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ネギまのクロニクル第六話(ネギま!×終わりのクロニクル)オリ有り 投稿者:狛江戸衛門 投稿日:05/07-14:17 No.453

 改めて見てみると、クラスの中の魔法関係者ほどの賑わいを見せている。ネギはそう思い、帰した生徒二名はどうしているかと女子寮の方角を見やった。だが、そちらには漆黒に紛れる巨躯が横たわっており、それは叶わなかった。

 ヒオ・サンダーソンとダン・原川そのものと表現しても差し支えのない機体、サンダーフェロウを横に置き、各々見解を持つネギ、佐山、刹那は会合を開いていた。

「我々の敵のみが二箇所、君たちの敵が一箇所、さらに混合編成が一箇所。我々自身が出現した地点を含むと、計五箇所の歪みが発生していたということになるね。こういう場合には何か図形でも出来ていてくれれば、こちらとしてもより楽しめる……おっと何かね、射程ギリギリからEx-Stを向けられるような発言をした覚えはないのだが」

「異世界に来てまで言う冗談じゃないよ!」

 三人と話を聞いているサンダーフェロウら以外は、地に伏した武神をあちこち弄っている。一応ネギも興味はあるが、刹那だけに任せるのは何なので自重している。

「というわけで、発生原因――あくまでこの世界のもの――は不明。魔界という場との関係性も不明。さらに増援も不明。不明不明のオンパレードだが、何分こちら側の調査機器の大抵が概念上使用不能なのでね、許しを貰いたい」

「いえ、状況が不明瞭な事に関しては致し方ないと思われます。学園長も歪みに関しては特筆すべき節をおっしゃっていませんでしたから」

 自然発生したゲートであれば、処理の優先度は格段に上がる。無論、それは知らず知らずのうちに転送されてしまう一般人の出現を防ぐためでもあるが、今回のように異界の者の侵入を阻止するためでもある。

 それなのに、調査だけというこの依頼。学園長は果たして真相を知っていて託したのか否か。

「上の人間がいるのであれば、そちらの指示を仰ぐのが最善であろう。だがしかし、一同丸ごとというわけにはいくまい」

「それなら連絡のつく人がいますから、問題ありません」

 そう言い、ネギは二枚のカードを出した。宮崎のどかと近衛木乃香のパクティオーカード。

「宮崎さん、このかさん、聞こえますか?」

 各々を額にあて、目を閉じて語りかける。

 ほどなくして、返事は返ってきた。

『え、ええぇぇっ!?ね、ねぎせんせー、ですか……?』

『ほえー、どしてなん?』

 しかし、驚愕するばかりのそれらは、ネギを焦らせるのに十分だった。というより、彼自身一教師として教え子のこうした声を聞くと自然と体が反応するようになってきているあたり、きちんと修行が遂行されているのだが。

「どうしたんですか!?今何処ですか!?」

 遠くで遊んでいた皆が、何事かと振り返るほどの大声。

『今何処って聞かれたら、そりゃおじいちゃ……学園長のとこやけど』

「学園長のところか……よかった」

 ほっと一息。

『でも、本当にねぎせんせーなんですか?』

「どういうことですか?」

『いえ……ちょっと…………』

 急を要するわけではない異変が、そこで起きているのには間違いない。それにしても口ごもる異変というのは、どんな異変だろうとネギは混乱した。

 その肩を叩く手が。

「ネギ先生。数名だけでも、お嬢様と宮崎さんの下へと向かうべきです」

「あ、はい」

 前者への心配が強かったのは言うまでもない。

 佐山は移動の気配を感じ、風見に指示を出しているようだ。

 ネギもそれにならい、

「アスナさんも一応残っておいてもらえますか?魔法生物が出てきた時には、心強いですから」

「うん、わかった。なんかあったらカードでね」

 ちなみに、刹那を残すと木乃香が心配で落ち着かないことは目に見えているから明日菜を残したということは、これも当然言うまでもない。

「それでは行きましょう」

 ネギは刹那を杖に乗せ、佐山と彼に付く新庄はブレスレットにあつらえられた飛行用の概念賢石を用い、空を舞った。

 進展を賭け、四人は急いだ。





 麻帆良学園には、幾多の学園長室が存在する。一箇所に常駐すると色々と不都合だとか様々な理由が噂として上っているが、どのみちここ麻帆良学園女子中等部の学園長室にいることがとても多いため、女子を眺めるのがいい、という噂で全てに蹴りが付けられている状態である。

 今日も今日とて書類に追われていたためか、こんな時間になってもここにいたのは少なからず僥倖か。何故なら、宮崎のどか、近衛木乃香の両名がすぐに行動を起こせる場所であったのだから。

 佐山と新庄を連れて、ネギは電気のない夜の校舎内を先導していた。杖の先の光球はない。佐山を中心とした半径三メートルの球状範囲が明るいからである。先ほどの話によると、佐山が所属していた部隊に常備されていた『・――人は影を引き連れない』という照明用概念なのだそうだ。

「風見の概念のせいで、出番はほとんどなかったのだがね」

「大抵月明かりがあったしね。これは京さんのおかげかな?」

「先代月妃のおかげであろう」

 という余談があったとか。

 そして学園長室の前。

「……?」

 ネギは思わず足を止めた。

「どうしたのかね?」

 佐山の問いに、しかし答えない。

 それは、矛盾していたからだ。

「今、何も言いませんでしたよね?」

「問い以外には口を開いてはいないよ。ああ、私には人形遊びの趣味はないので、腹話術などとかいう陳腐なトリックは期待しないでくれたまえ」

「大城さんいないよ、佐山君」

「何を言っているのかね?何も私は御老体が人形に語りかけ、腹話術で返すなどという周囲の目を気にしていないとしか言いようのないイタい遊びをしているとは、過去には言ったかもしれないがたった今この身には覚えがないのだが」

「言ったかもしれないんだ……」

 空笑いする新庄の隣で、ネギは黙考。

 この、明らかに矛盾的要素を孕んでいる状況をどうしようか、と。

「何を悩んでいるのかね?今は、足の時間だと考えるが」

「そう、ですね」

 適当に返し、ネギは扉をノックした。返事を待ち、踏み込む。

「失礼しま……」

「失礼す……」

「失礼しまー……」

 三様の礼。だが、最後まで続けられた者はいなかった。

「ほ!なんと、ネギ君に佐山君に新庄君が二人とな!」

 学園長の上げた声。それが全てを物語っていた。

 唖然とするのどか、木乃香、そして皆……

 外にいるはずの佐山たち、それにネギと刹那がさらにそこにはいたのだ。





「ま、まあそういうことじゃから、刹那君、頼んだよ」

『わかりました』

「あー、紛らわしいのぅ。刹那A君、先に説明してくれんか」

 全員集合。しかし、メンバーは約二倍に増えていた。佐山、新庄、風見、出雲、ヒオ、ダン、それにネギ、刹那が二人づつ、それに加えて、――我々が追っていた――ネギたちではないほうには、飛場という赤目の少年と美影という金髪に青い髪を一房垂らした女性がおり、さらに向こう側には明日菜がいない。のどか、木乃香、学園長を含めると、実に二十二人と言う、もはや大所帯と表現しても差し支えのない人数が、この学園長室の隣、大会議室に集結していた。

 なお、同一人物らしき人がいて紛らわしいため、今まで追っていたネギたち――明日菜がいて、飛場、美影がいないほう――をA、もう一方――飛場、美影がいて明日菜がいないほう――をBとし、個人名をそれで識別することにしよう。紛れないよう、二勢力は互いに向き合って着席している。

「それでは、状況を説明させていただきます」

 刹那Aはそう前置きした。

「我々は、学園に点在する歪みの調査に赴いていました。この歪みは、おそらく異世界のゲートでしょう。そこから、この佐山様を初めとした方々が出現、さらに他の歪みからは佐山様たちの世界の敵勢、我々の知る物の怪が侵入、直ちにこれらを撃破した次第です。なお、武神というらしきメカがいましたが、搭乗者の有無は不明、他所の獣人らからは話し合いをする気がなかったということです」

 以上、としめる。

 次に、Bのほうが立ち上がり、

「続いてこちらですが、歪みの調査中に誤って佐山様の世界へ転送され、戦闘領域に放り出されました。許可を受け戦闘に参加、終結後、ゲートと呼ばれる転送装置の調査に入ったのですが、そこで出雲様が装置を作動、全員でこちらの世界に飛ばされた、というわけです。そして上の指示を仰ぐため、学園長を伺ったのですが……」

『ここで鉢合わせ、と。そういうことだね』

 二人の佐山が、机を挟んで同調。

「うわ、こんな状態で佐山空間が発生しちゃったらどうしよう、もう一人のボク」

「大変なことになるよね、もう一人のボク」

「意見は同じなのね……」

 明日菜はうなだれ、早くも順応している新庄から目を外した。

「まあまあ。僕たちは概念を統べる者たちですからね、どんな事態が起こっても不思議じゃないんで、っていうかさっさと順応しないと取り残されますから」

「りゅーじ君、視線が高さ1メートルを過ぎたあたりを彷徨ってるけど、どうしたの?」

「な、ななななんでもありませんよ美影さん。決して胸の品定めをしてるとかそういうわけではなくてですね、異世界だと発育にどれだけの差があるのだとか調査していたわけですよ!」

「私じゃ、ダメ?」

 飛場の腕を、自分の胸元に引き寄せる美影。

「そそそそそそんなことありませんってば!いつでも僕は美影さんLOVEですよ!」

「アンタたちって、バカップルが多いのね」

「明日菜も人のこと言えへんようになるやんかー。やーん、もー」

「何であたしもなのよっ!」

 一瞬でハリセンを召喚した明日菜は、隣の木乃香をぺしぺしと叩いた。

 その光景にやや驚いた様子の風見Bは、さりげなく飛場の言葉にうなずいていた出雲Bを殴り飛ばし、反対側でAが同じ事をしているのを半眼で見届けつつ、

「とりあえず漫才やってる場合じゃないわよ。こうなった以上、どっちかが本物でどっちかがニセモノなんだから。概念にしろ、その――魔法にしろ」

 全員が黙る。

 問題はこれであった。このように対立もなく、むしろ穏便であるこの構図を、崩さなくてはならない。

 風見Bに、佐山Aが続けた。

「いますぐに、などとは決して言えまい。何故ならば、原因も因果も何もかもが分かっていない状況で探偵ごっこをするなどバカのやることだ。そう、例えば、壁にめり込んでいる出雲両名のように」

「ははは、いい冗談だ。ちゃんと鏡見てから言えばな」

「…………」

 出雲Aは言い返したが、出雲Bはそれもせずに黙りこくっていた。まるで、今、違和感を感じたかのように。

「それは、僕も賛成です。どっちかが変装しているんなら、本性を暴かないと」

 ネギBがおずおずと手を上げて発言する。

「でも……どうすればいいんでしょうか」

「ふぉふぉ、のどかちゃんのアーティファクトは名前じゃから使えんしのぅ」

「えぅ!?し、知ってたんですか?」

「まあそんなことはいいじゃろうて。――さて、交渉役とも呼ばれたお主に任せても、二人ともおるからダメじゃしなぁ……」

 学園長は、その人間離れした顎ひげをさする。実を言うと、さっきから風見Bや飛場は異様な頭に笑いを堪えているのだが、幾多の交渉を潜り抜けてきたという彼らはそれを辛うじておさえていた。

「では、二組の相違から考えればよかろう。明日菜嬢、ややエロに美影君」

「ちゃんと名前で呼んでくださいってば!それで呼ばれたくありません!」

 飛場は抗議の意を表そうと立ち上がろうとするが、腕を掴む美影によって阻まれる。

 ついでに弾力に満足し、勢いを収める飛場。

「あの人たちの御し方が分かった気がする……」

 明日菜は嘆きつつ、

「それってつまりさ。二人いる人が話を進めると、どっちかが嘘言ってるかもしれないから混乱して、訳わかんなくなるから、あたしたちに任せるってことじゃないの?」

「あ、明日菜さん……その理解力は、ひょっとして……」

「んなわけないでしょうが!本屋ちゃんまでそんなこと言うの!?」

「アスナさん、次のテストもその勢いです!」

「あーもー、ネギまで!」

「とにかく」

 先ほど提示した佐山Bが脱線した流れを戻す。

「この相違こそが、謎を解くヒントになるだろう。何も三人のみで話し合えと言っているわけではないことを断っておくが」

「いや」

 が、そこで流れが変わった。

「その方法もいささか危険を孕んでいると思わないかね?」

 佐山Aが、割って入ってきたのだ。

 皆の視線が、二人の佐山に注がれる。

「こういう場合のセオリーは、とにかく当事者のみで決を下さないことにある。明日菜嬢や美影君もニセモノという場合も考え得る。その考えがある以上、皆の記憶すら頼ることは危険なのだよ。私ならば、分かるだろう?」

「Tes.、しかしならばどうしろというのだね?その解釈を成り立たせると、そのうち夢オチまで出てきてしまうではないか。それは新庄君が断固反対するのでいささか認めがたいのだが」

「別に、断固ってわけじゃ……」

 隣の新庄Bの囁きを聞き流し、佐山Bはさらに、

「それに、だ。いかにニセモノがいようと、この世界の住人たるネギ君たちのどちらかが本物なのは確かだ。全員ニセモノという仮定は、この場においては意味がない」

「仮定を働かせる者が偽ならば、その仮定も偽りである、と。確かにそうだが、我々は互いに己を本物と認識しているはずだ。まさか、自分がニセモノであるという自覚を持っているわけではあるまい」

「偽ならば、その言葉も偽となる。真偽問題において、自覚という言葉ほど無意味なものはないのは、分かるだろう?」

「Tes.。だからこそ、今一番真と思われる彼女らを根幹に据えようとしているわけか。しかし、やはりこの場において真偽を判断する材料は、互いの記憶しか存在しない。記憶と自覚は同一のものだと、この私は解釈するが」

「では、外部からの介入を待つかね?記憶が判断材料ならば、我々のみでも解決できるとこの私は信じよう」

 一息、

「……流石私だ」

「そうだな」

 瞬間、空気が緩んだ。

「すごいですね。僕にはちょっと無理です」

「流石は佐山様」

「やっぱり佐山君が二人は、すごいことになりそう……」

 刹那やネギ、新庄が素直な感想を漏らした。

 基本方針が定まったところで、皆が腰を据え、本格的に解決に向かおうとしていた。自分がもう一人いるという不思議な状況は、相手がニセモノだということの暗示でもあるため、一刻も早く解消したかった。

 が、そこに横槍が。

「のぅ、すまんが……」

 議長席の学園長が、随分と申し訳なさそうに切り出した。

「とりあえず休まんか?」

 皆が一斉に時計を見る。

 短針は、とっくに60度傾いていた。

ネギまのクロニクル
ネギまのクロニクル第七話

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