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ねぎFate 姫騎士の運命 第三話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:04/09-04:56 No.190

ねぎFate 姫騎士の運命 第三話





――一夜明け、図書館島最深部では……

「――霧羽さんッ! 目を覚ましてください! 霧羽さんッ!!」

頭から血を流し、ぐったりとして目を開けない霧羽に、ネギが大声で呼びかける。

周りには心配そうに二人を見守る皆の姿が。

――何故こんな事になったかと言うと…



床が崩れ、落ちていく霧羽達。

ふと見ると、直ぐ横にいる木乃香と夕映に大きな破片が迫っていた。

考えるより先に、霧羽は行動していた。



「――危ないッ!」



木乃香と夕映を突き飛ばし――霧羽の額に岩片が――



思い出せるのは其処までだった。

気付いたら、この水と本と樹木しか存在しない広大な空間――地底図書室――に辿り着いていた。

――只一人、霧羽だけは、目を覚まさなかった。

「……ねぇ、大丈夫なの? 衛宮さん……頭から血が…」

「大丈夫でござる。額を切っただけで、大した外傷は無いでござる……ただ…」

泣きながら楓に問うまき絵。

楓は冷静に答えるが、最後の言葉を言い淀んだ。

「――ただ、何ですか?」

夕映が冷静に――しかし泣きそうな顔で――、楓に訊く。

楓は躊躇いつつも、口を開いた。

「……頭の中までは解らないでござる。今のショックで、致命的な損傷を負ったのかも知れないのでござる…」

楓の重い言葉に、まき絵はわぁッ、と泣き出してしまった。

木乃香も眦に涙を溜め、夕映も堪えていなければ泣いてしまう表情だった。

泣いていないくーも、楓も、明日菜も、沈痛な表情だった。

(魔法が……治癒魔法が使えたら……ッ!!)

こんな事になるのなら、魔法を封印しなければよかった。

ネギも、自分の無力さに、打ちひしがれるのだった。





その頃地上でも大騒ぎだった。

期末テストで最下位脱出しなければ、ネギがクビになるという事をクラス全員が知って大騒ぎになった上に、今度は事の張本人であるネギと真☆バカレンジャーが行方不明になったというのだ。

――2-Aは上へ下への大混乱になった。

――其処へ、

「――何の騒ぎですか?」

アルトリアが、教室に入ってきた。

後ろには士郎もいる。

……妙にやつれているが。

一番傍にいた、雪広あやかと早乙女ハルナが、アルトリアに事の次第を説明した。



「――先生。実はネギ先生とアスナさん達が……」

「それで頭の良くなる本を取りに図書館島に行って、それで…」



二人とも、心配が過ぎて、かなり重い表情だった。

「――…成る程。それで、キリハも一緒に図書館島に?」

アルトリアの問いに、ハルナは黙って頷いた。

「……アルトリア」

「解っています、シロウ」

阿吽の呼吸で言葉を交わす、士郎とアルトリア。

――何時に無く、その表情は真剣だった。

「――雪広さん。今日の体育と世界史は自習。明日も、俺達が来なかったら同じだから。クラスの子達に、そう伝えてくれないか?」

「――え?」

士郎の行き成りの発言に、あやかは目を瞬く。

――言うなり、士郎とアルトリアは、教室を飛び出していった。

残された2-A生徒は、ポカンとした顔で、呆気に取られるのだった。





「――急ぎましょう、シロウ。嫌な予感がします」

「解ってる。全速力で図書館島に向かうぞ、アルトリア!」

「はい!」

尋常ではない速度で敷地を走り抜ける士郎とアルトリア。

向かう先は――図書館島!





「――迂闊じゃった…」

学園長室の机にうつ伏せになったまま、学園長は苦しげに呟いた。

図書館島に安置していたメルキセデクの書を盗まれた上に、守護者であるゴーレムまで乗っ取られてしまったのだ。

【返りの風】によるダメージを堪えつつ、学園長は呟く。

「……無事でいておくれよ」

我が身より、図書館島にいる子供達の心配をする学園長。

狸だが、立派な爺さんである。





――霧羽は夢を見ている。

蒼い砂漠に、黒い空。

宝石の如く輝く星々に、黄金の光を放つ満月。

地上にて輝く天の川。

――そして、蒼き砂に突き立てられた無数の武具。

何時もの、夢。

――しかし、今日は何時もと少し違っていた。

砂漠の真ん中――河のほとりに、一つの影が、佇んでいた。

紅い。

一言で言い表すなら、そんな感じだ。

黒いボディアーマーの上に紅い外套を羽織った、褐色の肌に白髪の男。

月光と、水面の照り返しの光により、顔はあまりよく見えない。

背の高い、不思議な男。

――あなた、誰?

夢の中で、霧羽は男に問い掛けた。

――私か? 私は―――そうだな。私の事は、【弓兵】とでも呼ぶがいい。――衛宮霧羽。

霧羽は驚いた。

何故この男――弓兵――は自分の名前を?

――何故知っているとでも言いたそうな顔だな。何、大した事ではない。お前の【世界】と私の【世界】が繋がった時、お前の情報が私に流れて来たに過ぎない――逆もまた然りだ。

――【世界】?

首を傾げる霧羽に、弓兵は皮肉気な笑みを浮かべて、語り始めた。

――そう、此処はお前の【世界】――お前だけの【世界】だ。普通なら【世界】同士が接触する事自体有り得ないのだが、如何やらお前と私の縁がかなり深い上、お前の【世界】が持つ特性が先ほどのショックで暴走し、無理に私の【世界】と繋げたらしい。尤も、直ぐに外れるがな。

ふふふ、と笑う弓兵。

違和感。

知っているけど、知らない。

知らないけど、知っている。



――弓兵さん。あなたは――【何】?



言いそうになる。

しかし、霧羽は言わなかった。

もう、答えを知っているような、気がしたから。

知らない筈なのに。

――ふむ、もうそろそろ時間のようだ。私は、元居た場所へと帰るとしよう。――さらばだ、■■■の娘よ。――もう、二度と遇う事も無いだろう。

事も無げに、言う弓兵。

その時、空から声が聞こえてきた。



霧羽の名を呼ぶ少年の声。

泣き声を上げる少女の声。

押し殺したように霧羽の名を呟く声たち。



全て、霧羽の知っている声だった。

自然と、霧羽の目から、涙が溢れた。

心がとても、温かい。

――衛宮霧羽。

泣いている霧羽に、弓兵が声をかける。

その姿は、陽炎の如く、揺らめいていた。

紅いその姿は消えかけ、蒼い闇へと飲み込まれるようだった。

――お前は何を目指す? 父のように正義の味方を目指すのか、それとも母のような英雄になりたいのか?

弓兵の問いに、霧羽は、

――私は―――――……





視界が光に満ちる。

「……あれ?」

――弓兵さんは?

夢と現実がごっちゃになる。

しかし、現実にはあんな人はいない。

――ああ、アレも夢だったんだ。

此処を現実と認識した途端、霧羽の思考が覚醒していく。

「――そっか。私、破片に頭ぶつけて……」

そう呟いて、起き上がった瞬間、



抱き締められた。



「――え?」

ゆっくりと、その人物等に目をやる。

えぐえぐと鼻を啜りながら子供泣きをしているネギ、泣きながら笑っている木乃香とまき絵。泣きじゃくる夕映。

皆、口々によかった たすかったと、叫びながら、霧羽に抱きついていた。

抱きついていない楓やくーや明日菜も、目の端の涙を拭い、目の前の光景に微笑している。

――霧羽は現実でも、泣いてしまった。





「さぁ、霧羽ちゃんも無事だったし、バリバリ勉強するよ~!」

まき絵の号令に、皆一様に拳を上げて、オーッ! と叫ぶ。

しかし、一人だけ元気が無い。

霧羽である。

「皆、御免ね。心配かけちゃって……」

気まずそうに言う霧羽。

……しかし、

「何言ってんのよ。あんたが無事なら、私達はそれでいいのよ」

「そうアル! 無事で良かったアル、キリハ!」

「せや。霧羽ちゃんのお陰で、うちら助かったんや……御免な、霧羽ちゃん」

「――その怪我は私と木乃香さんを庇った為の物です。悪いのは…」

「ストップっ! それ以上は言わないで良いよ、夕映。アレは事故だったんだから、誰の所為でもないよ!」

「まき絵殿の言う通りでござる。二人はもちろん、霧羽殿も気に病む必要は無いでござる」

――そう、霧羽に言った。

霧羽は、えっ? と驚いた顔をした。

尚も言い募ろうとする霧羽を遮り、ネギが言う。

「――もういいんです霧羽さん。みんな、霧羽さんが――友達が無事で嬉しいんです――だから、もう大丈夫です!」

ネギの言葉に、霧羽が固まった。

「僕は勿論、アスナさんも、このかさんも、佐々木さんも、夕映さんも、くーふぇいさんも、長瀬さんも――みんな、霧羽さんと友達です。だから、あまり気に病まないでいいんです!」

ネギの後ろで、霧羽を除く全員がうんうんと頷く。

ネギは覚えていた。

最初に出会ったとき、霧羽が言っていた言葉を。



『友達百人』



この学園に来るまで、霧羽には友達がいなかった。

両親の仕事の都合で、彼方此方を転々としていた為だった。

――だから、霧羽にとって友達は叶う事の無い夢の一つだった。

――けど、



霧羽は、初めて本当の友達に、出会う事が出来た。



「――…ありがとう、ネギ君。……ありがとう、皆…」

大粒の涙を流して、霧羽は、最高の感謝の言葉を、言うのだった。





姫騎士にとって何物にも変えがたい宝――それは【友】。

彼らがいるからこそ、姫騎士は闘う事が出来るのです。

――さて、今回の事が、これから先の運命に如何影響するのかは……私もまだ、解りません。

しかし――あの紅い弓兵は一体…?





その頃の衛宮夫妻。

「――破っ!」

「……シロウ、此処は本当に図書館なのですか!?」

「俺に訊くな!」

――現在、ゴーレムの群れ(正常バージョン)と戦闘中の衛宮夫妻。

「こうなったら――【約束された……」

「宝具は止めろぉぉッ!!」

……下手したら図書館島が消えて無くなるかもしれない…





――そして、さらに翌日(テストまであと一日)。

ネギと真☆バカレンジャーズ+1は、勉強の真っ最中であった。

元々傷が浅かったお陰か、霧羽も元気に勉強に加わっていた。

「――あ、霧羽さん。其処の答え、違います……」

「はう~~~~(泣)」

……相変わらず馬鹿だが。





「――はぁ~~。ス・テ・キ(///)」

恍惚とした表情で、霧羽は本にどっぷりはまり込み、読み耽っていた。

――題名は、

「――まるで宝石を鏤めたみたい。…触れただけでスッパリ逝きそうな刀身……たまらないわ~~」



世界刀剣大事典 全百一巻(全ページ総天然色 DVDソフト付き)



……誰が読むんだ?

少なくとも、霧羽を含めてこの学園には三人以上は居そうな気はするが。

――その隣では、木乃香と夕映がリゾート気分を満喫していた。

「――本に囲まれてあったかくて、ホント楽園やなー」

「一生ここにいてもいいです」

「コラーッ! 夕映も霧羽さんも勉強しなよ――っ!」

直ぐ傍で参考書を読んでいたまき絵――霧羽の事は名前で呼ぶようになった――が、即座に突っ込みを入れる。

ホンマに大丈夫かいな、こいつら。





「あと一本か…明日の朝になれば魔法で外に帰れるぞ……」

腕に着いた黒い線――魔法の封印――を見て、ネギは一人呟いた。

「……あの本は、一体なんだったのかな?」

今まで感じた事の無いような、不気味な魔力。

まるで生きているかの如く、脈動していたかのようにも思えた。

――あれは、危険だ。

ネギは、頭ではなく、本能でそう感じ取っていた。

「ん…」

向こうから、声が聞こえてくる。

ネギは興味を覚え、其方に行ってみる。

……結果、彼は見事に墓穴を掘ることになる。

――原作と同じだから割愛するが(おい)。





「…ふう。いい気持ち……」

其処から少し離れた所で、明日菜と霧羽は水浴びをしていた。

「――ん? 如何したの、アスナちゃん?」

怪訝そうに、言う霧羽。

明日菜が、じっと自分を見つめていたからだ。

特に胸。

「……何でもない」

――そう、今まで触れていなかったが、霧羽は結構スタイルはいいのだ。

……流石に、クラスTOP5には負けるが。

「――? 変なアスナちゃん」

首を傾げる霧羽。

頭に巻かれた白い包帯が、痛々しい。

「……ところで、もう大丈夫なの? 頭」

「うん、平気。――アスナちゃんこそ、腕の傷大丈夫なの?」

問い掛けてきた明日菜に、逆に問い返す霧羽。

その視線は、明日菜の腕に巻かれた包帯に向いていた。

彼女は気付いていた。

自分の傷より、明日菜の傷の方が重いと。

「大丈夫だって。私、昔からお転婆でケガ慣れてるから」

「甘く見ちゃ駄目だよ。昔から言うじゃない――【一瞬の油断が死を招く。事態を甘く見ることなかれ】、って」

「何処の誰が言ったのよ……」

「? 子供の頃からお父さんとお母さんにそう教わってきたけど?」

「どんな家よ。――今一解らないわね、あの夫婦って」

何処かぶっ飛んでる衛宮一家に、脱力する明日菜。

半端に常識の在る一家だから、尚性質が悪い。

「――あ。アスナちゃん、解けかかってるよ、包帯。直してあげるね」

「ありがと」

殆ど解けていた包帯を、手早く結び直す霧羽。

妙に慣れた手つきだった。

「――あれ?」

「どうしたのよ?」

急に素っ頓狂な声を上げる霧羽に、訝しげに問う明日菜。

「――ネギ君だ! おーい、ネギくーん!」

ぶんぶん手を振って、茂みの中のネギに声をかける霧羽。

……如何でも良いけど、胸見えてるぞ。

「……全く、あのネギ坊主は…」

別段気にした様子も無く、明日菜は躊躇無く茂みに近付く。

その後ろを、霧羽は付いて行った。

「――ス、ス、スミマセンッ。 僕、別にのぞくつもりじゃ……!!」

見つかったネギの第一声。

目茶苦茶慌てている。

「なーにがのぞくよ。ガキのくせに」

「よかったら、ネギ君も一緒に水浴びする?」

それぞれの反応を示す、明日菜と霧羽。

勿論、ネギと明日菜が真っ赤になって拒否したが。

まあ、如何でも良い。

――取り合えず、話がしやすい所に三人は移動するのだった。





「あのさ、ネギ…。――こんな所に連れてきちゃってゴメン…。実は期末テストで最下位だったらクラス解散の上、私たち小学生からやり直しだっていうから……」

開口一番、そう言ってネギに謝る明日菜。

少し顔が赤いのは、照れている所為だろう。

それを聞いた二人は――



「………―――は?」

「な、なんだってぇぇぇぇっっっ!!」



一人は呆けた顔で息ともつかん声を出し、一人は白黒劇画調で、同誌で連載されていた超常現象漫画の如き叫びを上げた。

――そう。霧羽は、此処へは只単に【頭の良くなる本】を取りに来ただけなのである。

最下位云々の話は、全く知らなかったのだ。

(もしその話がホントなら……)

霧羽の頭に、二人の人物が浮かぶ。



二振りの黄金の剣を携えて、にっこりと微笑む黒き騎士王。

無限の剣製を展開すべく、無表情で詠唱を始める正義の味方。



「……―――イヤァァァァァッ!! 死んだ方がマシィィィィイッ!!」

マジで死にたくなった。

勿論その耳には、ネギと明日菜のやり取り――その話がデマだという事――など、入らなかった。

ぎゃあぎゃあ騒ぐ少年と少女、半狂乱の金の戦士。

……ホンマに大丈夫かいな、こいつら(二度目)。





――などと、三人がふざけ合っていたその時、



――――ドクン…



異様な気配が、背筋を仰け反らせた。

まるで、纏わり付いてくるような、不快感しかない気配。

禍々しい、魔力――その一端。

魔法使いであるネギや、魔術使いである霧羽は勿論、素人の明日菜でも、容易に感じ取れる、邪悪な気。

――それほど、相手が強大だという事だ。

「――逃げるでござる!」

気絶した二人の少女――木乃香とまき絵――を背負い、猛スピードでやって来た楓が、叫ぶように言う。

その後ろには、服と気絶した夕映を背負ったくーが続いている。

勿論、服は着ていた(気絶している三人も)。

「――皆さん!?」

「大丈夫でござる、先生。皆、気絶しているだけでござる。それより――」

慌てるネギに、動揺している素振りも見せず、冷静に言う楓。

――その時、



『……漸く、役者が揃ったみたいだね?』



不意に聞こえる、声。

少女のように甲高く、それでいて耳障りな、少年の声。

――瞬間、水の中から二体のゴーレム――先日、上で遭ったヤツ――が、現れた。

二体のゴーレムは横に並び、その中間点には、本が浮かんでいた。

――不気味な魔力を放つ、紫の本が。

『やれやれ、やっと見つけたよ。ネギ=スプリングフィールドくん、そして――神楽坂明日菜さん』

慇懃無礼に、そう言ったのは――紫の本だった。

その場に居る全員が、驚愕した。

『――あ、そっか。この姿じゃあ、驚くかもね。今、話し易い姿になるから、待ってて?』

そう告げた途端、本が開き、ページが舞う。

一枚一枚が光の粒子にへと為り、再構成されていく。

――光が纏まると其処には、少年が立っていた。

年の頃はネギと同じぐらいの、紫のスーツを着こなした、緑髪の少年。

――その瞳は死んだ魚のように暗く、濁っていた。

『――どうも。僕は【十絶書】が一冊、【傀儡之操而】の精霊――KUGUTU。――今日は、ネギくんと明日菜さんを、消しに来ました』

少年――KUGUTUは、笑みを浮かべて、そう言った。

可愛らしいのだが、胸糞が悪くなるような、笑顔だ。

「――十絶書?」

ネギは困惑した。

聞いた事も無い、名前。

十絶書とは、一体?

『――まあ、知らないのも無理ないか。【僕たち】は、ある魔法使いがそれぞれ一冊のみ、書き残した【魔導書】なんだよ。――強大な力を持った、世界に一つしかない、至高の書――それが、【僕たち】。今の主が甦らせてくれるまで、【僕たち】は歴史の裏側で埃を被ってたから、退屈だったよ』

クスクスと、笑う。

ネギたちは、口を挟む事が出来ない。

――この少年の、異様な気配に飲み込まれて。

口を、動かす事が出来ない。

『――けど、初任務が【子供の抹殺】とは――仕事運がないなぁ~、僕も。つまんない仕事だからさっさと終わらせよっと』

――瞬間、脇に控えていたゴーレムが、動いた。

同時にネギと明日菜を霧羽が掴み、その場から離脱。

――一瞬送れて、ゴーレムの拳が、三人の立っていた場所に突き刺さった。

『――ちぇ、失敗か』

いたずらが失敗してむくれた子供のように、KUGUTUが呟く。

「ちょ、ちょちょちょっと何なのよ、一体!?」

「僕に聞かれても――っ!?」

霧羽に抱えられたまま、掛け合いを始めるネギと明日菜。

「――不味いでござるな」

目茶苦茶に暴れ回るゴーレムを見て、楓が言った。

鈍重そうに見えて、意外と動きが早い。

「このままじゃ、追いつかれるアルよ」

険しい目で、ゴーレムを睨むくー。

この二人の実力を以っても、アレを片付けるのは難しい。

如何すれば。

『……無駄な事は止めなよ。ネギくんと明日菜さんをこっちに渡してくれれば、他の子達には危害は加えないよ。約束する』

白々しく、KUGUTUは言う。

――その時、



「――解りました」



霧羽の腕を振り解き、ネギが言った。

真剣な――表情。

紛れも無く、男の顔だった。

「僕が時間を稼ぎます。皆さんは、その間に逃げてください」

要するに、自分が犠牲になるから、逃げてくれといっているのだ。

――その発言に、明日菜が激怒した。

「何言ってんのよ! あんた、死ぬ気!? ガキのくせにカッコつけんじゃないわよっ! ――あんたがいなかったら」

「ゴメンなさい、アスナさん」

明日菜の言葉を遮り、ネギは言った。

「――これしか、方法が無いから」

駆け出す!

「ネギっ!」

「駄目でござる、ネギ坊主!」

「無駄死には駄目アルっ! ネギ坊主!!」

制止の声を振り切り、ネギはゴーレムのいる所へ――



行けなかった。



――何故なら、



「……駄目だよ、ネギ君」



霧羽が、ネギの腕を掴んで、引き止めていた。

小さな手が、万力のようにネギの腕を掴んで離さない。

「――だって、ネギ君、今は魔法が使えないんでしょう?」

「―――っ!?」

霧羽の言葉に驚愕するネギ。

「――霧羽、あんた、知ってたの…っ!?」

明日菜も、驚いた。

自分以外に、知っている人物が居た事に、驚いた。

「ああ、アスナちゃんも知ってたんだ。――うん。私、ネギ君が魔法使いだって、気付いてたよ。――初めて会った時から」

淡々と、微笑を浮かべて、言う霧羽。

関係者ではない楓も、くーも、驚きの表情でネギと霧羽を見つめている。

「大丈夫、ネギ君が行かなくても、何とかなるから」

言って、霧羽はネギの腕を明日奈に渡し――走り出す!

「――霧羽さん!?」

ネギの声が聞こえる。

しかし、振り向かない。止まらない。

一直線にゴーレムとKUGUTU――霧羽の【敵】のいる所へ、駆ける!

――友達を護る為に。





『――何だ? ネギくんが来るかと思ったら、君か』

霧羽を見て、KUGUTUは心底つまらなそうに言った。

『――あ、そうだ。君、ネギくんを連れてきてくれない? 言う事聞いてくれたら、殺さないであげるよ?』

見下した態度のKUGUTU。

――彼は知らない。

目の前の人物が、とんでもない規格外だという事を。

全く知らない。

(――ごめんなさい。お父さん、お母さん……)

心中で、霧羽は両親に謝る。

(約束――破ります)

約束――それは幼き頃、士郎とアルトリアが、霧羽に課した誓約。

【人前で魔術を使う事無かれ】。

霧羽の安全を護る為、課した両親の想い。

――しかし、彼女は敢えて誓いを破る。

友を、護る為に。

「――投影、開始(トレース、スタート)」

回路に魔力を通し、幻想する。



創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

製作に至る技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽し―――



『――ん?』

突然、現れた魔力の波動に、KUGUTUは眉を顰めた。

――彼が行動を起こす前に、



ここに、幻想を現し一振りの剣と成す―――



霧羽の手に、剣が現れる。

――その数、両手合わせて八!



「――疾ッ!」



裂帛の気合と共に、投擲。

――狙いは、一番近くにいるゴーレム。



――ズガガガガガガガッッガンッ!



凄まじい音を立てて、剣群はゴーレムに突き刺さり、その巨体を吹き飛ばす。

――この剣の名は【黒鍵】。

投擲に適した概念武装。

物理的攻撃力は低いが、霊的な存在に関しては絶大な威力を誇る武装。

この世界には存在しない、武器。

「…【鉄甲作用】。共感して使ってみたけど、まだまだだわ…」

霧羽の言葉通り、ゴーレムはまだ活動していた。

直ぐには動けないが、油断は出来ない。

『――君、何者?』

無表情に問い掛ける、KUGUTU。

その瞳からは、一切の油断が消えていた。

「――私? 私は衛宮霧羽―――魔術使いよ」

そこで、一端言葉を切り――



「覚悟しなさい、魔導書。お人形は万全かしら?」



――高々と、魔術使いは言い放つのだった。





とうとう現れた謎の敵。

力を曝け出す姫騎士。

さて、勝利する事は出来るのでしょうか?

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第四話

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