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京洛奇譚(3) 白いオコジョの黒い腹 投稿者:毒虫 投稿日:08/12-22:50 No.1090




酔い潰れてグデングデンになってしまった生徒達を何とか旅館に押し込めると、横島とネギ達はロビーで顔を突き合わせた。 
予定が随分繰り上がってしまい、やる事がなくなった他の生徒の事が気にかかるが、彼女らは彼女らなりに楽しんでいるらしい。 
ネギも担任として、酔い潰れた生徒達や暇を持て余している生徒達の相手をしたいが、今は悠長にそんな事をしている場合ではなかった。 
新幹線の時と違い親書を奪うような気配は感じられなかったが、先程の仕業は呪術協会のそれと見て間違いあるまい。 
初日から続けての襲撃に、ただでさえ経験の乏しいネギはおおわらわだ。横島に助言を求めたくもなる。 

「まさか、直接関係ないはずのみんなを狙ってくるなんて……」 

『狙うつっても、酒飲ませただけなんだけどな』 

「それでも、これからエスカレートしていくかもしれん。なりふり構わなくなった時が怖いな」 

「ううぅ……」 

流石に、たったの2人(カモは戦力外)で29人もの生徒達を守るのは無理がある。 
ネギとしては、自らの持つ親書だけを守ればいいと思っていただけに、頭の痛い事態である。 
横島が言うように、今はまだ子供の悪戯程度のものに留まっているが、いつ相手方が無関係の生徒達に牙を剥くか分からないのだ。 
手段を選ばぬ敵に対する怒り、そして双肩にかかる大きなプレッシャーに押し潰されそうになるネギを見かね、カモは助言した。 

『なぁ兄貴、やっぱアスナの姐さんに協力してもらった方がいいんじゃねぇか? 
 それも、これまでのなんちゃって仮契約じゃなく、きちんとした形でだ。ま、そうじゃなきゃハナっから意味ねぇんだがよ。 
 …いや、兄貴と横っちの力を疑ってるわけじゃあねぇんだぜ? ただ、2人だけじゃあフォローしきれねぇ部分も出て来るだろ?』 

そう。ネギは明日菜に、今回の件に関して何も話していなかった。 
エヴァンジェリンの事件の時のように、明日菜を危険な目に遭わせられないという気持ちは無論あったが… 
それより、ネギは明日菜に修学旅行を楽しんで欲しかったのである。また魔法関係の厄介事に巻き込みたくない。 
それに元々、明日菜とはまともな仮契約も結んでいないのだ。できればこのまま、彼女には平穏な生活を送らせたい。 

「ダメだよカモ君。アスナさんだって生徒の一人なんだ。 
 協力をお願いするって事は、仮契約(パクティオー)をお願いするって事でしょ? 
 そしたらきっと、この先もアスナさんを僕らの事情に巻き込んじゃうよ。アスナさん、ああ見えて優しいから……。 
 …僕、アスナさんに迷惑かけたくないんだ。いろいろお世話になってるし、忙しいの知ってるし。 
 だからやっぱり、ダメだよ。僕達だけでなんとかしなきゃ!」 

『けど兄貴、そんな事言ったって、手が足りねぇのはどうにもならねぇんだぜ。 
 …ま、兄貴がどうしてもってんなら、俺っちも姐さんの事に関してこれ以上口出ししねぇが…… 
 そん代わり、戦力になりそうな娘を仲間に引き入れでもしなきゃやっぱ厳しいぜ。何かあってからじゃあ遅いんだぜ、兄貴!』 

「で、でも……」 

『兄貴、あしたっていまさッ!』 

必死なカモだが、ネギや3-Aの生徒達の身を案じての事……だけではない。 
主、つまりはネギが仮契約をする度に、カモの懐には馬鹿にならない報酬が舞い込んで来るのだ。 
エヴァンジェリンの時は、あと一歩というところで横島に割り込まれ、結局ウヤムヤになってしまったが……。 
だからこそ、このチャンスは見逃せない。『人手を増やす』という大義名分の下に、ガンガン仮契約をさせなければ! 

「…なあ、さっきから気になってたんだが、そのパクリオーってのはなんなんだ? 海賊版の王様か?」 

『パクティオー! 微妙に惜しいぜ横っち!』 

「あ、あの、仮契約(パクティオー)というのはですね……」 

一通り、横島に魔法使いの契約に関するシステムを説明する。 

「なるほど……。パートナーのお試し期間、気に入らなけりゃクーリングオフってか。便利なシステムだこって。 
 …しかしまぁ、半人前である今のボウズとって、頼りになるパートナーってのは必要不可欠な存在だろうな」 

『だろ、だろぉ!? 横っちならそう言ってくれると思ってたぜ! 心の友よー!!』 

「う、ううぅ~……」 

今のネギは、魔法こそそれなりに使えるが、接近してしまえばそれこそ赤子の手をひねるように倒せる。 
相手がネギと同じようなタイプの術者ならまだしも、もし接近戦ができるようなら、あるいは戦士と組んでいようものなら、そこで終わりだ。 
その時、横島がいるとは限らないのだ。カモが戦力にならない以上、やはり壁になる戦士系のパートナーが必要である。 

「契約方法がキスなんかじゃなけりゃあ、どうせ仮だし、俺が引き受けてやってもよかったんだけど……。 
 かわゆい魔女っ子なら大歓迎だが、流石にガキとはいえ、男と接吻かますのはゴメンだよなー」 

『ん~……じゃあ、兄貴が女装するってのはどうだ!? 結構似合うんじゃねぇかと思うんだが』 

「うえぇっ!?」 

「アホか! 根本的解決になっとらんわっ!! 
 ったく……。大体、人手ならもう2人……」 

何かを言いかける横島だったが、はたと口を慎む。 
向こうから、誰かがぱたぱたと駆けて来るのに気付いたのだ。 

「ちょっと、ネギ、ネギ!」 

「あ……。アスナさん」 

駆け寄って来たのは、明日菜だった。 
ネギの向かいに座る横島に気付き、うえっ…と表情を歪めるが、とりあえず無視してネギに声をかける事にする。 
よお、と挨拶したのを完全にスルーされ、横島はちょっぴりヘコんだ。 

「とりあえず、酔ってるみんなは部屋で休んでるって言ってごまかせたけど……一体、何があったってのよ?」 

「え、えっと……」 

ネギは、気まずげに視線を逸らした。 
明日菜に隠し事をするのには罪悪感が募るが、ここで事情を打ち明けてしまうわけにはいかない。 
話したが最後、面倒見が良く、変なところで責任感の強い明日菜はこの事態を黙って見過ごす気にはならないだろう。 
仮契約を了承しないまま強引に首を突っ込んで来そうだと、簡単に推測できる。それでは困るのだ。 

「その…………ア、アスナさんには関係のない事ですから……」 

「なっ……! ちょっ、何なのよその言い草は!? みんながあんな事になってるのに、関係ないなんて事はないでしょ!!」 

「まーまー、落ち着いて……」 

「これが落ち着いていられるかーっ!!」 

「へぶろあっ!?」 

止めに入る横島だったが、怒れる明日菜の逆鱗に触れ、鼻っ柱にいいのを喰らって吹っ飛んでしまう。 
鼻血を撒き散らし、ベンチを薙ぎ倒して、横島は壁に叩きつけられた。そしてピクリとも動かなくなる。 
その鉄拳の恐ろしき威力に戦慄しながらも、カモは興奮に打ち震えた。あのパンチは、世界を狙える…! 

「関係ないって、アンタねぇっ!! あれだけあたしを巻き込んでおいて、よくも……! 
 大体、今回もどうせ魔法がらみの厄介事なんでしょうが! ガキのくせに、何でも一人でしょいこうもうって生意気なのよ!!」 

「ぼ、僕は、アスナさんのためを思って……」 

「あたしのためを思って? よく言うわ! アンタ結局、あたしの気持ちなんて全然考えてないじゃないの!!」 

「ア、アスナさんの気持ち…?」 

「身勝手な正義感と自己犠牲に酔いしれて……バッカみたい! そんなの、ただの独りよがりのヒーローごっこだわ!!」 

「う、うう、ぅ………」 

「アンタなんて………って、あれ? ネ、ネギ…?」 

ようやく、ネギの瞳にこんもり涙が溜まっているのに気付いた明日菜だったが……時既に遅し。 
ネギの目から、堰を切ったように涙が流れ出した。 

「う、うわぁーーーーーーん!! アスナさんのアホー! のうみそ! 小鳥ーーっ!!」 

「あ、コラ! わけわかんない事叫びながら走り去るんじゃないわよ! っていうか小鳥って何!? 何か深い意味がーーっ!?」 

思わず追いかけようとするが、何故か足が竦む。 
明日菜自身、自覚していないが、今まで弟のように目をかけて来たネギに散々言われ、ちょっと傷付いているのだ。 
それに今、感情の任すままに追いかけても、何を言っていいか分からない。下手すれば、また厳しい言葉をぶつけてしまうかもしれない。 
ネギとの間にできた溝が深まるのを恐れ、明日菜は足を踏み出せなかった。 

『姐さん……流石に今のは言いすぎだぜ。 
 気持ちは分かるが、兄貴も兄貴なりに、姐さんの事を思っての言葉だったのによぉ』 

「う……」 

『それに、大人びてるからついつい忘れがちになっちまうが、兄貴はまだ10歳の子供なんだぜ? 
 周りが見えねぇのも、気の配り方が下手なのも仕方ねぇだろ。それなのに、あんなに責めちまうのはどうかと思うぜ』 

「う、うぅ……」 

『相手の気持ちを考えてねぇってのは、姐さんも同じ事なんじゃあねぇのかい? 
 自分が蚊帳の外に置かれてるって事だけに目が行って、兄貴の姐さんに対する気遣いに気付いちゃやれなかった。 
 兄貴は、姐さんに修学旅行を楽しんで欲しかったのさ。言いたかないが、姐さんは苦労人の身の上だ。旅行なんて行ける機会、少ねぇだろうしな。 
 そんで、姐さんには普段から色々世話になってるから、こういうトコで少しでも恩を返そうと思ったのさ、不器用な兄貴の事だから…』 

「う、うううぅ……」 

『ああ、可哀想な兄貴……。せめて平穏な日常を送って欲しいと思ってた相手に、ああまでボロクソに言われちまって…。 
 今頃、部屋で泣いてんだろうなぁ……。傷付いてんだろうなぁ……。胸が痛いぜぇ……。そう思わねぇか、姐さん?』 

「う、ううううううぅ~……っ」 

『あ~あ、こりゃもうトラウマもんかもしれねぇなァ~! 兄貴はナイーブだからなァ~! ひょっとすりゃあ、自殺って事もあるかもなァ~?』 

「ううううううううううぅぅぅ~~~~っ………! あ、あたしにどうしろってのよっ!?」 

『そりゃあ、ここは一つ、潔く責任取ってもらわなくちゃあ収まりがつかねぇってもんだわ…なァ?』 

「せ、責任……?」 

『そう、責任って奴をさぁ…。くけけけけけけけ……』 

鼻白む明日菜に、邪笑を漏らしながら、カモはそっと耳打ちした――― 




それから少しして。 




湯をすくい上げ、ばしゃりと顔に叩きつける。明日菜に殴られた鼻が、じぃんと染みた。 

「おお、いてぇ……」 

露天風呂である。 
意識を取り戻した直後、通りがかった美人女教師に言われるがまま、こうして早めに入浴している次第の横島であった。 
ご一緒にどうですか、と誘ってみたものの、けんもほろろに断られ、心と体、両方の傷を洗い流したい気分だ。 
…もう体も温まった。そろそろ頭でも洗おうかと、湯から出たところで……カラカラと戸の開く音。 

(ん、誰だ…?) 

この時間帯だと、入って来たのは教員の誰かだろう。そう当たりを付けてみるものの……湯気に隠れて見えないが、どうも小柄すぎるような? 
しかし、ボウズにしては大きいしなあ、と思っていると、都合良く一陣の風が吹き、浴場の湯気を吹き飛ばしてしまう。 
その向こうに現れたのは……手桶で体を流す、全裸の刹那だった。お互いがお互いに気付き、時が凍る。 

(ち、小さいが、形のいい、美しい胸だ……) 

俺はロリコンじゃなーい!といういつものアレも忘れ、横島は刹那の、慎ましくも健気に咲き誇るその胸に見入ってしまう。 
一方の刹那はというと…… 

(な、なんだ、この体は……!?) 

刹那は、横島の体を見て驚愕した。 
まるで極太のワイヤーを束ねてよじったような、ヒトの枠から明らかに逸脱した筋肉に覆われた、その肉体。 
服の上からでも中々ガタイがいいなとは思っていたが、まさか中にこんなとんでもないものが隠されていたとは予想もつかなかった。 
大型の肉食獣のような……否、その例えすらも生ぬるい。地球上のどの生物も持ち合わせていないような、そんな筋肉を横島は全身に纏っている。 
筋肉にはそれぞれ質というものがある。格闘家なら人体を素手で破壊するための筋肉、スプリンターならより速く走るための筋肉、というように。 
例えば刹那なら、青山神鳴流の剣を振るうために効率の良い筋肉をつけている。しかし……横島のそれは、既存の概念の全てに異なる。 
殴るための、投げるための、あるいは何かを振るうための。確かに、最適ではないといえ、そのどれにも適しているだろう。しかし本命は違う。 
刹那には直感があった。横島の、まるで尋常ではない筋肉。あれは、効率良く『気』を全身に行き渡らせ、存分に行使するためのものだ。 
そしてそれと同時に、どんな局面にも対応できるように極限まで鍛え込まれている。軽くしなやかで、それでいて限りなく強靭。 
確かに理想ではある。戦う者として、敬意に値する肉体だ。しかし……横島のそれは、もはや人間のものではない。完全に異形の領域だ。 
幸い、刹那にはそれがある種美しくも見えたが、見る者によっては、嫌悪や、あるいは畏怖さえ覚える事だろう。それほどまでの異形。 
刹那は戦慄した。一体、何をすればこんな体になるのか。この異形を目にするだけで、横島が送って来たであろう壮絶な闘争の人生が目に浮かぶ。 
よくよく見ると、横島の体は傷だらけだ。異常な隆起を見せる筋肉に目を奪われ気付かなかったが、大小含めて相当な数がある。 
切り傷、刺し傷、火傷、果ては銃創まで。この世界に生きる人間にとっては左程珍しい事ではないが、横島の体にあると妙な説得感がある。 
刹那はごくりと生唾を呑み込んだ。この人は、凄い人だ。そう思う。きっと、自分などでは想像もできないほどの死線を潜り抜けて来たのだ。 
そして、今までの自分を反省した。横島の見せるふざけた態度を見て、刹那は内心横島を侮蔑していた。大した人ではなかろうと。 
しかし、それは間違いだったのだ。あの態度はおそらく、自分を過小評価させるとか、何か狙いがあっての事だろう。 
だって、本当におちゃらけた人間が、こんな見事な体を作れるわけがないじゃないか。今や刹那は、完全に横島に対する認識を改めていた。 

「………………」 

「………………」 

奇妙な緊張感を張り詰めたまま、沈黙が重く圧し掛かる。 
先に動いた方が負ける……そんなノリではないが、風に吹かれて湯冷めするのも構わず、2人はそのまま硬直していた。 





ところ変わって。 
ネギは与えられた一室で枕に顔をうずめ、布団にうつぶせになって鼻を鳴らしていた。 

「う……ぐすっ……ア、アスナさんのバカぁ……ひっく」 

全ては、ひとえに明日菜のためを思っての事だった。 
確かに、明日菜の気持ちとやらを顧みず、自らの考えを押し付けていた事は認めよう。 
しかし、何もあそこまで言う事はないではないか。今は、明日菜の気持ちをおもんばかるより、彼女の身の安全を確保する事の方が大事な筈だ。 
自分は何も間違ってはいない。エヴァンジェリンの時とは違い、横島という頼れる仲間がいるのだ。無理に明日菜に助力を求める必要はない。 
大体、明日菜は何故、何かと首を突っ込みたがるのだろうか。クラスメイトを守ろうとする姿勢は見上げたものだが、それは彼女の仕事ではない。 
ネギにしてみれば、明日菜も守るべき生徒の一人なのだ。それを、戦いに駆り出すなどと……とんでもない事だ。教師失格である。 

「……いつまでも、泣いてちゃ……ダメだよね」 

ぐす、と鼻をすすり、布団から身を起こす。 
そうだ、自分は明日菜をはじめ、29人の生徒を守らなければならないのだ。いつまでも情けなく泣いている場合ではない。 
手始めに、旅館内の見回りでも……と腰を上げかけたその時、コンコン、と部屋の戸が叩かれた。 

「は、はーい?」 

少々声を上ずらせながら、ぱたぱたと応対に駆け寄る。 
もう明日のミーティングの時間だっけ?と思うネギであったが、ノックの主は意外といえば意外な人物だった。 

「あ、あのー、ネギ、いる……?」 

「ア、アスナさん!?」 

あぶぶ、と慌てふためく。さっきの今で、一体、どんな対応をすればよいものか。 
涙を見せたのも恥ずかしいし、そういえば、テンパるあまり、去り際にかなり謎めいた捨て台詞を吐いた気もする。 
もしや、改めて怒りに来たのでは……と危惧するが、明日菜の声音は意外にも優しかった。 

「その、なんていうか………さ、さっきはゴメンね? さすがに言い過ぎたわ…。 
 あたしはもう怒ってないから、あんまり気にしないでね。それじゃ…」 

「ア、アスナさん……」 

返事を返す暇もなく、足音が遠ざかる。 
ネギは、明日菜に恨み言を吐いてしまった自分を恥じた。 

「アスナさんって……やっぱり、優しいや」 



「…ちょっと、ホントにあれで良かったの?」 

『応よ、バッチリだぜ姐さん! 辛く当たった後で、掌を返したように優しい言葉をかける…。 
 このふり幅ッ! これぞツンデレの黄金パターンよ! これに男心をくすぐられねぇような奴ァいねぇぜ!!』 

「くすぐってどーすんのよ……」 

『ハン、知れた事よ! ああ見えて、兄貴は筋金入りの頑固者だからな……意地でも姐さんとは仮契約を結ぼうとしねぇだろうよ。 
 そこで発想の転換だ! 姐さんにホレりゃあ、仮契約うんぬんは関係なく、兄貴は姐さんにキスをしたくなる! まさに逆転ホームラン!!』 

「ホ、ホレ……!? ちょっ、どういう事よ!?」 

『どういう事って、そういう事だろーがよぉ。 
 兄貴としては、ホレた姐さんと情熱のキッスをかませる。姐さんにしてみりゃ、仮契約を成立させて、クラスメイトのために戦える。 
 これぞ一石二鳥! 持ちつ持たれつだろ? 兄貴も一旦仮契約結んじまわァ、こっちのもんよ。後はなしくずしでどうにかなるぜぇ。 
 やっぱ、ホレた相手とパートナーになりたいってのが正直なところだろうからなぁ』 

「き、聞いてないわよ!? てゆーか、その後の事はどうすんのよ!?」 

『その後ォ? …ああ、仮契約結んだ後の事ね。 
 まぁ、適当に相手してやって、兄貴を満足させてやってくれよ。10歳の子供なんだ、おかしな事にゃあなるめぇよ』 

「で、でも、あたしは高畑先生の事が…」 

『……なあ、姐さん。俺っちァ真面目な話、嘘でもいいから兄貴と姐さんにくっついてもらいてぇと思ってんだよ。 
 俺っちと知り合ってからこっち、兄貴はずっと寂しい思いをして来た筈なんだ。ネカネの姐さんも離れた所で暮らしてたしな。 
 誰に甘える事もできず、甘えようともせず、兄貴は独り、夢に向かって突き進んで来た……。 
 兄貴はスゲェよ。まだ子供なのに自分の境遇に泣き言も言わず、ずっとずっと一心不乱に頑張り続けて……。 
 でも、あんまりじゃあねぇか! 普通の子供が当たり前に享受できる幸せの一切を放棄して……いや、兄貴は放棄せざるをえなかった! 
 不幸を不幸と気づく事もできず、兄貴はずっと頑張って来たんだ! 俺っちァ、兄貴に幸せになって欲しいんだッ!! 
 嘘でもいいんだよ、姐さん! 兄貴に……兄貴に夢ぇ見させてやってくれよッ!! 頼むよォ………』 

「カモ、アンタ………」 

涙を流し、骨格上見分けにくいが土下座してまで懇願するカモに、明日菜は心を動かされた。 
…明日菜の死角でカモがしてやったりとほくそえんでいる事など、気付く由もなかった。 

「わかったわ……。あたしにどこまでやれるのかは分からないけど……できるトコまでやってみる! 
 なぁに、ネギなんてこのあたしの魅力にかかればイチコロよ! 見てなさい! 絶対、幸せにしてやるわっ!!」 

『お、恩に着るぜ、姐さん……! (くけけけけ! ちょろいもんだぜ!!)』 

アルベール・カモミール。ある意味、エヴァンジェリンや呪術協会の刺客などより、よっぽど邪悪な存在だった。 

裏方稼業 京洛奇譚(4) チーム結成

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