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『彼』を追え!(5) 対決・功夫娘々 投稿者:毒虫 投稿日:07/29-23:25 No.1011



時間を確認すると、横島は溜息をついた。昼休みは、すぐそこまで迫っている。 
先日、勢いで売り子の中華少女と組み手の約束をしてしまったのを、今更ながらに後悔しているのだ。 
痛い思いをするのは御免だが、さりとて年頃の女の子を本気でねじ伏せるのは気が引ける。 
とりあえずの案として、向こうからの攻撃をひたすら避けまくる、というのに落ち着いたのだが……気が進まない。 
相手がせめて女子高生なら、キワドイ寝技に持ち込みくんずほぐれつするところだが、中学生にそれをやるとアイデンティティ崩壊だ。 
約束してしまった手前すっぽかすわけにもいかず、向こうの年齢的にあまりはっちゃけるわけにもいかず……どうしろというのか。 
それにもう一つ、横島を戸惑わせる要素があった。 

(あの無邪気さといい、ちょいアホの子っぽいところといい、なーんとなくシロの奴を思い出しちまうんだよな…。 
 見た目の年頃も大体同じくらいだし、手合せ願ってくるとこなんか、特に。……まあ、だからどうしたってわけじゃないんだけど) 

別に、過去を思い起こさせる要素と相対するのが辛いわけではない。 
しかし、何か複雑な感情を抱いてしまうのは確かだ。 
それに、何より…… 

「ぶっちゃけ、めんどくさいんだよなー」 

折角の昼休みが、と嘆く横島なのであった。 




昼休み突入の鐘も鳴り、広場へのったりと歩を進めているところ、横島は意外な人物を目にして足を止めた。 
風になびく金色の長い髪、横島の胸まで届くかどうかという矮躯。先日、ヨコシマンとして死闘を繰り広げた元・好敵手、エヴァンジェリンだ。 
いつもの如く脇に茶々丸を従えて、エヴァンジェリンは腕を組み、廊下の真中で泰然と仁王立ちしている。 
向こうも横島に気付いたようで、茶々丸がぺこりと頭を下げる。エヴァンジェリンは、フンッと鼻を鳴らしただけだった。 
彼女らしいな、と横島は苦笑して、軽く片手を挙げる。 

「ちょいーっす」 

そのまま自然に脇を通り抜けようとしたが… 

「って、ちょっと待て!!」 

妙に慌てたエヴァンジェリンに捕まってしまう。 
腕をとられながら、何だよ…と億劫そうに振り向くと、何とも申し訳なさそうにしている茶々丸が目に入った。 
ああ、茶々丸ちゃんも苦労してるんだなぁ……と、何となく共感。 

「貴様、せっかく私が待ってやっていたというのに、その態度は何だ!?」 

「や、待ってたって言われても……。まあいいや。で、なんか用?」 

「む……。ま、まあな」 

コホン、と軽く咳払い一つ。 
何故か薄く桃色に染まっているその頬に、横島の首がかしぐ。 
何か言い辛そうにしていたが、エヴァンジェリンはあちこち目を泳がせながら口を開いた。 

「ま、まあなんだ。最近私も何となく疲れ気味でな。魔力が枯れてきた気がしないでもないというか……そ、そろそろ血でも吸わなければなと思って……。 
 か、勘違いするなよ!? ほ、他の人間からの吸血が禁じられているからで、決して貴様の血が欲しくなったわけじゃないからなっ!!」 

「へ?」 

「ほ、本当だぞっ!?」 

顔を真っ赤にしてそう言い張るエヴァンジェリン。横島としては、『そ、そうなんだ……』と納得するしかない。 
マスター、自爆です……と、ぼそっと呟く茶々丸に、エヴァンジェリンが、ムキーッ!と錯乱して飛びかかる中、横島はそっと時計を確かめる。 
茶々丸とキャットファイト寸前まで白熱していたエヴァンジェリンだったが、めざとくもそれに気付いたようだった。 

「…なんだ横島。貴様、誰か約束でもあるのか?」 

「ん、まーね」 

「なにぃ……!?」 

エヴァンジェリンは不愉快そうに柳眉を吊り上げた。その横で、密かに茶々丸もピクリと反応している。 
誰とどんな約束をしているのかっ!!と勢い猛烈に問い詰められ、横島は昨日の出来事を2人に掻い摘んで話した。 
朝倉和美とか言う若き新聞記者はともかく、中華少女は特徴しか伝えていないが、2人の知り合いだったようで、あいつか……とエヴァンジェリンが頭を抱える。 
事情を訊き終えた後も、エヴァンジェリンは不機嫌なままだった。気のせいか、茶々丸もいつもより態度が硬質な感じがする。 

「朝倉和美の記憶を消したのは、実に良い判断だった。そこは褒めてやってもいい。 
 しかし……大河内アキラと古菲の記憶を消さなかったのは、一体どういう了見だ?」 

「あ、いや…」 

「大河内アキラ、古菲の両名はどちらも一般人の領域を出ないものと思われます。 
 特に、考えが浅いと推測される古菲さんに情報が漏洩したのは、結構な痛手かと。これは由々しき事態です」 

「け、けど…」 

「…まあいい。その2人に関しては、今からでも遅くない。昨日の今日だしな。 
 どちらかにより情報が洩れていたとしても、しらみつぶしに処理していけばいいだけだ。 
 貴様に任していては、いつの日になるか分からんからな。私に任せておけ。……まったく、世話の焼けるやつだ」 

ふふ、と妙に優しげな笑みを浮かべ、横島を見やるエヴァンジェリン。それはまるで、出来の悪い弟を可愛がる姉のような視線だった。 
そして、その生暖かい視線には、横島も身に覚えがある。青山にいた頃、随分と感じたものだ。 
何だか満足気な主をよそに、茶々丸は早速、広場の方に目を向けていた。 

「では手始めに、古菲さんから処置を始めましょう。マスター」 

「む、そうだな。ヤツはアレ気味だからな。ちょっと脳に刺激を与えてやるだけでいいだろう。分かっているな、茶々丸?」 

「勿論です、マスター」 

すっと持ち上げられた茶々丸の掌には、何やら紋章のようなものがうっすらと光り、浮かび上がっている。 
麻帆良大ロボット工学研究会with葉加瀬聡美によって開発された新機能、その名も『茶々丸ステキハンド』である。 
シャイニングなフィンガーや、サイキックなウェーブが出せちゃったりする、とっても便利なおててなのだ! 
…茶々丸の手が光って唸らない内に、横島は慌てて止めに入った。 

「ちょ、ちょっと待て! ちゃんと口外しないように言ってあるし、あの子らは約束破るような子じゃないって!」 

「ハ、何を知ったような口を。 
 いい事を教えてやろうか、横島。昨日、貴様が何の考えもなしにべらべらと情報を洩らした中国人、ヤツの名は古菲と言ってな…。 
 脊髄で物事を考えているような、短絡浅慮な思考回路の持ち主なのだ。約束したからといって、それを憶えている保証などありはしない。 
 流石に昨日の出来事くらいはまだ憶えているだろうが、早めに手を打っておくに越した事はないのだ」 

「いや、でも…」 

「口答えは許さん。これは麻帆良の機密に関わる、非常に重要な問題だ。貴様の一存で決められるような事ではない。 
 本来なら、口を滑らせた貴様にも、何らかの処罰が下されるのだが……安心しろ。そうならないよう、私がジジイに進言してやる。 
 き、貴様に何かあったら、堂々と血を飲む事もまかりならんからなっ! べ、別に貴様のためを思ってじゃないんだぞっ!?」 

「え、ああ、うん……?」 

ツンデレ全開のエヴァンジェリン。しかし横島には気付かれない。 
首をかしげて混乱している横島を見かねたのか、茶々丸がぼそりと呟く。 

「マスターは、素直ではありません」 

「ちゃ、茶々丸ーーーッ!!」 

うがーっ!と猛り狂って茶々丸に飛びかかろうとするエヴァンジェリンだったが…… 
ぽん、と頭に置かれた暖かい感触に、動きが止まる。 

「何だかよく分からんが……ま、ありがとな、エヴァちゃん」 

茶々丸に言われて、エヴァンジェリンが自分の事を心配してくれているのだと察した横島。 
感謝と情愛の印に、エヴァンジェリンの頭を優しく撫でてやる。 
子ども扱いするな!と激昂するかと思いきや……意外にも彼女は、全身を真っ赤にして、あうあう言いながら硬直していた。 

「ぅ、あ、ぁ………」 

「……………」 

尚も撫でられ続けるエヴァンジェリンと優しげな微笑を浮かべている横島を、茶々丸が羨ましそうに見詰めていた。 






エヴァンジェリンと茶々丸を引き連れ広場に到着すると、既に件の中華少女・古菲の姿があった。 
御丁寧な事に、制服からカンフースーツに着替えている。準備は万端といったところか。 
古菲は横島の到着に目を輝かせたが、その後ろに続く2人に、不思議そうに小首をかしげた。 
訊かれてもいないのに、横島は慌てて説明する。 

「ああ、この2人は立会人だから。あんま気にしないで」 

「立会人…。本格的アルなっ!」 

気分出るアルなー!とはしゃぐ古菲。も少し物事考えような…と横島は思った。 
古菲の記憶を消す云々については、横島必死の交渉により、その判断を学園長に任せる事になった。 
ゆえに、エヴァンジェリンと茶々丸がわざわざこうして足を運ぶ必要はなくなったのだが……どうも、横島と古菲の立会いが気になるようで。 
いや、勝負の結果は既に見えているのだから、2人が気にしているのはまた別の事なのかもしれないが。 
…とにかく、横島が道草を食っていて時間に遅れた。早々に仕合を始める事にする。 

「では……互いに、礼」 

形だけ審判の茶々丸が、すっと手を振り下ろす。 
古菲は元気良く、横島は気だるげに礼をする。 
そして一旦間合いを取り、ここに仕合が始まった! 

「イィィアァァァッッ!!」 

始まるやいなや、古菲は躊躇なく踏み込み横島に肉薄すると、次々と技を繰り出す! 
守りに逃げて勝てる相手ではないと判っているのだ。ならば思い切って突っ込むのみ!と、気迫がそう物語っている。 
いちいち技の名前を叫んで攻撃しているわけではないが、古菲の放つ拳、蹴りは全てが全力。全てが必殺。 
間隙なく襲いかかる鋭い攻撃に、横島も舌を巻いて回避行動に徹する。 
迫り来る拳を、躱し、いなし、受け……。時にかすりもするが、その程度ではダメージにならない。 
飛散する古菲の汗が顔にかかる間合いの中、横島は感心していた。 

(この子、まだこんな年だってのに、かなり鍛えこんでやがるな。 
 雪之丞ほど酷くはないだろうけど、こりゃ結構なバトルジャンキーだ……。いっちゃん苦手なタイプだよ。 
 それに、思ったよりできるぞ。倒そうと思えば倒せるけど、手加減するには手強い…。向こうが疲れて動き止るのを待つしかないか) 

ラッシュが始まってから、既に人間が連続して運動するには結構な時間が経っている。 
そろそろ疲れて動きも鈍る頃だろうと踏んだ横島だったが……しかし、古菲は手数こそ減らしたものの、巧く緩急をつける事でカバーし始めた。 
避けにくい攻撃を、避けにくいタイミングで、決して単調なリズムにならないように。言うは易いが、そう簡単に身に付けられる技術ではあるまい。 
精々まだ14,5の小娘が、よくもここまでやれるものだ。横島は尊敬するよりも、むしろ呆れた。 
今まで鍛錬に費やした時は、少女の短い人生の幾割を占めるのだろうか。まだ遊びたい盛りの子供が、何故そうまでして力を求めるのか。 
確かに、強くあって不便な事はない。しかし、それよりももっと重要な事がある筈だ。と横島は思う。一度失った時は、もう取り戻す事はできないのだ。 
長いようで短い人生の中で、最も自由で、最も純粋な時を、鍛錬に費やす。横島にとっては、考えられない事だった。 

(これからもその調子で生きてけば、この子は一体、どうなるんだ?) 

強くなるだろう。ともすれば、誰も及ばぬほどの力を得られるかもしれない。 
強くなった。それはいい。彼女は得た力に溺れず、更に上を目指して精進するだろう。それこそ、一生を懸けて。 
しかし、その先には何があるのだ?武力以外の何が残されているのだ?…横島は思う。それはきっと、孤独だ。 
強大な力を持つゆえ、孤立する。例えば、青山鶴子がまさにそれだった。彼女にはたまたま横島という理解者が現れたが、古菲はどうか。 
今はまだいいだろう。友人に囲まれた生活も送れる。しかし、彼ら彼女らが大人になれば、そうもいかない。 
平凡な、平和な人生を送る者には、ただ強さを求め、強者に飢える異端の気持ちなど解りはすまい。端的に言うと、社会不適合者なのだ。 
唐突に、横島は古菲のこれからが心配に思えた。弟子に重ねて見てしまったせいかもしれない。 
他者と同じく、平凡な人生を送れとは言わない。しかし、普通の女の子の幸せ、喜びを、もっと満喫してもいいのではないか。 
それこそ古菲の勝手なのだが、生憎と横島はお節介なタチだった。まあ、それが発揮されるのは、主に眉目秀麗な女性に限られるのであるが。 

「ふッ!!」 

地を這うような体勢から繰り出された古菲の突きを半歩引いて避けると、その手が引き戻される前に、横島は素早くホールドした! 
しまった!と顔を歪め、何とか脱出しようともがくが、暴れれば暴れるほどに腕と肩が軋み、痛みが骨身に突き刺さる。 
関節外すの覚えとけばよかたネ…!と歯噛みする古菲だったが、横島はあっさりその手を離した。 
何のつもりか、と疑問に思うが、まあ相手の思惑などどうでもいい。古菲は、細かい事は気にしない主義だ。 
とにかく、体力も本格的に消耗して来たので、一旦間合いを取ろうとしたところ……瞬きにも満たない間に横島に踏み込まれ、その両手を取られる! 

「!!」 

投げが来るか!と身構える古菲だったが……予想に反し手は固く握られたままで、特に何かされる気配はない。 
しかしこの状態のままで蹴りでも繰り出そうものなら、軸足を狙われ、相手の思う壺だろう。そう思うと、迂闊に身動きできない。 
次の手を考えている古菲の耳に、突然、驚くべき言葉が舞い込んだ! 

「今度、遊びに行こうっ!!」 

「「「「「「「「「「はあぁっ!!?」」」」」」」」」」 

白昼堂々の喧嘩から、突然のナンパ劇。いつの間にか集まっていたギャラリーは、見事に声を揃えて仰天した。 
何気に、エヴァンジェリンと茶々丸もその中に含まれているのがポイントだ。 

「ア、アイヤー……」 

当の古菲は、突然の誘いにただ、困惑するしかなかった。 

裏方稼業 『彼』を追え!(6) 詰問×乙女心×自爆

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