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第8話:学級法廷 投稿者:物書き未満 投稿日:04/08-05:40 No.101

エドワードが担当する事になった授業科目は、数学である。

工学部に在籍している事からも示される通り、エドワードは理数系分野を専門としている。

だがそれ以上にこの選考に大きな影響を与えていたのは、エドワードが『錬金術師』であるという点である。

魔法と錬金術の間には多くの相違点が存在する。

その最たるものとして、魔法の行使には術者の第六感や芸術的感性等といった右脳的な要素が重視されている事に対し、錬金術師に一番求められるものは高度な演算処理能力、つまり左脳的要素であるという点が挙げられる。

この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし真理を追い求める者、錬金術師。

ある意味に於いて錬金術師に最も必要とされるものは、数学の才能と言えなくもないのである。

以上の理由からエドワードは数学担当として、近衛翁の裁量により任ぜられた。



ただし如何に必要な知識を揃えていたとしても、それを他人に上手く教える事が出来るか否かは全くの別問題である。

些か極論ではあるが、生まれたばかりの赤子が言葉を喋れないように、教員が最初から教師足り得るという保証は無いのだ。

だからこそ研修や教育実習その他諸々の過程を通過し羽根をある程度生え揃わせた後に、教員の雛は然るべき巣立ちを迎えるのである。

その工程の悉くをすっ飛ばして素人をいきなり教壇に立たせるとは如何なものかと今更ながらに頭を痛めるエドワードであるが、遅過ぎた憂鬱は最早後の祭りとしか言い様がない。



勿論エドワードも何の用意も無くこの難題にぶつかるつもりは無く、初授業を迎える為の準備はこの一週間をかけて入念に取り組んできた。

例えばプリント類を手早く配る練習、例えば見易い文字を黒板に書く練習、例えば投擲したチョークを正確に標的に当てる練習、その他諸々……。



何か大切なものが欠けているような気がしないでもないが、兎に角それらの弛まぬ努力によって培われた自信を根底にエドワードが3-A教室の入り口に手を掛け開け放った次の瞬間、鳴り響く二校時目開始のチャイムの音と共にエドワードの身体は突如扉の向こうから延びた無数の手に捕われ、扉の内側へと引き摺り込まれた。





鋼の錬金先生

 第8話:学級法廷





二校時目開始のチャイムが無慈悲に鳴り響く中、エドワードは自らの教え子となる筈の少女達に詰め寄られ取り囲まれていた。

それは昨日の質問会時の状況に似ていない事も無いが、だが今現在エドワードを包囲する3-A生徒達の双眸は昨日にも増して危険な輝きを放っている。



例えば、



「エドワード先生! ネギ先生と婚約なさるとは本当ですかぁぁぁーーーっ!?」



物を殺せそうな程凄まじい眼光でエドワードの襟首を締め上げ揺さぶる雪広あやかとか。



例えば、



「凄いよ感動ですよエドワード先生! こんな所にBL(ボーイズ・ラヴ)のネタが転がってるなんて!! 一体どっちが「受け」ですか?」



未知の機械を目の前にした幼馴染みに良く似た好奇と情熱と狂気の光を瞳に宿し怪しく眼鏡を光らせる早乙女ハルナとか。



例えば、



「あらあら、色んな大変ね。ホホホ……。」



聖母のような笑みで周囲の空気をドス黒く禍々しく染め上げる那波千鶴とか。



兎に角、普通じゃない。



不意に、遠い昔に置き去りにしてきた「恐怖よりも更にコワい感情」がエドワードの胸の内に蘇り、忘れていたいトラウマの数々が怒濤のようにフラッシュバックする。

それは例えば壊れた腕を幼馴染みに見せた時、それは例えば師匠の逆鱗に触れた時、それは例えば某筋肉少佐が熱い感動の涙を流しながら躙り寄ってくる時……。



その後決まってエドワードを待ち受けている運命は、半殺しにされ物言わぬシカバネと化すBAD ENDにまっしぐら。



……ぶっちゃけ、今すぐ此所から逃げ出したい。

それはもう恥も外聞も『門』の向こうにかなぐり捨てていざ自由への逃走だレッツゴー!と言った具合に。



一瞬、エドワードは本気でそう思った。



だが哀しい事にエドワードは今3-Aの副担任であり、そして数学の科目担当でもあり、更に時間割上で言えば今この時間は3-Aは数学の授業となっている。

逃げ出す事は、許されない。



……ついでに言えば、逃げ道も無い。



現実とは常に無情なものである、泣きたくなる程に。



その時、不意にあやかはエドワードの襟首から両手を離し、後方のクラスメイト達を振り仰いだ。

興奮のあまりに昂る心と呼吸を整え、あやかはゆっくりと口を開いた。



「学級裁判ですわっ!!」





   □■□■□





「皆さん! ただ今より学級裁判、いえ『学級法廷』の開廷を宣言致します!!」



教壇の中央で教卓を両手で思い切り叩き、あやかは昂然と言い放った。

反対の声は挙がらない、異を唱える理由が無い。

既に二校時目開始のチャイムが鳴り終わってから幾らかの時間が経過しているが、気にする者は殆どいない。



ネギはある意味、3ーAのアイドル的な存在である。

子供という万人受けする容姿も然る事ながら、何よりも些か頼りなくはあるが実直で誠実なネギの人柄が生徒達の心を掴み、信頼と愛着を育んできた。



そのネギが、何処の馬の骨とも知れない輩に奪い取られようとしている。

しかもその相手が「男」であるとは、大問題極まりない事態である。

故に何としてでもこの異常事態を何とかしなければならない、例え授業を潰してでも。

それが今の3ーA生徒の大部分の胸の内であり、その純粋な想いを御旗に3-Aの心は一つになる。

総ては、ネギを救う為に。



……尤も巻き込まれたエドワードにとっては、厄災以外の何物でもないが。



新体操用のリボンでパイプ椅子に縛り付けられ、エドワードは独り途方に暮れた。

首から下げられている『ひこくにん』と書かれたプレートが、妙に哀愁を誘う。



「俺が一体何をしたんだぁぁぁーーーっ!?」



悲鳴にも似たエドワードの叫びに、



「男性の身でネギ先生に求婚された時点で万死に値しますわ! この泥棒猫ぉぉぉーーーっ!!」



咆哮にも似た怒号を以ってあやかは即答する。



勿論エドワードに身に覚えは一切無いのだが、思わぬあやかの切り返しと気迫に一瞬エドワードの思考は停止する。



「……兎に角、まずは今回の事件の告発者に詳しい証言をして頂きましょう。」



体裁を取り繕うように咳払いし、あやかは教室を見渡した。



「風香さん、史伽さん。……お願いしますわ。」



静かな、しかし凄みの利いたあやかの指名に、鳴滝姉妹は一瞬飛び上がった。



「は、はい!」

「はいです……!」



おずおずと恐縮したように立ち上がり、鳴滝姉妹は教壇の前で口を開いた。



「……事の成り行きは、アスナとネギ君がこっそり教室から抜け出したのが始まりだったんだ。」

「何か怪しいなーって思って、お姉ちゃんと二人でこっそり尾行したんです。」



交互に証言を始める鳴滝姉妹の言葉に、明日菜はギクリと身を凍らせた。

何気なさを完璧に装えたと思っていたのに、まさか尾行までされていたとは思いもしない誤算だった。

最悪の場合、魔法関連の会話まで聴かれているかもしれない。



一般人に正体を看破された魔法使いは、最悪の場合オコジョにされてしまうらしい。

初めて明日菜がネギと出逢った時、秘密を知った明日菜は危うく記憶を消されそうになった。

その時は幸いネギの忘却呪文は失敗に終わったのだが、その代償は大きく明日菜は記憶の代わりにパンツを消されてしまい、高畑にノーパンを晒すという醜態を演じてしまった。

もしも風香と史伽はネギの正体を知ってしまっていた場合、それは色々な意味で拙い事態となる。



明日菜の不安を他所に、鳴滝姉妹の証言は進んでいく。



「階段の踊り場でネギ先生がアスナに振り返って、それでその時ボク達聴いちゃったんだ! ネギ先生がパートナーをエドワードさんに決めたって!!」

「信頼さえあれば性別なんて関係無いとも言ってましたぁっ!!」



顔を青ざめる風香と泣きそうな顔の史伽の証言に、クラス中の視線が明日菜に向けられる。



「……と、言う事ですが。詳しい証言をお願いできますよね、アスナさん。」



有無を言わさぬあやかの追求に、明日菜は気まずそうに視線を逸らした。



「えーと、それは……。」



言葉を濁しながら、明日菜は必死で思考を走らせる。

話の感じから推測するに、どうやら鳴滝姉妹は魔法関係の部分は聴いていないらしい。

その事に関してはあらゆる意味で一安心と言った所ではあるが、問題はこの後どう言い訳をするかである。



鳴滝姉妹の誤解から端を発した今回の騒動は、はっきり言って前提から間違っている。

だがそれを説明するには、下手をすれば魔法の存在等の秘密の一切をこの場で明かさなければならなくなる。



悩む明日菜を半眼で一瞥し、あやかはポツリと一言付け加える。



「……アスナさん、この場での虚偽の発言は極刑に値しますわよ?」

「事実です、ハイ。」



絶対零度のあやかの言葉に、明日菜は迷わず自己保身に走った。

人間やはり、我が身が一番なのである。

それに鳴滝姉妹の証言が事実である事も本当の事ではあった。

ただ総ての真実のを知らず、言っていないだけで。



(……ゴメンナサイ、エドワード先生。私は貴方をイケニエにしました。)



屁理屈的な詭弁で自己を正当化しながら、明日菜は心中でエドワードに詫びた。



「これで容疑は固まりましたわね! エドワード先生!!」

「決定的な証拠が一つも挙がって無ぇよ! 取り敢えず落ち着け縄を解けぇっ!!」



勝ち誇ったようなあやかの言葉に、パイプ椅子を揺らしながらエドワードは噛み付く。



何となくだが、エドワードはこの魔女裁判モドキな馬鹿騒ぎの原因背景その他を理解出来てきた。

推論を纏めてみれば、ネギが明日菜にパートナーについての相談を持ちかけそれを実は鳴滝姉妹がこっそり盗み聞きしていて色々あって今自分は縛られている、という事である。



「何所をどう考えても俺に落ち度は全然全くこれっぽっちも無ぇじゃねーか! お前等の抱いてる誤解曲解その他諸々は取り敢えず置いとくとして、まず問い質すべきは俺じゃなくてネギの方だろうが!!」



一気に言い切られるエドワードの反論に、教室は一瞬静まり返った。



「よー考えてみたら、そうやなぁ。「求婚」て事はネギ君の方からエドさんに婚約迫とるて事やし。」



小さく呑気に紡がれた木乃香の呟きが、静寂の中に無情に響き渡る。





次の瞬間、教室は再び阿鼻叫喚の地獄絵図へと化した。



「ネギくぅぅぅん、何で男の人なんかに走っちゃったのぉぉぉぉっ!?」



弱々しい声で嘆き号泣する、佐々木まき絵。



「あぁぁぁぁぁっ、ネギ先生! わたくしでは駄目なのですかっ!?」



天を仰ぎヒステリックに叫ぶ、あやか。



「ネ、ネギ先生が、ネギ先生の方からエドワード先生に、ネギ先生の、お、お嫁さん……?」



知恵熱と混乱の剰りに支離滅裂な事を口走る、のどか。



その三人を筆頭に3-Aは再び混沌の渦中を突き進んでいく。



その時、挙手と共に一人の生徒が立ち上がった。



「ねぇねぇ、いいんちょ! やっぱり男同士の恋愛なんて普通じゃないと思うよ?」



能天気とも言える口調で意見を述べるのは、椎名桜子。

桜子の発言に、混沌としていた3-Aは若干の落ち着きを取り戻す。



「だから私考えたんだけどさぁ……、」



勿体ぶるように一旦口を閉ざす桜子に、教室中の視線が集中する。

教室中の注目の中、桜子は小さく息を吸い込み、そして人差し指を立てながら再び口を開いた。



「ーーエドワード先生の正体は、実は女の人だったのだぁっ!!」



人差し指をエドワードに突きつけ、桜子は高らかに言い放った。

絶対の自信でもあるかのように、桜子の言葉に迷いは無い。



そして次の瞬間、



「「「「「「「「「「な、なんだってぇぇぇーーーっ!?」」」」」」」」」」



教室は衝撃と怒号の嵐に包まれた。



「ちょっと待てぇぇぇーーーっ!!」



何の前触れも無くいきなり自身の性別を完全否定され、エドワードは悲鳴にも似た怒号を上げる。



「一体どこをどう間違ったらそんなトンデモ結論に往き着くんだよ!?」



パイプ椅子を揺らしながら抗議の声を上げるエドワードだが、生徒達の表情は真剣なものへと変わっていく。

まるで、桜子の荒唐無稽極まりない仮説を真に受けたかのように。



「……確かに、そう考えれば総ての辻褄が合いますわね。」



神妙な面持ちで低く呟く、あやか。



「そう言われてみれば、確かにエドワード先生って女っぽい顔してるよねー?」



エドワードの顔を見つめながら首を傾げる、まき絵。



「声も男にしてはちょっと高いような……。」



顎に手を当て眉間に皺を寄せる、朝倉。



声こそ出してはいないものの、他の少女達も似たような表情を浮かべている。



「待て待て待て待て!!」



妙な方向に思考を転がし始めている生徒達に、エドワードは必死に静止の声を上げた。

このまま逝けば下手をすると、本当に自分の正体が女性と言う結論で納得されてしまいかねない。

それだけは、男の矜持に賭けて何としてでも阻止しなければならない。



……阻止したら阻止したで、今度は同性愛者疑惑が再燃してしまう訳ではあるが。



その時、



「皆さん! 今エドワード先生の性別について議論するのはあまりに不毛です!!」



両手で机を叩きながら立ち上がり、昂然と言い放つ一人の少女がいた。

3-Aの視線は一斉に少女、夕映へと向けられる。

夕映は凛とした表情で教室を大きく一瞥し、そして視線をエドワードへと固定し口を開いた。



「エドワード先生が男か女か、そんな事は些細な問題です。実際に女物の服を着せてみれば良いのです。それで総て解決します!」



「「「「「「「「「「は、はいぃぃぃい?」」」」」」」」」」



間の抜けた声が教室中から上がるが、夕映は気にする事なく言葉を続ける。



「仮にエドワード先生が男だったとしても、もしも着させた女性服が似合えばエドワード先生はそれだけ女らしいという事です。そしてその場合、ネギ先生はエドワード先生のその「女らしさ」に恋心を抱いてしまったという仮説を立てる事ができます。」



「そうかっ!」



夕映の言葉に何かを思いついたように、ハルナが立ち上がり拳を握る。



「もしその仮説が正しければ、正真正銘の女の私達の方が男のエドワード先生なんかよりも圧倒的に分がある! ネギ君をノーマルの道に引っぱり戻す事も出来るって事ね!?」

「エドワード先生が女だった場合、並びにエドワード先生に女性服が似合わなかった場合は白紙に逆戻りですけどね。」



ハルナの力説に小さく肩を竦め、夕映は再度教室を見渡した。



「ーー如何でしょうか?」



静かに紡がれた夕映の問いが、静まり返った教室に浸透していく。



返答は必要無かった。



夕映の問いは今の少女達にとって、愚問にも及ばぬただの確認事項。





数分後、3-A教室にエドワードの悲鳴が響き渡った。





 

鋼の錬金先生 第9話:穏やかな夕暮れ

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