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第1話:野良猫 投稿者:物書き未満 投稿日:04/08-05:36 No.94

2003年3月下旬、麻帆良学園。

世界有数の巨大学園都市の最深部にある女子校エリア。その中等部校舎に、一人の青年が訪れていた。

年の頃は二十歳前後。長く延びた金の髪を後ろで高く一つに纏め、黒いジャケットの上から防寒用の赤い外套を羽織っている。



春休みだからか静まり返った校舎の中を、青年は慣れた足取りで進んでいく。

左右で異なる足音だけが、冷たい静寂の中に溶けていく。





鋼の錬金先生

 第1話:野良猫





青年が生徒用の下足棟に差し掛かったその時、突如下足棚の林の中から晴れ着姿の少女が飛び出してきた。

突然の事に青年は対処が遅れ、結果両者は激突する事となった。



「うぉっ」

「あぅっ」



青年を半ば押し倒すような形で倒れこんだ少女は、青年が自分の知人である事に気づいた。



「あや? エドさん?」



少女に自分の名を呼ばれ、青年も顔を上げる。



「ああ、…コノカか。お前、こんな所でそんな格好で何して……、」



その時、青年の言葉を遮るように下足棟の向こう側から誰かへの呼び声が響き渡った。



「木乃香さまぁぁぁぁぁ!?」

「どこですかぁぁぁぁっ!?」



声を聞き取り、青年は疲れたように言葉を続ける。



「……………何となく解った。」

「……理解が速くて助かるわぁ。」



二人が倒れこんだまま何かに共感し合うその時、下足棚の向こう側から小柄な影が駈けて来た。



「このかさぁん!大丈夫ですかぁ!?」



子供特有の高いその声に、木乃香と呼ばれた少女は顔を上げ後方を振り仰ぐ。



「あっ、ネギ君!うちは大丈夫やわぁ。」



木乃香の視線の向こうから、眼鏡を掛けた赤毛の少年、ネギが駆けて来るのが見えた。



「何で、子供が……。」



怪訝そうに眉を寄せる青年にネギはその翡翠色の双眸を向ける



「あの、大丈夫ですか?」



未だ床に尻餅をついている青年に、ネギは遠慮がちに右手を差し出した。



一瞬躊躇するように視線を泳がせ、青年はネギの右手を掴んだ。

硬い、鋼のような感触がネギの右手に広がる。



(……金属?)



右手の違和感にネギは訝かしむが、青年の両手は白い手袋に覆われて見えない。



「あの、貴方は?」



見慣れぬ人物に思わず問うネギに、青年ではなく木乃香が口を開く。



「この人はエドワードさん。じいちゃんの知り合いで、今ここの工学部に通ってるんよ。」



木乃香は青年、エドワードへと向き直る。



「エドさん、この子はネギ君。うちらの担任なんよ。」



木乃香の紹介にエドワードは一瞬瞠目したが、やがて得心したように目を僅かに細めた。

最近工学部でも囁かれている、「子供先生赴任」の噂。

「吸血鬼」や「図書館島の魔物」といった所謂都市伝説の類いであろうと高を括っていたが、どうやら噂は真実だったらしい。



「エドワード・エルリックだ、よろしく。」



「あ、はじめまして。ネギ・スプリングフィールドです。」



エドワードの挨拶にネギも慌てて返事を返し、ネギはエドワードの顔をまじまじと見上げた。

中性的で整った顔立ちに、透き通るような金色の双眸。

初対面の筈なのに、ネギはエドワードの顔に妙な既視感を感じて仕方なかった。



「……俺の顔に、何か付いてるか?」



怪訝そうな顔で問うエドワードに、ネギは気まずそうに視線を逸らした。



「いえ、そういう訳ではないんですけど……、」



歯切れ悪く言葉を濁し、ネギは何か言い訳でも考えるかのように視線を彷徨わせた。

一瞬視線を落として逡巡し、ネギは意を決するように再度エドワードを見上げ口を開いた。



「あの、いきなり不躾ですが、何所かでお会いした事はありませんか?」



控えめに問い掛けるネギに、エドワードの眉が僅かに震えた。

数秒にも満たない沈黙の後に、エドワードの口から紡がれたのは否定の言葉。



「……いや、憶えは無いな。」



小さく首を振り、エドワードは身を翻した。



「エドさん、どこ行くん?」



思わず問い掛ける木乃香を振り返る事無く、エドワードは首だけを傾け口を開いた。



「学園長に呼ばれてるんだ。」



簡潔に言い残し、エドワードはそのまま歩き始める。

赤い背中は次第に遠ざかり、残されたのはネギと木乃香のみ。



「………淡白な人なんですね。」



ポツリと呟かれたネギの言葉に、木乃香は思わず苦笑する。

その短い一言があまりにも、的を射ていたから。



「悪い人じゃ、ないんやけどなぁ……。」



性格が悪いと言う訳ではない。

ただあのエドワードという男は、周囲との間に壁のようなものを築き、他人と深く関わろうとしない。

他人を自分の内に踏み込ませず、また自身も他人の領域に踏み込まない。

その何処か野良猫にも似たエドワードの在り方を、悪いと一言に断ずる事は木乃香には出来ない。



だが、時々どうしようもなく思うのだ。



「何だか、淋しいなぁ……。」



「このかさん……。」



木乃香の小さな呟きは虚空に溶け、それでも隣の幼い教師には届いていた。





 

鋼の錬金先生 第2話:辞令

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