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悪の魔法使い 第二話(×仮面ライダー) 投稿者:味噌醤油味 投稿日:04/08-05:44 No.105


悪の魔法使い 第二話(×仮面ライダー) 投稿者:味噌醤油味 投稿日:04/08-05:44 No.105
 雲一つ無い、星々が輝く満天の夜空。

 淡い光――月光をその身で受け止め、緑色のマフラーを風に靡かせているJUDOが、上空から眼下に居るネギ達を悠然と見下ろしている。

 夜空に浮くJUDOは、ネギ達から視線を外し、遥か上空に浮かぶ満月を見上げた。



【世界が変わろうとも、その美しさは変わらぬな】



 煌く星空と優しく何処か寂しげな光を放つ満月。そして、月光に照らし出される世界。

 虚空の牢獄から未だ完全な開放がされていないとは言え、久しぶりに肉眼で見る世界にJUDOは見入っていた。

 暫くの間、月光に照らされたJUDOが再びネギ達に視線を下ろすと、余裕を見せ付けるかの様に悠然と木造の祭壇に降り立つ。



【ふむ、悪くはないか】



 自分の右手を開き握り締める動作を見つめ、JUDOは満足気に軽く頷いた。

 只それだけの動作。それなのにカモと千草の全身から大量の汗が流れ始め、ネギは口の中に溜まった唾を飲み込みながら、今すぐに砕けてしまいそうな心を必死で繋ぎ止める。



(怖い……でもっ!)



 自分達の方を全く見ようとしないJUDOを目掛けて、覚悟を決めたネギが疾走する。



「ラス・テル マ・スキル マギステル」



 呪文を詠唱しながらJUDOに突撃するネギに、千草が驚きと共に息を飲み込み、カモの全身から血の気が引いていく。



「兄貴! ソイツは無謀すぎるぜ!」



 カモがその小さい体からは想像も出来ない大声で叫ぶが、ネギの疾走は止まるどころか徐々に速度を上げゆく。



「風精召喚 剣を取る戦友!」



 練り編まれた魔法が淡く力強い光となって発現し、真直ぐにJUDOを見据えるネギの右指先に集中する。



「迎え撃て!!」



 その言葉と共に、ネギを模った8人の風の精霊達が剣や槍などの一人一人違う武器で武装し、JUDOを囲う様に襲い掛かる。



【我に戦いを挑むか、愚かな】



 降り立った所から全く動いていないJUDOが無防備な状態で佇んだまま、襲い掛かる風の精霊達に視線を走らせ、フッと一笑し、ネギを視界に収めた。

 JUDOの視界から外れた風の精霊達は、その攻撃をJUDOに当てる直前で全てが掻き消えてしまう。

 風の精霊達を倒した一撃は――いや、それは決して攻撃ではない。

 何故なら、JUDOは右腕を軽く一振りしただけなのだから。

 だが、JUDOが右腕を振り切った瞬間。ネギの周りに無数の淡い光を放つ光球が現れ、



「魔法の射手 連弾・光の30矢!」



 ネギの言葉に従い、淡い光を放つ光球がJUDOを射殺さんと一斉に動き出す。

 その光の雨は、右腕を振り切った状態のJUDOに容赦なく降り注ぐ。

 "魔法の射手"を唱え終わったネギは距離を急速に詰めながら、新たな詠唱を終え――



「魔法の射手 戒めの風矢!!」



 光の矢によって舞い上がった煙に紛れ、圧縮された17個の風の塊が、弓から撃ち放たれた矢の様にJUDOに飛来する。



「ラス・テル マ・スキル マギステル」



 その光景を見たネギがすぐに魔法を紡ぎ始め、JUDOを中心に舞い上がる煙の中に突入していく。

 光の矢によって舞い上がった煙が晴れると、そこにはアレほどの攻撃を受けながらも、無傷で風の枷に束縛されながらネギを見下ろしているJUDOと、後少しでJUDOに触れられる距離まで肉薄し、左手を突き出しているネギの姿。



「雷の暴風!!」



 巨大な雷がJUDOの腹部を穿ち貫き、荒れ狂う旋風がJUDOの全身を切り刻んでいく。



 全てはこの為の布石。

 "風精召喚"でその場に釘付けにし、"魔法の矢"で視界を完全に奪い去ると同時に自由を奪い、一撃必殺の"雷の暴風"を近距離で確実に当てる。

 JUDOを倒す為に、ネギが考えた必死の策。



 雷がその姿を消し旋風が治まった後には、左手を突き出しているネギの姿しかなかった。

 ネギの一連の攻撃に、千草が「とんでもない坊ややわぁ」と呟くと、カモが「すげーぜ! 兄貴!! あんな化け物を仕留めちまうなんてよぉ~!!」とネギの事を褒めちぎる。

 二人の言葉を聞いたネギが、さっきまでの険しい顔が嘘の様に年齢相応のあどけない笑みを浮かべると、カモと千草の方に駆け寄っていく。



「もし、"雷の暴風"が効かなかったらどうしようかと思ってたんだけど……」



 慣れない魔法の連続行使か、それとも、JUDOを倒した嬉しさの余りに全力疾走したせいか、ネギの呼吸が荒いものとなり肩で息をしていた。



「何言ってるんだよ、あの距離での直撃だぜ? 効くに決まってんじゃねぇか」



 JUDOを倒せたのが余程嬉しいのか、座ったままネギの顔を見上げている千草の横で、カモが全身で喜びを表しながらはしゃぎ続ける。



【その幼き身で、稚拙ながらも戦いを組み立てて見せるとはな】



 今、一番聞きたくなかった声がネギ達の頭に鳴り響く。



「や、ややわぁ~ そんなタチの悪い冗談は笑えませんえ?」



「そ、そうだぜ兄貴。タチが悪すぎるぜ」



 頭に鳴り響いた声をネギのモノだと決め付けた二人に、ネギは慌てて片手を振って否定する。



「僕じゃないですよ! あっ、分かった。あの白髪の人! あの人ですよ。絶対に」



 現実を全く見ようとしない二人と一匹が、学生服を着ている白髪の少年――フェイト・アーウェルンクスに視線を向けるが……



「こんな状態で、そんな事をすると思うかい?」



 ネギが作り出した風の束縛を抜け出せずにいるフェイトは、二人と一匹の視線を冷たく凍える視線で叩き返し、ワザとらしく深い溜息を付く。



「馬鹿な事を言ってないで、準備したらどうだい?」



 その言葉と共に漸く束縛から抜け出したフェイトが、何も無い場所を睨み付ける。

 フェイトの視線の先を追ったネギ達は、その異様な光景に静かに息を呑む。



 ネギ達とフェイトの視線が交差する場所――



 何も無い空間の景色が、グニャリと歪む。



 ソレはゆっくりと徐々に、姿を現し始めた。



 始めは、人の輪郭だけが見え……



 次に、大雑把に外見が……



 ソレはゆっくりと徐々に、歪んだ空間から滲み出る。



 はっきりと姿を現した存在に、ネギとカモが言葉を失い……千草は驚きと恐怖を顔に浮かべながらも、ソレを憎悪の篭った瞳で睨み付けた。

 雷に貫かれ旋風にその体を切り刻まれたはず――

 だが、姿を現したJUDOの体は傷一つ付いてはいない。



【しかし、先程の目……気にいらぬな】



 その言葉が終わる前に、JUDOに殴られたネギは、軽く2・3m程吹き飛びその場に倒れる。



「なんで? "雷の暴風"が直撃したはずなのに……」



 ネギは何とか上半身を起こし、JUDOを信じられないモノを見る目で見ながら、唖然とそう呟く。

 口内を切ったのか、その小さい口から血が流れている。しかし、ソレに構わずにネギがJUDOを睨み付けた。

 だが、ネギに出来たのは其処までだった。

 ネギは立ち上がれない。

 JUDOの一撃で、体がネギの意思を受け付けないのだ。



【そう――その目だ。我が悲願を悉く邪魔をした……】



 頭に鳴り響くその言葉は、静かな怒りを感じさせる。



【あの忌々しい出来損ないどもを思い出させる――目】



 JUDOが握り締めた右拳を微かに震わせながら、ネギに近付いていく。



(マズイ マズイ マズイ マズイ! このままじゃ、兄貴が殺されちまうぅ~!!)



 その光景に、ネギの死をはっきりと確信させられたカモが、全身から滝の様な汗を流し、目の前の怪物の対処法を弾き出そうとしていた。



【不愉快だ。あの、下衆どもと同じ目をした者が――我の前に存在するなどと】



 JUDOが倒れているネギの頭をゆっくりと踏み付け、踏み付けている左足に力を少しずつ加えていく。

 自分を踏みつける理不尽の塊を睨み付けながら、ネギは悔しさの余り、ギリッと歯を軋ませた。



「障壁突破 石の槍」



 突然響いた静かな声に、JUDOに踏み付けられているネギが、ネギの窮地を何とかしようとしているカモが、その声に振り返った千草が、唖然とフェイトを見つめる。



【……。何がしたかったのだ?】



 ツララを思わせる石の槍が体に直撃し粉々に砕け散り、ネギを踏み付けているJUDOの凍て付き凍える碧眼にフェイトが映り込む。



「君を倒したかったのさ」



 フェイトの明らかな挑発に、JUDOが【面白い冗談だ】と呟き左足をネギの頭から外す。

 向かい合ったJUDOの放つ、淡い殺意を含んだ視線を受け止め、フェイトが微笑した。



「冗談でもないさ。彼女との契約内容に"護衛"の項目があってね」



 とても静かな、深い怒りを含んだ言葉を紡ぎ、



「僕はプロだ。なら――契約を違える事は決して、許されない」



 そう言い放ったフェイトの周りに、複数の小さく透明な塊が浮かび上がった。

 それは可能な限り圧縮された湖の水。

 ゆっくりと持ち上げた右手をJUDOに向けて、フェイトが叫ぶ。



「魔法の射手 連弾! 水の20矢!!」



 感情を顕にしたフェイトの怒声に従い、圧縮された水の塊が薄く細い棒状に形を変えJUDOに襲い掛かる。



【下らぬ】



 自分の体に衝突し四散する水に視界を奪われたJUDOは、接近するフェイトの存在を感知していた。

 侮蔑と共に一笑したJUDOが左手を真直ぐに伸ばし抜き手を構え、すぐ近くに迫ったフェイトの胸を貫く。



「何が、下らないんだい?」



 四散した水が露と消え、視界を取り戻したJUDOは聞こえる筈の無い声に微かな驚きを覚えた。

 なぜなら、その声の主は――

 今。自分が殺したはずのフェイトだったのだから……

 祭壇の床に飛び散った水を扉にしたフェイトが、倒れているネギの肩を片腕に抱きJUDOに不敵な笑みを向けていた。



「水妖陣」



 JUDOを取り囲むように点在している水溜り一つ一つが、茨の蔦の様な形を取ると、一斉にJUDOの体に巻き動きを封じる。



【視界を奪い、虚像で目を眩ませたか】



 貴公子クラスの悪魔でさえその動きを封じられる水の拘束が、JUDOには通じないと感じたフェイトが短く舌打ちすると、ネギを連れてJUDOから大きく距離を取った。

 事実、フェイトとネギを見逃したJUDOは、いとも容易く自分の体に纏わり付く水の蔦を身動ぎもせずに四散させる。



【猿真似は上手いようだな】



 自分がネギにした事を真似たフェイトに、JUDOが瞬時に接近する。



「っ!!」



 視界から消えたJUDOがすぐ目の前に現れた事に驚いたフェイトが、ネギを突き放すと同時に反対側に飛び退く。

 一瞬に満たない刹那の判断と行動。だが、それでも……



【遅いな】



 フェイトの目にJUDOの姿が映り込み、死を連想させる白い拳がフェイト目掛けて打ち下ろされ始めていた。



「風花 風障壁!!」



 その光景を目撃したネギが、10tトラックの衝撃すら受けきる風の障壁をフェイトとJUDOの間に展開させる。

 しかし、その障壁を存在しないモノと言わんばかりに、JUDOの白い拳はあっさりと障壁を打ち抜いて、フェイトの腹部を強打した。



「がっ……」



 上半身と下半身が千切れるかと思う程の衝撃に、フェイトは体をくの字に折り曲げて両手を床に着かせ、胃袋の中に入っていたものを全て吐き出してしまう。

 自分で吐き出した汚物にそのまま顔を埋めたフェイトを一瞥したJUDOの姿が、ネギ達の目から消える。



【力の差が分からぬ訳でもあるまい?】



 その言葉が頭の中に鳴り響くと同時に、ネギはJUDOに首を強く握り締められた。



【何故】



 ゆっくりとネギが持ち上げられていく。



【諦めぬ】



 片手で首を絞められ吊り下げられたネギは、それでも、JUDOを睨むのを止めない。



「誰が……お前なんかの言う事を聞くもんかっ」



 僅かな希望すら見出せない絶望の中で、ネギの心は未だ折れずにいた。

悪の魔法使い 悪の魔法使い 第三話

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