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第9話 出場せよ!人の命を守る者 投稿者:クローンウィング 投稿日:01/13-18:44 No.1874  

満月の出た夜。

麻帆良学園 サッカーグラウンド。
そこで変わった光景が繰り広げられていた。

「ガリガリガ~リ♪芝刈り一筋三十年、鎌持ち生まれた俺様は~誰が呼んだか芝刈り機~すごい奴だぞ芝刈り機~」

「…」
「…」
「…」
「…」

およそ30人近い人が無言で一匹の異形を取り囲んでいる。

その異形…芝刈り機オルグは鼻歌など歌いながら芝目を綺麗に整えていた。

「サァ、君の望みどおりちゃんと芝生を用意した。洗いざらい吐いてもらうヨ。『ガリガリガリギュイイイイィィィィィィ―ン』………ていうか、そのうるさい丸鋸の音を止めてくれないカナ?」

腕を組みながら言うのは超鈴音。
そしてすぐ後ろにはハカセ。

二人の脇を囲む変身を解除した4人のヒーロー。

ティラノレンジャー=ゲキ
アバレッド=凌駕
デカレッド=バン
バルイーグル=飛羽

そしてネギと龍宮、図書館娘三人組。その三人から連絡を受けた刹那、アスナ、このか、その他の魔法教員や生徒たちである。

今夜このグラウンドで被疑者が芝刈りをしながら尋問されるという、おそらくは世界初のイベントが起きようとしていた。
詰問するのは無論、百枚舌を持つ超である。


芝刈り機オルグは丸鋸を止める、超を見ると………なんと、片手についている鎌を振り上げた!!

ギラッと照り返す刃に構える戦士と魔法使い。


だが、芝刈り機オルグは、おとなしく超の言うことを聞き、丸鋸を止めて芝の合間に生えている雑草を刈り始めた。


なんというか、悪の怪人なのにたいした人畜無害っぷりである。


DAの怪人をはじめて見たアスナなどは思わずネギに聞いた。

「ねぇ、ネギ。アイツほんとに悪の怪人なの…?」
「…そのはずです」

教師や生徒も疑わしげに草刈するオルグを見ている。
そんな微妙な空気の中で、尋問が始まった。

「初めに。DAの開放された勢力は、今どのくらいなのカナ?」
「……さぁなぁ」
「君たちの隠れ家…アジトはどこにある?」
「……さぁなぁ」

オルグの人を食ったような答えを聞き、何人かの額に青筋が浮かんだ。
というより草を刈るため背を向けながら質疑に応答しているので、馬鹿にしているようにしか聞こえない。

「…DAは次に何をするつもりなのカナ?」
「……さぁなぁ」

超はのどかを見た。

「う、嘘はついてないです」

のどかは日記を皆に公開する。
そこにはプライバシーとは無縁の内容が書かれていた。

のどかのアーティファクト

彼女の力を使えば被疑者の心の中を見通すことが出来る。
そして芝刈り機の心は白日の下にさらされた。

 ~いどのえにっき・芝刈り機オルグの心の中~


○ 月×日 はれ

今日は久しぶりに、芝を刈っている。
カードの中ではどんな風に芝を整備しようか考えていたので手がよく進む

そもそも芝というものはただ刈り込めばいい、というものじゃない。
例えて言うなら、『芝の命は地球の未来』

さらに言うなら芝とは『大地を貫く伝説の刃』

そもそも、この種の芝は目というものがあり、その目をよく見て整備するのが本当のプロと呼べる……(以下長いので略)



最後に
ダークアライアンスのことは、わしはよく知らん。


いどのえにっき 完



「………」
「………」
「………」



芝刈り機オルグは『ドスン』と言う音を聞き、脇を見た。
自分たちを尋問していた人間が全員ひっくり返っている。

彼はそれを見てただ一言こういった。

「こら!そこはまだ手入れしていないんだ!寝転ぶな!!」








Side DA


数刻前、アブレラは1人の人物と出会っていた。
彼はサーガインの修復したメインスクリーンに映し出されている。

その姿はずんぐりむっくりとした鋼の王。

「ようこそ、皇帝バッカスフンド殿」

アブレラは画面に礼をし、迎え入れた。

「あいにくと妻と息子はまだ、封印解除が出来ておらぬのでな。
我らバラノイア帝国は礼の件をこちらから援護する。ある程度落ち着いたら我が配下より使者を送る。
貴様の働き、期待しているぞ。アブレラ」

そっけない声とともに通信が切れる。

通信が切れると同時。

アブレラはくつくつと笑いだした。
すべては彼の計算どおりである。

いや、本来の計画とはズレたがうれしい誤算という奴だ。
バンとドアを開けアブレラは開口一番言い放った。

「サーガイン、一旦、奴の解放は中止しろ」
「何?」

かつて自分が所属していたジャカンジャ忍軍…『ケッカイ坊』の開放作業を行っていたサーガインはその言葉に疑問符を打ち立てる。

「どういうことだ?アブレラ」
「バラノイア帝国との同盟が決まった。餅は餅屋。あの科学力を持つ皇帝バッカスフンドならこの学園の結界制御など赤子の手をひねるようなものだろう」


そして、アブレラは会話を打ち切ると外へ出る。
時は金なり。
彼はせくせくと急ぎ、荷物を忘れていないか確認した。
今作戦の最大のキーパーソンの元へ赴く。
下準備は完了している。

あとは最後の詰めだけ。

アブレラは飛ぶ。脇にカードホルダーを携えて。

彼が向かうは竜の巣窟。
邪悪な龍…ジャリュウ一族が住まうところ。

海岸に面した小さな洞窟である。

「ごきげんよう、創造王リュウオーン殿」
「ふん」

急ごしらえの玉座に座すは鎧のような紅いウロコに身を覆われ、二本の角を生やした魔人。

「貴様がエージェント・アブレラか」
「いかにもいかにも、私がアブレラだ。さっそくだが商談の方に……」


洞窟に灯された、たいまつが玉座の影とこうもりの影を映し出す。

会合はおよそ5分で終わった。

そして巨大こうもりが基地から飛び去って行くとき。
リュウオーンの玉座の脇には怪人が二人付き従い。
玉座の背後には無数の巨大な卵が並べられ。

そして王の紅い手には見慣れぬ機械が握られていた。





今、秘宝を求め邪悪の権化が動き出す。





その晩、ネギのクラスのある少女たちは小さな講堂内でバンドの練習を行っていた。
最近は学校内で不審者騒ぎなどがあり、学祭が出来なくなるかもしれないと聞いていた。
ならせめて演奏だけでも披露しようと音合わせを行っていたのだ。

ボーカルのソプラノが練習用のホールに響く。
各々の楽器も綺麗に音を奏でていた。
リハーサルは中々に順調といえる結果だ。
音も合い、なんとか明日、避難する前に披露できそうだ。

バンドメンバー…『でこピンロケット』の面々は一回楽器を置くとドリンクを取り、休憩する。

「………でも、ええんかなぁ。こんなことやってて」

唐突に……ギターを脇に立てかけ、バンドメンバーの一人…和泉亜子が呟いた。

「?何がマズイの?」

ドラムの傍でジュースを飲むのは椎名桜子。
クラスでも1,2を争う天然である。

「避難命令でしょ?最近、麻帆良は妙に物騒になっているから」

そういうのは柿崎美砂。
コーラスとチアを掛持ちする少女で彼氏持ち。

「校舎の老朽化と、不審者騒ぎだっけ?たいしたことないと思うんだけどな」

柿崎のその言葉には現実と齟齬があった。

校舎は老朽化では無く半壊。
不審者というには特異すぎる生命体の出現。

魔法でごまかしているから生徒には危機感が薄いが実際には大問題である。学校側はそれに対し、提携を取っているメルディアナ魔法学院や一般の姉妹校に生徒たちを一時、避難させることを考えていた。

「早い生徒はもう今晩から移動を開始するんだよね。一年から先だっけ」

そういいつつ、ポッキーを口にくわえているのは釘宮円。
メンバーの中では一番のしっかり者だ。

「でも、どうなんのかな?やっぱりみんな同じ学校に……なんて無理だよね?」

柿崎は少し声の調子を落とす。
それに伴いあたりの空気も少し重くなった。

四人は今の3-Aというクラスが気に入っていた。
ずっと一緒のクラス、高等部に入ってもクラスの交流は続くだろう、と信じていただけに今回の件は本当に悲しい。

一部のクラスでは、この避難命令と学祭中止に反発しデモを起こしたところもあったそうだ。
数日で鎮圧されたが。

「ハァ」

だれともなくため息をつく。
今、テンションは下がりに下がっている。

とても練習できるような雰囲気ではない。
最初にこの話題を出した亜子は慌てた。

「(あ、アカン。み、皆のテンションちょっといいから上げな!)」

そう考えた彼女は何か盛り上げる話題はないかと辺りを見回し、釘宮の指に嵌っている指輪に目を留めた。

「あれ?くぎみん。その指輪いつ買ったん?」
「ああ、これ?……っていうか「くぎみん」ってよしなさい」

釘宮は人差し指を明かりにかざし言った。
彼女の手には骸骨を模したリングが嵌っている。
すこしおどろおどろしいが斬新かつゴツいデザインだ。

「この前、東京行った時に裏路地で小さな骨董品屋をみつけたの。そこで買ったんだよ。少し高かったけどいいデザインだったから」
「ああ、あの魔女みたいなお婆さんが売っていた指輪かぁ」

柿崎が納得したように頷く。
どうやら一緒について行ったらしい

「綺麗やねぇ…でもなんか喋りそうなくらいリアルな指輪やなぁ」

亜子も呟く。

「……そうだ!このゴタゴタがおわったらさ、3―Aの皆で渋谷にでも遊びに行こうよ!」

桜子が思いついたように手を叩き言った。
今さっき、会えなくなるかもという話をしていたというのに、それをすっ飛ばしての意見。
皆は少し驚いたがすぐに笑顔を作る。

そう、避難命令とてずっと出ているわけでもない。
また会えるはずだ。

そんなあたり前のことに気付いた面々が次々に口を開く。

「そうね。今度はクラス全員でっていうのも面白いかも」
「なんやもう校外学習やな」

柿崎、亜子の言葉が弾む。
すでに先ほどの重い空気は吹き飛んでいた。

「…よし!休憩取ったし、ラスト一回歌ったら、明日に備えて今日はもう寝ようか!」

そういって釘宮が立ち上がった瞬間である。


 「ジリリリリリリ!!」


突如、設置されている火災報知器が鳴り響く!
それと同時、青白い骸骨の化け物が彼女たちの頭上から降ってきた!!







Side  Dragon King

講堂の正面には三つの影があった。

「ここも見つからんか……」

そのうちの一つ……赤き龍王は崩れ行く講堂を見ながらつぶやいた。
彼の言葉に混じっているのは失望と諦観。
魔法使いが眠る土地…微弱な反応があるところを手当たり次第に探索すれば<秘宝>=プレシャスが見つかるかも知れない……と、思ったのだが…

「×××」

彼が、半ばあきらめかけたその時、ヒドラー兵が一人の少女を連れて来た。
黒い髪を短く切った少しハスキーボイスな少女…釘宮円である。

「な、何よ!放しなさいよ!」

彼女は必死に抵抗しているが、怪物の腕力には敵わない。
そして釘宮が指に嵌めているものをみた瞬間、創造王の目が変わった。

「貴様、何だこれは!」

そういいながら彼女の手にある指輪をもぎ取る。
リュウオーンの懐にある機械が振動する。

その機械……携帯電話に似た機械で、紅い魔人は指輪を計測し始めた。

「ハザードレベル20…間違いない、ハザードレベルこそ低いが、これはプレシャス……、伝説の指輪…魔導輪だ!」

「は…?」

釘宮は思わず口をぽかんと開けた。
自分が中古…それも19800(イチキュッパ)で買った指輪が『伝説の指輪』?

いや、それ以前にこの見た目一発、悪そうな…例えて言うなら特撮に出てくる悪の親玉のような人は何なのだろう?


「………伝説によれば、魔導輪はその中に悪魔を封じ込め、秘薬の作り方や…魔物を滅する方法……その悪魔の知る、ありとあらゆる知識を、身に付けた者に与えたという……だがおかしい。何の力も感じないぞ……壊れているのか?」

リュウオーンは少女など眼中に入っていないように振舞い始めた。
最初は恐怖に襲われていた釘宮も少し余裕がでてくる。

「……ねぇ、その指輪が欲しいなら上げるからあたしと講堂の中に居る皆を自由にしてくれない?」

釘宮にしてみれば下でに出たつもりだったがどうやら目の前の赤い悪党はお気に召さなかったらしい。


「!! …貴様、誰に向かってそんな口を利いている……!」


ゴゴゴゴ……!!という音が聞こえそうな雰囲気で魔人が振り返った。

「…いや、いいだろう。自由にしてやる」

だが、存外あっさりと要望が聞き届けられたことに円は安堵のため息をつく。

円は気付いていなかった。
リュウオーンの顔に邪悪かつ、醜悪な笑みが浮かんでいることに…。

彼女がため息を付くと同時、一体の男が前に出た。
その男は身長に反しかなり巨大な顔を持っている。
全体は緑色の制服、腰にメーターの付いたタンクと片手にはポンプ。

「やれ!SS(スタスタ)スタタンゾ!」

「スタ、スタ、スタタンゾ~」

変わった笑い声を上げたそいつは手を高々と振り上げる。



釘宮円の悪夢はそこから始まった。

「スタタンゾ!」

講堂脇の駐車場に止めてある無数の乗用車たち。
その乗用車には誰も乗っていない。

だが、SSスタタンゾが声を掛けると同時、車のランプが点灯した。
エンジンがかかる音が聞こえる。

そして………


『ガシャァン!!』

無人のはずの乗用車が、先ほどまで円のいた講堂に突っ込んだ!!

壁を突き抜けた車が爆発、炎上する。
だが、無人で動き出す乗用車は一台だけではない。

『ガシャァン!!』
『ガシャァン!!』

何体もの車が、講堂に突っ込む。
ガソリンに引火し…建物が炎上を始める。

「前に使っていた『家出したくなるガソリン』とは段違いだスタタンゾ……こりゃぁ中の人間は死んだなぁスタタンゾ」

怪人SSスタタンゾの言葉どおり、建物はものすごい勢いで燃えていた。通常のガソリンではここまで早く建物に火はまわらない。

講堂の燃える様は、まるで焔でできた竜がその建物に絡み付いている様に見えた。


「……何よコレ……うそ…うそよ……こんなの…」

SSスタタンゾの台詞に円は呆然として、ぺたんと地面に座り込んだ。

「……講堂には美砂も、桜子も、亜子だっているのよ?……こんな、こんなことしたら、みんな……みんなが…!」


「貴様が悪い」


リュウオーンのその言葉には容赦がなかった。

彼は円が自分に無礼な口を聞いた。

ただそれだけで彼女の友人たちを殺したのだ。



「……返して……返しなさいよ!!みんなを返して!」

円は錯乱してSSスタタンゾに掴みかかった。

「邪魔だスタタンゾ!」

だが、無常にも彼女は突き飛ばされる。
その時サイレンが聞こえた。
消防車の警鐘だ。

消防車から何人ものホースを持った人たちが建物に向かって放水を開始する。

「お願い!友達が中にいるの!助けて!!」

釘宮は消防士の一人を捕まえ、叫んだ。

「な、なに!?隊長!!」
「………今は無理だ、火の勢いが強すぎる!!」


だが、炎は消火の水を嘲笑うかのように嘗め尽くし、燃え盛る。





「収穫はあった。次は図書館島とやらに行くぞ。うまくすればハザードレベルが1000以上の魔導書や、魔導兵器とやらが見つかるかもしれん…」

その言葉を最後、
紅く染まった建物をバックに化け物たちが去ってゆく。

円の脳裏にはさっきまで話していた桜子の言葉がリフレインしていた。

(……そうだ!このゴタゴタがおわったらさ、3―Aの皆で渋谷にでも遊びに行こうよ!)

ついさっきまで当たり前に叶うはずだと思っていた願いは……今、紅蓮に飲み込まれ、消えようとしていた。

「…嘘だ…こんなの…嘘よ!」

頬を涙が伝う。
その涙も、友を飲み込んだ炎があっという間に奪い去り、円の涙を乾かした。

サイレンが聞こえる。
だが、いまさらもう一台消防車が来たところでもう遅い。
すでに炎によって入り口は崩れかけていた。

この炎の中に入っていけるのは魔法使いか不死身のヒーローくらいだ。

「みんなぁ…」

熱風に晒され嗚咽し続けた円の声は、ひどくしゃがれてしまっている。

その時、勇気付けるように円の肩を叩く者がいた。

「中に人がいるんだな?……安心してくれ。君の大切な人たちは俺が必ず取り返す」

力強い言葉に円は泣くのをやめ、顔を上げた。

見たこともない消防服に身を包んだ、赤い戦士が立っている。

「貴方は…?」
「俺の名前は後だ」

そういうと、彼はすでに崩れかけているその入り口へ向かって突貫しようと試みる。

「何をしようとしている!今、突入するのは危険だ!!」


だが、それは別の消防士たちに止められた。
それにゴーレッドは反発した。

「そんなことは分かっている!だが今、行かなければ中の人たちが助かる可能性はぐっと低くなるんだ!頼む!行かせてくれ!」

そういうと、彼は敬礼を取る。
マスク越しに見る彼の目に消防隊の隊長は怯んだ。

(なんて目をしているんだ。これが死ぬかもしれないという男の目か?)

そして……

「怪我人の救助を頼む!」

隊長もそういって敬礼を取る。

それだけで火消しの彼らには十分。

赤き戦士は今度こそ、炎の渦の中へと飛び込んだ!




Side RED 

「この先の練習用のホールに三人………急げ!!」

彼はそういうと、煙をかき分け、目的の場所に急ぐ。

「おい!だれか、聞こえているか!返事をしてくれ!!」

戦士は呼びかける。
だが、返事はない。

駆けながら、彼はグシャッと何かを踏んだ。

「うお!?」

彼の踏んだのは青白い腕。
ヒドラー兵のものだ。
それは踏みつけると同時、大気に蒸発する。
おそらく、火災に巻き込まれたのだろう。

「……くそ!間に合ってくれよ!」

消防戦士は必死にマスクに写るモニターを探索する。

バァンとドアを蹴破り、戦士はそのホールに着いた。
密閉された空間ではあちこちで炎が噴出している

彼はホールの脇、こともあろうに椅子に縛られ、さるぐつわをかまされている少女たちを発見した。

「おい!しっかりしろ!おい!」

縄を解きながら、意識の確認を取る戦士。

「う…ん」

その時、ショートカットの少女が目を開けた。

「よかった!君、大丈夫か!?」

突如、目の前に現れた救急戦士に少女…亜子は驚いたが、周りが煙に包まれているのを見るとさらに仰天した。

「な、なんやの!?どうなっとんのコレ?」
「説明は後だ!……そうか。さるぐつわのおかげだ、一酸化炭素が肺に入るのを防いでいたんだな」

そう言いながら、救急戦士…ゴーレッドは残る二人の少女に意識があるか確かめる。

「う…あれ?」
「えと、お兄さんは…」

柿崎、桜子が順に目覚める。

「レスキュー隊だ。君達、歩けるか?」

ゴーレッドは三人に酸素スプレーを渡し、確認を取った。

「は、はい…あら?」

だが、亜子の身体は本人が思っている以上に参っていた。
彼女の足は震え、立っていられない。

「……捕まって!」

がばぁ、と彼は亜子をお姫様抱っこした。
とたん、こんな状況だというのに亜子の頬が桃色に染まる。

「え!あの、ちょっと」

ゴーレッドは、こうして誰かを抱きかかえる度に思う。
命とはとても重い。

生きようとするその意志は自分たちを脅かす炎とは比べ物にならないくらい熱い。

一人の人間には無限の可能性がある。
彼らを助けることが無限の未来を紡ぐことにつながる。

そう考えればいつも気合が沸いてくる。

「あ、あのウチ、重くないですか?」

もともと軽い少女の体、鍛えている彼には屁でもない。
なのでゴーレッドは問いかけに対しこう言ってしまった。

「大丈夫!コレくらいの重さ、屁でもないぜ!」


「え゛……?」


おならと比べられた亜子は少し傷ついた。

「全員、俺と手をつないで。なるべく喋らないで付いて来るんだ。いいね?」

ちなみに美砂たちは、さるぐつわを酸素スプレーした後に再び装着した。

救急戦士は、それに加え美砂と桜子にレスキュー用の防火シートを被せる。

「ぅぉぉぉおおおおお!!」

気合一発。

片手で亜子を抱え、もう片方の手で美砂の手を掴み、ヒーローは駆ける。
彼女たちの身体に負荷がかからないか心配だが、このままでは炎で建物が完璧に崩壊する。

一刻も早く脱出するために今はただ……走れ!!





Side MADOKA&FIRE FIGHTERS

「隊長!付近に被害ありません!」
「全員、放水しろ!」
「隊長!消火が追いつきません!」

喚く、消防団員に隊長の罵声が飛んだ。

「バカヤロー!あいつは一人で炎の中に飛び込んでいったんだぞ!こっちも負けていられるか!」

その時、かろうじて入り口の原型をとどめていたドアがガラガラと音を立てて崩れた。


「! 桜子!!美砂!!亜子!!」

円がひび割れた声で絶叫し、炎の中へ向かおうとする。
それを一人の消防団員が羽交い絞めにした。

「やめろ!君まで死ぬ気か!」
「離して!離してよぉ!!」

その時である。

「た、隊長、鳥です!」
「バカヤロー!鳥なんか見ているばぁいか!!」
「違うんです!鳥が、火災現場の中に入って……」

団員がそこまで言うと同時、

「ビークドリラー!!」

硬い軋轢をドリルで破砕する音が響いた。
まさか、という期待が消防士と、円の頭に浮かぶ。






次の瞬間、嘆きの悲鳴は大歓声に変わった。







「……奇跡だ!隊長!彼が!彼が帰ってきました!」

そこに現れたのは災火を駆逐する希望の灯。
一人の少女を胸に抱え、二人の少女を背後に連れて。

一面、赤い景色の中で彼のスーツの赤色だけが、妙に鮮やかに映えている。

「美砂! 桜子! 亜子! 大丈夫!?」

円は一目散に友の元に駆けた。
足がもつれてたたらをふんだ彼女を美砂と桜子、そして亜子が受け止める。

「よかったぁ。よかったよぉ。わ、私…もう、駄目だって…あの人が来てくれなかったら…みんな死んじゃったんじゃ…ないかって」

泣きながら何かを語ろうとするがすでに言葉になっていない円。

「心配…かけて…堪忍な、…くぎみ、みー…えぐ」
「ばか…だから…変な、あだ名で呼ぶな…って」

亜子と、円が掛け合いながら泣きじゃくる。

「でも…よかった。これで…ひっく、約束…言いだしっぺなのに…破らなくて…済むよ」
「うん…あたしたち…生きて……帰ってきたんだ…」

桜子と美砂が二人に加わり四人は今度こそ大声で泣き出してしまった。

その光景を見て、消防士達からも鼻をすする音が聞こえてくる。


「民間部隊、救急戦隊ゴーゴーファイブ、第一任務完了!!」
「……協力、感謝する!」


消防隊長とゴーレッドが再び敬礼を交わした。






だがここに、いくつかの謎が残る。
何故アバレッド達や魔法使いは火災現場に現れなかったのか?

そして創造王のもう一人の配下とは何者か?



人の命を救った戦士は休むことなく次の場所へと向かう。

貴重な人命は救われた。
だが、その命を奪おうとした者は財宝を求め、暴虐の限りを尽くそうと破壊し続ける。


命を救った戦士が次に行う任務は強大な人災を止めること。
振り下ろせ!悪しき王に命の鉄槌を!!



次回 麻帆良レンジャーズストライク!!


Task.10 友情の価値




お楽しみに!!




今回の新規登場

ゴーレッド(救急戦隊ゴーゴーファイブ)

ゴーゴーファイブの長男で、チームリーダーのマトイ(25歳)が着装。
激しい炎に飛び込む勇気と、命を守る技術と優しさ、どんなに苦し
い戦いや救助活動でも、最後まであきらめない心の強さを持っている。


リュウオーン(轟轟戦隊ボウケンジャー)

ジャリュウ一族の創造者、秘宝、プレシャスのためならどんな犠牲も厭わない冷徹非情な男。外見こそ化け物だが、元は人間である。

SSスタタンゾ(激走戦隊カーレンジャーVSオーレンジャー)

宇宙暴走族ボーゾックのガソリンスタンド店員。今作では彼と彼のガソリンがパワーアップしている。



おまけ 魔導輪(友情出演)

指輪のプレシャスが必要になり登場。
力を失っているためハザードレベルは20。
次回、少しだけ活躍する………かもしれない

麻帆良レンジャーズストライク!! Task.10 友情の価値①

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