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第3話 紹介 投稿者:八尾 投稿日:06/23-18:12 No.2589



俺がこの世界に来てから二年の月日が流れた。

理事長がここで働く事を進めてくれたあの日、タカミチさんの補佐として新しく入ってくる中学一年の副担を任され、ついでにその子達の住む寮の管理人として働くことになった。
俺のことはその場にいた四人だけの秘密になり、これにはエヴァンジェリンさんも協力してくれた。その代価に彼女が俺の過去を無理矢理理事長を通して見せさせられたが。
それからは任されたクラスがくせ者揃いだったり、魔法使いとしての仕事をさせられたりと色々なことがあったが、まぁ楽しくやっている。


そして楽しい、幸せだと思うたびに俺は思う。
本当に俺は、俺だけがこんな思いをしていいのかと。
あの鈍色の雲に覆われた世界に生きている人達が与えられるはずだったものを、俺が奪っているのではないのかと。

俺は、ここにいていいのかと。







俺は今学園長に呼ばれて学園長室の前にいる。

会った当時はあの人の事を理事長と呼んでいたが、学園長の方からそう呼ぶように言われたので今では彼のことを学園長と呼ばしてもらっている。
ちなみにタカミチさんは変わらず、エヴァンジェリンさんのことは記憶を見せた後「特別にエヴァと呼ばしてやる」と言われたので、生徒と言うこともありエヴァと呼び捨て。

話が逸れた。

昨日の学園長の話によると、今日新任教師が教育実習に来てタカミチさんに変わって二年A組の担任をするらしい。
で、俺は引き続き二年A組の副担任としてその人のサポートをする。

コンコンと扉を叩いて 

「谷川です」

「おお、待っておったぞ。入っとくれ」

「失礼します」

中に入ると、そこには学園長と源先生、何故かジャージの神楽坂と近衛の仲良し二人組。

そして一人の子供がいた。


何故子供が?と一瞬思考が止まる。
赤毛で眼鏡を付けてスーツを着ている。
ぱっと見七五三に参加している子供だ。

「彼が君の担当する二年A組の副担任の谷川十六夜先生じゃ。解らないことがあったら彼に聞くとよい。谷川先生、こちらが昨日話したネギ・スプリングフィールド先生じゃ。よろしく頼むぞい」

その言葉からするに彼が例の新任教師らしい。
・・・・労働基準法とかどうなった?

後で学園長に問いただそうと考えながら彼に挨拶をする。

「初めまして、スプリングフィールド先生。二年A組の副担任をしている谷川です。よろしく」

そう言って手を差し出す。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

そう言って手を握り替えしてきた。

「って谷川先生、うちのクラスの担任が替わるって知ってたんですか!」

いきなり神楽坂が怒鳴ってきた。

「知ったのは放課後だがな」

「何で教えてくれなかったんですか!」

「別に教えなくても今日には知ることだしな」

「でも子供ですよ!」

「みたいだな」

はぁ~とため息をついて「うう~高畑先生~」とか言っている。
そういえばこいつはタカミチさんのことが好きだったな。
とりあえず肩を二回ほど叩いてやり、

「近衛、神楽坂を連れて先に教室に行ってくれ」

「はいな」

そう言って近衛は神楽坂を連れて出て行った。

「しずな先生もわざわざすまんの」

「いえいえ。それでは失礼します」

確か彼女は指導教員だったな。おそらく俺以外にも分からない事があれば気軽に聞けるよう、学園長が配慮して呼んだのだろう。

彼女が出て行き扉が閉まったのを確認して、

「で、学園長。ご説明お願いできますか?」

学園長の方へ向く。

「ふむ、実は彼は魔法使いでの」

「学園長!?」

横からスプリングフィールド先生が学園長の言葉を消した。

「大丈夫じゃよ、ネギ君。彼はこちら側の人間じゃ」

「え、そうなんですか?」

驚いたようにこちらを向くスプリングフィールド先生。
こちら側とは魔法使い側ということだろう。ということは、

「この子も魔法使いで?」

「そうじゃ。彼はイギリスにあるメルディアナ魔法学校という所を首席で卒業しての。そこの最終課題が『先生をやること』なんじゃ」

めちゃくちゃだな、それ。
そしてそれを実行するのもすごいな。




学園長室を出てスプリングフィールド先生と共に教室へと向かう。

「あの、谷川先生」

「何か?」

「谷川先生も魔法使いなんですか?」

さっきからこちらをちらちらと見ていたが、その事が聞きたかったらしい。

「ええ、まぁそんなもんです」

本当は少し違うのだが黙っておく。

へぇ~とこちらを見てくるスプリングフィールド先生。

まもなく教室に着きそうだ。

「スプリングフィールド先生――――」

「あ、僕のことはネギでいいですよ」

そうか。そちらの方が呼びやすいからそうさせてもらおう。

「そうですか、ではそう呼ばせて頂きます。じゃあ俺のこと十六夜と呼んでください」

「はい、十六夜さん」

「それでネギさん、これがクラス名簿です」

ネギさんに名簿を渡す。タカミチさんが使っていた物で、彼に渡しておいてくれと頼まれていた。ちなみに俺も持っている。

教室の前に来た。

「こちらが今日からネギさんの担当する教室です」

それを聞くと彼は窓から中を覗く。
やはり気になるようだ。

「そうだ、クラス名簿!」

ネギさんが名簿を開く。
そこには三十一人の名前と顔写真、そしてタカミチさんからの書き込み。

「げっ、い、いっぱい」

そりゃ一つのクラスだからな。
まぁ、実際はこれが多くも少なくもない良い数なのだが。

「それじゃあ、行きます」

カチンコチンだ。もう少し落ち着け。

そしてふと気づいた。扉が少し開いている。
上をみるとそこには黒板消しが挟まっていた。

おそらくあの双子だろう。ただしあの二人では届かないので誰かに手伝ってもらったようだが。

そんなことを気づかずにネギさんは扉を開けた。

「失礼しま・・・・」

黒板消しが彼の頭めがけて落ちていく。

そしてぴたっと止まった。

・・・・・オイ。魔法をこんな所で使うなよ。

クラスの皆もこちらを見ている。いきなり誰かにばれたんじゃないか?

そんなことを考えると、ボフッと止まっていた黒板消しが落ちてきて彼の頭を白く染める。
しかもかなりの煙が上がっている。どれだけ粉付けたんだよ、双子。こっちまで汚れるじゃないか。
とりあえず大気の壁を薄く作って、さり気なく煙を向こうへやる。

「ゲホゲホ、いやーあはは、なるほどゲホ、ひっかかっちゃったなぁゴホ」

そう笑いながら後ろ頭をかくネギさん。粉が舞うからやめろ。

そして彼が少し進むと、ガッと張ってあったロープに足を引っかけて、

「へぶっ!?」

と転んだ。そして

「あぼ!」

と上から降ってきた水入りバケツを頭から被り、そのまま転がって

「ああああああ!!??」

と叫びながら飛んでくる矢に撃たれて、

「ぎゃふんっ!!!」

と教壇に当たって止まる。

「あははははははは」

教室中から笑い声が聞こえる。
まぁその気持ちも分かるが。あれほど見事に引っかかれば笑うしかない。

「えっ・・・」

「あ、あれ・・・?」

「え―――っ子供!?」

「君大丈夫!?」

「ゴメン、てっきり新任の先生かと思って」

やっと相手が子供なのが解ったようだ。
それにしても雪広、その言葉じゃ新任ならいいって事になるぞ。クラス委員長としてどうかと思うが。

とりあえず彼に群がっている奴らを退かして席に付かせ、

「さて、こんな子供がなんでここにいるのか皆疑問に思っているだろうが、この子が新しい担任の先生だ。ネギ先生自己紹介を」

「は、はい」

そう言ってネギさんは一度ゴクッと唾を飲み込み、

「ええと、あ‥あの…、ボク・・ボク・・」

やはりまだ緊張しているようだ。さっきので少しはほぐれたと思うが。

「今日からこの学校でまほ…英語を教えることになりました、ネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですけどよろしくお願いします」

一瞬の沈黙。

俺はその間に大気の壁を作り音を遮断する。この二年間で次にこいつ達がどんな行動に出るか何となく分かるからだ。

そしてクラスの奴らの殆どが口を開ける。
聞こえないがおそらく「きゃ―――」とか叫んでいるのだろう。
とりあえず耐えられないのは一番最初だけなので壁を消す。

「何歳なの~!?」

「えうっ!?その10歳で‥」

「どっから来たの!?何人!?」

「ウェ、ウェールズの山奥の・・・」

「ウェールズってどこ?」

「今どこに住んでるの!?」

「いや、まだどこにも‥」

一つずつ丁寧に質問に答えていく。別にいいのに。

「…マジなんですか?」

長谷川が聞いてくる。

「信じられんかもしれないが本当だ」

気持ちは分かるぞ。

そして周りも聞いてきた。

「ホントにこの子が今日から担任なんですか―――!?」

「こんなカワイイ子もらっちゃっていいの~!?」

皆から抱きつかれ何も出来ないのかネギさんは手をパタパタと振っている。

「お前等のじゃないからな。それとほどほどにしとけ。困ってるぞ」

注意はしたが聞いてないようで、

「ホントに先生なんだ――――」

と、ネギさんは抱きつきあちこちへとまわされる。

「お前等、この子は教師の資格を持ってるが見たとおり子供でな。この中で一番年下だ。あまりいじくるな」

「ハ――――イ」

と元気な声で返事をするがおそらく誰も聞いていないだろう。

ふぅ、とため息を一度付く。やれやれだ。
そろそろ助けてやらないと授業が出来ない。初めての授業が消えたらさすがにかわいそうだ。

そう思い助けようとすると、


神楽坂が片手でネギさんを持ち上げた。


前から力が強いのは知っていたが子供を片手で持ち上げるのはやりすぎだぞ。

「ねぇあんた、さっき黒板消しに何かしなかった?何かおかしくない?あんた」

「え・・」

しかも先ほどのを気づいたようだ。

幸い気づいたのは彼女だけのようで他の奴は何の事を言っているのかは分からないようだが。

「キッチリ説明しなさいよ~」

そう言ってネギさんの首を持って揺らす。

それに対して周りからは煽るような声が出ている。

そこで、

「いいかげんになさい!!」

雪広がそれを止めた。

「皆さん席に戻って。先生がお困りになっているでしょう」

そう言って神楽坂の方を向いて、

「アスナさんもその手を離したらどう?もっとも、あなたみたいな凶暴なお猿さんにはそのポーズがお似合いでしょうけど」

煽るなよ。

「何ですって?」

神楽坂がそれに反応して雪広を睨む。

こうなったら後は目に見える。

案の定暫くして二人は喧嘩を始めた。いつものことだ。

ふぅ、とため息を付いて壁にもたれる。しばらくほっとこう。そのうち終わる。

すると横から、

「子守は大変だな」

エヴァが声をかけてきた。

「まったくだ」

二人の喧嘩をネギさんは止めようとしているが入り込めそうにない。

「あのガキがナギの息子か?」

そう言って彼女も彼を見る。

「名字からしてそうだろうな」

ナギ・スプリングフィールドのことはタカミチさんやエヴァと話すときによく名前が出る。
なんでも最強の魔法使いらしいが俺は興味がない。どうせ死んだらしいから会うこともないだろうし。

「そうかそうか」

ニヤニヤしている。何か企んでいるようだ。

気にはなるが見なかったことにし、そろそろ授業を始めようと喧嘩をしている二人の所へ行き、

「そろそろ授業を始めるぞ~」

手を叩いてこちらに注目させて、皆を座らせる。

「ではネギ先生、お願いします」

そうホッとしているネギさんに言った。

「は、はい」

魔法士は空を見上げる 第4話 歓迎

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