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京洛奇譚(2) 蕾の花束、古都に到る 投稿者:毒虫 投稿日:08/09-22:58 No.1076



京都駅を出てすぐ。そこに、いかにも華やかな光景が広がっていた。 
麻帆良学園女子中等部3-A生徒一同、2名の欠員はあるものの、揃い踏みである。 
中に見知った顔があるのに冷や汗を掻きつつも、横島は満足だった。守備範囲外とはいえ、美少女揃いのメンバーだ。嬉しい事には変わりない。 
それに、それに……ようやく探し求めていた美人女教師が、理想の知的美女が引率として同行しているのだ! 
しかも、鶴子が道中に参加するのはまだ先になるとの事なので、何か行動を起こす絶好のチャンスである。 
まあ今は修学旅行もまだ始まったばかり。女教師にアプローチをかけるのは宿に着いてからか、と計画を練る。 

魔法使いのボウズは話に聞いていた通りにモノホンの教師らしく、はしゃぎ回る生徒達に向かって注意事項などを説明している。 
あーあー誰も聞いちゃいねーよ、と鼻をほじっていたところ、不意にネギの視線が横島に向けられた。 

「こちらは青山観光の添乗員さんです。皆さん、失礼のないようにしてくださいねー!」 

疑う事を知らないのか頭が平和ボケしているのか知らないが、ネギは横島に気付かなかったようだった。 
それに呆れる事もなく、流石は俺だ変装も板についてきたなぁと満足しながら、横島は29人の少女達に向かって頭を下げる。 

「えー、この度、光栄にも皆さんのご案内を務める事になりました、古町 巡(ふるまち めぐる)と申します。 
 正直、神社仏閣方面には疎いのですが、祇園や河原町などの繁華街に関してはかなりの自信がぁうッ!?」 

余計な事を口走ろうとした瞬間、横島@古町巡は額に衝撃が走り、弾かれたようにのけぞった! 
皆が添乗員の突然の奇行にざわめく中、長瀬楓は、冷や汗を流しているクラスメイトに感心していた。刹那殿は指弾も使えるのでござるなあ。 
…後ろに倒れかけた添乗員だったが、バネ仕掛けの人形のようにピョコリと起き上がると、やけに爽やかな笑顔を振り撒いた。 
額から血をダクダク流しながらなので、折角の笑顔も逆に不気味なものでしかなく全員ドン引きしているのだが、横島@古町は気付かない。 

「いやぁ、実は最近、トレーニングに凝ってましてねー。 
 今も突然、腹筋と背筋を鍛えたくなってしまいましたよ。あっははははは!」 

言い訳にもなっていない言い訳に、旅行特有のテンションもあってか、なぁんだそうかー、と納得する大多数。 
見るといつの間にか流血も止まっていて、怪我の痕すら見つからない。 
それに安心したのか、それとも疑問を丸投げしたのか、面白い添乗員さんだねー、などという意見も飛び出す。 
3-Aの面々にも負けないどころか、それさえも上回りそうな濃ゆい個性を持った添乗員の登場に、 

(修学旅行先の添乗員まで変人なのかよっ!! つーか、今の言い訳で納得するのかよ!! 
 まだ駅だってのに、いきなり幸先不安じゃねえかよ!! つーか私、三村ツッコミかよっ!! あーもーっ!!) 

メガネの少女、長谷川千雨はいつものごとく苛つき、 

(あの人って………) 

大河内アキラは何かに気付き、 

(あっれー? あの顔、どっかで見たような気がするなんだけどなー……?) 

朝倉和美は首をひねり、 

(ア、アイツ……こんな所にまで…) 

神楽坂明日菜は天を仰ぎ、 

(やはり、お嬢様をお守りできるのは、この私だけだ……!) 

桜咲刹那は新たに決意を固める。 
その他の面々は、アクが強い添乗員にむしろ喜んでいるようだった。 
ちなみに古菲は、謎の添乗員・古町巡の正体に全く気付いていない様子だった。流石はバカレンジャー、といったところか。 




3-A一行が最初に訪れたのは、かの名刹、清水寺。 
景色がキレーイ、とかはしゃぐ生徒達に隠れるようにして、横島@古町は柱の影に刹那を引き込んだ。 
その際、変質者を見るような目つきで刹那から軽く睨まれた気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。頬を伝う液体は、決して涙なんかじゃない。 

「よ、お疲れさん」 

「……何のつもりか知りませんが、迂闊な行動は控えてください。お嬢様の護衛に支障が出ます」 

「ごめんごめん。…で、道中、何もなかった?」 

「………」 

全く反省の色が見られない横島にこれ見よがしに溜息をつくと、刹那は新幹線の中での一幕を話した。 
流石に、新幹線という限定された空間の中で事を仕掛けて来るとは予想外だった。横島は素直に感心する。 

「カエルを、ねぇ……。宣戦布告だか警告だか知らんが、悪趣味なこった。 
 しっかし、詰めが甘いし、やり口も手間が掛かってる割にはビミョーだけど……眼の付けどころは悪くないな。 
 向こうもまだ様子見ってところだろうが、こりゃ気が抜けないぞ」 

相手が誘拐や殺人のプロフェッショナルなら、横島にも気の配り方というものがある。 
しかし今回に限っては、どうにもやり口が素人臭い上、変に凝っているため、次の出方が読めない。 
となると自然、四六時中気を張っていなければならない事になる。相手はその間隙を突いて来る気なのかもしれない。 
真面目に護衛のプランを考える横島を見て、刹那は少し認識を改めた。 

(おちゃらけていると見せかけて、内心ではこうやって真面目に仕事の事を考えているのだろうか……。 
 お嬢様をお守りするのは私の役目だが、この人も腕は立つようだし、あまり過小評価するのはよくないかもしれない) 

真剣な目をして、ぶつぶつと何事か呟きながら考えを巡らしている横島。 
そんな姿を見てそう思った刹那なのだったが、横島は内心…… 

(マズイ、マズイぞ……! いつ仕掛けてくるのは分からんようじゃ、暇を見つけて女教師にアプローチする事もできんじゃないか! 
 バスガイドさんがいない以上、女教師だけは何が何でもゲットしなきゃならないのにッ!! 何か、何か策は……) 

と、こんな事ばかり考えているのであった。 
本当に真剣に考えているからこそ、刹那も好意的に解釈してしまったのだろう。 
そんな、壮絶にすれ違う2人の間に、分け入る者があった。 

「刹那? 何をしているんだい、こんな所で」 

「ああ……龍宮か。いや、ちょっと」 

集団から外れている刹那の様子を見に来たのは、褐色の肌の、とても中学生とは思えないプロポーションをした少女、龍宮真名。 
一瞬、この子だったらいんじゃね?と傾きかけた横島であったが、脳裏に引率の美人女教師の姿を思い浮かべて誘惑を断ち切る。 
そんな横島を放って置いて刹那は、龍宮には関係のない事だと目で合図した。そうかと返し、真名も離れる。 
彼女の実力を考えれば是非とも仲間に入れて置きたいところだが、学園長から真名に依頼が行っていない以上、事情を話す事はできないのだ。 
真名であったからよかったものの、横島と密談しているのを見られては都合が悪い。刹那は黙って横島から離れた。 
それに気付いた横島だったが、追うような事はせず自然に3-Aの輪の中に混じって行った。 

「ここが清水寺の本堂、いわゆる『清水の舞台』ですね。 
 本来は本尊の観音様に楽しんでもらうための装置であり、国宝に指定されています。 
 有名な、『清水の舞台から飛び降りたつもりで…』の言葉どおり、江戸時代に実際に234件もの飛び降り事件が…」 

「おー、詳しいねー」 

紙パックのジュースをすすりながら清水寺について解説している女生徒。珍しいものを見た、という感じで近寄ってみる。 
解説を邪魔され気に触ったのか、少女はちらりと横目で添乗員を見やった。 
2人の間をとりなすように、メガネっ子が口を挟む。 

「夕映は神社仏閣仏像マニアですから。 
 …あ、そうだ、添乗員さんもなんかそれっぽい解説してくださいよ~」 

「ぅえっ!?」 

突然のフリに、ぎくりと身を強張らせる添乗員。 
無理もない。ハナから本物の添乗員でないばかりか、歴史になど何の興味もないのだ。解説などできるわけもない。 
しかし、いつまでもテンパっているようでは演技が露見してしまう。もう勢いに任せるしかない!と、横島は腹を括った。 

「あ、あー……そう、清水の舞台ってのは、こう見えて……」 

「こう見えて?」 

夕映が、さあ何を喋ってくれるんだと言わんばかりに相槌を打つ。 

「あ、案外、低いよねー……みたいなっ?」 

「「「「「……………」」」」」 

沈黙が、『それだけなのか?』と語っている。 
白い視線が突き刺さり、余計に焦る添乗員。 

「っとぉ! なんだ、電話? 電話カナっ!?」 

鳴ってもいない携帯電話を取り出すと、添乗員は強引にフェードアウトしてみせた。 
その背を見送る生徒達の間に、何とも言えない沈黙が残る。 

「……じ、実際に234件もの飛び降り事件が記録されていますが、生存率は85%と意外に高く…」 

とりあえず夕映は、なかった事にしておいた。 




石畳の上を歩く。辺りには石灯籠や、小さい社のようなものが並ぶ。 
ここが京都。父、サウザンドマスターゆかりの地。感慨もひとしおである。 

「…いい所だねぇ、カモ君」 

思わず、染み入るように呟いてしまう。 
訪れた者を惹き込ませる様な、そんな魔力を京都は持っている。ネギにはそう思えた。 
木漏れ日も頬を撫でるそよ風も心地好い。そんな、うっとりと目を細めるネギの背後にさり気なく近寄る影。 

「…おい、ボウズ」 

「? 僕ですか?」 

どこかで聞いたような声に振り返ってみると……そこにいたのは、今回の修学旅行に同行する添乗員、古町巡だった。 
しかし古町には、駅前で挨拶した時のような折り目正しさなどカケラもなく、不敵にニヤリと口許を歪め、ネギを見下ろしている。 
その態度に不審を覚える前に、ネギは、はて、と首をかしげた。この声、この顔、どこかで…… 
ネギが思い当たる前に、その肩に乗るカモが嬉しそうに声を上げた。 

『横っちじゃねぇか! 相変わらず元気そうだな!』 

「おう、元気してたかカモ公」 

親しげに挨拶を交わす一人と一匹に余計に混乱するネギだったが、添乗員の顔をまじまじと観察し、ハッと気付く。 

「あ、あなたはあの時の清掃員さん! な、なんでこんなところに!?」 

「いやー、このご時世、清掃員だけじゃ食ってけなくてなぁ。 
 一応7年近く京都にいたんで、その経歴を活かし、こうやってたまに添乗員のバイトしてるってわけさ」 

「そうなんですか……。あなたも、いろいろ大変なんですねえ…」 

「いや、納得するなよ」 

ぺし、と軽くツッコミを入れる。 
あいた、と頭を押さえるネギに溜息をつき、横島はそっとネギの耳に囁いた。 

「学園長から頼まれた仕事でな…。お前さんとはまた別の任務だが、ま、困った時はお互い様って事で頼むわ」 

「あ、ハ、ハイ、分かりました!」 

元気良く頷くネギ。横島は少し不安に思った。 
ネギの側からしてみれば、横島こそが味方になりすまし、親書を狙っている京都勢なのかもしれないのだが……。 
まだ子供のネギにそこまで用心深くなられても嫌なものがあるが、東と西の橋渡しという重要な役目を担う以上、もう少し頑張ってもらいたい。 
まあ、その辺の問題はカモが代わりに用心してくれるのだろうから、余計な心配なのかもしれないが。 

『横っち! 再会の祝杯に今夜、どうでえ!?』 

「いいねぇ。また朝まで飲み明かすか?」 

『応よ! 今夜こそ、巨乳が究極の乳の在り方である事を分からせてやるぜ!』 

「フ、相変わらず甘いな。巨乳信奉もいいが、カモ公。乳ってのは大きさより美しさだぜ。 
 ある程度の大きさは必要だがな、優先すべきは美しさだ。ブラジャー外したら垂れ下がっちまうような巨乳なんぞに意味はねぇ。 
 美乳に魅力を感じるようになってから、男はようやっと一人前になるのさ」 

『その台詞は聞き飽きたってんだ、この美乳原理主義者がッ!』 

2人の間にバチバチと火花が飛び交う。 
話の展開についていけなくなったネギは、まき絵達に呼ばれるままその場から立ち去った。 
それにも気付かず、喧々諤々の様相を見せる2人であったが、 

「あの……」 

女性に話しかけられ、ピタリと矛を収める。 
2人、というか横島に声をかけて来たのは、背の高いポニーテールの少女……大河内アキラだった。 
カモが喋っているところでも見られたのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。横島とカモはほっと息をついた。 
では何の用か、と考えた時、横島は思わずぎくりとしてしまった。まさか、この完璧な変装が見破られたとでもいうのか!? 

「………………」 

「………………」 

沈黙が流れる。 
思い切って声をかけたのはいいものの、どんな話をすればいいものか、アキラはあまり考えていなかったのである。 
この添乗員があの時の清掃員の青年である事は、既に察しがついている。 
忘れろと言われたが、例のガス漏れ事故の事に関してはまだアキラも思うところがあったし、色々と話も聞きたいのだが…… 
しかし首を突っ込むなと釘を刺された以上、正面切って訊くのはさすがに憚られる。 
しばし考えあぐね、アキラは質問を練り上げた。核心には触れないが、単なる世間話では終わらない。 

「また……何か、あるんですか?」 

「う……」 

図星を突かれたのか、添乗員が身を硬くする。 

「あー……あるかもしれないし、ないかもしれない、としか言えないな。 
 まあ、何かあったとしても君らには何の影響も出ないようにするから、安心してていいよ」 

「でも……」 

深く首を突っ込まなければ、事態はアキラの知らない内に収束するのだろう。 
確かに、己の身に火の粉が降りかかるのは流石にアキラも御免こうむる。 
しかし、理屈だけでは好奇心は抑えられない。それに……この青年は、おそらくはアキラの恩人なのだ。 
何をするのかは分からないが、身を案じたくもなる。アキラにとってこの青年は、もはや赤の他人ではなかった。 

「…と、あんまり一緒にいたらさすがに怪しまれる。そろそろ友達のところに戻りな」 

「…………」 

皆にはトイレに行くと言っておいた。添乗員の言う通り、そろそろ戻らねば怪しまれる頃合だろう。 
結局アキラは、己の好奇心を満たしたいのか、添乗員の事が気になるのかがハッキリせず、無言のまま踵を返した。 
時折チラチラと振り返りながら小走りで去る少女の背を見送り、添乗員…横島はぼりぼりと頭を掻いた。 
呪術協会の強硬派、あるいは他の組織のアプローチのタイミングが掴めない事、刹那やネギとの連携が上手く取れそうにない事に続き、また厄介事が増えてしまった。 
あの子、言いつけ通り大人しくしてくれるといいがなぁ……と思うが、どうもそれは期待できそうにない。 
無論、アキラが事に巻き込まれないよう注意を配るつもりだが、世の中往々にしてままならぬものだ。都合良く思い通りの展開になるかどうか。 

「また、ややこい事になりそうだなぁ……」 

遠くで少女達の甲高い声が響いている。何があったか知らないが、相当はしゃいでいるようだ。 
一体、何がそんなに楽しいのかと思うが、思春期の少女の事だ。箸が転げてもおかしいのだろう。 
まして今は修学旅行の真っ最中なのだ。一生に数回しかない貴重な機会。横島にも覚えがある。修学旅行というのは、ただそれだけで楽しい。 
…ふと横島は思った。3-Aの生徒達、木乃香嬢もオデコちゃん(言うまでもないが、刹那の事だ)も、この修学旅行を楽しい思い出にして欲しい。 
級友との楽しい旅行を、大人達の醜い思惑などで汚してはいけないのだ。 
木乃香嬢には、平和で、まるで何事もなかったかのような、皆と同じ時間を過ごさせたい。 
オデコちゃんも木乃香嬢の護衛だけに心を囚われるのではなく、少しの時間でいいから純粋に修学旅行を楽しんでもらいたい。 
そのためには自分が一肌脱ぐしかなかろう。オデコちゃんが出る幕も見せず、刺客など一人で撃退してしまえばいい。 
実際問題難しいとはわきまえているが、それでも横島は願う。彼女達がずっと笑顔であるように、と。 

『なんでえ、横っち。ンなマジメくさった顔しやがってからに……。 
 …さてはアレか? さっきの娘を脳内で脱がせたりしてムフフな妄想でもしてやがんのか? おお? 
 まあ確かにさっきのは中学生にしてはイイ体してるし、お前のキモチも解らんこたぁないが、さすがに真ッ昼間の往来でってのはあべしゃぁッ!?』 

「口は災いの元ォォッ!」 

げへへ、と下卑た笑みを浮かべながら詰め寄るカモに、げしげしとスタンピングをくれてやりながら、横島は切に思った。 
あの娘の5年後が楽しみだ、と………。 

「……あれっ?」 

裏方稼業 京洛奇譚(3) 白いオコジョの黒い腹

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