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魔法先生と超能力生徒の友情物語十七番目「狂気」(×MOTHER2) 投稿者:土星 投稿日:10/01-01:57 No.1376  

一年前にネスと戦い敗れたゲップーと対峙したネギ達。
しかしその外見からは予想できない力はネギ達を圧倒し、刹那と龍宮は力尽き地面にひれ伏した。
ネギはその力の前に闘うことをやめ地面に膝を着いた。
だが信二は諦めず、ネギに刹那と龍宮を任せ、かつて自ら封印した魔法を使用した。
 
 
 
 
十七番目「狂気」
 
 
 
  
「来たれ火の精霊 我に纏いて敵を滅ぼす力を与えたまえ 『戦火の咆哮』!」
 
 信二の魔法詠唱が完成したと思ったら、信二の身体から紅い光が迸った。
 その光は熱く、結界を張っていなければ身体に火傷が出来ていただろう。
 
 光は治まりネギは何が起きたのか確かめるべく光で少し眩んだ瞼を開いてみると、其処には体中に火を纏った信二が立っていた。
 しかし信二自身には火傷の様なものは今のところ見当たらず、少し辛そうな顔をしているがさほど問題は無いようだ。
 
 ネギはその信二の姿をまじまじと見つめ、信二はその場から姿を消して一瞬でゲップーの目の前に現れた。
 ゲップーは驚き、慌てて触手を伸ばして信二を攻撃しようとしたが、攻撃は完全に信二の拳のほうが早くゲップーを殴り飛ばした。
 
 ゲップーは信じられないようなものを見たような表情だった。
 ゲップーの身体はヘドロのようにドロドロしていて、殴ってもその拳は自分の身体に飲み込めれるだけで殴り飛ばすなど有り得なかった。
 しかし信二は今確かにゲップーの身体を殴り飛ばした。
 
 ゲップーは少しの間呆然としていたが、殴られた箇所が異様に熱いと感じその箇所を見てみると、その部分は炭化していた。
 
 ゲップーの身体は今の攻撃で一瞬で殴られるほどに炭化し、しかもそのまま殴られたということは少なくとも拳が当たる前に炭化したということだ。
 
 信二の使用した「戦火の咆哮」という魔法は、信二が魔法学校を卒業する前に覚えた「魔法の射手」以外で初めて覚えた信二のオリジナル魔法だ。
 自らの身体に「精霊そのもの」を纏って戦う「魔法剣士」の必須魔法、「戦いの歌」の進化型とも言うべき魔法だが、その精霊の凄まじさに並の魔法使いでは我を失い暴走してしまうほどに強力な魔法で、今まで信二が使わなかったのもこれが理由だ。
 信二はある事件でこの魔法が危険であるということが分かり、覚えてしまった以上仕方ないので自在に操れるように死に物狂いでこの魔法の制御の修行をした。
 その甲斐もあって、完全というわけは無いが大体制御しきれるようになった。だが、昔のある事件でこの魔法を使用することを自ら禁じ、今日まで使うことを止めていた。
 しかし一度開放すればその力はプロの魔法使いにも匹敵するほどの攻撃力を誇り、精霊を纏っているのでそのまま自分が精霊になっていると言っても過言ではない。
 よって簡単な炎系の魔法ならばある程度無詠唱で発動することもでき、炎系の魔法は大幅に強化されるという魔法剣士が欲してやまない究極とも言える類の魔法だ。
 しかし何故才能に恵まれない唯のマギステル・マギ候補生がこれほどの魔法を使えるのか、それは後々知ることになるだろう。
 
 「よくも、……よくも俺の身体を炭にしやがったな!」
 
 そう叫ぶとゲップーは身体からヘドロ弾を信二に向けて飛ばしきた。
 しかし信二はそのヘドロ弾を無詠唱の「魔法の射手」で落とし、落とされたヘドロ弾は炭になって燃え尽きていた。
 
 
 
 「すごい……」
 
 後ろで結界を張っていたネギは、その信二の強さに驚嘆していた。
 さっきまで自分と同じ前衛がいなければ何も出来ない見習い魔法使いだったのに、今ではその魔法の力で互角どころかゲップーを押している。
 ネギはその姿に、屋上でエヴァンジェリンを威圧したネスを思い浮かべていた。
 あのとき感じた力からして、ネスの方が強いのだろうがネギにとってはどちらも憧れるほどの強さだった。
 
 「(僕にも、あれだけの『力』があれば……!)」
 
 その瞬間、ネギの頭に唯一つの言葉が響いた。
 
 (……『力』………)
 
 頭の中に、自分の声ではない言葉が聞こえた。
 その言葉はネギの鼓動を跳ね上げ、思考をクリアにした。
 
 
 
 「『紅き焔』!」
 
 信二はゲップーの攻撃を交わしながら詠唱を行い、完了直前にゲップーの背後をとって詠唱を完成させた。(走りながら詠唱を行えるのは炎系の魔法のため火の精霊が補助してくれる。「戦火の咆哮」の効果)
 その魔法は威力が今までの紅き焔とは威力が段違いで、ゲップーの背面を手榴弾の爆発のごとき轟音をたてて焼き尽くした。
 
 しかしどういうわけかゲップーの焦げた背中は見る見るうちに元のヘドロへと戻っていった。先程信二に殴られた部分もヘドロ化している。
 恐らくこれはポーキーに改造されて作られた再生能力だろう。(十六番目参照)
 
 「ゲボゲボゲボ! どうした! さっきまでの威勢は!?」
 
 ゲップーは自分の能力に酔いしれてこういった発言をしているのではなく、本当に信二の動きのキレが悪くなっていた。
 攻撃を避ける為に走っているときも明らかにふら付いて所々ゲップーの攻撃を喰らって血まみれのヘドロまみれになっている。
 
 それにさっきまで何とも無かったのに今では信二の服はブスブスと燃え始め、肌の出ている部分は火傷している。
 
 この魔法は言ってしまえば諸刃の剣のような魔法で、普段は魔力で薄い膜を張って己の身体を纏う精霊の炎を防いでいるのだが、精霊を抑える魔力と炎を防ぐ魔力を常に放出し続けているので、信二の魔力容量は膨大なので魔力が足りないなどの問題は無いのだが、この抑える分と防ぐ分の魔力を長時間使い分けるほどの技量が信二には無い。
 
 魔力は精神力が強ければ自分の魔力が持つまで使いこなせる。
 しかし信二はまだ13歳の見習い魔法使いなのでそこまでの魔力コントロールができない。
 だから時間がくれば信二の精神力は途切れ、信二を護っていた魔力の膜は更に薄くなり徐々に信二の身体を焼き、抑えていた精霊は暴走し始める。
 なので本当は熟練者でも扱いが難しい魔法を信二は使っていたのだ。
 
 しかし信二はこの魔法を止めるつもりは無かった。
 今この魔法を止めればもう本当に打つ手は無くなり殺されるだけだ。
 だから信二はこの魔法を止めれないのでは無く、止められないのだ。
 
 「さっさと諦めな! 熱いだろう苦しいだろう! その炎の所為で貴様の周りの酸素が燃えて呼吸が難しくなってきているだろうからなぁ! ゲボゲボゲボ!」
 
 痛いところを突かれた。
 信二の周りの酸素は確かにこの炎の所為で薄くなってきている。
 なのでこの魔法は魔力が持とうが持つまいが、元々長時間使えるような魔法では無かったのだ。
 
 だから信二はなんとかゲップーの隙を狙ってこの精霊の補助を受ける時にのみ使える、本当の最強の魔法を放ってゲップーの身体を焼き尽くすつもりだったのだ。
 完璧な再生能力を持っているとしても、身体全体を完全に焼き尽くして炭にしてしまえば再生能力など関係ない。
 しかしゲップーの動きが鈍いといってもやはり厳しい修行を乗り越えてきただけあって隙が中々見当たらなかった。
 
 「サンド・デザート・アントライオン 火の精霊39本 集い着たりて敵を焼き払え 『魔法の射手・連弾・火の39矢』!」
 
 信二は何とか隙を作り出そうと初級魔法を使っているが、ゲップーは『魔法の射手』をヘドロ弾で撃ち落している。
 さっきまではヘドロ弾は火の射手で撃ち落されて炭になっていたが、今では火の射手の火力が落ちてヘドロ弾の表面しか焼け焦げていない。
 その証拠に、ヘドロ弾は地面に落ちたら嫌な音を立てて落ちている。
 
 「このまま放っておいても貴様は己の炎に焼かれて死ぬのだろうが、それじゃあ俺様の気が収まらねぇ。最高の絶望を味わって死にやがれ。ゴゲェップ!」
 
 信二は本格的に制御が難しくなり、魔法障壁を展開して炎の精霊を抑えていた。
 信二は何をするつもりだろうとゲップーを見た。
 
 するとゲップーは触手を音の壁を突き破らんと凄まじい勢いで突き出してきた。
 しかし方向は信二がいる場所とは大きく外れ、信二はその方向を見やり驚愕した。
 
 ゲップーの触手は『風陣結界』を張っているネギの元に一直線に向かっていった。
 ヘドロ弾程度ならネギの障壁でも何とか防ぎきれるだろうが、触手での直接攻撃となるとネギの障壁では防ぎきれない。
 信二は炎の精霊の制御を終えると急いでネギの元へと駆け出した。
 しかし『戦火の咆哮』で信二は足を火傷していて、足に貫くような痛みが走り地面に吸い込まれるように倒れた。
 
 信二は痛みを抑えて何とか走ろうとしたが、既に時は遅く、障壁を突き破ろうと触手がネギの目前まで近づいてきていた。
 信二はネギの触手に貫かれた光景を瞬時に想像してしまい、天にも届くような声で叫んだ。
 
 「ネギぃいぃいぃぃいぃぃい!!」
 
 その刹那、信二の眼には全てが遅く見えた。
 今ネギを貫こうと向かっているその先で、信二はネギの異変に気付いた。
 ネギは、意識を失っていた。
 
 そして次の瞬間、ネギの障壁に激突した触手は見るも無残に爆ぜていった。
 それはまるで、水鉄砲を壁に当てたかのごとく、ネギの障壁は揺らぐことなく平然とそこに展開し続けている。
 
 「な……、なぁ………!」
 
 ゲップーは突然の状況に完全に混乱していた。
 さっきまで唯の餓鬼が張っていた紙のような障壁が、自分の触手をまるで水爆弾でも喰らったかのようにそこに在り続けていることに、自分の触手が爆ぜたことに。
 
 「(今だ………!)サンド・デザート・アントライオン 来れ砂の精霊炎の精!」
 
 信二はゲップーが混乱していることに気付き、即座に魔法詠唱を始めた。
 
 ゲップーはその信二の声に気付き我が戻った。
 しかし今から攻撃をしても間に合わず、魔力の量に気付いたゲップーはヘドロ弾や触手で対抗しても打ち負けることに悟り、森を吹き飛ばす威力を持つレーザーの発射準備を開始した。
 
 「炎を纏いて薙ぎ払え・砂漠の嵐」
 
 そして互いに攻撃準備が終わり、同時に互いの最強の攻撃を繰り出した。
 
 「『熱砂の竜巻』!」
 
 その巨大な竜巻は砂を巻き込み、炎を纏ってゲップーの元へと森の森林を薙ぎ払いながら向かっていった。
 ゲップーのレーザーはその竜巻を突き抜けるべく真っ直ぐ進んでいく。
 先程森を吹き飛ばしたものと違い、一点に集中された唯一本のレーザーが真っ直ぐ飛んでいく。
 
 そして互いに殺しあう力は、遂に距離を零にして、勝者を決めた。
 
 ゲップーのレーザーは信二の竜巻を突き抜けようとぶつかったが、竜巻が巻き込む砂に阻まれ、そのまま竜巻の回転によって上空へと逸らされた。
 そして打ち負けたゲップーは業火を纏った砂の竜巻に巻き込まれ、唯の真っ黒な炭となって崩れ落ちた。
 
 それを確認した信二は『戦火の咆哮』を解除し、酸素が薄い中戦っていたので息も絶え絶えで暫く頭が回らず立ち尽くしていたが、ネギの様子がおかしかったことを思い出し、痛みを堪えてネギの元へと歩いていった。
 
 そして駆けつけた信二が見たものは、意識を失いながらも障壁を張り続けているネギの姿だった。
 それにこの障壁はさっきよりも明らかに強度を増している。
 
 「ネギ! もう終わったから障壁を解いて! ネギ!!」
 
 しかし信二の言葉に全く反応せず、ネギはただ黙々と障壁を張っている。
 一体どうなっているのか信二にはさっぱり分からず、唯呼びかけることしか出来なかった。
 
 すると、後方から掠れた声が聞こえてきた。
 
 「ゲフ……、ま……さか、この俺が………人間……に……負けるとは……」
 
 それは炭屑となったゲップーだった。
 ゲップーはしぶとくもまだ意識が辛うじてあるようで、一声一声気力を振り絞っているような声だった。
 
 「まだ生きてたのか。今度こそ、止めを……」
 
 「まあ待て……、俺にはもう……声を……出すことすら、苦痛を伴う……。放っておけば……勝手に死ぬさ……。ゲフ……」
 
 信二はゲップーに止めを刺すべく足を引きずりながら近寄っていったが、確かにゲップーの言う通りもう喋るだけで力を使い切っている感じだ。
 あの聞くもの全てを不快にさせる豪快なゲップも、今となってはまだ哺乳瓶がないとミルクが飲めない赤ん坊並の弱弱しいゲップしかでない。
 
 「あの餓鬼が障壁を解かないのは、まだ……終わって………いない……ことが直感的に分かって……いるからさ」
 
 「終わってない? 何が?」
 
 「すぐに分かるさ……」
 
 そして、ゲップーの言葉の意味が分からず聞き出そうとした時、信二の肩を後ろから何かが貫いた。
 
 「な……に………!!」
 
 「ほら……な……」
 
 信二は何が起きたのか分からず、貫かれた衝撃で一瞬意識が飛んでしまったがなんとか持ち直し、自分の肩を貫いた何かが飛んできた方向に振り向いた。
 そこにはゲップーが小さくなったような無数の生き物が蠢いていた。
 
 「そいつはオェップ……。俺の身体が飛び散って出来た……俺の子分だ……」
 
 つまり今まで信二や刹那が攻撃して飛び散ったヘドロはこのオェップとなって、今自分自身がヘドロ弾になって信二の肩を貫いたということだ。
 ヘドロ弾になって信二の肩を貫いたオェップはそのまま唯のヘドロとなって地面に更に細かく飛び散っていた。どうやら流石にこれだけ細かくなればオェップにも戻れないようだ。
 
 「これが俺様の……切り札……だ。我が子分によって……死ぬがいい……、ゲフゲフ……ゲフ」
 
 そして完璧にゲップーは事切れたようだ。
 さっきまで感じていた力も完璧に消えうせている。残っているのは悪臭くらいだ。
 
 「ここまで来て、死ぬわけには……! サンド・デザー……ぐぁっ!!」
 
 信二が呪文を唱えようとするとすぐにオェップがヘドロ弾となって信二に再び攻撃をしてきた。
 今度は腹部にぶつかってきたが、信二は咄嗟に無詠唱で物理障壁『砂盾』を展開して緩和しておいたので貫かれることは無かった。
 しかしそれでも木を薙ぎ倒すほどの威力をもつこの攻撃は少し緩和した程度ではあまり勢いは治まらず、唯でさえ呼吸も難しい状態だというのに腹部にこんな攻撃を喰らっては余計につらくなってしまう。
 
 それでも信二は諦めず、膝を折らず、今この場にある命を護る為に戦い続けた。
 何故そこまでするのかは分かっている。
 それは、覚悟をしたからだ。
 護る者を護ると覚悟したから。
 だから信二は命を懸けて、最後の呪文を発動した。
 
 オェップはヘドロ弾となって飛んでくるときは速いが、単体で動いている時はナメクジのように遅い。
 だから信二はその場から飛び退き木の後ろに隠れて、今の状態では死ぬかもしれない魔法を脳裏に思い浮かべた。
だがそれでも信二は、死に連なる魔法を唱えた。
 
 「サンド・デザート・アントライオン」
 
(僕は死ぬかもしれない)

「来れ火の精霊 我に纏いて敵を滅ぼす力を与えたまえ」

(でも、もう何も失いたくない!)

「『戦火の咆哮』!」

信二は覚悟と共に、呪文を唱えた。
例え自分の魔法で死ぬことになっても、自分には護りたいものがある。
だから信二はこの魔法を使った。

「ぐう、うぅぅぅ!」

信二の身体はさっきの戦闘で傷だらけで、肩には穴も開いている。
そこに自分を覆う炎が容赦なく傷を燃やし、傷を悪化させ腐らせる。

だが信二はそれでも向かってくるオェップたちに無詠唱の「魔法の射手」で攻撃し、一体一体を炭にしていった。
飛び掛ってくるヘドロ弾と化したオェップは「戦火の咆哮」によって強化された身体能力で即座に反応して掴んで握りつぶした。

「この調子なら、身体が焼ける前に………!?」

信二は霞む視界のその先で異様なものを見た。
オェップがどんどん融合していき巨大化している。
そう、信二は忘れていた。
ゲップーの「再生能力」を。

その時信二は遂に膝を着いてしまった。
小さなオェップが合体してゲップーになっても信二の胸の辺りまでの大きさしかなかったが、もう信二にはこいつを殺す力は残されてはいなかった。

「ゲボゲボゲボ! もう終わったな、もう戦う力は残されてはいまい」

ゲップーは信二の身体を触手で捕らえ、完全に動きを封じた。
信二の自分の使いこなせる分の魔力も少なくなり炎も弱くなって、ゲップーが信二を掴んでも焼けている様子はない。
しかし信二は唯の人間で、身体もその弱った炎でほぼ焼け切り、そして今目の前にある死を覚悟した。
 
「死ね――――――!!」

ゲップーはその大きなたらこ唇から突き出している巨大な牙で信二を噛み殺そうと、口を河馬を連想させるほどに大きく開いた。
そして信二は魔力も使いきって疲れきり、その虚ろな目から一筋の涙を流した。
この涙は死ぬことに対してから恐怖の涙なのか、護れなかったことからの悔しさの涙なのかは分からない。
しかし結論だけを言うならば、この涙は流し損であることは間違いないだろう。
何故ならば、今正に信二の頭を食いちぎろうとした巨大なたらこ唇は、上唇と下唇に完全に分離したのだから。

「ゲ……ゴ………!?」

ゲップーも、信二も、何が起きたのかさっぱり飲み込めなかった。
何故ゲップーが真っ二つになっているのか。
何故ゲップーの後ろに、意識を失った筈のネギが立っているのかが、何も分からなかった。

だがネギはそんなことはお構いなしに、信二を捕らえていた触手を拳に「魔法の射手・集束・光の49矢」乗せてそのまま殴りつけ、軽い爆発音を上げて消滅させた。
信二はその眩い光で思考が回復し、ネギの様子を観察した。

ネギの今の状態はさっきとうって変わって、おびえた様子が全く無い。それどころか自信に満ち溢れているように見える。
それにネギから感じる魔力は、普通の魔力とはどこか異質で、とても禍々しい。

「ヒ……! ヒィッ!!」

いつの間にか再生したゲップーは、見た目はさっきと何も変わらないネギに恐怖し、少しずつ後ろに下がっていた。
しかしそれはネギに詠唱時間を与えるだけで余計に状況を悪くしているだけだった。

そしてそのゲップーの醜い顔が恐怖で更に歪められ、その表情を見たネギは何を思ったのか、鬼よりも、悪魔よりも恐ろしい笑みを浮かべた。

ネギはゲップーのほうを向いているのでネギがどんな表情をしているのかは分からないが、ネギから感じる威圧感と、ゲップーの様子からしてとても恐ろしい顔をしていることはなんとなく分かった。

「ラス・テル マ・スキル マギステル」

そしてネギはその見るもの全てを戦慄させる笑みを浮かべながら、ゲップーを滅ぼすべく呪文を唱えた。

「お おおおぉおおぉお ぁぁぁあああああ!!!」

そしてそのネギの声に遂にゲップーの理性は恐怖によって壊れ、ゲップーはヘドロ弾を乱射した。

そしてヘドロ弾は乱射しているというのに以外と集中的にネギの元へと向かい、ネギの後ろにいた信二は反射的に身を伏せた。
しかし、ヘドロ弾はネギに届くことなく「風盾」によって阻まれ、ゲップーはヘドロ弾を撃ち過ぎて、信二の背丈の半分程度しかなかった身体が更に縮んでいった。
しかしゲップーはそれでもネギから感じる何かから逃げる為に撃ち続けた。

そしてどんどんゲップーの精神が恐怖によって染められていっていることを感じたネギは、その不気味に歪んだ顔にどんどん皺を刻んでいった。
その辺の見習い魔法使いが今のネギを見たら精神崩壊を起こしかねない程だった。

「光の精霊『791』柱 集い着たりて敵を打て 『魔法の射手・連弾・光の791矢』」

そして勝負は着いた。
ネギの魔法詠唱中から現われていたおぞましいほどの数の光の玉は、魔法詠唱が終わると同時にゲップーに向かって放たれた。
その光の矢は直視することすら不可能なほどに輝き、その光の翻弄は神々しくも見えれば、悪魔の様な地獄の光にも見え、ゲップーに直撃して身体がバラバラになっていった。

しかしバラバラになるだけでは直ぐに再生してしまうので、791本全てでバラバラにするのでは無く、ネギは第二射に別けて光の矢を放った。
最初の一撃でゲップーを粉々に吹き飛ばし、そして飛び散ったゲップーの欠片は残りのニ撃目で消滅させた。
それほど細かくしてしまえば流石に再生することは出来ず、ゲップーは遂に完全に消滅した。

だがしかし、ゲップーを倒してもネギの異変は治らずに、その異様な禍々しい魔力を漂わせながら信二のほうを振り向いた。

「ネギ………、だよね?」

信二は先程のネギの戦いが頭に焼きつき、もう服を焦がす程度の炎しか出ていない状態で、ネギに話しかけた。

「うんそうだよ」

ネギは明るく言った。
今、命を懸けた戦いをしたばかりだというのに笑顔で信二の目の前に立っている。

信二は痛む身体を後ろにある木で身体を支えながら立ち上がり、そしてネギの顔を見た。
その顔は本当に嬉しそうな顔で、しかし唯笑って立っているだけなのに腰を抜かしてしまうような顔だった。
それに何より、ネギの瞳の色が血で塗りたくったような赤に染まっている。
信二はその瞳を見た瞬間、血が全て下がったような感覚に陥り、意識が飛びそうになったがギリギリの所でネギの声で意識を保った。
しかしその言葉は、狂気に満ちていた。

「なんだかね、あの化け物を殺した時凄く気持ちよかったんだ。身体がなんていうか歓喜で打ち震えて、心がポーッとして、すごく気持ちよかった」

信二はネギの言葉が信じられなかった。
表情も本当に嬉しそうで頬もほんのり朱に染まり、パッと見女の子と間違いそうな顔のつくりもあり、どこか扇情的にも見えた。
信二はそのネギの表情に吸い込まれそうになったが、ネギの異常になんとか理性を保ち、ネギの言葉を聞き続けた。

「でもあれだけじゃ足りない。あの感覚を、誰かの死を、身体が求めるんだ」

信二はネギの言葉を聞く中で、タカミチがネギに言った言葉を思い出していた。

『ネギくん、なにがあっても自分を見失ってはいけないよ。いいね?』

恐らくタカミチが言っていたのはこのことだったのだ。
最初は初めての実戦で恐怖に駆られて混乱してしまうことかと思ったのだが、よく考えたらその言い回しはおかしい。
それならそんな回りくどい言い方をしないで直接言った方が余程効果がある。
恐らくタカミチはネギに知られてはいけないことを遠まわしに言ったのだ。
そっちのほうが辻妻があう。

「さっきは助けたけど、やっぱり我慢出来ないよ。殺したい。我慢できる訳無い。こんなヘドロの塊じゃなくて、ちゃんとした人間を殺したい。血を浴びてみたい。信二君、ごめんね。僕は君を、『殺すよ』」

考え込んでいた信二はその言葉で意識を思考の中から引っ張り出し、ネギの脇腹を目掛けてきた不恰好な回し蹴りを防御しようと、まだほんの僅かに残っていた『戦火の咆哮』で反応し、腕で防御した。
しかしその蹴り一撃で、魔力を付加している筈の腕は肉が潰れる音を立ててへし折れ、その蹴りの衝撃で2tの鉄球に薙ぎ払われたかのごとく真横にすっ飛ばされた。

「あはははは! 楽しいなぁ。凄く楽しいよ。今の腕が折れたんだよね。それに今の感触。腕の神経や肉もかなり潰れたよね。ブチブチって音がしたもん。ああ、気持ちいなぁ。ゾクゾクするよ。気持ちよくて」

蹴り飛ばされた信二はそのまま地面に叩きつけられ、もう身体が動かなかった。
信二にはもうネギの声はもう辛うじてしか聞き取れていなかった。
ゲップーとの戦闘で体中が火傷を負っている上に、ヘドロ弾の所為で怪我を沢山して血も足りなくなってきている。

「ああ、死んじゃ駄目だよ信二君。君は僕が殺すんだから。ラス・テル マ・スキル マギステル」

その信二の様子を見たネギは急いで止めを指すべく魔法詠唱を開始した。
信二は悪運尽きたかと、眼を瞑って何も考えないようにした。何も考えなければ痛みも苦しみも紛らわせることができるかも知れないと思い、全てを諦めて自然と一体になるような気持ちで地面に寝そべった。
その自然と一体になるような感覚は、全てを感じさせた。
そろそろ息を吹き返す刹那と龍宮の鼓動。誰かがこっちに向かう足音。
そして、ネギの狂気の中に感じる、悲しみ。

信二はどういうことかと少しだけ首を傾けて、ネギを見た。
そこには呪文を詠唱しているネギがいるが、ネギの眼から涙が溢れていた。
その涙からは今のネギとは違い、悲しみや苦しみが伝わってきている。
その涙だけからその感情を感じ取った。

「光の精霊495柱 集い着たりて敵を打て」

信二はネギの心にはまだ光があると気付き、急いで身体を起こそうとするが身体はもぞもぞと動くだけで起き上がりはしない。
信二の身体はとっくに限界の限界すら超えてまだ生きているほうが不思議なくらいなのだ。

「ネ……ギ……。ネギ……」

信二はそれでもなんとかならないかと身体を動かし、ネギの名前を呟いた。
しかし身体は地面に横たわり、起き上がらない。むしろ痛みで力が抜けて余計に立てなくなる。

「『魔法の射手・集束・光の495矢』」

そしてネギは魔法詠唱を完成させると同時に拳に495本の『魔法の射手』を巻きつけ信二へと飛び掛り、そしてその光り輝く拳を地面に転がっている信二へと、振り下ろした。



己の命を懸け仲間を護った信二。
しかし助けた仲間は悪魔の様な力で攻撃してきた。
悲しみの涙を流しながら向かってくるネギはどうしたのか。
そして信二はどうなってしまうのか。


To Be Continued


〈おまけ〉

土星 「ここんとこそこそこ更新の早い間抜けな小説とともにやってくるおまけコーナー!」

ポーラ「このコーナーは暇そうという理由で集められた三人とそんな下らない理由で集めたボンクラ一人でやっていくあまり頭の回らない状態で書かれているコーナーで」

ジェフ「そうなの!?」

ポーラ「うん。だから今私文章中で喋ってるけど今このとき作者は頭の中真っ白だから」

土星 「どういうわけか頭回んなくてさ~。だからこれ書いてるときジェフの名前間違えて『ヘフ』にしちゃったぐらいだから」

ジェフ「うわ! なんか気の抜ける名前だな! ていうかぶっちゃけすぎでしょ! いいのこんなんで!?」

土星 「ジェフ、前にトレーシーちゃんが来た時言ったろ。これは何も考えないコーナーだって」

ジェフ「こ ここまで考えて無かったとは……」

プー 「俺はもう慣れたけどな」

ポーラ「それじゃまずはこのコーナー!」


土星 「今回の話について。まずはポーラ!」

ポーラ「相変わらずしつこいわねゲップーの奴。まだネスを付け狙ってたなんて」

土星 「まあ二回もやられたもんだから自棄になってんだろ」

プー 「信二の使った「戦火の咆哮」とはかなりの効果をもたらす様だが危険性が高いな」

土星 「ん~プロの魔法使いでも難しいだろうからなぁ。魔力が低かったら火の精霊に焼き殺されかねんし、それに魔力が高くても慣れてなかったら火の精霊が暴走してとんでもないことになるからな。信二の並大抵じゃない努力がこの魔法でだけでも窺われるな。完璧に使いこなせてるわけでもないけどな」

ジェフ「ネギ君がすごいことになってたけどあれは「魔力の暴走」?」

土星 「いや少し違う。詳しいことは今は言えん。でもまあ結構近いうちに分かるかも」


ポーラ「そういえば私たちがこれに出てるのは何となくっていう理由なのは分かってるんだけど、なんでこのコーナーをすることにしたの?」

土星 「あ~……、このコーナーは一応読者のみな様お前らのことを忘れないようにという意味も兼ねてやってるんだけど、実際にはなんか物足りないな~と思ってな」

ジェフ「物足りない?」

土星 「いやさ、今回みたいにシリアスオンリーなときもあるわけだし、ギャグが無かったらつまんないし和ませる意味も兼ねてだな」

プー 「空気を読めといわれる可能性もあるがな」

土星 「ぐっ………」

ジェフ「ていうかこれ面白いの?」

土星 「ぐぐっ………!」

ポーラ「ていうか実際は別の理由でしょ」

土星 「うごっ………!」

三人 「「「実際は?」」」

土星 「………暇だからです」

三人 「「「小説のネタ考えろ!!」」」

土星 「うるさいうるさーい! それにさっきの理由のお前らが忘れられない為っていうのもあながち嘘じゃないんだからな!」

ポーラ「どういう意味よ?」

土星 「言っとくけどお前等まだ結構先の予定だけどいつか出すつもりなんだからな!」

ジェフ「嘘!!」

土星 「でもお前等一回しか出てないから次お前らが出るときこのゲーム知らない人大体の確率で忘れてるだろうからここでお前等を出してんだよ」

プー 「確かに俺たちはこの作品では脇役というのもおこがましいほどに出ていない……」

土星 「その通り! さあこの俺に感謝するがいい拝むがいい!」

ポーラ「でも9割方の理由はあんたが暇だからだろうけど」

土星 「ぐはぁ!」

ジェフ「それでは話も済んだところで次のコーナー」


土星 「マザーあいうえお作文。今回のお題は「カタナ」」

ポーラ「刹那さんが使ってるよね」

土星 「詳しくは野太刃だけどな。普通なら重くて振れないけどな」

プー 「そうか? 普通に振れそうだが」

ジェフ「そりゃ君が小さい頃から修行しているからだよ」

土星 「このままじゃ先に進まん! 強引にスタート! はいポーラ!」


ポーラ「わ 私? 「カ」キーンと」

ジェフ「「タ」かく」

プー 「「ナ」りひびく」


ポーラ「今回は結構まともね」

ジェフ「もう少し言葉があったらもしかしたらちゃんとした文章になったかな」

プー 「いや、繋がる言葉か分からんし無理だろう。それにあの脳みそ皺無しではな」

土星 「ひでぇ!」

ジェフ「次回のお題は「ぼうし」」

ポーラ「初代ヒロインの持ち物ね。それがきっかけで主人公と出会ったのよね。そして二代目ヒロインは……」

土星 「墓場にスカイウォーカーで突っ込んだ」

ポーラ「違―う! それジェフでしょうが! いつからジェフがヒロインになったのよ! あとジェフも顔を赤らめてんじゃないわよ!」

土星 「じゃあ墓場で迷子になってた」

ポーラ「もっと違う! それ前作のキャラでしょうが!」

プー 「これでは終わらんぞ」

土星 「あ~んじゃ適当に締めといて」

ポーラ「まだ話は終わってないわよ!」

プー 「それでは」

全員 「「「「さらば!!」」」」

To Be Continued?

魔法先生と超能力生徒の友情物語 魔法先生と超能力生徒の友情物語十八番目「狂気②」

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