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京洛奇譚(7) ツッコミなしのWボケは正直収拾つかない 投稿者:毒虫 投稿日:08/26-23:05 No.1163


―――修学旅行、2日目。 

朝食の席に着きながら、箸も動かさず、刹那は添乗員に扮した横島を凝視していた。 
横島は、これまた箸も動かさず、近くに座る源しずな教員に果敢にアタックしている。 
誰の目から見たって脈がないのは明らかなのだが、横島に諦める気配はなさそうだ。 
しかし、しつこく付きまとっているという風には見えない。袖にされるのを分かった上で、冗談で口説いているように見える。 
まあ、横島の本意がそのどちらにしろ、周囲から笑われている事には変わりはないのだが。 
…そんな、横島の情けない姿を見て、刹那は胸中に複雑な感情を覚えると同時に、ますます横島の事がよく分からなくなった。 

(一体何なのだろうか、あの人は…) 

終始ふざけっ放しで、軽薄な男なのかと思えば、真剣に女性を口説いているというわけでもなく。 
刹那や明日菜のツッコミに吹き飛ばされ、毎回死にかけている割には、戦闘の際にデタラメな強さを見せたり。 
特に普段の横島を見ている限り、昨夜、自ら炎に身を投げてまで必死に刹那を救った人間とは、とても同一人物に思えない。 
…そういえば、その際に負っていた結構酷かった火傷は、今日の横島には見られない。あれはどう見ても、昨日今日で治る傷ではない筈なのに。 
よく見れば見るほど、考えれば考えるほど、ますます謎は深まっていく。 
馬鹿をやっている横島。必死になって自分を助けてくれた横島。一体、どちらの顔を信じればいいのか。 
横島の横顔を見詰めたながら、そう思案していると…… 

「…?」 

「!!」 

ふとした拍子に、横島と視線がかち合ってしまった。 
ずっと観察していたと知られたわけでもないのに、何故か刹那は狼狽してしまう。 
目を見開いて硬直してしまった刹那に、とりあえず横島はへらりと笑いかける。 
笑顔を向けられ、刹那は咄嗟に顔を伏せた。この気まずさは何なんだ、と思うが、すぐにその答えに辿り着く。 
刹那は、昨夜助けられた時や、助太刀してくれた時の礼、そして鞘に収めた夕凪でタコ殴りにしてしまった謝罪を、まだ横島に言っていない。 
つい最近まで蔑視していた男が、意外にも強くて優しい面も持ち合わせていると気付いてしまい、そのギャップに戸惑い…… 
刹那はまだ、横島にどう接していいのか決めかねていたのだ。ようやくそれに気付き、胸のモヤモヤも少しは晴れた。 

(し、しかし、今更お礼を言ったり、謝ったりするのも……。 
 それに、謝るなら、これまでずっと見くびっていた事に関しても謝らなければいけないし……) 

お気楽な横島といえど、そんな事を言われては流石に気を悪くするだろう。 
協同して木乃香を守っていく以上、嫌われて連携が取れなくなるのは極めてまずい。 
ではとりあえず、お礼だけでも言っておこうかと、そう決めた時…… 

「……あ、せっちゃん♪」 

「!?」 

聞き覚えのある声に、刹那は思わず身を硬くした。 
絶対に視線を合わせないようにして、そっとお膳を手に取ると、そそくさと席を立つ。 
無論、木乃香の事を嫌っているわけではない。しかし、今はまだ食事を一緒に取る勇気は持てなかった。 

「せっちゃん、なんで逃げるんーーー!?」 

「わ、私は別に……!!」 

追いかけて来る木乃香に、刹那は遂に走って逃げ出した。 



(ほおぉ~…。ちゃんと女の子してんじゃん、オデコちゃんてば) 

戦闘の際とは打って変わってコミカルな表情を見せる刹那に生暖かい視線を送りながらも、横島は安心していた。 
格闘系中華娘・古菲の事もそうだが、やはり年頃の女の子は、それらしく青春してるのが一番だ。 
普通ではまだ親元も離れていない歳の少女が、何がしかの使命を帯び、剣を手に執り血を流して戦うなどと……無責任な感想だが、見ていて楽しいものではない。 
刹那には刹那なりの事情や想いがあって戦場に身を置いているのは分かるが、それとこれとは別に、横島の勝手に胸が痛む。 
そんな重苦しい使命なんて大人に任せて、子供は楽しく明るい青春を送って欲しいのだ。だから、楽しそうな刹那を見ると、横島まで嬉しくなってくる。 
……この光景を壊してはいけないな、と、横島は改めて実感した。 





足下に転がる黒い粒……鹿の糞をなるべく踏まないように心掛けながら、横島は5班の後ろを歩く。 
刹那は居心地悪そうにしているし、木乃香と、名前の知らない前髪の長い子はそわそわと落ち着きないが、皆それぞれに楽しんでいるようだ。 
はしゃいだネギが、差し出した手ごとしかせんべいを鹿に食われて一笑い取っているのを横目に捉えながら、横島は周囲に気を配っていた。 
昨日の今日でまた襲撃して来る可能性は低いが、それでも気は抜けない。 

うまい具合に事情を知らない4人が離れると、横島達は早速密談を始めた。 

「今のところ、おサルのお姉さんは来ませんねー」 

「おそらく今日のところは大丈夫だと思いますが……念のため、各班に式神を放っておきました。何かあればわかります。 
 横島さんも専属でこのかお嬢様の護衛を務めてくれる事ですし、勿論私もお嬢様の事は陰からしっかりお守りしますので…… 
 せっかくですし、お二人は修学旅行を楽しんでください」 

「なんで陰からなの? 隣にいて、おしゃべりしながら守ればいーのに」 

明日菜が苦笑気味にそう言うと、刹那はぎくりとして顔を赤くした。 

「いっ、いえ、私などがお嬢様と気安くおしゃべりなどするわけには……」 

「なんでそこで照れるんだよ、怪しいなー……。オデコちゃん、ひょっとして百合の人なのか?」 

「な゛っ……!? ひ、人聞きの悪い事を言わないで下さいっ!!」 

「…? あの、アスナさん、百合ってどういう意味なんですか?」 

「……子供は知らなくていい事よ。とりあえずアンタには関係ない事だから、安心しなさい」 

「か、神楽坂さんまで! いい加減にしないと、怒りますよ!?」 

ごめんごめーん、と誠意のカケラもなく横島と明日菜が謝る。 
刹那は諦めの溜息をつき、ふと思い出したように口を開いた。 

「そういえば横島さん、昨日から気になっていたのですが……その、『オデコちゃん』というのは、ひょっとして私の事ですか?」 

「ひょっとしなくてもそうだけど。ナイスなネーミングだろ?」 

「最悪です。今すぐ変えて……というか、普通に名前で呼んでください」 

「え、名前って……確か、桜咲デコ子とか、そんなんじゃなかっぎょぼあッ!?」 

「……」 

刹那は無言で、竹刀袋に入れたままの夕凪で、横島の脳天にキレのいい面を入れた。 
頭を押さえてしゃがみこみ、プルプル震えてる横島を見下ろし、刹那は思った。やっぱコイツ、ロクな男じゃねぇや。 
ふう、と溜息をつき、歩き出そうとしたところで… 

「せっちゃん! お団子買ってきたえ、一緒に食べへんっ!?」 

「えっ……」 

突然、物凄い勢いで木乃香に迫られ、思わずたじろいでしまう。 
助けを求めて明日菜の方を見るも、既に早乙女ハルナと綾瀬夕映に捕まっていた。 
横島も横島で、いつの間にか復活しているかと思えば、ニヤニヤ笑いながら刹那に生暖かい視線を送っている。とても頼りにできそうにない。 
木乃香に誘われたのは嬉しいのだが、素直に応じる勇気はなく、また、大切なお嬢様の誘いを冷たく断れるほど、刹那は感情を制御しきれなかった。 
結果、みっともなく狼狽しまくった挙句、うそ臭い言い訳を残して駆け去る事になる。 

「す、すいませんお嬢様! 私、急用が……っ!!」 

まって~、と呼び止める木乃香の事が気になったが、今の刹那には、どうする事もできなかった。 




「うぅ~~~……。なんも、逃げんでもええやんかぁ……」 

無駄になった団子を頬張りながら、木乃香はとぼとぼ歩いていた。 
刹那に逃げられただけでも悲しいのに、気がつけば班の皆とはぐれていて、余計に切なくなる。 
麻帆良に来てからこっち、何かと刹那に避けられているなと思っていたのだが……昨日の出来事で、嫌われているわけではないと判った。 
ならば今日からでも、失われた時間を埋めるべく親交を深めようと決めた初っ端からこれでは、先が思いやられる。 
まあ、以前までとは違い、自分が厭われているのではなく、何か理由があって避けられているのだと思えば、まだ気も楽なのだが。 
しかし、せっかく修学旅行で同じ班になったのだから、もっと楽しくお喋りしたい。 

「なんやしらんけど、アスナとはよぉお喋りしてるみたいやのに……」 

アスナずっこいわぁ、と姿の見えない親友に愚痴る。 
そう。何故だか知らないが、修学旅行が始まってから、刹那と明日菜、そしてネギ。この3人が急に仲良くなったように見える。 
昨夜も、具体的に何をしていたのかは分からないが、その3人で行動していたようだ。(横島は死んでいたので目に入っていない) 
どうも、自分を追いかけてくれていたようだから、自分ひとりだけ仲間はずれにされているわけではないだろう。それが唯一の救いだ。 
明日菜に昨日の出来事を訊いてみても、あからさまにはぐらかされたり話を逸らされたりして、イマイチ全容が掴めない。 
つまらんなー、と溜息混じりに呟くと、ふと、ある疑問に思い至った。 

「あれ? みんな、どこ行ったんやろ?」 

皆がそれぞれ、どこかに行ってしまったのは分かっている。しかし、それぞれ向かった場所が分からない。 
一人で回っていても面白くないだろうし、そもそも、これは班別とはいえ自由行動だ。旅館に帰る以外は、特に集合時間などは決められていない。 
そして困った事に、木乃香はネギや添乗員の先導に従い、ついて来ただけで……この奈良公園からの帰り道など、全く頭に入っていなかった。 
土地勘もクソもない所で迷子。そう認識したが最後、急速に木乃香の胸に不安が湧き上がる。 

「……せ、せっちゃ~~ん! アスナ~~! ネギ君~~!」 

不安に駆られ、恥も外聞もなく助けを求めるが、無論、誰も現れる気配はない。 
元来た入り口に戻るとか、しおりに記載されている緊急連絡先に電話するとか、やり方は色々あるのだが、混乱する頭では何も考えられない。 
半狂乱に陥り、涙さえ浮かびかけたところで……ぽん、と木乃香の肩に手が乗せられた。 

「っ!?」 

ぎくりとして振り返ると、そこにあったのは………添乗員の、心底から安堵した顔だった。 

「や、やっと見つかった……。 
 いやぁ、焦ったよ。まさか、速攻でばらけるなんて思ってなかったし」 

「あ………す、すみません」 

「や、君が謝る事ないんだけどさ。どっちかっつーと、俺と一緒で、おいてかれた組だろ?」 

切ないよなー、と苦笑する添乗員。 
気がつくと、木乃香の不安は跡形もなく消え去っていた。 
あのメンバーの中では一番大人で、添乗員という地理にも詳しい、最も頼りにできる人間だ。 
友達とはぐれてしまったのは寂しいが、とりあえず迷子センターに駆け込む事は免れた。それだけでも結構、嬉しい。 

「で……とりあえず、どうする? はぐれた皆、探す?」 

「ええんですか?」 

迷子が出た場合、普通、担任の教師に連絡を入れて、どこかで落ち合うなりするのが普通だろう。 
しかし今回に限っては、ネギがいたにもかかわらず、こうして木乃香が迷子になっている。正直、あまり頼りになりそうにない。 
折角の自由行動の中、自分だけ旅館に帰されるというのもまっぴらだし、添乗員の申し出は都合が良かった。 

「ま、ボウズ……もとい、先生もあんましアテにできないからなあ。 
 旅館に戻るのも正味めんどいし。このまま合流できるんなら、それに越した事ないんじゃないの?」 

随分アバウトな添乗員もいたものだ、と木乃香は思った。人の事を言えた義理ではないが。 
とにかく、一も二もなくこの話に飛びつくと、2人は早速、皆を探して歩き出した。 



「ほえぇ~~……! 大仏さん、おっきぃなぁ~」 

「全長は、確か……5メートルか6メートルのどっちかだったかな? ガイドブック見たんだけど、あんま憶えてねーや。 
 あ、ちなみに、大仏の鼻くそって土産もんも売ってるぞ。しかもお菓子だ。 
 まったく、考えた奴の顔を見てみたいね。そして褒めてやりたいね。俺、こーゆー馬鹿っぽいの大好きなんよ」 

「へぇ~。……あれ? なんやろこれ? 柱に穴あいとる」 

「さあ、構造欠陥なんじゃないの? いやー、昔っからあったんだねぇ」 

「メチャこわやなぁ~」 

「さっさと直せって話だよなぁ。ったく、これだから日本の建築業界は……」 

「うわぁ、添乗員さんが、なんや難しい話しとる! インテリさんや!」 

「いやー、それほどでも! ……ところで、昔から疑問に思ってたんだけど、インテリって何の略なんだろ? 知ってる?」 

「そんなん簡単やで! ズバリ、『インモラルなテリーマン』! これや!」 

「な、なるほど! 確かにテリーマンて一見頭よさげに見えるもんな! あくまで一見だけど! 
 俺も今までインテリぶってきたけど、さすがに君にゃあ脱帽したよ。君こそが真のインテリだ! 記念に額に『米』と書いてあげよう!」 

「そらいらんわぁ」 

「そ、そか? じゃあ、『生米』でどないだ?」 

「や、それなら『もち米』の方がかわえーなぁ」 

大仏殿の中で、きゃいきゃいとはしゃぐ木乃香と添乗員。 
当初の、はぐれたメンバーを探すという目的などすっかり忘れ、奈良を思いッきり満喫していたのだった。 

裏方稼業 京洛奇譚(8) 絆の在り処

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