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ねぎFate 姫騎士の運命 第二十二話 投稿者:ガーゴイル 投稿日:05/27-15:01 No.618

注 今回はチョっちエロいです。

「――ひょっひょっひょっひょっひょ……漸く着いたわい」
眼下に臨む巨大な学園都市を見据え、醜悪な老人は歓喜の笑みを浮かべた。
「結界如きでわしは阻もうとは……片腹痛いのう」
そう言って、老人はボロボロの黒い外套の下から、ナニカを取り出した。
蒼い、水晶球。
「喪失魔法技具(ロストテクノ・アーティファクト)“仙戯元珠玉”……」
名を告げると同時に、老人の姿は水晶球の中へと消え、そして――
何事も無かったかのように、水晶球も消える。
野望が、動き出す。



ねぎFate 姫騎士の運命 第二十二話



――麻帆良学園。
最上学年等が殆ど出払った現在、授業中という事もあってか、人気も余り無い。
そんな大通りの真ん中を、二人の少女が歩いていた。
【闇の福音】こと、Evangeline.A.K.McDowellとその従者、絡繰茶々丸だ。
「――全く、あの妖怪爺め。わざわざ私を囲碁の相手に呼び出すとは……何様のつもりだ」
「御気を鎮めて下さい、マスター」
ぶちぶちと文句を垂れるエヴァを、茶々丸が宥める。
――何時もの光景である。
「まぁいい。――しかし、静かだな……」
「今は授業中です。其れに、中等部最高学年の殆どが修学旅行で出払っていますから。――無理も無いかと」
茶々丸の静かな解答に、エヴァは眉根を寄せ、
「……ふん。暢気な連中だ……」
「――行きたかったのですか? マスター?」
「黙れ。ネジ巻くぞ」
仲間外れにされた子供のような表情のエヴァ。
茶々丸は、僅かに笑みを浮かべて、主を見つめた。
――その時!
「……ッ! 強力な次元歪曲場の発生を確認……マスターッ!!」
眼前の風景が――歪む!
空気が捻れ、世界が凹面へと変化する。
「――侵入者かッ!?」
……私に一切気付かせないとは……
自然と、口元が緩む。
エヴァは、悪魔気な笑みを作り。
「――中々の手練のようだな。丁度退屈していた所だ……相手になってやろう!」
エヴァンジェリン――闇の福音――は、獰猛に、傲慢に、不遜に哂う。
同時に、歪みは頂点へと達し――

魔法使いと従者は、空間の捻れへと取り込まれたのだった。


――其処は、奇妙な空間だった。
在る筈のモノが無く、在る訳が無いモノが在る空間。
空は歪んだマーブルに染まり、星も月も太陽も無い。
地の果ては見えず、大地は大小の瓦礫と――無数の人骨に覆われていた。
噎せ返るような、纏わり付くような乾いた鉄錆の臭い。
獣と腐った肉、そして――血液。
制服を纏ったエヴァは、嫌そうに眉を顰め、
「――いい趣味だ。胸糞が悪くなる」
吐き捨て、彼女は傍らの茶々丸に問う。
「此処は何処だ、茶々丸?」
「ハイ。――索敵終了。現実空間とのずれを確認。――喪失級魔法、もしくは喪失魔法技具による高次元的異空間と推測されます」
従者の報告に、エヴァは目を見開いた。
「――喪失級(ハイロスト・クラス)だとッ!? ちッ、思ったよりも獲物は大きいみたいだな」
太古に失われた、現在の技術では再現不可能な魔法技術。
喪失と冠される其れ等のクラスは――正にこの世に残る伝説。
相手は、只者ではない。
しかし、エヴァも負けてはいない。
彼女の身に宿る秘術――人からハイ・デイライトウオーカーへの進化――も、紛れも無く喪失級魔法。
……面白い。
「良いだろう。憂さ晴らしに……付き合って貰うぞ!」
手指から魔力のオーラが漏れる。
――異相空間故に、彼女を縛る呪いは働かない。
真祖の女王“闇の福音”――全開である!
「――ひょっひょっひょっひょっひょ……。威勢のいいお嬢ちゃんじゃのう……」
歪んだ空間に、皺枯れた声が響く。
――眼前の空間から、闇色が滲む。
ボロボロになった黒い外套を着込んだ、背の曲がった老人。
布端から見えるのは――茶に変色したバンテージ。
ギラギラと隙間から覗く黄色く濁った不気味な瞳が、弓に曲がる。
「始めまして、ハイ・デイライトウオーカーのお嬢ちゃん。わしの名はOKINA……十絶書が一、【The grand beast】の精霊にして、十の魔導書の長を務めるモノじゃ」
老人――OKINA――の名乗りに、エヴァは僅かに目を見開き、
「十絶書……中世に名を馳せた異端児“アルーシャー・ローゼンセシア”が書き遺した、対魔女狩用魔導書かッ!? 発動と同時に百以上の騎士団と審問団を虐殺し、欧州宗教団体に爪痕を残したという、あの……。二十年前の大戦で、失われたと聞いたが……」
“アルーシャー・ローゼンセシア”。
裏の歴史に名を遺す、裏世界で知らない者は居ないとまで言われる狂った魔法使い。
その全ての能力を、血を流す事にのみ使ったとされる、殺戮愛好家。
中性に創られた拷問器具や手法の半分には、彼女の影が付き纏っているとまで言われている。
魔法構築能力に長けた彼女の最後の作品――其れが、十絶書。
彼女の魔女裁判中に、その力が始めて発動し――
教会を、丸ごと血の海に沈めたという。
ある強力な封魔術師が現れるまで、欧州を恐怖に陥れたとされ――以来、この書等の存在は、その恐ろしさ故に闇に葬られたという。
二十年前の大戦までは……
「――五百年の時を生きた為に、力の半分以上を失った我等。――故に、生き延びる技には長けておるのよ」
かかかっ、気持ち悪く笑うOKINA。
ふんっ、とエヴァは鼻で笑い。
「――カビの生えた古本が。……訊く所によると貴様等、ぼーや達にまでちょっかいを出しているようだな。――自らの迂闊さを悔やんで、荼毘に付すがいい!!」
先制攻撃。
無詠唱“魔法の矢”が、エヴァの周りに出現。
無数の闇魔弾は黒き軌跡を描き――着弾!
悲鳴を上げる間も無く、OKINAは吹っ飛ばされる。
空かさず、茶々丸が追撃を仕掛ける。
肩部パーツ、太腿パーツ、背部パーツのロックが弾け飛び、――内部に収納されていた人工魔法榴弾が発射段階に移行する。
「全弾一斉射撃――開始ッ!」
瞳のレンズが細まり、耳から副視覚センサーが出現。
同時に、全身から弾幕が、瞳からは高出力レーザーが発射。
――爆ッ!!
衝撃と光が、空間を埋め尽くす。
凄まじい熱風が、茶々丸とエヴァの体を荒々しく撫でた。
爆煙が晴れると、其処には何も存在していなかった。
「――マスター」
「解っている。……隠れたのなら、丸ごと吹き飛ばせば済む事だ」
言って、エヴァは広範囲殲滅呪文を詠唱を開始。
しかし――
「おお、最近の若いもんは怖いのう。――年寄りは労わらんと、後が怖いぞい?」
さざめきが、響く。
潮騒の如きその音は、黒き流れを伴って――
エヴァに、襲い掛かる!
咄嗟に避けようとするエヴァ。
しかし、僅かに遅れ――
右腕が、持っていかれた。
「――――クッ!?」
苦痛を噛み殺し、黒き靄を睨みつける。
蠢く黒い塊。
あっという間に、腕は骨も残さず貪り喰らわれた。
其れの正体は、
「……蟲、だと?」
そう、小さな小さな昆虫の集合体。
蟷螂に似た前肢を持ち、蜻蛉のような羽を備え、雀蜂に酷似した尾と頭部、そしてカミキリムシの巨大顎を装備した、異様な蟲である。
ギチギチと、気味の悪い音を立てて鳴く蟲の群れ。
群の背後から、OKINAが現れる。
右腕を欠いた、OKINAが。
「わしの作った、合成魔虫(キメラ・インセクト)じゃよ。他にも……ほうれ」
左腕を振る。
すると。
――左腕が軋みを上げ、次の瞬間には大蛇へと変幻した。
OKINAは厭らしく目を歪め、
「可愛いじゃろう。数十もの種類を掛け合わせて創った、人造バジリスクじゃよ。天然物に比べて力は劣るが……毒と石化能力は健在じゃよ」
目が一つしかない蛇は、喉を唸らせ、エヴァを虎視眈々と狙う。
傷口を押さえ、エヴァは脂汗を流し。
「――成る程。貴様……虫獣操術と合成術の使い手か」
ようは合成獣(キメラ)を創り、操る術。
エヴァは冷笑し、
「……獣や蟲で肉体を補っているのか。無様だな。そんな姿にまでなって、生に執着するとは……」
「呪いで魔力を封じられたお主に言われたくないのう……」
OKINAの切り返しに、エヴァは言葉に詰まった。
しかし、彼女は瞬時に立ち直り、
「――よく言った。ならば、受けてみるか? 我が必殺の一撃を……ッ!」
魔力が、波打つ。
瞬時に、失われた右腕が再生された。
周囲の空気は光を無くし、冷気に支配される。
闇と氷。
エヴァの身体から漏れる怒涛の魔力が、大源を侵食していく。
「茶々丸、時間を稼げ。――一撃で終わらせる」
「イエス、マスター」
人形が動き出す。
全身のワイヤーとギアを軋ませ、茶々丸は全力で肉体を稼動させる。
迎撃に当たったのは、人造バジリスクだ。
見た者を必ず死に追いやるとされる瞳が、茶々丸を見据えた。
だが、茶々丸には効かない。
生物ではない茶々丸に、破壊は兎も角、死の概念攻撃は通じない。
易々と視線を受け流し、茶々丸は渾身の右ストレートをバジリスクに叩き込んだ。
顎を砕き、頭蓋を叩き伏せる。
しかし、バジリスクも負けてはいない。
残された力を振り絞り、咥内に叩き込まれた茶々丸の腕を噛み砕く。
普通の人間なら、毒にやられてジ・エンドだろう。
しかし、やはり茶々丸には通じない。
ウイルスなら兎も角、生物毒が彼女に効く筈が無い。
逆に噛み砕かれた腕を切り離し――自爆させる。
バジリスクの頭部が――粉微塵に吹き飛んだ。
茶々丸の奮戦を見つめ、エヴァは精神を集中させる。
凄まじき魔力が、凝結。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……“το συμβολαιον διακονητω μοι, η κρυσταλλινη βασιλεια. επιγενηθητω, ταιωνιον ερεβοζ, αιωνιε κρυσταλλε『契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが……』”……」
周囲の空間が、極低温により氷結。
茶々丸は、来る冷徹なる空気から逃れるべく、脚部ワイヤーに電気信号を送る。
だが……!
「……“全ての……ぐ……ッ!?」
呪を紡いでいたエヴァが、血を吐き、膝を附いた。
四肢から力が抜け、口からは止めど無く鮮血が溢れる。
「――マスターッ!?」
不意の出来事に、茶々丸は一瞬戸惑った。
其れが、致命的。
「――隙だらけじゃよ」
OKINAの背が、盛り上がる。
出現したのは、黄金の甲殻を持つ昆虫。
螻蛄に酷似した其れは、鋏と顎を打ち鳴らし――茶々丸を地面に組み伏す。
振り解こうとする茶々丸。
だが――
顎と鋏が茶々丸に喰い付いた瞬間、茶々丸の身体から無数の火花が飛び散った。
「――あ、アアアアァアァァァァ…………ッ!!」
金属の焦げる臭い。飛び散る火花。響くスパーク音。
昆虫の攻撃の正体――其れはズバリ、マイクロ波。
魔法が使われているとはいえ、茶々丸は現代科学により作られた機械の塊。
故に、強力な電磁波は茶々丸にとって毒でしかない。
茶々丸の喉は途切れる事無く、悲痛の鳴きを上げ続けた。


「――ひょっひょっひょっひょっひょ。漸く毒が全身に回ったようじゃな」
茶々丸の相手を黄金虫に任せ、OKINAは倒れたエヴァに近付く。
「毒……だと……」
言葉と共に血を吐き、エヴァはOKINAを睨みつける。
OKINAは厭らしく笑い、
「――お嬢ちゃんの右腕を喰らった蟲は、強力な毒を持っているんじゃよ……しかし、流石はハイ・デイライトウオーカー。常人なら死んでいても可笑しくないものを……。やはり、その強大な生命力……欲しいのぉ」
背中から無数の触手が飛び出し、瞬時にエヴァを拘束。
磔のように、空中で大の字に浮かせられた。
しかし、エヴァの瞳から輝きは失われていない。
彼女は、忌々しそうに瞳を歪め――
「貴様……」
OKINAはうんうんと、楽しそうに頷いて。
「わしは二十年前の大戦の所為で、不治の病を患っていてのぉ……。魔力が、どれだけあっても足りないんじゃよ。ハイ・デイライトウオーカーの心臓は、強力な魔力復活薬になる。――お主には、わしの糧になってもらう」
厭らしい笑みを更に深める。
昆虫群と死した大蛇を両腕に戻し、エヴァの頬を撫でる。
「……触るな。殺すぞ」
「――身動きも満足に出来ん小娘が吼えた所で、何も怖くない」
OKINAの瞳が、欲にぎらつく。
「喰らう前に――少し遊ばさせてもらおうかのう」
右腕が軋む。
爪が伸び、節くれた指は固い鱗に覆われていく。
爬虫類に近い形状に変化した手指を、彼女の胸に這わせ――
――翻す。
風を斬る音。
残響。そして――布が擦れる音。
エヴァの制服は、胸元から縦真っ二つになっていた。
中心から分かたれた衣服の間からは、絹のような滲み一つ無い肌が覗き、外気に晒される。
「――ほう。老齢たる吸血鬼とはいえ……身体は小娘のままか」
スベスベした腹を撫ぜ、嘲るように言うOKINA。
エヴァは常人なら百度は殺せる目付きで目の前の老人を射るが、如何にもならない。
毒の所為で力は奪われ、触手の所為で四肢はピクリとも動かない。
「さて……このまま甚振るだけでは面白くないのう。先ずは喉を潰して――いや、其れでは悲鳴が聞けず、楽しみが半減してしまうのう。魔毒で魔力伝達系を破壊して、其れから遊ぼうか。綺麗な顔を傷つけるのは忍びない……四肢を切断し――おお、生きたまま喰らうのも良いかもしれん。下の方から大蛇で、子袋から内蔵を喰らおうか。――よもや、この歳で生娘ともあるまいて」
OKINAの下卑た発言に、怒りに染まったエヴァの表情が僅かに変化する。
僅かに見えた感情は――羞恥。
老獪たる精霊は其れを敏感に感じ取り――
「――真逆。ははは、成る程そうか。為らば――そうしようかのう」
面白そうに、醜悪に笑うOKINA。
背から更に、大蛇が現れる。
牙を覗かせた其れは、情欲に満ちた縦型の瞳で、エヴァを見据える。
「――存在自体穢れている吸血鬼が純潔を散らすとは、何と皮肉な事か。心配せずとも――お主にもタップリと快楽を味わってもらってから……喰ろうてやろう」
蛇が、動く。
エヴァは詠唱を始めようとするが、言葉は出ず、吐血する。
毒の所為か、無詠唱も出来ない。
……こいつに犯されるくらいなら……
エヴァは覚悟を決める。
ゆっくりと、精神を集中。

――高まる魔力。

魔法は、ほぼ使えない。
為らば、放出不可能な魔力を限界以上に溜め込み――
……生き恥を晒すくらいなら、こいつ諸共……ッ!
正に捨て身。
自らを爆弾と化す。
其れしか、方法は無い。
エヴァは、地面に倒れ伏す自分の従者に目を遣った。
……すまん、茶々丸、チャチャゼロ。
次に――遠い地に居るであろう、
……すまないな、ぼーや。お前の努力は、無駄になりそうだ。
そして、最後に……
……ナギ……
行方知れずとなった最強の魔法使い。
最後に思いを寄せた、男性。
エヴァが死を決意した、その時――
「――ヌ? 何じゃ?」
包帯の下で、眉根を寄せるOKINA。
動きが止まる。
何故なら、彼の背後の空間が――

……ビシィ……ビシィ……ビシィ……ビシィ……ッ!

細かな音を立てて、罅割れていたからだ。
OKINAは濁った瞳を大きく丸く開いて、
「――馬鹿なッ!? 仙人が創ったとされる完全異空間である、この世界に……無理矢理侵入だと!? 真逆、“ヤツ”が……ッ!?」
その、真逆だ。
罅割れた空間壁は砕け散り、空を割いて何かが飛来する。
其れは――刃。
空間をも斬り裂く、次元歪曲刃。
二つの刃は、真っ直ぐ空を斬り裂き――OKINAの触手を斬り飛ばした!
「……ぐぉぉぉぉッ!!」
途端、触手は真っ黒な塵へと還る。
――四肢を解き放たれたエヴァが、大地に転がった。
続いて、絶叫を上げるOKINAを、今度は何者かが蹴り飛ばした。
次元の裂け目から現れた、人物である。
薄汚れたYシャツを着た、男性。
僅かに汚れてはいるが、髪は光を弾く白銀色。
瞳は、怒りに燃える金。
彼は人ではなく、精霊。
空間を司る、書物の精霊。
「――やれやれ。如何やら、間に合ったようですね」
毒で身体の自由が利かないエヴァを、抱き上げる男。
彼の瞳を見てエヴァは――

“――……おいおい、大丈夫か?”

……ナギ?
思わず、心の中で名を呼ぶ。
彼の瞳が、あの時の“彼”によく似ていたからだ。
しかし、次の瞬間に正気へと戻り、
「――……お前は……ヘダタリ?」
「ええ。――【界隔】の精霊、ヘダタリ。只今、馳せ参上仕りました」
言って、彼――ヘダタリ――は視線をずらし、蹲っているOKINAを見やる。
視線は、怒の一文字。
彼は、静かな怒りを瞳に秘め、
「如何やら……かなり好き勝手に暴れたようですね――OKINAッ!」
「……凱鬼め、しくじりおったか。久し振りじゃな、ヘダタリ。――この裏切り者がッ!」
怒声と共に、OKINAの右腕が霞む。
現れたのは、漆黒の剣虎。
長い牙を光らせ、ヘダタリに飛び掛るッ!
だが――彼の敵ではない。
指を鳴らす。
只其れだけで――剣虎は横一文字に分かたれた。
衝撃波は其れだけに留まらず、直線状に居た茶々丸に圧し掛かる甲虫をも真っ二つにした。
蟲の蹂躙から逃れた茶々丸は、起き上がると同時に彼の方を見、
「……ヘダタリさん、マスター」
安心し、安堵の息を漏らした。
塵へと還った二体の妖物は、本体へと戻る。
ヘダタリは不気味に佇むOKINAを油断無く見据え――
「恥を知りなさい、OKINA。……心友Ms.茶々丸に危害を加えた上に、Ms.エヴァンジェリンを汚そうとした罪……神が許しても、この私が絶対に許しません!!」
着ていたシャツを脱ぎ、エヴァに胸元を隠すよう促すヘダタリ。
エヴァは顔を紅くし、黙って従った。
……割と良い奴か?
エヴァは内心、そう思った。
だが――
「――私の目を盗みMs.エヴァンジェリンにエロい事をしようなどと、言語道断! 愛と紳士の名に於いて、貴様だけは許さない! ――嗚呼、紳士と男の精神が織り成すMs.エヴァンジェリンに対する愛とエロのアンビバレンスな私の想いを拳に籠めて――貴様を地獄に叩き落す!!」
「――殺す」
前言撤回。
恥ずかしい台詞を叫びまくるヘダタリを、ぶっ殺すぞ的視線で睨むエヴァ。
身体が全快だったら、四の五も言わせず打っ飛ばしていただろう。
「――ひょっひょっひょっひょっひょ……言いたい事は其れだけか、ヘダタリ?」
完全に塵を取り込み、復活したOKINAが、ぬめった視線を寄越す。
「“不完全”な上に、供給も断たれた貴様に……何が出来るかのう?」
自信満々な言い草。
エヴァを抱き抱えるヘダタリの横に、片腕を無くした茶々丸が降り立つ。
――もう限界が近いのか、パーツの隙間はスパークしていた。
「損傷レベル、深刻。……お役に立てず、すみません」
「いえ。Ms.茶々丸は、ゆっくりお休み下さい。傷を負ったレディを護るのも、紳士の役目。――此処は、お任せ下さい」
ヘダタリの優しい声に、茶々丸は暫し考え――頷いた。
全く焦りを見せないヘダタリに、エヴァは首を捻り、
「……何か作戦でもあるのか?」
問われたヘダタリは、はっはっはっはっ、と乾いた笑いを上げ、
「――実は言うと先程の一撃と今張っている結界で攻撃用の魔力も全部使い切ってしまい、今の私達の状態ではOKINAに勝つなど夢のまた夢。策も無い上に援軍も望めませんし――……ぶっちゃけ打つ手が在りません!」
「何をしに来たんだ貴様はぁぁぁぁぁッ!!」
清々しく言い切ったヘダタリに、罵声を浴びせるエヴァ。
……しかし、逆にヘダタリは何か喜んでいる。
「……ふっ。Ms.エヴァンジェリンに怒鳴られているかと想うと……嗚呼、心臓がきゅんとします!」
「心臓を速やかに止めてやろうか?」
……絶対殺す。
殺意をふつふつと高めるエヴァ。悶えるヘダタリ。
「……落ち着いて下さい、マスター、ヘダタリさん」
唯一まともな茶々丸が、二人を宥める。
一連の騒動を眺めていたOKINAは、冷笑し、
「――漫才なら、あの世のでゆっくりとやってくれんかのう。どうも最近のお笑いは、わしに合わなくてな。やはり、日本は上方落語が一番じゃ」
――全身の肉が盛り上がる。
無数の化物が、OKINAの全身から湧く。
ドレもコレも、形容し難い化物。
ヘダタリは、転して真剣な表情を取り……
「不味いですね。時間稼ぎも、此処までが限界のようです」
演技には見えなかったが。
一同思ったが特に誰も突っ込みをいれず、場面は進む。
「――一応、手は無い事は無いのですが……」
「だったら其れを使えッ!」
躊躇いがちなヘダタリの台詞に、エヴァは命令口調で答える。
ヘダタリは気弱な表情を見せ、
「――いや、コレやったらMs.エヴァンジェリン絶対怒りますし。其れに、紳士道から見てもコレは――」
「如何でもいいからさっさとやれッ!」
怒り混じりのエヴァを、ヘダタリは見つめ。
「――怒りません?」
「怒らないからやれ」
「本当に怒りません?」
「怒らないと言ってるだろうが!」
「本当の本当に怒りません?」
「くどいぞ! ――絶対に怒らないから、とっととやれ!!」
では――、とヘダタリが取った行動は……

キスだ。

しかもバードではない。
ディープだ。フレンチだ。
エヴァの細い腰となだらかな背を抱き締めて、ヘダタリはライドオン。
舌が絡み合い、粘膜が卑猥な重奏を奏でる。
エヴァは目を見開き、口を離そうとするが――
もう遅い。
――エヴァの小さな身体が、びくりと大きく震えた。



――暫らくお待ち下さい(子供は見ちゃ駄目です)。



――唇を離す。
エヴァは――もう見るも無残だ。
全身からは力が全て抜け、腰と背が意思とは無関係にガクガク震えている。
胸元に押し当てたシャツからは桃色の突起が薄く浮き上がり、全身には蜜汗が滴っていた。
口元は緩く艶かしい吐息が絶え絶えに漏れ、瞳の焦点は合っていない。
文字通り、彼女は昇天していた。
――脇で見ていた茶々丸も、頭から煙を吹いてフリーズしていた。
恐るべし、ヘダタリ。
彼は、ふうと口元を愛し気に拭い――
「ご馳走様でした」
張っていた結界を消し、腰が抜けたエヴァの頬を撫でる。
――瞬間。
ヘダタリの全身から、脈動の音色が響く。
彼はエヴァを茶々丸に渡し――立ち上がる。
凄まじい、威圧感。
枯渇していた筈の魔力が――彼の全身に漲っていた。
「粘膜接触と血液摂取による、魔導契約か。――吸血鬼の軍門に下るとは、貴様も堕ちたのう」
「貴方よりマシです」
今行ったのは、契約。
精霊が、主の力を受け取り、主の為に働くという、主従の契約。
その、一つ。
彼は、新しいマスターをエヴァンジェリンへと決めたのだ。
揶揄するようなOKINAの言葉に、ヘダタリは――
攻撃で、返した。
大きく指を鳴らす。
現れるは、無数の刃。
更に彼は、刃を一箇所に集め――
「――貴方が私の弱点を知っているように、私も貴方の弱点を知っているのですよ?」
創り出したのは――槍。
面の攻撃力より、点の貫通力を重点に置いた、突撃武装。
彼は其れを腕に装着し、
「――空間を扱う術に於いて、私を甘く見た事が貴方の敗因です」
――突貫。
槍の切先はOKINAではなく、天空を向いていた。
天へと突き進むヘダタリと槍。
其れを見て、OKINAは顔色を変えた。
「しまっ……」
叫びを上げる間も無く。
頂点に槍が突き刺さると同時に、硝子の割れる音が世界に響いた。


――気付いたら、茶々丸とエヴァは夕暮れの街道に座り込んでいた。
歪みに取り込まれた、あの場所だ。
空間を、破壊した。
恐らくヘダタリは自分の探知能力を駆使し、空間の弱点とも言える特異点を索敵。
――全ての力を一転に籠め、爆滅。
空間を統べる者。
……流石です、ヘダタリさん。
ヒートする頭脳を押さえ、エヴァを抱えた茶々丸は、脇に佇むヘダタリを見た。
彼の険しい視線の先には――
崩れた手指で顔を押さえる、OKINAの姿が。
「ぐ……が……があああああ……ッ!!」
苦しげに悲鳴を上げ、のたうつOKINA。
全身の肉が蠢き、腐汁を滴らせる。
見る見るうちに、手指だけではなく、足や胴体も崩れていった。
「アレは……」
「二十年前の大戦終結時、OKINAは自らを構成する文字情報に、致命的な損傷を負ったんです。其れ以来――外気に触れる事が、出来なくなった」
精霊達を此の世に具現化させるモノ――其れは、書に記された文字群。
この全てが彼等を構成し、此の世に存在として顕現させるのだ。
故に、文字こそが彼等の本質である。
もし、この文字に、致命的な欠落があった場合――
「魔法によって特殊加工された包帯とマントが無ければ、彼は此の世に存在出来ない。其れでも、特殊な香を焚き染めた部屋から出る事は出来ず、満足に動く事も出来ない。今回使ったような異次元作成魔法具でも無ければ……戦う事など、土台無理」
生きる事をも制限された、精霊。
其れが、OKINA。
彼は崩れた手指を庇い、
「――今回は、わしの負けじゃ……」
――消える。
空間に滲むように、闇の中へと消えていった。
「――やれやれ。何とかなりました」
ヘダタリは肩を竦め、茶々丸に向き直る。
彼は、動けない茶々丸に手を差し伸べ、
「――立てますか?」
――茶々丸は、黙って彼の手を取った。
ゆっくりと、立ち上がる。
「傷、痛みますか?」
「いえ。私に――痛みなど在りません」
茶々丸の言葉に、でも、とヘダタリは応え、
「見るに耐えません。――どうぞ」
彼は、茶々丸とその腕の中のエヴァを、同時に抱えた。
ダブルお姫様ダッコである。
――茶々丸が驚いた表情を見せた……その時だった。
「……ヘダタリ」
地獄の底から響いてくるような声が、ヘダタリの耳朶を打った。
言わずと知れた、エヴァンジェリンである。
彼女は、茶々丸の腕の中で、顔を真っ赤に染め――
「……覚悟は良いな」
有無を言わせない口調である。
ヘダタリの顔が、リゾート色に染まった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! あの時Ms.エヴァンジェリンも了承して下さったでしょう!? 其れに、随分気持ち良さそうに――」
「黙れ忘れろ永久的速やかに。よくも、よくも……わ、私の唇を無理矢理……ッ!!」
尋常ではない様子に、ヘダタリは首を傾げ――
「……もしかして、ファーストだったのですか?」
予想的中だった。
更に顔を紅く染め、彼女は黙り込んでしまった。
衝撃の事実に、ヘダタリは浮かれまくり――
「……神よ複雑な心境ですが私は貴方に感謝しますぶっちゃけ有難うサンキューグラッツェシェイシェー。今の私は三国一の幸せ者です。嗚呼、今の喜びと後に訪れる阿鼻叫喚の責め苦への不安に私のハートは大きく揺ら揺ら――ッ!!」
その言葉が止めとなった。

ぶち。

エヴァの色んなモノが、一斉にぶち切れた。
――さて皆さん、自爆覚悟でエヴァンジェリンが溜めた魔力の存在を覚えているであろうか?
ヘダタリへの魔力供給で少しは消費されたが、未だ大半は彼女の中で燻っているアレだ。
更に現在、吸血鬼の回復力の所為か、毒も徐々に抜けている。
故に――

「……ぶっ殺す」

今のエヴァンジェリンは、危険だ。
既に茶々丸は器用に自分でブレーカーを落として、気絶している。
――止める者など、今この場に居ようか。いや、いない。
「うわ、何か周りの空気が凍り付いて――Ms.エヴァンジェリン、落ち着いてぇ――ッ!! 私が初めての相手だとそんなに嫌ですか解りましたちゃんと手順を踏んでから貴方と長いお付き合いを! 紳士道に則り先ずは交換日記からあぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
極寒の魔法弾が、一人の男と機械人形を吹き飛ばした。
――其れから暫らく、この街道は、氷が解けるまで通行禁止になったそうである。
……勿論修繕費は、エヴァンジェリン持ちであった。
南無。


その頃、学園長は……
「次元の歪みは消滅……先ずは一安心かのう」
メール形式で送られてきた報告書を読み、嘆息。
徐に、老人は手元を見る。
其処には……
「其れにしても……遅いのう、エヴァンジェリン」
囲碁板が在った。
暢気な爺である。
――この数時間後の事であった。
京都から、緊急の伝令が入ったのは。
――終わりが、見え始めてきた。


――さて、漸く此処で一区切り。
各々が同時刻に繰り広げた、数々の事件。
その全てが、此処に集結。
本山に辿り着いた、進化した姫騎士と山を越えつつある少年、そして魔を退ける少女。
悩む絡繰使い、癒しの姫、白翼の剣士。
とうとう正体を現す魔導書、自らの道を貫き通す狗族の少年。
策謀を巡らす陰陽師、戦いに狂う堕ちた剣士。
答えを見つけた医師、そして二大体力馬鹿+ワン。
怒りに燃える吸血鬼、のっけから死に掛けている精霊、巻き添えを食らった人形。
そして――現在京の街を彷徨っている最強夫婦。
死地から復活した、鋼鉄の獣……
全てが、此処に結集する!
次回からは、修学旅行編最終幕に突入。
皆様、身を乗り出して須らく目視を!

ねぎFate 姫騎士の運命
ねぎFate 姫騎士の運命 第二十三話

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