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第2話:辞令 投稿者:物書き未満 投稿日:04/08-05:36 No.95

帆良学園中等部校舎、学園長室前。

エドワードは目の前に立ち塞がる重厚な扉を右手で2、3度叩いた。

返答を待つ事数秒、扉の向こう側から「入って来なさい」と嗄れた、だが活力に満ちた声が響いた。

声に従いエドワードはドアノブを回し、ゆっくりと腕を押していく。

それなりに広い学園長室の最奥、大きな窓を背に一人の翁が座っている。



「待っとったぞ、エドワード君。」



右手の万年筆を机に置き、近衛翁はそう言ってエドワードへと視線を向けた。

近衛翁に軽く会釈し、エドワードは机の傍に置かれたソファに腰を下ろす。



「それで、今回はどういった用件で俺は呼ばれたんですか?」



組んだ足に片肘を乗せ、エドワードは不遜に切り出す。

お世辞にも愛想が良いとは到底言えない態度だが、近衛翁は気を悪くした風の無く軽く頷き口を開いた。



「うむ。前振りや腹の探り合いは時間の無駄じゃし正直面倒臭いんで用件だけ単刀直入に言うが……、」



勿体付けるように一旦口を閉ざし、近衛翁は傍に置かれた煙管に手を延ばした。

火を点ける事無く口に銜え、近衛翁は軽く左手の指を弾く。

パチンと乾いた音が虚空に響いたその刹那、煙管の火皿から突如として白煙が立ち上った。

ゆらゆらと白煙の棚引く中、時間だけがゆっくりと過ぎ去っていく。



近衛翁は煙管を口から離し、エドワードへと一瞥を向けた。

右手の煙管をひっくり返し、火皿の中身を卓上に置かれる灰皿へと落としながら、近衛翁は徐に口を開いた。



「エドワード君、お前さん見合いに興味はあるかの?」



何気なく、まるで夕食の献立でも告げるかのような近衛翁の言葉に、エドワードは清々しい笑みでこう応える。



「寝言は寝て言え。」





鋼の錬金先生

 第2話:辞令





「むぅ、相変わらず手厳しいのぉ。今のセメントな一言で儂の寿命、1年は縮んだぞい?」

「じゃあ後20年は余裕だな。」



頬を引き攣らせながらの近衛翁の言葉をあっさりと受け流し、エドワードは足を組み直した。



「……で、結局本題は?」



急かすエドワードの言葉からは、遂に敬語すらも消え失せている。

近衛翁は取り繕うように咳払いし、エドワードへと一瞥を投げかけ口を開いた。



「ネギ君について、君はどんな感想を持ったかの?」



近衛翁の唐突な問いに、エドワードは一瞬眉を寄せた。

ネギ、エドワードが先程偶然に出会った少年。



「10歳で一端の教育者ってのは、純粋に凄いと思ったな。」

「まだまだ半人前じゃがの。」



相槌を聞き流しながら、エドワードはさりげなく近衛翁の顔へと視線をずらした。

近衛翁の問いはエドワードがネギと出会っている事、つまりエドワードが学園長室に来る前のやりとりを前提にしたものである。

一見飄々としたこの老人は、一体何処まで見通しているのか。

ぼんやりとした戦慄が、エドワードの内を奔り去る。



「……見てたのか。」



近衛翁に届く程度に、エドワードは呟きを口にする。

化け物の千里眼の程を試す、一種のカマ。



近衛翁は髭を撫で、視線を天井へと写しながら徐に口を開いた。



「中々良い雰囲気じゃったから、見合いを薦めてみたんじゃよ。押し倒されとったのはエドワード君の方じゃったが。」

「……張っ倒されてーのか、このエイリアン。」



殺気混じりのエドワードの視線を爽やかに無視し、近衛翁はエドワードへと視線を戻した。



「話を戻すが、さっきも言ったようにネギ君はまだ未熟じゃ。それに真の意味での彼の理解者もまだまだ少なくてのぉ。正教員に採用したとはいえ、やはり不安が先立ってしまうのが現状じゃ。」



確かに、とエドワードは近衛翁の言葉に内心で納得の意を示した。

如何に優秀な能力を持ち合わせていたとしても、内面的な未熟さは如何ともし難い。

寧ろある意味では不相応とも言える高い能力を持っている分、その不安定さ故に道を踏み外し易い。

嘗ての、エドワード自身のように。

右腕に添えられていたエドワードの左手に、無意識の内に力が篭る。



「加えてネギ君が担任を勤める2ーA、新3ーAなんじゃが、これが色々と曲者揃いでのぉ。皆根的には良い娘なのじゃが、扱い難さも折り紙付きなんじゃよ。」



エドワードの心情を他所に続けられる近衛翁の話は、何時の間にか雲行きが怪しくなってきていた。



「……それで?」



段々と募り始める嫌な予感を抑えつつ、エドワードは近衛翁に問い掛けた。



近衛翁は頷き、双眸を鋭く光らせる。



「ウム。流石に教員一年目のネギ君独りに総てを任せ切るというのは、少々心細くてのぉ。副担任としてネギ君を補佐し得る人材を探しとるんじゃ。」

「俺は嫌だぞ?」



皆まで言わせる事なく、エドワードは即答した。



「俺は教員免許なんて持ってないし、第一畑が違う。それにそういうのは他にも適当な奴がいるだろ。タカハタとかデスメガネとか。」



正論を味方にきっぱりと拒否するエドワードに、近衛翁はポツリと一言。



「いやぁタカミチじゃったら反面教師にならんじゃろ?」

「待てやコラ。」



微妙に論点のずれた近衛翁の発言に、エドワードの額に血管が薄く浮かぶ。

喰い殺さんばかりに膨れ上がったエドワードの殺気に内心冷や汗を流し、近衛翁は場を濁すように咳払いした。



「冗談はさておき、他の人間では駄目なんじゃよ。『こちら側』の人間にとってネギ君の父親の名は、「スプリングフィールド」の姓の持つ意味は大き過ぎる。大なり小なり、皆ネギ君に『彼』を重ねてしまうんじゃ。それはタカミチとて例外ではない。」



「……『サウザンド・マスター』の息子、ってか。」



エドワードは眉間に皺を寄せ、呻くように低く呟いた。



『サウザンド・マスター(千の呪文を持つ男)』。

「裏」の人間でその二つ名を知らない者はいないとまで言われている程の、英雄。



「……気に入らねぇな。」



不機嫌そうに眼を眇めるエドワードを横目で見遣り、近衛翁は言葉を続けた。



「儂は別にお前さんがネギ君を導いてくれるなぞ期待しとらん。あの子は聡い。自ずから己の道を見い出し、勝手に成長していくじゃろう。お前さんは唯ネギ君の隣で、ネギ君を『ネギ君』として接してくれればそれで良いんじゃ。『子供先生』としてでもなく、『英雄の息子』としてでもなく。」



エドワードは沈黙し、顎に右手を当てた。

壁に掛けられた振り子時計の時を刻む秒針の音だけが、広い学園長室に木霊する。

数分間にも及ぶ長い逡巡の果てに、エドワードは漸く口を開いた。



「……良いだろう。」



短く素っ気無い了承の言葉に、近衛翁の口元が緩む。



「お前さんならそう言ってくれると思っとったよ。」



近衛翁は引き出しから封筒を取り出し、エドワードへと手渡した。



「必要な書類は総てこの中に入っとる。今月中に事務局の方に提出してくれれば良い。」



近衛翁の言葉を背景に、エドワードは封筒の中身に目を通していく。

その時書類の束の中の一枚、辞令の書簡がエドワードの目に留まった。



 辞令 エドワード・エルリック

  2003年4月2日を以って麻帆良学園教諭に任命す。



近衛翁の判子の押された書簡に既視感を覚え、エドワードは思わず苦笑を漏らした。



「話はこれで終わりだな? 俺は帰らせて貰う。」



そう言ってエドワードは立ち上がり、会釈と同時に踵を返した。



「エルリック先生。」



立ち去ろうとするエドワードを、近衛翁は呼び止めた。さり気なく呼び方も変えられている。

怪訝そうに振り返るエドワードに、近衛翁は口の端を持ち上げた。



「さっきも言ったように新3ーAは癖の多いクラスじゃが、お前さんなら上手くやっていけるぞい。」



断言する近衛翁にエドワードは虚を衝かれたように目を瞬かせ、そして一瞬だけ表情を緩めた。



「おぉそれと、」



再び歩き始めるエドワードの背中に、近衛翁は思い出したかのように再び声を掛ける。



「資格や教員免許の事なら心配する事は無いぞい、ちゃちゃっと偽造しとくから。」



次の瞬間、エドワードは扉に頭をぶつけていた。



「ナチュラルに、犯罪宣言するなっ!!」



ズキズキと痛む額を左手で押さえ、エドワードは近衛翁を振り返り怒号した。





   □■□■□





その晩、麻帆良学園大学部学生寮のとある一室からは盛大な笑い声が響いていた。



「あっはっはっはっはっはっ!!」



爆笑しながら部屋の中を転げ回る長身の青年をエドワードは青筋交じりに見下ろし、次の瞬間、



「笑い過ぎだコラ!」



怒号交じりに蹴りを入れた。

鳩尾を狙ったその一撃を青年は左手で受け止め、笑いを止めて立ち上がる。

尤も、その顔は未だにやついていたが。



「しかし、愛想の悪さは工学部一、キレた時の凶暴さは大学部一とまで言われているエドワードが、まさか教師とはナ……。世の中何が起こるか分からんものダ。」

「煩ぇよリン、……こっちにも色々と事情があるんだよ。」



言いたい放題の青年を据わった目で睨みながら、エドワードは苛立たしそうに鼻を鳴らした。



リン・ヤオ。

麻帆良大学工学部に通う華僑の学生であり、エドワードのルームメイトである。

元中国武術研究会部長を自称しているが、エドワードにはどうでも良い話でしかない。



「……教員用の寮に移ろうかな。」



顎に手を当てエドワードが神妙に呟いた次の瞬間、



「そんな薄情な事を言ってくれるなマイフレンド!俺を見捨てないでくれェ!!」



気がつけばエドワードの目前に移動したリンが、芝居がかった動作でエドワードにすがり付いている。



「ええい暑苦しい! 離れろこの野郎!! 俺にそっち方面の趣味は無い!!」

「安心しロ、俺もダ。」



胸を張るリンにエドワードは額を抑え、青筋を浮かべ沈黙した。

この雲のように掴み所の無いリンの性情を、実はエドワードは些か苦手としている。

今回も結局、何時ものように遊ばれていただけだったのだ。



「………煙草吸って来る。」



疲れたように嘆息し、エドワードは上着を羽織った。



「吸い過ぎは毒だゾ。」



リンの声を背中で聴きながら、エドワードは部屋を出た。



寮入り口の階段に腰掛け、ポケットから煙草の箱とジッポー・ライターを取り出した。

何ともなしに、ふと手許のライターを眺める。

ライターの表面には銀のメッキが施され、側面には二重の円と六方星、火の図形と幾何学的な文章で構成された、魔方陣のようなマークが大きくあしらわれている。

エドワードは煙草を箱から取り出し、口に咥えた。

そして膝の上のライターの蓋を開け、打ち石を弾く。

瞬間、ライター側面のマークが蒼く発光し、ほぼ同時に煙草の先端がぼぅと燃え上がった。

ライターは、依然エドワードの膝の上である。



エドワードは口許の煙草を外し、紫煙をふぅと吐き出した。

夕闇に放たれた煙は空へと昇り、虚空に溶けるように消え去っていく。





 

鋼の錬金先生 第3話:中等部3年A組

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