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ねぎFate 姫騎士の運命 第十九話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/27-00:12 No.612

「――ん~~! よく寝たぁ~~~!!」
しょぼしょぼする眼を擦り、長い金髪を無造作に流した霧羽は、布団の上で大きく伸びをした。
時間は早朝、皆より少しだけ早い時間帯だ。
皆は未だ眠っているようで、微かな寝息が聞こえてくる。
……数が足りないが、霧羽は気付かない。
――色んな意味でボロボロになった彼女は、昨夜はぐっすり休む為に早めに就寝したのだ。
如何やら其れが功を奏したらしく、何時に無くたっぷり眠れたらしい。
「やっぱり、休息は大切ね。大体身体も回復したし、魔力も充分! ――絶好調、絶好調!!」
柔軟体操で身体をほぐし、霧羽は爽やかに笑う。
人間離れした回復力である。
「――では! お腹も空いたし、朝ご飯食べに行こ――っと!!」
其れから先の行動は早い。
布団を片付け、霧羽は前日に用意しておいたタオルと歯磨き用具と着替えを手に、部屋を飛び出した。
「一風呂浴びて、其れからご飯~~♪」
ご機嫌な霧羽は、鼻歌を歌いつつ、浴場を目指すのだった。
こんなに御気楽でいいのか、主人公。


ねぎFate 姫騎士の運命 第十九話


風呂から上がり、朝食をたらふく食べた霧羽はネギたちと合流していた。
「――ちょっと、どーすんのよネギ! こーんなにいっぱいカードを作っちゃって、どう責任を取るつもりなのよ!」
「えうっ!? ぼ、僕のせいですか!!?」
明日菜が広げたのは、数枚のカード。
昨夜のゲームで作られた、仮契約カードである。
しかし、成立したのは一枚だけで、他は全部カスだが。
「へー、其れが仮契約カード? 始めて見た」
物珍しげに、しげしげと眺める霧羽。
ふーん、と関心気に見つめ、
「――で、何でのどかちゃんが写ってんの? つか、昨日何が遭ったの?」
ズコッ、と霧羽以外の全員がこけたのは、言うまでも無い。

――説明中。

説明を聞いた霧羽は、気難しげに眉を顰め、
「唇争奪ねぇ……楽しそうだけど、寝てて正解かも」
ああは為りたくないし、と霧羽はある方向に目を向けた。
其処に居たのは、一人と一匹。
白目を剥いてぐったりとしている其の姿は、死体とほぼ変わらない。
名を朝倉和美、アルベール・カモミールという。
――未だ、アルトリアのお仕置きのダメージが癒えていないとみえる。

「す、すき焼きはイヤぁ―――!! 割り下ダクダク、ツユダクはご勘弁を――!! つか鍋類は嫌っす、喰わないでくれっすうぅ――――!!! 嗚呼、包丁怖い俎板怖い鍋怖い―――!!」
「あはは、全部真っ白……。けど私の身体は真っ赤っ赤……。先生、何で石の座布団なんか持ってんの。あは、あは、あははは………」

……のーこめんと。
「……どーりで、お母さんがお父さんに叱られてた訳だ。慣れてる私やお父さんは兎も角、一般人には少しキツイもんねぇ~~」
うんうん、と実感ありありで頷く霧羽。
――其の台詞に、ネギたちは顔を引き攣らせた。
どんなお仕置きだ。
「いやー、でも優勝者がのどかちゃんとは……やるじゃん、ネギ君♪」
チェシャ猫のような、にやにや笑いを浮かべる霧羽。
言われたネギは、恥ずかしそうに頬を染めた。
「また一つ、恋の甘酸っぱい青春ラブストーリーがこの世に生まれたわけね~」
お姉さん感激だわ~、と溢れる目の幅涙をワザとらしくハンカチで拭う霧羽。
「き、霧羽さん~~~!?」
「あはは、そんな怒んないの。軽いジョークよ、ジョーク」
顔を真っ赤にしてあたふたするネギに、霧羽は笑みで答えた。
「――衛宮さん、先程から異様に元気ですが……身体の方は大丈夫なのですか?」
無駄にハイテンションな霧羽の身を案じ、言ったのは刹那だ。
そう、昨日まで霧羽は“もう駄目死にそう”ってな感じだった。
しかし、打って変わって今日は元気いっぱい無限大。
昨日とはまるで反対だ。
「ん~~? 沢山寝たから、殆ど回復してるよ。昔から傷の治りが早いんだよね、私って」
包帯を巻いたままの左掌を見せつつ、霧羽は脳天気に笑いながら言った。
――そういう問題か?
その場に居た全員が、ほぼ同時にそう思った。
「お母さんの“鞘”に比べたら、全然大した事無いよ。――所で、アレ何?」
言いつつ、何処と無く呆れた表情の霧羽が指したモノ、其れは――

「……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは……俺ってヤツは………」

全身真っ白に煤け、膝を抱えてロビーの隅に蹲り、俯いたままブツブツ同じ言葉を繰り返し呟く、龍朝の姿。
頬はこけ、目は異様に色を無くし、隈が出来ていた。
心なしか、手指や足が細くなったかのようにも見えた。
見た者が全員、病院に行け、と言いそうな風貌だった。
霧羽の言葉に、皆は曖昧な表情を浮かべ、
「いえ、其れが……」
「僕たちも、よく解らないんです」
病人のような龍朝を見やり、刹那とネギが言いよどむ。
「私が見つけた時にはもう、ああなってたわよ」
呆れた様子で、肩を竦める明日菜。
――結局、龍朝がこうなった原因を知る者は居なかった。
……いや、一人居た。
「あ、兄貴……。多分、こ、これが原因だ、ぜ………」
死の淵より漸く帰って来た、カモだ。
しかし半死半生、息も絶え絶えだ。
其の前足には、一枚のカードが。
「生きてたの!?」
明日菜の、あんまりな一言。
しかしカモは別段気にもせず、
「……ふッ。姐さん、オコジョ妖精を甘く見ないで下せえ。初回の朝倉の姉さんは兎も角、俺っちは何とか回復済みだぜ。――伊達に二十三回もお仕置きを喰らってねえぜ!」
主に下着ドロで。
変態も此処まで来れば、立派である。
「あー、はいはい。……で、何よコレ?」
投げやりに相槌を打ち、明日菜はカモの前足に握られたカードを取り上げた。
「仮契約カード……ですね。絵柄は――風香さんと史伽ちゃん!?」
しかもカスではなく、唇同士の成立カードである。
脇からカードを覗いていたネギが、驚愕の声を上げる。
自分は彼女たちとはキスをしていない。
ならばこのカードの持ち主は……
「――龍先生、まさか……」
「ああ、とどのつまりそういう事ね……」
事の次第を理解した刹那と霧羽が、龍朝に半目の視線を向ける。

つまりは――龍朝が鳴滝姉妹両方とキスを交わした。

漸くネギと明日菜も、其の結論に至った。
「……あんたねえ…」
「ろ、龍朝先生……」
ネギと明日菜も、半眼で龍朝を見やる。
何処と無く、犯罪者を見るような瞳。
……確かに見た目がアレな上に、二人同時ときたもんだ。
弁解は、出来ない。
――ふと霧羽が意地悪い笑みを浮かべ、隅で蹲る龍朝に近付く。
そして、耳元に口を寄せ、

「幼女、二股、生徒と教師…………き~ち~く~♪」

ピシィッ! と何かが割れる音が、龍朝から響く。
ホント、色んなモノが割れた音だ。
そして――

「……俺は、俺は、俺は、俺はアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

滝のように涙を流し、咆哮を上げる龍朝は、何処かへと走り去っていった。
恐らく、暫らくは戻ってこないだろう。
そんな龍朝を、後頭部に汗を浮かべて、見送る霧羽。
徐に口を開き、
「……やり過ぎちゃった、かな?」
バツが悪そうに、首を傾げて、皆に問う。
返ってきた返答は、
「――止めさしてどうすんのよ!」

スッパアァァァァンンッ!!

――常識ある明日菜の、ハマノツルギでの強烈な突っ込みだった。


某所では……
「――動き出したみたいやな」
「ほな、役割分担といこうか……」
「あ、ウチは刹那センパイの担当がええです――」
「解っとるわ。――わいと月詠と千草はんは、お嬢様と護衛を。小太郎と宵闇はんは、本山前で子供先生らを。残った新入りは――他の魔法先生らの揺さぶりを頼むわ。……カタギに手ぇだすんやないで」
「ギャハハハッ!! 犬っころのお守りは気に喰わねぇが、其れでイイゼ!」
「誰が犬っころやとッ!!」
「喧嘩は止めい。兎に角、分担はコレで決定や。ぬかるんや無いで」
「…………」
「何であんさんが仕切るんや……」
「ブツクサ言うなや。だからいき遅れるんやで――この眼鏡年増」
「――だ、誰が行かず後家の小じわ眼鏡婆やてえ―――!!」
「其処まで言っとらんわ!」
……まあ兎に角、奴等も着々と動きつつあるようだ。


「ここが、関西呪術協会の本山……?」
「何か、不気味だね……」
ネギと霧羽が、其々の感想を漏らす。
目の前に在るのは巨大な鳥居と、竹林を貫く千近い鳥居の連なり。
其の果てには、雄々しき山々が悠然と連なっていた。
この社の名は、“炫毘古社”。
古き炎神の名を冠するこの社こそ、関西呪術協会の総本山なのだ。
西の長に親書を渡す為、ネギたちは此処にやって来たのだ。
その時、快音を立てて、何かが現れた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
袴姿の、二頭身なちびっこい生き物。
デフォルメされているが、其の姿形は紛れも無く、刹那のものだった。
「――あ、可愛い~♪」
可愛いものが好きな霧羽は、思わずタレてしまう。
「始めまして。本体から、連絡役として派遣されました。私の事は“ちびせつな”とお呼び下さい」
ペコリ、と頭を下げる式神“ちびせつな”。
「この奥には確かに、関西呪術協会の長がおられるとは思いますが……東からの使者であるネギ先生が、必ずしも歓迎されるとは限りません。罠などに気を付けて下さい。一昨日襲ってきたら奴らの事もはっきりとは解りませんし……くれぐれも、ご注意を」
じゃれてくるカモを適当にあしらいつつ、緊の表情で言うちびせつな。
明日菜とネギは、力強く頷きを返し、
「わかってます、ちびせつなさん! 十分、気を付けますから」
「私も出来る限り頑張るから――任せなさいって!」
霧羽も、タレ状態から復帰し、
「大丈夫ジョブ♪ 気合は充分、心構えは万全だよ!」
右の親指を立て、朗らかな笑みで答える。
明日菜はハリセンを具現し、ネギは杖を手に取り、霧羽は運切を投影した。
――そして、皆は気を引き締め、

「――GO AHEAD!」

霧羽の号令と共に、駆け出すのだった。


そして、半刻ほど走り続けたが……
石段は途切れず、連なる鳥居は絶える事無く行く手に現れる。
――幾ら走っても道は途切れず、視界に映る風景は変わる事が無い。
まるで、同じ場所をぐるぐる回っているかのように……
(……おかしい)
最後尾を走っていた霧羽は、確かな違和感を覚えた。
同じような風景、同じ傷の付いた鳥居、全く同じ形の苔生した岩……
明らかにこれは……
(空間に、何か細工が……!?)
滅多に使わない脳味噌をフル回転させ、漸く其の結論に至る。
霧羽は回路に魔力を通し、術を行使する為、変革の呪を紡いだ。
「――同調、開始(トレース、スタート)」
透明な硝子球が砕けるイメージ。
全身を奔る魔力が眼球に集中し、脳内に辺りの景色をワイヤービジョン化した図形が浮かぶ。
白い線で構成された、簡素且つ精巧な図解。
其の中に、現実には存在しない筈の線が幾筋も這っていた。
――魔法。
恐らく本山を守護する物なのだろう、結界を構成している蒼い線に混じって、明らかに異質な紅の線が隠れように奔っていた。
其の異質な紅を、霧羽は己が両眼と脳と回路を以って、徹底的に解析。
そして、
「やっぱり、空間ループ! ――ネギ君、アスナちゃん、ちびせつなちゃん、気をつけて!! 私たちはもう、敵の罠に―――」
叫ぶように言った、其の瞬間、 

―――正解!!

耳障りな、金属を擦るような甲高いギザギザ声が、空間内に発生した。
警戒し、驚いた表情を戻す暇も無く――
霧羽の背後すぐの鳥居から、二本の白い何かが突き出てきた。
其れは――骨。
僅かに黄ばんだ人間の其れは霧羽を羽交い締めにし、鳥居の中へと引き摺り込む!
抵抗する間も無く、霧羽は鳥居の向こうへと消えていった。
「あ、姉御ぉッ!?」
カモの絶叫が、皆の平常を取り戻させる。
先ず動いたのは、明日菜だった。
「――霧羽ッ!?」
ハリセンを振り上げ、明日菜が突っ込むが―――時既に遅し。
必死な明日菜を嘲笑うかのように、霧羽が引き摺り込まれた空間の歪みは、跡形も無く消えた。
ハリセンを振り下ろした姿勢のまま、明日菜の動きが止まった。
――何も出来なかったネギは、
「――霧羽さん……」
僅かに遅れて、呆然とした表情で、呟く。
そして、其の傍らに居るちびせつなは、
「――やられた。……やつらの目的は足止めではなく、戦力の分散だったとは……!」
失態を悔やむかのように、泣きそうな表情で、そう呟くのだった。


鳥居の向こうの世界――更なる異空間――に引き摺り込まれ、地面に投げ出された霧羽は、先ず自分が何をすべきかと考える。
最初に、自分を拘束している白骨を振り解こうとした。
かなりの年数が経っている所為か、骨はあっさりと砕け、自由が戻った。
土埃と骨の欠片を掃いつつ、霧羽は身体を起こし、辺りを見回した。
――先程と変わらぬ、竹林の中の石段。
僅かに違うのは、同じ景色が連続する間隔が短く感じる所か。
「ループした空間の中の、更に其の中か……」
解析の目を走らせ、嘆息。
「マズったね……とっとと合流しないと――」
其の時、
「ギャハハハハッ! そいつは無理な話だぜぃッ!!」
嫌悪感を生む異質な声が、唐突に耳朶を打つ。
何時の間にか、霧羽の目の前に一人の男が立っていた。
継ぎ接ぎの外套を身に纏った、異様な風体の男。
埃に塗れたボサボサな髪の隙間から覗く、血の色に濁った眼球からは明らかな狂気が宿っている。
痩せ過ぎの其の身体は、まるでスケアクロウを思わせる。
――壊れた鳥のような声は、絶えず口から漏れ、途切れる事を知らない。
「いやぁ、俺はついてるぜぇ! 一番強そうで、一番嬲りがいが在りそうで、しかも肉の柔らかい少女ときたもんだ! 久し振りに憂さ晴らしが出来そうだぜッ!」
本当に愉しそうに、哂う男。
霧羽は男を睨みつけ、
「誰―――いや、【何】、貴方?」
霧羽の目は、男が【人】ではない事を見抜いていた。
男は口を弓状に歪め、
「ギャハハハハッ! 流石だなおじょーさん!! 仰る通り、俺は人間じゃねぇ――【書物】だ!!」
目を細め、恭しく礼をし、
「名前は【宵闇】……【十絶書】って言えば、解るかい?!」
――十絶書。
其の単語を脳で認識した霧羽の行動は素早かった。
大地を踏み抜き、一足飛に間合いを駆ける。
先ずは刃撃。
重鎚の一撃は真下から男――【宵闇】――の顎を斬り上げ、重力の縛から宵闇の肉体を解き放つ。
身体が浮いた其の瞬間に重心を移動させ、全体重を攻撃行動に移す。
放たれたのは――三連撃。
鳩尾を穿つ蹴り上げ、脳天を砕く踵落し、そして反動を利用し身を捩り――
止めは、全てを撃ち伏せる上段後ろ回し蹴り。
渾身の穿脚が、宵闇の身体を打ち貫く!
「――“惨華猛襲剣”ッ!!」
全ての撃を其の身で受けた宵闇は、壊れた人形のように宙を舞った。
――だが霧羽は刃を正眼に構え直し、一切の油断無く、吹き飛んでいく宵闇を見据えた。
未だ終わっていない。
飛んでいく宵闇は身を翻し、一つ向こうの鳥居の上に着地。
鳥居の上に蹲り、
「やるねぇッ! 相手が身構える前に攻撃すんのはルール違反じゃねぇのか!!」
けらけらと先程と全く変わらぬふざけた表情で、宵闇は哂う。
ダメージを全く感じさせない、表情で。
「貴方達相手に、そんなモノ通用しないでしょ?」
「言えてるぜ!!」
霧羽の皮肉な言に、馬鹿笑いで答える。
宵闇は両手を上げ、霧羽を制するポーズを取り、
「焦るな焦るな。生憎今週の俺は、色々と忙しいんでね! おじょーさんの相手は、こいつらだ!!」
号令と共に、石畳が捲れ、土が噴出す。
現れたのは――無数の白骨。
只の白骨ではない。
全身を朽ちた鎧兜で武装し、ボロボロに錆びた刀や槍を装備した、亡者である。
穴と化した眼窩からは、青白い鬼火がチロチロと漏れ出していた。
「京都――いい街だぜ! 何せ、術に必要な【怨念】や【骸】が文字通り腐るほど有り余ってるんだからな!!」
――宵闇の言う通り、京都という街は歴史が古い分、そういった事に欠かない。
古くは平安から続く、其の腐臭漂う血みどろな裏の年代記は、京とは不断の存在。
古代から妖魔共が跳梁跋扈する京ノ街――ある意味、この街は冥府に一番近い都市なのである。
「さぁて! 踊り狂え死体共!! 女の肉だ、タップリ味わえ!!」
声に呼応し、死者は生者の肉を求め、動き出す。
宵闇は亡者の進軍を満足そうに見つめ、
「今回はこれにて! 次回にご期待下さいませ!!」
耳障りな哂いを残し、闇に融けて消えた。
亡者の群れ、其れに対峙する霧羽。
――閉鎖されたこの空間には、其れだけが残った。


一方、ネギたちは、
「ハハハ! やっぱ西洋魔術師はアカンな、弱々や。――このぶんやと、お前の親父のサウザンなんとかゆーのも大した事ないやろ、チビ助!」
狗族の少年――【犬上 小太郎】――と一戦交え、苦戦していた。
明日菜の活躍で小太郎が使役していた式神は倒せたが、本来近接格闘を得意とする小太郎と格闘経験が浅いネギとは相性が悪く、ネギは苦戦。
障壁を砕かれ、ネギは地に伏していた。
「あのえみやとかゆー姉ちゃんはかなり強そうやったけど……相手が悪かったなぁ。“あの”宵闇や……無事ではすまんやろな……」
何処と無く遣る瀬無い表情で、言う小太郎。
其の台詞に、ネギたちは目を見開いた。
「――ど、どういう事よ!」
「……あんま言いたくないんやけどな。あの姉ちゃんの相手をしてる宵闇っちゅーやつはかなりえげつなくてな、何かを壊したり殺す事に喜びを感じるようなやつなんや。……ほんま、何であんなのが仲間にいるんやろな……」
自分で言っていて、怒りを覚える小太郎。
良くも悪くも、彼は真っ直ぐなのだ。
其の彼の台詞に、皆が固まる。
そして――
ふらふらと、ネギが立ち上がった。
其の瞳には、明らかな闘志と怒り。

友を助けたい。
生徒を護りたい。
もう護れないのは嫌だ。
絶対に許さない。

様々な感情が、ネギの脳内で交差し、感情という名のガソリンがハートに火を燈す。
ボロボロの肉体に鞭を打ち、拳を握ったネギは、小太郎を見据えた。
其の瞳を見て、小太郎は驚愕した。
――さっきとは、全然違う。
先程よりも熱く、火焔中にくべられた鋼を思わせる、強い瞳の輝き。
決意に燃えた、男の瞳である。
――面白いやないか!
小太郎は歓喜に打ち震えた。
これ程の目をした男は、そうはいない。
久し振りに、マジでやれそうな予感がするのだ。
「ええやないか……さっきまでとは大違いや。男らしく、真っ向勝負といこうやないか!!」
小太郎も構えを取り、ネギを見据える。
言葉は要らない。
只二人の頭に在るのは一つの思い。

――勝つ!

其れのみである。
無言の、対峙。

「……何で、こんな少年漫画のワンシーンみたいな事に……」
「何でってそりゃあ……二人とも子供だからな」

身も蓋も無いぞ、カモ。


霧羽は剣を振るう。
銀閃は鎧を砕き、骨を屠る。
何度目だろうか。
剣を振るい、白骨の武者を斬り刻んだのは。
鉄を撃ち出し、亡霊を微塵に砕いたのは。
拳足を用い、死者を打ち伏せたのは。
何度も、何度も、何度も。
しかし、死者の数は一向に減らない。
二十数体の白骨たちは、幾ら倒しても死なない。
砕けた骨は瞬時に再生し、関節が繋がり、瞬く間に人型に戻っていく。

倒す――再生。
倒す――再生。
倒す――再生。
倒す――再生。
倒す――再生。
倒す――再生。
倒す――再生。

これの繰り返し。
このままでは、何時か霧羽の力が尽きてしまう。
しかし、霧羽も只の馬鹿ではない。
これまでの戦闘から、確実に相手を滅ぼす方法を模索していた。
(方法1 “偽・螺旋剣”による殲滅……却下。魔法で捻れた空間内でそんなモノぶっ放したら、外にどんな影響が出るか……)
(方法2 “破戒すべき全ての符”による一個撃破……却下。手間が掛かる上に、投影品が何時までもつか解らない。其れに、今の状態じゃ出来て二回ぐらい……)
(方法3 聖属性が付加された宝具の大量投影……条件付賛成。魔力がもつかどうか解らないし)
浮かんだ策は其の三つまで。
当然、霧羽が取るのは、
「やっぱり、三番しかないね」
溜息。
回復したといっても、この身は未だ病み上がり。
何時に無く調子が良いが、上位宝具連続投影射出となると……
「今出来そうなので効果的なのは……デュランダル、黒鍵……其れぐらい、か」
威力が高すぎても低すぎても駄目。
投影出来ないモノに至っては論外。
微妙な匙加減だ。
「――うし、やるか!」
精神を集中し、霧羽は肉体を奔る幾筋もの回路に魔力を通す。
だが、其の行為は中断させられる事となった。
背後の竹林から、二筋の銀閃が霧羽に襲い掛かる。
咄嗟に抜き放った【運】と【切】で双刃を受け止め、振り返ると同時に蹴りを背後に叩き込む。
――骨が砕ける小気味いい感触が、脚部に伝わった。
目に映るのは、双刀を大上段に掲げたまま砕け散る骸骨の姿。
――ほんの一瞬、霧羽の気が敵軍から逸らされた。
期を逃さず、死者の軍勢は生者へ剣を向け、命を喰らわんとする。
頭蓋の下顎が狂ったように、カタカタと音を奏でる。
――迎撃が、間に合わない。
「―――ッ!?」

右腕に赤い線が浮かぶ。
頬に血が流れる。
身体に熱い感触が押し付けられる。
――肩に、白骨の乱杭歯が深々と食い込む。

一拍遅れて、血霞が空に散った
――声ならざる声が、霧羽の喉から迸る。
熱い、熱い、熱い。
意識が痛みでまともな働きをせず、壊れたレコードのように意味も無く同じ単語を繰り返す。
五指から、力が抜ける。
【運】と【切】が、軽い音を立てて地面に転がった。
肩に喰らい付いた頭蓋の口元から、真っ赤な血液が溢れ出した。
顔に、服に、地面に――真っ赤な華が咲いた。
意識が飛び欠ける。
思考にノイズが混じり、視界が暗くなる。
血が、血が、血が……
血液に興奮したのか、骸骨たちが次々に霧羽を取り囲む。
どの骸骨も大きく顎を開き、黄ばんだ歯を霧羽を見せ付ける。
身体から熱が失われていく。
しかし、熱さは止まらない。
熱さと暗闇に思考を飲まれ、霧羽はゆっくりと闇に落ちて――

――駄目よ。

いかなかった。
自分の内から、声が響いた。
自分を現世に引き止め、現実を告げる声。
自分と同じで、それでいて全く違う声。
冷たく、平坦な声が、霧羽の内から霧羽に告げる。

――貴女は此処で終わるような存在じゃないわ。

否定の意思に、霧羽の意思が僅かに平静を取り戻す。

――理解しなさい、貴女が【何】であるかを。
――衛宮霧羽が、【何】であるかを。
――父も母も関係無いわ。貴女自身が、【何】であるかを理解しなさい。

声が、響く。
響く度に、暗く歪んだ視界が光を映す。
何故か、視界に映る蠢く骨たちの動きが、酷く緩慢に見えた。
五指に力が戻り、狂いそうな熱が身体から引いていく。
脳内麻薬の所為か、痛みがさほど感じられない。
疼くような倦怠感が、肉体を包み込んでいく。

――全部とは言わないわ。
――自己の本質に触れなさい。
――そして、これだけは解って欲しい。
――貴女が、貴女である事を。

感情無き声が、告げる。

――貴女が、想いの担い手である事を。

――脳の中で、何かが切り替わる。
魔術を行使する時よりも、激しい疼きが脳と回路を掻き乱す。
イメージが、記憶が、幻想が――
パズルが当てはまるように、次々と合致していく。
激流のように渦巻く、様々な幻像。
其の全てを、理解出来るだろうか。
いや、理解する意味など不要。
何故なら、これ等の幻は霧羽を形成する一端に過ぎない。
そう、理解は不要なのだ。
「――投影、連続起動(トレース、イグニッション)」
新たな呪文が、霧羽の口から漏れる。
同時に、霧羽の周囲に十を越える剣が現れた。
そして、力を取り戻した両の手には、五対十本の刃が握られた。
剣の名は、【聖母の加護を受けし不折の聖剣(デュランダル)】。
四つの聖遺物の加護を秘めし、欧州の聖剣。
其の剣は刃毀れ一つせず、決して折れなかったという。
刃の名は、【黒鍵】。
協会の中でも、使う者が少ない投擲武装。
其の概念は、霊的存在にとって、天敵である。
剣と刃。其れ等二つとも、魔に属するモノを滅する幻想。
――故に、霧羽の肩に喰らい付いていた骸骨が、音も無く消え去った。
全身が砂よりも細かい粒子と化し、瞬時にこの世から消え果る。
――霧羽を取り囲む聖剣の波動に、打ち負けたのだ。
其の光景を目の前にし、霧羽を囲んでいた骸骨たちが、慌てて距離を取る。
其の神々しい波動を恐れ、骸骨たちは退いていく。
怯えている。
魔を浄化し、滅するこの聖剣を。
其れを創り出した、獲物であった少女を。
――骸骨たちは、明確な恐怖に怯えていた。
「工程完了(ロールアウト)。―――全標的、認識終了(ターゲット、オールロック)」
剣が、下に向けていた切先を起こす。
其れの先に在るのは――骨。
全ての頭蓋の中心を、狙い定めていた。
霧羽の腕は胸の前でクロスし、十の黒鍵がまるで巨大な爪のように、構えられている。
――構えた霧羽の視線は、射抜くの一つ。
肩の傷を気にも留めず、霧羽は射の瞳で亡者を見据えた。
其の瞳は力強く、そして儚い。
強き意思と、儚き夢が同居した光。
――意思と幻を秘めた少女は、更に言葉を紡ぐ。
「全投影、解放(ソードバレル、オールアウト)」
力が、生じる。
莫大な圧力が、剣と刃に溜まる。
其れは、射の力。
力を撃ち出す為の、射貫きの力。
其れ等、意の一言を以って、解放される!

「―――是、“嵐の剣製”(サイクロン・ブレイド・ワークス)……ッ!!)」

嵐が、生まれた。
射出と投擲が同時に行われ、剣刃の嵐が敵へと襲い掛かる。
弾道は直ではなく、確実に認識した敵を貫いていく。
カーブ、ストレート、フォーク。
緩やかかつ鋭利な軌道を描く鉄の幻想は、射ち漏らし無く敵を殲滅していく。
正に其れは、剣と刃の嵐。
局地的な、必殺の災害である。
――嵐は、全ての骸が消えるまで、吹き荒れるのだった。


――此方も、決着が付こうとしていた。
何合も打ち合ったのか、ネギと小太郎はもうボロボロだった。
立っているのもやっとという感じで、荒い息を吐く両者。

――次で、決まる! 

必殺の一撃を放たんと、両者の気が膨れ上がる。
ネギは全魔力を集中し、可能な限り速く呪を口中で紡ぐ。
小太郎は精神と気を振り絞り、自らが最も得意とする撃の体勢をとる。
――沈黙。
ビリビリと、形無き闘気が両者の間で荒れ狂う!

「な、何よこの展開……」
「姐さん、此処で突っ込むのは野暮ってもんだぜ……」
「ついていけませんね……」

完全に外野と化した一人と一匹と一体は、其々の間を口々に漏らす。
勿論、二人の耳には其れ等の言葉は入らない。
沈黙。
――張り詰めた空気が、漂う。
そして……

……カラン。

小石が、音を立てて転がる。
同時に、二人の気配が爆発した。
両者の拳が狙うのは――互いの顔面!

「――――“FULGURATIO ALBICANS『白き雷』”――ッッ!!」
「犬上流ッ! 空牙アァァァァァァッ!!」

黒と白の拳が交差し、互いの頬に突き刺さる。
雷光が、闘気が、勢いよく弾ける。
其の力をまともに受けたネギと小太郎は背後に吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。
「――ネギッ!?」
明日菜が叫ぶ。
壁に叩きつけられ、全身に裂傷を負ったネギ。
しかし、其の瞳からは未だに光が途切れない。
倒れそうになる全身を叱咤し、ネギは立ち上がる。
もう、負けたくない、と。
もう、見ているだけは嫌だ、と。
「まだ、まだ……」
肉体を強化させる魔力を、更に増やす。
軋むが、厭わない。
――決着を付けたい。
「そうや……まだ、終わっとらんで……」
フラフラになった小太郎も、負けじと立ち上がった。
口元に、獰猛な笑みを浮かべ、
「――さっきの言葉、取り消すで。お前は――強い!」
言葉と共に、小太郎の全身から闘気が噴き上がる。
「こっからが本番や! もっと戦ろうで、ネギ!!」
次撃へと移ろうとしたその時――

絹を裂くような、少女の悲鳴。

か細くも、確かな其れは確実にネギたちの耳朶を打った。
「い、今の声は――」
ちびせつなが目を丸くする。
そして、
「――しまった! お姉ちゃんの事、すっかり忘れとった!!」
小太郎が、叫ぶ。
其の台詞に、明日菜が目を剥く。
「――どういう事よ!」
「さっきゲーセンで、お前等と一緒に居た大人しそうな姉ちゃんの事や! 何でかしらんけど後を付いて来て、結界に巻き込まれたみたいなんや!」
一緒に居た、大人しそうな少女。
つまり、其れは――
「――のどかさん!?」
理解した瞬間、ネギの身体は動いていた。
杖を手にし、ネギは駆ける。
焦りを露にし、風の如く道を駆ける。
「一時休戦や、姉ちゃん!」
ネギの跡を追い、小太郎も走り出す。
彼は知っている。
この場に、命を奪う事に快楽を見出す、精霊が居る事を。
「宵闇――カタギに手ぇ出すなんて、何考えとるんや!!」
――のどかの、命が危ない。


宮崎のどかは、命危機に直面していた。
彼女は今、狙われていた。
目前に居るのは、強大な亡霊。
大太刀を担う、骨の化物。
動く度に、がちゃがちゃと全身の隙間が音を奏で、少女の神経を震えさせる。
――なんで?
のどかは、自問していた。
何故、このような目に遭うと。
何故、こんなバケモノが此処に居るかと。
突然、鳥居から現れた化け物。
ある精霊の暇つぶしにより、のどかは命を奪われようとしていた。
少しずつ、少しずつ、のどかににじり寄る亡者。
まるで、のどかの反応を楽しむかのように。
嘲笑うかのように、顎がカタカタと鳴った。
――あ。
涙が、零れる。
腰が抜け、のどかはその場にへたり込んでしまう。
一歩も、動けない。
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
耳には、骨が奏でる音が、聞こえる。
聞こえる度に、恐怖が膨らむ。
――助けて。
震える唇で、のどかはか細い声で呟く。
骨音が鳴る。
――助けて。
呼ぶのは、愛しい人。
幼くも、強い少年。
のどかの、憧れの人物。
尊い、幻想。
――助けて!
感情が、心中で爆発した。

「――助けて! ネギせんせ―――ッ!!」

その時、

「――ラス・テル・マ・スキル・マギステル! “septendecim spiritus aeriales, coeuntes―――『風の精霊17人。集い来たりて……』”―――ッ!!」

少年の声が、のどかの耳に届く。
のどかは、知っている。
この声が、誰の声かを。
そして、この声が、何時も自分に勇気を与えてくれた事を。
故に、のどかは、
「ネギせんせー……」
涙を溜めた声で、少年の名を呼んだ。
視界に、少年の姿が映る。
杖を構え、ボロボロの姿で必死に疾駆する、少年の姿を。
声が、響く。

「――“SAGITTA MAGICA, SERIES FULGURARIS.『魔法の射手・連弾・雷の17矢』”ッッ!!」

雷の弾礫が、亡者に突き刺さる。
一瞬の帯電の後に、爆砕。
太刀ごと、両腕が吹き飛ぶ。
其の隙に、更にスピードを速めたネギが、のどかに接近。
のどかを抱き抱え、瞬時に離脱。
――何とか、救出に成功した。
「――やったぜ、兄貴!」
明日菜の肩の上で、カモがガッツポーズを取った。
しかし――
無骨な、風切音。
瞬時に再生した亡者の両腕が太刀を携え、刃を振り上げる。
狙うは――脳天。
ねぎとのどかを同時に両断せんと、亡者は丸太のような骨腕に力を籠め――

「ネギッ! 本屋ちゃんッ!!」

明日菜の声が響くと同時に、刃が二人に―――届く事は無かった。
原因は、三筋の鉄光。
一筋目が太刀を砕き、二筋目が背骨に突き刺さり、三筋目が後頭部を穿った。
光が飛来した先に在るのは、鳥居。
全体に皹が入り、朽ちた印象の鳥居だ。
今にも砕けそうな感じ――いや、
――砕けた。
同時に、鳥居の中から、人影が飛び出してきた。
肩口を血に染めた、少女。
金の髪を振り乱し、距離を詰める。
――少女は地面に手をつき、大地を蹴る。
飛んだ。
軽やかに舞った其の爪先は、真っ直ぐ飛ぶ。
狙うは、剣の柄。
そう、死者の頭部に突き刺さった、聖剣の柄である。
蹴る、蹴る、蹴る。
爪先から繰り出される、連突。
確実に其れは、剣を押し、骨を砕く。
――止めの蹴りを放つと同時に、裂帛の叫びが轟いた。

「――“疾空重蹴剣”ッ!!」

頭部が砕け、全身が崩れる。
――亡者は、土に還った。
「あー、危なかった。大丈夫? ネギ君、のどかちゃん」
少女――霧羽――は、何時も通りの呑気な表情で、問う。
「霧羽さん……無事だったんですね!」
「心配かけすぎよ、この馬鹿! ――って、あんた! また怪我してるじゃない!!」
明日菜が目を吊り上げて、霧羽に怒鳴る。
霧羽は、ひい、と怯え、
「ふ、不可抗力だよ~。其れより! とっとと脱出する方が先だよ、アスナちゃん!」
無理矢理話を逸らし、霧羽はびしぃッ! と鳥居を指差した。
「多分この結界も、今私がぶっ壊した結界と同じタイプ……故に! 対処法は解ってるよ!」

ぶっ壊したってオイ。

三人と一匹と一体の気持ちがシンクロした。
鳥居が壊れたのは、如何やら無理矢理結界をぶち破ったのが原因のようだ。
呆れる皆を無視し、霧羽は弓矢を投影。
番える矢の数は、三本。
引き絞り、狙いを付け――

「―――疾ッ!」

発射。
三本の矢は其々異なった軌道を描き、鳥居に突き刺さる。
上と、左右の三箇所。
鏃は、確実に見えない印を貫いていた。
「――よっしゃ、成功!」
硝子が割れるような音が響き、空間が割れた。
鳥居の向こうには、元の世界が広がっていた。
「え、衛宮さん……すごーい」
初めて霧羽の実力を目の当たりにしたのどかは、驚きの表情で霧羽を見る。
……まあ、普段の霧羽を見れば仕方の無い事だ。
「えっへん♪ ――んじゃ、行こっか」
軽く胸を張り、霧羽は元の世界に向かって歩き出す

――小太郎の襟首を掴んで。

「な、何するんや!?」
「んー? 何か怪我してるみたいだし……治療してあげるよ。一緒に居た方が、安全だし♪」
暴れる小太郎を右手一本で押さえつけ、飄々と言う霧羽。
「まー、平たく言えば捕虜だけど」
物騒な事を仰る。
「霧羽さん! 乱暴は駄目ですよ!!」
「しないって。まあ、この子が何かやらかしたら……【お仕置き】するだけだし」
お仕置きの部分に、やけに力を入れて言う。
其の言葉に、カモが怯えて震えだす。
……完全にトラウマと化しているようだ。
「は、離せ――!」
「はい、大人しくしてねー」
ジタバタと暴れだす小太郎を取り押さえ、霧羽は縄を投影。
あっという間に、小太郎をグルグル巻きにする。
後は猿轡をすれば完成だ。
「ムームームーッ!!」
「ほい、アスナちゃん」
蓑虫になった小太郎を、明日菜に渡す。
苦笑いを浮かべ、明日菜は受け取った。
「全く……先ずは、怪我の治療するわよ。ネギ以上にボロボロじゃない」
明日菜の言葉に、霧羽はゴメンゴメンと、苦笑いで返す。
ネギは、のどかに支えられてる。
心配は、無用のようだ。
「――先ずは、第一面クリアだね」
肩の傷を押さえ、ポツリと言う。

「―――誰なのかな?」

自分の中へ、問いかける。
蒼い瞳の、鏡像。
霧羽は複雑そうな表情で、歩みを進めるのだった。


――再び、成長した姫騎士と少年。
戦いの運命は、まだまだ途切れる事を知りません。
次回は、白翼の剣士と陰陽の姫君、そして……悲しきカラクリ遣い。
彼らの運命は、如何動くのでしょうか?

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第二十話

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