椅子にもたれかかって空を見上げている。
鴉が一匹鴉が二匹、アホーアホーと私をバカにするみたいに空を飛んで言っている。
まぁそう言わないでよ鴉達。私だってこの結果は予測していなかったわけじゃないのよ。
中学生で、私より数歳も年上の、でもどう見たって私よりも年下にしか見えない双子。
精神的にも、身長的にも、感情的にも私のほうがどう考えたって年上であろう双子の行動パターンを、そんな年齢以外は全体的に年上張っている私が読みきれないわけが無いわけでありまして。
野外のパラソルの下。
テーブルの上に十五枚目のデザート皿が運ばれてきた。
つまりはそういう事だ。
双子に軽食をご馳走してもらえるようなカフェを紹介してもらったのは別に良い。お腹も膨れて腹八分目。行動してかロリー消費するには一番の満腹感を満たして、さて、再びお仕事の開始でもと思ったまでは良かった。
けれども、そんな事で双子が満ち足りるわけもなくって、目の前の双子は、今、通算十五枚目のデザート皿の上を平らげて、十六枚目に突入しようとしている。
双子の黄色い声が心地良くも、私の憤慨を削いでいく。
いや、本当はものを食べたらとっととおいとまする予定だったのよ。
だってあんまり関わり合うのは良い傾向とは言えない。言わなくったって、この子達はネギのクラスの人なんだから、何がきっかけになって私の事がばれるとも限らない。
いや、名前さえ言わなければ別に大丈夫なんだけど、中には記憶力が良くて、絵を書くのが得意な人って言うのは意外と外見からは推測が難しいのだ。
尤も、この双子は大丈夫でしょ。何しろ色気より食い気。才能より食い意地だ。それが将来泣くような破目にならないように祈りつつ、通算十六枚目のデザート皿が運ばれてきたのを見て、げんなりする私。
右手側の妹さんも、左手側のお姉ちゃんもまた美味しそうにパクパクいっている。
女の子にとってデザートは別腹であるとはよく言ったもんだ。この言葉を初めに言った人は賞賛に値すると、正直にそう思っている私がイル。
何しろフォークとスプーンが止まらない。ブラックホールに直結しているんじゃないかってぐらいの食の進めぶりは、見ていて吐き戻しそうな、綺麗に言うと見ているだけで更にモノがお腹に詰め込まれてしまっているような、そんな満腹感の塗り重ねに思えてしまう。
よって私は空を見上げているのよね。空を見上げて、なるべく満腹感が積み重ならないように双子の方から目を背けているのだ。
で、ちらと双子を見ればまだ食べている。
まるでヘンデルとグレーテルだ。お菓子の家を見つけた二人はクッキーの屋根やら、チョコレートの扉やらを舐めたり齧ったりして空腹感を満たしたって言うけど、この双子も似たようなもんかもしれない。
ただ食べているのが腹もちの良いプリンやゼリー、消化不慮を起こしそうもないものばかり食べていっているのは、双子なりの配慮であると、そう思いたい。
まさかとは思うんだけど、割勘よね。私がお金払うってわけじゃ、ないわよね。
それは一先ずお預けだ。
双子の食が終わるまでは不安感に襲われつつも一人撤退は出来ない。
一人に伝達する不信感と言うものはどこまでも伝達が激しい。双子に私の不信感を植え付けては、よけいな波紋を波立たせかねないのだ。
よって傍観。この場は双子の時間なので、私も双子に行動パターンはあわせていくのが一番良い。
生活サイクルを変えるのではなくて、生活サイクルを合わせていくと言うやりかたは、賢しくも尤も波風立たない平和的な問題処理方法と言えるでしょ。
自分の意見や行動を他人に押し付ける必要も無い。流れのままと言うのはこう言う事で、時には人に自分のペースを合わせる事も大事なのだ。
自分勝手は嫌われがち、自分の意見をしっかり持ちつつも、周囲の人間への配慮も忘れちゃいけないのだ。そういうのが人間って言う生き物で、人の世を渡っていくには一番大事な事なのよね。
さて、双子の食べる速度は全然衰えないし、かといって何処かへ散歩にでも行こうとすればきっと感づかれるでしょうね。
こういったタイプの子達は自分の目の前の状況に集中しているくせに、周辺への感度も敏感なのだ。
迂闊な行動が招く不信感の植え付け。それだけは避けなくっちゃいけないことなので、仕方なく、さっきまでと同じように椅子に背中を預けて、大きく反り返って逆さまに世界を見る。
そう、脚を天へ向けるように、眼を地面へ近づけるように。
反転世界は面白い。逆さまに世界が広がって、新しい世界に居るような高揚感を覚える。
世界って言うのは意外と小さなモンで、ちょっと見方を変えれば幾らでもプラスに出来るのだ。
現実世界にマイナスを抱いたら、先ずそのマイナスを払拭する事を考えるんじゃなくて、どう見方を変えたらプラスに出来る事が出来るのかを思考する事が大事なのよね。
何時までもマイナスマイナスじゃ気が滅入る。
滅入る前にプラスの見方。プラスの思考にならなくても、十分自分にとってはプラスと成り得る見方に視線を変更する事が、良いと思っているんだけど。
正直、反転した世界の私の逆側にある目が冷たい。
こんな今の私の状況を変な目で見ている人も居るけど、そこまでだ。
笑っている人、ひそひそ話をする人、殆どスルーする人など、対応と言うか反り返っている私を見て思い思いの行動をとっている。
でも、だ。その光景の中に異質感がある。ああ、いや違うかな。異質感と言うよりは、異質な視線だ。ソレを感じる。
正体は始めから、こうやって反り返った時点で感づいている。向かう視線の向かい側。反転世界を見ている私を覗くように、カフェの屋上辺りに、鴉が一匹こっちを見ていた。
その眼に感情的なものはない。
無機質の眼差しとも言うんだろうかな、生き物と言う有機的な存在であるにも関わらず、その目線は限りなく無機。
動物と言う暖かさのある存在だと言うのに、視線と、その裡から感じ取れるモノは驚くほど冷たい。
まるで機械。人の手を一切介入せず、人が造り出した機械が更に造ったモノの様な、何処までも広く、深く、濃い眼差し。
全体を見ているように広く、その全体を全て見透かすかのように深く、眼に宿った漆黒は、憎悪のように濃い。
実際、鴉が何を考えているのかの判断は付けられない。きっと、つく人間は、生き物は存在しない。
機械も同じ。人の生み出したモノが理解できるのは、人が生み出したモノだけだ。
人は人の感情だけを理解でき、人の考えだけを理解できる。他の生き物の事なんて、理解出来る筈が無い。
いつだったかな。ウェールズで猫に構っている友人を見ていた。
猫はニャーニャー鳴いて、その私の友達だった女の子に可愛がられていたけど、ある日それを見なくなった。
唐突に猫は居なくなって、女の子はそこへ来るたび、自分で付けたであろう野良猫の名前を泣きながら呼び続けてた。
猫が彼女から離れた理由は至極簡単で、いつもは餌を持ってきている彼女が、猫が居なくなる前日に忘れていたと言うだけの話。要するに、猫は餌をもらえなかったと言う理由で彼女を拒絶したのだ。
でも、まぁ、それは当たり前だと思う。
猫も、鴉も、自然的に生きている生き物にとっては毎日が死活問題なんだ。餌が取れなきゃ死ぬだけだし、食わねば餓きは癒せない。
猫は、少女に可愛がられていたんじゃない。猫が、少女に可愛がられれば、餌にありつけると言う他愛も無い強かさがあったに過ぎないのだと考えていた。
生きていくうえに何かを食べなくては生きてはいけない、その猫は、生きる為に少女に餌を請う為、少女に可愛がられていたに過ぎない。
だから、猫は餌をもらえなくなった以上、ここに居る必要は無いと判断したと思う。
彼らは道楽や、感情で私達に関わってくるんじゃない。
何より優先する事が生きる事だと言うだけのお話なのだ。
餌を貰えるから関わるだけであって、自分達が生きていくのに不必要だと判断すれば、即その場から消え失せる。
それを冷たいとは思わない。そりゃ当たり前だ。彼らは私達みたいに俗っぽい生き物なんかじゃない。
娯楽を愉しむ余裕なんかない、不幸を悲観している様な余裕さえない。
ただ生きていく為に一番の優先順位をつけているだけなのだろう。
自分が生きていくには、何が一番必要なのか。一番効率の良い方法を選択しているに過ぎない。
きっと少女にしてみれば一度だけの忘却だったんだろうけど、猫にしてみれば死活問題だ。一日何も食えなくなる可能性が発生したんだから。
事実、少女の前に猫は以後姿を現さなかったけど、どっかの路地裏で、ゴミ箱を漁っている猫は、その少女が可愛がっていた猫だったのをよく記憶してる。
つまりは、猫にとって少女が餌をくれなくなった以上、自分で何とかする生き方が一番だと判断して、少女の前には二度と姿を現さなくなったでしょうね。
それが彼らの領域だ。
利益優先と人間は言うけど、彼らには違う。まったく違う。
彼らは生きていく事に貪欲なだけなんだ。
生きていくためならば如何なる法をも惜しまない。自分が出来る範囲内で生きてゆく事が出来る尤も効率の良い方法を本能的に行っているだけに過ぎないと言うのが、自然界と言う世界に生きている彼らの領分なのだと、私はそう考えている。
あそこで見ている鴉も、きっと同じ。
彼は生きる事を優先としている。ここに居るのは、野外カフェで、誰かが席を立ったときに残し物があれば瞬時にソレを得ようと言う強かさがあるだけ。
“したたか”と言う言葉が字本後で何故“強か”と読むか理解した気がする。
これが強さだ。生きて行くための強さ。私達みたいに、娯楽程度で振るう力で生涯駄取り付くことの出来ない強さ。“生きる事を優先とした強さ”それ故の、強かさ。
欲望なんて無い。目的なんて無い。夢なんて無い。感慨なんて無い。何も無いけど、一つの目標と、夢と、欲望と、感慨がある。
それが生きたい。生きていきたいと言う、ただそれだけ一念の渇望。
人間が持つ俗っぽい全ての感情を切り捨てるほど単純で、けどきっと人間では理解するに至れない、人間以外の生命体が純粋に抱く、生存への欲求なのだと。私は、時折そう考えてる。
冷たげな鴉の視線。でも、それを逸らすような真似はしない。
逸らしてもあんまり意味がない。鴉の視線はこっちに向けられているだけであって、私を見てはいないんだ。
鴉はここの状況を見ている。私と言う個人じゃなくて、このカフェ全体を見通しているんだ。
だから冷たい。その視線には感情が無い。全てのモノを見ているから、何一つ感情のない眼差しが出来ている。
人は、視覚にモノが入ると否応無しにそれを判断せざる得ない。その物体がなんなのか判断せざる得ない。
でも、鴉の眼差しに、その判断材料は無い。鴉が見ているのは全体。全部見ているから、動いているものと、そうでないもの程度の判断しか付けてない。
完全無視とまさにアレだ。視覚には言っていると言うのに認知してはいない。
ただ、人間的に言えば“ああ、動いているものがある”程度の判断しか付けていないと言う事かもね。勿論、それさえ、違うのかもしれないけれど。
結局のところは、何もわからないのも同意だ。
鴉の思考回路は高度すぎて私達人間では到底判断が付けられない。
あ、違うか。高度とは言えない。ただ、私達が長い間人間的な思考回路を構築していってしまった所為で、他の動物の思考回路には及ばなくなってしまったと言うのが正しい。
人は、人の生み出したモノは何があろうとも彼らとは相容れない。何かで関わろうとしても、人の判断になってしまうから。人の判断で、それがそう考えているとか、そうであるとか結論付けてしまうから。だから相容れない。決して、決して私達は、アレとは―――
「どーしたですかー?」
「どーしたんだよー?」
唐突に双子の顔が逆さまに私の眼に入った。鴉の真っ黒い眼差しさえ覆すほどキラキラと、澄んだ眼差し。
その眼を見て、考えていた事がバカバカしくなってしまった。
何も深く考えることじゃない。私は人間なんだから、人間的に生きていくのは当たり前なわけよね。そう、彼らのように生きていく必要は無い、私は、私のように生きていけばいいだけなんだから。
身体を元に戻す。
これまた双子は良く食べたみたいで、最後に私が見たときよりもなんだかお皿の数が四、五枚多い気もするんだけど。
まぁ、それは食べ盛りの良い事と割り切って、とりあえずは不問だ。何より、こっち側に無事戻してくれた双子の視線に感謝をしたいから。
よっ、と立ち上がってお会計を済ましに行く。
妹さんの方は止めたんだけど、あ、勿論お姉ちゃんの方はいやー悪いねーみたいな感じで驕られ大好きって感じ。
悪いですーと止めてくれたのは妹さんだけであって、ここにもハッキリとした差が現れる。大して気にはしないんだけど、こりゃ二人とも将来は大変だわ。
まぁそれは良い考えをさせてもらった思考費って事で、双子へのささやかなお礼。
けちな女とか思われたくないとか、そんな強かさは持ち合わせていない。こ
れは人間だけが持つ一つの感情。他者に対する小さな小さな思いやり。
自然界の生き物は常に生き残りだけを思考するけど、人間はちょっとした余裕がある。本当は余裕なんてこれっぽっちもないんだけど、今の世界は人間が生きていくには丁度良すぎる世界になってしまったから、生きるのにはそんなには苦労しない。
その裡で芽生えた小さな余裕が、時に自分に費やされ、時に誰かに費やされるんだ。
そういう事で、私の驕りも小さな小さな余裕が生んだちょっとした感謝の表れ。
双子のお蔭で、ここ暫く忘れていた心の余裕って言うのを取り戻させてもらった。
思い返してみると、ネギの処へマギステル見習いになってくるって決まってからどうにも焦ったり余裕が無かったような気がしている。
兎に角目に付くもの目に付くものに注意を払って、細心を払っていたもんだから心労も嵩んでいたのかもしれない。
「驕ってもらっちゃったです…」
「へー!なんだっいい人なんだねー!!」
くるくる表情を変えつつ、私の前を行く双子は面白い。
余計な娯楽なんかよりよっぽど、それも純粋に心が和やかになるから嬉しい。
本当に不思議だ。ここ最近の心労も一気に取り払ってくれるたようで、なんだか肩の方も軽くなっているような気がする。
勿論気がするだけで、実際は解してもいないから肩は重いままなんだろうけど、これは程度の問題と言うか、気持ちの問題もある。
思い込みで体調が変化するのは良くある事だ。
特に人間。変に頭が効いて、変に創造力に長けているもんだから、身体が悪いと思考してしまうだけで本当に体調が悪くなってしまう事って言うのは意外と多い。でも、双子のお蔭でそれも何とか消えた。
「アーニャさんっ…良いんですです?」
お金の事を言っているのかもしれない。関わり過ぎている事を忠告しているのかもしれない。
どちらにしても、レッケルの言いたい事は何となく解っている。こうして関われるのは今日ぐらいだ。
明日ぐらいからは、私の体もこっちの空気に慣れて私の魔力系が活性化し出す。そうなれば、簡易使い魔の活動だって活発になる。こうして穏やかな時間を過ごす事が出来るようになるのは、事実上今日だけなのよね。
これは私の我侭だ。
折角来た日本と言う国。その国を十分に愉しむことは考えていたけど、考えていただけで実行に移す気なんてこれっぽっちもなかった。
元より、修行中の身にある人間が、報告者の目算通りに事が進んでいるってコト自体が珍しいんだから、こんな忙しいのは結構予測していた。
だから今日だけでいい。
この学園の日が沈みきって、眠って、朝起きるまでの間だけで良い。
この日本と言う国を味わっておきたい。そう考えるなら、なるべく楽しい方が良いと思うから、ほら、それならこの双子なんて適任だと思わないかしら。
「よーっし!史伽!散歩部の出番だよ!!お礼にボク達がこの学園を紹介してあげるからっ!」
「せめてものお礼ですっ!着いて来てくださいですー!」
双子が駆けて行く。まったく元気が本当に宜しい将来は美人になるけど、大変で、でもきっと楽しい毎日を送ってく双子になると思う。
そう考えて、その未来を想像するととても楽しそうだ。
そうやって生きていく人達を助けたり、知らず知らずの間にその幸せを守ってあげるって言うのも、やっぱりマギステルの役割なのかもしれない。
坂を下る双子について、私も坂を下っていく。
湖に夕日が移りこんで学園中が燃えるような輝きと瞬きに満ち満ちていく中で、双子は、とても楽しそうに私を導いて行ってくれる。
――――――――
元気な双子に導かれ、本当に色々な場所を巡らせてもらった。
これはこの日本できっと、一番の思い出になるだろうって言うぐらい貴重な経験だったと思う。
そりゃ双子が増長してお話を進めるコトはあったけれど、でもまぁ、それはプラマイゼロで良しとしよう。
ただでさえ自由な時間は少ないんだから、こう言うときぐらいは怒ったりはせず、素直に楽しんでおくのが賢いやりかただもの。
双子の案内してくれたのは、何の事は無い。ネギのクラスの人達の部活動って言うのを紹介してくれただけ。
それだけなんだけど、意外とコレが中々に楽しく、興味深い内容でよろしかったわけよ。
魔法学校時代にも部活動って言うのはあったけど、大抵は魔法関係で運動系って言うのが殆どない。
薬草部だとか、魔法薬研究会だとか、聞くからに怪しげな名称で私はまったくもって入部したりする気にはならなかった。
そりゃそうだわね。あんな部活に入ったら人体実験の材料にされて、身体のあっちこっちを弄くられるぐらいの覚悟も決めなきゃいけないぐらいだもの。
そう言う意味では双子が紹介してくれたここの部活動の数々は結構中々、私の興味を引くには十分すぎるぐらいに眩いばかりの清々しさに満ちている。
青空の下、いや、いまは夕焼け空の下だけど、それでも健康的に活動する女の人たちは綺麗だった。
屋内も屋外も関係ない、皆真っ直ぐした眼差しで、一心不乱になって自分に出来る精一杯を貫いていた。
バスケット、水泳、新体操、陸上にチアリーディング。皆見事なモンで、インドア派の魔法使いから見ればじゅーぶん機敏な動きで各々の活動に勤しんでいた。
まぁ、中には占い研究会とか、天文部とかインドアな部活動もあるんだけど、それにしたって興味深い内容で、かなり本格的だったっけ。こ
んなにでかい学園なんだからそりゃ機材とは良いものは揃っているだろうケド、それ以前にうち込んでいる人達の誠意がすごい。
みんな本気で頑張ってるんだわね。後四年ぐらいここに来るのが早ければ私も喜んでこの学園に入ったんだけど。
「お姉ちゃん、次は何処に行くですかー?」
「次はねー…そだっ!茶道部にでも行ってみよっかー!着いて来てー!!」
もぉ双子は完全に私の誘導役になってくれてる。
にしても元気だ。アレだけ食べ飲みした後であの運動量。正直インドアな私じゃ考えられない。
こうやって歩いたりする程度で体内の脂肪分は燃焼させて体には留める事はなくなるんだけど、あの双子の運動量は食べた量以上に活動してる気がする。なるほろ、そりゃ太る筈ないわね。健康的で、結構結構。
さて、双子の後を追っていくとちょっとした林の中に姿が眩んでいく。
日本情緒溢れる竹林の向こう側に平屋の一軒小屋が静かな佇まいでそこに在った。
こりゃ確かに茶道部って環境には丁度良いかもしれない。聞いた話だけど、日本のお茶の道は中々に厳しいらしく、外国のティータイムとも一線を異なるものらしい。
お茶好きの私としてはほおってはおけない。
ネカネおねえちゃんのお茶には及ばないにしても、それでも日本のお茶って言うのには少なからず興味はある。
しぶーいお茶って聞いているけどそれはそれで良薬口に苦しって感じで意外といけるんじゃないかなー、とも思ってたりするのだ。
華艮(かこん)と、小さな音が鳴る。
よく見ると小屋の脇に取り付けられた水車が回るたびに竹で作られた小さな仕掛けが水の重みによって持ち下がり、限界まで溜まったところで水を吐き、その下部が石にぶつかって清い音色を奏でていた。
何の為の仕掛けなんだろう。日本のこう言うところは好きだ。よく解らなくとも綺麗な雰囲気を生み出してくれるモノが見渡せば何処にだってあるんだもの。日本家屋って言うのは、その際たる例でしょうね。
よく見ると小屋の前に金髪の子が居る。
茶道部の生徒さんかもしれないけど、金髪の茶道部員って言うのも中々乙だわね。言われて見るとここの学園は留学生の人も多いって言うし、そっか、なら外国の人が日本の茶道に興味を持って入部するって言うのもありえなくもないかな。
軽くウェーブのかかった金髪の子の背中が近づく。
気付いたのか、それとも見た目によらず結構勘が働くもかもしんないかは解んないけど、その小さな背中が顧み私達を正面に置こうとする。
よく見ると髪の毛が僅かに持ち上げられて纏め上げられているから、茶道部の部員さんには間違えなさそう。外人で茶道の道なんて、なかなか古風じゃないのとか考えつつ、髪が長いとああやってしょっちゅう纏め上げなくっちゃいけないのは、ちょっと大変だなぁとか考えていて。
で、正面向いた顔を見て、まず僅かながらに、そしてその後、全思考が凍った。
同時に、レッケルもまた、小さな、悲鳴にもならないような悲鳴を交えつつ、私の胸元へとひゅっ、と潜り隠れる。
「あっエヴァンジェリンさんですー!」
「おーこんちゃー!」
双子の無邪気な声も、今の私にとっては緊張を和らげる抑制剤にもなりゃしない。
『ソレ』が向き直る。
目玉は紅くは無いけれど凍るほど冷たい。あんな外見していても、覇気だけは抑える事は出来ないのかもしれない。
完全にこっちを向いて、ああ、やっぱりと結論付けた。
マギステルになったのならば、いえ、きっとマギステルにはならなくっても、魔法使いとしてその道を目指したものならば、誰もが一度は眼にする顔。
十五年前までは魔法界に600万ドルの賞金首として登録されていて、行方不明になってからは賞金首としては仕方なく外されたけど、今尚生存の危険性ありと判断されて魔法界からは特別行動観察指定の危険生物扱いを受けている生きた伝説。
多くのマギステルは、きっと見ることも無いだろうけど見れた私は幸か不幸か。
いや、きっと不幸だわね。ここでなんでこんな事をやっているのかの判断は出来ない。判断のつく人間なんて居ない。
そも、コレ相手に人間の判断力が通じるとは思ってない。
コレは、単なるバケモノなのだから。
「――――鳴滝姉妹、か。何の様だ」
その声には冷たさとかは感じられてない。
でもその言葉の端々に感じ取れる意思がある。私に向けられている意思。
簡潔な言葉は、その代償だ。私に意識を割いているからこそ、アレは、騒がしいはずの双子に対してまったく持って無駄な行動と言うものを省いているに過ぎない。
現状において、アレは私だけに注意と言うか、意識を割いている。
よって、私もまた、目の前のアレにだけ、全身全霊の全神経から全魔力感知系までを総動員して眼前を睨みつける。
最早近づいていく双子を止める気は無い。
コレの前に立った以上、最早他者に気を配っている余裕なんて無いからだ。
自分の脚部に全魔力を集中する。いざとなったら、全力でこっから離脱できる準備ぐらいはしておかなくっちゃならない。
尤も、逃げられるとは思っていない。逃げる相手に気は割かないとは聞いているけど、実際はどうなのか誰も知らない。
戦って帰ってきたと言う噂は聞いてないから、実際に相対してアレの真実をしっかり理解できている生き物は居ないんだ。
あっちも周囲をくるくる回ってる双子に気を割く一方で、私のほうに視線は向けられている。
まるで蛇に睨まれた蛙。身動き一つ出来ないって言うのは、こう言う事を言うのかもしれない。
頭に蛇を乗っけていたのに蛇に睨まれた蛙って言うのは面白い比喩だけど、今の状況では笑えない。
何しろ生きた伝説だ。失踪から十五年経ったとは言えど、未だに噂だけでその脅威を魔法界にも留め続けているような存在だもの。
たかだか数年ちょっと魔法を齧った程度では、あんなモノには通じない。アレは、文字通りのバケモノなのだから。
それでも、生きて報告程度は出来るようにと気を張り詰めている。
報告さえ出来れば、魔法界にとってもこれはかなり有利となる情報には違いない。
何しろあの吸血鬼、真祖と呼ばれる自ら吸血鬼化した、正真正銘の魔法界の理からも外れるような存在だ。所在が知れれば、魔法界とてほおって置く事はないでしょう。
距離は四メートル大。
それは、完全に離脱不可能にも等しい距離。
踏み出す事もなければ、退く事もしない。動きを見せるのは相手が動いてからで構わない。
後手であっても、要は眼くらましやら何やら総動員して脚を一瞬でも止めさせれば逃げる自信は十分にある。問題は、あの双子なんだけど。
吸血鬼相手でも双子の無邪気さは相変わらず。
制服が同じところ、双子の親しそうな態度からすると友人、いやいや、良くてもクラスメイトといった程度かもしんない。
外見で騙されるわけじゃないけど、その姿は子供そのものだもの、双子に身長は近いは、表情にも見る人間が見ればあどけなさってものがあるかもしれない。
が、私にとっては凶悪な悪魔そのものだ。
私は目の前のコレを最早生き物としては判断していない。
コレは手綱を切るまでも無く猛犬だもの。気を抜けば、近場の者から食い殺す。飼い犬なんかとはレベルが違う、明確に自らの我を持つ、はっきりとした自立の生き物だ。
「―――茶道部の見学か。良いだろう。もうすぐ部長も来る。先に入って待っていろ」
手際よくと言いますか、慣れたような感じで双子を茶道部の部室、と言うか小屋の中へ導いていく。
ああ、言われて見ればここは日常真っ只中だ。いかに真祖の吸血鬼、日暮れ時とは言えど、まだ日は昇っている。
力はそんなには出ないかもしれない。そこまで考えて、即座にその思考を切る。
油断大敵、この外見だとか、吸血鬼としての性質だとかに惑わされてはいけない。私は全力でコレからの離脱を行わなくっちゃいけない。
双子が私においでおいでをしつつも、私は手を軽く振る仕草だけで先には言っているようにと促す。
双子の姿が消えて、西日が私達二人を照らし上げた。
燃える様なオレンジ。見る人間が見れば、業火の中に立つ怪物の姿を垣間見たでしょうね。その見る人間って言うのが、そもそも私なんだけど。
状況は良くもなく悪くもなく、間近に立つソレに全身全霊の意識を割いたまま動けない。
と言いますか、相手が動きを見せた瞬間、私は即座に離脱する気でいる。
さっきからテレパティアでレッケルにも水霧の噴霧を促しているし、その気になればまともな魔法使いでもそうそう追いつけないぐらいに距離を開かせる自信はある。
何しろ、マギステル見習いとは言えど一マギステルが逃げの一手に甘んじるんだ。まともな魔法使いでも追いつける方が稀だと思う。
が、それが目の前のコレに通じるかと言えば否なのよね。
真祖の吸血鬼だから読心術ぐらいは心得ているだろうし、きっと私の考えの大半は筒抜けだ。
そうなると行き当たりばったり。離脱中に思いついた指示を片っ端からこなしながら離脱していくって言うのが尤も正しい。
一歩の踏み出しを確認して、全身の筋肉が萎縮したのを感じ取る。
これはアレからの覇気でこうなっているわけじゃない、コレは私自身が感じている恐怖心からの萎縮。
生きた伝説を目の当たりにして情けないながらも名前負けしている、私自身の恐怖心が身体を縛っている。
「まぁ、待て。別に取って食うわけではない」
甘い声。子供の声でありながら、その一声は私を縛っていた恐怖心を一気に払拭した。
甘い声だとは言ったけれど、甘いと言うよりはもはや甘さを通り越えて毒のような一声だった。そう、全身に侵蝕する、気味の悪い毒のような声だった。
「―――信じると思うの?真祖の吸血鬼。不死の魔法使い。人形遣い。闇と氷の女王とかなんとかいっぱい異名持っている化物が約束を語るの?」
「そうか。まだ魔法界の方では私は危険生物指定を受けているのだな。なるほど十五年程度では過去の柵全てを払拭する事は叶わんだわな」
短い笑み。自嘲するような、見下したかのような笑みは私の心に暗い不安を残すもの。
笑みに続く断続的なくぐもった響きも同じ。くくくっ、と聞いているだけで人を不安にさせてくれるような、そんな低温動物みたいな冷たい笑みで、ソレは私の方を今一度臨んだ。
震えは無い。不思議なことだけどもぉあんまり恐怖心は無かった。
理由として、声をかけられたときのショックで考えていた思考が全部吹っ飛んで、代わりに冷静さが当て嵌まったのが幸運だったと自分を誉めたい。
良く魔力の流れを詠んで見ると、まるでアレに対して魔力流動って言うものが感じ取れない。つまり、周辺からの魔力吸収って言うのをアレは行っていないんだ。
そうと知っても油断は無い。
下手な動きをしようものなら即座に離脱するし、連絡だってする。
が、それはまだ先に延ばしておくべきじゃないかなとも思う。理由としては異常なまでの魔力の低さ、そしてどうしてまたこんな場所に居るのかと言う二重の理由だ。
「連絡はするのか。魔法界に」
「いいえ、する必要は無いわ。アンタから感じ取れる魔力は賞金首とは思えないほど低い。
理由はいくつか当て嵌まるとは考えているけど、下手は動きさえ見せなければ連絡するにも値しない魔力の低さだもの。
それとも、連絡して、とっとと魔法界最高の牢獄に囚われたいの?
日光は入りまくって日が落ちてからも日中貯えた陽光をよーっく取り込む最高級の牢獄を用意してあげるわ。普通の人間でも二日で日焼けが水脹れになるところだから、きっとアンタなら一日で灰になれるわよ?」
「悪いがお断りだ。どうせ用意するなら最低の方を頼む。湿気が多くて日中も日の入らない所が良いな。
尤も、今は私はここから出る事が出来ん。良く眼を凝らせ、マギステル・アーニャ」
名前を呼ばれて、一瞬だけ心が揺らいで、即座に見返った。
動揺は良くない。目の前にいるのは魔法使いとしても優れた怪物なのよね。生き物の心の間隙を付いて傷口を抉り出すなんて言う真似は腐るほどしてきているに違いないろくでなし。
コレの眼前で、心に隙を作るような真似は出来ない。読心術に巧みな話術。皮肉を言うほどの余裕の現れは、長年生きてきた、生き続ける事に特化した、コレの一種の生体機能のようなものなのだ。
名前を知られていることには驚いている。
でも、ソコから先を考えてはいけない。考えれば考えるほど、私はコレの手の上で踊る事になってしまう。
そんな事は許されないし、何より、私は純粋に生きた伝説相手に自分を張ってみたくなっている。
一歩間違えれば致命となりうる行為を仕出かし、しかも逃げ場の無いこの距離で自分を張るって言うのは、明らかな無謀だけど、それでも純粋にコレ相手には負けたくなかった。
人間やめてまで何を得ようとしたのかはしんないけれど、人間やって生きている以上、こんな人間辞めたヤツなんかには、絶対に。
「お名前お知り頂けて光栄ですこと、FrauleinMacdovell」
皮肉たっぷりにそう言ってやった。お嬢さん、と。私なんかより遥かに年月を重ね、遥かに深遠な知識を持っている相手に、一歩も退かずにそう言ってのけた。
コレはそんな私の皮肉なんて何処吹く風。まったく気にしていない。
ソレもそうよね、コレにとって皮肉も非難も侮蔑でさえも、長年の間で叫ばれ、投げつけられ続けていた無限の言葉だもの。
今更、私一人が何かを言おうが、コレにとっては関係なんて無い。
一回目を閉じ、開き、同時に眼を凝らして、気付く。
目の前のコレの言うとおりだ。これじゃあコレはこの学園から一歩も出れない。
蜘蛛の糸のように複雑に絡み合った魔力の束。ソレは、マギステルであっても理解するのが難しい、けれど、確かに魔力による呪縛であると認識する事が出来る、圧倒的な魔力で編まれた一つの呪いだった。
縛りの呪い。呪縛としては最低の、しかし、編んだ魔力は最高と言う矛盾した呪縛が、生きた伝説を文字通りこの地に縛り付けている。
それが魔力を押さえ込んでいる原因であり、同時に、コレがココ十五年もの間魔法界から察知されることなくここに留まり続けられていた最大の理由と悟る。
力任せに縛り付けられた魔力は、コレの全魔力系を無理矢理に押さえ込んでいるも同じようなもの。
それはつまり、魔法使いが発する独特の気配、大気魔力の吸収による魔力流動、内部魔力の外部放出により魔力濃度の上昇等が一切見受けられないと言う事に違いない。
なら、どんな魔法使いだってコレの所在が解るはずも無かった。コレは、今の状況はただ単に厚顔尊大な態度しかする事の出来ない、一一般人に過ぎないと言う事。
そうと判った以上、いや、そうと解る前から、コレにはあまり威圧感は感じなくなっている。
コレが正真正銘の怪物には違いないけど、今現在では徒単の魔法も使えない一般人以下に過ぎないと言うんだから、最早怯えも何も感じる事さえない。
人間的に図らせてもらうけど、同格並びとなった以上は、最早コレの前で怯えを見せる必要性も無い。
「怯えが消えたか。私の魔力が封じられていると知って安心したか」
「ええ、今のアンタは魔力も何も無い一般人と変わらないただの生き物よ。
同列軸上に位置する存在だって言うんなら、怯える必要も無ければ、お互いに相手を尊重しあうような真似もとる必要は無い。
そもそも、アンタと魔法界所属のマギステルが敵対関係って言うのは未だに継続中よ。
私はアンタの事は魔法界へは一切通達しない。学園長へも問い合わせない。だからアンタも私には介入しない。今日この場であった事は全部忘れてお互いの生活に戻る。それでいいわね」
「異論ない。私も外来で、しかも正規のマギステル相手に手出しをして今のこの状況を崩されるのは好ましくはない。お前も私にあった事は不問。それで構わんか」
それだけ告げあって後はお互いに無言。
もはや是非も何も問うべきことは無いから、お互いに向かい合ったままで燃えるような夕日に包まれつつ、視線も合わせず両の眼を閉じあってる。
で、だ。何時までも向かい合っていたってしょうがないし、何よりあんまり長い間はコレの近くになんて居たくない。
私は平気だけど、レッケルみたいに精霊に属するのはこーやって自然界の摂理から外れたようなモノへの抵抗力は弱いのだ。
現にさっきからレッケルは私の胸元にもぐりこんだままで震えっぱなし。双子さんには悪いけれど、これ以上レッケルに無茶させるわけはいけないので、その場から立ち去るべく踵を返す。
お互いに別れの言葉も無い。
アレと私は逆正位置に属するモノ同士。労いもなければ、侮蔑の言葉さえも無い。
お互いにお互いに対して不干渉を貫き通す、お互いに認識する程度のただの“存在”だ。
よって、お互いに交えあう意識すらもなく、ただその場から急ぐ事もなく立ち去っていく。
双子の事は、まぁなんとかなるでしょ。元々長居は出来ない身、懐かれちゃったりすると、立ち去る時に変な残心が出来ちゃったりもするかもしれない。
そう考えれば、今この場で別れていた方が、何かと都合とかも良かったのかもしれない。
十メートルは離れたかな。茶道部のほうへ向う人達と擦れ違っていく。
身長は皆私なんかよりもおっきいから誰とも視線が合う事はない。私も対して合わせるつもりなんてないので、どちらかと言えば自然的だ。
街中で擦れ違うように、誰一人に対しても感心抱かず擦れ違っていく。
同様、擦れ違っていく人達もあんまり私には気を割いていないようだわね。流石は茶道部。集中力が常人とは違う。
誰一人として私を臨むことなく、時に軽い会釈の様な仕草をされ、それに応じる程度でその場から立ち去っていく。そう、徒一人を除いては。
列を成していた茶道部員と思われる人達の最後尾の殿。その人と僅かに眼が合った。
淡い緑色、エメラルドグリーンと呼ぶに相応しい、明らかに生き物としてはおかしな髪の色をした女の人が私を見ている。
軽い会釈で、その場を通り過ぎていく。
特に関わるような事はないし、お互いに初対面も初対面なんだから、口さえ聞きあうような事だって無い。だって言うのに、何でか擦れ違った後もみょーな視線を感じる。
さっきまでは感じていなかった視線だから、アレの視線ではなく、きっと擦れ違った誰かの、そして恐らくは今しがた擦れ違ったばかりの、あの碧の髪の女の人。
視線を感じるとは言うけどその視線には何も感じるものが無い。
言ってみれば無感情。ただ見ていると言う気配しかない、生き物独特の気配も何もありゃしない無機質な視線、と言うか、これはカメラに撮られる直前のような、そんな違和感しか感じない。
まぁ、イチイチ気にもかけてはいられない。
変なのに出会ってしまったもんだから、余計な気が立っているんだと勝手に解釈して歩を進めていくだけだ。
背中に浴びせられていた無機質な眼差しも何時しか遠のいて、燃えるような夕焼けは、徐々にその身を潜めてく。
大層な興味も感慨も無い。私は、私の仕事をやるだけでいい――――