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ねぎFate 姫騎士の運命 第十二話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/20-23:44 No.568

――エヴァちゃん達とのいざこざから数日たった。
いやもう大変だったよ。
ネギ君は登校拒否になりかけるし、元気の無いネギ君を見て勘違いしたクラスの皆が大騒ぎするし(ま、結果的にネギ君が元気になったから良し)。
……其れに、あの犯罪オコジョ…(怒)。
アルベール・カモミールとか言ったっけ…
下着を二千枚も盗んだ罪を問われ、はるばる日本にまで逃げてきてネギ君を頼ってきたらしい。
来た早々問題を起こす、厄介な動物さんだ。
私の下着を盗んだだけでなく、のどかちゃんを誑かすなんて……
――次の日、お母さんのまで(スケスケのすっごいヤツ)盗んで、お父さんとお母さんに殺されかけてたけど。
流石に可哀想だから、今回は見逃しといてあげよう。
まあ其れは如何でも良いとして。
――問題はエヴァちゃんだ。
このままじゃ、何も解決しない。
出来るだけ、ネギ君たちの力に為ってあげよう。
……出来れば、エヴァちゃんたちとも仲良くしたいんだけどなー……
――まぁ、悩んでても仕方が無い。
取り合えず、今日はこの前テレビで見た新しい修行を試してみよう。
日本ではポピュラーらしいけど、効き目あるのかな?

~~~ある日の衛宮霧羽の日記から抜粋。
ちなみに絵日記(オイ)。


ねぎFate 姫騎士の運命 第十二話


「―――ったくもう!! 下着ドロのおこじょなんてとんでもないペットが来たもんだわ!」
怒気を孕んだ表情で、怒り心頭といった具合に文句をぶちまける明日菜。
原因は至極解り易い。
暖を取る為、カモが明日菜と木乃香の下着を勝手に拝借し、寝床にしていたのだ。
懲りない奴だ。
「まーまー、きっと布の感じが好きなんやろ」
このエロ生物の本性を知らない木乃香は、のほほんと明日菜を宥める。
――当の本人?(おこじょ?)は、ネギに注意されていたので、全く聞いていない。
業を煮やす明日菜。
そして、明日菜はワザとカモにだけ聞こえるよう声を潜め――

「――アルトリア先生と衛宮先生に言い付けるわよ」

――瞬間、カモの身体が電気に撃たれたかの如く、跳ね上がった。
一瞬でその白い体表は蒼白に変わり、ガタガタと震えだした。
もの凄い勢いで、冷や汗が滝のように流れ落ちる。
目は虚ろ、顔は恐ろしい程恐怖で固まっていた。
「すんませんッスすんませんッスすんませんッスすんませんッスすんませんッスすんませんッス、皮剥いで唐揚げだけは勘弁して下さいッス、もうしませんからもうしませんからもうしませんから油でからっとだけは……」
突然虚空に向かって、敬語口調で謝りだすカモ。
――きっと、彼には見えているのだろう。
煮えたぎる油の鍋と切れ味の良さそうな包丁を携えた、人外夫婦の姿が。
――何があった、カモよ。
木乃香は、突然震えだしたカモを見て、首を傾げる。
――そんなカモを、ネギと明日菜見は妙に優しく、カモを見詰めていた。


「――あれ? そう言えば霧羽は? 何時もならこの辺で、大声で私たちの名前を呼びながら走ってくるのに…」
「――霧羽なら今日は休みだ。何でも、修行だと称して延々と滝に打たれ続け……結果、風邪をひいたそうだ。全く、又テレビ見て影響されやがって、あの馬鹿……」
玄関に辿り着き、明日菜の誰にともなく言った問いに、突然現れた人物が答えた。
龍朝である。
呆れたような、顔をしている。
「ろ、龍先生!? 一体何処から……」
「おはよーございます、ロン先生ー」
唐突に現れた龍朝に、慌てる明日菜。
木乃香は明日菜とは対称的に、のんびりと挨拶をした。
「おはよう近衛、神楽坂。――ちなみに廊下の向こうからだ。偶々お前達の声が耳に入ってな―――別に出番が少ないから、無理矢理出てきた訳じゃないぞ」
先生の時は、出来るだけ口調を改めている龍朝(まだ乱暴だが)。
……お前、前回全く出番が無かったのを僻んでるな。
「当然だ」
……安心しろ。お前は後半活躍予定だからな。おいしいエピソードも用意してある。
「……本当だろうな」
ああ……主に鳴滝姉妹絡みだがな(ボソリ)。
「……今、何か途轍もなく不穏な一言が聞こえたような気がしたんだが…」
気のせいだ、さっさと本編に戻れ。
「……何時か実験材料にしちゃる」
「……先生、さっきから誰と話しとるん?」
傍から見れば、虚空に向かってブツブツと独り言を呟いているようにしか見えない。
――はっきり言って、異常である。
しかし木乃香は何時も通り、のんびりとした笑顔。
彼女はマイペースなのだ。
「ん、只の電波だ。――其れより近衛、さっき占い研究会の部員が、お前の事を探していたぞ?」
適当に誤魔化し、木乃香に言う龍朝。
木乃香は、あ、っと声を上げ、
「せやった。今日、部の方に用事があったんや。ありがと、先生――先行っててな、アスナ!」
パタパタと慌しく、部室へと向かう木乃香。
――その時、
「おはようネギ先生。――今日もまったりサボらせてもらうよ。フフ、ネギ先生が担任になってから、色々と楽になった」
エヴァンジェリン嬢、登場。
脇には、茶々丸が控えていた。
嫌味に笑うエヴァに、僅かに顔を蒼くするネギ。
「え、エヴァンジェリンさん、茶々丸さん!!」
思わず杖に手が伸びるが、其れを別の手が制す。
龍朝の手である。
「――落ち着け、ねぎ坊主。学校内で騒ぎを起こすのは、お互い好ましくねぇだろ? ――此処は、何もしない方が得策だ」
ネギの頭を軽く撫で、龍朝はエヴァ等に向き直る。
「――ま、そういう訳だ。お互い仲良く……とまではいかないが、学校内でのいざこざは避けようぜ、お二人さん」
油断無き笑みで、言う。
「――ふん。貴様が学園長の言っていた新任の保健医か。…あの偏屈揃いの五一族の御曹子が、態々日本に来るとは――時代も変わったな」
鼻で笑い、揶揄するような言い方をするエヴァ。
言われた龍朝は面白く無さそうに、
「喧しい。あの変人どもと一緒にするな、俺はノーマルだ」
吐き捨てた。
如何やら、彼の一族は変人だらけらしい。
何か納得。
「……まあ、いいだろう。――そうそう、タカミチや学園長や衛宮夫妻に助けを求めようなどと思うなよ。また、生徒を襲われたりしたくはないだろ?」
尊大に言い、エヴァは笑いながらその場を去るのだった。
茶々丸も、礼儀正しく会釈し、その後に続く。
――そして、何も言い返せなかったネギは、泣きながらその場から走り去るのだった。
その後を、明日菜とカモが追う。
――あっという間に、場が静かになった。
唯一、その場に残った龍朝は…
「腐っても真祖、か。あの小娘……とんでもない気配の持ち主だ。全盛期verだったら、俺が全力出しても敵わないだろうな…」
首筋に掻いた汗を拭う、龍朝。
一瞬見せた、鋭い眼差し。
首筋が、冷やりとした。
少々腑抜けたとはいえ、未だに裏の世界の生きた伝説――【闇の福音】は健在のようだ。
「―――…場合によっては、俺も全力で出張るか…」
重々しい溜息を吐き、龍朝は歩き出す。
「多分、今日も来てるんだろうな……。全く、風香と史伽め……毎日毎日始業前に保健室に来やがって…。しかも、お茶と菓子までせしめていきやがる……」
仕様がねぇな、と愚痴る口調とは裏腹に、ちょっと嬉しそうな龍朝。
満更でもないようだ。
――遠くの方で強い光――ネギと明日菜の仮契約(中途半端)の光――が、見えた。


茶々丸は、歩いていた。
あの後、マスターであるエヴァは高畑に呼ばれ、学園長の所に行ってしまった。
そして彼女は、何時もの場所へと出掛ける。
沢山の缶詰が入った袋と、背広の上着が入った紙袋を提げて。
――あの夜出会った、謎の青年の上着。
何処に住んでいるか解らないので、街に出掛ける度に洗濯した其れを持って出るのだ。
――彼女は、歩いていた。
来る途中、困っている少女の風船を取ってあげたり、困っている老人の手助けをした。
何時もの事である。
何故か茶々丸は、そんな人達を放っておけないのだ
機械の身である茶々丸。
しかし、その心は誰よりも純粋で、優しい。
だから彼女は、街の人気者である。
――暫らく行くと、川沿いの道に出た。
橋の上で、大勢の人が騒いでいる。
何事だろうと、川を見てみれば――

子猫が、流されていた。

流れに漂うダンボールの中で、一匹の子猫が鳴いていた。
まだ幼い所為だろう、呑気な顔で、鳴いていた。
茶々丸は、反射的に柵を飛び越え、川縁へと向かっていた。
――猫を助ける為に。
しかし、

「―――とうッ!」

人ごみの中から現れた男が、茶々丸よりも早く川に飛び込んだ。
川は浅く、腰までしかない。
濡れる事も厭わず水を掻き分け、男は素早く子猫を確保。
――猫を頭に乗せて縁に戻ってきた。
周りの人々は、男に拍手喝采。
男は曖昧に笑いながら其れらに答え、ずぶ濡れになったズボンの裾を絞った。
白いYシャツに、黒いスーツのズボン。
何故か、上着を着ていなかった。
――ふと、茶々丸は気付いた。
男の髪の色――白金の如き銀色の髪に。
あの夜、自分にこの上着を渡した男と、同じ髪の色だという事に。
茶々丸は、漸く気付いたのだった。


「危ない所でしたね…」
猫を頭に乗せたヘダタリは、呟いた。
最近、日雇い労働のバイトを始めたヘダタリ。
夜を徹した労働が先ほど漸く終わり、帰路についていた所だった。
――そして、流されている子猫を見つけ、現在に至るという訳だ。
女子供動物に優しくするべし。
彼の【紳士道】の一つである。
――見た事も無い子猫だ。
子を持つ母猫からの捜索は、彼の知る限り出ていない。
――後で、その筋の奴に問い合わせる必要がある。
更に…
「――コインランドリーに行きませんと…」
――…いや、その前にこの子のご飯ですかね? と呟きつつ、ヘダタリはその場を後にしようとする。
しかし――

「……あの…」

ヘダタリに、声をかける少女が。
緑髪の、無表情な少女。
耳の部分にアンテナ、後頭部にネジと、一般人なら?ってな顔をする装飾だが、色んな意味で普通ではないこの男は少しも気にしない。
――ヘダタリは首を傾げる。
脳内の人物検索開始。
――終了。目の前の人物特定完了。
心のオアシス、【Evangeline.A.K.McDowell】の従者【絡繰 茶々丸】と特定。
(……はて、私はまだ彼女とは面識はありませんが……?)
別にエヴァの従者だからといって、ヘダタリは茶々丸に特別な感情は抱いていなかった。
誰かを通して、別の誰かを見ることは彼のモットー【紳士道】に反するからである。
彼は茶々丸の事を、一個の存在として認識していたのだ。
(確かにMs.茶々丸をパイプにして、Ms.エヴァンジェリンと接触するのも策の一つですが……其れは【紳士道】に反します。何より、Ms.茶々丸を道具扱いしていますしね。……やはり此処は、運命的な出会いで行かなければ…)
女性には礼を尽くし、大事にするべし。此れも彼の信条である。
出会いには遅刻とトーストは欠かせませんね、と虚空を見詰めて不気味な笑みを浮かべるヘダタリ。
目茶苦茶怪しい。
しかし、茶々丸は別段気にせず、
「――先日は、どうもありがとうございました」
深々と頭を下げた。
「え? いえいえどう致しまして」
つられて、訳も解らずヘダタリも頭を下げた。
「あの……此れ…」
茶々丸は、手に提げていた紙袋をヘダタリに手渡した。
首を傾げつつも、受け取るヘダタリ。
中には……自分の背広が入っていた。
其れを見て、更にヘダタリは首を捻った。
(…はて? 何故にMs.茶々丸が私の背広を? 確かこれは先日の夜、見知らぬお嬢さんに……)
――思考中。
一秒経過。
二秒経過。
三秒――そして……
「――ああ! あの時の!! 成る程、漸く合点がいきました。まさか、貴女があの夜の心優しいお嬢さんだとは……。態々私の背広まで――どうも有り難うございます」
漸く思考が纏まったヘダタリは、茶々丸に礼を言った。
屈託の無い笑顔で、素で茶々丸に微笑みかけるヘダタリ。
僅かに、茶々丸が動揺した。
しかし、ヘダタリは全く気が付かない。
鈍いのだ、こいつは。
「――ああ、自己紹介がまだでしたね。私の名は【ヘダタリ】と申します。姓は無いので、気にしないで下さい。――さて、貴女のお名前は?」
茶々丸の様子に頓着せず、名を知っているにも関わらず問い掛けをするヘダタリ。
流石に名乗る前に名を知っていては、怪しまれる可能性があるからだ。
「……【絡繰 茶々丸】といいます…」
――運命の分岐であった。


「ど、どこへ行くんでしょう…?」
「さあ…?」
密かに茶々丸とヘダタリの後を尾行している、ネギと明日菜それとオマケのカモ。
二人と一匹の視界には、穏やかに談笑する茶々丸とヘダタリの姿が。
もっとも、話題を振るのは主にヘダタリで、茶々丸は頷いたり相槌を打つだけだが、いい感じに会話は成立していた。
「…処で、あの男の人は誰なんでしょう?」
「さあ? 私も見覚えないけど……」
実際、ヘダタリは見た目は結構――いや、かなり美形だ。
性格も、暴走しなければかなり人の良い紳士然とした性格。
――誰も、彼がある密命を帯びた刺客だとは気付かないだろう。
だって、本人も忘れてるし。
「――あ、角を曲がった。とっとと行くわよ、ネギ!」
「ま、待って下さい、アスナさーん!」
「尻に敷かれてるな、兄貴……」
何時も賑やかである。
しかし、よくばれないな?


「――此処は……」
その場所に来たヘダタリは、少し驚きを見せた。
人気の無い、大きな広場。
穏やか日差しが差し込み、陽だまりとなっているその場所は、何だかとても心が安らぐ。
猫や鳥達が思い思いの場所で身体を休め、のんびりと過ごしている。
まるで此処は――小さな楽園のようだ。
徐に茶々丸は、持っていた袋から何かを取り出した。
幾つかの猫缶と缶切り、其れにお皿。
そんな茶々丸の姿を見て、何匹かの猫達が駆け寄ってくる。
皆子猫か、其れらから少し成長した、年若い猫だ。
猫達は、甘えるかのように茶々丸に擦り寄るのだった。
「……慕われているのですね。皆、貴女の事が好きだと言っていますよ」
傍に来た猫を撫でつつ、ヘダタリが言う。
茶々丸は、少し驚く。
「猫の言葉が、解るのですか?」
「なんとなく、ですよ。最近妙に懐かれましてね、其れからぼんやりとですが、言いたい事が理解できるようになったのですよ」
苦笑し、ヘダタリは何でもないように言う。
「此処は良い所です。皆穏やかで、安らげる。暫しの休息所には、うってつけですね」
――落ち着きます、とヘダタリは茶々丸に微笑を向ける。
茶々丸も、少しぎこちないが、小さな笑顔を浮かべた。
「――さて、レディだけを働かせるのもなんですから、私も手伝うとしましょう」
そう言って袋から缶詰と予備の缶切りを取り出し、茶々丸の隣に屈むヘダタリ。
二人は暫し、無言でキコキコと缶を開けるのだった。

「………」
「…いい人だ…」

――そんな二人の様子を物陰から覗き見ていたネギと明日菜。
思わず、ほろりときちゃいました。


「……日が、暮れてきましたね…」
僅かに赤らんできた空を見上げ、ヘダタリが呟くように言った。
「そろそろ、帰らなければなりません」
塒に戻っていく猫達を見やり、言うヘダタリ。
先ほど助けた子猫も、此処で出会った別の猫に連れられて行く。
「――そう、ですか…」
皿と空き缶を片付ける茶々丸。
その表情は、微かに残念そうな色を浮かべていた。
「何、縁が在れば又何処かで会えますよ。お互い、非常識的に広いですが同じ街に住んでいるんですし。其れに、既に貴女と私は同じ志を持つ者――つまり心の友と書いて【心・友!】なのですから絶対に会えます、断言してもいいです!」
後半は非常にエキサイティング気味に言うヘダタリ。
ちなみに彼の言う志とは、【エヴァンジェリンへの想い】という意味である。
しかし、ヘダタリよ。
その台詞はちと不味いぞ。
――此れを天然でやっているのだから、余計性質が悪い。
「……そうですね」
少しの間。
そして、茶々丸は立ち上がり、
「――今日は、有難うございました」
「いえいえ。――では、また何処かで」
ヘダタリは、茶々丸に背を向け、夕日に照らされた小道へと消えていった。
ヘダタリの姿が見えなくなるまで、茶々丸はその方向を、ずっと見続けるのだった。
――そして、暫し経ち……

――ザッ…

影が二つ、現れた。
ネギと明日菜だ。
「……こんにちわ。ネギ先生、神楽坂さん」
――新たな戦争が、始まる。


――大気が震え上がる。
「………っ!?」
ヘダタリの足が止まった。
強い魔力の動き――しかも、
「――広場から……まさか…!?」
嫌な予感がした。
全神経を集中し、魔力を解析。
――系統、契約執行による魔力供給・魔法の射手の詠唱パターン確認。
パターン、データ(エヴァのもの)と一致せず。
計測結果、二対一による戦闘。
――結論、広場にてエヴァンジェリン以外の者が戦闘を開始。
絡繰茶々丸が当事者の可能性、高確率。
「――此れは…」
ヘダタリの目から見て、この戦闘で茶々丸が勝てる確率は低い。
何故なら、幾ら強くても茶々丸は従者。
力を与える魔法使いがいない上に、相手は用意万全な魔法使い&従者のタッグ。
差の在り過ぎる二対一。
勝ち目が、極めて低い。
「――だから如何したというのです。今私が行っては、隠密行動に差支えます。――確実に私は…」
殲滅対象に、なってしまう。
元々、この街には暗殺の任務で来たのだから。
ヘダタリは忘れていなかった。
本来の目的を、自らの任務を。
――しかし、忘れていたかった。
逆らえないから、やりたくないから。
昔の何も感じない、空っぽな自分ならいざ知らず、紳士に目覚めた今の自分にとって、好ましくない任務だから。
――これ以上、他人も自分も傷付けたくないから。
殺したくないから。
――彼は、ひょんな事から他者を愛する事を知った。
よって傷付く怖さ、傷付ける怖さを知った。
がらんどうだった自分、色んなもので満たされた自分。
昔の自分、今の自分。
何も無い自分、ある自分。
どっちが、良かったのだろう…
「…このまま、愛する人を追って自由気ままなライフを満喫したいですね…」
策を練るフリをして、ワザと見逃す。
長くは続かない策。
主らに見破られれば、確実に自分が抹消される
それでもいいかな、と半ばヘダタリは決心していた。
自由になれないのなら、死んだ方がいいかも、と。
――まぁ、エヴァに関しての奇行の殆どは、地なのだが…
「――今行けば、確実に彼らと顔を会わす事に為ります。……誤魔化しは、効きませんね…」
言い逃れは出来ない。
契約に縛られた自分は、来るべき状況が来れば、命令をこなさなければならない。
策士として、十絶書として。
今のぬるま湯のようなその日暮らしを、捨てなければならない。

仲良くなった野良猫たち。
顔見知りなったホームレスのオジサンたち。
工事現場の同僚。
よくおかずを分けてくれる近所のおばちゃん。

……彼らを含めたこの街全てが、彼の敵となる。
しかし…
「――私は…」
ヘダタリの脳裏に、ある光景が浮かんだ。

――猫と戯れる、自分と茶々丸。

彼女は、僅かながら色々な表情を見せてくれた。
短い付き合いだが、ヘダタリは始めて思った。
此れが、友達なのかな? と。
「……私は…」
――問いに、答えるものはいなかった。


(……ここまでですか)
迫り来る光の連弾を見つめ、茶々丸はそう思った。
最早避けきれない。
まともに喰らえば、自分は完膚なきまでに破壊されるだろう。
――まるで他人事のように、茶々丸はそう判断していた。
(マスターに、猫の餌やりを……)
それと、
「…すいません、ヘダタリさん。もう会えそうにありません……」
――茶々丸の、その呟きを聞き、ネギは反射的に魔法の矢を呼び戻そうとした。
――しかし、もう遅い。
矢は既に、茶々丸の目前に――

「――“界壁”」

――ズドガガガガガガ……ッ!

突然現れた空間の壁が、全ての矢を防いだ。
茶々丸を、護るかのように。
――辺りに、水蒸気が立ち込める。
ネギと明日菜と、脇で見ていたカモは、その突然の出来事に驚愕した。
「――な!? 兄貴の攻撃が全部防がれたッ!!」
カモには信じられなかった。
ネギの強力な魔法弾が、苦も無く全て防がれたのだから。
通常の障壁でも、此処までの防御力は無い。
呪文詠唱も無しに、此処まで強力な障壁が張れるとは……
――その時、煙が晴れた。
其処には――

「……いけませんね。女性には優しくしなければ。其れでも英国紳士ですか、Mr.ネギ・スプリングフィールド」

黒スーツを身に纏った、銀髪の男が。
「――誰ですか、あなたは!? ……何故、僕の名前を…」
突如現れた謎の男を、警戒するネギ。
見た目は先ほど茶々丸の隣に居た男と同じ。
――しかし、雰囲気が全く違う。
冷徹な、抜き身の刃のような気配。
死神のような、気配だった。
「いえいえ、私は只の行きずり――」
ヘダタリはネギと明日菜を見据え、
「――そして、代え難い友を助ける、一人の紳士ですよ」
にこやかに、笑う。
――その金色の瞳は、【死】の気配を湛えていた。
「始めまして、私の名は【ヘダタリ】と申します。紳士を自負する、哀れな精霊でございます。――【十絶書】が一冊、【界隔】を司る者です」
バカ丁寧に名乗り、頭を下げるヘダタリ。
――ネギと明日菜の顔が硬直した。
十絶書――自分らの命を狙った、謎の存在。
其の十絶書の、新たな刺客が、目の前に現れたのだ。
二人は、緊張で身構えた。
「――そう身構えなくても。今日は単なる顔見せ、何も致しません。――紳士は常に正直でいなければ。そして此れは――」
右手を上げ、中指と親指を合わせ、

「――宣戦布告です」
『――“界刃”』

鳴らした。
次の瞬間――

空間が、割り開かれた。

ネギと明日菜の間の空間を、見えない何かが通り過ぎた。
凄まじい轟音と共に、地面と背後の造形物が―――いや、見えない何かの通り道に在った【全ての空間】が、真っ二つに斬り割かれたのだ。
圧倒的な攻撃力。
ネギと明日菜は、目を見張る。
「――一直線上の全ての空間を隔てる、次元の刃です。空間上に存在するものは、何であろうと斬り割きます」
そう言い、ヘダタリは後ろを振り向く。
其処には、呆然としている茶々丸の姿が在った。
ヘダタリは、悲しげに笑い、
「――すいません、Ms.茶々丸。如何やら、次に会う時は戦場のようです」
『――“界渡”』
空間と空間を繋ぎ、一瞬で消えた。
残された茶々丸は、
「………ヘダタリさん…」
真意の見えぬ表情で、ポツリと呟くのだった。
「……兄貴、今のはいってぇ…」
「…エヴァンジェリンだけでも大変なのに…何でこんな時に…」
状況を掴めず困惑するカモ。
次から次にやってくる厄介事に、嫌になる明日菜。
「………」
ネギは何も言えず、その場に立ち尽くしていた。


その頃の衛宮家……

「ごほごほ……頭痛いよォ~~…」
頭に氷嚢を乗っけた、典型的な風邪ひきスタイルで寝込む霧羽の姿が……
「霧羽、お粥出来たぞ」
「林檎が剥けましたよ、キリハ」
風邪の定番食品を持ってくる士郎とアルトリア。
「ありがと~…」
真っ赤な顔のまま起き上がり、ゆっくり食べる霧羽。
「全く、あの程度で風邪をひくとは……まだまだ精進が足りませんよ、キリハ」
「いや、そう言う問題じゃ無いから…」
素でボケる妻に、突っ込む夫。
文字通り、夫婦漫才である。
「ごほごほ……やっぱりお父さんのご飯は美味しい~~…」
熱でタレている霧羽。
……知らぬが仏である。
早く風邪を治さないと、本気でやばいぞ霧羽。


――さて、とうとう動き出した魔導書。
彼には彼の、想いが在るのです。
其の想いが如何いう結果を残すのか……運命は、ただただ廻り続けるだけです。
――夜明けは来るのでしょうか?

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第十三話

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