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月と魔法に花束を/2『新天地』 投稿者:へたれっぽいG 投稿日:04/08-04:20 No.64

自己というものが、何処か知らない場所にいる感覚。それが彼、月森冬馬の現在の心境だった。

柔らかな印象を思わす木製の壁に包まれた、自分が寝床にしていた部屋よりは幾分か大きい部屋。南方にある閉められた窓から、寒い空気を暖めるような日の光が差し込んでいる。

とても静かな場所だ。そしてここは、まったく知らない部屋だ。それを冬馬が再度自分の心へと確認した時、自分はどうしてこんな場所にいるんだろうと疑問に覚え、あの時の記憶を掘り起こそうとしていた。

そうだ、たしか、自分はあの廃墟となった東京で、臓腑と成り果てた深雪に"力"を振り下ろし――



「・・・深雪さんっ!?」



瞬間、冬馬は勢いよく上半身を上げ――激痛が、体中を駆け巡った。



「ッッッ・・・・・!?」



"久遠の月"によって生まれた病巣とは違った痛み――まるで全身を巨大な氷の上に無理矢理叩き落とされた感じが近いだろうか。

唐突のことで、再びベッドへと倒れてしまう。力が、痛みでまるで入らない。倒れた拍子に、自分の身体が掛け布団の隙間から覗いて見えた。

上半身、いや全身と右腕に満遍なく巻かれた包帯が、冬馬の目に映った。・・・右腕?



「・・・何でだ? たしか、あの子に障壁を張ってあげた時に、なくなったはずじゃ・・・」



そうだ。深雪に力を振る直前、その近くで蹲っていた褐色肌の少女――"あの男"に人形になっていた、宿敵の最愛の女性――燐に"力"を使って衝撃を防ぐドームを作り、その反動でなくなったはずだ。

何故・・・? そう疑問に思い、今度は掛け布団を左腕で捲り、下半身を見る。



「・・・やっぱり」



そこには、"力"を使った反動で消えてしまったはずの左脚が、たしかに繋がっていた。ただし、包帯に巻かれてだが。

疑問が一気に増える。

ここは何処なのか?

深雪はどこにいった?

何故なくなったはずの四肢が繋がっている?



「・・・ダメだ、まったくわからない」



そういい、木目の天井向けて溜め息を吐く。獣人特有の発達した嗅覚、聴覚もまるで使い物にならない。きっと、最後の闘いの反動で、全部駄目になってしまったのだろう。



「当たり前だよな、もう死んでも当然だったんだから・・・・?」



不意に、自分で言った言葉に、疑問を覚えた。

自分は今、何を言った。死んでも当然? そうだ、確かに自分は"力"を使い、この身体を消滅させた。そして、あの光の中で深雪と約束し――



「・・・・もしかして、生きてる、のか?」



今更のことを、まるで熱病に浮かされた病人のような口調でいう。いや、ついさっきまで殆ど現実味がなかったからだろうか。

だが、今この瞬間、冬馬の世界へ一瞬にして現実の色を帯び始めた。

信じられない。そう、自分の考えを否定するように半ば無意識のまま右腕を心臓の位置へと動かそうとして、



「っ痛!・・・・・・痛い?」



痛覚が、右腕にある。それはつまり、自分に生きているという証があること。

そういえば、身体が温かい。耳をすませば、心臓の音だって聞こえる。

「やった!」と叫ぶより、どうしても気になることがあった。

その『気になる』という感情は、同時に大きな不安だった。

ならば、彼女はどこにいる? 何故自分は生きてるとか、ここは何処だかとか、そのような今正に考えなければならないことよりも――否、月森冬馬にとってもっとも重要なことだった。

不安から生まれた疑問を呼び、その疑問が不安と恐怖の想像を誕生させていく。それはまるで螺旋のように、増大し、加速しながら、止まらない。

考え、考え、考え――最悪のパターンだけが頭に浮かび、まるでそれこそが真実だと言うように冬馬の頭の中に居座った。何度もそのイメージを振り払おうと頭を振っても、こびりついて離れることは無い。

即ち、彼女は、もう――



「は・・・ははは・・・・・・」



渇いた笑い声が、まだまだ寒い部屋の中へと消えていく。まるで世界には自分の声しか響いてないようで、余計に心が渇くようだった。





生きている。

生きてるんだ。

獣人の力はなくなったけど、間違いなく自分は生きているんだ。

身体だって、元通りになっている。

なら、彼女は何処にいるんだ?

自分だけ助かってしまったのか?

助けたいと思った彼女がおらず、彼女を守ろうとしてがんばった自分だけが生き残った。

逆ではないか、これでは・・・・



「・・・・なんでだよ」



約束したのに。

いっぱいいっぱい、約束したのに。

今度こそ一緒に歩いていこうって約束したのに。



「何で・・・なんで・・・」



彼女は、何故、今、隣りにいないんだ。

冬馬の心に、止め処もない哀しみが満ちていた。それが、瞳を通じて、そっと、涙となって零れていく。

それは、哀しみの涙だ。絶望の涙だ。だけど今の冬馬にはそうすることしか出来なくて、ただ込み上げてくる嗚咽を体の中に押し留めようとする。漏れ出してしまえば、自分は今すぐにでも死んでしまいそうだから。

その時、冬馬の心に応えるように、開かれた、ドア。





「・・・冬馬さん?」





部屋をざっと見るだけで、一つしか存在しないよう比較的小さなドア。

半開きとなったそこから、まるで小動物のように顔を出して、こっちを窺ってくる小さな顔。

陽光に反射する川のように伸ばした栗色の髪に、今は豪奢なフリルに彩られたドレスに身を包んだ華奢な体。

そして、その、自分の名前を呼ぶ声は。



「・・・み、ゆき・・・・さん・・・・?」



呂律が回らない。喉が、急に熱を帯びて苦しくなる。視界が滲みながら、小柄な体を納める。

冬馬の頬を流れ落ちる涙が、その少女、いや女性――深雪の目に映る。それだけで、深雪は冬馬の不安を見透かしたかのように微笑み、ベッドの脇まで歩いてくる。

そして、その頬に流れた涙を掬い、一度はなくなってしまった包帯だらけの右手を、そっと、小さな両手で包み込んだ。

まるで祈りを捧げるように目を瞑ると、



「はい、私はここにいますよ、冬馬さん」



そっと、花が咲くように笑みを浮べた。

それだけで、冬馬の中の不安が、まるで光に払われる闇のように、消えてなくなってしまった。

不安のイメージの変わりにあるのは、ただ、目の前の人が、自分のせいで何度も失いかけた笑顔をしてくれていること。

それだけで、冬馬は、また泣きたくなってしまった。



「みゆき、さん・・・・・」



あまり力が入らない右手で、精一杯握り返す。それに応えて、深雪も握り返す。

ああ、この温もりだ。深雪さんの温もりだ。それが、冬馬の思考を満たしていく。獣人ではないのに匂う甘い匂いは、彼女の髪の匂いだ。

それを感じるで、冬馬は、彼女の前で思いっきり泣いた。

情けない泣き声だったけど、深雪はそれも受け入れてくれた。





~~~~~~~~Other Time~~~~~~~~





「・・・入りにくい」



金髪ロリ吸血娘とロボ従者が部屋に入ることができたのは、それから十数分後になったという。





~~~~~~~~A Bedroom~~~~~





「――異世界?」



目の前で足を組んで椅子に座る少女、エヴァの言った言葉に、冬馬は文字通り『口をポカンと開けて』しまった。

部屋には、ベッドから上半身を上げる冬馬とその脇に置かれた椅子に腰掛ける深雪を前に、エヴァと茶々丸が尋問官よろしく座っている。

綺麗な女の子達だな、というのが冬馬の第一印象だった。

まず、エヴァンジェリンと言う(名前は深雪に聞いた)金髪の少女は完全な西欧系――しかも、完成されたアンティークドールすら思わす容姿だった。彼女が今着ている衣服には色とりどりのフリルがあることから、余計にそう感じてしまう。

目を凝らして部屋を見回すと、沢山の人形があるから、これはこの少女のものだろうと思った。

何より、彼女はあの男と同じ『吸血鬼』らしい・・・そのことを聞いて一瞬警戒したが、生きるためには別に血は吸わないと聞いて安心した。血を吸わない=人を殺さないという『勘違い』が、まだ状況を整理しきれていない冬馬の頭の中にあったからだ。

そして、エヴァの後ろで寡黙に立つ緑色の髪の少女。こっちはもっと可笑しな容姿だ。おそらく、自分の知識が正しければ少女の着る服はメイド服という如何わしさ抜群の代物だ。しかもこれまたフリル+黒基調であるし、それが様になっていることが余計におかしい。

何より、普通の人間ならば耳のある部分には、謎の突起物がくっ付いている。目を細めれば、何故か小さく【麻帆良大学ロボット工学研究会作・一機入魂】と書かれている。さらには関節の節々には、明らかに人間とは違う"部品"が覗く。

・・・・・メ○ドロボ、という単語が脳裏を過ぎったが、冬馬はコンマ一秒、兄の技も真っ青な速さで打ち消した。あながち間違っていないのがシュールだ。



「そうだ」



エヴァは、そこはかとなく冷たい響きを持った声で、冬馬へと返した。

彼女自身、それを最初から信じているわけではなかった。だが、出会った時の異質さ、看護中に感じた人ならざる回復力――通常の人間なら死亡しても可笑しくない怪我をこの二日である程度癒した――、二人から感じる人ならざる、否人に似通った気配、そして深雪の証言とエヴァの長年の理論がそれを証明した。

この二人が住んでいた世界と、私が住む世界は違う・・・と。



「そこの女――いや、お前の女だったな――深雪に聞いた話をまとめてみると、こちらにはお前たちのいう『獣人』は俗に――といっても裏の世界だが――『亜人』などとも呼ばれてるし、種族ごとに名称も違う。さらに世界中の亜人には"気"や魔力は存在するが"獣気"などというものは存在しない。加えて、お前たち獣人を保護するという『院』という組織などもないし、東京は最近ラ○○ドアとかいう企業で慌ててるだけで大惨事も起こっていない。

 ――あえてもう一度言おう。ここは、お前たちが住んでいた日本・・・いや、世界ではない」



ただ、事実を淡々と、それでいて自身への確認のように言葉を連ねていく。

そしてエヴァの言葉に、冬馬は頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を覚えた。だが、それと平行してぬるま湯をタオルに染み込ませていくかのように、事実を受け止めていた。



「・・・・・・そう、なんだ」



「冬馬さん・・・」



目を瞑り、天を仰いだ。

そうすると、今の話の全てがまるで他人事のように思えて仕方なく、頭が冷めていく。

深雪さんは、どうだろうか? もし話が本当なら、向こうに帰りたいだろうか? それとも、自分達を傷つけ、まるで弄ぶような運命をかしてきた世界には帰りたくないだろうか? 



「・・・話を続けよう。お前たちが現れたとき、月は妙な色をしていた。・・・同時に、不可思議な気配も感じたが、お前たちが現れた直後、その気配は消えていた。私が思うに、その"何か"がお前たちをここに導いたのだろう。

 ・・・逆に言えば、それが再び現れない限り、お前たちは向こうには帰れない。・・・・・・・・これが、私の考えだ」



そうして一息吐いたエヴァの目の前に、まるで予め決まっていたかのように茶々丸が緑茶の入った湯のみを差し出した。

その従者の仕事振りと湯気の立つ茶の美味さに、思わず顔を綻ばす。



「それじゃ私達は、それがわからない限り、ずっとここにいるということなんですか?」



冬馬が声を出す前に、深雪の言葉を紡いだ。

茶を楽しんでいたエヴァは一口、優雅ともいえる仕草で飲むと、目を瞑ったまま答えた。





「その通りだ」と。





シン、と場が静まった。

それが、一秒、十秒、三十秒・・・短いはずの時間の中で、冬馬の頭の中だけが、まるで違う時を進むかのように考えが流転する。





――考えは、今までの思い出。



――思考の渦は、記憶と記録と、感情。



――やりたいことは・・・・・・なんだろう?



――何が、したかったんだろう。



――覚えている?



――覚えてる。



心の中で、強く、強く頷いた。





「・・・正直、俺はまだはっきりと状況がわからない」



唐突に、冬馬は声を出していた。無意識に。



「・・・それよりも、ずっとずっと、考え続けているんだ。深雪さんに出会ってから、食事をしてるときも、デートに行くときも、眠るときも、戦っているときも・・・そして、今も」



それは、エヴァや茶々丸という"優しい他人"への説明ではない。



「・・・どうしたら、俺は――俺達は、幸せになれるかって」



瞑っていた眼を、ゆっくりと開いた。目の前には、愛しい女性。

その人は、ただ黙って、言葉を聞いていてくれる。



「ただ降りかかる火の粉を払ったり、誰かを守ったり、傷つけたり、悲しませたり、喜ばせたり、笑いあったり・・・そういう、誰にでも出来る幸せっていうのかな? そういう"幸せ"が欲しかったんだ」



バカなことを言っている。わかっている、そんなこと。くだらないことだと、誰でも吐き捨てることができる。わかっている。

延々と自虐の言葉が浮かび、それを遮るかのように木霊する声。

言葉が、うまく纏まらない。言う側がそれでは、滑稽以外の何者でもない。



それでも――



「けど、そういうものに、いつも恵まれなくて・・・そういうことを、いつも神様は壊してくれて・・・正直、神様なんて信じなくなったよ」



時に母を殺し、その罪に苛まれ続けた。時に愛しき人を失いかけた。時に血を分けた兄を、父を殺された。

嗚呼、何を言ってるんだ、何を思っているのだ、自分は? 深雪さんに、全てをぶつけたいのか? 自棄糞にでもなっているのか?



違う、と心の中で誰かがいった。



「それでも、俺は・・・まだ」



まだ、まだ・・・



「幸せを、深雪さんと支えあって・・・幸せを、手に入れたいんだ」



たとえ、神と呼ばれる存在がまた壊そうとしても。

たとえ、もうもとの世界には帰れなくても。

たとえ、深雪さんから拒絶されても。



たとえ、どんなことがあろうとも・・・





「冬馬、さん・・・」



深雪は、ただ驚き――嬉しさで、心が破裂しそうだった。もし、ここに二人きりなら、冬馬の怪我も省みず、その胸に飛び込んでいたかもしれない。

深雪とて、人の子だ。もう元の世界に帰れない――即ち、義姉や妹分や弟、そして知り合った全ての人に会えなくなることに悲しさを覚えないということはない。

不安だったのだ。眠っていた冬馬がいなければ、自分は目の前の二人の厚意に応えもせず、ただ泣き、哀しみ、塞ぎこんでいたかもしれない。

そして先ほどのエヴァの話が、益々不安を増長させていたのだ。

こと信じる――というより、思い込んだら一直線なきらいがある深雪の心は、冬馬の目覚めによって僅かに癒されたとはいえ、多くの亀裂が入っていたのだ。あの時部屋を覗きこんだのだって、そういう不安から来ていたのだ。

だが今は、そういう不安という不安が、喜びという気持ちに全て変換されていた。



「・・・勝手にこんなこと言っちゃったけど・・・深雪さん、俺を支えてくれる?」



不安そうな、それでいて困ったような、何処と泣く悪戯っぽいものを混ぜた笑みを浮べる冬馬に、深雪は、



「・・・・・・・ハイッ!」



目尻に涙を溜めながら、笑顔で答えた。





「クッ、クククククククク・・・」



・・・・・・・・・・・・・すぐ傍で、誰かが地獄の閻魔よろしく邪笑を浮べていた。その更に隣りでは、レンズ洗浄液(無味無臭透明)を流す似非メイ○ロボの姿が・・・



「貴様等・・・説明してやった人の前でラブコメするなァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」



現在、愛しの魔法使いに呪いを掛けられて十五年連続学生の吸血娘が、怒りと嫉妬と鬱憤とその他50%を全て込めた叫びを上げた。



「・・・お幸せに」



叫びでベッドにもつれ合う二人を見て、感受性の高いロボはグスンとすすり泣いたとか。



お後がよろしいようで。



/2 End

月と魔法に花束を/月と魔法に花束を/3『外から埋める』

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