである割には随分と紙面を割いていた。 
まさかと思い、そのカートに注目していると、男が降りて来た。服装は……まさに、作業服! 

「く、くーちゃん! アレ! アレ見て!」 

「? 何アルか? 今、ちょと忙しいネ」 

肉まんを暖める古菲の体を器用によじ登り、和美はその首の所で座禅を組んだ。そして、そのままぐるりと回転! 
メキャアッ!と物騒な音がしたり、アキラが『転蓮華?』とぼそりと呟くのも気にしない。それが朝倉クオリティ。 

「く、首ッ、首があ……ッ! ジュ、救命阿ッッ!!」 

「地割れに飲み込まれたわけでもないのに、そんな軟弱な事言うなってのっ!! 
 てか、アンタも中国人なら、自在に首の間接外したりすれば!? 
 それより、今はアレよ! あの男! くーちゃんが言ってたヤツなの!?」 

アイヤー……と首をコキコキさせながら、古菲は和美の指差す男を確認した。 
あの服、あの顔、間違いない。古菲はこくりと頷いた。 

「間違いないネ。ワタシが言てたのは、確かにあの男アル」 

「よっしゃビンゴォッ!!」 

ぐっ!と力強くガッツポーズ。 
探し始めて3日と経たない内での早い解決となりそうだ。多少、物足りなさを感じるが、取材が早く終わるに越した事はない。 
ここで先走って飛び出していくのは素人のする仕事だ。しっかりその正体を見極めなければ。 
緊張の面持ちで隣のアキラを見やる。 

(大河内、あの人に見覚えある?) 

(どう……だろう。あるような、ないような…) 

期待満々の和美だったが、アキラは自信なさげに首をかしげるのみ。 
少々肩を落とすが、それでも彼は昨日の目撃談にあった怪しげな清掃員である可能性は高い。 
それに、例のガス漏れ事故に一枚噛んでいると仮定すれば、学長室に呼ばれた事にも納得がいく。 
最も手っ取り早い方法は、彼の胸に『SCS』のバッジを見つける事だ。 
『超包子』の屋台に歩み寄って来る清掃員の男。徐々に人相が明らかになり、ますます期待が高まる。 
列に並んだ事で一旦視界から姿を消したが……その男は、すぐにカウンターへ現れた。和美はこれでもかと凝視する。 
しかし…… 

(な、ない………) 

期待も空しく、清掃員の胸にバッジは付いていなかった。 
落胆しかけるが……ちょっと待てよと思い直し、改めてその清掃員に注視すると、新たに気付いた事があった。 
確かに胸にバッジはない。しかしその代わりに、作業服のどこにも、社章らしきものや会社名が見当たらないのだ。 
学園が直接雇っている校務員ならそれも自然なのだろうが、そう決め付けて諦めてしまうのは早計である。 
ここに至って、和美の勘はますます冴えた。もしやあのバッジ、1つきりで、予備がなかったのではないか…? 
肉まんを用意するフリをして、和美はアキラの脇を小突いた。清掃員の男に気付かれないよう、小声で囁く。 

(今、あのバッジ持ってる!?) 

(…? 一応、持って来てるけど…) 

(よっしゃ! じゃあひとつ、やって欲しい事があるんだけど…) 

作戦を伝えると、アキラは若干緊張した面持ちで頷いた。 
何とか応対を遅らせていた古菲を脇にどかせると、カウンターにはアキラが立つ。 
ほんの少しだけ清掃員の眉が上下したのを、和美は見逃さなかった。すかさずアキラと古菲に合図を送る。 
アキラはポケットからバッジを取り出すと、しっかりと見えるように清掃員へと差し出した。 

「先日は、どうもありがとうございました」 

「っ!?」 

魔法の言葉であった。 
今まで平静を保っていた清掃員の表情が、驚愕のそれへと一変する。 
ニヤリと笑う和美だったが……すぐさま清掃員は反転した。見ると、アキラの手にあった筈のバッジが消えている。何たる早業か。 
逃走を試みる清掃員だったが、この展開を予想しない和美ではなかった。 

「逃がさないアルよ!!」 

回り込ませておいた古菲が、清掃員の行く手を塞ぐ。 
ちぃっと舌打ちすると、それでも彼は突破を試みた。 
あちゃー…と、天を仰ぐ和美。この後にも午後の授業がある。気絶させてしまったら、放課後まで監禁しておくしかないか……。 
と、早くもその算段を始める和美であったが……その目論見は、木っ端に砕かれた。 

「フンハッッ!!」 

と海王ばりの気合を込め、逃げる清掃員に中段突き(崩拳)を放つ古菲だったが、その拳が届く事はなく。 

「チョイなッ」 

そればかりか、その途中で、なんと清掃員に手首を取られ、合気の要領でふわりと投げられたのである! 
しかし、驚きこそすれ、古菲は揺るがない。すかさず反撃に転じた。上下逆さになった中、強烈な蹴りを清掃員の横面に浴びせる! 

「うひょお!」 

気の抜けた掛け声と共に清掃員は古菲から手を離し、一歩後退する事で蹴撃から逃れる。 
中空でクルクルと回転し、古菲は無事に着地し、舌なめずり。 

「なかなか、やるネ……」 

「に、肉まん買いに来ただけなのに、なしてこげな事に…?」 

オラ、ワクワクしてきたぞ!状態の古菲。 
対照的に、涙さえ浮かべつつ、己の身に降りかかる不幸を嘆く清掃員。 
双方の思惑が激しく食い違う中、戦いの火蓋は切って落とされた!






 

裏方稼業 『彼』を追え!(4) 不可侵領域

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