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第3話 英雄VS真祖 投稿者:夏野竜輝 投稿日:06/22-15:55 No.781
Interlude
「この世界の寿司も美味いな」
真冬の昼下がり、俺は学園都市の寿司屋【江戸前】にて昼食を取っていた。
何が江戸前なのか分からないが、本場の職人が握ってるだけあって味と値段も半端ではない。
「シャリに噛み応えがあり、具は新鮮……さすが日本だ」
平日のこの日、こんな高級店にいるのは余程の金持ちな暇人くらいだろう。
しかし、俺は来ている。
勉学が一息ついたので、こうして寿司を味わうために……
「先生、ご馳走様。おいしかったよ」
「ありがとうございました」
いや、今自分の置かれた状況を少しでも忘れたくて……決して悔し涙なんかじゃないからな!
いけしゃあしゃあと俺の背中に向けて放たれる言葉。
礼儀正しいように見えて、何を今更といったところである。
そして……
「あ、会計はこの方が払ってくれるので……」
「さすが先生、太っ腹!」
褒めてない。絶対にそんな気持ちなんてない。
朝・昼・晩と気づけば、準備の済んだ食卓にいつも現れるこの2人。桜崎刹那と龍宮真名。
どちらも見た目は真面目で硬そうな印象を受けるのだが、そんなことなど何処吹く風よといった感じで俺の目の前に現れる。
いつの間にか俺の住居である管理人室には、2人分の茶碗と箸が置かれていた。
あまつさえ急須と湯のみさえも常備し、俺が勉強しているその前でお茶タイムが開かれる。無論、俺の懐から拠出して買った茶葉で。
一度、お茶の葉を切らしたことがある。そしたら……
「ふぅーっ、それは男性として如何なものかと思いますよ……」
「使えない人だな……」
……思いっきり罵倒されました。
そんな日々が続く中で、俺のストレスは溜まる一方。
ちょうど任務完遂の報酬が入ったので、気分転換をしようと思ったのだ。
俺を食料配給所だと思っているあの2人を撒いて美味しいものでも食おうと、奴らの授業が終わる前に管理人室を出たのである。
入ったのは、店の雰囲気からしてオーラ漂う一軒の寿司屋【江戸前】。俺の世界にも同じようなものがあったことからして、味の方も期待ができる。
ガラリと店の扉を開け、カウンターに座ること数秒。
目線のみで注文を問いかける店主に、
「お任せで……」
と、カッコよく注文。
返答も無く愛想も無い店主だが、寿司を握るその姿は熟練の極みそのもの。
スッと置かれた寿司を、ちょいと醤油につけて一気にほうばる。
「美味い、美味すぎる……!」
これまでに溜まった俺のストレスが一気に飛んでいきそうだ。
2つ目に手を出そうとした時、誰か店の中に入ってきたらしい。ガラガラと扉を開ける音が俺の背中の方からする。
まぁ、そんなことなど今の俺には関係ない。
ゆっくりと掴んだ寿司を口の中に運ぼうとする。
ネタとシャリ。その2つの味の世界が俺の口の中にブワッと広がり、そして俺を夢のような幻想郷に連れて行ってくれる……
「しびを……」
「あ、私はヒラメをお願いします」
はずだった。
聞き覚えのある声。何よりもその2人から逃げたくて、ここに来た。
何故だ? 誰も俺がここにいることなど知らないはずなのに……
「これはランディウス先生……奇遇だね。ご一緒してもいいかな?」
恭しく、それこそ腹が立つくらいに丁寧な言葉で俺に聞いてくる真名。
俺はほうばった寿司の味など忘れて、この2人が目の前にいるという事実に圧倒される。
「な、何故俺がここにいることを……」
「ハァ……ランディウス先生。貴方みたいな目立つ人が外を出歩けば、すぐに分かるよ」
「交番で道を尋ねたそうですね……おまわりさんが噂してました」
「「というわけで……ゴチです」」
……グッバイ、諭吉さん達……おいでませ、逃れられない日々。
「次はトロを……」
「では、私はウニをお願いします」
心の中だけでなく懐に開いた風穴から、入り込んできた臨時収入が抜け落ちていく感触。
もう、何もかもがヤケになってくるような気さえする。
「ええぇぇぇい! 親父、次をお願いしマッス!!」
奴らが何を食おうと知ったことか!
Interlude out
第3話 英雄VS真祖
寿司を堪能し終える(現実逃避)と、精算をすませて店を出る。
午前中は勉強、午後は学園都市の散策を始めて5日――――ほぼその全容を把握し、知人もチラホラ出来てきている。
その間、学園都市の魔法関係者の立ち位置も判断できた。
どの組織にも穏健派・中道派、強硬派・過激派はつきものだが……ランディウス自身は派閥に入る気がない。
ランディウスの立ち位置は秩序・中庸である。
「派閥争いなんてやってる暇があるなら、団結力に回せばいいのにな」
しかしここで、何故か初日のことが思い出された。
あの時、近右衛門は二つ返事でランディウスを迎え入れた(むしろ、何が何でも引き込む勢いだったようにも見える)。
もちろん得体の知れない当人を訝しがる者達もいたが……
「まさか学園長……俺に派閥間の調整役を期待してるのか?」
職務上、外交を担当していたランディウスは交渉を得意分野にしている――――一応は。
外交とは礼服を着た戦争であり、その国の武力が多少なりとも背景となることは世界共通の認識である。
どこぞの国のように、善意には善意が返ってくるなどという甘い考えは通用しないのだ。
ランディウスも例外ではなく、時には粘り強く・時には武力を背景に、暗に恫喝・時には譲歩と、あらゆるパターンで交渉に臨む。
「後で聞いてみるか」
そう決めると、次の目的地に向かう。
目的地は、とある人物……ランディウスが女子寮管理人兼警備員として職についてる学校の、一生徒の住まい。
その生徒は、表では単なる生徒だが……裏では相当の実力を秘めた者。
日常という普通の生活での力ではなく、非日常という名の闇を帯びた力を……
「ええと? 桜ヶ丘4丁目29……一戸建てか。ここからなら目と鼻の先だな」
今日は休日。ならば2-Aの生徒であるこの少女もいるだろう。
ついでと言ってはなんだが、ある件で警告をしておくように要請されているので、それもやっておこう――――
で、目的地についたわけだが。
「へぇ……凄いな」
丸太作りのログハウスがそこに鎮座していた。
何故か大きい樽が2つあり、屋根はレンガで出来ている。
「庵ではなさそうだが、いい仕事をしているじゃないか」
ベテランと思われる職人技に関心しつつ、ランディウスは呼び鈴を鳴らした。
カランコロンと軽快な音が響く。
「5日前に女子寮管理人兼警備員として着任したランディウス=ルナカリバーだ。今日はその挨拶に来た!」
しばらく待つと、扉が開いた。
「ようこそ、ランディウス先生。中へどうぞ」
「……」
応対した少女がメイドだったので、ランディウスは些か焦った。
が、そこは気力で耐えて中へと入る。
(おいおい、このファンシーな空間に俺がいるのは場違いじゃないか?)
「マスターをお呼びしますので、しばしお待ちを」
「あ、ああ」
少女が去ると、ランディウスは思わず天を仰いだ。もっとも、仰いだ先は木で出来た天井だったが……
聞いていた話とはあまりにもギャップがありすぎる。
「学園長、俺の驚く顔を見て楽しんでるんじゃあないでしょうね?」
何故かどこからともなく、ギクッなんて擬音が聞こえたような気がする。
「待たせたな。お前が今度の副担任か」
声と共に入ってきたのは豪奢な長い金髪に軽くウェーブをかけた女の子だった。
しかし、何故か身なりはゴスロリと呼ばれていた黒一色で縁取りが白いレースという衣装。
何よりも、本当にこいつは中学生かと思われるくらい……幼かった。
(ま、まぁ真名はともかくとして、刹那も同じようなもんだったか)
そう思ったとき、何故か背中が寒く感じたのは気のせいだと思いたい。
(そういえば、さっきの子も俺を先生と言ってたな……どういうことだ?)
自分は2-Aの副担任を兼ねることになっているが、それはほとんど知られていないはずだ。
どこかから情報漏洩があったのだろうか。
ランディウスに構わず金髪の少女は続ける。
「じじいから聞いているぞ」
「……そうか」
だったら俺に一言あってもいいじゃないかと思うランディウス。
「なら話は早い。俺は明後日来る教育実習生の補佐として2-Aの副担任も兼ねることになった……よろしくな」
「ああ、適当にやるんだな」
「後、これは学園長からの警告だ。エヴァンジェリン=A=K=マクダウェルさん?」
瞬間、2人の間に緊張が走る。
「『あまりやりすぎないように』、とな」
「知ったことかと言っておけ」
「はいはい……」
そこに応対した少女がお茶を運んできた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
お茶を味わうランディウスは感心したような表情になった。
「これは……」
「どうだ、茶々丸の淹れる茶は?」
「美味い。これはプロの領域だ」
それを聞いたエヴァは笑みを浮かべる。
やはり従者の腕前を褒められるのは嬉しいのだろう。
「絡繰茶々丸さん、だったな?」
「はい」
「いい腕してるな。これじゃ並居るプロ連中も舌を巻くんじゃないか?」
「恐れ入ります」
しばらくまったりした時間を過ごす3人。
1時間程経つと、ランディウスが席を立った。
「さて、そろそろいくか」
「ああ待て」
「何だ?」
用はすんだのでランディウスが去ろうとしたところ、エヴァが呼び止めた。
「私達と戦っていけ」
「……はぁ?」
突然の申し出に、間の抜けな声を出してしまう。
「ナギ=スプリングフィールドに呪いをかけられてるんじゃないのか? 登校地獄とかいう……」
「その件なら心配無用だ。私の別荘なら、全盛期の力を出せる」
「他の関係者に感知されるんじゃ「隠蔽にも優れている」……」
どうあっても、エヴァはランディウスと戦うつもりのようだ。
そんな2人のハラはというと……
(坊やが来るまでに、不確定要素を見定めておく必要があるからな)
(俺、何かしたか? というか、さっさと帰って夕食の準備をしないといけないんだが?)
こんなものだったそうな。
「言っておくが、1時間だ。1時間経ったら俺は帰るからな」
「ほぅ、そんなに付き合ってくれるか……」
「……っ」
エヴァの嬉々とした表情に、ランディウスは何やら薄ら寒いものを感じた。
そう、いつものようにタダ飯を食らいに来るあの2人を怒らせた時のように……
所変わって、エヴァ宅の地下。
「ここで戦るのか?」
「いいや、この中でだ」
エヴァが指差したのは、ミニチュアっぽい何かだった。
ボトルシップ……というよりは、水晶玉の中に何やら家のようなものがある。
その中で戦り合う?
どう考えてもおかしいと思うのが諸氏の感想だろう。
あまりよく分からないようなので、今後はミニチュア家(仮)と表記しよう。
「ん? ……ただの置物じゃない……」
そう言っている間に視界がブレ、浮遊感を感じる。
次には、ミニチュア家(仮)の中と思われる場所に立っていた。
(これはアーティファクトか、それとも古代魔法文明の遺産か?)
元の世界の【古代魔法文明遺産ランク】では、あのミニチュア家(仮)は最高のS級に該当する。
それを所持しているエヴァの実力は相当のものだということを認識したランディウスは、広々とした場に佇んでいた。
「眼下に海があって、この建物自体に手摺りがなく高所にあるのはツッコミどころ満載だと言いたい」
「マァソンナコトハ気ニスルナ」
「?」
何だと思って辺りを見回すと、茶々丸の頭の上に人形が乗っていた。
「今の声は?」
「俺ダヨ、俺」
「……は?」
「そいつは私の最初の従者、チャチャゼロだ」
「ヨロシクナ」
「あ、ああ、こちらこそ」
さすがにチャチャゼロのことまでは聞いていなかったので、些か驚くランディウス。
と、エヴァがランディウスに向き直る……その体からは魔力が溢れ出ていた。
「っ、その魔力は……(魔神クラスは軽くあるか!)」
戦友に魔神がいるランディウスは、エヴァの魔力に冷や汗を掻いた。
最初から全力でいかなければ勝てない、いや負けるだろう……そう判断し、水月のあたりにグッと力を込め、ありったけの魔力を創造する。
「……分かった」
「やっとその気になったか…」
ランディウスが魔力を解放する。
2人の魔力がせめぎ合い、バチバチと音を立て始めた。
そして、背負っていた竹刀袋から剣を取り出す。
「いくぞ、エクスカリバー……!」
「な……なっ! 今、何と言った!?」
エヴァはエクスカリバーを見て驚いた。
それもそのはず、エクスカリバーはアーサー王伝説において最も知られている聖剣なのだ。
近年のゲームでは、人々の願いを星が鍛えた神造兵器とされているなど、あまりにも有名である。
「それは本物なのか!?」
「さぁ? 元の世界で、湖に現れた女神から託されたが……」
その言葉に、エヴァは焦りを隠せなかった。
もしランディウスのエクスカリバーが本物なら、自分は神代の剣を相手にしなければならない……全盛期とはいえ、勝てるだろうか?
「もっとも、これをこの世界に持ってきたことでどんな副作用が出るかは俺も分からないな」
「……」
「ただひとつ、言えることは――――真祖である以上、闇に該当するお前には最大の脅威だってことだ!」
エクスカリバーから膨大な神気が放たれる。
ランディウスの魔力に呼応して溢れんばかりのそれは眩い純白の光を刀身に帯びた。
形成される白い刃。元の刀身の1.5倍の大きさになったそれは、ランディウスの戦闘体勢が完全に整ったことを意味していた。
「始めようか?」
「いいだろう。だがその前に……」
真っ向から睨み合う。
と、その時、ランディウスは一瞬気が遠くなった。
再び意識を取り戻すものの、周囲に変化はない。
「何なんだ?」
「幻想空間――――現世とも別荘とも違う世界だと思えばいい」
「つまり、ここで建造物を破壊しても俺達や別荘そのものに影響はないと?」
「そういうことだ」
「なら……遠慮は要らない、か」
右手一本で構えていた剣を両手持ちに切り替え、其れを真正面、正眼の構えにする。
刀身の先にエヴァを認識、両手に込められた魔力をさらに増加させる。
するとエクスカリバーから放たれる神気がさらに強くなり、陽炎のように揺らめく光を集め始める。
「長く本気を出してなかったからな……いくぞ!」
「来い!」
ランディウスが剣を振り被り、大上段から背中まで剣が振り上げられた。
その剣の軌道がまるで光が走ったかのような軌跡を浮かび上がらせる。
「ぐおぁぁぁぁっ……セイヤァぁぁぁぁぁっ!」
刃筋がぴったりと背中についたところで停止。
気合の叫びと同時に、地面を切り裂かんとばかりに振り下ろす。
剣の軌道は、暴風の如き衝撃波と姿を変えて突き進む。
ドガガガガガガガッ!
解き放たれた純白の刃の軌道は、地面を抉るようにしてエヴァに襲い掛かる。
「フン、衝撃波か……手緩いわ!」
ブン……と、羽虫の羽音のような音を立てて展開される半円状の薄い膜。
エヴァの魔力によって展開されるそれは、向かい来る衝撃波とぶつかり、そして相討つ。
ランディウスの衝撃波を相殺したエヴァ。その表情は余裕の一言。
ランディウスは防がれた1発目に続き、2発3発と次々に打ち込んでいくものの、それらは全て相殺されてしまう。
3発目が相殺された途端、今度はこちらの番だとばかりにエヴァが両手を軽く横に掲げる。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック」
(始動キーというやつか! あの速さならほぼ無詠唱だな)
始動キーと思しき詠唱を唱えた途端、エヴァの両手に蒼い光が急速に帯び始める。
その光の粒子の一つ一つがエヴァの魔力。
エヴァの魔力の膨大さに、背筋に一瞬寒気すら感じる。
(ダテに真祖を名乗っていないということか……)
何が来るかは分からないので、振り被っていた剣を再び正眼の構えに直し、神気の溜めに入る。
「氷爆!!」
「いくぞ!!」
ゴォウォォォォッ!
放たれた蒼い暴風。進んだ軌跡は全て凍土。
冷気すらも切り裂きそうな絶対零度の氷の刃がランディウスに襲い掛かる。
「負けてたまるかっ! はぁぁぁぁぁぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ!」
両手からエクスかリバーへと溜めていた神気を自分の前面に全力展開。
純白の剣を真正面に覆うようにして展開させる。
ドガッ、ガガガガガガガガッ……ピキピキッ!!
「チィ!」
カシャンとガラスのような音を立てて白い光翼が砕け散る。
襲い掛かった氷の刃も同様に砕け散るが、残滓の冷気が守りの無くなったランディウスを覆い尽くした。
(くっ、なんて魔力だ! 全力展開の防御を打ち破り、なおかつ俺の鎧を凍らせるとは!)
「ほらほら、他所事を考える余裕などないぞ!?」
「くっ!」
「リク・ラク ラ・ラック ライラック」
ランディウスの意識化に響き渡るエヴァの詠唱。
同時にランディウスも剣を自分の眼前に立て、魔力を集中させる。
「氷の精霊 17頭 集い来たりて 敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」
「(17の矢か!)セブンティーン・ホーリーブレイズ!!」
さきほどの氷の刃と異なり、17に別れた冷気の矢がランディウスへと向かう。
同時にランディウスが放つ、純白の炎の弾丸。その数はエヴァと互角の17。
エヴァとランディウスを直線状においたそのちょうど真ん中を衝点とし、放たれた弾丸がぶつかり合う。
ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
ドキュキュキュキュッ、ドゴォ!!
氷矢と聖炎が激突した。
ちなみに氷矢は追尾型だったが、全て相殺されたので意味をなしていない。
「このまま撃ち合いってわけにはいかない!(クイック!)」
無意識のうちに無詠唱。
時間が止まったような感覚をそのままに、エヴァへと駆けるランディウス。
スピードを上げたランディウスは一瞬のうちに、エヴァの眼前に現れる。
エヴァの目にはランディウスが一瞬にして消え、自分の目の前に突然現れたかのように感じるだろう。
奇襲成功のそのままに振り被ったエクスカリバーを縦一文字に振り下ろす……しかし!
「な、んだって!?」
「武器を持っていようと、私には通じん!」
エヴァの眼前ちょうど3mmを前に、完全に動きを止められたエクスカリバー。
ニヤリと笑うエヴァ。
絶対必中の一撃が拳と拳で挟まれている。
(この距離はっ、ヤバイ!)
ゾクリと背筋に寒いものを感じたランディウスは一気に剣を引き後退しようとするが、エヴァに挟まれたままのはエクスカリバーはビクとも動かない。
すると、突然引いていたはずのエクスカリバーが逆ベクトルの力に一気に引かれる。
「遅いわっ!」
前へと引っ張られる力に前のめりに引かれ、ランディウスの体勢が大きく前へとつんのめり……
「はぁっ!」
姿勢的に低くなったランディウスの右頬にエヴァの回し蹴りが炸裂する。
「ぐっ……!」
ブッ飛ばされた勢いをそのままに空中で態勢を立て直し、建物を足場に蹴ってエヴァへと一直線に向かう。
ランディウスの意図を読み取ったエヴァも跳躍。
逆方向同士に向かうベクトルが一点に集中し、激突する。
「つあっ!」
「はっ!」
ガキィ!!
拳と拳がぶつかり合う。その力は双方ともに互角。
ぶつかり合った衝撃が2人の距離を引き離す。
間髪入れず、空いた片手に魔力を込め始める2人。一瞬にして各々が持つ魔力の光がその手に宿る。
「小細工なしの魔力だ! 受けられるかな!?」
「上等! 後で泣きを見るなよ!」
同時に突き出された魔力。
ぶつかり合った魔力ががスパークとなって辺りに飛散する。
白い光と蒼い光。
拮抗しあうその2つは互いを押し戻そうと、さらに唸りをあげる。
(冗談じゃない、このままだと押し切られるぞ!)
(力は向こうの方が上か! だが!!)
「「ウオオオアアアアアァァァァァァァッ!」」
2人は同時に気合を入れ、魔力の放出度合を強める。
が、双方共に勢いを増しても均衡は崩れない――――いや、崩れなかった。
許容量が限度に達した力は奔流し、衝点が流れていく。
並行に流れるそれは同時に着弾。2人の予想すら出来なかった至近距離で大爆発した。
ゴアッ……!!!!!
「ぬっ!」
「くっ!」
爆発を至近距離で浴びた2人はボロボロ状態だ。
ランディウスは鎧が砕け散り、右腕に凄まじい裂傷が走っている。
かたやエヴァは礼装が吹き飛び、左腕に裂傷が走ってた。
「やるな……!」
「貴様こそな!」
互いに散ったのが上半身だったのは、せめてもの救いなのかもしれない。
太陽が沈み、月で出て、夜も更けかける――――既に2人は満身創痍といったところだ。
「ク、クククッ……ここまで着いてくるとはな? 人間風情がやるじゃないか」
「ハァッ、ハァッ……ご期待に添えられたか? これくらいの戦場はウンザリするほど潜ってきてるからな」
軽口を叩き合うが、その疲労ぶりは目に見えて酷い。
既にランディウスは剣を構えることだけで精一杯、どんなに多めに見積もっても後一振りの斬撃だろう。
かたやエヴァ。大きく方で呼吸をし、その身に纏うようにして漂っていた魔力の残滓も少ない。次の一撃が最後となるだろう。
「さぁ、これで終わりにしてやるよ」
「それはこちらのセリフだ」
ランディウスのエクスカリバー、エヴァの右手。双方に膨大な魔力が集まる。
(いちかばちか、これで……!)
心中に浮かべるは、かつて握った聖剣。
(思い出せ、あの波動を!)
聖剣に宿る想いを、形に。
(感じろ、担い手の願いを!)
己の命を差し出して剣を鍛えた、王の尊き意思を。
(籠めろ、聖剣の残滓を!)
その願いは到達する。
「今ここに、かの聖剣を再現する……!」
キィ――――――――――
「その名は、尊き想いを遂げし究極の聖剣!!」
闇を払う聖剣が、ここに再臨。
エクスカリバーとはまったく異なる、まさに神の剣に相応しいその厳粛さ。
溢れんばかりの黄金の魔力が天を指して煌々と煌めき、辺り一面を自らの色で染め上げる。
「フ、フフフ……ハハハハハハハッ! エクスカリバーを触媒にしただと!? どこまでも規格外だな、ランディウス!」
エヴァの右手に集う蒼い魔力が剣を模っていく。
創り上げれられたそれは、体格に似合わないほどの巨大な蒼い大剣。バチバチと音を立ててスパークするその刀身。
込められしは注ぎ込まれた己の魔力。
「「いくぞエヴァンジェリン(ランディウス)……この一撃に耐えられるか?」」
同時に振り抜く――――!
「尊き想いを遂げし究極の聖剣!!」
「エグゼキューショナーソード!!」
カッ!!!!!
「ぬっ!」
「くっ!」
辺りを覆い尽くす黄金と真蒼の眩い光。
巨大な力の奔流がぶつかり合った刀身の間から発生する。
ランディウス、エヴァ――――共に全力を出し切ったのか、その意識を闇の中へと落とし込んでいった。
気がつくと、そこは別荘だった。
どうやら幻想空間から帰ってきたらしい。
「……幻想空間が耐え切れないとはな」
「……」
2人の力のぶつかり合いにより、幻想空間は崩壊。
時間にして丸1日。
しかし時間的なものでなく、精神的な時間の長さでは計り知れないものがあるだろう。
まるで1つの大きな戦争を戦い抜いた時と同じくらいの疲労がランディウスを襲っていた。
「まさか丸1日戦ってたとは……げっ! じゃあもう翌日ってことか!?」
「心配無用だ。ここの1日は現世の1時間に相当する」
エヴァの説明によれば、別荘と現世の時間経過スピードが違っているらしい。
また、別荘は1日単位でしか使用できないという制約があるとか。
「あの時、1時間もって言ったのは、このことだったのか」
「ああ。ついでに言うが、ここに入った以上は1日過ごさないと出られないぞ」
「待てやコラ」
「どうした?」
「聞いてないぞ! ってか何、ここでまた丸1日中戦うってのか!?」
「何を今更……最初からそうに決まっている」
「いや、聞いてないから! むしろ詐欺だから!!」
「さて、私の魔力も回復したことだし……始めるとするか」
ランディウスの苦情を無視して、第二戦が始まった。
ニヤソ、と擬音が聞こえそうなほどイイ表情のエヴァは実に楽しそうだ。
今度はエヴァの従者であるチャチャゼロと茶々丸も参加するわけで、必然的に1対3。
問答無用のサバイバルバトルになったことはいうまでもない……むしろ戦闘とすら呼べる代物ではないだろう。
チャチャゼロと茶々丸の連携された斬撃と打撃の挟撃。
それを援護するかのように数で持ってランディウスを狙うエヴァの魔法。
反撃することはおろか、精神的な疲労が溜まっているランディウスはやっとのことで逃げ回るしかないのであった。
「くっ、納得できない……」
再び丸1日戦うハメになり、終わって帰って来たランディウスはボロボロになっていた。
エヴァの天井知らずな魔力に加わり、従者をも相手にしなければならないのは、このうえなく不利ということである。
「まぁそう言うな。最後まで根を上げなかったのは誇ってもいいと思うぞ」
「アレデランディウスガ勝ッテタラ、俺達ノ立ツ瀬ガネェヨ」
「お疲れ様です、ランディウス先生」
三者三様の言い分だが、ランディウスに一目置いているのは確かだ。
「ああ……まぁ、俺も分かったことがいくつかあるからな」
エクスカリバーやラングリッサーの攻撃属性は聖であり、魔に対して抜群の効果を得られるのが常であるが、それが見られなかった。
この世界の真祖は、魔に分類されないようだ。
対人戦と同じ効果だったので、神官戦士・僧侶でないだけマシと言えよう。何しろ、両者は聖属性を吸収するのだから。
そして、ラングリッサーの再現は可能であるが、いつでもできるわけではない。
触媒がエクスカリバーであること、ラングリッサーの残滓をリンクさせること、膨大な魔力を集中させることなどが条件となる。
これらを満たさない限りできないし、完全に隠蔽するのはほぼ不可能と言える。
また、エクスカリバーの能力が向上している。
元の世界とこの世界の違いが分からないので断言できないが、何らかの作用によるものなのは確かである。
「ランディウス、もしお前がパートナーを見つけたら……」
「ん?」
「いや、何でもない」
ここで一旦言葉を切り、エヴァはニヤリと笑った。
その笑みに、言い様のない恐怖を感じるランディウス。
「まさかとは思うが、ランディウス」
「な、何だ?」
「お前、ブリテンのアーサー=ペンドラゴンか? エクスカリバーの担い手は、かの騎士王以外にいないはずだ」
自分の出自に及ぶ話ではなかったので、見えないようにホッと溜息を吐く。
「違うな。それにエクスカリバーは湖の女神に託されたって言ったけど、そこはブリテンじゃないぞ」
「ほぅ……」
ブリテン以外で託されたエクスカリバー。
それに興味を覚えたエヴァは、今後のマークリストの上位にランディウスの名を記した。
「さて、今度こそ帰るぞ」
「待て」
「……?」
「私のティータイムに付き合え。久々にいい戦いをしたからな、その礼だ」
一瞬キョトンとするも、ランディウスは微笑みを浮かべた。
「はいはい、お姫様のお望み通りに」
こうして、魔法協会の知らないところで激戦が行なわれた。
後の回顧録で、ランディウスは「心から楽しいと思える戦いだった」と述べていることから、両者に思うところがあったようである。
尚、本日のランディウスが作る夕食はいつも以上に気合が入っており、半ば食客と化している2人に大好評だったことを追記しておく。
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