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ねぎFate 姫騎士の運命 第十五話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/22-16:24 No.580

あの夜の騒動から暫し経ち―――ある日の朝。
靄のたち込める早朝の広場に、二つの影が存在していた。
片方は金の髪を後ろに流した、着流しの少女。
もう片方は、赤い外套に身を包んだ白髪の男性。
――両者とも、両の手に双刃を携えていた。

「―――せいッ!!」
「―――破ァッ!!」

甲高い、金属が打ち鳴らされる音が、朝霧に響き渡るのだった。


ねぎFate 姫騎士の運命 第十五話


一拍を置いて、男――【衛宮 士郎】――の左右の陰陽刃から、怒涛の連撃が放たれた。
少女――【衛宮 霧羽】――も、負けじと両の小太刀で攻撃を受け、防ぐ。
一発一発受け止める毎に、霧羽の顔が苦痛で歪む。
一撃一撃の威力が、桁外れなのだ。
受け流そうとするが、余りの威力に其れも出来ない。
「……ッ! 投影、開始(トレース、スタート)!」
防御を崩さず、投影。
二人の間に、数本の剣が生じた。
黒塗りの短剣である。
「………」
動じた様子も無く、士郎は其れ等を一撃で叩き落す。
――其の一瞬の隙を逃さず、霧羽は、勝負を仕掛ける!
「我流体術……“鬼蜂”!」
無数の斬と突が、両の剣――【運/切】――から繰り出される。
強化された足腰による突進も加わり、其の威力は正に一騎当千。
……しかし、

「……其処だ」

父には通用しなかった。
刹那の間に型の隙間を見抜かれ、強力な回し蹴りを脇腹に貰ってしまった。
――体勢を崩され、更に肘鉄が右肩付け根に極まった。
堪らず、膝を附く霧羽。
其の目前に、父の陽剣干将が突き付けられる。
「……まいった」
また負けちゃった、と少々自嘲気味に、霧羽は言い、
「…もう少し手加減してよ、お父さん」
立ち上がって頬を膨らませ、ブー垂れる。
「何を言ってる、あれでも充分手加減してるぞ」
干将莫耶を消し、呆れた口調で士郎は言った。
そして、其れとも、と言葉を続け、
「…アルトリアがするような、ヂゴクのスパルタ訓練がお望みか?」
「ゴシドウアリガトウゴザイマス、オトウサマ」
即効で謝る霧羽。
如何やらアルトリアの稽古は、かなりキツイらしい。
哀れだ。
「まあ、アレは俺から見てもかなりキツイからな。年々パワーアップしてきてるな、あいつの扱きは……」
「性格も、ね…」
鬼の居ぬ間に、ほざく二人。
……その時、
「……二人とも、人の居ない所で何を好き勝手言ってるのですか?」

魔 王 降 臨 

何時の間にか父子の背後に、壮絶な笑顔を浮かべた騎士王が佇んでいた。
――勿論気付いた父子は、冷や汗ダラダラだ。
「あ、あ、ああああアルトリア!? 何時の間に……いや、誤解だぞアルトリア。確かにキツイとは言ったが其れは別の意味で…」
「そ、そうだよお母さん。誰もお母さんの事を、【キツイ若作り年増】だって誰も言ってないよ!!」

見事に墓穴を掘る霧羽。

士郎は傍らに居る馬鹿娘に、なんでさ―――!! と涙混じりで叫ぶ士郎。
ホントに哀れだ。
――数秒後、辺りは轟風と極光に蹂躙されたのだった。


「……全く、貴方達ときたら……」
ぷんぷんと、元祖“いけませんよポーズ”を取りつつ、目の前で正座している父子に説教をするアルトリア。
周囲が若干焦げているように見えるが、気のせいだ。
「口は災いの元だね、お父さん…」
「お前が言うな」
プスプスと少し黒焦げになっているアホ娘に、無情に突っ込みを入れる父。
士郎は元々色が黒いから、黒焦げになっても違和感が無かった。
「――其処! 私語は慎みなさい!!」
「「はい!!」」
ビシィッ! と士郎と霧羽を指差し、一喝。
背筋を正し、条件反射的に返事をするへタレ二人。
――教師が板についてきてるな、アルトリア。


「――まあ、いいです。今回は此処までにして置きましょう」
一時間経過し、漸く士郎と霧羽は解放された。
「さて、朝ご飯にしましょう」
言って、アルトリアはビニルシートをその場に引き、手に持っていたバスケットから、竹の皮の包みを二つ、取り出した。
「おにぎりです」
二人に手渡し――そして、

今度はサッカーボールぐらいの大きさの、巨大おにぎりを取り出す。

シートの上に座り、彼女は嬉しそうに其れを頬張り始めたのであった。
「……アルトリア…」
「何ですか、シロウ?」
米神を押さえて呻く士郎に、可愛らしく首を傾げて、不思議そうな顔をするアルトリア。
……ご飯粒がほっぺに付いているのはもうデフォルトで。
――夫婦漫才を始める両親を尻目に、ちゃっかり霧羽は父の分のおにぎりを着服するのであった。
「……儲け儲け♪」


――父から拳骨一発貰い、霧羽はむくれていた。
悪いのはお前だ。
「……そう言えばキリハ、修学旅行の準備はもう出来ているのですか? もう明後日ですよ」
「うん、出来てるよ。お母さん達は?」
「無論、万全だ」
太陽の下で、和やかに食事をする衛宮一家。
そう、あと二日で、中等部は修学旅行。
3-Aの行き先は、京都・奈良。
今年は某魔法先生の参加で結構危ぶまれたのだが、霧羽はそんな事は一切知らない。
――ちなみに、衛宮夫妻も引率として付いていくのだ。
「――学園長の話によると、関西の方で怪しい動きがあるようです。キリハ、妙な事に首を突っ込まないように」
「……善処します」
口ではそう言ってるが、何かあったら絶対に巻き込まれるだろう。
――先天性トラブル症候群な娘に、溜息を吐くアルトリアだった。
「――其れはさて置き。霧羽、お前午後の予定は? 父さん達は此れから、学園長の用事で学園に行かなければ為らないんだが…」
「ん? う――んとね……今日は暇だから、街に遊びに行くつもりだけど」
父の問いに、霧羽はおにぎりを口に押し込みつつ答えた。
士郎は、そうか、と返し、
「余り遅くなるなよ。父さん達は、八時頃帰ってくるからな」
はーい、と返事を返し、霧羽は口の中のものを飲み下す。
……この時、霧羽は知らなかった。
自分が、面白面倒な騒ぎに巻き込まれる事を。
――此れより数十分後、駅前にて、彼女は運命の階と遭遇する…


(――何故だ?)
五一族嫡男、【五 龍朝】は自問した。
(何故俺は、こんな所に居る?)
今、彼が居る所は――東京の流行の中心、渋谷。
駅前で座する石の忠犬【ハチ公】の前で、彼は立っていた。
――そして、そんな彼の隣には、

幸せそうにニコニコ笑う、【鳴滝 風香・史伽】姉妹が――

ちなみに、二人ともちゃっかり龍朝の左右の手を取り、抱き付いていた。
(……何故なんだ―――ッ!!?)
心中で、魂の叫びを上げる龍朝であった。
――事の発端は、今朝に遡る。
今朝早く、女子寮の元倉庫部屋に住んでいる龍朝の所に、何時ものように(此処に住んで以来、毎日のように来る)鳴滝姉妹が遊びに来たのだ。
一緒に朝飯を食べつつ、何気ない会話を交わす。
――そして、風香が契機となる台詞を言ったのだ。

(――ねぇ、龍兄は修学旅行の準備、終わったの?)

万一の為、保健医である龍朝の同行も、決まっていた。
未だ終わっていない、と答えたのが運の尽き。
だったら一緒に買い物に行こう、と風香が言い出し、史伽も此れに賛同。
本人を置いてけぼりに、話がどんどん進んでいく。
――気付いた時には、既に渋谷行きの電車の中だった。
「在り得ねぇ…」
自分の不甲斐なさに、嘆息する龍朝。
だが、
「――着いちまったものは仕方がねぇ。潔く、楽しむとするか」
前向きに考え、龍朝は脇に居る風香と史伽に目を遣り、
「――行くか?」
と、笑みを浮かべて言った。
勿論答えは――

「「――――うん!」」

満開の笑顔付である。


――そんな三人の微笑ましい姿を、影からこっそり覗いている奴が居た。

「ヌフフフ、良い雰囲気じゃない♪」

主人公、衛宮霧羽嬢である。
学園の駅で彼等の姿を見かけ、後を付いて来たのだ。
暇人だな。
「うっさい。別に良いじゃない、面白そうなんだし」
出歯亀根性剥き出しな台詞である。
「――根性見せなよ、龍兄さん…」
電柱の影から、チェシャ猫のように笑う霧羽。
……如何でもいいが、ゴミ箱の着ぐるみは変装になっていないと思う。
――なんつー運命だ、オイ。


「……う―――ん! 良いお天気! 絶好の買い物日和だよ――!!」
クラスでも一二を争う脳天気娘――佐々木まき絵。
「…うん、本当に……」
クール担当――大河内アキラ。
「学園の外に出るんも、久し振りやなぁ」
関西純情娘――和泉亜子。
「――じゃ、張り切ってお買い物スタ――ト!!」
そして、締めを担当するは元気溌剌娘――明石裕奈。
運動部四人組である。 
明後日の修学旅行に備え、買出しに来たのだ。
「そんじゃ、何から行く?」
「取り合えず……服、かな?」
等と会話を交わし、和気藹々と先に進む四人。
其の先には――

物陰をゴソゴソ移動する、謎のゴミ箱生物。

しかも、時折キョロキョロと挙動不審気に辺りを見回しているので、怪しさ倍増だった。
うわぁっ、と四人全員が微妙な嘆息を漏らしたのであった。
(ねぇ…ナニアレ!?)
(ゴミ箱……じゃないよね?)
(う、ウチに訊かんといて!?)
(学園の外にもあんなのが居るとは…!)
物体Xを目の当たりにし、思わず四人は小声で言い合う。
ちなみに上から、まき絵、アキラ、亜子、裕奈の順である。
――そして、
運が悪かったのであろうか……

ゴミ箱生物と、亜子の視線ががっちりぶつかった。

瞬間、亜子の背筋は電気が奔ったかのように、跳ね上がった。
(あ、あ、あ、あ…!? め、目が合ってもうたぁ~~!!)
涙目で、泣き叫ぶ亜子(小声で)。
更に意地悪な事に、件の生物は亜子に目標を定めたのか、凄まじい速度で走り寄って来る。
亜子は勿論、他の三人も泣き叫びそうになった。
(イヤイヤイヤイヤ~~!! コッチ来る――!?)
(こ、怖い……)
(はわわわわわわッ!!?)
(く、喰われるっ!?)
パニくり、恐慌様態に陥る四人。
――そして、ゴミ箱型未確認生物は四人の前で立ち止まり…

「――やっほぉ~~! まき絵ちゃん、アキラちゃん、亜子ちゃん、裕奈ちゃん! こんな所で会うなんて、奇遇だね♪」

元気に挨拶をかました。
ずしゃああ!! と運動部四人組は盛大にこけるのであった。
ゴミ箱の蓋が開き、中から何かが這い出してくる。
金色の長髪を持つ、活発そうな少女の姿。
――彼女の名は、
「き、霧羽さん……そんな格好して、何やってるの?」
ゴミ箱から上半身を生やした奇妙奇天烈な姿の級友を見て、まき絵は汗ジトで言った。
「何って…変装して尾行してるのよ」
どこが変装だ、其れは変装ではなく仮装だ、と声を揃えて突っ込みそうになった。
「…尾行?」
聞き捨てならない単語に、少し眉を顰めるアキラ。
やっぱりこの子は、どこか冷静だ。
うん、と霧羽は答え、前方を指差し、
「――あの三人を、ね☆」
其処には、仲睦まじく洋服を選んでいる、龍朝と鳴滝姉妹の姿が在った。
――数分後、尾行部隊は五人の大所帯となった。
流石に、ゴミ箱の変装はしていない(他の四人が断固反対した為)。
色々大変だな、龍朝。


「………う゛…ッ!?」
ぞくりと背筋に寒気を感じ、龍朝は呻きを漏らした。
悪寒というやつである。
「……如何したんですか?」
右側で上着を選んでいた史伽が、首を傾げて言う。
「いや、何でもねぇ…」
努めて平静な態度を取る、龍朝。
目茶苦茶顔が蒼い。
「何か、顔真っ青だけど…」
左側でズボンを物色していた風香も、心配そうに言った。
「大丈夫だ………多分」
そう、身体は至って健康。医者の不養生など笑い話にもならない。
しかし、何だこの嫌な予感は…
魂の警鐘が、自らの内でガンガン鳴響くのを、龍朝は感じ取っていた。
何かが、何かが起こっている。
自分にとって、洒落にならない災いが。
直ぐ傍でズドンと!
「胸騒ぎがする…」
一応、袖の中のダガー・チェーンを確認する。
左右八対十六本、装備は万全である。
――しかし、其れでも不安は拭えない。
「モーレツに、嫌な予感がする……」
――とことん不幸な、龍朝であった。


……まぁ、色々と不安要素は限り無く多いが、龍朝と風香と史伽のデート(本人は否定)は続く。
洋服を一緒に選んだり、一緒にご飯を食べたり(お約束通り、龍朝君食べかすを取って上げました)、アクセサリーショップを覗いたり(龍朝の趣味はシルバーアクセ作り)、ペットショップで子犬子猫と戯れたり……

はっきり言って、見てて腹立つようなラブラブッぷりだ。

其の証拠に、道行く女性陣や老夫婦等からは微笑ましげな視線が与えられるが、男――特に独身――からは凄まじい殺気が迸っていた。
中には、暴走の余り服を脱ぎだす輩まで出てしまった(即、御用となったが)。
――龍朝、お前は確実に世界を敵に回しつつある。


「……何も、アクションが無いわね…」
和気藹々と、進んで行く三人を見やり、霧羽は嘆息した。
何時の間にか其の服装は、トレンチコートとサングラスに変わっていた。
本人曰く、尾行する時の正装だそうだ。
――勿論、他の四人は普段着のままだ。
「全く、龍兄さんも意外と根性無いんだから。ここいらで二人を思い切り抱き締めるとか、耳元で愛を囁くとかすればいいのに…」
「人前でそんな事やったら、変態やで」
「え? うちのお父さんとお母さんは、テンションが上がると何時もするよ?」
其れはお前の家だけだ。
答えた亜子を筆頭に、霧羽を除く全員が突っ込みそうになったが、空しいので止めた。
「――あれ? ねぇ、あっちあっち!」
唐突にまき絵が、声を上げる。
彼女の指差す其の先には――

ネギと、木乃香の姿。

此方も仲良く買い物中だ。
――勿論、其の後ろを付いていく奇妙な三人組――釘宮円、柿崎美砂、椎名桜子――も見えた。
「……ロマンス増強期間?」
いや、意味解らん。
……数分後、幸せ組と尾行組は、目的を同じとする者達との合流を果たしたのであった。


「そう言えばねぎ坊主、お前達は今日は何しに来たんだ?」
「実は…明日、アスナさんの誕生日で、其のプレゼントを買いに来たんです。――龍朝先生は?」
「俺は修学旅行の買出し……あと、こいつ等のお守りだ」
苦笑しつつ、楽しそうに言う龍朝。
其れとは逆に、風香と史伽は少し不満気だ。
「「お守りって(なに――!!)(なんですか――!!)」」
ユニゾン。
流石は双子である。
「なんや楽しそうやな~~」
のほほんと、コメントする木乃香であった。


「いい雰囲気……って、押さないで美砂ちゃん、クギミーちゃん! 電柱からはみ出ちゃう!!」
「狭いんだからしょうがないって…」
「そんな事言ったって……あとクギミー言うな!」
「こ、このままじゃばれちゃうよ~」
「やっぱ、無謀だよね…」
「其れは言わん約束や…」
「せ、狭い……! まき絵、もう少し痩せて…」
「まるで私が太ってるみたいじゃん! ゆーなも同じくらいだし!」
……流石に、八人も居ると書き分けも大変だ。
電柱の背後で、喧しくする少女の群れに、周囲の人々は驚きの顔を見せていく。
――確実に目立っていた。


――そんなこんなで、日が暮れる。
あの後、明日菜と委員長こと、雪広あやかが合流。
一日早いが、明日菜にプレゼントも渡せ、一連の事件――ネギと木乃香のラブラブデート疑惑――は解決を見せた。
――ちなみに、龍朝と鳴滝姉妹の関係は3-A周知の事実――霧羽と某リポーターの活躍の所為――なので、今更騒がれもしなかった(しかし、皆興味しんしんだったが)。
まあそんな訳で、今日も一日無事平穏という事である。
「カラオケの後は、家でアスナちゃんの誕生日パーティだよ! お父さん仕込みの腕前、見せてあげるよ!」
おー! と皆は諸手を上げて賛成する。
お祭り事が大好きだからだ。
「やれやれ…」
苦笑しつつも、満更でもない龍朝。
其の背には、二つの影がおぶさっていた。
風香と史伽である。
疲れてしまったのか、二人とも微かな吐息を立てて、眠っている。
そんな二人の寝顔を見やり、龍朝は、
「――ま、たまにはこんな日も、いいか」
優しげに、二人に笑いかけるのであった。
明日も、明後日も、いい日でありますように――
 

――この世の何処かに在る、この世の物とは思えない場所。
其処は、巨大な吹き抜け式のホールだった。
何階も列を連ねた客席が存在する、劇場風のホールだ。
その一角に在る、簾の下りた特等席に一人の老人が座っていた。
全身を包帯で覆い、更に其の上から真っ黒なボロ布を纏った、背の曲がった老人。
男か女かも定かではないが、包帯の隙間から見え隠れする其の濁った瞳が、この人物の重ねた年月を語っていた。
「……皆、揃って居るか」
酷く枯れた声で、老人は言った。
瞬間――幾つかの気配が、生まれた。
「――…【千鬼血河】が精霊、凱鬼参上」
柱の後ろから、大柄な影が現れた。
其の姿は人ではなく、鬼。
鎧を身に纏った一本角の大鬼が、酷く平坦な声で名乗りを上げた。
「うん、僕様ちゃんこと、【召霊跋扈】の精霊――可愛い可愛いコウジンちゃんも居るよ」
二階席から、少女の姿が現れ出でる。
長く蒼い髪に、紫の瞳。
全身を覆う灰色のコートが酷く野暮ったいが、兎に角可愛らしい少女だ。
「……きしし…。【over anathema(超越呪言)】……マジナは此処だよ」
篝火の影から、奇妙な笑い声が聞こえる。
よく見ると、病的なほどに白い影が其処に居るのだが、影は少しも動こうとしない。
「【全世占刻御霊決】第一章が、喜占」
正面扉から、笑顔を浮かべた金髪の男が、
「同じく、二章を司る怒占」
怒り顔の禿頭の男が、
「……三章の哀占…」
陰気な感じのする、黒い長髪の男が、
「最後に、四章の楽占で~す」
軽い感じのする、色黒の男が、現れた
――其の全てが、同じ顔を持っていた。
「「「「――【死占集】、此処に集結しました」」」」
声を揃えて、言う。
「………【dazzlement of thousand(無貌の幻惑)】……泡沫…」
感情の一切篭っていない声が、裏扉から響く。
其処には、黒曜石から切り出したかの如く、真っ黒で無骨な仮面が浮かんでいた。
「――そして、【魔界統書】の精霊、コトワリ。……全員集合しましたですますよ、【The grand beast(偉大なる獣)】―――…OKINA」
白銀の神官装束を身に纏った片眼鏡の青年が、舞台の台座に佇み、老人――OKINA――にそう告げた。
「……宵闇が居らんようだが?」
「彼は、現在京都で作戦行動中でですます」
簡潔に、青年――コトワリ――は、言う。
其の表情は穏やかだが、人間味が一切感じられなかった。
「大丈夫かなぁ? 宵闇ちゃんはお馬鹿ちゃんだから、失敗しなきゃいいけど♪」
「大丈夫だと思うよ。彼、悪知恵が利くから」
嬉しそうに心配事を言う少女――コウジン――に、笑顔の青年――喜占――が何時もと変わらぬ笑顔で、そう答えた。
「…きしし。宵闇の作戦は、成功してもしなくても一緒だよ。どっちに転んでも、関西に大打撃が走るんだから…」
本当に楽しそうに言う、白い影――マジナ――。
「そうだな。あやつなら、自らの欲望の赴くままに、事を成すだろう…」
他人事だと言わんばかりに、素っ気無く言う凱鬼。
「……宵闇の事は解った。さて、皆の衆。話は変わるが、裏切り者――ヘダタリの処遇じゃが…」
「………決まっている……抹殺…」
「其の通りだ! あのような軽薄者は、即刻始末するべきだ!」
OKINAの言葉に、噛み付くように答える仮面――泡沫――と禿頭の男――怒占――。
他の皆は口を開かないが、其の表情からは泡沫と怒占と同じものを感じさせる。
「無論、其のつもりじゃ。奴の始末には――凱鬼、お主に行ってもらおうかのう」
「御意」
答え、凱鬼は柱に立て掛けてあった大きな鋼の塊を持ち上げ、背負う。
剣である。
両刃の其れは、斬るよりも叩き潰す事を念頭に置いた代物である。
尋常ではない膂力だ。
――そのまま、凱鬼は闇の中へと消えていった。
「……此れで良し。――今回の集会は此れで終了じゃ。各自、持ち場に戻ってくれるかのう」
告げると同時に、全ての気配が消えた。
ホールに残るのは、OKINA只一人。
――残った彼は、ぽつりと呟いた。
「――ふむ、わしもそろそろ動くか」
闇、鳴動す。


再び動き出す、闇。
平穏は脆くも崩れ去りそうです。
次回は、舞台を移し奈良・京都。
疾風怒濤の修学旅行、姫騎士の活躍をご期待下さい。

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第十六話前編

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