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二人?の異邦人IN麻帆良(ネギま×GS美神) 「第24話 漆黒の喜劇」 投稿者:九重九十九 投稿日:09/11-15:49 No.1235
蝶を見た・・・・
一寸先も見えない暗闇の中、少女は気がつくと一人ぽつんと立っていた。
先ほどまで自分のそばにいた親友の姿も見えない。
少女は一人でいる事に、そして周りをつつむ暗闇に脅えているのか、キョロキョロと首をめぐらし落ち着かない様子であった。
そんな中、少女は遠くで淡く光る何かを見つけた、しかもそれはユラユラと動いているようだ。
少女はしばしの逡巡の後、やがて意を決してその光へむかっておずおずと歩いていった。
「蝶?」
少女が光の元へとたどり着き、そこで見たものは淡い光を放つ蝶であった。
その蝶は少女の存在に気がつくと、ユラユラと少女の周りを飛び始め、やがてゆっくりと少女が歩いてきた方向と逆へ向かって飛んでいった。
「あ、まって!」
少女は暗闇につつまれた空間の唯一の光に離されまいとし、その蝶を追いかけていく。
蝶は少女が自らに追いつくのを確認すると、再び同じ方向へ向かって飛んでいった。
その蝶の動きは、まるで少女に着いて来いと言わんばかりの動きであった。
蝶を追い続けて数時間・・・実際には数分だったのかもしれないが、周囲の暗闇は少女にとって永遠に続く時間の迷宮に囚われたかのような錯覚を少女に及ぼしていた。
だが、やがて時の迷宮も終わりを告げる。
少女の視界の向こうに、光のトンネルのようなものが見えたのである。
蝶は少女を誘うようにゆっくりとそのトンネルへ向かって飛んで行った。
少女はその光に誘われ、ゆっくりとトンネルへむかって歩き出す。
光の先に待つものはいったいなんであろうか、まだ見ぬ先に夢と希望を膨らませながら少女は自らを導く蝶についていった。
やがて、少女はトンネルにたどり着き、トンネルの向こう側を視界におさめることが出来た。
トンネルの向こう側に広がる世界、それはまさしく少女が本で見た剣と魔法の世界、夢と冒険のファンタジー世界であった。
少女が好奇心にかられトンネルの中へと踏み込もうとした時、何かが自分を強く引っ張るのを感じた。
そして少女が気がつくと、あたりの情景はどんどんぼやけ、色を失っていく。
少女は自分を引っ張る力に抵抗しようとするが、その力はあまりにも強く、やがて少女はその力に引かれ意識をフェードアウトさせていった。
少女の姿が消えた暗闇の中、少女を導いた蝶、ナイトパピヨンがポツンと浮かんでいた。
やがてその蝶は自らの主、夢幻の胡蝶レスフ○ーンの元へと従者を導くため、再び混沌の闇、意識と無意識の狭間、夢の世界を飛んでいった。
「のどかぁああああ!!早く起きるです!なんか知りませんけどそっちの剣と魔法の世界へいっちゃダメですうううう!!!」
「ん・・・・ゆえ?」
ドラゴン騒動の翌日、寮の一室で宮崎のどかは目覚めた。
のどかが目覚めると、そこには目の前でやたらと息を荒くさせ、なにやら切羽詰った表情をしている綾瀬夕映がいた。
頬が少々痛いのは、おそらくビンタで強制的に目覚めさせられたのであろう。
「ゆえ~どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないです!のどかを起こそうとしたら、目の前でのどかの体がどんどん透けていくから焦っておこしたですよ!!」
「あう~ごめんなさい」
「と、とにかく間に合ってよかったです。さ、パルを起こして朝食にしましょう」
夕映は状況はよく分からなかったが、後でネギに相談することに決め、今はとりあえず朝の準備をすることに意識を砕いていった。
朝食の席にて
「ふ~ん、かわった夢を見たわねー、のどか」
「あんまり覚えていないんだけどね・・」
のどか達は朝の出来事をハルナに話していた。もっとも体が透けていく云々は伏せていたが。
「そういえば私も似たような夢を見たことあるなー」
「パルがですか?」
夕映はハルナまでそんな怪しい夢を見たということを聞き、驚いた。
「うん、私が見た夢はさ暗闇の中で一人で締め切り前の修羅場を捌いている時に・・・・」
「捌いている時に?」
「こう、空から人が降りてきたのよ。なんかベレー帽かぶって眼鏡かけたおじさんが。そんでそのおじさんが私の作品を見て言ったの」
「眼鏡にベレー帽ってまさかその人は・・・で、なんと言ったですか?」
「えっとたしか・・そうだ『マンガを舐めるな!』って言われたんだった。あんまり腹が立ったもんだからそのおじさんにインクぶちまけて、ペンを手裏剣みたいに刺した所で目が覚めたんだけどね」
ハルナは笑いながら答え、一声「ご馳走様」と言って手を合わせると、食器を片付けに流し台へと向かっていった。
「のどか・・・・・パルが見た夢に出てきた人って・・・」
「神さま・・・・まさかそんな・・・・あはははははは」
「そうです、まさかそんなわけ・・・・あはははは」
「「あーはっはっはっは」」
食卓で取り残されたのどかと夕映は二人で天を仰ぎ、乾いた笑いをうかべていた・・・・
第24話 「漆黒の喜劇」
「契約執行180秒間、ネギの従者、神楽坂アスナ、宮崎のどか、近衛このか!!」
ドラゴン騒動から数日後、現在ネギ達はエヴァの指導のもと、郊外で魔法の特訓を行っていた。
ちなみにタマモと刹那が瓦礫に腰掛けながらそれを見ている。
「そのまま契約執行を維持し、空に向かって魔法の射手180柱」
ネギはエヴァの言葉に従い、空へ向かって魔法の射手を放つ。
ネギの手から放たれた180もの魔法の矢は、やがて空中で障壁のようなものにあたり、キラキラと光を乱反射させながら消えていった。
「マスター、次は何をしましょう!」
ネギは魔法を放った後、目を輝かせてエヴァからの指示を待っていた。
「ほう、ぼーやの限界を見極めようと思っていたが、まだまだ余裕がありそうだな」
エヴァは正直驚いていた。
先ほどネギに消費させた魔力の総量は、並みの魔術師をはるかに凌駕するものであった。
ついこの前までのネギなら確実に魔力切れを起こし、ダウンしていたはずなのだが、今のネギはまだまだ余裕がありそうだった。
「ええ、まだ大丈夫です。ここ最近なんか体が軽いんですよね」
「そうか・・・それはおそらくこの前までやっていた横島兄妹の修行のおかげだろう。しかし魔力量をアップさせる修行とはいったいどんな修行だったんだ?」
「そういえばネギ、あんた横島さんとの修行の事ぜんぜん話さないけど、どんな修行だったの?」
「そ・・・それは」
ネギはエヴァとアスナの質問を聞くと急に口ごもり、そしてそれと同時に両眼からみるみるうちに光が消えうせ、地面に咲く小さな花に向かってブツブツとつぶやき出した。
エヴァとアスナは顔を見合わせ、ネギに近づくとネギがつぶやく言葉に耳をそばだてた。
「アレハ修行ナンカジャナイ、拷問ダ・・・・イヤ、拷問テウイヨリ死刑?ムシロ死ンダホウガ楽・・・ダイタイ人間ハ自転車デ新幹線ト併走シタリ、生身デ成層圏突破&弾道軌道デノ落下ナンテデキルワケナイジャナイカ・・・・・」
「「・・・・・・・・・・」」
エヴァとアスナはネギのつぶやきを聞き、言葉をなくす。
だが、ネギのつぶやきはまだ続いていた。
「アマリノツラサニ耐エカネテ気絶シタリ、死ニカケタリスルト文珠デ強制的ニ復活サセラレテマタ地獄ニ・・・僕ハドコゾノ戦闘民族ジャナインダ・・・・だからいっそ殺してぇえええええ!!!!」
ネギのつぶやきは最後のほうでは絶叫と化していた。
「いったいどういう修行だったのよ・・・・ていうかほんとに修行?」
「自転車で新幹線と並走?生身で成層圏突破&弾道軌道での落下?・・・・どこの冗談だ?おいタマモ、本当にそんな修行をしたのか?」
「やったわよ、それに大分手加減したわ」
エヴァの質問にタマモは当然のように答えた。
ちなみにネギは、花にむかってのつぶやきから天へ絶叫へと移行し、そして最後には自由なる神への祈りへと移り変わっている。
しかも瓦礫で簡易的に作った祭壇にカモを魔法で拘束してイケニエのようにお供えしていたりする。
「・・・・・・アレでか?」
エヴァは一心に神に祈り続けるネギをうろんげな瞳で見つめた。
「新幹線と並走って言ったって一瞬の話よ、それにヨコシマなんか自転車で新幹線と並走したまま大阪まで行った事あるわよ、それに自転車で富士山頂まで登山とか、伊豆大島まで海を渡るとかもしたことあるし。極めつけは成層圏どころか生身で宇宙空間から大気圏突入やらかして記憶喪失ですんでたしさ」
「本気で人類か?アイツは・・・」
エヴァは未だに神に祈り続けるネギを見ると、まだ見ぬ弟子(候補)に戦慄がはしった。
一方、そのころの木乃香と刹那はというと。
「せっちゃーん、ウチ新しい魔法覚えたんやで」
「本当ですか、まだ学び始めたばかりだというのに凄いですね」
「えへへ、今見せたげるな」
木乃香はそういうと、両手を右側の腰の辺りにそろえて閉じる。
おそらく精神を集中しているのだろう。
刹那はどんな魔法が見られるのかワクワクしながら見ていると、やがて木乃香が目を見開き、力ある言葉を解き放った。
「マーフ○玉ぁああああ!!!!!!」
木乃香の言葉と共に両の手のひらから放たれた黒い魔力の塊は目の前の石柱を完全に打ち砕いていた。
「いや、それはイロイロと違いますー!!ていうかそんな魔法教えたの誰ですかああああ!!!!!!」
「え?ネギ君やけど・・・」
「あ、あの人は・・・・・後でじっくりと話し合あう必要がありそうですね、主に拳で・・・」
刹那はそう言うとネギを睨みつけ、拳を握り締めた。
ネギの未来に幸あらんことを・・・・・
「ぼーやにこのか、お前達が持つ魔力は巨大だ」
郊外での修行がうやむやのうちに終了してからしばらくの後、ネギ達はエヴァのログハウスで座学を受けていた。
エヴァは妙な方向に気合が入っているのか、わざわざ眼鏡をかけて黒板に板書していたりしていた。
「これは努力でどうにかなるものではない、両親に感謝するんだな。だが、今のままでは貴様達はただのでかい魔力タンクだ・・・・・・って話を聞かんか貴様らぁああああ!!!」
エヴァは魔法に関する講義をずっと行っていたが、なぜか最後のほうでは井桁を何個も額に張り付かせて怒鳴っていた。
その元凶はというと・・・
「ううう、せっちゃんそんなに怒らんでもええのに・・・ほんの冗談なのに・・」
「僕はクーフェさんに修行をお願いしたんですよ、なのになんで横島さん達に・・・そりゃ結果的に基礎を底上げしてもらったのは感謝してますけど、アレは絶対に修行の範疇超えてます・・・」
講師役のエヴァを置き去りにして愚痴りつづけるネギと木乃香がいた。
さらにそれを遠巻きにみるタマモと刹那、そしてネギを元気付けるべきか迷っているアスナがいた。
「まったく、今日はもう終わりにするぞ。ところでタマモ」
エヴァは未だに部屋の隅で沈み込んでいるネギ達を意識から外し、本日のもう一つの
「なによ」
「ちゃんと約束どおり横島を呼んだんだろうな」
「もちろん、さっき電話かけておいたわよ。それよりソッチこそ約束守ってよね」
「約束は守るぞ、しかし・・・・本当に週2回油揚げを3枚渡すだけでいいのか?」
どうやらエヴァは横島への直接アプローチを諦め、外堀から埋めることにしたようである。
ちなみに前回練習した108シーンのうち、107のアプローチが失敗している。
だからこそ、最後の希望をかけて万難を排してこの場に臨んでいるようである。
「ん、十分よ。けど横島がエヴァの弟子になるかどうかまでは私は保証しないからね」
「わかっている。茶々丸、私は準備をしてくるから横島が来たら例の部屋に通せ」
エヴァはそう言うと、時計を見つめた後、地下へと消えていった。
「それじゃあ私達は帰るわね、タマモちゃんに刹那さんはどうするの?」
エヴァが地下室へと消えると、ようやくネギと木乃香を現世に復活させたアスナがタマモ達に聞いてきた。
「私は残るわ、ヨコシマも来るし、刹那は?」
「私は・・・・」
刹那はそう言うと木乃香をチラリと見た。
木乃香は刹那の視線を受けると、つつっと刹那のそばに歩み寄り、刹那だけに聞こえるようにボソボソと耳打ちする。
するとボンッ!という音と共に刹那の顔が真っ赤に染まる。
「お、お嬢様私は・・」
「ええから、ええから。ウチは大丈夫やー。ほんじゃあタマモちゃん、せっちゃんも残るみたいやからよろしくなー」
「ん、おっけー。後でヨコシマと一緒に送るわね」
「なんやったらそのまま横島さんとこへ泊まってもいいんとちゃう?」
「別にそれでもいいわよ」
「お、お嬢様!タマモさん!!!」
刹那は顔をさらに赤くしてタマモ達に詰め寄る。
すると木乃香は笑いながらアスナの元へと走り、ネギをひきつれ寮へと帰っていった。
「タマモさん、桜咲さん。まもなくご夕食ですがご一緒なされますか?」
刹那がいまだに赤い顔を持てあまし、タマモに何か言おうと振り返ると、その機先を制すように茶々丸がタマモ達に聞いてきた。
「いいの?それじゃあご馳走になるわね」
「あ、ありがとうございます」
「ではお部屋にご案内いたしますのでそこでおくつろぎ下さい、それとクローゼットにドレスもありますのでよろしかったら着替えてください」
茶々丸はそう言うとタマモ達を奥の部屋へと案内していった。
「こんちゃーっす!・・・って誰も来ない・・」
タマモ達が家の奥に消えてから暫くの後、横島がその姿を現した。
だが、横島が玄関でいくら声を張り上げても誰も出迎えに来るものはいなかった。
「留守か?でもタマモはここに来いって行ってたしなー。しょうがない、おじゃましまーす」
横島はそう言うと玄関をくぐり、家の中へと入っていった。
「前に来たときも思ったがファンシーなつくりの家だなー」
横島は家の中に入ると、あいかわらずぬいぐるみやら人形やらが大量においてある棚をなんともいえない表情で見つめていた。
「まさか美神さんが持ってたモガちゃん人形みたく動かないだろうな、アレは正直勘弁だぞ」
横島は以前美神令子が持っていたモガちゃん人形が生き人形化した事件を思い出し、身震いする。
「ヒサシブリダナ・・・・」
「うお!!ってお前はチャチャゼロか、びっくりさせんな」
「別ニ脅カスツモリハナカッタンダガナ」
「いや、あまりにもタイミングがよかったから驚いただけだ。で、タマモはどうした?」
「アノ妖孤ナラ奥ニイルゼ、案内シテヤルカラツレテケヤ」
「おう、頼むわ」
横島はそう言うとチャチャゼロを頭の上に乗せ、奥の部屋へと向かっていった。
「オウ、オマエガ死神カ、ヨロシクナ」
頭上では生き人形と死神の世間話というシュールな光景が繰り広げられていたが、横島は気にしないことにしたようだ。
「タマモさんにはこちらの赤いドレスがよろしいかと」
そのころ、タマモ達は茶々丸に案内された部屋で着替えを見繕っていた。
「いいわね、じゃ試着してみるね。刹那はどれ着るか決めた?」
「私はこの濃紺のにしてみようかと思います」
刹那は手に持ったドレスをタマモに見せた。
「派手さは無いけどなんか大人っぽく見えそうね、いいんじゃない。じゃ着替えましょう」
タマモと刹那はお互いに着るドレスを決め、やがて着替えるために服を脱いでいく。
「そういえば修学旅行の時も思ってたけど、刹那って綺麗な肌してるわよねー」
「そ、そうですか?自分では分からないんですけど」
タマモは服を脱いで、いまや下着のみとなった刹那をじっと見つめる。
しばし、見つめた後、タマモは何かに気付き、そして小さく笑みを浮かべた後、刹那にむかって背後から近づいていった。
「綺麗な肌よ、自慢してもいいと思うわ。けど・・・・・・胸はまだまだみたいね」
「ちょ、タマモさんどこ触ってるんですか!やめ・・・だいたいタマモさんだって似たようなもんじゃないですか」
「ふっふーん、私は大丈夫。だって京都の時私の成長した姿見たでしょ、あれなら横島は間違いなく私に飛び掛ってくるわよ。ああ、2~3年後が楽しみだわ!!」
タマモは刹那を挑発するように自分の胸と刹那の胸を見比べ、鼻で笑った。
刹那はタマモのそのしぐさにすこしカチンと来た。
「な、ずるいです!!今から将来のことが分かるなんて!!私だって今は年相応ですけど将来はきっと!それに烏族の女性はみんなスタイルいいんですよ!!」
「でも半分は人間でしょ、案外胸だけ人間の血が強く流れてこのままなんてことになるかもね」
「う・・・それは可能性としてありえますが、負けませんよ私!!よしんば胸で負けたとしても女の魅力はそれだけで決まるものではありません!!」
「けど、戦力の圧倒的な差って残酷なのよね・・・というわけで刹那の胸を大きくする為にはやっぱり・・」
「ちょ!さっきからドコさわってんですか!!・・・やめ!・・だめですったら・・・う・・くぅ・・」
刹那の声にやがて甘く艶っぽいものがまじりだしていった。
そのころ、横島はと言うと・・・
「オイ・・・イキテルカ?」
血の海に沈んでいた。
時間を少し戻そう。
チャチャゼロに案内されて部屋にたどり着くと、中からタマモと刹那の楽しそうな声が聞こえてきた。
会話を聞く限り、彼女達は現在着替え中のようであった。
これで中にいるのが高校生以上の女性なら、横島は迷わず部屋の中に飛び込んだのであろうが、あいにくタマモと刹那では中を覗くわけにはいかない。
横島は心の内に生まれた煩悩を打ち払うように頭を振り、そして・・・・・・
迷わずドアの隙間から中を覗き込んだ。
「ってマテ!!俺はいったい何をしている!!」
だが、すぐに横島は間違いに気付きドアから顔を離す。
「覗キダロ、男ノサガッテヤツダナ」
「そりゃ確かにそうだが、タマモや刹那ちゃんの着替えを覗いたら犯罪だろ」
「誰ガ相手デモ覗キ自体ガ犯罪ダロウガ・・・」
「う、そういう場合もある・・・」
横島がチャチャゼロと無意味な論争を繰り広げようとしかけた時、ドアの向こうから刹那の声が聞こえてきた。
「ちょ!さっきからドコさわってんですか!!・・・やめ!・・だめですったら・・・う・・くぅ・・」
横島はその声に思わず反応し、扉に耳を当てる。
しかも反射的に意識下から文珠を取り出し、"覗"の字を込めた。
この間わずか0.01秒の出来事である。
「スゴイ反応速度ダナ・・・今見エナカッタゾ・・」
「ってまた俺はいったい何をしているかぁああ!!」
だが、再び横島は我を取り戻し自分にむかって突っ込む。
しかし、その突っ込みの声をあざ笑うようにさらなる声が聞こえてきた。
「キャッ!ちょっと刹那そこは!!!」
今度はタマモの声である。
「タマモに刹那ちゃんはいったい何をやってるんだか・・・・チャチャゼロ、俺たちは向こうで待つか」
横島は必死に煩悩を振り払い、頭をなんとか冷やしてこの場から離脱することをチャチャゼロに提案する。
「ソレハカマワナイガ・・・」
チャチャゼロは何か言いにくそうに横島に答えるが、すぐに気を取り直したように横島にトドメをさした。
「ナンデ文珠ヲ発動サセテルンダ?」
横島はチャチャゼロに言われてようやく、自分が文珠を発動させていたことに気がついた。
「いかああああん!体が勝手にいいいいい!!!」
「イロイロナ意味デ正直ナヤツダナ・・・」
「これ以上はやばいいい!!チャチャゼロ!俺をここから連れて逃げてくれぇええええ!!!」
「無茶言ウナヨ、今ノオレハ動ケネエンダゼ・・・ソレニ自分デ逃ゲレバイイダロウガ」
「それが出来れば苦労しとらんわああ!!タマモや刹那ちゃんは中学生、だから見ちゃだめだなんだあああ!!・・・・・けど二人とも最高に可愛いし・・・ああ、けどその背徳感がたまんねええええ!!!!」
横島忠夫、彼はついに新しい世界の扉にたどり着き、その扉に手をかけた。
そして10秒後・・・
「オイ・・・イキテルカ?」
横島は血の海に沈み、意識を手放していた。
横島が気がつくと目の前に刹那とタマモの顔があった。
「おはよう、ヨコシマ」
「横島さん大丈夫ですか?」
「お、俺はいったい何を・・・ってタマモに刹那ちゃん!!女の子同士なんて不毛なのはやっぱダメだぁあああああ!!!」
横島はガバッと跳ね起き、そして二人の手をとるとそのまま絶叫した。
「あの、いったいなんの話でしょうか?」
だが、当の言われた本人、特に刹那は横島の言っていることの意味がわからず困惑の表情を浮かべる。
「ヘ?・・・いや、さっき部屋の中で・・・」
「タマモさんと一緒に着替えをしていただけですけど・・・・あの、似合います?」
横島は刹那に言われて初めて二人が着替えている事に気がつき、改めて二人を見た。
刹那は濃紺を基調とし、腕の部分に白のラインが走るシックな感じのドレスを着込み、タマモは燃えるような赤く、胸元が大きく開いたドレスをまとっていた。
さらに刹那は髪型も普段と違い、そのまま降ろしているため服装とあいまって妙に大人っぽく見える。
「あー・・うん、よく似合うよ二人とも・・・ってタマモお前さっきから何笑ってるんだ」
横島が二人のドレス姿に見とれていると、さっきからタマモが必死に笑いをこらえている姿が目に入った。
「ぷっくっくっくっく・・いやちょっと笑いすぎてお腹が・・・ねえヨコシマ、いい夢みられた?」
タマモはあまりにも笑いすぎたからからだろうか、目に涙を浮かべている。
「いい夢っちゅーか、なんちゅーか・・・・ってさっき俺が聞いた声はオマエが・・・」
「なんだ、幻聴だけだったの。中を覗こうとしたらもっと面白かったのに・・・・と・こ・ろ・で、どんな幻聴を聞いたのかしら?」
タマモは邪笑を浮かべながら横島を見る。
「そ・・・それは・・・貴様は俺を追い詰めて楽しいんかぁああああ!!」
「すっごく♪」
「ドチクショォオオオオ!!!!」
あまりにも間髪いれずに帰ってきたタマモの答えに、横島は泣きながら部屋の中でのた打ち回った。
「あの、ヨコシマさんはいったい・・・」
部屋の隅でのた打ち回る横島を尻目に、刹那は未だ事態についていけないのか、タマモに説明を求めた。
「ああ、気にしないで。さっきイタズラで幻覚かけただけだから」
「いったいどんな幻覚を見せたんです?・・・」
刹那はのた打ち回るのをやめ、部屋の隅でつっぷしてサメザメと泣いている横島をあらためて見る。
「さあ?幻覚の内容まで指定しなかったしね。いったい何を見たのやら・・・なんかものすごく葛藤していたみたいだけどね」
タマモは改めて横島が倒れていた場所を見た。
そこには丈夫な柱があるのだが、その柱の中ほどに何か硬いものをかなりの力でぶつけた新しい痕跡残っていた。
「無駄な抵抗よねー・・・それとも大事にしてるからなのかな?」
「どういうことです?」
「ん、横島を落とすのは苦労しそうだって話よ」
「あの、御夕食の準備が出来ましたが」
タマモと刹那が話していると、茶々丸が夕食の準備が終わった事をつげにやってきた。
「あ、ありがとう。ヨコシマ、いつまでも泣かないの。せっかく茶々丸が夕食ご馳走してくれるんだから戴きましょう」
「そうですよ、横島さん。さ、はやく行きましょう」
タマモと刹那は泣いている横島の手をそれぞれ取り、立ち上がらせる。
「おう・・メシか。ありがとう茶々丸」
「いえ、お客様をおもてなしするのは私の務めですから」
「それじゃあヨコシマ、私達二人をちゃんとエスコートしなさいよ。こんな美女二人をエスコートできるんだから泣いて喜びなさい」
タマモは横島にそう言うと、横島に腕を組むのを催促するように肘を突きだした。
「あの、横島さん。私もお願いします・・・」
刹那もそれを見て、頬を微妙に赤くしながらおずおずと横島と腕を組んだ。
「また命令形かよ・・まあ、確かに嬉しいといやあ嬉しいんだが・・・それに今更だが一ついいか?」
「なによ」
「誰が俺を着替えさせたんだ?」
「「「・・・・・・・・」」」
横島の言葉に全員が沈黙する。
確かに横島はここに来る時は、普通のラフな格好であった。
だが、今現在両腕でタマモ&刹那と腕を組む横島の姿は、しっかりとタキシードに着替えさせられていた。
横島は沈黙する全員を順番に見つめた。
「タマモ・・・・」
タマモは特に意識した風もなく、普通に横島を見返す。
ただ、口元が微妙に笑っているのが少し気になる。
「茶々丸・・・」
茶々丸は無表情だった。
ガイノイドだから当然なのだが、それにしても表情が読めない。
「刹那ちゃん・・・・」
横島は最後に一番可能性が低い刹那をじっと見つめた。
すると、ボン!という音と共に刹那の顔が真っ赤に染まる。
「ってまさか刹那ちゃんが!!!」
「ちがいますうううう!!!タマモさんと茶々丸さんが言い出したんです!!」
「けど着替える時はちゃんと手伝ったじゃない」
「そ、それはそうですけど・・けどタマモさんや茶々丸さんみたいにガン見したりしてませええん!!」
刹那は心外とばかりに叫ぶが、やってることは結局タマモと同じである。
「いやあああもうお婿にいけないいい!!!!」
「大丈夫、ちゃんと責任とるから安心して」
「あ、タマモさんずるいですー!!それなら私にも権利が!!!」
刹那はタマモの発言に引きずられるように叫ぶが、後日この時の発言を思い出して恥ずかしさのあまり部屋でのた打ち回っていた。
「あの・・・お料理が冷めてしまいますが・・・」
ただ一人冷静な茶々丸の声が廊下でむなしく響き渡った。
その後、冷静さを取り戻した横島達は茶々丸の心づくしを存分に堪能し、帰宅していった。
茶々丸は横島たちを玄関まで見送った後、ささやかな宴の後片付けをしていた。
「オモシロイヤツラダッタナ、妹ヨ」
すると、テーブルにチョコンと座っているチャチャゼロが声をかけてきた。
「そうですね、横島さんたちは不思議なくらい場を和ませてくれます」
「ソウダナ・・・・・トコロデゴ主人ハドウシタ?サッキカラ姿ガ見エナインダガ・・・」
「そういえばそうですね、おそらく深夜の散歩にでも出かけたのでしょう」
「ドコゾノ怪物三人組カヨ・・・シカシ深夜トイウニハ早スギナイカ?」
茶々丸はチャチャゼロに言われて改めて時計を見ると、まだその針は午後8時をさしていた。
「そうですね、ではいったいどこに・・・・それになにかを忘れているような気もしますが」
「思イ出セネエナラタイシタコトジャナインダロウ、ソンナコトヨリ今夜ハイイ月夜ダ、コノママ月見トイコウゼ」
「それもそうですね、今お酒と用意します」
生き人形とガイノイド、二人の頭上に浮かぶ満月はやわらかく二人を照らし出していった。
第24話 end
そのころ、某所にて。
「さあ、これで準備万端だ。いつでも来るがいい横島忠夫!!」
そこには漆黒のドレスをまとい、優雅な笑みをうかべた絶世の美女が料理がずらりと並んだテーブルに座っていた。
その美しさはある意味成長したタマモと互角の勝負が出来そうである。
「今まで茶々丸との地獄の特訓を経て107回にもおよぶ失敗のはて、ついに貴様の弱点をつかんだぞ!!」
その美女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは今までの失敗から横島の決定的な情報を得る事に成功していた。
そう、横島が徹底的に大人の女に弱いということを107回目にしてようやく悟ったのである。
それに気付いたエヴァは茶々丸と練習を重ねていた最後のシーン。題して『108回目のプロポーズ』に全てをかけていた。
エヴァはこの別荘に来ると、丸一日をかけて体を磨き上げ、極上の酒を用意し、最高の食材を使った料理も手配した。
さらに寝室には雰囲気満点のBGMを流したりとまさに完璧な準備である。
そしてあとは茶々丸が横島を案内してくるのを待つだけであった。
「くくくく横島忠夫、絶対に貴様を振り向かせて見せるぞ」
横島を待つ傍ら、ワインを軽く飲みながらエヴァは一人ごちる。
そのセリフはすでに目的の方向性を見失っているような気もするが、それに突っ込みを入れる存在はここにはいなかった。
エヴァは今回の作戦の成功を確信し、極上の笑みを浮かべながら沈み行く夕日をながめながら酒盃を重ねて行った。
そして別荘の夜が明けた
「おのれ横島忠夫おおおお!!!!最後は放置プレイかあああ!!」
一升瓶で形成されたピラミッドの上でお子様吸血鬼の絶叫が朝日に吸い込まれていった。
彼女の努力が報われる日は果たして来るのであろうか、それは誰にもわからない・・・
(あとがき)
なんか我ながら報われないエヴァが気の毒になって来た今日この頃です。
まあ、今回書きたかったのはタマモと刹那の着替えを前に苦悩する横島でした。
さて、次は南国に行くべきか、それとも流してネギの修行強化に行くべきか・・・
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