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ねぎFate 姫騎士の運命 第十四話前編 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/21-19:07 No.575

今日は珍しくエヴァちゃんが授業に出ていた。
何かしたの? ってネギ君に訊いてみたけど、曖昧に笑って教えてくれなかった。
今日はずっと、ネギ君はとても上機嫌だった。
元気になって、ホント良かった。
――今日は停電があるらしいから、暗くなる前に日記を書いている。
嫌だなぁ、暗いの……

~~~本日午後の衛宮霧羽の日記から抜粋。
この後、停電と同時に運命が動き出す……


ねぎFate 姫騎士の運命 第十四話 前編


――明りが、消える。
天の光は地平に沈み、残るのは黒へと移行する赤のみ。
地の光は悉く源を絶たれ、其の力を失っていった。
此処、学園都市では年に二回、全体的な設備メンテナンスがあるのだ。
其の為、一時的に電力供給が絶たれ、辺りは漆黒に沈む。
――其の闇に乗じ、策を弄する者が在った。

「封印結界への電力停止――予備システム、ハッキング開始……成功しました。全て順調……これでマスターの魔力は戻ります…」

主の為に、自らの性能を駆使し、バックアップする従者。

………ニィッ…

尖塔の上に佇み、月明かりに映える美貌の吸血鬼。

「――此れで良し。私の魔力が途絶えない限り、この発電施設は使用できなくなりました。――電力供給による魔封結界……此れの所為で、ただでさえ落ち込んでいる私の魔力がかなり制限されますからね。しかし、此れで幾らかマシになりますね…」

着々と下準備を進める、魔導書。
――闇は、確実に動き出していた。


「――!? 魔力……しかも、これってエヴァちゃんの!!」
自室でまったりしていた霧羽は、学園の方から放たれた強力な魔力波動を感じ、飛び起きた。
「…かなり、不味いかな?」
我知らず、冷や汗が流れる。
――ぐずぐずしてはいられない。
霧羽は纏っていた部屋着を脱ぎ捨て、クローゼットから取り出した何時もの着流しに袖を通す。
此れが、霧羽の戦闘装束なのだ。
――幸いにも、両親は揃って遠方に出張中。
家を抜け出しても、ばれはしない。
「待ってて、ネギ君……!」
素早く身支度を整えた霧羽は家を飛び出し、ダイダロスの居る車庫へと向かった。


其の頃、当事者であるネギは――寮施設内を杖で高速低空飛行していた。
有りっ丈の武装を身に纏い、心に小さな決意を秘めて。
――エヴァに血を吸われ、半吸血鬼と成ったまき絵からの伝言。
ネギは其れを聞き、バカ正直に一人で指定場所――大浴場――へと向かっていた。
ネギの心を突き動かすもの――其れは、決意と怒り。
今日見た、明日菜の安心した笑顔。
まき絵を吸血鬼に変えたエヴァへの怒り、不甲斐ない自分への怒り。
あの日、心に宿した小さな勇気。
其れ等が、今のネギを先へと進める。
たった一人で、全ての問題にけりを付けようと。
カモは途中で別れた。
自分に愛想が尽きたのかもしれない。
だが、其れでも良い。
――被害は、自分以外出してはいけないから。
ネギは優しい。
自分よりも、他人を優先してしまう。
――其れがどんなに辛い事でも。
ネギは誰かを護る為に、幻想を追い求め、前に進む。
今の彼に幸いが在るかは――誰にも、解らない。
そう、彼だけでは――


――女子寮、大浴場。
南国を意識したこの広い浴場に、ネギは杖を構え、やって来た。
人気は、無い。
薄ら寒い気配と、申し訳程度の湯気が、その場を覆っていた。
「……何処ですか、エヴァンジェリンさん! まき絵さんを、放してください……!」
油断無く辺りを窺いつつ、緊の入った声を張り上げるネギ。
その時――

「ふふ……此処だよ、坊や」

闇の中から唐突に響く、声。
妙齢の、女性の声。
聞き覚えがあるようでないような、そんな曖昧な感じがする。
女性が掌から魔力の光球を打ち上げ、辺りを照らす。
――照らされたのは、六人の乙女。
黒色のボンテージファッションの女性を中心に、メイド服を着込んだ五人の少女が佇んでいた。
【絡繰 茶々丸】【明石 裕奈】【佐々木 まき絵】【大河内 アキラ】【和泉 亜子】……
全員、ネギの生徒だ。
「パートナーは如何した? 一人で来るとは……フ、見上げた勇気だな」
皮肉な笑みを浮かべ、言い放つ女性。
口元は、喜悦に歪んでいる。
「あ、あなたは……!?」
目を見開き、驚愕の声を上げるネギ。
其れを見て、女性は満足そうに微笑し、

「ど、どなたですか!?」

すっころんだ。
無理も無い。
差があり過ぎるもんな(特に胸)。
「私だ、私―――ッ!!」
声を荒げ女性――エヴァンジェリンは自らに掛けていた変化の術を解いた。
破裂音と共に、姿が何時もの幼児姿へと変わる。
其れを見て、漸くネギは納得の声を上げた。
「兎に角! 満月の前で悪いが…今夜此処で決着をつけて、坊やの血を存分に吸わせてもらうよ」
無理矢理仕切り直し、エヴァは言い放つ。
ネギは其れを真っ向から受け止め、
「……解りました。――でも、そうはさせませんよ。今日は僕が勝って、悪い事するのは止めてもらいます!」
堂々と、宣言。
小さいが、確かな焔がネギの瞳に宿っていた。
エヴァは微笑む。
面白い、と。
心底面白そうに、笑った。
「其れは如何かな……行け!」
エヴァが指を鳴らすと同時に、背後に控えていた四つの影が動き出す。
虚ろげな瞳で、ネギを見据える四対の眼差し。
裕奈、アキラ、まき絵、亜子。
運動部所属の四人組である。
「ひ、ひきょーですよっ!」
てっきりエヴァが掛かってくるかと思っていたネギ。
思わず、声を上げていた。
しかし、エヴァは……
「卑怯……? 言っただろう? 私は――」
殊更愉快そうに

「悪い、魔法使いだって」

くすくすと、可憐ながらも不気味な笑い声が響く。
ネギは、如何する事も出来ず、僅かに後ろに下がる。
同時に、
「――やれ。わが下僕達よ」
エヴァの命が、下る。
ネギに飛び掛ろうとする、四人。
絶体絶命、か。
――しかし!

「―――“氷棘壁”!!」

氷に覆われた棘群の如き壁が、四人の行く手を阻む。
――よく見ると其れは、複雑に絡み合った鋼鉄の鎖。
氷を纏った其れが、ネギを護ったのだ。
「――何者だ!?」
突然の乱入者に、声を荒げるエヴァ。
――乱入者は、直ぐ傍に居た。
つまり、ネギの背後にある、浴場の入り口に。
静かに、佇んでいた。
年の頃は十五、六。東洋系の、黒髪の男子。
中華風に改造された其の独特の白衣の袖から、幾本かの鎖――長い上に、先に刃の付いた特殊なもの――が垂れ下がっており、其の全てが氷の壁に繋がっていた。
「――ろ、龍朝先生!?」
思いがけない人物に、ネギは少し驚愕した。
そう言えば、龍朝も魔法先生だったのだ。
少し、忘れていたネギだった(おい)。
「――ちッ! 五一族の小倅か、何のつもりだ!?」
舌打ちをし、龍朝を睨みつけるエヴァ。
折角のチャンスを潰されたのだ。
少々、怒り気味だ。
「――何のつもりだ、だと? 決まってるじゃねぇか……治療だよ、こいつ等の」
無表情に言い、まき絵達を指差す龍朝。
――其の顔には、静かな怒りが浮かんでいた。
「俺は医者だからな。助けられる患者を放っておくなんて真似は、できねぇんだよ」
言って、龍朝は氷の壁を解除した。
一瞬で解凍された鎖群は、龍朝の袖の中に収まった。
「――此処は任せろ、ねぎ坊主。お前には、お前のやるべき事がある」
ぽん、と軽くネギの頭を叩く。
其の表情は、温かいもの。
それでいて、決意を秘めた刃の表情。
――ネギは、言った。
「――お願いします」
杖に乗り、先をエヴァに向ける。
「――良いだろう、決着をつけてやる。来い、茶々丸!」
「了解、マスター」
空へと昇る、黒衣の少女達。
魔法使い達は、あっという間に空の向こうへ消えていった。
この場に残されたのは、四人の半吸血鬼と、一人の医者。
此方を見て、くすくす笑いを続ける四人に、龍朝は告げる。
「――さてと、治療を始めるか。荒療治だが、学割にしてやるから勘弁しろよ?」
治療――もとい、闘いが始まった。


最初に動いたのは、亜子とアキラだった。
亜子は何処から取り出したのか、一抱えほどある球を取り出し、

――蹴りつける!

吸血鬼化による筋力増強及びに魔力供給による肉体強化、其れによって――球は大砲の如く龍朝に牙を剥く。
同時にアキラは凄まじい速度で水上を走り、一瞬で間合いを詰め、龍朝を羽交い締めにした。
しかし、
「流石は運動部だな。元の能力がかなり強化されて、そこ等辺の妖魔よか強くなってやがる。――だがな…」
一瞬で固めを解き、球を避ける。
其の速さ、疾風の如し。
「攻撃が単調&直線過ぎる。――ま、経験不足は仕方がねぇ、か」
――跳躍。腕を、振るう。
其の瞬間、袖から幾条もの銀光が奔り――

「少し痺れるが、我慢しろ。――“雷網縛”!」

湯に突き刺さった鎖に、魔力の雷が流れ込む。
其の為、水に触れていたアキラと亜子は感電し、その場に昏倒した。
「……安心しろ、威力はスタンガン程度だ。火傷も痕も後遺症も残らねぇ」
傍の観賞植物の上に降り立ち、素っ気無く言う。
――此れが、龍朝の技。
彼は生まれつき、呪文を操る術を知らない。
しかし、その代わり彼は道具を操る技――道具使いの技――に長けていた。
道具である魔法の鎖――ダガー・チェーン――に魔力を通し、操作する。
魔力の質を変える事で、限られてはいるが数種の属性を、鎖を通して具現する。
其れが龍朝の戦闘スタイル―――“魔闘士”の戦闘スタイルなのだ。
――鎖を操り、水の中に倒れた二人を引き上げ、傍のタイル床に横たえる。
溺れたら流石にやばいからだ。
「仕事を増やす訳にも行かねぇからな………ッ!?」
第六感が、働く。
咄嗟に鎖を取り出し、跳ばす。
鎖の先に装備された短刃が、飛来した其れ――平状の布。つまりはリボン――を縫い止めた。
「リボン…って事は佐々木か。相変わらず、良い腕してるぜ」
軽く口笛など吹きつつ、軽口を叩く龍朝。
保健医という職業上、運動部とは交流が深いのだ。
「知ってるか、佐々木? この手の武器は扱いは難しいが汎用性が高く、威力が高い。反面……」
言いつつリボンを手に取り、
「……武器と操り手が直結している為、武器を掌握されると大きく不利になる!」
――大きく引く!
間の抜けた声と共に、隠れていたまき絵の姿が光に晒される。
「――其処か。――“緊縛鎖”!」
左の袖から放たれた銀の蛇が生き物の如く蠢き、まき絵の身体を拘束する。
如何に吸血鬼の超人的身体能力を以ってしても、此れからは抜け出せない。
――止めとばかりに弱めの電撃を流すと、まき絵はあっさり気絶した。
結構ヒドイな。
「――さて、後は明石だけか…」
地に降り立ち、徐に辺りを見渡す龍朝。
其の名の通り、龍を思わせる鋭い眼差しだ。

――居た。

右斜め上方――此方に向かって腕を振りかぶり……
――瞬間、
雨霰のように降り注ぐ、大量の籠球。
裕奈の仕業である。
バスケ部所属の上に、半吸血鬼化した彼女にとって、球とは自らの一部も同然。
――鉄塊の如きプレッシャーを放つ、球群。
龍朝は冷静に其れを注視し、
「中々だ。しかし、俺には効かねぇな…」
右と左の袖から伸びる、左右八対全ての鎖を――

「取り合えず、喰らっとけ。――“龍沙雨”」

――解放する!
十六の切先から繰り出される無数の突きが、全ての球を打ち砕く。
数秒も経たぬうちに、全ての球は龍の雨に呑まれていた。
驚きの余り、硬直する裕奈。
其の隙を逃さず、龍朝は一気に間合いを詰め、
「――王手だ」
裕奈の口に、何かを押し込めた。
三秒も経たぬ内に、

どさ。

裕奈は目をナルトにして、倒れた。
――得意げに佇む龍朝の手には、しゃれこうべのマークが付いた薬瓶が……
「――フ、うちの婆さん特製【うーちゃん印の御休み薬】だ。強力且つ超即効性の為、ナウマンゾウも数秒でダウンの一品だ。多分三日くらい目は覚めんだろうが、問題ねぇな」
人間に使う薬ではない。
――まあ、其れは兎も角、此れで半吸血鬼は全て片付いたという訳だ。
「ま、此れで終わりだ。――さて、ねぎ坊主等の事が気になるが……其の前に治療しなくちゃな」
寝ている裕奈と気絶しているまき絵を両肩に担ぎ、アキラを背に負い、亜子を抱き抱える。
――ある意味、羨ましい光景だ。
「――頑張れよ、ねぎ坊主…」
虚空に向かい、ポツリと呟く。
彼も、ネギの事が心配なのだ。
同時に、ネギの事を信じている。
彼にとって、ネギは可愛い弟分なのだ。
――未練を断ち切るかのように、龍朝は全身の筋肉を引き絞り、凄まじい速度でその場から走り去るのだった。


――同時刻、麻帆良学園上空。
其処を、一条の銀光が駆け抜けていく。
飛翔モードに変形したダイダロス、其れに乗った霧羽である。
「――このまま行くと橋、か……其処が決戦の場になるみたいね」
魔力レーダーを覗き込み、ネギとエヴァの波動から目的地を予測する霧羽。
普段は馬鹿だが、こういう場合にのみ頭が働くのだ。
「ダイダロス、ギア・フルスロットル! 最速で行くわよ!!」
ハンドルを握り込み、足を強く踏み締める。
ダイダロスに、一際強い魔力が送られる。
しかし、其の瞬間――

「――残念ですが、此処で通行止めです」

目の前の空間に、宙に浮かぶ男性の姿が。
黒のスーツに、黄金の瞳。
――見た事も無い男だ。
しかし、霧羽は知っている。
ネギと明日菜から聞いていて、知っている。
この男は――
「――貴女をこの先に行かせる事は出来ません。不確定要素は、少ないに越した事はありませんから」
右手を上げ、指を打ち鳴らす。
――十絶書の一人!?
咄嗟に回避行動を取るが、もう全てが遅い。

――空間の刃は既に、霧羽の目前に迫っていた。

「――貴女方に、幸いを」
直後、空に凄まじい爆音と火花が迸った。


――さて、今回もいよいよ佳境に…
姫騎士は、少年は、少女は、ハイ・デイライトウオーカーは、どのような運命を辿るのでしょうか?
刮目して、ご覧下さいませ。

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第十四話中編

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