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第0話 青空 投稿者:八尾 投稿日:06/22-09:02 No.2584
俺は子供の頃から空が好きだった。
青い空と白い雲。黒い空と光る星。太陽と月と流れ星。
一度も同じの無い風景。
俺はそんな、無限の顔を持つ空が大好きだった。
現在、西暦2192年3月19日午前11時48分。
今俺は北極海上空、高度二万六百メートルに浮かぶ艦船の中にいる。
外の様子を映すディスプレイに映るのは見渡す限りの蒼穹の空と太陽、そして地平線の彼方まで続く鉛色の雲。
ここ一週間、毎日見ている光景。
しかし何度見ても飽きず、ずっとこうして外の景色を眺めている。
「おい、おっさん。そろそろ飯にしねぇか?」
部屋のドアが開き、一人の少年が二人分の食事ののったトレイを持って声をかけてきた。
前髪を一房だけ青く染めた赤毛、茶色と赤の色違いの瞳を持った少年。
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ。
今俺が乗っている、世界でただ一つの雲の上を飛ぶことが出来る飛行艦艇『Hunter Pigeon』の若きマスター。
世界が雲に覆われている今、俺が再び青い空を見られたのは彼の協力のおかげだ。
話は今から一ヶ月と少し遡る。
大戦が終わり、残ったシティの一つ、シティ・神戸に所属していた俺はそこを出て世界中をまわった。
理由は一つ、もう一度青い空を見ること。
小さい頃から親の影響もあり人一倍空が好きだった俺は、いつも暇さえあれば空を眺めていた。
戦争の間もそれは変わらず、一層空への想いが大きくなり、もし終戦まで生きていたら雲の上に行こうと決めていた。
それから三年後、ある知り合いの紹介でヘイズに出会った。
「ああ、ありがとう。いただくよ」
彼の持ってきたトレイを机の上に置き、向かい合って食べる。
しばらくもぐもぐと無言の食事が続いた後、パンを半分ほど食べたヘイズが、
「なぁ、おっさん」
「ん?」
「ハリーが言ってた。もうすぐ着くって」
「そうか、解った」
それからまたしばらくむしゃむしゃと無言の食事が続き、
「なぁ、おっさん」
「ん?」
「ホントに行くのか?」
「ああ。それが今回空の上まで上がってきた理由だからな」
彼はスープを飲むために持っていたスプーンを下げ、
「おっさんには悪いけど、俺、多分失敗すると思う」
「・・・理由は?」
「言わなくても解ってるだろ。みんな言ってたぞ。あれに挑んで帰ってきた奴は一人もいないって」
「らしいな」
「じゃあなんで行くんだよ。絶対死ぬって」
心配して言ってくれるのは嬉しいのだが、もう少し遠慮というものをしてもらいたい。
言ってもらいたくないことをバンバン言ってくる。
まぁ、まだ子供だから仕方がないが。
俺は持っていた食べかけのパンを皿の上に置いて、
「なぁヘイズ、俺が何であそこに行きたいのか話したっけ?」
「そりゃあもちろん、雲を消すためだろ」
正解だ。だが、それよりも重大なことがある一つある。
「勿論それもあるが、もっと別の理由がある」
「理由?」
「ああ。俺が孤児院出身なのは話したよな?」
「聞いた」
「俺の両親は俺が五歳の時に死んだんだが、それまでは夫婦そろって船乗りでな。空をいつも飛んでた。で、俺も当然のようにそれに付いて行って親が死ぬまでの五年間の殆どを空の上で過ごした。それで親は色々と忙しかったから俺は窓から空ばっか見ててな。そのせいで孤児院に行ってからも空ばかり眺めてた。俺にとって空は友達なんだよ。ずっと一緒にいた親友」
そこで俺は一息つき、
「もちろん、俺が一方的に思ってるだけだが」
ヘイズに会った俺は、すぐに彼に頼んで雲の向こうへ連れて行ってもらった。
六年ぶりに会えた空は、当然のように真っ青で太陽が光り輝いていた。
その後雲の下に下りた俺は、巨大な喪失感に見舞われた。
大事な半身を奪われたそんな感じ。
地上からは当たり前のように青空は見えない。
それが何だか悲しくて、悔しかった。
雲を退かしたい。そう思うのに時間はかからなかった。
そしてそれをするには、一つの施設を壊すしかない。
すぐさま俺は行動した。
ヘイズに頼めば空の上まで連れて行ってくれる。
しかし彼を危険な目に遭わすことは出来ない。
だからあれに近づくためには『Hunter Pigeon』に詰め込める超小型の飛行艦艇が必要だ。
俺は古い友人を訪ね、彼と共にフライヤーを改造した。
約三週間かけて雲の上へ幾度と無く上りテストを行った。
完成したのは一人用の演算機関の塊のような船。
本来六人用のフライヤーは運転席を覗くほぼ九割が演算機関。これならば高度二千メートルに吹く強風の中でも自由に飛べる。
準備は整った。
俺はこれから一週間かけて世界中の空をまわり、最後になるかもしれない思い出を作る旅行に出る。
食事が終わって最後の打ち合わせをしていた二人の前に、
『ヘイズ、十六夜様。目的の地点に到着いたしました』
突然目の前に横線三本の漫画顔が出現した。
『Hunter Pigeon』に搭載された管制システムを司る擬似人格プログラム「ハリー」だ。
「そうか、わかった」
ヘイズが今回俺が支払う報酬のリストが表示されたディスプレイを見ながら返事をし、
「そうか、ありがとう。君にも世話になった」
俺は今までのことも含めてお礼を言う。
『いえいえ、お礼を言うのはこちらの方です。この一ヶ月、あなた様と行動を共にする事でヘイズは多くのことを学んだことでしょう。私共々本当にお世話になりました』
彼の顔がお辞儀をするようにひらっと揺れる。
それに対して俺は一度頷き、
「では、そろそろ行くとしよう」
そう言って立ち上がる。
「もう行くのか?」
ヘイズも同じように立ち、少し悲しげな表情をする。
俺はそれを無視し彼が持つディスプレイを見て、
「最後の確認だ。前金はもう払った。今この船に乗っている食料は俺が調達してきた物だが残りは全部やる。成功報酬はリチャードに預けてある。後で貰っておいてくれ」
「…うん」
そして彼の頭を一度くしゃくしゃと撫で、
「じゃあな」
そう言って俺は格納庫へ行った。
うなじに有機コードを接続して操縦系統をI-ブレインに直結する。
ハリーに連絡して扉を開けてもらう。
目の前には青い空と鈍色の雲。
「さて、行こうかな」
独り言を呟き、
目の前に俯く赤い少年が映ったディスプレイが開かれた。
もしかしたらと予想していたので、驚かずただ彼が口を開くのを待つ。
「・・・・あのさ、」
俯いた顔を上げる。そこには笑顔の少年がいた。
しかしそれは完全な笑顔ではない。
涙をぼろぼろと流している。
「おれ、さよならって言わない」
袖で涙をゴシゴシと拭いて、
「いってらっしゃい」
そう言って笑ってヘイズは俺を見送った。
格納庫から飛び出し、さきほどまで乗っていた船を見る。
鋭い流線型のシルエットを暗い血色に染め、真紅の船体に青いペンキで殴り書きされた機体名。
百五十メートル級高速機動艦『Hunter Pigeon』。
俺はこの青い空を飛ぶ人食い鳩に敬礼を送り、北極の真ん中へと進み始めた。
西暦2192年3月19日午後0時31分。
大気制御衛星のセンサーは近づいてくる一隻の船を確認。
防衛システムを起動し、迎撃を開始。
一秒もかからず、敵の破壊に成功した。
元シティ・神戸自治軍、『天樹機関』中佐、谷川十六夜はこうして生涯に幕を閉じた。
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