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京洛奇譚(9) 人にあらずは 投稿者:毒虫 投稿日:09/02-22:56 No.1189
そろそろ消灯時間も近付き、生徒達もそれぞれの部屋に戻り、思い思いに修学旅行の夜を楽しみ始める頃。
ネギは横島と連れ立って横島の部屋から出て来て、ふう、とひとつ息を吐いた。つい先程、鶴子との顔合わせを終えたところの出来事である。
文字通りの顔合わせなので、ものの10分もしない内に終わったのだが、それでもネギは緊張していたのだ。
鶴子と対面する前に、横島から散々、青山鶴子という女性がいかに強いかという事を聞いていたのだが、逆にそれがプレッシャーになった。
いざ会ってみると、思っていた以上に優しくおっとりとした女性だったので、内心かなり安堵していたのだった。
ひとしきり胸を撫で下ろすと、ネギは恨みがましく横島を見上げた。
「もう…。あんまり脅かさないで下さいよ、横島さん!」
「や、別にそんなつもりはなかったんだが……。
実際、最強の魔法使いがサウザンドマスターだとすると、最強の戦士は鶴子さんだろうし。
大体、700キロ級の白熊を魔法も気のサポートもなしで、しかも素手で殴り殺せるってんだから、もはや人間業じゃないよなぁ」
「ど、どこのオーガですか、それは……」
呆れたようにツッコミを入れるネギであるが、実はこれ、ウソのようなホントの話なのである。
他にも、核をもってしても殺せないとか、彼女一人で一国の軍事力にも匹敵するとか、そんな話をしている内に、2人はネギの部屋へと到着していた。
流石に鶴子と一緒の部屋で一夜を過ごすのも問題があるので、今夜、横島はネギの部屋に泊まる事になったのだ。
別にうちはかまいまへんえ、と鶴子は言っていたのだが、自分の理性ほど信じれらないものはない横島なのだった。
…むしろそれが鶴子の狙いであったりする事は、勿論、当の横島が知る由もなかった。
中へ入ると、先客がいた。刹那と明日菜の2人である。
2人の見回りの報告によると、館内に特に異常はないが、カモが妙な魔方陣を敷いているとの事で。
カモも彼なりに結界でも張っているのでは、という事で落ち着いたのだが、何故か陰謀の匂いを察知する横島だった。
(昨日、なんかそれっぽい事言ってたし……また怪しげなことでもおっぱじめるつもりかよ、カモ公の奴。
でもまあ、あいつが自らに危険が及ぶような余計な真似するとは思えんし、ここは目ぇつぶっといてやるか。
……って、今はそれより、オデコちゃんに鶴子さんの事言っとかないと)
用事も終わり、部屋を後にしようとしていた刹那を呼び止める。
「オデコちゃん、真面目な話があるんだけど、ちょっといいか?」
「……分かりました。神楽坂さんは先に行っていてください」
「あ、うん…」
いつもチャラチャラしている(刹那主観)横島からの思いもよらぬ言葉の中に、刹那は真剣さを感じ取った。
明日菜も場に流れる雰囲気を察したのか、大人しく引き下がる。ネギは刹那から渡された身代わりの紙型に悪戦苦闘していた。
しばらくの間を置いて、横島がいつになく真面目な声音で切り出す。
「まどろっこしいのは苦手だから、単刀直入に言わせてもらうぞ。
……今、この旅館に鶴子さんが来てる。そして、君がここにいる事も知ってる」
「!!」
思わず絶句。
最強の助っ人が来る、と先日横島から思わせぶりな台詞を聞いてから、そうなるかもしれないとは思っていた。覚悟も決めていたつもりだった。
が、いざその事実を聞いてしまうと、反射的に身を竦ませてしまっていた。要は、実のところ、覚悟などできてはいなかったのだ。
自分は青山を裏切った。粛清……とまではいかないかもしれないが、それでも何らかの制裁が下される事は容易に想像がつく。
問題は、その任を鶴子が請け負っているかもしれないという事。彼女の実力や、一旦敵と決めた相手に見せる冷酷無比な一面。それも勿論だが…
刹那は一時期、鶴子から剣の指導を受けていた。その身の上を知られた上でも、彼女は親身に接してくれた。
その鶴子を、鶴子の思いやりを裏切ってしまった。怒っているだろう。軽蔑しているだろう。失望しているだろう。
そんな感情を鶴子から向けられるのが恐ろしく、そして、悲しかった。
蒼褪めた顔で俯き、全身を硬直させる刹那を見かね、横島はぽんと刹那の頭に手を置いた。
「大丈夫。そんなに怖がる事ないって。
確かに、自分に何の相談もしてくれずに飛び出した、って鶴子さんは怒るかもしれないけど……
けど、それはあくまで家出した妹を叱るようなもんであって、鶴子さんはオデコちゃんの事を『裏切り者』だなんて思ってないから」
「で、ですが、私はっ……」
まだ悲痛な声を上げる刹那を、横島は優しく撫でてやる。
「……オデコちゃんはさ、自分の事を過小評価しすぎなんだよな。
みんな、君が思ってるほど、君の事を嫌ってない……つーか、むしろ好かれてるよ」
優しく、諭すように語りかける横島だったが、刹那はますます顔を俯かせてしまう。
横島からはもはや見えないが、刹那の顔には罪悪感が一面に張り付いていた。
力なく首を横に振り、横島の手をどかすと、正座にした膝の上で拳をぎゅっと握り締める。
「違う……違うんです……。
私、皆さんに嘘をついてっ………!」
「自分が人間じゃない……って事か?」
弾かれたように顔を上げたが、刹那は横島から視線を逸らした。
半分部外者のようなものだが、横島はこれでも青山の人間である。刹那の出自を知っていてもおかしくはない。
今、横島からどんな視線が送られて来ているのかが怖くて、まともに見る事もできない。
「別にそんなん、気にするような事でもないだろ」
「ッ!! あなたに、私の何が分かると言うんですッ!! 知ったような口を……ッ!!」
立ち上がり、激昂する刹那。
涙さえ浮かべるその姿に、少し罪悪感を感じながらも、横島は苦笑した。
「おいおいオデコちゃん。君、この前、俺のカラダ見ただろ? アレで分からなかったんか?」
「え……? そ、それでは、まさか……」
言いつつも、刹那の脳裏に横島の肉体が浮かび上がる。
鋼のような、という形容詞が比喩でもなくそのまま丸ごと当てはまる、もはや生物離れした筋肉。
鍛錬の賜物かと思っていたが、確かにあれは、冷静になって思い返すと、とても人間のものには見えなかった。
「そ。アレ見りゃ分かるだろうけど、俺ゃ人間じゃないよ。半分くらいは、な」
「そう、だったのですか……。
…あ、あのっ! わ、私は烏族との混血なのですが、あなたは…?」
生まれてこの方、完全な人外は見た事があれども、自分と同じような存在を目にするのは初めてだった。
奇妙な嬉しさを感じつつも質問してみる刹那だったが、横島は何やら難しげに考え込んでいる。
「あ、あの……?」
「ん、ああ……いや、ゴメン。
俺の場合、ハーフとかそういうのじゃなくて……なんて言ったらいいのか…
まあ要するに、生まれた時は純度100%の人間だったんだけど、まぁいろいろあって、今は混じり合ってるって感じかな。
オデコちゃんとはちょいと毛色が違うっつーか、俺の方が異色なわけなんだけれども、まあお仲間っちゃあお仲間って事になるのかね?」
「は、はあ……。複雑な事情がおありなのですね……」
首をかしげながらも、何か深い事情があるのだろうと、刹那はこれ以上踏み込むのはやめた。
そのへんの事情を明かすのは、刹那自身、あまり好きではない。横島もそうだろうと思ったのだ。
…結構大事な話が飛び交っていたのだが、その間、ネギは身代わりの紙型に奮闘していて、全く聞いちゃいなかった。
「…ま、今はそんなどうでもいい話は置いといて。
とにかく、鶴子さんも寂しがってたみたいだし、できれば顔見せてやって欲しいところだな。
どうせ仕事上、顔合わせなきゃならんかもしれないんだ。今夜じっくり、考えといてくれよ」
「は、はあ……」
突然話を元に戻され、戸惑う刹那。
いつの間にか消灯時間になっていたので、腰を上げたところに、ネギが嬉しそうな声を上げた。
見てみると、その手にネギの名前が書かれた紙型が。ようやく完成したらしい。
「上手に書けましたー!」
えへへ、と笑いながら実際に術を発動させてみると……
紙型が一瞬強い光を放ったかと思うと、次の瞬間、ネギそっくりにその形を変えていた!
「こんにちわ、ネギです~」
多少マヌケな印象を与えつつも、しっかりと身代わりしているそれに、おおー、と3人は感嘆の声を上げる。
身代わりに命を下すネギや、失敗したところがないか確かめる刹那の脇で、横島は割と真剣に思案していた。
(なかなか精巧な出来だな……。言うなれば、究極の1/1リアルアクションフィギュアみたいなもんか? しかも会話機能付きの。
となれば、何とかして残りの紙型にあの美人女教師の名前を書かせれば、かなりムフフな事になるんじゃないか!?
……男として、つーか人としてかなり道を踏み外してるような気がしないでもないが、意識的に気にしないようにしよう。
だって俺ってば、かなり前から我慢の限界を迎えちゃってる状態にあるし、もう背に腹は代えられないっつーの!)
男のプライドや、人としての尊厳やなんかをまとめてほっぽり捨て、横島は手をワキワキと蠢かせながら、ネギへと近付く。
窓からパトロールに出かけようとしているのを捕まえ、部屋に引き摺り戻すと、なるたけ優しげな声音で話しかける。
幸い、刹那は既に部屋を後にしている。こうなれば、もう誰に気兼ねする事もない。
「なあボウズ、オデコちゃんから渡された身代わりの紙型の残り……とりあえず、おいちゃんに渡せや。な?
ありゃあ、ああ見えて実はとっても扱いが難しいもんでな? 半人前が迂闊に持ち歩けるような代物じゃないわけよ。
悪いようにはせんから……。何ならホラ、この飴ちゃんと交換だ!」
目を血走らせ、パイナップル飴片手に迫る横島だったが……ネギは、申し訳なさそうに首を横に振った。
「す、すいません……。ちょっと失敗しちゃって、全部使いきっちゃいました」
「……サノバビイィィィッチ!!」
飴を握り潰すと、横島はネギの腰を掴み……ハラショーセルゲイッ!!と窓から放り投げた!
幸いというか、横島も流石に分かってやったのだが、ネギは杖を持っていたので、中空で体勢を立て直し、そのままパトロールへ出かける。
はぁ、と溜息をつくと、不貞寝でもするかと振り返り……ネギの身代わりと目が合い、ちょっと後じさる。
(な、なんか気まずい……てか、いやに茫洋としてるとこが何となく怖いな、コレ。
あんましマジメに働く気なかったんだが、コレと2人っきりにされんのもしんどいし。俺も館内の見回りでもするか……。
…待てよ。そういやさっきの美人女教師、生徒の見張りとか何とか言ってたよな、確か)
一晩中というわけにもいくまいが、それなりに遅い時間まで、各部屋を見回ったり、廊下で見張りについたりするのだろう。
仕事だから仕方がないとはいえ、楽しい事でない筈だ。人が良さそうなあの女教師も、少々うんざりしてしまうかもしれない。
そんな中、自分が颯爽と現れ、缶コーヒーでも差し入れつつ小粋なトークなど披露なんかしてみれば、相当に好印象を与えられるのではないか!?
そこまで上手くいかなくとも、雑談程度はできるだろう。どちらにしろ、大きく開いている2人の距離を縮めるにはもってこいのプラン。
少なくとも、こうして狭い部屋の中で話も通じないネギの身代わりとまんじりしているより、はるかに建設的だ。
身代わり一人(一体、と言った方が正しいか)残していくのは少し不安だが……まあ大丈夫だろう。多分。
そうと決めると早速、横島は部屋から飛び出した!
(修学旅行の夜ッ! 学生でなくとも、多少は浮かれてるハズッ!!
それに、今だと鶴子さんも部屋にこもってる! 邪魔はない! だったらイケるぜッ!!)
どこから来るのか分からない自身を胸に、横島は意気揚々と狩りに出かける。
「こんにちは、ぬぎです~」
「みぎです~」
「ホギ・スプリングフィールドです~」
後にした部屋の中が何だか大変な事になっているなど、横島には知る由もなかった。
部屋から出てしばらくは浮かれ気分が続いていたのだが……やがて、横島は旅館全体を包み込む妙な雰囲気に気がついた。
全体的に浮き足立っている感がある割に、まるで館内に肉食獣を放したような……。今にも、角の向こうから獣が飛び出して来るような気配を感じる。
狩猟者の気配は何も一つだけではない。気配は館内に点在し、そのどれもが、ある者は素早く、ある者はゆっくりと、しかし確実に移動している。
ついに敵が徒党を組んで乗り込んで来たのか、とも思ったが、それにしては気配が露骨すぎる。どうしたって素人のものだ。
横島は廊下の真中に立ち止まり、腕を組んだ。
(何が起こったのかは分からんが、服装が浴衣ってのはマズイな。
けど、一旦部屋に戻って着替えてる間に何かあったらコトだし……ふうむ)
帯を利用したり、動きにくければ浴衣そのものを脱ぐ事もできる。そういう意味では、別に浴衣自体に大した問題があるわけではないのだが…
いかんせん、状況が悪い。女子中学生が大量に寝泊りしている旅館の中を半裸で闊歩するなど……どう贔屓目に見てもド変態だ。
その上、刹那や明日菜あたりに見つかろうものなら、今度こそ死ぬまでしばかれる恐れがある。
かといって、やはり部屋に戻って着替えているなどと悠長な事もできず、もうどうにでもなれ、と浴衣のまま歩き出す。
そして、何気なく角を曲がったところで……ばったり、浴衣の少女達と出くわした!
「うおっ!?」
「「!!」」
本気で気配を探っていなかったとはいえ、2人の気配を察知できなかった。
しかも一人は初見だが、出くわした少女のもう一人は見覚えのある黒い肌、カンフー中華娘の古菲だった。その事に驚く。
仰け反る横島に、反射的に手に持つ枕を構える少女2人だったが、相手が添乗員である事に気付き、胸を撫で下ろして構えを解く。
そろそろ落ち着いて来た横島は、頭をぼりぼり掻きながら2人に話しかけた。
「…何してんの? つーか、もう消灯時間すぎてんだから、大人しく部屋帰って寝た方がいいぞ」
「「……………」」
古菲とその相方の長身の少女は、じっと横島を凝視すると、無言で顔を見合わせる。
そしてじりじりと後ずさると、こそこそと密談を始めた。
(み、見つかてしまたアル……ど、どうするカ!?)
(ん~~~……拙者、やはりここは、口封じというのが定石かと思うのでござるよ)
(それはいい考えアル! では、イー、アル、サンで同時にかかるヨロシ!!)
(いまいち馴染まん掛け声でござるなぁ……)
そうして2人頷き合うと、パッと身を離す。
一気に緊迫し始めた雰囲気に、横島も面持ちを変えた。
どんな事情か知らんが、どうやらこの娘達は闘るつもりらしい。
さりげなく半身に構える横島に、古菲はニヤリと笑いかけた。
「2対1……。しかし、卑怯とは言うまいネ?」
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