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悪の魔法使い プロローグ (×仮面ライダー) 投稿者:味噌醤油味 投稿日:04/08-05:43 No.103

 それは夢。

 人外の少女が忘却したと信じ込み、自らを騙し封印していた――

 決して色褪せる事の無い、少女の大切な思い出。





 日の光が差し込まない薄暗い部屋の中で、少女は落胆していた。



 何故なら、自分に相応しい僕を召還しようと長い時間をかけ努力したその結果が、一切の魔力を感じさせないただの男。



 自分を守る……『悪』に相応しい僕を欲し、新米魔法使いといっても過言ではない少女が3ヶ月と言う時間をかけ、悪戦苦闘をしながら漸く呼び出せたのがコレでは……



 一般人ですら持っているはずの魔力すら感じさせない男では、落胆しても仕方ないだろう。



 当惑し説明を求める男に、煩わしそうに全てを――自分が人外であり、身を守る術が欲しかった事。何の因果か、男が出てきた事を少女は説明した。



 すると男は、「そうか…… これから、よろしく頼む」と少女の頭を撫でたのだ。



 頭を撫でられた少女は驚き、その手を払い除けようとしたが、



 男の撫でる手が余りにも暖かくて、浮かべている笑顔が余りにも優しくて……



 頭を撫でる手を、少女はどうしても払い除ける事が出来なかった。





 それは思い出。

 少女が人外となり、まだまだ未熟な魔法使いだった頃の……

 何よりも幸せで、とても大切な記憶。





 薄暗い森の中。



 乱立する木々の隙間から僅かに零れ落ちる光を浴びる少女と男が、底が見えない程の崖を背に窮地に陥っていた。



 未熟な魔法使いである少女と、比較する事自体が馬鹿馬鹿しい程に完成された魔法使い達。



 そして、その従者達に追われ、逃げ回っていた少女と男が崖っぷちに追い込まれてしまっていた。



 男が少女を庇いながら「何故だ」と「この子は、何もしてはいない」と、立派な――『正義』の魔法使い達に叫ぶ。



 『正義』の魔法使いの一人が、「何時、人に害をなすか分からない。故に、人に害を為さないうちに始末する」と男を睨み付けながら答えた。



 少女は、男と『正義』の魔法使い達の問答を聞き流しながら思う。



 自分はココで死ぬのだと、『正義』の魔法使いの手によって殺されるのだと。



 しかし、それはなんて甘美な事なのだろう。



 馬鹿なほどにお人よしで、底無しの優しさを持つ……自分を守ってくれると言ってくれた男に、死を見取って貰えると言うのならば、



 人外の――『悪』である自分には、なんて過ぎた幸福なのだろう。



 最悪、男も一緒に殺されるかもしれない。だが、この男と一緒に死ねると言うのならば……



 『悪』である自分には、信じられないほどの至福。



 そこまで考えが進んだ時。少女は頭を振り、死ぬのは『悪』で在る自分だけでいいと想い直した直後――



 男が吼えた。



 「ふざけるな……」と、「俺は……認めん」と、「1を切り捨て、10を救うのが正義だと? そんなモノは断じて認めん!!」と――



 その声に秘められた凄まじい怒気に、少女が男を見上げた瞬間。



 一陣の突風と共に、「変身」と男の声が辺りに響き、眩い光が辺りを埋め尽くす。



 光が薄れた後、そこには……少女の知る男の姿は無かった。



 自然と少女は後ず去り、『正義』の魔法使い達も、突如現れた異形に恐怖し竦んでいた。



 男の立っていた場所に佇む異形。



 その場に居た、全ての者達が本能で理解した。



 アレは、この世界にあってはならないもの……存在してはいけないものだと。



 その姿はあらゆる種族から掛け離れ、異形から感じられる力は、少なくとも侯爵クラスの悪魔に匹敵する。



 純白の雪を連想させる白銀の拳・緑色の仮面の様な顔……そして、血の様に赤いマフラー。



 異形は何時でも戦える様に構え、『正義』の魔法使い達に「戦いたくは無い。引いてくれ」と一言だけ口にする。



 異形から発せられた声に、少女は驚愕した。



 辛い時・悲しい時に優しく包み込んで、嬉しい時・楽しい時に喜びを分かち合ってくれる男の声。



 トスン と少女が地面に座り込む。



 信じられなかった。あの魔力を全く感じさせない男がおぞましい異形だなんて、信じたくは無かった。



 そして、『正義』の魔法使い達が、動揺を隠せないまま異形に戦いを挑む。



 それはなんて滑稽で、なんと無謀な事なのだろう。



 20人近くはいただろう『正義』の魔法使い達は、一人残らず異形の前に倒れた。



 生きてはいる。しかし、戦闘は不可能。目立った傷は無く、全て当身だけの攻撃。



 一体どれ程の力の差があれば、そんな事が可能だというのだろうか?



 異形がいつもの男の姿に戻ると、いまだ座り込んでいる少女に近寄る。



 ゆっくりと近付いてくる男に、少女はきつく目を瞑り短い悲鳴を上げてしまう。



「大丈夫か?」



 その声に、少女は目を開き男の顔を見る。



 寂しげな……悲しげな笑み。



 少女は、自分のした事の意味をすぐに理解し後悔する。





   守ってくれたのに……





 だから少女は――近くにあった石を、男に投げつけた。



「そんな力があるなら、さっさと戦え!!」



 その言葉の裏には、ありったけの感謝の言葉。





   ありがとう。守ってくれてありがとう。



   どんな姿になろうと、お前はお前だから……そんな顔をするな。



   お願いだから、私の傍から居なくならないで!





 ありったけの思いを込めて、石を投げる。男を罵倒する。



「むぅ……」



 男は投げつけられる石をそのままに、顎に手を当てる。



「聞いてるのか人の話を!? たまには、むぅ。ふむ。ああ。じゃなくて、気の利いた事を言えんのか!?」



 ややあって、男は大きく頷く。



「怖かったんだな?」



「ばっ、馬鹿を言うな!! 私は吸血鬼なんだぞ! 真祖なんだぞ! 人間如きを恐れるものかぁぁぁぁ!!」



 その少女の反応に、男は図星なんだなと苦笑しながら少女の頭を撫でる。



「そうだったな」



 頭を撫でる手は、いつもの、温かくて優しい手。



 まるで、ずっと傍に居るよ。居なくなったりしないよ。と言われているようで――



「私を子供扱いするなと、何時も言ってるだろうがぁぁぁぁ!!!」





 それは記憶。

 少女が人外となり、まだまだ無名の吸血鬼だった頃の――

 とてもとても悲しくて、辛い別れ。





 男はまさに『正義』だった。



 困っている人を見れば、その人の力となり。



 理不尽に苦しめられている人がいれば、颯爽と現れ、原因を解決し、苦しめられている人を救い出す。



 そこに、人・人外の垣根は無かった。



 だからなのだろう。少女と男の噂は、瞬く間に広がっていった。



 曰く、少女を連れた正義の戦士。 曰く、正義の味方。



 少女はその事が堪らなく嬉しかった。



 吸血鬼の事と異形の事が、ばれていないおかげもあるだろう。



 それでも、自分達を……男を必要としてくれる者達が居る事が、まるで世界に必要だと言われている様で、たまらなく嬉しかった。



 だが、その幸せは余りにも短いモノでしかなかった。



 とある小さな村で起きた悲劇。



 何故ソレが現れたのか、誰にも分からなかった。



 ただ分かっている事は――



 たまたま立ち寄った小さな村に、魔王と呼ぶに相応しい存在が悪魔の軍勢を率いて、村を蹂躙していると言う事だけ。



 男はまさに『正義』そのものだった。



 だから男は、何の躊躇も無く異形の戦士へと姿を変え、魔王と悪魔の軍勢に……絶望的な戦いを挑む。



 多対一。しかも、複数を守り庇いながらの戦い。



 それは、あまりにも、絶望的な戦いだった。



 少しでも男が戦い易い様にと、少女は自分の無力さを噛み締めながら、恐怖で竦み怯えている村人達を叱咤し怒鳴りつけながら非難させていた。



 そこに悲劇が襲う。



 村人達を非難させていた少女の脇腹を、男から逃げて来た悪魔の腕が貫通したのだ。



 全身を襲う激痛を――自分は吸血鬼。何よりも今宵は満月。この程度では死にはしない。と必死で押さえ込み、魔法を唱え撃退する。



「もう、大丈夫だ。早く逃げるぞ」



 そう言いながら振り向いた先には、恐怖に満ちた村人達の怯えた目……



「吸血鬼?」



 その言葉にハッとし、少女が口から伸びている牙を隠す。



 傷付き腹部から血を流す少女に、向けられた目はゆっくりと憎悪に染まる。



 一人の村人が叫んだ。「お前達が、アレを呼んだのか?」と、



 その憎悪は、恐怖と絶望で思考が停止している村人達に次々と感染してゆき、村人達が口々に叫ぶ。



「平和な村を返せ!」



「何で! 何で、こんな酷い事を!?」



 血が流れている腹部を押さえ、必死に否定している少女の言葉すら耳に届かないのか、村人達は口々に罵倒し、泣き叫びながら必死に否定する少女に石を投げ始める。



「やめろ! やめるんだ!」



 そこに現れたのは、魔王達との戦いを終えた異形の戦士。



 その姿は、無事な所を探すのが難しい程に傷付いていた。



「何故だ! なぜ! こんな事を」



 異形の戦士の悲痛の声に、村人の一人が言葉の代わりに異形の戦士に向かって石を投げ付ける。



「お前らのせいだ! お前らが村を滅茶苦茶にしたんだ」



 傷ついた少女を庇い優しく抱きしめると、異形は弁解をする。



 しかし、冷静な思考を失っている村人達には、異形の言葉は届かない。



 腕に抱く少女の涙を見た異形は、その場から逃げ出した。



 誤解を解くよりも、少女にこれ以上の涙を流して欲しくないと。



 魔王の軍勢に襲われた村から遠ざかると、異形は男へと姿を変えるとそのまま地に膝を付く。



 傷だらけの姿に慌てた少女は、一生懸命に治癒魔法を唱えるが、傷の表面が癒えるだけで完治には程遠い。



 自分に「死ぬな」と「一人にするな」と泣き付く少女の頭を優しく撫でると、男は今まで頑なに話そうとしなかった過去を……自分の全てを話した。



 犯罪組織に攫われ、脳以外の全てを弄られた事を。助けた人に「化け物」と呼ばれた事、それでも、自分を受け入れてくれた人達の事を。



「俺は……この程度では死にはしない。そして、みんな。必ず分ってくれる」



 全てを話し終えた男は、温かくて優しい……あらゆるものを受け入れて包み込む男臭い笑みを浮かべた。



 悲劇は加速度的に増大する。



 男は戦う。悪魔と言う名の理不尽から、誰かを守り救う為に異形へと姿を変え、



 その身が魂がどれほど傷付こうとも、助けた人々から『悪』と罵られ様とも、男は戦い続ける。



 戦う度に傷付く男の体は、決して癒える事は無かった。



 何故なら、男の体の殆どが『機械』で出来ていた。



 少女の時代より遥かに進んだ『科学』によって作られていたから。



 故に、男は戦う度に朽ち果てていく。



 少女に男を止める事は出来なかった。



 何故なら、少女が一番よく知っていたからだ、男が『正義』だと言う事を――



 だから少女は努力した。



 『正義』の隣に立てるように――



 一人で傷付きながら戦い続ける『正義の味方』のパートーナーになるために。





 男は戦う。 自らを省みずに、少女を守りながら『全て』を救い守らんと戦い続ける。



 少女は努力する。 男の横に立つために、必死で努力する。





 だからこそ、それは必然の別れ。



 何百・何千回の戦いの果てに……



 後世で、二人が『お伽話』として伝えられている伝説の闘いの中で、ついに男は膝を付く……



 右腕を失い左脇腹を抉られ、血を流し続け地面に膝を付く男――異形の後ろには、傷付き倒れ戦う事の出来ない少女。



 それは、少女の慢心。



 幾千の戦いの中で、男の隣に立てる……一緒に戦えると慢心し、男の制止を聞かずに「背中ぐらい預けろ」と無理やり一緒に戦った。



 その結果――



 幾千の戦いの中で守られていると気付けなかった少女は、理不尽の前に倒れ。



 異形は少女を守る為に右腕を失い、左脇腹を抉られた。



 少女の薄れ閉じいく視界に、少女が唯一認めた『正義』が放った飛び蹴りが、理不尽――『悪』を穿ち貫く光景が映っていた。





 意識を取り戻した少女の目に、右腕を失い腹部を押さえ、弱々しく微笑んでいる男が飛び込んでくる。



「大丈夫か? エヴァンジェリン」



 応急処置をしても血が止まらないのか、血を滲ませている男の姿は、ただ痛々しかった。



「私の事はどうだって良い!! お前の方が大変な事になってるだろうが!!」



 いきなり怒鳴られた男は、「それだけ元気があれば、大丈夫だな」と苦笑する。



 右腕を失い血を滲ませながら苦笑する男を見て、意を決した少女は自分の唇を男の唇に重ねる。



 二人を優しい光が包み込み、ゆっくりと光が霧散していく。



「なっ!?」



 驚く男を余所に、少女は珍しいものが見れたと満足げに微笑む。



「ご苦労だったな、本郷」



 少女は決して、笑みを崩さない。



「お前の役目は終わった。居るべき世界、有るべき世界に帰れ」



 笑みを崩さない少女の言葉と同時に、男を中心に魔方陣が突如として現れ、徐々に男が薄れていく。



「これは……何故だ!?」



 少女が本気だという事が分かったのだろう。



 男が少女の顔を、悲しそうな――真剣な目で見つめる。



「其れ程まで傷ついたお前では、私を守る事は出来ん。ただ……それだけだ」



 男が消えた後、少女は近くに落ちていたカードを丁寧に拾い上げる。



「どうせなら、こんな急ごしらえの契約ではなく……ちゃんとした契約がしたかったな」



 拾い上げたカードを、少女は大切な宝物を扱うように優しく胸に抱きしめて、必死で堪えていた涙を静かに流した。



 少女は知っていた。



 この世界では男が助からない事を、しかし、男が居た世界ならば、男の傷は完治し助かる可能性が有る事を……男の昔話から、導き出していたのだ。



 そして、男を召喚できたのは、召喚魔法の失敗――偶然の産物であり、



 二度と会う事ができない事を、少女は理解していた。





 少女の胸に抱かれているカードには、歪な形をした鉄の馬に騎乗した異形の戦士が描かれ、



 『正義の疾風』と書かれていた。





 それからしばらくして、少女は『悪』の魔法使いになった。



 少女が認めた唯一の『正義』を汚す『正義』を駆逐し……



 少女なりに、男の背中を追い続けたが故に……



 そして、少女は『忘却』していく。決して自分が『正義』になれない事を知り。



 また、深い悲しみを癒す為に――

悪の魔法使い
悪の魔法使い 第一話

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