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罪と罰のその先 第八話 『地の底で』 投稿者:詠夢 投稿日:05/16-04:52 No.524


図書館島─。

麻帆良学園内にある湖の上に浮かぶ、世界有数の巨大図書館。

世界各地から様々な貴重書が集められ、その蔵書の増加に伴い地下へ地下へと増改築が繰り返されていったという。

そのため、内部はすでに迷宮化しているとのこと。

綾瀬夕映が語って聞かせてくれたのは、だいたいそんなところである。

しかし、と達哉はふと頭上を見上げる。

三次元的に入り組んだ構造の本棚の上から、水が流れ落ちていく。下は暗くて見通せない。

さながら人外魔境の様相である。

こんなところにある本を一体誰が読むのやら。

達哉が視線を下ろすと、さきほど同じようなことを叫んでいた明日菜が、ネギの手を引いてやるところだった。

その光景がほのぼのと微笑ましく、今の状況と合わせて考えるとつい可笑しく思えた。

くっくっと喉を鳴らして笑う達哉に、明日菜がじろりと視線を向ける。


「……何が可笑しいんですか?」

「いや……随分と面倒見がいいんだな、と思ってな。」


からかうように言ってやると、明日菜はうぐとわずかに怯んだ。


「だ、だって、こいつ今日は魔法が使えないし…!」

「こんな事になるなんて、僕だって考えて無かったですよ~…!」


ネギの訴えも、さもありなん。

魔法を封印したその日の深夜に、こんな場所まで冒険に出かけるなど誰が予想できようか。


「周防さん、あの、いざとなったら…!」

「ああ、わかってる。皆は俺が守るさ。……まあ、必要ないかもしれないが。」


達哉は前方を行く連中を見て、少し呆れたような声で呟いた。

本棚の上を通路として歩いている一行だが、時折かなり離れた本棚へと飛び移る場面がある。

そして今、ゆうに五メートルは離れた本棚へと長瀬楓ながせかえでと名乗った長身細目の少女が、一跳びで飛び移るところだった。

さらに金髪に褐色の肌の少女、古菲クーフェイもそれに倣い飛び移る。

一見、普通の少女にしか見えなかった佐々木まき絵も、新体操部だからという理由でリボンを使って移動する。どういう理由だ。

明日菜はあははと乾いた笑いを浮かべると、ネギを小脇に抱えて、木乃香が渡してくれた投げ縄を使って渡ってしまった。。

バカレンジャーは勉強が出来ないかわりに運動神経がいいと古菲が言っていたが…。

それより問題なのは。


「…行けるか、朝倉?」

「も、もちろん!! この程度のことで、音をあげてるようじゃ、麻帆良パパラッチは名乗れませんって!!」


どこか疲れたような表情の朝倉はそれでもにっと笑い、達哉の呼びかけにクラスNo.4という大きな胸を張って答える。

明らかに強がりだ。

懸命にここまでついてきたのは凄いと思うが、いかんせん身体能力は普通の中学生。

その辺、木乃香や綾瀬はどうなるんだというところだが、彼女らは元々探検部。

勝手知ったる庭といわんばかりに、すいすいと進んでいく。まあ、ようは馴れなのだろう。


「(…ここで、帰れと言うのも気の毒か。)」


ここに来るまでにも、同じような場所はいくつもあった。そこを一人で帰れと言うのはあまりに酷い仕打ちである。

それ以前に、綾瀬の誘導が無ければ、迷子そうなんは確実だ。

置いていくなんて選択肢は論外だ。


「……仕方ない。掴まってろ、朝倉。」

「へ? わ、きゃ……ひ、ひぃやぁ~ッ!?」


達哉は朝倉を横抱きにすると、だんっ、と力強く踏み切る。

下から吹き上げてくる風の音と、朝倉の悲鳴を間近に聞きながら、次の本棚へ向けて跳躍する。

すとっと、軽い足音とともに着地。達哉は朝倉を下ろす。

だが、朝倉は気付いていないようで、目をぎゅっと瞑り、しっかりと首に手を回したまま離れない。


「おい、いつまでしがみついてるつもりだ?」

「~ッ……へ? あ、地面……、ッ!!」


達哉の一言にばっと身を離す朝倉。

その顔に、みるみる朱が差していく。


「あ、あはははッ!! いや、ありがとうございます!!」


そう言うやいなや、スタスタと早歩きで、先を行く少女達のところへ行ってしまう。

達哉は軽く溜息をついて、ジッポを鳴らすと後を追った。





          ◆◇◆◇◆





その後も、さらに続く本棚の渓谷や、なぜか本物の湖やらを越えていく一行。

そして─。


「ここが…!!」

「うっわ、スゴッ!!」


彼らは遂に、魔法の本の安置所へと辿り着いた。

朝倉は驚嘆しながらも、バシャバシャとデジカメで辺りの様子を撮影している。

眼前には石造りの祭壇と、その横を固めるように立つ二体の石像が、不思議と地下に降り注ぐ光の中、静かに佇んでいた。


「私、こーゆーの弟がやってるゲームで見たことあるよー!!」

「ラスボスの間アルー♪」


まき絵と古菲がはしゃぐも、達哉はふとそこに引っ掛かりを感じた。


「(ラスボス…? そういえば、あの石像……前の世界の経験だと……。)」


達哉がそんな事を考えたとき。


「!?あッ…あれは!?」

「ど、どうしたの、ネギ!?」


ネギが、壇上の中央に安置された、古めかしい本を見て目を剥く。


「あれは伝説の魔法書、メルキセデクの書!? 凄い!! 確かにあれなら頭をよくするくらい簡単かも…!!」

「え    ッ♥ ってことは本物!?」

「やった─ッ、これで最下位脱出アルよ─ッ!!」


ネギの言葉に、嬉々として駆けていく少女達。

それを達哉や木乃香とともに追いながら、ネギが待ったをかける。


「あ、待ってください!! あんな貴重な本、絶対盗掘者用の罠があるに決まってます!! 気をつけて!!」


直後。

作動音とともに、祭壇前にあった橋が横に開き、浮遊感が全員を包む。


「へ…わ、きゃぁ!!」

「うわぁッ!!」


ドサドサと全員が落下したのは、何やらどこかで見たことのある形の巨大な石版。

五十音の文字とローマ字が、それぞれ規則正しく並んだこれは…。


「…ツイスターゲーム?」

『フォフォフォ…!』


達哉がぽつりと呟いたとき、ふいに奇妙な笑い声とともに二体の石像が動き出す。

魔法書を守るように、ずんと重量感ある足音を響かせて。


『この本が欲しくば、わしの問題に答えるのじゃーッ!! フォフォフォ♥』

「ッキャ    ッ!? せ、石像が動いた!?」

「おおおお!?」


皆が驚愕する中で(朝倉はそれでも写真を撮りまくっていたが)達哉はひとり前に進み出る。

やはり予想していた通り、最後の試練ラスボス登場と言うわけだ。

しかし、そのラスボスを目の前にして、達哉の表情は緊張しているどころか、どこか呆れているようで。


「その声……ひょっとして学え『フォオオオオッ!!』─ッ!!」


おもむろに振りぬかれたハンマーの一撃に、達哉は咄嗟に腕を交差させて受け止めるも、そのまま吹き飛ばされてしまう。

そして、深く底の見えない穴へと。


「す、周防さ     んッ!?」

『フォ、フォフォフォ!! あの青年のようになりたくなくば、大人しく問題に答えるのじゃー!!』


ネギの叫びと、ゴーレム(としておこう、ここでは)のちょっと焦ったような声が達哉の後を追って降ってきた。










          ◆◇◆◇◆










暗闇の中を真っ直ぐに落ちていく。

達哉は慌てることもなく、ただ静かに下を見つめていた。

上に残してきたネギたちの心配はしていない。

出題者が出題者だ。おそらく、危険なことはないだろう。

そうこう考えてるうちに、かすかな光が見えてきた。

何か枝葉が茂っているようで、その隙間からまるで木漏れ日のように光が差し込んでいるのだ。

ざんっと音を立てて、達哉がそこを突き抜けると、下には広大な空間が広がっていた。

地下とは思えぬほど広大な空間に、水と光が溢れ、小さな島々といくつもの本棚が散乱している不思議な場所。

落下の最中であった達哉は、とりあえずその感想は後回しにして、着地の姿勢に入る。

以前、飛行船から飛び降りたこともあるのだ。この程度、どうということもない。


「行け、アポロ……ノヴァ・サイザー!!」


達哉の雄叫びとともに、彼の体から紅蓮の太陽神アポロが現れる。

それは、達哉とともに落下しながら、ゆっくりと両の腕を頭上へと差し上げていく。

突如、その手の間に、眩い光が生まれる。

それは新星の輝き。宇宙に満ちる闇すら押しのける強烈な恒星の煌き。

極小規模の太陽を掴むその腕を振り下ろし、太陽神は地上へと太陽を落とした。

次の瞬間、大気を震わせる爆発が吹き荒れる。

その爆風に、ふわりと落下を減じられる達哉の体。

そして、彼は水蒸気と砂が舞い上がる地上へと、危なげなく着地した。

徐々に視界が晴れていく。


「ふぅ…。」


達哉は上を見上げる。

落ちてきたところは高く、到底登れそうに無い。

どこかに上に向かう場所はないものかと辺りを見回すが、それらしいものは見当たらない。

おそらく、どこかにはあるだろうが。

達哉はポケットからジッポを取り出すと、一度だけ鳴らした。


「(仕方が無い。探すか。)」


そう思い、歩き出したとき。





ひらり、と。





視界の端をよぎったそれに、達哉は勢い良く振り返る。

そこには何も無い。


「今、たしか…!!」


また、ひらり、と。

別の方向に見えたそれにまた振りかえると、今度こそ確かに目的のものを見つけた。

金色の蝶。

自我の導き手、フィレモンの化身。

達哉をこの世界に導いた、フィレモンの化身。


「!! 消えた?!」


ふいと空気に溶け込むように消えた蝶に、達哉はその場所に駆け寄っていく。

辺りを見回すと、また別な方向にひらひらと飛んでいるのが見えた。

だが、妙に薄い。その存在そのものが希薄なように。


「くっ…待ってくれ!!」


ひらりひらりと。

現れては消え、現れては消える蝶を追いかける達哉。

だが、やがて完全に見失ってしまう。


「くそッ……せっかく、見つけたと思ったのに…!!」


元の世界へ帰る。

その手段を知る存在、フィレモン。

見失ったという憤りのままに手近な本棚を殴りつける。

その時、かすかな悲鳴と、大きな水音が連続して聞こえてきた。

ついさっき達哉が落ちてきた場所。

おそらくはネギたちだろう、試練に失敗したのか。

そうあたりをつけた達哉は、一瞬、ほんのわずかに迷いのようなものを浮かべて先ほど蝶を見失った方を見る。

ジッポを取り出し、一度だけ鳴らす。


「……今はまだ、この世界にいろ…そう言うのか…?」


ネギたちの下へと歩み去る達哉の問いに、答えるものはいなかった。

罪と罰のその先 罪と罰のその先 第九話 『かけられた王手』

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