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ネギまのクロニクル第三話(ネギま!×終わりのクロニクル)オリ有り 投稿者:狛江戸衛門 投稿日:04/08-00:30 No.4


 文字の始まりは絵であったという。

 漢字の元である甲骨文字は当然のことながら、アルファベットの原点、ヒエログリフも同様であった。

 それは当然であろう。文字のない時代、後世に伝える方法として記せるのは、その光景を描写した絵のみであり、より詳しく残すためには、忠実であるかそのイメージが伝わるような絵でなければならなかったからだ。

 そして、それは象形という洗練を経て、イメージの象徴である絵から絵文字となり、文字となった。

 だが、その文字を記せない人々――否、世界があった。

 文字を書けば、その文字に込められたイメージが現実と化す。だから人々は記せない。

 文字は次第に伝達の道具の地位から退き、歴史は人々が語り、力を持つとされる文字のみを残した。

 では、その力を持つ文字とはどのようなものか?

 それは、文字として――絵としてのイメージ伝達能力に優れている、つまりその文字が示す物事をより絵として捉えた者が書いた文字である。

「半分ってトコだな」

 ここにいる出雲・覚は、その世界の出身者ではないものの、別の世界の出身であり、元々漢字を知らなかった。つまり、象形文字としての漢字を、絵として物事と結び付けているということである。

 彼が放った文字爆弾は敵の約半分を焼き尽くしていた。両者の間に、浅くともクレーターが出来ている。

「条件付けしたから威力減りやがった」

「ほ、ホントに爆弾……」

 明日菜はぽかんとその光景を見つめている。魔法に関わってからというもの、非常識なことは日常茶飯事となりつつあった今日だが、ここまでの破壊は滅多にない。エヴァンジェリン戦とリョウメンスクナ戦ぐらいである。

「これが概念?」

「おうよ。文字のイメージが存在を決める概念だ」

「あっ、また――」

 出雲は再び消え、今度はクレーターの縁まで移動していた。

 決して高速移動ではない。明日菜が捉えられないスピードであれば、残像が残る。出雲のは決してそういうわけではなく、突然意識から追い出されたような、純粋に「見えない」「認識できない」の次元なのだ。

 とりあえず疑問は後回しにして、大きな彼と並ぶ。

「ぱっと見で五十……嬢ちゃんは十な」

「十?」

 思わず鸚鵡返しに聞き返す明日菜。

「どういうことよ」

「いや、別に実力を疑ってるわけじゃねえ。けどよ、ここは俺らの領域だ。いつもとは勝手が違うんじゃねえのか?」

 確かに明日菜は、ネギからの魔力供給がない以前に、彼の従者として以外での戦闘は一度きり。今と同じようなシチュエーションといえど、そのときは一撃当てればよかったし、言葉面だけとはいえ命の保障はされていた。

 しかし、今は違う。手加減容赦一切なしの殺し合いだ。

「だからアドバイスだ。そのハリセンに書かれた文字、そいつは何のためにある?」

「あたしがネギの従者だからでしょ」

「ああ。だからそのハリセンは、あのガキのために力を振るうお前のためにあるんだよ」

 瞬間、

「う、うひゃぁ」

 明日菜の体が光に包まれたかと思うと、いつもの魔力供給のように定着する。不自然さは何もない。変な気持ちよさも健在。魔力供給が成功したのかと、一瞬明日菜は思ってしまう。

「自分の名前を使うのは無理だろうから説明はなしだ」

そう言って出雲は、今度は消えることなく踏み出した。

「おらいくぜ!」

「ちょっと……!」

 明日菜はそれに追随するが、彼女の目から見ても異様に速い。その原因は、疾駆しながら周りに浮かべている符のおかげだろうか。

 敵の軍勢は慌てて動き出した。怯むな、とか、囲め、などと言っている盛り上げ役がいる。

「A撃破ぁ!」

 息つく間もなく、流石にど真ん中に突っ込むという愚は冒さず、左端にいた狼を擬人化したような獣人を殴り飛ばした。

「続けてBCD!」

 空いていた左の裏拳を放つ。さらに円運動を続けるために左のハイキックを顎に見舞い、半回転してボディに前蹴り。出雲はそこで一旦距離を取る。

 その隙を見逃さない獣人E(出雲命名。左からアルファベット順)は、姿勢を低くして突進。ロケットじみた体勢に出雲は苦笑し、迫る豪腕を捌いてジャンプ……と見せかけたフライングニーキック。Eは鼻面を強打され、意識を失った。

「F来いや!」

 もはや順番の乱れた軍勢に向かって叫ぶ。本当は、たった今カウンターブローを入れた獣人はGである。

「うわー、やるわね……」

「$●×♪☆%!」

 感心する明日菜の下へ迫るのは、竜人六名に獣人四名。ノルマちょうどである。

 彼らは何事か騒いでいる。きちんと言葉を話しているような音律なのは明日菜にも分かったが、いかんせん全く分からない。分かるのは、日本語ではないということだけ。彼女の絶望的なリスニング能力を考えれば、それも当然だった。

 奇声――としか明日菜には聞こえない――を上げて襲ってくる姿は、修学旅行時の時よりもB級映画じみている。

「このぉ!」

 ハリセンで戦闘の竜人の横っ面をはたく。

(あんまり効かないだろうな……)

 そう思ったのだが、

「――!」

 今度は悲鳴――っぽい雄たけびだなー、と明日菜――を上げた竜人は、ハリセンが振り下げ気味だったことと相成って、地面を強力な芝刈り機のように削り取って吹き飛んでいった。

「…………」

 開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。竜人と獣人たちはもちろん、当人が一番驚いている。

 出雲の戦闘音が酷く遠く感じる中、明日菜は自分のハリセンを眺めた。

 敵を見た。

 ハリセンを見る。

 敵を見る。

「いっくわよー!」

 不可思議現象に結局十秒ほど気を取られただけの明日菜は、やる気満々で飛び込んで行った。





「どうやら魔法生物のようです」

「うわー、見当違いってヤツ?」

 風見・千里は天を仰いだ。

 世界樹より東に一キロほど行った場所に、問題のポイントは存在していた。別段建物と呼べる影はなく、相当前に朽ちてしまったらしき校舎の土台であれば、腐葉土と化した木屑の山にその存在を潜めている。

「どうやら歪みはあなた方の世界にだけ繋がっていたわけではないようです。魔法界から出てきたとしか思えません」

「どうしようかしら。親への土産話になるから倒すのもいいわね」

「このような話を、いいのですか?」

「あー、うちのはテレビの企画担当なのよ。たぶん脚色なしで話したら、『絶対斬首クビキライダー』とかやりはじめるでしょ」

 言う風見の手中には、薙刀が握られていた。刹那曰く、倒した中に使い手がいて、押し付けてくるので仕方なく貰ったのだとか。

「はぁ……」

「でもよかったわ。そろそろ勉強がんばんないとで実働しばらくになっちゃうだろうって時に、貴重な体験出来て」

 その薙刀は、風見の身の丈を軽々と超えてしまう長さを誇り、刃の部分も全体の三分の一ほどあった。まさに特大である。

 だが、と刹那は疑問に思う。こんなに軽々と扱えてしまうなんて、彼女はどれほどの使い手だったのだろうかと。

「G-sp2もめっきり重くなっちゃって、いくら特注の機殻槍(カウリングランス)って言っても、抜け殻を使う気にはなれなかったのよねえ……」

「あなたの獲物は生を得ていたのですか?」

「意思のある槍、ってとこ。こんなのじゃ軽すぎるぐらいに大物のね」

 風見は演舞のように薙刀を振り回す。我流以外の何物でもなかったが、その技術の高さはうかがい知る事が出来る。

「そうですか……――――!どうやら来るようです」

 刹那は身を硬くして、視点を上げた。

 二十メートルもない場所に、巨躯が、鬼が、物の怪がいた。

 この怪物は見たことがある、と刹那は遠くもない過去を振り返っていた。

 そう、それはネギの記憶を覗いた時の異形たち。村を襲い、焼き払い、結局は彼の父親であるサウザンドマスター・ナギ=スプリングフィールドに壊滅させられた魑魅魍魎。刹那はのどかが持つ絵日記のアーティファクトを通してしか見ていないが、それでもこれに間違いはなかった。(のどかの絵日記は絵こそ下手なものの、デフォルメがかかっているので特徴らしき特徴をおさえられているという点では読みやすいのだ)

 仕事柄妖怪の類を相手にしている刹那にとって彼らは見慣れた存在でこそあるが、あのヘルマンという悪魔がいた集団と同じ種族なのだ。もしかしたら戦闘能力もそれなりかもしれない。

 油断は出来ない。

「ねえ。あいつらって、ひょっとして外出歩いてるとエンカウントする類のモンスター?」

「は?あの、おっしゃる意味が分からないのですが……」

 刹那はさりげなく成績はよくない。よかったら、ゲームをしない彼女でも「出会う」という意味が分かっただろう。

「ごめんごめん。つまり、この世界ってあんなのが普通にごろごろしてるわけ?」

「いえ。この世界では魔法やあやかしの類は秘密とされています。あの者たちは召喚されたと見るのがいいかと」

「確かに、魔法を話題に出すのためらってたもんね、あの子」

 そう言うと、風見は懐から七枚の符を取り出した。

「めんどいからもう使うわね、概念」

「え……ああ、はい」

 刹那の知識では、符とはやはり魔法の媒体だ。異常識が故に理解が一瞬遅れた。

「それとこれ。このネックレスっぽいのが『・――意思は疎通する』っていう通信概念で、この符はいざというときに使いなさい。三回まで使えるから」

 ネックレスと三枚の符を刹那に持たせる。風見は渡したのと同じ、青い宝石のような石のネックレスをつけた。

「いいのですか?」

「あっちの世界じゃ概念一般化プロジェクトを遂行中なの。別に異世界でやっても問題ないわ」

「ありがたくいただきます」

 刹那はネックレスをつけ、符を懐に仕舞った。

 そして、ゴングは唐突に。

「……いきます!」

 ズゥンという大きな足音を皮切りに、刹那は夕凪を斜に構え、風見は五枚の符を浮かべつつ、砲丸のように飛び出した。

 眼前、先頭をきる体躯からの鉄拳をすんででかわし、刹那はそれを、風見は右半分に展開する軍勢に向かった。

「はぁっ!」

 一閃。それは切り上げの軌跡。

 岩をも切断するその切れ味はしかし、

「なに……!?」

 木偶の坊の腕を両断するまでには至らない。本来ならば断罪のごとき勢いで腕が吹き飛ぶはずなのだが、砂に突っ込んだ様な感触が太刀を介して伝わってくるのみで、中ほどまで刃を食い込ませて夕凪は止まる。

 予想外の事態に離脱を選択するが、夕凪が抜けない。どうやら中途半端な傷だったようで、再生が早くも始まっているようだった。

 夕凪が飲み込まれる。神鳴流は武器を選ばないが、名匠に鍛えられた夕凪で切れぬものが、果たして急場しのぎの獲物で切れようか。

 刹那は木偶の坊を見た。そいつはもう一方の腕で、刹那に殴りかからんとしていた。

(仕方ない。一旦退避だ)

 そう思った。

 だが、拳の軌道を計算すると、

(しまった、夕凪が!)

 ちょうど杭を打ち込むような角度で、拳と刹那と夕凪は並んでいたのだった。さらに運が悪いのは、夕凪が刺さった腕はだらりと力なく下がっており、動かすという意思が感じられない。

 壊れる事はないだろう。そうは思うが、今度は取り出せなくなる。それはすなわち敗北を意味している。

 刹那は止まったようにスローな世界を見て、

(油断していた……!いや、今は後悔している場合ではない)

 右手で夕凪を握り、左手を懐にいれ、

(どんな効果があるかは分からないが、ええい、ままよ!)

 はっしと符を鷲づかみにした。

 そして、願う。

(発現せよ、異世界の理よ!)

 瞬間、



・――立場は一瞬で変化する。



 刹那は、弱いながらもはっきりとした、自分の声によく似た声を耳にしたのだった。

ネギまのクロニクル
ネギまのクロニクル第四話

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