ねぎFate 姫騎士の運命 第七話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:04/09-04:59 No.194
ピピピピピピピッ!
脳味噌を揺さぶるような心地悪い電子音が、部屋に響く。
「……ふみぃ~…」
妙な呻きを上げつつ、部屋の主――霧羽は布団から起き上がった。
長い金髪は寝癖で爆発状態に為っており、思考は寝惚け状態。
…他人には見せられん姿だ。
「……お風呂~」
らいおんさんのパジャマを脱ぎ捨てつつ、霧羽は風呂場に向かった。
――書くと命がヤバイので、すまんが内容は割愛させてもらう。
ねぎFate 姫騎士の運命 第七話
「おはよ~、お父さん」
「おう、お早う」
バスタオルで髪を拭い、普段着姿の霧羽は茶の間に姿を現した。
直ぐ向こうの台所から、父――士郎の声が返ってくる。
朝食の準備中である。
ちなみに服装は赤い作務衣の上に、【親馬鹿一代!】と赤字で染め抜きされた黒いエプロン。
…何処で買ったんだ?
「――お早うございます、シロウ、キリハ」
其処へ我が家の最強さん――アルトリアがやって来た。
服装は極普通の、白いブラウスとスカート姿。
「お早う、アルトリア」
「おはよ、お母さん」
朝の挨拶を交わす衛宮一家。
「二人とも、起きたんなら手伝ってくれ」
――士郎の要請を受け、動き出す女性陣。
蛇足のようだが、霧羽の料理の腕は士郎譲りだと追記しておこう。
……食欲は母譲りだが。
「シロウ、今日は何か予定はありますか?」
食後のお茶を啜り、藪から棒にそう切り出すアルトリア。
ほっぺに付いたご飯粒がちょちプリティ。
三十過ぎて尚、その美しさは衰える事を知らない。
「――ん? 仕事も無いし、今日は一日中暇だけど」
何気なく答える士郎。
「――でしたら、一緒に町の方まで行きませんか? その、買いたい物も色々あるので……」
少し頬を染め、アルトリアは気恥ずかしそうに言った。
要するにでぇとのお誘いだ。
「ん、別に良いぞ」
素っ気無く答える士郎。
しかし、その表情は僅かに緩んでおり、頬は赤く染まっていた。
娘の手前、少し淡白に振舞っていたのだ。
…今更だけど。
毎度お馴染みABF(熱々・バカップル・フィールドの略)を形成しつつある両親を一瞥し、霧羽は深々と溜息を吐く。
「いい年して何やってんだか……」
二人とも見た目は二十代前半だが(爆)。
――幸い、霧羽の一言はラブラブ夫婦の耳には届かなかったようだ。
――閑話休題。
「――ねぇ、お父さん。少しお願いが……」
「小遣いならやらんぞ」
霧羽の甘えた言葉に間髪置かず、言い放つ士郎。
図書館島の一件で、霧羽は暫らく小遣い無しなのだ。
「……今回は違うって。――あのね、此処暫らく【ダイダロス】を動かしてないでしょう。それで、何かあの子機嫌が悪くて……気晴らしにお散歩しちゃ駄目?」
父の無情な一言に脱力しつつも、霧羽は気を取り直し、言う。
この時、上目遣いに父を見つめる事を忘れない。
基本的に、士郎は困った人と女性に弱いのだ。
……女性に目がいった場合、瞬時に母の鉄拳制裁が入るが。
霧羽の懇願に、士郎は少し渋い顔をした。
「【ダイダロス】…か。しかし、此処は人目が多いからなぁ。【特別許可】が在るとはいえ、そう簡単に――」
「良いではありませんか」
難色を示す士郎の言葉を、アルトリアは斬って捨てる。
「【ダイダロス】ならそこ等の警察や魔法使いでは相手になりません。――安全運転を心掛けるなら、アルトリア・エミヤの名を以って【ダイダロス】との散歩を許可しましょう」
威厳タップリに言うアルトリア。
「ありがとう、お母さん!」
聞くやいなや、霧羽は喜色満面の笑みを浮かべ、茶の間を一足飛びに飛び出していった。
徐々に遠ざかっていく足音を聞きつつ、アルトリアは満足げに頷く。
「――ま、骨休めには丁度良いでしょう」
彼女は彼女なりに、娘の事を考えているのだ。
ちなみに、今まで会話に入れなかった士郎はというと――放置プレイ。
畳の隅にのの字を描いて、いじけていた。
立場が無いな、士郎。
衛宮家のガレージ。
此処には、移動用に使う黄色い軽自動車(二十万円也)の他にもう一つ、収められている物がある。
――それは、
グルルル……
獣の唸り声。
しかし、何処か無機的な、機械じみた唸りだった。
その時、
ガラガラガラ……
「ダイダロス~♪」
浮かれ度120の霧羽が、ガレージのシャッターを開けた。
日の光が差し込み、薄暗かったガレージ内が光に晒される。
其処には――
一台のバイクらしき物体が、鎮座していた。
流線型のフォルムに、動物――狼系――の頭部を模した先頭部分。
後部はスッキリしているが、怪しげなパーツが目立たないよう巧妙に設置されている。
車高は低く、楽に二人乗りが出来そうなくらい、座席は長い。
――狼の瞳らしき部分には、力強い意思の光が灯っていた。
グルルル……
再び、唸り声を上げるバイクのような物――もとい、【ダイダロス】。
少し――いや、かなり不機嫌そうだ。
「……あー、やっぱ怒ってる? 暫らくほっといたから…」
グオン…
頷くように、相槌を返すダイダロス。
心なしか、若干瞳が紅い。
そうとうストレスが溜まっているようだ。
「御免って。その代わり、今日は一日中散歩に付き合ってあげるから、機嫌直してよ」
掌を顔の前に立てて、謝る霧羽。
この時ウインクを忘れない。
その仕草に怒気が削がれたのか、ダイダロスの瞳が淡い緑色に戻る。
……グオン。
仕方ないな、というニュアンスを含んだ溜息を漏らしながら、ダイダロスは自らの動力炉に魔力――霧羽から供給された――を通す。
従来のガソリンエンジンとは大きく違う、高く響き渡るエンジン音が生じる。
「そう来なくっちゃ♪」
満面の笑顔を浮かべ、霧羽は横に在る棚からお気に入りのヘルメットを取り出した。
風除けで顔が全部隠れるタイプ。
色は銀。
ダイダロスとおそろいだ。
素早くヘルメットを被り、髪を全て中に押し込める。
ライダースーツは一応有るのだが、面倒なので省略。
全ての工程を終え、霧羽は意気揚々とダイダロスに跨った。
「準備完了。んじゃ、行こっかダイダロス♪」
ウオォォォォンッ!!
高く吼え、鋼鉄の獣は肉体に魔力を通わせる。
――転瞬、後部と前輪から光が迸り、獣は薄暗い塒から勢いよく飛び出した。
その姿、天を割る銀の鏃の如し!
「……スピード出し過ぎ~!」
……何かぶち壊しだ。
――【ダイダロス】。
魔法・科学技術の粋を尽くして作製された、世界初の【Intelligence ride machine(知なる使い魔騎)】。
その製作者の趣味により108に及ぶ近代魔法兵器を装備し、魔力障壁、飛行能力などの特殊能力を備えた万能マシン。
知能指数はアインシュタイン二百三十万とんで五十四人分に匹敵するらしい。
戦闘能力は魔法兵団(名の通り、強力戦闘魔法を用いる集団。某大国を制圧できるくらいの力を持つ)一個師団と互角であり、驚異的なポテンシャルを持つ。
動力源は魔力。主から供給される魔力を体内の動力炉で精製エネルギーに変換。此れを行使する。
主人さえ無事なら、永久的に行動可能。
正に、魔法と科学より生まれた、両世界の至宝。
――そんな彼だが、今現在は、
「良い風だねぇ、ダイダロス」
グルゥ♪
衛宮霧羽の使い魔(本人は満更でもないらしい)。
理由は、製作者がダイダロスのモニターを衛宮一家に頼んだからである。
そして、当時十歳だった霧羽に懐いたという訳だ。
――現在、その戦闘能力の大半は、主人の「興味ない」の一言で、眠ったままである。
…勿体無い。
「……ぶぇっくしゅん!」
人気の無い、寂れた公園。
その広場で、一人の少年が盛大なくしゃみをした。
「春とはいえ、やっぱ野宿はきつかったかな?」
そう、実はこの少年、学園都市に着いて早々財布を落とし、宿に止まれずこの公園で一夜を明かしたのだ。
情けない事この上ない。
白衣に付いた砂埃を払い、少年はベンチから身を起こした。
――はらりと落ちる新聞紙が哀愁を漂わせる。
「――さて、衛宮さんの家は何処かいね、と」
地図を取り出そうとする。
――しかし、無い。
途中ぶつかった【牧畜愛好会】のやぎさんに食べられてしまったのだ。
「……誰かに、道を聞こう」
あまりの馬鹿らしさに、凄まじく脱力するも、少年は行動を起こした。
タイミングよく、目の前を人が通る。
自分より一つ二つ年下だろうか、背の低い双子の可愛らしい少女。
「――おい、一寸いいか?」
少年の声に、双子の少女達は振り返った。
――この日、三人は運命と出会った。
そして、さらにもう一人……
「……麻帆良学園、久方ぶりですな」
又一人、麻帆良に足を踏み入れる者が。
長い銀髪を無造作に後ろに流した、黒いスーツ姿の美しい男。
彫刻のように整った目鼻、きめ細かい白い肌。
――そして極めつけは、宝石のような金色の瞳。
人外と呼ぶに相応しい、妖しげな美。
「――ふふふ。此れで漸く、私の望みが叶います…」
人外はそう呟き、懐に手を入れた。
彼は【十絶書】が一冊、【界隔】の精霊―――名を、【ヘダタリ】。
智に長けた、十絶書一の策士。
ある意味、十絶書最強の男。
壮絶な笑みを浮かべ、ヘダタリが懐から取り出したのは――
金髪の幼い少女が写った、一枚の写真。
被写体が見当違いの方向を向いている所から察するに、隠し撮り(超望遠撮影)である事は明白だった。
「――そう! 私の【マイスウィートエンジェル☆ゲッチュウ計画♪ ver3.25】が!!」
写真の少女――3-A所属【Evangeline.A.K.McDowell】――を血走った瞳で凝視しつつ、ヘダタリは腹の底からシャウトした。
「待ってて下さい、Ms.エヴァンジェリン! 今貴女の愛の奴隷が、貴女の為に最高の策をご披露しますからね~ッ!!」
ハハハハッ! と陽気な笑いを上げつつ、ヘダタリはその場から走り去った。
通行人は、見て見ぬフリ。
好き好んで、あんなキ・ピ―――!!と関わりたくない。
当然の選択だった。
……処で、ネギと明日菜の抹殺計画は如何したんだオイ。
「――そうですか、大変だったんですね――」
少年の話を聞き、同情したように言う双子の片割れ――3-A所属【鳴滝 史伽】。
「苦労してるんだね、見かけによらず」
何か聞き捨てならない事をさらっと言ったのは、姉の【鳴滝 風香】。
「オイコラ」
間髪入れずに、少年は突っ込みを入れた。
今三人が居るのは、巨大な樹木を一望する【世界中前広場】の近くの喫茶店前。
飲まず喰わずでぶっ倒れかけていた少年を見かねて、先程鳴滝姉妹が奢ってくれたのだ。
情けないな、本当に。
「――で、お兄さんは衛宮先生たちのお家に行きたいんだろ? それならボクらに任せてよ!」
「私たち、散歩部なんです」
「散歩部? そりゃ良いな。健康に良いぞ、散歩は。特に森林は良いな。故郷の曾婆さんは毎日森の中歩いているから、元気だぞ――つい先日も、襲い掛かってきた人食い熊を素手で返り討ちにして、皮を剥いで喰っていたな」
どんな婆さんだ。
風香と史伽の言葉を聞き、感心した風に言う少年。
斜め四十五度ほど、ずれた意見だが。
少年の話に、微妙な顔をする鳴滝姉妹だった。
その頃霧羽は…
「速い、速いってダイダロス!!」
グルルルオオオォォォォッ!!
エキサイティングしているダイダロスに振り回されていた。
音の壁を突き破るのは、時間の問題だろう。
――その日、学園新聞に【謎の高速移動物体現る!? ジェットババアに次ぐ新種の妖怪か?】という記事が…
何を考えているんだ、この学園の連中は?
「――処で、お兄さんって学生さん? ぱっと見高校生に見えるけど…」
案内ついでに、そこ等辺の主要施設の説明を買って出た鳴滝姉妹。
その途中で、何気なく風香が少年に問う。
「まあ、確かに俺は十六だけど……学校には行っていないぜ。もう卒業したからな」
飛び級ってヤツだ、と少年は言った。
すごーい、と目を丸くして言う鳴滝姉妹。
「――って事は、お兄さんもネギ先生みたく先生なの?」
「まぁ、先生って言えば先生だな……」
「? 何の先生なんですか?」
少年の曖昧な言い方に、興味を持った史伽が訊いた。
「俺はな――医者なんだよ。だから、人から先生って呼ばれる」
少年の職業を聞き、姉妹は揃って声を上げて驚いた。
「「すごーい!」」
二人の驚きように、少年は凄くなんかない、と謙遜した。
「昔から漢方医の父さんと西洋医の母さん、それにマッドな爺さんに鍛えられてたからな。……夢だったんだ、医者に為るのが」
遠くを見る目。
少年の、その吸い込まれるような淡き瞳に、風香と史伽は思わず見惚れた。
本当に、綺麗な目をしていたから。
「――んで、医者に為った現在の夢っつーか目標が【一つでも多くの命を救う】……ありきたりだけど、俺の譲れない矜持だ」
子供のような笑顔――しかし、目には真剣な光――で、少年は言った。
姉妹は素直に、少年の事をかっこいいと思ったのであった。
「――ん? 如何した、二人とも顔が赤いぞ?」
熱でもあるのか? と少年が心配そうに言った。
件の二人は、何でもないと、思い切り首を振って否定するのだった。
(あう~。…顔をまともに見れないです…)
(お兄さん、かっこよすぎ……)
誰の心境か、言うまでも無い。
「……ダイダロス。頼むからもう少し安全運転でお願い…」
……グォン…
動かないダイダロスを押し動かしながら、疲れた調子で霧羽は言った。
服装は少しボロボロだ。
……あの後、暴走したダイダロスと共に藪の中に突っ込んだのだ。
魔力供給を急停止して、ダイダロスの力を奪い、現在丘の上を人力で移動中。
災難だった。
「――あれ? もしかして、あれってネギ君?」
黄昏る霧羽の視界に、良く見知った少年――ネギ――の姿が飛び込んできた。
反射的に、霧羽はネギを呼んだ。
「ネギく――ん!」
ぱたぱたと手を振って、ネギにアピール。
ネギは直ぐに気が付いて、霧羽に駆け寄ってきた。
「こんにちは、ネギ君!」
「こんにちは、霧羽さん」
お互い元気に挨拶。
「ネギ君何してるの? 散歩?」
「はい、この学園を見て周っておこうと思ったんですけど、肝心のアスナさんとこのかさんが用事で……。それで一人で周ってたんです」
困ったように言うネギに、霧羽は――
「じゃあ、一緒に周ろっか」
と、提案した。
「私も着たばっかで、あんまり詳しくないけど、いないよりはマシでしょ?」
屈託のない笑顔で言う。
ネギは暫し思案し。
「――はい、お願いします」
此方も、笑顔で言った。
「じゃ、此れ被って後ろに乗って」
そう言って、霧羽はダイダロスの後部物入れ(四次元空間)から、蒼いヘルメットを取り出し、ネギに手渡した。
「……はい?」
一瞬、呆気に取られるネギ。
既に霧羽は、ダイダロスに乗り込みエンジンを噴かしていた。
「き、霧羽さん!? 子供がバイクに乗っちゃ駄目ですよ!!」
「あ、大丈夫。この子はネギ君で言う魔法の杖みたいなマジックアイテムの一種だし、上のほうから許可とってあるし、【誤認識】の魔法で乗ってるのが私だと解らないから、捕まった事も無い―――問題無しだよ、ネギ君」
慌てるネギに、爽やかに言う霧羽。
しかし、それでもネギは納得できない。
「で、でも免許は――」
「さぁ、ゴチャゴチャ言わずに乗った乗った!」
強制的に話を切り、霧羽はネギを後ろに乗せた。
少し額に汗が……
大丈夫なのか?
「さぁ、無限の彼方にレッツラゴ~!」
「や、やっぱり僕降ります!」
もう遅い。
再び、ダイダロスは麻帆良の風と為った。
――風に乗って、少年の悲痛な叫びが丘に木霊するのだった。
合掌。
「……ん? 何か悲鳴みたいなのが聞こえなかったか?」
遠くから聞こえてきた叫びのような音を耳にし、少年は眉を顰める。
「え? 別に何も聞こえないけど。――史伽は?」
「私も聞こえないです」
二人の返事に、少年は空耳かな、と首を捻った。
三人が今いるのは、麻帆良の裏山。
風香と史伽が言うには、衛宮一家はこの山の入り口にある、一軒家に住んでいるというのだ。
「――あ、此処を越えれば直ぐだよ!」
先頭を歩いていた、風香が振り返る。
その先には――
雄大に聳え立つ、巨大な樹木。
その伝説的とも言える、圧倒的な姿に少年は目を奪われた。
「……すごい」
少年の言葉を聞き、風香が得意気に言った。
「此れが【世界樹】――麻帆良の象徴だよ!」
「何でも、学園が建てられる前からずっとあったらしいです」
姉の言葉を継ぎ、史伽が説明する。
「――あと、この樹には伝説があるんですよ」
「よくあるやつだけどね」
史伽の言った【伝説】という単語に、少年は興味を覚えた。
「伝説?」
「――はい、片思いの人にここで告白すると想いが叶うっていう……」
「ロマンチックよね――」
その時、夕焼けが木々の枝から差し込んでくる。
辺りが、紅く燃えた。
紅い光に彩られた二人の少女。
――その姿は、驚くほど大人に見えた。
(へぇ。やっぱ女の子なんだな…)
内心失礼な事を考える少年。
――ふと見ると、二人の顔が更に真っ赤になっていた。
夕焼けの所為だけではない。
赤い顔で、じっと少年を見つめていた。
「――ん、何だ?」
訝しげな顔で、少年は少女達に問う。
「べ、別に何でもないよ!」
「な、何でもないです!」
アワアワと慌てた様子で両手を上下にぶんぶん振り、姉妹は声を揃えてそう言った。
(き、キスしようかな、って思ったなんて、絶対言えない!)
(は、恥ずかし過ぎです、お姉ちゃん……)
少年に聞こえないよう、ぼそぼそと小声でそう言い合う姉妹。
――少年はそんな二人を見て、さらに首を捻るのであった。
「――今日は色々と御免ね、ネギ君。一寸はしゃぎ過ぎちゃったみたい……」
「いえ、いいんです。僕も結構楽しかったですから…」
「そう言ってくれると有り難いよ、ホント。――じゃ、また学校でね」
「はい、学校で会いましょう」
フラフラと頼りない足どりで女子寮に戻るネギ。
――あれから数時間、ネギは霧羽とダイダロスと共に学園中を走り回った。
…ネギ曰く、杖の数倍きつかったとの事だ。
(今度、何かお詫びしないと…)
反省しなきゃ、と霧羽は呟くように言った。
「ダイダロスも反省しようね」
……グオ。
霧羽に、力無く答えるダイダロス。
十分反省しているようだ。
「――あ、忘れてた」
ごそごそとポケットを弄り、茶色い物体を取り出す。
「これ、交番に届けるの忘れてた…」
ネギに会う前、道で拾った財布。
中身は結構詰まっている。
「これ落とした人、困ってるだろうな…」
基本的に霧羽はよい子である。
彼女の脳味噌には、【ネコババ】などという行動は記録されていなかった。
「今日はもう遅いから、明日行こっと」
少女とマシンは、夕日を背に受け、裏山へと戻るのだった。
「――あの道を真っ直ぐ行けば、衛宮さんの家が見えるです」
「僕たちの案内が無くても、もう大丈夫だよね」
双子は少年に、少し寂しそうに言った。
会って間もない三人だが、最早旧知の仲のように、親しくなっていた。
「おう、ありがとな。漸く、用事が果たせるぜ」
少年は、二人に礼を言い、示された道へと行く。
――その時、
「――あ! 大事な事聞くの、忘れてた」
唐突に、風香がそう言った。
「僕の名前は【鳴滝 風香】!」
「わ、私の名前は【鳴滝 史伽】です!」
二人はそれぞれ名乗りを上げ――
「「―――お兄さんのお名前は?」」
声を揃えて、言った。
少年は笑みを浮かべ、少女達に答えた。
「――俺の名前はロンチャオ。【五 龍朝(ウー・ロンチャオ)】だ。――またな。風香、史伽!」
少年の姿は、道の向こうへと、消えていった。
「う~。やっと着いた……。今日一日だけで、大分カロリー使ったよ――ダイダロス、暫らく散歩無しね」
……ガウ!?
霧羽の無情な一言に、ダイダロスは瞳に青色の光を燈し、打ちひしがれた。
「……ありゃ? 家の前に誰かいる。お客さんかな?」
霧羽の視線の先には、門の前に佇む一人の少年がいた。
「此処か、衛宮さんの家は…」
門の前で、一人呟く少年。
「――元気かな、アイツは? 創られて直ぐに引き取られちまったからな、会うのが楽しみだ」
――呟いたその時、
「……あの~、家に何か御用ですか?」
金髪の少女が、声をかけた。
見た瞬間、少年の顔が引き攣った。
「ダ、ダ、ダダダダダダ―――」
「?」
痙攣したように、奇声を発する少年に、霧羽は首を傾げた。
――次の瞬間、
「【ダイダロス】!? お前何やってんだ!!?」
霧羽に連れられた哀れな使い魔騎を見て、叫ぶ少年。
更に霧羽は、大きく首を傾げるのだった。
――新しき運命の来訪者達。
彼が姫騎士の運命に如何関わってくるかは、神様でも解りません。
穏やかな日常に、少しずつ暗雲が…
彼女たちの運命は如何に?
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