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魔法先生と超能力生徒の友情物語二十番目「温もり」(×MOTHER2) 投稿者:土星 投稿日:01/19-01:27 No.1893  

 昨晩の暴走で気を失い気絶していたネギ。
 ネスに寮まで送られたネギはまたも不思議な夢を見た。
 そして夢から覚めたネギは暴走の反動で高熱を出していた。
 ネギは高熱を出しボーっとしているさなか、暴走して仲間を傷つけたことを思い出し、狂ったように泣き出した……。
 
 
 二十番目「温もり」
 
 
「ああああぁぁああぁああ!!」

「ネギくん!?」

 昨晩のことを思い出したネギは体が引きちぎれそうなほどに泣き出し、ネギの昼ごはんを作っていた木乃香は突然泣き出したネギに驚き慌ててキッチンからネギの寝ているベットまで早足で歩いていく。

「ネギくんどうしたん!? どっか気分でも悪いん?」

「ぅあ、ああああ、あぁあああぁ!」

 ネギはまるで断末魔のように泣き叫び、理由が解らない木乃香は泣き叫ぶネギを抱きしめて背中を優しく叩いている。
 しかしネギは泣き叫び続けた。
 今ネギの心を埋め尽くしているのは悲しみと後悔。それがネギの心の中でミキサーのようにぐるぐると回り続け混ざり合っている。
 
 すると泣き叫んでいるネギから魔力が暴走し、突風が部屋の中で吹き荒れた。
 ネギにかかっている布団はいとも容易く吹き飛び、家具は大半がひっくり返っている。
 普通の人ならばこの現象に驚き逃げ出すだろうが、しかし木乃香は吹き飛びそうになりながらもネギを抱きしめた。

「ネギくん、大丈夫。大丈夫……」

 木乃香は抱きしめる力を強くし、ネギを包み込むように抱きしめている。
 
 そして混ざり合った二つの感情に混乱しているネギに木乃香の温もりが伝わったのか、泣き叫んでいたネギは次第に落ち着いてきた。
 しかし高熱に侵されているのに大声で泣き叫んだのがいけなかったようでネギは吐き気が込み上げ、それに気付いた木乃香はそばに置いておいていたがさっきの風でひっくり返ってしまっている洗面器を急いで拾うとネギの口元に近づけた。

 そして耐え切れなくなったネギは押し止めていた物を吐き、木乃香はそれを嫌な顔一つせずにネギの背中を擦っていた。



「すみません木乃香さん。ご迷惑をお掛けして……」

「ええてええて、それよりも泣き止んでくれて良かったわぁ」

 あれから一頻り吐き終えたネギは洗面所で口の中を漱ぐのを木乃香に手伝って貰い、再び布団の中で横になっている。木乃香はひっくり返っている家具を片付け終え今はネギの頭を優しく撫でている。

「あの木乃香さん、僕……」

 ネギは木乃香にさっきの突風のことや泣いた理由などのことを聞かれてしまう前にどうやって誤魔化そうかと考えようとしていたが、熱の所為で上手く状況判断ができずにまだ言い訳が纏まっていないのに声を出してしまいどもってしまった。これでは逆に不審がられてしまうだけだ。
 しかし木乃香は、

「ええんよネギくん、ウチ何も聞かんから」

と言ってネギが何を言おうとしているのかを分かっているかのような言い方をした。

「ネギくんが何かを隠してるって言うのは、明日菜とネギくん見てたら何となく解ったんよ。多分それに関係しとるんやろ? ネギくんが言いたくないならウチは聞きたいけど聞かへんよ。ネギくんがどうしても言いたくなったらゆうてくれればそれでええ」

「木乃香……さん……」

 「やから安心して寝とき?」と言われたネギは一旦目を瞑ったが直ぐに目を開き上半身を起こした。

「ネギくん?」

 木乃香は突然体を起こしたネギに怪訝そうな視線を向けると、ネギは手を胸のところまで持っていき何かを決心するかのように力が入らないながらも握り締めると顔を更に羞恥から真っ赤にして、熱が出ているからかいつものネギからでは考えられない言葉が出てきた。

「あ……あの、もし、迷惑じゃなかったら、その……、もう一回僕を抱きしめてくれませんか……?」

「ふえ?」

 突然の申し出に木乃香は気の抜けた声を出した。

「それは別にかまへんけど、珍しいなぁネギくんがそんなこと言い出すなんて」

「昔お母さんに風邪を引いたときによくやってもらったんです」

「お母様に?」

「はい。泣いているときや悲しいとき、よくお母さんが撫でたり抱きしめてくれて僕を慰めてくれて……」

 ネギは本当に嬉しそうに話し、木乃香はそんな微笑ましい話を黙って聞いている。

「眠れない時には子守唄を歌ってくれて、その歌はもう殆ど覚えていないのですがとても温かくて、優しくて、心地良い歌でその歌を聴くとコロンと寝てしまっていたことを覚えています」

 そして話に夢中になっていたネギはずっと昔の話をしていることに気付き、恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「え ええと、そう言う訳なんですけど……お願い、出来ますか?」

「お安い御用や。それにネギくんならウチからお願いしたいくらいやしな」

 そういうと木乃香は今のままではベッドの手すりなどが邪魔なのでベッドの中に入ると上半身を起こしているネギを優しく抱きしめた。
 抱きしめてもらったネギはまるで赤ん坊のようにその温もりを感じ、その光景は弟を慰める姉のようにも見えるし、年の離れたカップルにも見える。
 
「木乃香さん、ありがとうございます……」

「せやからええて。ネギくんいつもなんか無理してたみたいやから偶には甘えんと」

「でも、僕はやっぱり先生ですし……」

「それはもうネギくん頑固やから仕方ないけど、偶には先生やのうて子供として甘えたらええねん」

「木乃香さん……」

 ネギはその木乃香の優しさに目じりに涙を浮かべそっと目を閉じて、普段のネギならその涙を袖でふき取るのだろうが、今はその涙は我慢せずに流してもいいような気がしてネギの涙はそのまま瞳から頬へと伝っていき、布団へと落ちていく。
 木乃香は我慢せずに素直に涙を流してくれたことが嬉しかったのか、ネギの小さな身体をより強く、しかし優しく包み込む。

「なあネギくん。ネギくんのお母様ってどないな人なん?」

「僕の、お母さんですか?」

「うん。さっきの話聞いて気になってしもてな」

「ん~…………」

 ネギは木乃香に話していいものか迷った。
 ネギの母親ということはつまりサウザンドマスターの妻なのだ。そんな魔法関係者の最重要人物の話をそうほいほいとしていいのかと言われれば、絶対に駄目だ。
 しかし木乃香には看病して貰っている恩と抱きしめてもらった恩と励まして貰った恩がある。これで話さないというのは虫が良すぎる。
 だからネギは魔法に関しては完全に黙ることにして魔法以外のことに関しての母親を語ることにした。

「僕のお母さんはとにかく綺麗で、とても優しい人でした。村の人からも人望があって、村の皆の話では雪の降っている日だろうと湖に溺れている人がいたら、自分も泳げないくせに助けに行って一緒に溺れるという少々困ったところもある人だったと聞いています」

 ネギはその光景がまるで目に浮かぶようで苦笑した。何せ自分も似たような性格なのだから全くの他人事ではないからだ。というよりも血がつながっているから完璧に関係している。
 しかしネギはその母親を誰よりも尊敬していた。自分もそんな誰よりも温かく、どんな人でも救うことのできる人間になりたいと思っていた。

「でもお母さんは生まれつき体が弱くて、僕が三歳になる誕生日の前日に息を引き取りました」

「えっ……」

 木乃香はその言葉に意表をつかれ、何と言えばいいのか分からなかった。
 しかしネギは気にする様子も無く話を続ける。

「僕は1歳の頃にはもう物心がついていて、そのときにはもうお母さんはいつもベッドで横になっていたことを覚えています。でも、それでもお母さんは僕に辛そうな表情一つ見せることがありませんでした」

 ネギはその母親の表情一つ一つを思い出すように話し続けている。
 その途中で木乃香はいつの間にか、涙を流しながらネギの話を聞いていた。
 するとネギは机の上に置いてある自分の髪留めを指差した。

「あの髪留めはお母さんが息を引き取る少し前にくれたものなんです。何でも昔お父さんから初めて貰ったものらしくて、お母さんが言うには御まじないがしてあるそうです」

 この御まじないというのはどう考えても魔法だろう。

「以前通っていた学校の皆は髪は下ろしてるほうが似合うといってくれていたのですが、この髪留めをしているとお母さんが護ってくれるような気がして、ある程度髪が伸びてからはいつもつけていました。お母さんがこれを僕にくれる時、

『この髪留めは今までお父さんが私を護ってくれていたけど、もうそろそろその御まじないは役割を終えるから、これからはこの髪留めに籠めたお母さんの御まじないがネギを護ってくれる』

といって祈るように両手で握り締めると、当時の僕の小さな手のひらにこの髪留めを渡してくれました」

 「こんな中途半端に伸びてる髪を毎日纏めるのは少し面倒なんですけどね」と少し冗談めかして抱きしめてくれている木乃香の方を見たネギは今頃気付いたのか、泣いている木乃香を見て驚いた。
 まさか昔話をしているだけで泣かれるとは夢にも思わなかったらだ。

「ごめんなネギくん。ウチまさか、ネギくんのお母様が亡くなってるなんて思っても見なくて……」

「い いいんですよそんな気にしなくて。もう7年前のことですからもう慣れっこですし」

 しかしネギはそう言ってはいるが、やはりその表情には少し物悲しそうなものがある。
 木乃香はネギのその表情を見て無意識に、ネギの頭を抱えて抱きしめる力を更に強め、ネギの頭を自分の胸に押し付けるような抱きしめ方になっていた。

「むぐ、むぐぐ………」

 流石に力が入りすぎているのか、ネギの表情が先程の寂しそうな表情から一転し、苦しいのか真っ青になっている。おまけに熱の所為で力も入らないので手も動かせず、顔も胸に押し付けられているので口も開けない。
 しかし木乃香はネギのそんな緊急事態には気付かず、抱きしめることに夢中になって流れそうになる涙を抑えるように目を瞑っている。
 今の木乃香は「アカン、泣いたらアカンで。一番辛いのはネギくんなんやから」といった感じなのだろうが、当のネギは酸素不足で頭がボーっとして寂しいどころではない。
 パッと見この光景は他の人から見ればとても感動的な光景なのだろうが、残念ながらネギの体が小刻みに震えて手が完全にぶらーりとぶら下がっているので逆チョークリーパーを掛けられているようにしか見えなかった。

 そして窒息寸前となり今正に死後の世界へと旅立とうとしていたネギは、真ん丸いピンク色の何でも吸い込むやつのように抜けた魂を吸い込むとなけなしの力を振り絞り、自分の頭を抱えている木乃香の腕を叩いた。要するに、ギブである。

「あ、ごめんネギくん」

 それにようやく気付いた木乃香はネギの頭を放し、開放されたネギは息が吸えることの素晴らしさを実感しながら肺一杯に空気を吸い込んだ。

「ごめんなネギくん。ウチまさか、ネギくんが窒息しそうになってたなんて思っても見なくて……」

「い いいんですよそんな気にしなくて。もう日常茶飯事ですから慣れっこですし」

 断じて違うと思いながらもここはそう言っておかねばまた色々と面倒なことになるのは目に見えているのでとりあえずそう言っておいた。
 それに少し調子を取り戻せたのは事実なのでどちらかと言えばネギにとっては今の行動も有難かったりする。

「……明日、僕は学校を休みます。でも木乃香さんは学校に行ってください。僕は少しやることがありますので」

「えっ」

 「でも皆さんには内緒でお願いします」といって人差し指を自分の唇に持っていき右目を閉じてウインクをした。
 木乃香も真面目なネギが学校をサボるならそれ相応の理由があるのだろうと無言で理解すると、木乃香もネギと同じように人差し指を唇まで持っていき、右目を閉じた。




~放課後の学校~

「あ~、疲れたわねー」

 夕焼けに照らされている校舎内をうろついているのは背伸びしてツーテールを窓から入り込む風になびかせている明日菜と、制服に赤を基調とした帽子の組み合わせと言うかなりファッションセンスのずれているネスの二人。恐らく補習が終わって帰っているのだろう。

「本当に疲れたよ。ネギが休んだことの理由を散々聞かれたからね」

 「特にいいんちょにね」と明日菜が付け加えると二人は噴出すようにして同時に笑い始めた。

「あははは。そういえば何でネス君は一緒に勉強されてたの? 補習メンバーじゃなかったよね」

「僕は本当は皆より一つ学年が下だから追いつけるようにって高畑先生に言われたんだ」

 ネスは本来中学二年生の年齢の上に一年前の冒険の分の遅れもあり、元々勉強嫌いなところもあったので元の世界にいたときもずば抜けて成績が低かった。
 なので仲間のジェフに勉強を一度教えて貰ったらしいが、その一度の勉強以来ジェフの授業からは逃げ回っていたらしい。一体何があったというのか。

「何があったのかは、聞かないほうがいいのかしら……?」

「何があったのかは、聞かないで……、ん?」

 などと微妙に顔が青くなりながら他愛の無い話をしていると、廊下の曲がり角から真祖の吸血鬼、エヴァンジェリンとそのパートナー、茶々丸が出てきた。

「こんな時間に二人して談笑しているとは、いつからそのような仲になったのだ? 馴れ初めでも聞きたいものだな」

「な 馴れ初め!? 私とネス君はそんなんじゃ「よし、聞かせてやろう!」は!?」

「あれは昨晩のこと……、明日菜が「私を大人にして!」と言いながら熱いベーゼを……!」

「するかぁぁあぁあ!!」

「ぐはぁ!!」

 明日菜の突っ込みハリセンが炸裂。効果は抜群のようだ。おお勇者よ、死んでしまうとは情けない。
 しかし「スパァン!」といった景気のいい音を立ててハリセンで叩かれたネスは何事も無かったかのように手も使わずに仰向けの体を垂直にしたまま、さながら中国の死体の額にお札を貼って動くお化けの様に立ち上がった。
 明日菜はそれを見て小さく「ヒッ」といった悲鳴を上げ、エヴァンジェリンも少し引いている。

「まあお茶目なギャグはこの辺にして、エヴァンジェリンに聞きたいことがあったんだ」

 あんな質の悪いギャグをお茶目と言われて少し腹が立った明日菜はもう一回引っぱたいてやろうとしたが、ネスのいつもの表情がいつもの見ていてホッとするような笑顔ではなく、まるで凍りつくような底冷えする笑顔であることに気付いた明日菜は自分の入れるような話ではないのだろうと思い、振り上げたハリセンを下ろした。

「ふん、何だ? ぼうやを襲うのはやめてくださいとでも言うのか?」

 エヴァンジェリンも平静を装い余裕な態度と口調ではあるが、実際には背中は冷や汗でビショビショになっており、体中の血液が凍っているのではないのかと疑ってしまうぐらい体が冷えている。

「いや次にネギを襲うのはいつなのかなって」

 エヴァンジェリンは一瞬顔を顰めた。

「私は吸血鬼だぞ。更には封印もされているから次の満月になるまでは魔法の矢一本も撃てん。ここまで言えば解るだろう?」

 真祖の吸血鬼は満月になるまでは牙も無いので血を吸うことも出来ない。ましてやサウザンドマスターの封印で魔力を極限まで封じられてるため、今のエヴァンジェリンはその辺にいる10歳の少女と何ら変わらないのだ。
 そしてエヴァンジェリンは「話は済んだろう」とでも言いたげに背中をネスに向けると茶々丸を連れてその場を離れようとした。

「まだ話は終わってないよ」

 しかしいつの間にか肩をネスに掴まれていたエヴァンジェリンは一瞬何が起きたか解らずゼンマイが切れた昔のからくり人形のようにピタリと止まってしまい、後ろに控えるようにいた茶々丸もその無機質な眼を見開いてネスを見ている。

「は……離せ!!」

 そして混乱しかけたエヴァンジェリンはネスの手を払いのけ後ずさった。
 エヴァンジェリンのその瞳はいつもの凍りつくような瞳ではなく、完全に怯えきった少女の瞳になっている。
 その瞳を見たネスは威嚇しすぎたかと反省するように頬を人差し指で掻くと、ゆっくりとエヴァンジェリンに近寄り手をエヴァンジェリンの頭まで持っていくと、びくっと体を竦ませるエヴァンジェリンを少し愛しく思い優しく頭を撫で始めた。

「ぁ…………」

 エヴァンジェリンはそのネスの手から伝わる温もりに安堵を得たのか、何かを思い出すように瞳を閉じた。
 ネスはそのエヴァンジェリンの表情を見て一つの確信を持った。
 学園長からエヴァンジェリンは中世ヨーロッパ時代、ある日吸血鬼にされたエヴァンジェリンは自分を吸血鬼にした魔法使いに復讐を遂げるとその国から逃げ出したのだと聞いた。
それから何度も殺されかけたエヴァンジェリンは長い時間を一人で生き続け世界に絶望し、必要とあれば人を殺して生き延びていたらしい。その過程でエヴァンジェリンはサウザンドマスターに出会い、恋をして、そしてこの地に封印されたのだと。
 だからエヴァンジェリンはこの世の誰よりも年上なのだと教えられた。
 しかしそれは違った。エヴァンジェリンは吸血鬼にされたその日からずっと10歳の少女だったのだ。世界に絶望したのは生き延びる為。いざと言う時に人を迷わず殺せるように。
 いや、エヴァンジェリンは本当は世界に絶望していなかった。ただ何も考えないで済むように、長い時間を歩き続けても自分が壊れないように自分の心を凍らせただけだった。
 だから10歳の少女であるエヴァンジェリンはサウザンドマスターに恋をして、温もりを求めて、その温もりに心の氷を溶かされて、今の様な表情をしているのだと。

 だがどんな事情があるにせよ、人を殺してきてしまったのは事実。
 だからネスはさっきまでネギの利のことしか考えていなかったが、エヴァンジェリンに少しずつ罪を償って欲しいとも思い始めた。こんなことを言ってもエヴァンジェリンは「大きなお世話だ」というのだろうが。

「…………はっ!」

 そして暫く気持ち良さそうに撫でられていたエヴァンジェリンは顔を真っ赤にして手を払いのけ、一瞬自分で払いのけておきながら名残惜しそうな表情をしたがすぐに顔を引き締めるとネスを口をパクパクさせながら見上げた。

「き ききききキサマ……、よくも真祖の吸血鬼の頭を……」

「あははは、いやちょっと可愛いなぁと思って……」

 その言葉を聞いたもの全てが液体窒素でも掛けられたかのように固まった。
 今のネスの台詞は誰にむけられたかと言えば間違いなくエヴァンジェリンだ。そしてそのエヴァンジェリンの容姿は制服を着ていても中学生とは――実年齢はもっと上だが――疑ってしまうくらい幼いもの。
 つまり本人にはその気が一切無いにせよ、これらの状況から明日菜やエヴァンジェリンから勘違いされてしまう属性は一つ。

「このロリコンが―――!!」



―――待ったほうが賢明でしょう―――



 まあ少しスプラッタなことになりかけたもののネスの誤解は辛くも解け、人間の少女一人と吸血鬼の少女一人とロボットの少女一人にそれはもう南極のペンギンさえも凍えるような絶対零度のように冷え切った瞳に見つめられながらもネスは何とか話を本題に戻していた。

「それで話は戻るんだけど」

「いつぼうやを襲うかだったか? ……一つ聞くが、何故そのようなことを聞く。状況が変わるわけではあるまい」

 確かに次にネギを襲撃する日を知ったところで何かが変わるわけではない。ネギは師と呼べる存在がいなければ修行する場所も無い。これ以上強くなりようがない。タカミチに頼むと言う手もあるがその場合色々と面倒なことがあるため報告することも出来ない。
 
しかしネギには、かつて世界を救った英雄という友達がいる。

「日程が分かれば、育てようがあるだろ?」

「な……、貴様まさか……!」

「そう。僕がネギ・スプリングフィールドを可能な限り強くして見せる。だから教えてくれないかな?」

「馬鹿か貴様! 何で貴様の様な化け物じみたやつがぼうやを育てると知って態々教えなければいかんのだ!」

 正論だ。そんなことをすればネギは格段に強くなる。ネギを初めて襲撃した日、あの時のネギはまだ全然修行不足だったもののかなりの才能を秘めていることはその時に分かっている。そのネギがネスの修行を受ければどれほど強くなるのかは予想もつかない。
折角封印を解いて外に出られるチャンスなのにそんなことをしなければいけないのか。

「……興味ない? あのネギがどれだけ強くなれるのか」

「…………!」

「君を倒したサウザンドマスターのその息子が、君を倒した僕の弟子になる。結構面白いと思うけど」

 興味が無いわけではない。
サウザンドマスターの強さはエヴァンジェリンは良く知っている。さっき言ったとおりネギの才能は相当のものだ。魔力も下手をすればエヴァンジェリンよりも上。そんなネギが別世界の英雄の修行を受ける。
それは確かに厄介であると同時に、少し面白い。

「あと一つ聞きたい。何故私が満月以外の日に襲うと思う?」

「エヴァンジェリンは長い間生きてるんだろう。なら悪知恵も働くだろうからね。それに今回の目的は悲願の学園の脱出。馬鹿正直に教えてくれる時点で胡散臭いからね」

 ネスの言う通りだ。今回のエヴァンジェリンの目的は15年間縛り続けていた封印を解いて外に出られる悲願の計画。だというのに態々襲う日程を教えるなんて親切な真似するほうがおかしい。そんなことをすれば対策をいくつも練られてしまう。しかもネスと言う厄介な存在がいると知っているなら尚更だ。
 つまり教えた日程は引っ掛けで、本当はもっと早く且つもっと自分に有利になる日ということだ。

「……ふぅ。いいだろう。そこまで見透かされていては隠す意味も無いだろう。ぼうやを襲う日は五日後の停電の日だ」

「停電の日? 何かあるの?」

「茶々丸が調べたところ、私の封印を施している結界は電気を使っているらしくてな。停電している間は封印が消えるんだよ」

「じゃあ……」

「そうだ。満月ではないから本調子ではないにせよ、その日の私は全盛期と同じ力を使える。最強無敵の悪の魔法使いの復活と言うわけさ」

 「アハハハハ!」と高笑いをしているエヴァンジェリンは本当に嬉しそうだ。
 ネスと他の二人はそれを呆然と見、すれ違う人たちも何やら可哀想なものを見るような眼でみている。

「ふっふっふ。では確かに教えたぞ。私の期待を裏切るなよ小僧」

「裏切るか裏切らないかはネギ次第だよ」

「それもそうか。では私はそろそろ帰るとするよ。五日後を楽しみにしているぞ」

 そういってエヴァンジェリンは茶々丸を後ろに控えさせ、茶々丸はネスと明日菜にお辞儀をしてエヴァンジェリンの後をついていった。

「……さてと、それじゃ明日菜は先に帰ってて。僕は学園長先生のところに行くから」

「…………」

「明日菜?」

 ネスは再度声を掛けるがやはり無言。
 一体何を考えているのか分からず、ネスは明日菜の顔を覗き込んだその時明日菜がボソリと何か呟いた。

「何だって?」

「あんた何してんのよ―――!!」

「うわ」

 いきなり雄叫びを上げ殴りかかってきた明日菜のストレートをひらりとかわしたネスはまた殴られないようにもう一発殴ろうと振り上げられた明日菜の左手を掴んだ。

「どうしたの明日菜、いきなり」

「あんたね、もしネギの血が吸われたらどうすんのよ。こないだ死に掛けたばかりじゃない。忘れたの!?」

「だからそうならないようにネギに特訓を……」

「だから! 何でネギが戦わなきゃいけないのよ!!」

 ネスは訳が分からなかった。
 ネギが戦わないのなら一体誰が戦うと言うのか。
 とにかく今の明日菜の大声で放課後の校舎内をブラブラしている生徒達が何事かと自分達のほうを向いているので。二人は校舎の裏へ廻ることにした。



「で、何だっけ?」

「だからなんでネギが戦わなきゃいけないのかって話よ!」

「んー……、じゃあ誰が戦うの?」

「ネス君とか色々いるじゃない! あいつの友達なんでしょ!? すっごく強いんでしょ!? 代わりに戦ってあげればいいじゃない!」

 ネスはようやく合点がいった。
 つまり子供のネギを危ない目に合わせるなってことらしい。
 確かに普通に考えれば子供を護るのは年上の役目。危険な目に合うと分かっているなら助けてやらなければいけない。
 だがそれは一般の世界での話だ。裏の世界では話が違う。

「これはネギの戦いだ。ネギが自分で越えなきゃいけないことなんだ」

「だってあいつまだ子供よ! そんなの関係無い!!」

「…………明日菜、魔法の世界を何かメルヘンなファンタジー世界と勘違いしてない?」

「え?」

「僕も学園長先生から聞かされただけだけど、魔法の世界では二十年前すごく大きな戦争があったんだって」

 その戦争では当然人が大勢死に、泣いたものもいる。
 その中には学園長も、サウザンドマスターたちもいたらしい。
 みんな命懸けで戦い、友を失くし、平和な世界とは全く無縁の悲惨で思う出すだけでもおぞましい光景が広がっていたと学園長は言っていた。
 その光景は全て本来は人を救う為の魔法によるもので、その人を救うはずの魔法で人を殺してその手を、顔を血で汚した。
 魔法の世界は決して綺麗なものではなかった。本当はもっと汚れていて辛いことだらけの世界だったのだ。

「魔法の世界で生きるなら子供だって関係ない。自分のことは自分でしなきゃいけない。これはネギの魔法使いとしての始まりかもしれない。だから、僕はそのネギの手伝いをするだけだ」

「……! でも……」

「それを知ってネギの邪魔をするなら明日菜はネギの側にいるべきじゃない。ネギが血で汚れているサウザンドマスターを目指すなら、いつか血で汚れるのを怖れちゃいけない。今はまだ無理だけど、強い力を持つというのならそれはこの世界では免れないから。だから、邪魔しちゃ駄目だ」

 明日菜は顔を俯かせ体を震わせていた。よく見るとアスファルトの地面には水滴が落ちだ跡ができている。
 ネスはその明日菜を見て優しく微笑み、その場を後にした。



 魔法の世界を知った明日菜。魔法の世界の話を聞いた明日菜はどんな答えを出すのか。
 そして顔を上げたネギはどうするのか。

To Be continued


【おまけ】

土星「ゾンビのように蘇る! 久々更新おまけコーナー!」

ポーラ「このコーナーは長めの文を書いて頭がくらくらしている状態で書かれている暇人のお気に入りのコーナーです」

土星「明けましておめでとうございます!!」

ポーラ「遅い! もう半月以上過ぎてるわよ!」

ジェフ「更新もすごい遅いね。もう前回の更新から一ヶ月以上経ってるよ」

土星「いや~ネタは浮かんでたんだけどどうも上手くいかなくてさ」

プー「それで気付いたらもうこんなに経っていたと」

土星「その通り。時間が経つのは早いもんだね」

ポーラ「この調子じゃ一年に12話くらいしか出ないんじゃない?」

土星「月刊誌みたいだな」

プー「短いならそれでもいいが、何話くらい出すつもりなんだ?」

土星「ん~、少なくとも学祭編まで位は続けたいからな」

ジェフ「僕らが本編に出るのもまだまだ先ってことか」

土星「だからここで存在感をアピールしておかなくてはな」

ポーラ「あんたがさっさと更新すればそれも必要ないんだけどね」

ジェフ「無理だろうけど」

土星「まぁマイペースが俺のチャームポイントだからな。のんびりやっていくさ」

ポーラ「では今回は本編が少し長めなので今回はあいうえお作文のみにします」

土星「んじゃいってみよー!」


ポーラ「MOTHERあいうえお作文コーナー! 今回のお題は『どろぼう』です」

土星「今回は四文字なので俺も参加します。それではスタート!」


ポーラ「「ど」せいさんが」
ジェフ「「ロ」スタイムに」
プー「「ぼ」―っとしている間に」
土星「「う」たれた」


ポーラ「勝手にどせいさんを殺すな!」

土星「ぐあ!!」

プー「というかロスタイムってどういう状況なんだ」

ジェフ「きっと永遠にわかることはないんだろうね」

土星「恐れ入ったか」

ポーラ「はぁ……。ではこのポンコツはほっといて今回のおまけコーナーは終わりです。いかがでしたでしょうか」

ジェフ「感想などは掲示板にお願いします。あと出て欲しいキャラがいる場合も感想掲示板にお願いします」

プー「次回のお題は「しゃしん」。このお題で何か思いついた人は感想掲示板に書いてくれ」

土星「書いてくれた方の作品はこのおまけコーナーに掲載します。気が向いた方は是非」

土星「ではお相手は、作者の土星と」

ポーラ「ポーラと」

ジェフ「ジェフと、そして」

プー「プーでした」

土星「それでは」

全員「「「「さらば!!」」」」

To Be Continued?

魔法先生と超能力生徒の友情物語 魔法先生と超能力生徒の友情物語二十一番目「何故」

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