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ねぎFate 姫騎士の運命 第十三話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/21-19:05 No.574

――麻帆良の一角の、ある極普通のカフェ。
其処に、一人の少女が居た。
名を、絡繰茶々丸。
目の前に飲めない筈のコーヒーを置き、寡黙に鎮座していた。
――その表情は、微かに憂いを含んでいた。
「ヘダタリさん……」
紡がれるは、会って短い男の名。
茶々丸の心に、大きな変化をもたらした存在。
彼女の記憶メモリに、彼が去り際に見せた笑顔――痛々しい、悲しげな――が、繰り返し再生されていた。
――彼女の思案は、主であるエヴァが来るまで続いた。


ねぎFate 姫騎士の運命 第十三話


――所変わって、学園から離れたある山の中……
草木が生い茂り、自然石と渓流が所狭しと存在する其処を、一つの影が駆け抜けた。
軽快に山中を駆け回るその姿は、まるで若鹿のような、野性味がある。
母譲りの鬣の如き長い金髪を麻紐で後ろに括り、父と同じ強い意思を秘めた瞳を輝かせ、若き戦士は野を駆ける。
服は今では珍しい、露草色の着流し。
戦士の名は、【衛宮 霧羽】。
今彼女は――

「待てェ―――ッ! 今日のお昼御飯――!!」

……餓えた眼差しで、大きな雄猪を追い駆けていた。
微妙に猪は、涙目である。
風邪が治り休日という事もあって、リハビリがてらに山篭りに来た霧羽に出会ったのが、運の尽きである。
――目茶苦茶不運だったな、名も無き猪よ…


同時刻、上空。
曇り一つも無い青空に、一つの影が浮かんでいた。
空とは裏腹に、杖に騎乗した影――【ネギ・スプリングフィールド】――の表情は曇っていた。
原因は――昨日の出来事。
新たなる刺客、ヘダタリの登場。
エヴァだけでもネギにとってはかなり重い問題なのに、其れを上回る問題。
自分がエヴァに狙われている為、他の人に危害が及ぶ。
自分が十絶書に狙われている為、他の人の命が危険に晒される。
自分が幼く、弱いから。
自分が此処に居るから――
だから、自分が居なくなれば――
何処か、遠い所へ……
「……でも、いつまでも逃げられる訳じゃないし…」
如何したらいいんだろう?
――この時のネギは、少し欝だった。
よって、彼は何時もなら先ず在り得ないミスをした。
――つまりは、

――バシィン!?
「!?」

前方不注意及び低空飛行による、巨木との接触事故。
太い木の枝に弾かれバランスを崩し、ネギは墜落。
――杖はその拍子に手から離れ、あさっての方向に飛んでいってしまった。
そのままネギは、森の中へと消えていった。


「――とうとう追い詰めたわよ…」
投影で出した青龍刀を上段に構え、霧羽は言う。
目の前には、恐怖でコチコチに固まった猪。
左右は大岩に阻まれ、背後には清流――しかも深い。
逃げ場は、無い。
哀れ、猪。
「全く手間掛けさせて……大丈夫、そんなに怖がらなくていいよ。――ちゃんと残さず全部食べてあげるから♪」
フォローになってない。
舌なめずりをしつつ、霧羽はじりじりと間合いを詰める。
目が血走ってるぞオイ。
――実を言うと、霧羽は今日朝ご飯を食べていなかった。
何故なら、此れも修行だと、アルトリアに朝早く家から叩き出された為、食べる暇が無かったのだ。
よって、今の霧羽はかなり餓えており、危険である!
例えるなら、餓えた騎士王の五分の三ぐらいだ!
「ウフフフフフ……」
壮絶な霧羽の笑顔に、普段は勇猛な若き雄猪も形無しだ。
目から滝のように涙を流し、少しちびっていた。
――半ば、彼は諦めていた。
きっと自分は丸ごと炎に焼かれ、こんがりと香ばしい丸焼きになるのだろう。
恐らく、骨も残らない。
――猪は思った。
せめて、こいつの胃にもたれてやろう、と。
中々後ろ向きな、思考だった。
しかし、神の気紛れだろうか。
――空から、救済の使徒が現れた。

「―――落ちるーっ!?」

救済の使徒――墜落中のネギは狙ったかのように、見事霧羽の後頭部にダイレクトに命中。

ずんばらががめっしゃん!!?
「――■■■■―■■ッ!!」

余りの痛さに、霧羽は最早人語では判別できない叫びを上げ、のた打ち回った。
ネギは――気絶していた。
如何やら、障壁も役に立たなかったみたいだ。
ネギを背負う形で、痛さの余り激走する霧羽。
そしてそのまま二人は――

清流へ、突っ込んだ。

大きな水音と共に、盛大な水柱が上る。
――そして辺りに、静寂が戻った。
この日、猪は始めて神に感謝したのだった。
数年後、この猪が森の獣達に【森の賢者様】と呼び慕われるようになるのだが、はっきり言って如何でもいい事である。


ドドドド……
「――ふう。木の実は此れ位で良いでござるな…」
巨大な滝の畔。其処に在る大岩の座。
女子中学生兼忍者【長瀬 楓】は、腕一杯に山の木の実を抱え、満足気に頷く。
彼女も、この山に修行しに来たのだ。
「さて、次は岩魚でも…」
その時…

…ぷかぷか……

上流から、何かが流れてきた。
金色の何かと、茶色い何か。
うつ伏せに浮かんだ其れ等は、ぴくりともせず、ただただ流されるのみ。
――楓は、一瞬目を疑う。
……疲れているのでござるか?
一度目を閉じ、深呼吸。
一回では終わらせず、二回三回と大きく息を吸い、吐く。
――再び目を開けると其処には、

金色と茶色の物体。

心なしか、先程より少し沈んでいた。
しかも、周りの水が少々紅く染まっていた。 
――暫し思案。
よく見ると、謎の物体は服を着ている。
という事は、此れは人間。
……しかも、何処かで見た事がある。
――そして、楓は漸く気付いた。
これ等の、正体を。
次の瞬間には――

「ね、ネギ坊主に霧羽殿!? 今、助けるでござる!!」
 
川に飛び込んでいた。
――如何でも良いけど早よ気付け。


「「―――くちゅんッ!」」
ずぶ濡れになった服の代わりに毛布を纏い、ネギと霧羽は大きくくしゃみをした。
――少しネギの魔力が暴発するが、何時もの事である。
「…ごめんなさい、霧羽さん。僕のせいで……」
「別にいーよ。事故だったんだから、誰の所為でもないよ」
頭にでっけぇ絆創膏を貼り付け、朗らかに笑う霧羽。
其のシュールな姿にネギも、曖昧に笑い返す。
「しかし、楓ちゃんも此処に修行に来てたなんて……世間は狭いねぇ」
「そうでござるな」
かつて、刃を交えた二人。
私怨ではなく、己が力量を極める為、力と技をぶつけ合った二人。
二人は、今は快い笑みで言葉を交わしていた。
「――そう言えば、ネギ坊主はこんな山奥で何を?」
何気ない楓の問いに、ネギは固まった。
言えない。
自分の弱さを、身勝手さを。
――年上とはいえ教え子に、言えなかった。
口に出すと止まらなくなりそうで、怖かったから。
暗い表情で、俯き黙り込むネギ。
――何となく、沈黙が漂う。
「……ん~、そだ! ネギ君、私達と一緒に修行しない?」
暗い空気を打ち払うように、明るく言う霧羽。
すかさず、楓も笑顔で同意。
「其れはいいでござるな。基本的に山の修行は食料集めが主でござる。――腹も減っているようだし、丁度良いでござる」
ネギは何か言おうとするが、タイミングを計ったように腹の虫が鳴り、言葉を押し返した。
――こうしてネギは、霧羽と楓と共に修行する事となった。


「うわー、一杯い………ヒィ!?」
「うふふふ……ご飯が一杯…」
ヤバイ眼つきで岩魚を見つめる霧羽に、異様な気配を覚え後退るネギ。
彼の脳裏に、図書館島前での出来事がリフレインした。
「……あ~、霧羽殿。少し気を抑えて欲しいでござる。岩魚は警戒心が強い為、そんな異様な気配を振り撒いていたら、直ぐ逃げちゃうでござるよ」
額を押さえつつ、疲れたように言う楓。
瞬間、異様な気配が霧散し、霧羽の表情が何時ものモノに戻った。
「あははは、御免御免。朝から何も食べてなくて、つい……」
顔は戻ったが、まだ口から涎が……
とっとと採らねば、ヤバイ。
ネギと楓の思いは、シンクロした。
楓は徐に三本のクナイを取り出し、岩魚が水面に上がって来る所を見計らって……

――ゆらぁ…

――投擲した。
見事、クナイは岩魚に突き刺さり、水音と立てて跳ね上がる。
あっという間に、楓の手に岩魚の刺さったクナイが握られた。
まだ生きているらしく、いい感じにピチピチしていた。
「ほい、三匹。――ま、こんな感じでござるよ」
「やるね、楓ちゃん。じゃあ、私も……」
そう言って霧羽は、愛用の投擲武器である黒鍵を………って、オイ!
「霧羽さん!? そんな物投げたら魚が粉々になっちゃいますよ!」
投擲体勢に入る霧羽に、思いっきり突っ込むネギ。
「そう? んじゃ、こっちにしよっと」
気を取り直し、今度は短剣を取り出す霧羽。
黒塗りの、細身両刃の簡素な短剣。
彼女の知識ではなく、以前紅い記憶から取り出した短剣。
其れを、幾つも投影。
「――疾ッ!」
見事、十指から放たれた黒の閃光は、岩魚の背を捉えた。
その数、六。
「よし、Get♪」
六本の短剣を拾い上げ、霧羽は微笑む。
…短剣が強すぎたのか、完全に串刺し状態となった岩魚を手に、舌なめずりをする美少女。
ビジュアル的になんか嫌だ。
――そして、

「…やるでござるな、霧羽殿…」
「別に。これくらい出来て当然でしょ?」

対抗意識を燃やす楓。
其れを無意識に煽る霧羽。
…………沈黙。
もう、この先の運命は既に決定している。

「「……………勝負ッ!!」」

二度目の激突である。
勝負の内容は、【制限時間内に、どちらが先に規定量を確保できるか(資源の採り過ぎを考慮して)】と、なった。
――勝負は、熾烈を極めた。
端的に記すと、

空を舞い、回転と同時に幾本ものクナイを射出する楓。
和弓を使い、鎖の付いた短剣を数本連続で撃ち出す霧羽。
其れ等に、涙目で突っ込みを入れ続けるネギ。

――ネギ、頑張れ。


結局魚採りは引き分けに終わり、大量に採れた魚の丸焼きで腹ごしらえを終えた三人は、続いて次の食材を求めた。
――山菜採りは分身という必勝スキルを備えた楓の勝ちに終わり、キノコ採りではネギと霧羽が足を滑らせ、危うく命を落しかけた。
めげずに行った蜂蜜採りでは、森のボスである隻眼の大熊と出くわし、楓と霧羽は死力を尽くし、死闘を極めた。
其の間ネギは、傍で小熊達の遊び相手をしていた。
久し振りに癒される時間であったそうだ。
――まぁ、その後も色々トラブルはあったが、中々楽しい一時が過ぎた。
暗い表情だったネギも、終盤の方では明るい笑顔を見せていた。
そんなこんなで、―――今日も、山の日が暮れる。
「い――湯でござるな、ネギ坊主」
「………」
何処から拾ってきたのか、大き目のドラム缶に湯を満たし、露天風呂としゃれ込むネギと楓。
ネギの顔は茹蛸よりも赤くなっている。
何故、風呂に入っているかと言うと、汗と汚れでドロドロになったのだ。
――混浴の理由は定かではない…
「――しかし、露天風呂とは……意気だねぇ、楓ちゃん」
狭い為、あぶれた霧羽は湯加減調節係となった。
にこにこしながら、団扇で火を扇いでいた。
「…けど良かったー。ネギ君、元気になって。ここんとこ元気が無かったから、心配してたんだよ」
「え……」
霧羽の言葉に。一瞬呆気にとられるネギ。
「大丈夫、ネギ君は一杯頑張ってるから……絶対大丈夫だよ」
慈愛の笑み。
「……でも、僕なんか全然駄目先生です。今日だって、故郷に逃げ帰ろうかと考えたくらいで…」
其処まで言って、ネギは深々と溜息を吐く。
自己嫌悪である。
「おやおや、また落ち込むでござるか」
ネギに、何時もと変わらぬ――しかし優しげな――細目を向ける楓。
「……思うにネギ先生は、今まで何でも上手くやって来れたけど、此処に来て初めて壁にぶつかったでござるな。――如何していいか解らず、戸惑っているのでござろう?」
的を射た楓の見解に、ネギは驚きの表情を見せた。
続くように、霧羽が口を開いた。
「ネギ君はまだ十歳なんだから、壁にぶつかって当然だよ。誰だって壁を見ると逃げ出したくなる……だから、私はネギ君を情けないなんて思わないよ」
だって、と霧羽は言葉を紡ぐ。
「私だって、壁にぶつかってる最中だから……」


其の頃、都市内部では…
――桜ヶ丘4丁目29……つまり【Evangeline.A.K.McDowell】宅。
此処の主であるエヴァは、床に臥せっていた。
呪いにより弱体化した肉体――其の所為で彼女は、病にかかってしまった。
病の名は、【風邪と花粉症】………吸血鬼として如何かと思うぞ。
まあ其れは兎も角、突然熱を出し、倒れたエヴァ。
従者である茶々丸はエヴァを寝床に寝かし、一通りの医薬品を買いに外に出ている。
――つまり、この家の中には、彼女以外の人物は居ないのだ。
しかし…

熱の所為で深い眠りに入っている彼女の枕元に、一人の男が立っていた。

黒いスーツを着た、闇の中でも輝きを失わない、銀の髪と金の瞳の男性。
――魔導書の精霊、ヘダタリである。
今彼は、持参した品物をベッドの脇に置き、濡れたタオルをエヴァの額に載せていた。
ひんやりとした心地良い感触に、夢うつつのエヴァは僅かに顔を緩めた。
「…此れで良いでしょう。――汗を拭いた方がより効果的なのですが、今回は時間が有りませんので…」
口調は穏やかだが、目から夥しい量の血の涙を流し、断腸の思いで言うヘダタリ。
本当は服を脱がせて汗を拭いて上げたかったのだが、時間が無い&紳士道に反するという事で今回は諦めたのだ。
「…Ms.エヴァンジェリン。私は、貴女と戦いたくありません――いえ、本心を吐露するなら、Mr.ネギ・スプリングフィールドやMs.神楽坂とも戦いたくありません。――しかし…」
悲しげに目を伏せるヘダタリ。
「――主との契約により、指令は絶対不変。かならず、遂行せねばなりません。逆らえば、私の理性は奪われ、狂戦士となって命令を完遂するでしょう……」
十絶書の中でも、ヘダタリに施された契約は特別なものであった。
以前、自我に目覚めたヘダタリは主の命令を拒否し、多大な被害をもたらした事があった。
其れを重く見た主人が、絶対に逆らう事の出来ない特別な呪印契約を、ヘダタリに施したのだ。
故に、ヘダタリに自由は存在しない。
命令は、絶対なのだ。
「……願わくば、貴女方に幸いが在らん事を…」
其の言葉を最後に、ヘダタリの姿は闇に消えた。
――翌日、エヴァは首を傾げる事となる。
送り主不明の、小さな花束と桃の缶詰を前にして。


「……霧羽さんにも、壁があるんですか?」
何時に無くシリアスな彼女の台詞に、ネギは目を丸くした。
「そりゃそうよ。年中ぶつかり続けて、暇無しよ。――だけど、私は諦めないけどね」
「…以前言っていた、【友達百人】の事でござるか?」
霧羽に問う楓。
霧羽は苦笑いを浮かべ、
「其れもだけど、もう一つあるの。私の目標は……」
空を見上げ、遠い目をする霧羽。
一体、其の瞳は何処を見詰めているのだろうか?
「――目標、ですか?」
興味を持ち、ネギは霧羽に問い掛けた。
「うん、目標。はっきり言って、ちょっと大変だけど、絶対叶えたいんだ…」
言う霧羽の瞳は、とても輝いていた。
父譲りの其の虹彩の色は、情熱の炎で一際色鮮やかに燃える。
――そして、霧羽躊躇いがちに言った。

「……私ね、お父さんとお母さんより強くなりたいんだ…」

瞬間、ネギと楓の表情が固まった。
霧羽の両親――【衛宮 士郎】と【アルトリア・エミヤ】。
戦っている姿は一度しか見た事は無いが、其れでも充分過ぎるほどの力を見せ付けた。
学園長曰く、【学園最強の夫婦】。
そんな化け物染みた二人を目指すとは…
「――私、小さい頃からずっとお父さんとお母さんの背中を見て育ってきたんだ」
ポツリと、呟くように言う霧羽。
「何時も、お父さんとお母さんは私を護る為に、背中を見せて戦ってくれたの……だから、お父さんとお母さんの背中って、すっごく大きく見えた……」
昔、この世界に着たばかりの衛宮一家には、敵が多かった。
其の為、生まれたばかりの霧羽を狙う事件が多発し、其の度に士郎とアルトリアは、刃を振るい霧羽を護ったのだ。
「どんなに傷付いても、どんなに辛くても、お父さんとお母さんは倒れなかった。だけど、お父さんとお母さんが傷付く度に、私は何となく心が痛かった。【私が弱いから、何も出来ないからお父さんとお母さんが傷付くのかな…】って、何時も思ってた」
思い出されるは、過去の事。
多種多様な刺客たちが繰り出す一撃を、不可視の斬撃にて斬り伏せる母。
虚空から無数の剣を呼び出し、暴風雨の如く敵に叩き付ける父。
其の身体は、血と傷に塗れていた。
自分は、そんな光景を只震えて見詰めるしかなかった。
其れが、とても嫌だった。
父と母が傷付くのを、見ているだけの自分が。
何も出来ない自分が、嫌だった。
「だから、私は決めたの。【強くなる】って。何時か、お父さんとお母さんを背中から支えられるくらいに、お父さんとお母さんよりも強くなるって。其れが、私の目標――小さい頃からの夢の一つ…」
あの日見ていた、大きな背中の幻想を追い越せるくらいに…
「――すごいでござるな、霧羽殿は」
「凄いです、霧羽さん!」
ネギと楓は、素直に感動していた。
父と母を想う、霧羽の心に。
夢を追う、霧羽の言葉に。
いたく、感動した。
「霧羽さん! 僕に出来る事があれば言って下さい! 何時でも協力します!!」
「拙者もでござる!!」
感動の涙を流し、ドラム缶から身を乗り出す二人。
――結果…

「ふ、二人とも落ち着い…………うわちいぃぃぃぃぃぃ!!?」

モロに湯を被り、頭にドラム缶が炸裂。
朝同様、再び霧羽は昏倒した。
やっぱ、最後はギャグで終わるのね……


――翌朝。
草木も寝惚けている早朝に、ネギは一人崖の上に佇んでいた。
何処と無く、吹っ切れた顔だ。
そのまま彼は精神を集中し、目を閉じる。
――閉じた瞼の裏に、木々に突き刺さった杖の姿が浮かんだ。
其の瞬間、ネギが一瞬だけ魔力を開放し、杖を呼び寄せた。
杖は、空を切り裂くように舞い上がり、ネギの手に収まった。
まるで其処が、己の居場所かのように。
「――よし」
再び光を取り戻したネギ。
彼は後ろを振り返る。
其処には、昨日三人で張ったテントがあった。
未だに、楓と霧羽は其の中で眠っているのだろう。
「ありがとう、長瀬さん、霧羽さん。――僕…何とか一人で頑張ってみます」
其れは、小さな決意。
小さな魔法使いは、今正に壁を一つ乗り越えたのだ。
――魔法使いは杖を駆り、空に昇って行った。
其の姿を、見つめている者がいた。
寝たふりをした、楓と霧羽である。
「行ったでござるか…」
「うん、行ったよ。――進む為に、ね」
起き上がる二人。
髪を掻き上げ、霧羽は笑った。
「さて、私達もネギ君に負けていられないよ」
楓も笑い、
「そうでござる。そう易々と抜かれていては、お姉さんの面目は保てぬでござる」
二人はそう笑い合い、大きく間合いを取った。
「んじゃ、先ずは…」
「朝の一勝負といくでござるか…」
魔術使いと忍びの闘い。
もう、幾度と無く繰り返された儀礼。
二人の、コミュニケーション手段の一つ。

「「――――勝負ッ!!」」

山中に、一際大きな炸裂音が木霊した。


後日談…
「ちょっとエロオコジョ! ホントにこんな山の中なの!?」
「カモッス、姐さん。お、俺っちの鼻に間違いはねぇハズなんスけど……」
「あ~~、もう! 何処に居るのよ、バカネギ――ッ!!」

この後、迷いに迷った一人と一匹は、偶々通り掛かったネギに助けられたとか…
そして、色々と大騒ぎになったそうである。
ホントに大変だな、ネギ。


さて、本日は短い日常の話。
若き魔法使いの、成長のワンシーン。
魔術使いと忍びと魔法使いの、一時の安らぎ。
…この先に、運命の戦渦が待ち受けていると知らずに……

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第十四話前編

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