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英雄のタクティクス その八 元隊長の統率力(×FFT) 投稿者:かい 投稿日:04/09-04:46 No.179
ラムザは呆然としていた。
先に教室に入ろうとしたネギが"いやぁまいったな。アハハハ"とか言いながら教室に入っていったのだ。
ココまでは別に良い。彼の頭上からなんか降ってきたり、それが粉を吹いていたりしたが。ソレは別に良い。
問題はその後だ。
何か悲鳴が聞こえた後、どういうわけか、彼が尻に先端が吸盤上になっている矢を三本くっつけ、教卓で逆さまになっているからである。
よく見たら彼が身につけているスーツも濡れてしまっている。ついでに頭にバケツも乗っている。
突然目の前でこんな光景が繰り広げられ、呆然とせず何とするか。
生徒達が大きな笑い声を上げている。
あ、何人かは"してやったり"な顔をしてる。現実逃避するあまり、ラムザはそんなどうでも良い事を考えてしまう。
少しの間笑い声が響いていた教室だが、冷静さが戻ってくるにつれ、笑いの種になっている人物の違和感に気づく。
「ん?」
「あ、あれ?」
「イタタタタ……」
「えー!? 子供!」
「ごめんね、てっきり新任の先生だと思って……」
教室が大混乱に包まれる。
そりゃそうだ。こんな子供が入ってきた所で、誰もこの子が新任の先生だとは思わないだろう。いや、思ってたまるか。
とゆうかこの子供が"僕が新任です"と言った所で信じて貰えるかも怪しい。
ココは自分が行かなければ。行って説明しなければ。大丈夫、いつも隊を纏める時みたいにすれば良いんだ。たぶん。
ラムザは自分にそう言い聞かせ、教室へと歩を進める。
「君大丈夫?」
「てゆうかなんでこの教室に来たの?」
「いえ。その子が新任の先生ですよ」
皆に聞こえるように声を出しながら、ラムザは騒がしい生徒達に声をかける。
その声に反応した生徒達は、数人を除いて一斉にラムザを凝視する。
「あ、えっと……。貴方は?」
「副担任です。さぁ、自己紹介しますから皆さん席に戻ってください」
年の割りに幼く見える顔とは裏腹に、彼の声は不思議と威厳たっぷりに聞こえる。
かつては小隊を率いてただけの事はある。
彼の生徒達は大人しく、各々の席へと戻っていった。
その様子を見たラムザは、軽く頷き、ネギの方を向いた。
「さて。じゃあネギ君、担任の君から自己紹介してくれないかな」
「あ、はい……」
なんだか立場が違うように見えてしまう。
本当はこっちの金髪の人が担任なんじゃないのだろうか。
そう思わせる雰囲気が教室に充満している。
「えっと……。今日からこの学校でまほ……英語を教えることになりましたネギ=スプリングフィールドです。三学期の間だけですけど、よろしくお願いします」
「そして僕がネギ君の補佐兼副担任を勤める事になりました。ラムザ=ベオルブです。皆さんどうぞよろしく」
しーん……。
そんな擬音が聞こえそうな程、教室内が静寂に包まれている。
何か変な事でも言ったかな? ネギは心配になった。
だがこの静寂の意味は、彼の予想していた物とは違うようである。
「か……」
「「か?」」
「かわいーー!!」
「かっこいー!!」
「「!?」」
突然の生徒達の声に、ネギもラムザも驚いてしまった。
二人は、あっという間に生徒達に囲まれ、質問攻めになってしまう。
ネギに至っては、何人かの生徒に抱きつかれている始末。
「何歳なの!?」
「じゅ、十歳です……」
「いちおう二十ですが」
「どこから来たの? 何人?」
「ウ、ウェールズの山奥……」
「イヴァ……育ちはこの国です」
ラムザは流石に落ち着いているが、ネギは半分混乱状態になっている。
しかし、質問に答えるのに精一杯で、この状態をなんとかする事まで手が回らない。
ならば質問に答えなければいいのだが、残念ながら質問されて答えない事は、真面目なネギとラムザにはできなかったりする。
そんな二人に救いの手……なのかどうかはわからないが、この状況をどうにかできそうなきっかけが起こった。
ぐいっ!
「うぇ?」
ネギの体が突然宙に浮き、すぐに教卓に座らされてしまった。
「ねぇアンタ。さっき黒板消しになんかしなかった?」
明日菜だ。
ネギの襟首を掴んだまま、彼に何かを問い詰めている。
なんだかよく解らないが、生徒達の興味がネギと明日菜に向いている。
これはチャンスだ。
このタイミングで大声で言えば、皆も落ち着いて、席に戻ってくれるはず。
ラムザは大きく、だが皆には見えないように息を吸い込む。
「皆さん席に「いいかげんになさい!」
バァン! と机を叩きながら出した声が、ラムザの声を遮った。当然、生徒達の顔はそっちへ向いてしまった。
出番を取られて、ラムザはちょっと顰め顔をしたが、すぐに気を取り直して、たった今大声を出した人物の顔を、先程記憶したクラス名簿から探す。
あぁ確か、雪広あやかだった。このクラスの委員長なんだとか。
ココはまかせて見るか。生徒達の自主性を伸ばすのにも良さそうだし。
ラムザはそう考え、様子を見ることにした。
しかし……。
なんだか様子がおかしい。
さっきまで委員長によって静かになっていたクラスが、さっきと同じく、いやさっきより騒がしくなっている。
「知ってるのよ! 貴方、高畑先生が「うぎゃー! その先言うんじゃねぇこの女ー!」
見ると、先程まで教室を静かにさせていた委員長が、今度は騒ぎの当事者になっている。明日菜と取っ組み合いをしながら。
本当になんなのかこのクラスは……。ラムザは頭が痛くなってきた。
いや、いつまでも現実逃避してるわけにはいかない。
意を決したラムザは、もう一度息を吸い込み、隣のクラスの迷惑にならない程度に、大声で叫んだ。
「皆さん席に戻ってください! 時間もないんですから」
一瞬、クラスが驚く程静かになった。
「で、でも先生。この女が……」
明日菜が言い訳をしようとするが……。
「言い訳無用です! さっさと戻らないと斬……本気で怒りますよ!」
もう少しで隊の時の癖が出てしまうところだった。
少し反省しつつ、ラムザは続ける。
「いいですか? 貴方達はクラスメイト。団結しなくてはいけない共同体です! それなのにつまらない理由で喧嘩をして何が団結ですか。そんな事ではイザという時後悔するのは貴方達なんですよ!?」
教室全体がシンと静かになった。それだけラムザの言葉には威厳と説得力があった。
普通の教師が同じ事を言っても、おそらくは笑われるだけだろう。
しかし、ラムザの雰囲気と目は、妙な説得力を持っていた。
それはまるで、本当に体験した者が語るように。
ラムザは別に怒ってはいなかった。ただ単に大声でソレを言っただけである。
しかし、怒られるより怖い何かが、彼にはあった。
ソレが何かは、彼女達にはわからないが。
「少し説教臭くなってしまいましたね。さぁネギ君、時間ももうあまり無いし、授業の方をお願いできますか?」
「え、あ、はい」
なんだか何人かに、尊敬の目で見られていた気がするが、ラムザは別に気にしなかった。
ネギを促したラムザは、教室の脇により、授業の様子を見守ることにした。
ラムザはあくまで補佐だ。だが、見ていられない事態が目の前で起これば、ソレを止めるのが彼の数ある信念の内の一つ。
先程の大声もそうである。
もちろん、普段は補佐としての仕事に徹するつもりだ。ソレが彼の役割だから。
まだ幼い、だがどこか不思議な雰囲気を出す少年をサポートするのが彼の役割。
そして……。
「と、届かない……」
……さっそく仕事ができたようだ。
続く……。
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