ねぎFate 姫騎士の運命 序章 投稿者:ガーゴイル 投稿日:04/09-04:54 No.187
第五回“聖杯戦争”……
あの戦いで、俺は色々な事を経験した。
伝説の英雄達との死闘、この身に宿りし禁忌の現れ、“この世の全ての悪”との決着――そして、“彼女”との、別れ。
イリヤと桜は封印指定の人形師が造った人形のお陰で、生き延びる事が出来た。
遠坂も、葛木先生も、虎も、皆元気だ。
――しかし、彼女はいない。
戦いが終わり、彼女の役目も終わった。
――今でも俺は忘れていない。
あの時、彼女の言った言葉を。
『士郎―――――貴方を愛している』
夢幻。
彼女は過去へと戻り、自らの人生に終止符を打った。
……そして、
『……何故、私は此処に?』
この世界に、戻ってきた。
しかも、受肉し、人としてこの世に。
理由など解らない。
遠坂が躍起になって調べたが、何一つ解らなかった。
まあ、そんな事は如何でも良い。
――少し恥ずかしい話だが、彼女が戻ってきた時、俺は―――泣いてしまった。
人目も憚らず涙を流し、彼女を抱き締めた。
俺の気のせいかもしれないが、彼女も僅かに泣いていたようだった。
暫らくの間、俺たちはお互いを抱き締め合うのだった。
……周りの皆が生温かい目で俺たちを見守っていたのがかなり気になるが。
――そして俺たちは、以前のように共に暮らし始めた。
穏やかな日々。
――しかし、長くは続かなかった。
“協会”に俺と彼女の事がばれたのだ。
遠坂たちが頑張ってくれたが、追っ手が掛かるのは時間の問題だった。
俺と彼女は、冬木を出た。
一年ぐらいだろうか。
俺と彼女は世界中を逃げ回り、世界中を舞台に戦い続けた。
――そして、追い詰められた。
最早逃げ場は無かった。
――その時、俺の脳裏に、ある光景が浮かんだ。
街を出る直前、泣き腫らした目の遠坂が俺たちに贈った最後の贈り物。
第二魔法を体現した万華鏡の遺せし、遠坂家の至宝。
宝石剣――その設計図。
一か八か、俺は其れを投影する。
生き延びる為、彼女を護る為。
二十七の回路に、ありったけの魔力を注ぎ込む!
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
製作に至る技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽し―――
ここに、幻想を結び一振りの剣と成す―――
身体に激痛が奔り、エーテルの嵐が吹き荒れる。
手に伝わる、重い感触。
出来立ての其れに、俺は無我夢中に魔力を注ぎ、解き放った。
――眩い光が、俺と彼女を包み込んだ。
その後の事は、もう覚えていない。
……ああ、そうだ。あれが、俺たちの新しい始まりだったんだ……
「―――起きて、お父さん!」
年若い少女の声に、まどろんでいた男――衛宮士郎――は、はっと目を覚ました。
今のは――過去の夢?
「……あれから十余年、か。長いな」
殆ど白くなってしまった赤い髪を触り、士郎は感慨深げに呟いた。
「寝惚けてる場合じゃないよ、お父さん! 早くお母さんを止めて!!」
半泣きで叫ぶ金髪の少女と士郎の視線の先には―――ぎこちなく車のハンドルを握る金髪の女性。
傍から見て解るほど、固まっていた。
「ぬぉっ!? アルトリア、運転は俺がするってさっき言っただろう!」
「――いえ、シロウは夜通し運転した為疲れが溜まっています。此処から先は私が運転した方が――」
「お母さんの運転は命が幾つあっても足りないから駄目ッ!」
冷や汗を掻きつつ答える女性に、少女が涙目で言い放つ。
「キリハ、失礼ですよ。これでも私は免許を持っています――何も問題ありません」
「いや、そういう次元じゃないから、お母さんの場合」
女性の澄ました言葉に、少女はパタパタと手を振りながら言う。
しかし尚も女性は意見を曲げない。
「大丈夫です。第一、私には【スキル 騎乗B】が有りますから」
「機械には適合しないでしょ! そのスキル! 頼むから運転だけは止めて――――ッ!!」
止まった軽自動車の中で漫才を繰り広げる金髪母子を見て、士郎は嬉しそうな笑顔を浮かべるものの、軽く溜息を吐いた。
「約束の時間まで間に合うかなぁ?」
そう言って、士郎は地図に目を落とした。
――向かう先は、
「“麻帆良学園”、か。一体なんだろうな、俺たちに用事って?」
新たな運命が紡がれる場所。
「いい加減にしろ、二人とも。――アルトリア、俺が運転するから、助手席に戻って」
「――しかし」
「大丈夫。無理はしないから。きつくなったら、ちゃんとアルトリアに言うから……な?」
「……解りました。しかし、無理は禁物ですよ」
「解ってるって」
良い雰囲気になる二人。
――しかし、抑止力が働く。
「――どーでも良いけど、子供の前でいちゃつかないでくれる?」
半眼で此方を睨む愛娘の姿。
一瞬で、二人の顔が真っ赤になった。
何年経とうと、この二人は変わらないようだ。
――世界を超え、再び運命の夜が始まりました。
主役は――騎士王? それとも正義の味方?
いえいえ、どちらでもありません。
主役は彼らの血と想いを受け継ぐ、一人の少女。
――名を、【衛宮 霧羽】。
一つの“世界”を秘めし姫騎士の運命の幕開けです。
皆様、最後まで活目してご覧下さい。
ねぎFate 姫騎士の運命 |
ねぎFate 姫騎士の運命 第一話 |