ネギまのクロニクル第四話(ネギま!×終わりのクロニクル)オリ有り 投稿者:狛江戸衛門 投稿日:04/08-00:32 No.5
刹那は夕凪を振り終え、その反動で木偶の拳をかわしていた。
「え……?」
おかしい。手中の夕凪はそもそも奪われたはずだし、攻撃の受け方も違う。さっきのは完全に木偶の攻撃といった攻撃だったが、今のは反撃のような攻撃だ。性質が変化している。
(いや、違う――)
木偶の膝関節に狙いを定めつつ、刹那は理解した。
立場が変化している。
今まで『無防備のところを狙われる』立場にあった刹那が、『攻撃が外れて反撃を受ける』立場に変わったのだ。そして木偶もそれに従って立場を変えている。
発動の際の自分によく似た声も、こんなことを言っていたような気もする。
「これが概念か!」
ピンポイント攻撃に手法を変え、敵の関節部を寸断、または破砕していく。
いかに魔法生物といえど、生物であるからには関節というものが存在する(ゴーストやスライムなどはその限りではないが)。鍛えようも無いそこは、少なからず弱点足りうる。ダメージを与えやすい部位を狙うのは定石だ。
「斬空掌・散!」
戦法が定まれば後は簡単。いかに早く、確実に敵を撃破するかにかかっている。
(風見さんも心配だ)
右方にいるであろう彼女を気にかけ、放った気弾が全発膝関節に命中したのを見て取ると、夕凪への気を多めに送る。
そして、放つ。
「秘剣・百花繚乱!」
低く、水平に、まるで足払いのように気の斬撃が敵の足を破壊する。木偶たちは自重からもはや動ける状態にあらず、後方にいた烏族のような人型の幾匹かは消滅を辿っていた。
撃破数七、戦闘不能数二十四。任された軍勢の四分の一だ。
しかし敵軍はほぼ均等に分かれた。実に百以上の敵兵がいるわけだが、一見大域攻撃手段を持ち得ない風見が綺麗に片付けられるどころかうまく立ち回れているのか。
(マズい。あの薙刀は確かに業物だろうが、慣れない獲物であれば鈍だ)
背後から接近してきていた(立場が変化した際に巻き込まれた軍勢の一割ほどが、その位置に移動していたらしい)少女のような外見の鬼を切り飛ばし、刹那は急いて地を蹴った。方向は当然、進行方向右手側だ。
追いすがる二角獣の脚に夕凪を叩きつけ、よろけたところに脳天への一撃。
「風見さん!」
刹那は叫んだ。
「『聞こえてるわよ』」
脳裏に響く声と現実の声が二重に聞こえた。
そういえば通信用らしき装備を貰っていたと気付き、ちょうどパクティオーカードのような要領かと下げたネックレスを意識して、
『すみません。しかし、風見さんは大丈夫なのですか?』
『新鮮ね……年下に心配されるなんて……』
『は?』
風見から『なんでもない』と返ってくる。
現在二人は、十メートルほど離れた位置で背中を向け合っている。連れてきた敵軍をそのまま合流させるのも得策ではないので、今度は迎撃のような感覚で討っている。
『まあ軽くて軽くて慣れないから討ち損ね多いのも確かなんだけど……もう使うか』
『出し惜しみをしている状況ではなさそうです』
どちらが戦闘のプロなのかは分からない。物腰から強者と分かるだけで、刹那との強弱までは分からない。
もしかしたら、不要の心配だったのかもしれない。
『隙作らないようにね』
それはどういう意味か。
訊ねる前に、それは来た。
・――解り合えるものは限られる。
瞬間、解らなくなった。
(な、何が……)
とにかく解らないのだ。自分が何と対峙しているのか、何を持っているのか、外面は分かるのだが、その意味が分からない。
未知の感覚に溺れかかったその時、
『あたしが分かる?風見千里よ』
声が聞こえた。不思議と、その声の主も、彼女がどこにいるのかも、そして彼女がどういう存在かも理解できた。
『これは三十秒限りだから手っ取りばやく説明するわ。今あなたと話せてるのは、ネックレスのおかげ。この概念の符はこのネックレスを例外認識するように作られてるから。それで、やってもらいたいことなんだけど、さっきやってた飛び道具っぽい攻撃だけをバンバンやってもらいたいの。直接攻撃は絶対にだめ。認識も理解も出来るなら、あとで理由はすぐわかるからやってちょうだい』
怒涛の早口で説明されるが、辛うじて理解は叶った。
そして、三十秒が経つ。
「……っ!」
理解が復帰した。幸いにも攻撃はどこからも来ていなかったので助かった。何故攻撃が来るのかという意味すら分からずに直撃していただろう。
そして第二波、
・――力は高まる。
「あ、あああぁっっ」
異常な高揚。体内で練っていた気が、行使されるのを今かと待ちわびているように暴れまわる。ともすれば体が爆散してしまうような、暴走。一片たりとも気が抜けない。
だが刹那は、使命に忠実だった。
「斬空掌……散ッ!」
本来の形を伴っていない気弾は、宿主にベクトルを与えられた凶暴なる気によって異常なスピード、異常な破壊力をたたき出した。
貫通、爆砕、寸断。
切の性質を失ってなお威力任せで敵を斬る……否、もはやそれは千切ると表現したほうがいいだろう。
「はぁ……ぁぁっ、ああっ」
たったの一撃、たったの五発で、蠢く異形は数を三割にまで減らした。
そして、喪失感。
「ふぅぅぅぅ」
刹那は過ぎた高まりの残滓を吐き出すかのように大きく深呼吸した。同時、新たに気を練るが、暴走はない。
「ごめんなさい、そこまで影響出るとは思わなかったわ」
「いえ……」
隣には、身動きを止めた敵軍の合間を縫った風見がいた。
「本家のやつだったら、まず間違いなくオーバーロードしてたわね」
「今のよりも上があるのですか?」
「ええ、今のは『・――力は無限となる』の劣化概念。力の抑止がなくなるから、ファンタジーの人にはつらいみたい」
「無限……」
無限の力は、己を高める者――少なくとも誰よりも強く在らんとする者にとってしてみれば喉から手が出るほど手に入れたい、渇望の的である。だが、そう甘くはない。無限の力を手に入れても、そもそも人に知覚できないのが無限なのだから、御しようがないのだ。第一、人間では器が小さすぎる。
(この私ですら、劣化で精一杯だったのだ)
おそらくネギでも、エヴァンジェリンでも、さらには木乃香ですらそれは不可能だ。もっと言えば、サウザンドマスターのパーティの中ですら無理だ。
だがしかし、刹那はこの期を好ましく感じていた。
(限界を知ることはいいことだ)
「さて、それじゃあ残りはこれでいきましょう」
風見が懐から一枚の符を取り出す。
そして、掲げる。
・――輝きは切断の象徴である。
「GO AHEAD!」
飛び出した、と思った次の瞬間には、四体の烏族をまるで熱したナイフでバターを切るかのように切断していた。その勢いを円運動で殺さずに維持し、背後で構えを取りかけていたひょろ長の魔族の身長を座高に変える。
刹那の知覚速度は超えている。彼女は残像を辿るのがせいぜい、細かな動きなどはもはやブレすぎて軌道の残像だらけだ。
「はっ!」
風見は運動能力向上の符を取り替えながら、全身にオーラのような妖光をまとう敵勢を見やった。そのおかげなのか視線はこちらを追いかけている。
「でも遅いわねっ!」
一閃。月の光を受け輝く刀身が、潜り込んだ密集地帯の中心から死円を描く。
ぼとり、ぼとりと、たまにびしゃりと、断末魔に混じるのは、彼らの肉体の断末魔。
叫びが、
絶叫が、
悲鳴が、
響き渡るのは妖しげに輝く月の下。
そして遂げるのは、
「これで終わりっと」
風見は刹那の隣で止まると、浮かべていた符を一枚掴んだ。
「あぁ、この月明かりで使うにはもったいなかったわ。ん?月の人だからいいのかしら」
ところどころよれてあっという間に古びたそれを仕舞う。
「ともかく、これで片付いたわ」
「あ、ありがとうございました!」
「え、ちょ、ちょっと」
困惑する風見。その視線の先には、片膝をついて頭を垂れる刹那の姿があった。
「風見様のお力、拝見しました。私など足元にも及ばぬ戦技は、この世界で頂を冠するほど。先ほどの失言は是非忘れていただきたく思います」
内容からすると、失言と言うのは心配の声だろうか。風見は思い当たるが、ややこしくなりそうなのでノータッチ。
「わかった。わかったから顔上げて。慣れてるけどここまで畏まられるのは滅多ないわ」
「そちらの世界でもご高名でいらしたのですね!?」
「あ、いや、うーん……、関係者だったら……」
全竜交渉部隊とは、影で世界を救ったチームである。まさに知る人ぞ知る状態。しかし在籍していた学校も組織に所属していたので、生徒はほぼ知っている。彼女の凶暴性と強さを。
「流石です。それでもしよければ、今度お時間がある時にお手合わせを願いたいと思うのですが……」
「って、えーっ!だってあたし槍っていうか薙刀であなた剣じゃない、相性的にどうかと思うけど?」
「それでも、です。我が神鳴流は相手を選びません。是非、あなたほどの使い手は稀に見る存在なのです!」
「ちょっとちょっとこの世界ってこんな女の子いっぱいなわけ!?実はものすごくファンタジーしてるじゃない!」
風見はとりあえず薙刀を地面に突き立てた。なんというか、今にでも手合わせが始まってしまいそうな雰囲気だったのだ、間違って異世界人、それも中々可愛い少女を手にかけてしまっては目覚めが悪い。
さて、どうしようかと腕を組む。
「どうしても?」
「無理にとは言いませんが」
「本当に?」
「――――はい」
「今の間何!?」
「はい」
「即答し直すのもどうかと思うわよ?」
「すみません」
(うーん、この子実は頑固ね。というより、強さに執着心があるのかしら。それでいて相手を思いやってるから自分の意見押し通さない……)
何でもするというわけではないことを風見は分かっている。しかし、そう気持ちを無碍にしていいものなのか。
本当にどうしようか、と空を見上げた。
と、
「あら、ヒオたちもう片付いたの?」
「は?」
刹那もつられて空を見上げる。
だが刹那には、何も見えなかった。ただ星が瞬く、夜空があるだけだった。
「もしや、風見様にだけ見えるのですか?」
ヒオという名前は、風見たち一行の中にいた金髪の米国少女のものだったと記憶している。
だがしかし、何故に彼女で空を見上げるのか。
サンダーフェロウという兵装があることは聞いた。
しかし、大型兵器は姿形もなく、航空機ならばなおさら。小型の武器だと推測できる。パートナーのダン・原川も同様だ。
「何故?」
その疑問は、
「なっ!?」
突如吹き荒れた風と、
・――ものは下に落ちる。
という声がが吹き飛ばした。
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