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京洛奇譚(4) チーム結成 投稿者:毒虫 投稿日:08/16-22:53 No.1119
露天風呂では十数分にも渡り睨み合いが続いていたのだが……横島はようやく、我に返った。
情けない話だが、愚息が反応しかけたのである。流石に男のビルドアップを、それもかぶりつきで中学生の少女に見せるわけにはいくまい。
刹那の精神衛生上を考えての事でもあるが、それよりむしろ、新しい扉を開けてしまうかもしれない自分の方が怖い。
僕を見て!僕の(パンツの)中のモンスターがこんなに大きくなったよ!みたいな。…いや、全くもって洒落にならない。以前から少し、そのケ(毛、ではない。断じて)が見られるだけに。
横島がそっと手ぬぐいで局部を隠すと、刹那もようやく己の置かれた状況に気がついた。
「あ、あ、ああぁっ……」
見る間に頭に血が昇る。顔はもう赤一色だ。
意味もなくわたわたと手を動かし……それが偶然、脇に置いてあった野太刀、夕凪に触れる。
絶賛混乱中の刹那の脳内CPUは、このピンチを打開するべく体に命令を下した。見敵必殺!殺られる前に殺れ!
「ざ、斬岩け―――」
夕凪を抜き放ち、何故か腰の引けている横島に一太刀浴びせようとしたところで…
「ひゃあああぁ~~~~~っ!!?」
「!? この悲鳴……このかお嬢様っ!?」
絹を引き裂くような悲鳴。横島には判らなかったが、どうやらそれは木乃香嬢のものだったらしい。
羞恥心などどこ吹く風、刹那は夕凪の鞘も放り捨て、奮然と脱衣所に取って返す!
横島も後を追おうとするが……ぷりぷりと躍動する刹那の桃尻をしっかり網膜に焼き付けてしまい、その場から動けなくなる。男の事情という奴だ。
それでも果敢に、腰の引けた内股でよちよちと歩く横島だったが、刹那との差は広がるばかり。とても追いつけそうにない。
ついには鼻血を流し始めた横島の事などすっかり忘れ去り、刹那は思い切り脱衣所の戸を開けた!
「お嬢様ッ!!」
最悪の光景を思い浮かべていた刹那だったが……その実態を目にして、思わず固まってしまう。
脱衣所の中では、デフォルメされた小猿が意気揚々と木乃香と明日菜の下着を剥ぎ取っていた。
完全にシリアスモードで行動していただけに、その格差に混乱する。
そうしている内に、遂に小猿どもは、木乃香と明日菜の下着を全て剥ぎ取ってしまった!
…運がいいのか悪いのか、よりにもよってこのタイミングで横島が到着する。
こと女性関係に限り両眼6,0の視力を誇る横島アイが映し出すのは、全裸の木乃香&刹那と半裸の明日菜。
どばしゃーっ!と、まるでベスビオ大噴火の如き勢いで噴出する鼻血を片手で押さえ、横島は腰を引きつつ仰け反るといった奇妙な姿勢を取った。
繰り返し述べよう。これも男の習性ゆえの事である。情けない事この上ないが、誰も彼を責める事などできはしない。
「ぬぅぉっ!? と、桃源郷っ!?」
「あ、せっちゃん!? 添乗員さん!? あ~~~ん、見んといて~~~!」
え~~ん、と声を上げる木乃香。その周りを、まるで狂喜して踊り狂うように飛び跳ねる小猿達。
事ここに至り、刹那の堪忍袋は、尾が切れるどころか全体が破裂した。
「こ、この小猿ども……!! このかお嬢様に何をするかァァァァァァァァッッ!!!」
「きゃっ、桜咲さん、何やってんの!? その剣、ホンモノ!?」
叩ッ斬ってくれるわーッ!!と剣を振りかざす刹那に、まとわりつく小猿に難儀していた明日菜は瞠目した。
真剣を振り回し、クラスメイトに引かれるのも構わず、刹那は一匹の小猿のそっ首めがけて刀を振り下ろそうとするが…
突然、がしりと手首を掴まれる! 挟撃か!?と戦慄しながら振り返るが、
「も、もうちょっと! もうちょっとだけ! あと5秒でいいからッ!!」
「ア、アホかーーーーーーーーッ!!」
切羽詰った様子の横島に、カカトで蹴りをくれてやる。
それが見事、男の急所に直撃し、声もなく崩れ落ちる横島だったが……その先が悪かった。
後ろから刹那をはがいじめにするような形で膝から落ちたため、横島の顔が刹那の引き締まったお尻にジャストミート福澤。
壮絶な痛みと襲い来る吐き気の中、横島は束の間の天国を味わった。これぞまさしく地獄に仏。
「ひゃあぁぁあんっ!?」
横島の吐息が妙なところに当たったのか、刹那が歳に似合わぬ艶っぽい声を上げる。
目の前で繰り広げられる破廉恥な光景に、明日菜は頬を染めてあわあわと狼狽するより他なかった。
…狂乱して振り回していた肘が横島のテンプルを的確に捉え、豪快に薙ぎ倒したところで、刹那はようやく異変に気がついた。お嬢様がいない!
「お嬢様……おのれッ!!」
見ると、小猿どもが木乃香を抱えていずこかへと連れ去ろうとしている。
愛刀・夕凪を構え直すと、刹那は全力で地を蹴った! 僅かな滞空時間に充分に気を高め、そして…
間合いに入ったところで、練った気で筋力を補強し、目にも留まらぬ連続斬り!
「神鳴流奥義、百烈桜華斬!!」
ほんの瞬きにも満たぬ間に、5体の小猿を斬り刻む! 両断された小猿は、その形を形紙に戻し、宙を舞う。
いちいち技の名前を叫んでしまうのはお約束だ。これをやらないと気合が入らない。
その手に抱いた木乃香を見やる。怪我はない。一安心だ……。
とりあえずの処置でバスタオルを巻いている間に、事態は全て解決していたようだった。明日菜は安堵の溜息をつく。
どうやら、刹那の獅子奮迅の活躍で、木乃香は無事に救われたようだ。何よりである。
「コイツ……いざって時に役に立たないわねー」
泡を吹き、白目を剥いて股間を押さえて横倒れになっている横島に、白い視線を向ける。
エヴァンジェリンの時は、格好こそ変態だったが、働きそのものは充分評価に値するものだった。
しかし、木乃香の…親友の一大事に寝ていただけとは……正直、ガッカリだ。
(って、何もできなかったのは、あたしもか……)
人の事は言えない。自分だって、突如現れた小猿や真剣を振り回す刹那に戸惑い、木乃香がさらわれかけたのにも気付けなかった。
ぎゅっと唇を噛み締める。何をやっているのだ、自分は。親友の一大事に、己の裸など隠している場合ではなかった。
そして、改めて思う。この修学旅行の最中に、只事ではない事態が動いている。それも恐らく、また魔法がらみの。
このまま見過ごすわけにはいかない。自分は既に巻き込まれたのだ。大人しく嵐が通り過ぎるのを待つなど、全く自分らしくない。
カモの作戦などでは生ぬるい。無理矢理にでもネギの唇を奪い、仮契約を済ませて戦う力を得なければ、親友を守る事だってままならない。
…と、今は決意を改めている場合でもなかった。とりあえず木乃香の傍にいてやらなければ、と脱衣所を出ようとした時……
「あれ、桜咲さん…?」
猛烈な勢いで駆ける刹那とすれ違った。
何を急いでいるんだろう、中で木乃香と何かあったのか、など疑問はあるが、今は木乃香の様子の方が気になった。
「このか、大丈夫ー!?」
「あ、アスナ……」
親友は、誘拐されかけた恐怖より、何故か、刹那に逃げられた悲しみの方が色濃くその表情に表れていた。
脳震盪から脱出した横島は、その後ロビーで刹那と顔を突き合わせていた。
気まずげに脂汗を流す横島。頬を、湯上りのせいだけでなく桃色に染め、横島と視線を合わそうとしない刹那。
空気が重い。といってもシリアスなそれではなく、ラブコメ調の気まずさだ。そしてそれは、横島、刹那の両方ともが苦手としている。
何とかその手の空気を打破すべく、刹那は思い切って口を開いた。
「――て、敵のいやがらせがかなりエスカレートしてきました。
こ、このままではお嬢様にも被害が及びかねません。それなりの対策を講じなければ……」
「た、対策ね! うん、そういうマジメな事考えるの大賛成だぞお兄さんはっ!」
よほど雰囲気をかけるきっかけが欲しかったのか、横島は刹那の話に一も二もなく飛び乗った。
滑稽な横島の姿を見て、刹那の精神も少しは安定したようだ。紡ぎ出した声はもう上擦ってはいなかった。
「…横島さんはそのネームバリューの割には意外と対応が不甲斐なかったので、とりあえず情報を流して怯ませるという作戦は消えましたね」
「正直すまんかった」
がっくりと項垂れる。女子中学生に混じっての修学旅行という事で、横島も多少なりとも浮かれていたのかもしれない。
何にせよ、根拠地に敵の侵入を許すなどプロにあるまじきミスだ。何のために派遣されて来たのかわからない。
流石に思考回路をシリアスモードにスイッチさせる横島であった。
「とりあえず、式神返しの結界を張った事でさっきのような事態は防げるな。勿論、油断は禁物だが。
…けど、守る事だけを考えてても、こっちは無駄に消耗していくだけだ。どっかで攻勢に出ないと厳しいだろう」
「言うは易し、ですね。攻勢に打って出ると言っても人員が少なすぎます。
お嬢様をお守りする人員と敵を追撃する人員、最低でも2人ずつは欲しいところですね…」
「ボウズも含めりゃ3人だが、あいつは俺らとは目的が違うからなー」
「ボウズ……ネギ先生の事ですか?」
「ああ。俺らは、道中何があっても木乃香嬢を守り抜けばそれでいい。
しかしボウズには、呪術協会の長に学園長からの親書を届ける仕事がある。
常にボウズと木乃香嬢をワンセットにしておけば両立できる事なんだが、それだとどうしても敵が集中しちまうしなぁ」
一番簡単で確実な手段は、木乃香を麻帆良に帰してしまう事である。
しかし、それは酷というものだろう。せっかくの修学旅行なのだ、彼女にも存分に楽しんでもらいたい。
「しかし……青山が敵に回らなかったのは幸いですね。
呪符使いと神鳴剣士に組まれてしまったら、正直、私でも厳しかったでしょうし」
「いや、安心するのは早いな。
確かに青山も、木乃香嬢の立ち位置については概ね肯定的だ。
しかし末端の人間にもなると、その考えはそれぞれだろう。上に従わず暴走する、血の気の多い連中もいるかもしれん」
「そんな……!」
「それに……言いたかないが、オデコちゃん。君の存在が、そんな連中を勢いづかせるのに一役買ってるんだよ。
青山を出奔し、あろう事か東へついた裏切り者の粛清。実にいい口実だ」
「わ、私はただ、お嬢様をお守りしたいとっ……!!」
身を乗り出す刹那の頭にぽんと掌を乗せると、横島は優しく微笑んだ。
「分かってるよ。青山にも、オデコちゃんに肯定的な人もいる。
そしてその、とんでもなく頼りになる人が、明日から助っ人に駆けつけて来てくれるんだ。
人出の問題もこれで万事解決だよ。なんせ、あの人は最低でも100人分は働くだろうし」
「あの人……?」
刹那の脳裏に、一人の女性の姿が浮かぶ。
しかし、刹那はすぐにそれを否定した。まさか、まさか『あの人』が来るわけがなかろう。
…横島の二つ名を思い出す。『鶴の懐剣』……。するとやはり、『あの人』としか…
思い悩む刹那を尻目に、横島は廊下の向こうからやって来る人影に気がついた。よく見かけるコンビ、ネギと明日菜だ。
しかし傍目から見ても、2人の間にいつもの姉弟のような雰囲気は微塵も感じられない。
ケンカしている、というわけでもなさそうだが何となく気まずそうだ。
声をかけようかと迷っていると、向こうが先に気がつき、小走りで駆け寄って来た。
そしてロビーに到着するやいなや、ネギは刹那に向かって頭を下げた。
「ご、ごめんなさい刹那さん! アスナさんから話を聞くまで……僕、刹那さんのこと、疑ってました!
ぼ、僕も協力しますから、襲ってくる敵について教えてくれませんか!?」
「…………」
疑われていた事については正直複雑な気分だが、素直に手を貸してもらえるに越した事はない。
本当に『あの人』が協力してくれるのなら、これで最低限の人員は整った事になる。
刹那は襲撃者、そして彼らが使う術法について、自分に知りうる知識の全てを説明した。
神鳴流のくだりで横島の正体を明かしてしまいそうになるが、何とか踏みとどまった。
「じゃ、じゃあ、今のところは大丈夫そうだけど、神鳴流の人達の一部が僕達の敵に回るかもしれないんですね…?」
「可能性は低いと思いますが、ないとは言い切れません。
それもお嬢様を狙うのか、ネギ先生と親書を狙うのか、私の命を狙うのかも分からない状態です。
私と横島さんとで取り組めば、お嬢様の方は無事にお守りできると思うのですが……」
言いよどむ刹那に、カモはズバリと確信をついた。
『横っちと剣士の姐さんがこのか姉さんにかかりきりになるってぇこたァ、すなわち兄貴が一人っきりになっちまうって寸法だわな。
そんで、敵がもし戦力の分断を狙ってんなら、まずは戦力の少ない兄貴から潰しにかかるのが定石だ。
術者一人ならともかく、戦士系のヤツと組まれちゃあ、今の兄貴じゃ手も足も出ねぇ。こりゃあ、下手打ちゃ死ぬな』
「ええっ!? そ、そんなぁ…」
半泣きになるネギの肩に、カモは任せておけと言わんばかりに前足を置いた。
元々ネギの肩に乗っかっていた分、誰も気付かなかったが。
『兄貴……この期に及んでパートナーもナシでってのは、やっぱ無理ありまくりだぜ。
死んでまで意地張るこたァねぇだろうがよ。それに、嫌がる娘を無理からに、ってわけでもねぇんだ。騙してるわけでもねぇしな。
…よく考えろよ、兄貴。姐さんには姐さんの考え、信念がある。姐さんの進む道を、どうして導き手たる兄貴自身が阻害しちまうのさ?
姐さんだけじゃあねぇ、ちったァ周りの人間の気持ちも考えてやりなよ。人のために戦おうって決めてんのは、何も兄貴だけじゃあねぇんだぜ!』
好機と見るや、『兄貴×姐さんラブラブ契約作戦』をほっぽりだし、ゴリ押しに押す。
ネギも明日菜も、修学旅行、そして敵の襲撃という特殊状況下に置かれ、その思考回路が鈍っている。今こそがチャンスなのである。
そしてカモの言う事は、取りも直さず正論だ。傍目からしてみれば、兄貴分のネギの事を案じての言葉にしか聞こえない。
…ただ、横島だけは悪巧みの匂いを嗅ぎつけていたが、それをわざわざ口に出すほど野暮ではない。分類すれば、横島もカモ側になるのだ。
カモの熱弁に後押しされ、明日菜の瞳にも炎が宿った。
膝を折りネギと視線を合わせると、ぎゅっとその手を握り、切実に訴えかける。
「ネギ……あたし、このかを守りたいよ。このかは、あたしが麻帆良に来てからの親友なの。
あの子が危険な目に遭ってるってのに、ただ指をくわえて見てるだけなんて……そんなの、とても我慢できない。
このかのためなら、あたしは何だってできる。化物と戦う事だって恐れない。お願い、ネギ。あたしに戦う力を、このかを守れる力を貸して!」
「アスナさん……」
ネギはただ純粋に、明日菜と木乃香の友情に感動しているようだったが……刹那は懇願する明日菜を、とても複雑な視線で眺めていた。
自分が木乃香と離れている間にこれほどまでに絆を深めた明日菜へ、嫉妬にも似た感情を覚えてしまう。
しかしその反面、木乃香の事をこんなにも想ってくれている人間がいる事を嬉しくも思う。複雑だ。
この感情は……そう、寂しさに似ている。
何かを噛み締めているかのように俯くネギだったが、やがて勢いよくその顔を上げる。
その目にはもう迷いは映されていなかった。決意が固まったのだ。
「わかりました、アスナさん! 仮契約を結びましょう!
そして僕らで、関西呪術協会からクラスのみんなを守るんです!
3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)の結成ですよ!!」
その微妙極まりないネーミングセンスに辟易しながらも、前に差し出した手を合わせる刹那と明日菜だったが…
横島だけは、その輪に加わらず、難しげに表情を歪めながら、アゴに手を当て考え込んでいた。
何か問題でも発生したのかと、刹那が恐る恐る声をかける。
「あ、あの、横島さん……? 何かあったのですか?」
んー……とひとしきり唸り、何かを思いついたように、横島はパッと顔を明るくした。
「ケント・デリカッターズってのはどうだろ?」
「「「「……は?」」」」
「いや、チームの名前だよ。今時、『ガーディアンエンジェルス』もないかと思って。
それにホラ、昔からよく言うだろ?」
呆然とする面々に、人差し指をピッと突きつけ、自信満々に言い放つ。
「メガネを笑う者は……甘党だ!」
「「「「聞いた事ねぇーーーーっ!!」」」」
皆から一斉につっこまれる横島。
図らずもこの時、横島を除いた『3-A防衛隊(あるいはケント・デリカッターズ)』は、チアリーディング部もかくやのチームワークを見せていたのだった。
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