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人修羅先生!(×真女神転生3) 投稿者:ナポリ 投稿日:04/24-21:00 No.394

side 人修羅

月が浮かぶ夜の闇を切り裂くように俺は麻帆良の町を駆けている。

ネギ君の策が何なのかは分からないが、相手のエヴァンジェリンも聞くところによれば大物の吸血鬼らしいから一筋縄では行っていないだろう。

そんなことを考えながら駄々漏れになっているエヴァンジェリンの魔力の発生源へと更に脚を早める。

3階建てのビルの屋上を蹴って上に飛び出したとき俺の視力がようやく橋の中ほどに居るネギ君の姿を捉えた。

「……情けない事になってるな」

「……ホントだ」

ピクシーも認めてくれるほどに、ネギ君は情けない状態だ。

絡繰に頭を抑えられて涙目で手の届かないにもかかわらずグルグルパンチ。

…………子供だからって言っても社会人としてそれでいいのか?

疑問が頭をよぎるが意識的に排除して、ネギ君を助けに向かう。

あっ……ネギ君が叩かれた。

――――トン

地面を少し強めに蹴り、上空に跳ぶ。

その際意味もなく回転するのはお約束。

そのままエヴァンジェリンに鉄槌を下す。

「!! マスター、回避を!!」

絡繰は気付いたようだがネギ君の首筋に食いつこうと集中していたエヴァンジェリンは気付くのが遅れた。

「おらっしゃぁぁーーー!!」

全力っぽい奇声を上げて、エヴァンジェリンの頭にチョップ。

なにやら障壁の様なもので一瞬腕が停止するが……

「ふんっっ!!」

気合で叩き割る!!

本来ならかなりの速度で叩き込むはずだった一撃が障壁で大分威力が落ちてしまったのだが何故だがエヴァンジェリンは蹲っている。

「ふぃ、ふぃさまいふのまふぃ」

あ、舌噛んでたのね。

そりゃあ首筋に歯を立てようとしている時に上から押さえられたら舌も噛むよな……納得。

「とっ藤堂せんせー!!!!」

「その様子だと作戦は失敗だったみたいだな……無理も無いか」

ネギ君はエヴァンジェリンの下から慌ててこちらに駆けてくる。

「ネギ君……まだ戦う気があるかい?」

ネギ君に対して意思の確認。

「え……?」

「今ここで君が逃げるというのなら俺がアイツの相手をやるけど……どうする?」

さて……どういう反応を返すのかな?

「僕は……僕は…………やります。父さんに近づくためにも僕は戦います!!」

そう言って顔をこちらに向ける。

ん、いい目だ。ならば俺のする事は唯一つ。

「ネギ君、今神楽坂とカモがこちらに向かってきている。俺が時間稼ぎしておくから神楽坂と合流して、アイツをぶちのめしてやれ!」

「え……? それじゃあ藤堂先生が危ないんじゃあ?」

ネギ君は心配そうにそう言ってきてくれるが、俺にはその心配は無用。

だが、俺は

「ああ俺もアイツの時間稼ぎをするのは中々に大変だから早く帰って来てくれよ?」

笑みと共にそんな嘘をついた。

「ハイ!」

ネギ君はいい返事をして杖に跨り高速で空を飛んでいった。

「さて……待ってくれてるとは中々に親切じゃないか『闇の福音』さん?」

「はん! 貴様をこの機に私の従者にしてやろうと思ってな。ボウヤの血はお前を従者にして私の下に跪かせた後にゆっくりと頂くよ」

エヴァンジェリンは自信満々の様子だ。

その言葉を聞いて過剰反応を示したのが俺の右肩の上にいる。

「……カズト。アレこの際殺っちゃっていい? 私もう今日ストレスが限界突破してるんだけど?」

こめかみに青筋をたて、今にも爆発寸前なピクシー。

お前さっき黒いオーラ撒き散らしてストレス発散してたんじゃあ……

「つーかお前が何で怒ってんだ?」

「私にはどうしても許せない事がいくつかあるの。例えば昆虫扱いされる事、その許せない事の一つに『カズトを馬鹿にされる事』も入ってるの!」

……そりゃあどうも

だが、今回の任務は時間稼ぎであって殺っちゃう事では無い。

「ふむ……お前今回この場に居たらちょーっと拙い事になりかねんから……帰ってろ!」

右肩の上のピクシーをむんずと掴み、すばやく『門』を開き中に投げ込み帰還させる。

「ふう……」

溜息を一つ。

「私を相手にするというのに一人でいいのか? まあピクシー程度私の前では居ても居なくても変わらんがな」

クックックと口を歪ませて愉快そうに笑うエヴァンジェリン。

アイツはとある事情によりとてもじゃないが普通のピクシーとは言い難い存在なんだがな。見た目じゃ分からんか。

「雑談はその位にして戦おうか。どうも最近運動不足でなオマエとなら比較的楽しくなりそうな気がするんだよ」

戦闘の為に上着と中のシャツを脱ぎ、ズボンだけの格好となる。

これこそが俺の戦闘装束……上半身真っ裸だから装束とは言えないかな?

「この変態の露出狂が減らず口を……良いだろう。お望みどうり叩きのめしてくれるわ!!」

「失礼します藤堂先生」

戦闘の開始を告げるエヴァンジェリンの言葉と共に絡繰が中々の速度で迫って……急停止。

「ん!?」

てっきりそのまま突っ込んできて接近戦を挑んでくると思ったんだが……フェイントか?

「ロケットパンチ!?」

絡繰はそのまま腕を挙げ、今までの俺の戦闘経験からでも予想のつかないことに腕の半ばから先を飛ばしてきた。

驚きはあり予想もしていなかったが距離がある分簡単に回避できる。

左に跳んでそのロケットパンチを避ける。

「流石に有線式か」

感心する必要のある場面でもないがそんな事に感心している間に絡繰が左手をまだ回収していないままに再び接近……迎撃する!

今まさに本体の下へと戻ろうと俺の横を通過していた絡繰の左手を掴み身を屈ませ掴んだ手を下に引き逆の手で絡繰の脚を払う。

……重っ!!

女生徒に対しての言葉としては酷いものだが俺の正直な感想である。

絡繰の脚は重厚感たっぷりに俺の左手の動きを阻害してくれるし、投げを打った右手はそのはっきりとした重量を俺に伝えてくれた。

そんな地味な驚愕を他所に絡繰はいとも簡単に空中で身をよじり左手にかかる俺の右手の束縛を腕を回すことにより断ち切りその両足でまっすぐに大地へと降り立ち、その場から一気に遠ざかる。

そんな絡繰の行動に一瞬の不審を感じた時

「食らえ!『魔法の射手 連弾・氷の27矢』!!」

今まで何事かを後方で呟いていたエヴァンジェリンが声を挙げた。

俺に迫る氷の弾丸その数27本、エヴァンジェリンが詠唱で何を詠唱したのかは俺にはついぞ分からないが結果がこれ。

「ふっ!!」

右後方へと跳躍という回避行動をとる……が

「馬鹿め……逃すか!」

まるで生きているかのように27本の弾丸はそのベクトルを変えこちらへと向かってくる。

これは……前もって考えていた対処法を使うか。

息を大きく吸い込んで魔力により空気を変えて一気に吐き出す。


――――ファイアブレス――――


ジュワァと音がして氷が全て蒸発し水蒸気となり辺りを白く染め上げる。

「くっ……まさか炎を吐くとは……貴様はドラゴンとの混血の類か?」

「残念。俺はそんなもんじゃあ無い」

トンとアスファルトの上に着地し、エヴァンジェリンの疑問に律儀にも応える。

それにしても……

「お前それが本気か?」

「は? 何だと?」

エヴァンジェリンは何を言われたのか分からないといった顔をしている。

「聞いた話だがお前は『闇の福音』なんて呼ばれて600万ドルの賞金首だったはずだろ。幾分か呪いで力が制限しているとはいえそれがこの程度な筈は無いだろう? 全力で来いよエヴァンジェリン、『闇の福音』としてのお前の全力を見せてくれよ」

「……良いだろう。茶々丸、銃火器の使用を許可する。全力で行くぞ」

ふう。これでやっと楽しめるか

「ですがマスター。ここで藤堂先生を殺害すると学園長が……」

「今日でボウヤの血を吸ってこんな所とはおさらばするんだ、ジジイに口を挟まれる筋合いは無い。それにこんな大口を叩くんだそう簡単には死なんだろ」

「……了解しました。これより火器を使用します」

そうだ。それで良い。本気で俺を殺しに来て俺を楽しませろ!

……って随分と思考が危ない方向に向かってるな俺。

……ここ最近質の良い殺意に出会ってなかったから、俺の身体の中のアクマの因子が欲求不満なのかな?

「それじゃあ……お望みどおり死ね! 『魔法の射手 連弾・闇の29矢』!!」

エヴァンジェリンの手から先ほどまでとは違って全くの無詠唱で放たれる魔法の矢。

先ほどとは属性が違うか? この感じは多分……呪殺系か。

――テトラジャ――

俺の眼前に現れた壁に魔法の矢が当たるが、テトラジャは邪神の呪いだろうと問答無用で無効化する呪いに対する絶対の障壁、当たった傍から矢がはじけ飛ぶ。

だがこの矢はフェイント。

本命は矢の弾けた黒い霧で視界を奪っておいての……

「やれ! 茶々丸」

背後からの奇襲

振り向いた先の絡繰と一瞬目が合う。

そしてその目に感じるいつか体験した事のあるような違和感。

その感覚を信じ右へ身体を躍らせ絡繰から距離を取る。

チュインと聞き覚えの無い音がし、鼻にアスファルトの焼け焦げる匂いが感じられる。

「まさかレーザーまで搭載とは……絡繰を創った技術者に賞賛の言葉を捧げるよ」

「ならばその言葉ハカセに言ってやれば良い。ハカセが茶々丸の生みの親だからな」

エヴァンジェリンの口から語られる衝撃の真実

俺の担当するクラスって一体……?

「……それにしても光を避けるとはどういう事だ?」

「誰が今殺そうとしてきている相手に情報を渡すか」

実際には今まで対峙してきた中でも邪眼の類は最も受けてはいけない部類の攻撃だったので、こういった攻撃への回避は得意分野

「はんっ! この悪魔(バケモノ)め」

「ぬかせ。吸血鬼(バケモノ)」

その言葉で俺たちは殺し合いを再開した。






絡繰の上段蹴りを身を屈めて回避。

続けて上から迫る氷の矢を身を屈めたまま横に転がるように飛んで回避。

そこに居た……いやそうなるように矢の動きを調整して俺を誘導したのだろう、ともかく俺の逃げた先に立っている絡繰の繰り出す重みも速度も申し分ない踵落としをしゃがみ込んだ状態で両手でガードする。

そして絡繰の脚を弾くようにして立ち上がる。

――避ける避ける避ける――

膨れ上がる殺意は上限を知らないかのよう。

何て――楽しい

――捌く捌く捌く――

ズキリと頭が痛む。

だが、その痛みさえも今は心地よい

――防ぐ防ぐ防ぐ――

頭が割れそうに痛い

何故頭が痛むか理由は分かっている。

だが今は分からない、分かってはいけない。

「ッッ!! 『闇の吹雪』」

やって来た吹雪を束ねたかのような渦。

そしてこの肌に突き刺さるような心地よい殺意。

「もっと……もっとだ!!」

右手に魔力を凝集させ、その拳で打ち抜く事で相殺する。

「チィッッ!! 茶々丸! デカイのを撃つ、私を守れ!!」

悔しげな顔のエヴァンジェリンは更に殺意が増大させる

嗚呼……なんて気持ちがイイ。

もう我慢はしなくていいだろう?

ここまでヤりあったんだ。

オマエをコこでコロしてもイイよナ?

その瞬間俺の知覚領域に二つの気配が入ってきて俺の頭が一気に冷めた。

片手をエヴァンジェリンを制するように挙げる。

「ちょっと待て、ネギ君が到着したみたいだ。……という訳で出番交代だ」

少し離れた所からこちらに一目散に向かってくる二つの気配、恐らくはネギ君と神楽坂のものだろう。

「はぁ? 貴様、寝言は寝て言え。ここまで戦っておいて逃げ出すのか?」

「ああ。俺の本来の目的は時間稼ぎだったしな。」

それになによりこれ以上戦っていたら俺が――

そんな緊迫した空気をぶち壊すかのように

「藤堂せんせーーーー」

ネギ君の叫び声が聞こえた。

そしてその声はドップラー効果でどんどん音が高くなりながら近づいてくる。

「藤堂先生、無事ですか……って何事ですかこの惨状は」

ネギ君と神楽坂はポカンとして周辺を見ている。

その周辺の惨状というのが、そこら中のアスファルトは凍ってたり剥げたりで、酷いとこになるとプチクレーターみたいな事になっている。

「これは…………エヴァンジェリンが嬉々として俺に魔法を放ってきてこんな事になったんだよ。見てくれよ俺の格好、こんなのになっちゃったよ」

両手を広げて格好を見せるようなポーズをとる。

忘れているかもしれないが俺の今の格好は例のごとくズボン一丁、信憑性はあるだろう。

実際は俺が煽って魔法を撃たせた訳だし、服も自分から脱いだのだが、責任は出来ればエヴァンジェリンに取って欲しい。

「そんな……酷いわよエヴァンジェリンさん!!」

猪突猛進娘神楽坂が声を挙げる。

「前半はともかく後半は嘘だ!! コイツが勝手に服を脱いだだけだ、大体傷もつけずに服だけを無くすような事をわざわざ私がすると思うか?」

うげ……確かにその通りだよ。

「と……ともかく、ネギ君後は任せた。俺はもう疲れたからそこら辺で休ませてもらうよ」

そう言い残して逃げるように鉄柱の後ろへと移動する。

鉄柱に背を預けて座り込むと同時に一気に色々な事が湧き上がる。

「俺はあの瞬間何を考えた?」

――何故殺そうなんて――

開いた右手を見つめながら呟く。

「何故だ、俺は時間稼ぎだけをする筈だった。それで良い筈だった」

『違うだろう?』

ドクリと体内の何かが跳ねた。

『お前は天性のヒトゴロシだ』

「……違う」

……頭がイタイ

『先生も勇も千晶も殺してきたんだろう?』

「……そうだ。けどアレは仕方が無かったんだ」

『仕方が無い? ならばお前はあの瞬間に悦びをかんじなかったのか? お前はコロシに誰よりも長けたもの、オマエは人だろうとアクマだろうとこれからもただなんの理由も無く己の快楽の為だけに殺していくだけだ』

「違うっ! 俺は……確かに俺は命を奪う事しか出来ず、俺の手はこれからも血に濡れるだろう、だが俺はそれでもここで得た新しい大切な人を守る。一時の衝動に任せて守るべき人を傷つけるなんて絶対にしない」

頭をガツンガツンとアスファルトにぶつける。

それでも中からの頭痛は紛れてくれない。

『つまりお前は守る為に殺すと言う事か? 戯言を言うな。といっても今は言った所で無駄か、だが忘れるな。お前は殺すことに何事にも代えがたい快感を得る、そしてその快楽を知ったお前は抜け出せん。そしてお前にそんな資格が在ったからこそ俺は存在している』

そこで俺の中からの声はパタリと途絶えた。

「なにやってんですか旦那?」

未だ息も整いきらぬ俺に声が掛かった。

「……カモ……か。いやちょっとな」

足元にはいつの間にやら心配そうな顔のカモが居た。

「ふぅん……そうっスか。それにしてもスゲェじゃねえですか。あの元600万ドルの賞金首『闇の福音』とその従者を単独で相手にして生き残るなんて」

カモが尊敬の念がこもった目でこちらを見てくるが……。

「…………別にそんなに言われるほど大した事じゃあない」

アイツは未だに掛けられた呪いによって魔力が低下している。

今日この晩だけはその呪いは和らいでいるとはいえ、その呪はエヴァンジェリンを縛っている。

だが戦って分かったのはあいつの怖い所は膨大な魔力じゃない、アイツの真骨頂はその『闇の福音』とまで恐れられるに至った戦闘経験にある。

従者の攻撃に合わせて、最善のものを詠唱の時間までも考慮に入れ発動し最高の瞬間に放つ。

全盛だったならばなれない魔法体系もあり俺とて多少の手傷は負った可能性はある。

しかし、俺との戦いで消耗した今ならばネギ君一人だったなら危ないだろうが神楽坂との二人がかりで挑む以上そうそう敗北はしないだろう。

「いやーー謙遜が過ぎますぜ旦那。そんな台詞を言えるってだけでもスゲェですよ」

カモがしきりに俺を褒め称える。

そこまで褒められて、俺の暗くなっていた頭が幾分和んだ。

「それよりも今はネギ君だろう? どうなってる?」

「それなら大丈夫ッス。ネギの兄貴も姐さんも堂々渡り合ってます」

顔を上に向ければ、暗闇に閃光が舞う。その下の俺の立っている場所から数十m離れた所では神楽坂と絡繰が殴り合っている……女子にあるまじき姿だな。

「なあカモよ。神楽坂は本当に……人間か?」

絡繰と格闘戦を繰り広げている神楽坂の動きは、一般人の動きどころか少し人間の範疇を超えていないか?

「姐さんは兄貴と仮契約して兄貴からの魔力供給によって身体能力が底上げされてるんで……それにしてもあの体術は一体?」

あの異常な身体能力はカモの言う仮契約とやらのもの……そこは納得できる。

……が女子中学生がいくら喧嘩慣れしていてもあそこまでの動きはできない……筈。

そこで断定できないのはウチのクラスには色々と曲者揃い。あの中は何でも在りの様な気がするからだ。

「『来れ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐』」

「『来れ氷精 闇の精 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪』」

下の神楽坂の戦いに目を奪われているうちにどうやら上空の戦いはクライマックスに突入して居るようだ。

「同種の魔法の打ち合い!? しかもアレは兄貴の覚えてる中で一番でかいの。エヴァンジェリンの奴撃ちあう気か!?」

説明台詞を有り難うカモよ。

神楽坂も絡繰も雰囲気を察したのだろう、お互い戦いを止めお互いの相方の動向を見守っている。

「『雷の暴風』!!」

「『闇の吹雪』!!」

闇夜が光に染まる。

二人から放たれた魔力で編まれた嵐は両者の間でぶつかり、せめぎあっている。

「くぅぅっっ」

顔だけを見ればネギ君の方が押されているように見える。

だが実際にはエヴァンジェリンの方にもそこまでの余裕は無いだろう。

アイツは俺との戦いでそこそこ消耗している筈。

それを見せないのは真祖としてのプライドとかそういったものだろう。

拮抗は続き、辺りにはぶつかり合う魔法の余波の風が吹き荒れる。

そしてその拮抗はいとも簡単に崩れ去る。

「へっくしょん!!」

「へ?」

そう。おもわず情けない声をあげてしまうほどに。

決着理由がネギ君のくしゃみとは情けない限りだが、確かにネギ君の魔法がエヴァンジェリンの魔法に打ち勝った。

その結果は……

「わわ!! エヴァンジェリンさんの服が……ごっごめんなさい」

エヴァンジェリンの服を吹き飛ばすだけに終わった。

なんだ、人には服だけ無くす器用な真似は云々言っといて自分は何なんだよ。

そんな場違いな感想を俺はその姿に抱いてしまった。

……興奮? あんな身体に興奮するような性癖は持ち合わせておりません。

「……やるじゃないかボウヤ。だが、これからだ!!」

エヴァンジェリンが再び戦い始めようとした時。

「キャァ」

エヴァンジェリンの身体に何かが走った。

「停電の復旧が予定より7分27秒早い!? マスター!!」

俺はその絡繰の珍しい慌てた声。

ここまで慌てる理由は今の状況のエヴァンジェリンが魔力を再封印されると危機に陥るからだろう。

そこに思い至った瞬間。俺の脚はもう動いていた。

――間に合え

アスファルトを踏み砕きながら疾走。

動き出そうとしていたネギ君を抜き去り、絡繰を抜き去り、橋げたから川へと飛び降りる。

俺の行動が早かったのが良かったのか落ちる俺の少し下でエヴァンジェリンは落下していた。

だが自由落下に任せているだけでは近くとも追いつけない。

故に俺は足元に魔力を集め足場としてそれを蹴る!!

下方向に加速された俺はエヴァンジェリンの手を掴み取った。

そして上を見てネギ君がやってきているのを確認して

「ネギ君受け取れ!!」

エヴァンジェリンを上に放り投げた。

これでエヴァンジェリンはネギ君が救出するだろう。

それよりもさし当たってはエヴァンジェリンを上に放り投げた事によって更に下へと加速した俺。

轟々と風が顔に当たるのを感じながら意識を集中する。

「サモン!!」

水面ギリギリに巨大な影が現れる。

俺はその影に降り立ち、指示を出し上へと上げてもらう。

「よーう。そこの仲の良さそうなお二人さん大丈夫だったか?」

橋の上まで出たところで睦まじげに頬を引っ張ったり引っ張られてたりする子供先生と吸血鬼に声を掛けた。

ちなみに神楽坂はあきれ果てた表情で、絡繰は無表情にそれを見ていた。

「あっ! ふひふぁっふぁんへふねほうほうへんへい」

訳すと「無事だったんですね藤堂先生」だろうか?

「酷いなぁネギ君俺の事忘れたのか?」

「いえ……そんな事は」

目をわざとらしく逸らして頬引張りからも逃れたネギ君。

おおかた理由はエヴァンジェリンを上に運んだ所で何か絡まれてその結果俺のことが思考の外に持っていかれたとかだろう。

「貴様……ソイツは何だ?」

頬引張りを止めたエヴァンジェリンの目がこちらを向く。

ソイツとは俺の乗っている仲魔の事だろう。

「コイツは……フォルネウス。俺の仲魔」

俺の足元には巨大なエイの姿のアクマ『堕天使 フォルネウス』

「フォル……ネウス……だと? ソロモン72柱の悪魔の一つを従えているというのか?」

「『フォルネウス』ソロモン72柱の悪魔に名を連ねる悪魔。爵位は公爵、地獄の29の軍団を従え召喚したものに主に言語学を教えるとされています」

俺の足元に居るのは絡繰が正確な説明をしてくれた通りの存在。

だが、別に俺には言語学は教えてくれませんでしたがね。

「あーー。説明はめんどくさいからまた明日でもしてやるわ。今日の所は疲れたし俺はもう帰って寝る、フォルネウスあっちの方の森の中に家があるから頼む」

「ちょっと待て貴様!!」

聞こえない聞こえない

フォルネウスの背中から見た麻帆良の街の明かりはやはり綺麗だった。











今回のNG

「食らえ!『魔法の射手 連弾・氷の27矢』!!」

今まで何事かを後方で呟いていたエヴァンジェリンが声を挙げた。

俺に迫る氷の弾丸その数27本、エヴァンジェリンが詠唱で何を詠唱したのかは俺にはついぞ分からないが結果がこれ。

「ふっ!!」

右後方へと跳躍という回避行動をとる……が

「馬鹿め……逃すか!」

まるで生きているかのように27本の弾丸はそのベクトルを変えこちらへと向かってくる。

これは……前もって考えていた対処法を使うか。

「こぉぉーーーい!!」

召喚された仲魔の熱量によって氷の弾丸は全て気体と変わる。

スタリと着地し、遅れて落下してきた仲魔を右手でキャッチ。

「貴様……何だソレは?」

俺の右手の仲魔に対しての疑問の声

「ホレ、自己紹介しなさい」

俺のその声に右手の上の仲魔は

「オレ外道マーボーコンゴトモヨロシク」

そんな返事をした。

「マーボー!? 何故麻婆豆腐がしゃべってるんだ!?」

説明しよう! マーボーはボルテクス界で見つけたラー油と唐辛子に生贄としてブロブを加えて合体事故が起こった結果に生まれた特殊生命体だ!

どんな敵であろうとマーボーに触れて無事だったものは居ない俺の切り札的存在だ。

「フハハハハ! そんな事はどうでもいいだろう。行けいマーボー」

置いた皿から紅蓮の蒸気が立ち上る。

ボコボコと煮え立つマーボー。

まるで世界の全てが紅に染まったかのような錯覚を与える。

「グヌウ。オレサマオマエラマルカジラレル!!」

そして皿から触手のごときマーボーの身体が飛び出した。

「くっっ『魔法の射手 氷の17矢』!」

エヴァンジェリンが愚かにも迎撃しようと試みる

だが、マーボーの熱量の前にはその程度の魔法など児戯に等しい。

マーボーに触れる事さえ出来ずに昇華していく。

「マスター!!」

絡繰が前に立ち行く手を塞ぐが、マーボーは流動物。

ヒラリと絡繰を避け驚愕の表情を浮かべるエヴァンジェリンの顔に

――――べちゃり

生々しい音と共に張り付いた。

「うぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁあーーーーーーー」

エヴァンジェリンのこの世のものとは思えぬ悲鳴が響き渡る。

エヴァンジェリンの冥福を祈りながら、俺はネギ君にこの状況をどう説明しようか考え始めた。

終われ











―――あとがき―――

マーボーネタが書きたかった。後悔はしていないが、スルーしてくれて構わない。

という訳でようやくの最新話の公開です。

今日はたまたま用事が無かったので幸いにも二日続けての更新となりました。

いやそれにしても長かった……本当に長かった。

なにが長いって、前話を投稿してからも長いし、書いてから添削してた時間も長いしとにかく長かったです。

そしてエヴァンジェリン編、決着です。

次回からは日常にしばらくもどってそれから修学旅行編に入ります。

中々更新出来ないかもしれませんが、長い目で見てやってください。

それでは感想、批評、なんでも良いので意見頂けたら幸いです。

人修羅先生! 人修羅先生! 十七話

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