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第1話 並行世界へいってらっしゃい 投稿者:夏野竜輝 投稿日:06/16-00:48 No.751
ギザロフ戦役・ペイリア戦役を経て、星は少しずつではあるが安定に向かっている。
とりわけ、イェレス大陸のカコンシス王国はシェルファニール女王の下で早くも黄金期を迎えていた。
前国王があまりにも愚鈍であったためか、現女王のシェルファニールは共に戦った仲間達を登用し、様々な改革を行なった結果と言えよう。
中でも新将軍は若干15歳の少年と17歳の少女である。
さらに大使は18歳、女王に至っては17歳と、若々しさ溢れる布陣だ。
彼女らをサポートするのが、元々仕えている提督と女将軍を始めとする臣下となる。
さて、本日はカコンシス王国のランディウス大使が古代魔法文明の遺跡調査をしている時に起こった事件を語ろう――――
第1話 並行世界へいってらっしゃい
つい先日、カコンシス王国エイムズ地方で古代魔法文明の遺跡と思しき地が発見され、ランディウス大使率いる調査隊が派遣された。
何故大使であるランディウスが調査をしているのかと諸氏は疑問に思われるかもしれないが、それは彼が所属するカコンシス王国は特殊な国であるためだ。
先のギザロフ戦役後に大使となったランディウスはペイリア戦役時、カコンシス王国軍の先頭に立って戦っていた。
本来なら各国との交渉を担当するはずだったのだが、ペイリア戦役が起こり、前戦役での功績を買われて軍を率いていたのだ。
この事もあって、各国はカコンシス王国の大使を外交・軍の両方に関わる地位と認識しているらしい……誤解とは恐ろしいものだ。
些か何でも屋という雰囲気もあるが、当のランディウスは気にせず職務に励んでいるので、それでいいのだろうが。
話を戻そう。
エイムズ地方の遺跡に到着した調査隊はクリムゾランダーの協力を得て、大方の調査を終えていた。
「大使。この遺跡は召喚装置になっているようです」
「召喚装置? 何かを召喚するためのものか?」
「恐らく」
と、その時、通信機が鳴り始めた。
「はい……はい、いらっしゃいます……はい、了解しました」
調査員が通信機を持ってくる。
「ヴィラージュ様からです。遺跡について話したいことがあると」
「分かった」
ランディウスが通信機で話し始めた。
「こちらランディウス」
『久しぶりだな。女王陛下達は壮健か?』
「ああ、こっちは問題なくやっているよ」
『それはなによりだ……ところで、遺跡のことだが』
「……」
『こちらで調べてみたが、あれは召喚装置で間違いない』
「どんな効果があるんだ?」
『召喚師が行なう術式の構築を代用する。それにより、召喚師の負担を減らすことができる……ファイアー1発分の魔力で済むくらいにな』
「へぇ、便利だな」
『ただ、あれは一般人でも使用可能というものだ。もし悪用されでもしたら、とんでもないことになる』
その言葉を聞いたランディウスは冷や汗を流した。
一般人でも使用可能――――由々しき事態である。
ヴィラージュによれば、どんな存在を召喚する場合でも消費魔力は同じだそうだ。
例えばだが、魔族が混沌神カオスをを召喚したとすると……世界が滅亡の危機に陥る。
創世記に起こったとされる聖戦の再来にもなりかねない。
『そういうわけだ。これからそっちに手勢を連れていくから、それまで守備を頼めるか?』
「ああ、任せてくれ」
『あれを下手に起動させられることは避けなければな』
「こっちでもシェルファニールに援軍を要請しておくよ」
『頼む……それと、あれは誤作動を起こすこともある。その時は周りにいる者が、こことは違う並行世界に跳ばされるから注意してくれ』
「了解だ」
『範囲は遺跡内部全域の生体反応を持つ者に及ぶ。気をつけろ』
通信を終えたランディウスは援軍要請の書簡をしたため、早馬を出した。
「この遺跡が公になったらマズイな……この事は最重要機密とする。いいな?」
「はっ!」
「よし、皆は休憩を取ってくれ。俺はもう少し調べてみる」
「大使、護衛は?」
「大丈夫だ。少し見回る程度だよ」
「はぁ、そうですか……」
調査員を見送った後、ランディウスは遺跡の奥を調べ始めた。
地下5階まで来たあたりで、空室に辿り着いたので、壁の音を聞き比べてみる。
「ん? これは……」
壁を叩く音が、他とは違う箇所がある。
そんな時、今は他国で将軍をやっている戦友の言葉が脳裏を過ぎった。
『壁の音が違うなら、そこを押してみな。回転式なら中にはお宝があるだろうぜ、大将』
戦友の言葉通りに押してみると、僅かに動いた。どうやら回転式のようだ。
ならばとランディウスは力押しで回し始めた。
「こ、これは……!」
中には金貨やインゴットを始め、魔力が付与された剣などが山と積まれていた。
カコンシス王国の年間予算を軽く上回るのではないかと考える。
「凄いな。これも報告しておこう」
早速報告の書簡をしたためるために戻ろうとする……が。
ヴンッ……
鈍い音が響いた。
「何だ?」
『装置ノ起動ぷろぐらむヲ可決シマシタ。コレヨリ起動態勢ニ入リマス。尚術式ハ10秒後ニ起動スルノデ、関係者ハ速ヤカニ退去シテ下サイ』
「ちょ、ちょっ、ヴィラージュが言ってた誤作動か!?」
哀れランディウス。宇宙意思は彼を新たな舞台へと招きたいらしい。
「待て、これ以上のバイオレンスはいらないぞ!」
諦めろ。
大使ならジタバタせずに行ってこい。
「そんなご都合主義じみたことが認められるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう叫ぶと、ランディウスは持てるだけのお宝を持った。
並行世界で金策に悩まないための、とっさの行動だ。
『○○○の世界へいってらっしゃい』
笑って○ラえての、所○ョージの声が聞こえたような気がした。
麻帆良学園、夜――――日夜出撃するイカレた魔法使いや妖魔が跳梁跋扈する時間だ。
「GEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「今日こそ、ここを取らせていただきますよ」
麻帆良の占領を目論む魔法使いは大量の妖魔を召喚し、侵攻を始めた。
しかし、それを座視しない者もいるわけで――――
ドンドンドンドン!!
「神鳴流奥義、斬魔剣!」
妖魔は頭部を銃弾に撃ち砕かれ、剣で斬り飛ばされた。
この区画担当の警備員が攻撃したようだ。
「相も変わらず邪魔してくれますね、お嬢さん方」
「貴様の思い通りになると思うな!」
少女剣士が次々に妖魔を斬り、遠方からの銃撃が撃ち貫く。
状況は魔法使いに圧倒的不利。
しかし、その魔法使いはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべていた。
「やはり、この程度では太刀打ちできませんか……」
「今日こそ退治させてもらう!」
魔法使いを昏倒させようと少女剣士は一気に間合いを詰める。
「神鳴流奥義、斬て「甘いっ!」」
魔法使いの腹から、突然何かが飛び出してくる。
それに驚愕するものの、少女剣士は奥義をキャンセルして回避運動に移った。
「くっ!」
「惜しいですねぇ」
間一髪のところで飛び出てきたものから回避に成功。
そのまま少女剣士が間合いを取った。
「妖魔を取り込んだか……!」
「その通り。ここを占領するためには手段を選んでいる暇などないんですよ」
魔法使いの腹から出てきたのは妖魔の腕だった。
さながらオーガのようなそれは、脈打つごとに痙攣している。馴染んでいないのだろうか?
「今回は純粋な力だけが目的故、自我を保てるというわけです」
それを聞いた少女剣士は躊躇なく、瞬時に間合いを再度詰め、妖魔の腕を一刀のもとに斬り落とす。
ズズン、と音を立てて落ちる妖魔の腕。
切り落とされても尚痙攣するそれは、さながらにして妖魔のしぶとさを物語っているかのようだ。
そして、雨霰と銃弾の嵐が降り注ぐ。
1発ごとに人でいうところの急所に狙い済まされたそれは、魔法使いのあらゆる箇所を打ち付ける。
しかし……
「さすがは退魔士。妖魔を取り込んだ私は、もう人間ではないということですか?」
「……」
「ダンマリとはノリが悪いですね」
依然余裕ある魔法使い。
当たったはずの弾丸は全て魔法使いの足元に穴を穿ち、その身に一寸の傷すらつけていない。
うっすらと赤く透明な壁が魔法使いの周囲に張り巡らされている。
其れ即ち魔法障壁!
「とはいえ、腕を落とされては都合が悪い……返してもらいますよ」
切り口から青い血が伸び、落とされた腕と繋がる。
気味の悪い音と共に魔法使いの腹まで戻ると、瞬く間に結合した……再生能力も兼ねているらしい。
「おや、驚かれないのですか? つまらないですねぇ……まぁいいでしょう。簡単に申しますと、お嬢さん方では私を倒せないということですね」
「そうかな? 再生の暇もなく切り刻めばいいだけの話だ」
「正論ですが、お嬢さんにできますか……っ!?」
突如、飛来する稲妻。
轟音を立てて地面に突き刺さるそれは、魔法使いのもの。
無詠唱のそれは妖魔の影響もあってか、着弾した先の岩をも粉々に砕いた。
「当たれば終わりですよ、お嬢さん?」
銃弾は魔法障壁に弾かれ、斬撃はさした効果を上げられない。
接近しようにも妖魔の腕が邪魔になり、離れれば雷が飛んでくる。
(……どうする?)
少女剣士は方策を考える。
1.このまま攻撃を続け、活路を見出す。
2.援軍が来るまで持ち堪える。
3.この場を放棄する。
次に、方策の結果を検索。
1.持久戦に縺れ込む。
2.誰が援軍かで展開が激変する。
3.一般人に危機が訪れる。
最後に、どの方策がベストか検討。
1.未透明。相手の出方次第では良くも悪くもなる。
2.事態が好転する可能性がある一方で膠着状態になる可能性もある。
3.論外。勝利条件が敵の殲滅である以上、絶対にない。
決定、1と2。同時に取れるからだ。
すると、魔法使いが嘲笑してくる。
「世の中、そうそう都合のいいことは起こりませんよ。お嬢さん方の待つのは、敗北と……そして絶対の死というシンプルなモノです」
そう、現状では凌げているが……魔法使いの言う通り、このままではいずれ敗北……いや、この魔法使いが自分達を見逃すことは無いだろう。
「万が一、奇跡が起これば話は別ですが…………っ、何!?」
突如、少女剣士と魔法使いの間に魔法陣が現れた。
蒼白い光を放つと、辺りには正視できないほどの眩しさがもたらされる。
カッ!!
光が収まり、ようやく目を開けてみると――――お宝に埋もれたランディウスがいた。
「…………」
「…………」
少女剣士と魔法使いがフリーズしている。
膨大な魔力が放たれたと思いきや、何とも緊張感のない事態が起こっているのが原因だろう。
(ここはどこだ!?)
一方のランディウスも混乱している。
遺跡の誤作動で並行世界に跳ばされたまでは分かるのだが、この世界のことなど何一つ分からない。
仕方ないので、状況を確かめてみる。
(剣士と魔物が戦闘、遠距離から援護してるのが1人……弓兵か?
見た感じは魔物の方に非があるようだが……)
ランディウス達の世界では銃がないので、遠距離攻撃がイコール弓となる。
また魔物に魂を売る連中は珍しくないので、即魔物と判断した。
(なら、剣士に加勢するべきだな。後でこの世界のことを聞いてみよう)
剣士の方に向くと、ランディウスはよく通る声を発した。
「そこの剣士、俺は君達に加勢する! あの魔物は敵で間違いないな!?」
「は、はい!」
つい返事したものの、少女剣士はランディウスへの警戒を緩めない。
(あの男、できる……魔力もそこそこありますね)
少女の直感がランディウスに技量を訴えているのだ。
ちょっとカッコ悪い登場だったので、ランディウスはコホンとわざとらしい咳払いをする。
「おい、そこの魔物」
「失礼ですね。私は人間ですよ」
「魔物に魂を売った時点でお前は魔物に分類される。そのくらい分からないのか?」
「……無礼な方ですね。ひとつ教育してさしあげましょう」
魔法使いが雷を放ってきた。
「レジスト」
まともに喰らうが、ランディウスの鎧に焦げ目がついたくらいの効果に留められた。
「っ! バカな、この魔法を防いだというのですか!?」
「今のは俺の耐性を上昇させただけだ」
そう言うと、ランディウスは魔法使いに掌を向けた。
「悪いが手っ取り早く終わらせてもらおう……君、魔物の足止めを頼む!」
「分かりました!」
少女剣士が魔法使いに攻撃を仕掛け、その場から離れられないようにする。
絶え間なく斬撃を放つことにより、再生に専念させているようだ。
そして、ランディウスはその場で瞑目し、軽く前に差し出した右手に意識を集中していた。
夜闇の中で光の粒子がそこに集まり、徐々にその大きさを変えていく。
「なっ!」
ランディウスの掌に集まる魔力を感じ取った魔法使いは、本能レベルで危険を悟った。
漠然とではあるが、アレを喰らってはいけない、と……
「逃がすかっ、破亜っ!」
「くぅっ、ちょこまかと……ガァッ!」
今すぐにでも逃げたいところだが、少女剣士がそれを許すまじと剣が振るわれ、小柄な身であることを利点に魔法使いの反撃を回避。
攻撃を振るった隙をぬって、傷口に銃弾が絶え間なく撃ち込まれる。
先程とは違ってダメージが蓄積している。何かの加護が付与されているものに代えたのだろう。
「喰らえっ、ブラストぉっ!」
ランディウスが掌に集まった魔力を魔法使いへと解き放つ。
と、同時に少女剣士も離脱する。
ズドンッ!!!!!
まるで隕石が落ちたような轟音と一瞬のまばゆい閃光。
巻き上がった煙が晴れると、そこには粉々になった魔法使いが奇声を発しながらも再生を始めていた。
「グ、ガガ……コ、こんな魔法は……知り、ませン……貴方は、ナ……にモノ……」
「お前が知る必要はない、とっとと消えろ。ホーリーブレイズっ!」
魔法使いは銀色の炎に焼かれ、徐々に崩れていく。
ランディウスはそれを冷たく見下ろしていた。
「ふ、カクテ……い、要素が……こレ、もよ……くし、力ですか……」
完全に崩れ落ち、辺りの魔素が霧散するのを確認したランディウスはゆっくりと少女剣士に向き直った。
「さて……」
「っ!」
少女剣士は油断なく身構える。
手助けしてくれたとはいえ、少女剣士にとってランディウスは正体不明の危険人物なのだから。
「ここはどこか教えてくれないか?」
「……は?」
――――少女は思わず固まってしまった。
ランディウスは学園長室の前に案内された。
何しろこの世界のことがさっぱり分からないので、少女剣士と少女ガンマンが頭を抱えてしまったためだ。
ちなみに、少女ガンマンは自分の存在に気付いていたことに驚いていた。
(剣士が桜咲刹那、弓使いが龍宮真名……桜咲さんに龍宮さんか)
自己紹介した後、詳しいことは学園長室でということになったので、大人しくついてきた……ついてこざるを得なかった。
ランディウスには情報が少なすぎるのである。
ちなみに、ランディウスは漢字を読むことが出来る。
元の世界の東にある島国・日本皇国(現代で言う日本)へ行った時に学んでいたのだ。
大使たる者、国交を結んでいる国の言葉を喋れなければならないないし、喋れて当たり前である。
「失礼します」
学園長室に入ったランディウスは、瞬時に場の空気を悟った。
自分を警戒している――――
(無理もないな。並行世界から跳ばされる、なんてないだろうし……それにしても)
場にいる者の実力は、少なくとも自分の世界の将軍クラス……何故教育機関に?
そんなことを思っていると、部屋の中央の席に座る老人が口を開いた。
「フォッフォッフォッ、魔法陣から現れたのは君かね?」
「ええ」
「ふむ、そうか。ワシはこの麻帆良学園の学園長・近衛近右衛門という」
「(俺の地位はほとんど無意味な気がするが……)俺はランディウス。カコンシス王国の大使です」
大使、という単語に一同は驚きを隠せない。
パッと見20にもならない青年が大使と言うからだ。
「して、そのカコンシス王国というのは?」
「それは……」
自分の世界のことを説明するランディウス。
その代わりに、この世界のことを説明してもらう。
「ふむぅ、するとお主はここに跳ばされてきた……そういうことになるのぉ?」
「そうですね。ついでに言うと、多分帰れないと思います」
サラッととんでもないことを言うと、一同はまた驚いた。
「……」
「どうしたんです?」
「いや、自分であっさり帰れないって言ったもんじゃから……」
「ああ、そのことですか」
二戦役後に古代魔法文明が遺した遺跡で非常識な事象を、それこそ腹いっぱいになるほど見てきたランディウスにとって、この状況はさして驚けないものだった。
「随分余裕があるようじゃの」
「まぁ仲間達が召喚装置を解析して、ここに来るかもしれませんし……来ないならそれで仕方ないなぁと」
帰りたくないと言えば嘘になるが、この状況ではジタバタしても意味が無いと判断しているようだ。
そして、ランディウスは魔法に対する扱いにもそれほど驚かなかった。
元の世界では魔法が公に認知されているからだ。大っぴらに行使する者はたまにいるものの、大多数は隠匿しているが。
ただ、ランディウスが【テレポート】、【メテオ】、【アースクエイク】といった強力な魔法をあっさり使いこなすことは喋っていない。
戦友間では当たり前だったが、やはりそんな者は少数派だったからだ。
このことは、いざという時のためのカードにするつもりである。
まぁ、実は【ブラスト】の方がもっとマズイのだが、見られたのでもう遅い。
「それで、これからどうするつもりじゃね?」
「う~ん……」
(チャンス!)
ランディウスが悩んでいるのを見て、近右衛門は好機と悟った。
「予定がないなら、ここで働かんかね?」
「え、は? いいんですか?」
一同は三度驚いた。
「ちょうど人手が足りなくてのぉ。1週間後に赴任してくる教育実習生のクラスの副担任と警備員をやってもらえんかな?」
「……警備員は構いませんが、副担任は……俺、自慢じゃないですが学はありませんよ」
学がない、というのはこの世界に当て嵌めた場合の事だ。
元の世界では大使になった関係上、それこそ毎日がグゥの根も出ないほど勉強に次ぐ勉強だった。
よって、学は充分にあると言えよう。
「いやいや。副担任といっても、主な仕事は実習生の精神面におけるサポートとクラスの雑用じゃよ」
「なるほど……分かりました。受けましょう」
「おおっ、やってくれるか! よかったよかった、これで懸案が片付いたというものじゃ!」
「懸案?」
その単語に眉を顰めるランディウス。
「あーいや、こっちのことじゃ、気にせんでいい」
「そうですか。ところで、住む所は……」
ぶっちゃけ、現在進行形で宿無しのランディウス。
麻帆良学園にで職に就く以上は居住地がないと話にならない。
それを分かっている近右衛門は早速居住地を口にする。
「うむ、女子寮の管理人室じゃな」
「…………」
あまりにも意外な言葉に、ランディウスは二の句を紡げない。
「い、いや、それはいくらなんでも……ええっ!?」
「警備の担当区画は女子寮周辺じゃから」
「え、その、なん……で!?」
おもしろいほど動揺しまくるランディウスを見て、近右衛門は忍び笑いを堪えるのに必死だった。
まぁ腐っても関東魔法協会の理事。周囲への防音対策(聞かれたくないものに限定)はバッチリである。
「で、待遇はこんなもんでどうかの?」
近右衛門が提示した条件は以下の通り。
1.支度金50万
2.魔法先生基準の月給
3.年2回の賞与
4.警備員として任務を完遂する度に内容準拠の報酬
5.有休・夏季冬季休暇(緊急招集には従う)
6.各種保険・福利厚生完備
7.戸籍の用意
8.(時間は掛かるが)教員免許の付与
言うまでもないが、ランディウスはあっさり首を縦に振った。
「では桜咲君、龍宮君。ランディウス君を案内してくれぃ」
「分かりました……ランディウスさん、ついてきてください」
3人が退室した後、真っ先に異議を唱えた者がいた。
魔法先生の中で強硬派に位置付けられるガンドルフィーニだ。
「学園長、一体何を考えいるのです!? この時期に素性の知れない者を雇うなど……!」
「なら、お主はランディウス君相手に勝てるのか?」
「っ!」
言葉に詰まる。
先の戦闘でランディウスの実力が折り紙付きであるのは周知であり、まだその全貌が判明していないのも手伝って。
近右衛門は溜息を吐いた。
「聞けば、彼は純エネルギー弾を使うとか。あれの破壊力は上級魔法以上じゃぞ……それに魔法名だけで発動するとか」
「なっ、何ですと!?」
「彼は魔法だけしか使っておらんが、剣の腕も立つじゃろうな……もし敵に回せばどうなるか?」
「…………」
「じゃから、彼にはここでいてもらった方がいいのじゃよ。こちらのメリットは大きいし、関西呪術協会の強硬派も牽制できる」
再来月の、京都への修学旅行では強硬派の妨害が予想されるため、それへの対抗手段とするつもりらしい。
同時に関東魔法協会の強硬派にも暗に圧力を掛けるようだ。
「それに……」
「それに?」
「彼ほど女難の相に満ちた者は知らん」
そっちが本音か! とツッコミを入れられたのは明白である。無論心中でだが。
「仮にも一国の大使じゃから、それほど心配することはあるまいて……よいな?」
近右衛門が睨みを効かせる。
「では、これで解散とする……すまんが高畑君は残ってくれ」
今、二戦役を戦い抜いた英雄の学園生活が始まる――――
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