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プロローグ2:麻帆良2003 投稿者:物書き未満 投稿日:04/08-05:35 No.93

未だ風の肌寒い、三月上旬の昼下がり。

緩やかに流れる白雲の下を、ネギ・スプリングフィールドは独り歩いていた。

緑色のコートを羽織り、生活道具一式を詰め込んだ重い荷物を背負ったネギの向かう先は、駅。



ネギはその身の内に一つだけ、人には言えない大きな秘密を孕んでいた。

それはこの幼い少年が、所謂「魔法使い」と呼ばれる存在であるという事。

ウェールズの魔法学校を卒業したネギは、一人前の魔法使いになるべく、この極東の島国へと赴いた。

修行として提示された「日本で先生をやる」という課題を完遂すべくネギは弱冠10歳の身で、英語教師として彼なりに努力してきた。

総ては、「立派な魔法使い(マギステル・マギ)」になる為に。



だが、それももう終わりを迎えた。

正教員になる為の最終課題に、失敗してしまったから。





鋼の錬金先生

 プロローグ2:麻帆良2003





「子供一枚、新宿まで。」



窓口で切符を購入し、ネギは改札口へと歩き出した。



「立派な魔法使い(マギステル・マギ)」になるという夢は潰えたが、ネギの心に陰は差していない。

期末試験で最下位を脱出出来なかったとはいえ、ネギの受け持っていた2ーAの生徒達は頑張ってくれた。

その事実が、ネギには嬉しかった。



自動改札機を潜り、ネギがホームに足を踏み入れたその時、



「ネギ!!」



一人の少女の叫びが、ネギを呼び止めた。



「アスナさん……。」



息を切らせ佇むツインテールの少女を振り返り、ネギは自然と少女の名を口にしていた。

神楽坂明日菜、ネギの『秘密』を唯一知る者。



「ご、ゴメン! 本当にゴメン!! 私達のせいで最終課題に落ちちゃって……! 魔法の本を捨てたのも私だし……!!」



謝罪の言葉を繰り返す明日菜に首を振り、ネギは静かに口を開いた。



「いえ、そんな事無いです。誰のせいでもないですよ。」



何処か達観したようなネギの言葉に、明日菜は言葉を詰まらせる。



「喩え魔法の本の力で受かっても、結局それじゃあ意味は無かったんです。そんな簡単な事にも気付けなかった僕はやっぱり未熟ですし、今回の結果も僕の力不足が招いたんです。」



一瞬淋しそうに眼を伏せ、ネギは「でも」と言葉を続ける。



「クラスの皆さん、特に5人組の皆には感謝しています。短い間だったけど、凄く楽しかったです。」



ネギは一度頭を下げ、何かを吹っ切るように明日菜に背を向けた。

その背中の小ささに、明日菜は思わず息を呑む。

理解出来なかった。

愚直な程一途に追って来た夢を、ネギは何故こんなにも簡単に諦めてしまえるのかを。



「……さよならっ!」



泣き声にも似たネギの別れの言葉に、明日菜の中で何かが切れた。

自動改札機を乗り越え、走るネギを後ろから羽交い締めにする。



「馬鹿っ!!」



明日菜の怒号にネギの身体が一瞬震える。



「……最初はガキで馬鹿な事ばかりするから怒ったけど、私なんかよりちゃんとした目的持って頑張ってるあんたの事、感心してたんだよ?」



「え……?」



明日菜の言葉に、ネギは思わず振り向いた。

嫌われていると、そう思っていたから。



その時、



「ネギ坊主ーッ!」

「待ってー! ネギ君ー!!」



ネギの名を呼ぶ声と共に、数人の少女がホームへと駆け込んで来た。



「ネギ君、もう一度おじいちゃんに頼みに行こ。な?」

「そうだよ! ネギ君こんな子供なのに厳しすぎるよ!!」

「も一度テストやらせて貰うアル!」



口々にネギを諭す少女達は、ネギの担当していた2ーAの生徒達。



「皆さん……。」



ネギを引き留めようとする生徒達の心遣いに、ネギの目尻が薄らと潤む。



その時、



「フォッフォッフォ、呼んだかのぉ?」



嗄れた笑い声が、突如ネギ達のすぐ側から響いた。

何時の間にかネギ達の傍で、白い作務衣姿の老人が飄々と笑っている。

白く豊かな髭を蓄え禿頭の先端から白く長い髪を髷のように垂らした翁は、この麻帆良の地を統べる学園長、近衛近右衛門翁。



「いやー済まんかったのぉ、ネギ君。実は遅刻組の採点を儂がやっとっての、うっかり2ーA全体と合計するのを忘れとったんじゃよ。」



禿頭を掻きながら謝罪する近衛翁の言葉に空気が凍り、



「「「「「「「「「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」」」」」



次の瞬間ネギ達の驚愕の叫びが地を揺るがした。



期末考査に遅刻した者の数は8。その総てを合計すれば、もしかしたら最下位を脱出出来るかもしれない。



「では此所で発表しちゃおうかの。」



懐から紙の束を取り出す近衛翁を緊張の面持ちで見つめ、少女達は固唾を呑み込んだ。

心臓は早鐘のように鳴り響き、握られた掌には冷たい汗が浮かぶ。



近衛翁は大仰に咳払いし、ゆっくりと口を開いた。



「まずは……、」





数分後、駅のホームは少女達の歓声と野次馬共の拍手に埋め尽くされていた。

遅刻組の成績は皆平均6割をゆうに越えており、2ーAは最下位を見事脱出した。

それどころか、学級全体の平均点は8割超という華々しい成績を収め、学年順位1位の栄冠に輝いていた。



「最終課題では子供のネギ君が今後も先生としてやっていけるかを見たかったのじゃ。最下位脱出どころか2ーAを学年1位にまでしてしまうとは、いやはや全くオドロキじゃわい。」



呆然とするネギを現実に引き戻すように、近衛翁はネギの肩を叩いた。



「合格じゃよ、ネギ君。これからは更に精進じゃな。」



近衛翁の言葉にネギの脳神経は漸くこの「奇跡」を把握し始め、瞳は段々と焦点を取り戻していく。

明日菜は快活は笑みを浮かべ、ネギの頭をくしゃりと撫でた。



「取り敢えず、新学期からも宜しくね。」



「は、はいっ!」



照れの混じる明日菜の言葉に、ネギは大きく頷いた。



「良かったねー、ネギ君!」

「おめでとうでござる。」

「四月からも宜しくねー!」



生徒達がネギと明日菜を取り囲み、八方から祝福の言葉を浴びせる。



「それー! 胴上げアルよー!!」



中国服を纏った褐色の肌の少女、古菲の号令の下に、少女達は一斉にネギと明日菜を抱え上げた。



「わわっ!?」

「ちょっ、ちょっとあんた達!!」



狼狽えるような声を上げるネギと明日菜に構わず、少女達は笑いながら調子を合わせる。



「「「「「「「せーの!!」」」」」」」





「……さて。」



胴上げされるネギと明日菜を横目で見遣り、近衛翁は顎髭を弄った。

最終課題に合格したネギは晴れて麻帆良学園中等部教諭に就任した訳ではあるが、問題が全く無いという訳ではない。

ネギの担任している2ーAは今のところ問題らしい問題は起きていない。だが様々な懸念事項が複雑に絡み合い、微妙な均衡を保っているのが現状である。

喩え優秀であったとしても若干10歳の少年独りに総てを任せるというのは、些か酷が過ぎているかもしれない。



(誰か、ネギ君の良い補佐となり得る人材はおらんもんかのぉ。)



思案する近衛翁の脳裏に、銜え煙草を吹かす一人の男の姿が浮かび上がる。



(タカミチは、……駄目じゃな。確かに教師としても魔法使いとしても優秀じゃが、如何せん有能過ぎる。)



高畑・T・タカミチ、2-Aの前担任。

麻帆良学園屈指の実力者であり、また教師として生徒達からの信頼も厚い。

だが優秀であるという事は、裏を返せばそれだけ周囲に依存され易いという事でもある。

高畑に任せてしまった場合、その秀逸さ故に逆にネギの成長を阻害してしまう可能性が強い。



それに何より、高畑はネギの「父親」に並々ならぬ思い入れがある。



(……侭ならぬものじゃの。)



顎髭を弄る内心で嘆息する近衛翁の視界の端で、気が付けば列車がホームに停車していた。

ネギが乗るつもりであった、しかし今はその必要性の無くなった列車。

ホームに降り立つ乗客で賑わう中、列車の前で何やら言い合っている若者達の姿がある。

その内の一人、金髪中背の青年が近衛翁の眼に留まった。



「……むお?」



近衛翁は思わず間の抜けた声を上げた。

ネギと2ーAを任せるに足る人材が、今正に目に映っていたから。





   □■□■□





列車が駅に到着し、乗客達は扉が開くと同時にホームの床を踏み締めていく。

ある者は出張先からの帰還、またある者は逆に赴任先への参上、或いは乗り換えの為の小休止。

様々な目的で麻帆良中央駅に降り立った乗客達の中に、一際目立つ集団が存在した。



「やーっと、とうちゃーく!」



大きく膨らんだスポーツバッグを床に置き、赤い髪の女性が大きく背伸びをした。

開放感に満ちた女性の声に、隣の頭陀袋を担いだ長身の青年がほけほけと笑う。



年の頃は共に20歳前後。

赤髪の女性の顔立ちは独逸系、対する長身の青年の顔立ちは中国系。

海外からの留学生か何かである事は一目瞭然であった。



「まぁ、中々に有意義な学会旅行ではあったナ。」

「そだね。」



青年の言葉に首肯を返し、女性は背後に拡がる列車内を振り返った。



「エドもそう思うでしょ?」



投げかけられた女性の問いに応えるように、更に赤い外套の青年が姿を現わした。

後頭部で高く一つに纏められた髪は金、長い前髪の間から覘く瞳も金。

旅慣れしているのか手荷物は大きめのスーツケース一つと、三人の中では一番少ない。



「……なーにが「有意義な学会旅行」だ。二人揃って好き勝手連れ回しやがって。」



目の前の二人を半眼で睨みながら、金髪の青年は疲れたように言葉を紡いだ。



「ちょっと位良いじゃない、息抜きだって思えば。」

「目を離すとすぐに根を詰めまくる誰かへの、友達なりの気遣いだ。感謝される事はあっても恨まれるような謂れは無いナ。」



親切を騙るような二人の物言いに、青年は俯き肩を震わせた。その額には薄らと青筋が浮かんでいる。



「……お前等。散々人からタカっておいて、言う事がそれかーっ!?」



人指し指をビシリと突き出し、青年は怒り心頭と言った風体で高らかに吼え猛った。

怒髪天を衝く、とは正にこの事である。



「少し位良いじゃんカ、友達なんだし。」

「俺にハイエナの友達はいない!」



「ちょっと奢って貰っただけじゃない。小さい事でグダグダ言わない!」

「居直るな! ていうか小さい言うなぁっ!!」



二人の言葉に刺々しく反応している青年だが、端から見れば良いように遊ばれているようにしか見えない。

一見すれば何所ででも見られそうな、若者達の他愛の無い戯れ。

だが何処か、その何気ない風景の何処かには、不協和音にも似た歪さが存在していた。



漸く頭が冷えてきたのか、青年は荒く深呼吸して口を閉ざした。

しかしその金の双眸が獰猛な色彩を失っていない辺りを見れば、未だ怒りを完全には収め切れていないらしい。



「……まぁ、これは後でゆっくりと言及する事にするからお前等覚悟しておけ。」



あからさまに目を逸らす二人の姿に青年は大仰に嘆息し、ゆっくりとホームを歩き始めた。



自動改札機の手前で、中学生らしき少女達が何やら騒いでいる。

赤い髪の少年とツインテールの少女を胴上げしている少女達の傍に、青年は見知った人影を認めた。

白い作務衣を纏い、白く豊かな髭を蓄え禿頭の先端から白く長い髪を髷のように垂らした老人。



老人に小さく会釈し、青年は少女達の隣を通り過ぎた。

赤い髪の少年と一瞬目が合うが、気に留め事も無く歩き去っていく。



「あぁぁぁあのエドが他人に頭を下げたぁぁぁっ!?」

「明日は雪カ!? 台風カ!? 何か歴史が動く前触れカ!?」

「ちょっと待て! お前等俺の事を何だと思ってやがる!!」



失礼と言えば失礼極まりない二人の物言いに怒号を返しながら、金の眼の青年は自動改札機の向こうへと消えていく。





 

鋼の錬金先生 第1話:野良猫

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