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第3話:中等部3年A組 投稿者:物書き未満 投稿日:04/08-05:37 No.96

2003年四月上旬。

始業式も恙無く終わり、麻帆良学園中等部3ーA教室は新しい学年に進級した少女達の賑わいで満ちていた。

ある者は雑談に興じ、またある者はトラップの設置に勤しみながら、生徒達は担任の到着を待ちわびている。

更に今年度から新任の若い教師が副担任として3ーAの一員に加わる事になり、それもまた少女達の話題の種に上がっていた。



「エドワード先生ってどんな人なのかなー? 朝倉知ってる?」



癖毛がアンテナのようにはねている眼鏡の少女、早乙女ハルナに問われ、「報道部」の腕章を付けた少女、朝倉和美はポケットから黒い手帳を取り出した。



「ネギ先生の時とは違って突発的な就任じゃなかったからね。バッチリ調べてあるよん。」



得意そうにそう言いながら、朝倉は手帳を捲っていく。

周囲の少女達もさりげなく聞き耳をたてる中、朝倉は目当てのページを見つけた。



「エドワード・エルリック、21歳。4年前半に麻帆良大学の工学部に編入してる。その時16歳ちょいだから、ちょっとした飛び級って事になるね。色々と特許も持ってるらしいし、結構スゴい人みたいだよ。」



手帳のメモをクラス中に聞こえるように読み上げながら、朝倉は内心では別の思考を巡らせていた。



(でもそれ以外の事は、全く分からなかったんだけどね……。)



麻帆良に来てからのエドワードの軌跡は簡単に手に入った。だがそれよりも以前、麻帆良に来る前の足取りは、全く掴む事が出来なかった。

危険を覚悟して麻帆良のデータベースにハッキングをかけてみたが、結果はほぼ同じだった。

収穫として得られた情報はエドワードがネギと同じウェールズから来たという事と、エドワードは特待生として麻帆良に招かれたという事だけ。



そして奇妙な点はもう一つある。

エドワードは現在機械工学系の学部に在籍しているが、そのエドワードが所有している特許は総て構造化学分野であるのだ。畑違いも甚だしい。



完全な白紙の経歴、食い違った専攻と実績。

それらは朝倉のジャーナリスト魂に、小さな灯を点していた。





鋼の錬金先生

 第3話:中等部3年A組





丁度その頃、スーツ姿のネギがエドワードを先導しながら廊下を歩いていた。



「ビックリですよ。エドワードさんが3ーAの副担任になるなんて!」



興奮か緊張か、ネギの声が上擦っている。

以外と人見知りをする性格なのかもしれない。それとも、年頃のせいだろうか。

軽く視線を落としネギの頭を見ながら、エドワードは自分の少年時代を思い浮かべてみる。



ーーネギと同じ位の頃、自分は禁忌を犯す事に何の戸惑いも無かった。

結果的にそれが取り返しのつかない事態を引き起こし、色々あって今自分は此処にいる訳だが、とりあえず今は置いておく事にしよう。



ーーネギと同じ位の頃、自分はまだ生身だった弟と共にダブリスで……、



刹那、一瞬で氷漬けにされたような悪寒がエドワードの全身に走った。

それ以上記憶を掘り返す事を本能が拒否している。

エドワードは軽く頭を振り、思考を強制的に切り替えた。



その時、「中等部3年A組」と書かれた表札が二人の視界に入ってきた。



「僕が先に入りますので、エドワードさんはちょっと待ってて下さい。」



気を遣ったのかそう申し出るネギに、エドワードは首を横に振った。



「いや、いい。」



そう言ってエドワードは引き戸を開ける。

瞬間、引き戸に挟んであった黒板消しが落下し、エドワードの頭上に迫った。

エドワードはそれを左手であっさりと受け止め、掴んだ黒板消しをしげしげと眺める。



(……コレが有名な黒板消しトラップか。本物を見るのは初めてだな……。)



エドワードが幼い頃通った学び舎は、屋根の四方を柱で支えただけの所謂青空校舎で、黒板消しを挟める扉などは存在しなかった。

よってエドワードは「黒板消しトラップ」なるものを噂に聴いた事はあっても、実際に目の当たりにしたのは初めてだったのだ。



小さな感動に浸るエドワードを、ネギは怒りで沈黙しているものと錯覚し、慌てて口を開き生徒の弁護に回る。



「エ、エドワードさん! ほんの悪戯です許してあげて下さい!! 悪気は多分きっと無かったと思いますから!!」



ネギはそのままエドワードの隣を通り抜け、悪戯の主謀犯であろう双子の少女に話をつけるべく教室の中へと踏み入ろうとする。



「お、おいネギちょっと待て。」



何故か上げられたエドワードの制止の声は聞き入れられる事は無く、ネギは教室の中へと踏み込んでいく。



「トラップってのは最初のこういう派手なヤツは大抵囮で、」



エドワードの忠告が言い終わらぬその時、教室の中で新たな変化が起きた。



「ーー最初のトラップ抜けて油断してる足元を地味な二つ目に掬われて、」



教室内に一歩踏み出したネギの足が何かに引っ掛かり、



「ーー緊張の糸を引き締める前に三つ目四つ目が襲い掛かってきて、」



転倒したその頭にバケツが直撃、更に勢いを殺せずに転がるネギの後ろから吸盤付きの3本の矢が容赦無く飛来し、



「ーー結局体勢を立て直せずに潰される。」



トドメとばかりに教卓に激突し、ネギは漸く止まった。



一瞬、重い沈黙が教室を支配する。



「……俺ならそう仕掛けるから気をつけろって、言いたかったんだけどな。」



エドワードはそう言い、バケツを頭に被ったまま半泣きなっているネギの姿に小さく息を吐いた。



「そ、そーいう事はもっと早く言って下さいよぉ……。」

「言う前に特攻かましたお前の自業自得だ。」



ネギの不平を一言の下に切って捨て、エドワードは再度嘆息を漏らすのだった。





   □■□■□





「……えと、ちょっとしたハプニングがありましたが改めまして。3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから来年の三月までよろしくお願いします。」



教壇の上にネギが立ち、その自己紹介をもって漸く3ーAのホームルームは開始された。

同時に生徒達から歓声が沸き起こる。



「「3年!」」



「「「A組!!」」」



「「「「ネギせんせーー!!!」」」」



『よろしくーーーっ!!!』



割れんばかりの拍手と歓声にネギは照れたように頭を掻き、隣のエドワードは内心引いた。



「こちらが今学期から3ーAの副担任になられるエドワード先生です。」

「エドワード・エルリックだ。短い間だがよろしく。」



簡潔な挨拶にネギの時とは違い何処か急いた拍手が送られ、次の瞬間エドワードは3ーAの生徒達に取り囲まれていた。



「どこから来たんですか? 何人?」

「どうして手袋してるんですか?」

「趣味は?」

「彼女いますか!?」

「その金色の眼ってカラーコンタクトしてるんですか?」



四方八方からの質問攻めに、エドワードの感情は段々と臨点に近付いていく。



「だぁぁぁぁっ! 俺はショートク君子じゃねぇ!! 質問は一つずつしろ一つずつ!!」



怒髪天を衝く。

限界に達したエドワードの怒号が教室内に響き渡るが、その程度では少女達は止まらない。

好奇心に瞳をギラギラと輝かせる3ーAの猛者達の剣幕の前に、エドワードは段々と黒板際へと追い詰められていく。

その様はどこか、狼の群れに放り込まれた羊にも似ていた。



その時、ノックの音と共に眼鏡をかけた妙齢の女性が3ーA教室に姿を現わした。



「ネギ先生、今日は身体測定ですよ。3ーAの皆もすぐ準備してくださいね。」



そう言って生徒達を見回す妙齢の女性教諭、源しずなの背後に、エドワードはこの瞬間女神だか天使だかの姿を確かに垣間見た。



(た、助かった……!)



信じてもいない神に本気で感謝しかけるエドワードの耳に、次の瞬間、



「それじゃあ質問会は身体測定の後に持ち越しね。」



悪意の無い死刑宣告が下されたのだった。





   □■□■□





身体測定その他が終わり、エドワードは職員室の机に突っ伏していた。

結局身体測定の後へと持ち越された質問会からは逃げられず、エドワードは生徒達の様々な角度からの質問に可能な限り答える羽目になった。

その結果として、今は精も根も尽き果てている訳であるが。



「……等価交換は世界の真実じゃなかった。」



精神が『向こう側』に逝きかけ半ば現実逃避に陥っているエドワードの背後に、長身の影が差した。



「ははは、流石に疲れたかい? エドワード先生。」



そう言って眼鏡を掛けた壮年の教諭、タカミチ・T・高畑が笑いながらエドワードの肩を叩く。



「……中々、パワフルなクラスだな。」

「元気な事は良い事だよ。それよりネギ先生達が3ーAの教室で待っているよ?」



高畑の言葉に、エドワードは怪訝そうに顔を上げた。



「俺を、か? ……何故?」



エドワードは問うが高畑は薄く笑うだけで何も答えない。



高畑の態度に首を捻りながらも、エドワードは仕方無いとばかりに席を立ち、3ーA教室へと向かう。

そして教室の引き戸を開けたその瞬間、エドワードはクラッカーの音とシャンパンに迎えられた。



『ようこそ!エドワード先生!!』



黒板には大きく、「歓迎会」と書かれていた。





 

鋼の錬金先生 第4話:吸血鬼

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