ねぎFate 姫騎士の運命 第六話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:04/09-04:58 No.193
「――さて。先ずは、何から聞きたい?」
此処は麻帆良学園の外れにある、衛宮邸。
その茶の間の大きなテーブルに、七人の男女が付いていた。
衛宮家当主 衛宮 士郎
その妻 アルトリア・エミヤ
衛宮家長女 衛宮 霧羽
魔法使い兼教師 ネギ=スプリングフィールド
2-A所属 神楽坂 明日菜
同じく 長瀬 楓
同じく 古 菲
皆、真剣な表情であった。
……唯一の例外は、小動物のような仕草でお菓子を頬張っている、衛宮母子だけだ。
――図書館探検部の三人とまき絵は、部活動&部外者なので、此処にはいない。
テストが終わり、此処に皆が集まった理由はというと、簡単に言えば説明である。
――即ち、衛宮親子の正体。
「――あの、霧羽さん達は、その……魔法使いなんですか?」
士郎の問いに、ネギが戸惑いながらも口を開く。
「――そうだとも言えるし、違うとも言えるんだよね…」
真面目な顔で、言う霧羽。
口の端に煎餅のカスが付いてるぞ。
衛宮家以外の面々は、揃って首を傾げた。
霧羽の回りくどい言い方の所為である。
「――其れを説明するには、先ず俺達の馴れ初めから説明しなきゃならないな」
「――恥ずかしいです、シロウ」
顔を赤くする衛宮夫婦。
一同、何でだ!? という表情をするが、口に出さない。
下手なことを言って、無駄に時間を浪費するのは避けたいからだ。
「するのは良いけど……手早く短くコンパクトに話を進めてよね。――脱線しないでよ、お父さん」
娘は呆れた口調で、惚気る両親にそう言うのだった。
ねぎFate 姫騎士の運命 第六話
「……すると、衛宮先生達は異界の人間だというのでござるか?」
士郎の説明が一通り終わり、楓がそう聞き返した。
ちなみに、アルトリアの正体、聖杯戦争の詳細、固有結界云々については伏せている。
流石に話すと結構不味いからだ。
「まーお父さんとお母さんはそうだけど、私は生まれも育ちもこの世界だから、実感湧かないんだよね~」
苦笑し、霧羽が言った。
士郎とアルトリアがこの世界に流れ着いた時、既に霧羽はアルトリアのお腹の中にいた。
故に、まだ生まれてもいなかった霧羽は前の世界を知らない。
――彼女にとっての故郷は、この世界なのだ。
「【再現不可能な神秘】――それが、士郎先生の世界で言う、魔法なんですか?」
士郎の話に興味を覚え、真剣に聞くネギ。
士郎達の世界に魔法は五種類しか確認されず、使い手も四人しか居ない。
――科学でも魔術でも再現不可能な神秘。それが、魔法。
ちなみに士郎達がこの世界に来たのは、第二魔法の暴走が原因である。
某あかいあくまがこの話を聞いたら、卒倒するだろう。
「ああ、そうだ。だから、俺と霧羽は【魔法使い】じゃなくて、【魔術使い】なんだ。――まあ、この世界の人間から見れば、魔術もほぼ魔法と同じなんだけどね」
頬を掻きつつ、照れくさそうに士郎は言った。
――アルトリアは魔術使いではないので、黙ってお菓子に専念していた。
「けど、私とお父さんの魔術も、普通じゃないんだよね…」
疲れた口調で言う霧羽。
士郎も、少し苦笑いをしていた。
「――普通じゃないって、如何いう事なの?」
一般人の明日菜にしてみれば、魔法自体が普通じゃないのだが…
順応性の高い女子である。
「――口で説明するのは一寸―――…丁度良い。霧羽、お前が説明してみろ。簡単なテストだ」
突然降って湧いて出たテストに、霧羽はえ~と文句を言う。
――しかし、もくもくと菓子を食べているアルトリアの放った眼光に中てられ、何も言えなかった。
「う~、解った。――私とお父さんの使う魔術は【投影】って言ってね、魔力で物質を模倣する魔術なんだ」
こんな風にね、と手元にあったフォークを解析し、そっくり同じ物を投影して見せた。
「はい、どうぞ。――ま、これだけなら普通なんだけどね。……問題は、此処から」
出来たフォークを明日菜に渡し、意味有りげに笑う霧羽。
「そこで質問。――物質等などの触媒を介さず、魔力単体を具現化したとする。さて、その後具現化した物体はどうなるでしょう? ネギ君、答えは?」
ネギを指差し、詰問口調で言う霧羽。
ネギはおたおたしつつも、確りと答えた。
「え、ええと――時間が経てば、消えて無くなります。魔法の常識です」
そう。ネギの言うとおり、陣や物質に込められた魔力は半永久的に機能するが、魔力単体で具象化した場合、それは時間が経てば霧散し、消えてしまう。
魔法使いならば、誰もが知っている常識。
「正解。――けどね、私とお父さんが投影した物体はそうじゃないの。時間が経っても、無くならない。壊れるか、作った本人が消そうと思わない限り、この世に存在し続けるの。――其れがどんなに異常な事か、ネギ君なら解るでしょう?」
異能。
衛宮親子の投影魔術を表す、最適な一言。
この世の法則に反する、ありえない魔術。
其れは最早【魔法】の領域だ。
ネギはそのありえない魔術に驚愕し、他の面々は詳しくは理解できないが、凄いという事だけは解ったようだ。
「――だから、この魔術は人に見せちゃいけないの。最悪、実験材料とかにされるかもしんないから。ネギ君、アスナちゃん、楓ちゃん、くーちゃん……この事、黙っててくれない?」
霧羽の懇願に、皆は当然だと言わんばかりに、笑顔で頷くのだった。
「当然です!」
「別に人に言う事でもないし」
「黙ってるアルよー」
「友達でござるからな」
――そんな霧羽達を見て、衛宮夫婦は微笑む。
「良かった。霧羽にも友達が出来て――本当に、良かった」
「引越しばかりで、キリハにも随分迷惑かけましたから。――良かったですね」
暫し見つめ合い、笑う士郎とアルトリア。
…此処だけなんか違う世界だ。
霧羽達は、そんな別世界に旅立っている夫婦なぞ気にもせず、和気藹々とするのだった。
――衛宮夫婦がこの世界に戻ってきたのは、一時間後だということを追記しておこう。
そして――
「――あ!? お母さん、其れ私の肉!!」
「甘いですよ、キリハ。――此処は戦場です、戯言は寝てから言いなさい!!」
「――む。楓、其れは私が先に目をつけてたアルよ」
「早い者勝ちでござる」
「うひゃ~、修羅場だね~」
「おいしい~! 部活で疲れた身体に染み渡るよ~」
「お褒めに預かり光栄だね。――アルトリア、霧羽……喧嘩するなら肉はお預けだぞ」
「「御免なさい、(シロウ)(お父さん)」」
「……アホの巣窟です」
「あ、せんせー。こっち、焼けてます……」
「ネギ、こっちも焼けてるわよ」
「あ、有難うございます。宮崎さん、アスナさん」
「もてるなぁ~。ネギ君」
時間は夕食時。
図書館探検部の面々とまき絵を呼んで、【テスト終了おめでとう! 衛宮家大焼肉パーティ!!】が開催された。
…誰がどの台詞か丸解りだ。
――戦いが終わり、暫しの休息を取るのだった。
同時刻、駅前。
「……此処が麻帆良学園かぁ~。でっけぇな」
一人の男が、麻帆良の地を踏んだ。
中華風にアレンジされた白衣を着こなした、アジア風の少年。
年の頃は、十五・六といった所か。
吊り上った目をした、極々普通そうな少年だ。
「――元気にしてるかな? 衛宮家の人達は」
謎の少年は、何処となく歩き出した。
「……取り合えず、今日何処で寝よう…」
前途多難そうだ。
――さらに同時刻、某所。
『【傀儡之操而】――KUGUTUがやられたそうだな』
『仕方ねぇんじゃねぇの? アイツ、俺達の中で一番雑魚だったし――実力が無い上に、切れやすいお子ちゃま野郎は死んで当然だぜ』
『――しかし、子供を二人始末するだけの任務でしくじるとは到底思えん。――一体誰がKUGUTUを?』
『【衛宮 霧羽】――最近あの学園にやってきた小娘じゃよ。如何やら、此方側の人間らしいのう』
『……きしし。関係ないよ――一般人じゃなかろうが何だろうが、殺しちゃえば一緒だよ…』
『急くな。幾ら格下とはいえ、我等【十絶書】の一角を落とした輩……油断は出来ん』
『その前に、ターゲットの消去が優先。西のお姫様以上の魔力保有者、それと正体不明の魔法無効化能力者――計画最大の障害だよ』
『――で、結局誰が行くの? 僕様ちゃんは嫌だよ』
『【界隔】――ヘダタリの坊ちゃんがもう行っておるよ。どうやらあの小僧、学園に括られておる真祖のお嬢ちゃんにご執心のようじゃの』
『――けッ! ガキのクセに盛りやがって!』
『良いんじゃないの。恋愛は自由だよ』
『恋愛って言えますですかね?』
『――そんな話は如何でも良い。…ヘダタリ、か。確かに策士のあいつなら、期待できそうだな』
『まぁ、あいつは裏でこそこそするしか能がねぇからな』
『猪突猛進なお馬鹿さんよりマシだよ』
『んだとゴルァ!』
『止めんか。――して、この件はヘダタリに任せるという事で、良いかの皆の衆』
『『『『『『『異議無し』』』』』』』
『良し。では此れで集会は終わりじゃ。――抜かるではないぞ』
唐突に消える、八つの声。
――暗闇の中で、行われた謎の集会。
麻帆良に、新たな危機が迫ろうとしていた。
陰謀渦巻く暗中劇。
今回は、次の話への繋ぎ。
何時もより短く。お届けしました。
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