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第5話 勃発、ネギ争奪戦! 投稿者:夏野竜輝 投稿日:07/02-03:50 No.849

「そういえば……」

ルナカリバー邸での朝食時、不意に真名が口を開く。

「何だ?」
「ランディウスさんは学園長を見ても驚かなかったけど、何とも思わなかったのかい?」

真名によれば、大抵の者は近右衛門と向かい合った時に大なり小なり驚くらしい。
その原因は近右衛門のにある。
個性的と言ってしまえばそれまでだが……不自然なまでに、横に長い頭を見れば誰しもツッコミを入れたくなるだろう。
タチが悪いことに、近右衛門はその反応を見て楽しんでいるフシがあるらしい。

が、ランディウスは普通にスルーした。
これには魔法先生達は元より真名と刹那も内心で唖然としていたとか。

「そのことか……まぁ、そんなに驚くことじゃないだろ?」
「それはそうですが」

どこか納得いかない刹那に苦笑しつつ、ランディウスは元の世界でのことを少し話した。
ちなみに、近右衛門達に話したのは大雑把な内容だったりする。

「俺の仲間には王国の双子のプリンセス……とは言っても、姉は女王で妹は将軍だが。2人の父親、つまり先代の王は達磨型の体格だった」
「「は?」」
「その他には……仲間の一人は魔物の中でも珍しくて、吸血鬼・霊・竜などに変身するし。それも当たり前のように」
「「え、えっ?」」

2人は驚きのあまり言葉を紡げない。
どこのファンタジーだと思われるかもしれないが、彼はそのファンタジーから来たのだ。

「仲間はワイバーンに騎乗してたり、ユニコーンに騎乗してたり、シーサーペントに騎乗してたり……かく言う俺もワイバーンに騎乗してた時期があったっけ」
「「………………」」
「普通にエンジェルを雇えるし、これまた普通に魔物を雇えるし」
「「………………」」
「そういえば、混沌神も倒したな」
「「か、神を!?」」

眼の前の青年は神を倒した――――驚きも頂点に達する。

「ああ。成り行きというか必要に迫られてというか……そんなところだ」
「いや、それであっさりすませないで下さい!」
「それだけの偉業を、そんなところの一言で片付けられるものなのか!?」

神を倒すなど、かなりの偉業と言えるが。

「その後で、ちょっと気持ち悪い世界に踏み入ったりしたし……一番キツかったのはアレか」
「「アレ?」」
「二戦役で倒した敵がメチャクチャパワーアップして挑んでくる場所があってね」
「「……は、い……!?」」
「俺と仲間達は両方何回も行ったけど……行く度に、瀕死になって帰還してたよ」

笑いながら言っているつもりだが、その表情は苦虫を噛み潰したかのようになっている。
ランディウス達はそのおかげで強くなっていったが、それに見合う代償を支払ったのも事実だ。

(そんなことがあるのなら、学園長に驚かないのも納得できますね)
(一体どんな世界なんだ……?)

2人はランディウスの話に引き攣るばかりだった。





第5話 勃発、ネギ争奪戦!





「で、だ。彼女らの成績一覧表がこれになる」
「わざわざすみません、ランディウスさん」
「気にするなよ。後、個別指導で何かあったら言ってくれ。大体のことなら力になれるはずだ」

ネギとランディウスは来月の期末試験に関する話し合いをしていた。
最下位続きの2-Aをいかにして上位に持っていくか、それが2人の課題となっている。

「ところでネギ君。クラスの子達とは仲良くやっていけそうか?」
「はい、それなら大丈夫そうです。けど……」
「けど?」
「僕、クラスの皆さんより年下だから、やっぱり子供扱いというか誰も相談とかには来てくれなくて……」
「そうか……そればかりは君次第だな(まぁ数えで10だし、無理もないか)」

そんな時、誰かがやって来た。
あわてているところを見ると、どうやら何か問題が発生しているようだ。
近づくにつれて、それが和泉亜子とまき絵の二人が大慌てでこちらに向かってくる。

「ネギ先生~、ランディウスさ……先生~!」
「こ……校内暴力が……!」
「「はい?」」

和泉亜子とまき絵に叫びに、思わず顔を見合わせる2人だった。
しかも声はユニゾンで。



場所は麻帆良学園の校庭の1つ。
そこで我らが2-A(第5話に限り中2-Aと表記)と聖ウルスラ女子高等学校2-D(高2-Dと表記)が勢力争いを起こしていた。
原因は場所の取り合い――――中2-Aがバレーをやっていたところに高2-Dが乗り込んできたあげく、場を分捕ろうとしたのだ。
そこに明日菜とあやかが乱入し、もはやガチンコになりつつある。

「コラ―――! 君達待ちなさ―――――い!」

そこに、亜子とまき絵の要請を受けたネギが駆け込む。
一人であるところを見ると、一緒のはずのランディウスは片付けのため少し遅れているようだ。

「僕のクラスの生徒をイジメるのは誰ですか! い、イジメはよくないことです! 僕、担任だし怒りますよ!!」

争いを止めようとするネギだが……途端に一瞬の静けさが場を支配する。
高2-Dの面々の視線がある一点に集中した。それはこの場の静けさをもたらした、ある1人。

ゴクッ……

誰が立てた音だろうか。
見れば、高2-Dの面々はフルフルと震えるようにして、何かに耐えている様子。
そして、その限界が臨界点を突破した……その時!

「「「「「キャ――――――ッ! 可愛い~~~ん!」」」」」
「10歳の先生だって~~~!」
「ウソ―――――! この子が噂の子供先生か~!!」

ネギの静止は無駄でした。
騒ぎという点でいえば、まるで火に油を注いだようなその結果。
一同の注目を集めたと思いきや、瞬く間に抱きつかれてしまうネギ。
揉みくちゃにされ、全く身動きが取れないばかりか、2-Aの面子にはないナニかがネギの顔を赤面させ、なおかつ冷静さを失わせている。

「こ、こらー! わたくしのネギ先生にナニをしますか、このおばさんども~!」

そこに一転した事態に呆然としていた中2-Aの中でいち早く正気に……もとい目の前の事態に怒り狂い、冷静さを欠いたあやかが先制攻撃を仕掛ける。
一瞬即発。
遊び場の奪いあいだったはずの揉め事が、今度はネギをめぐるガチンコになってしまう。

(あちゃー、これはダメだな……ネギ君は慌ててるし)

ランディウスがその場に到着した時、目の前の事態はいっそう混乱したものとなっていた。
少しでも常識を弁える中2-A、高2-Dの面子は目の前の事態におろおろするばかり。
血の気の多い連中(明日菜やあやか、他の高2-Dに喧嘩を吹っかけたメンバー)は結果のつかない罵り合いと掴み合い。
高2-Dのリーダーと思しき女の子に抱きしめられたままのネギは頭の中が真っ白になっている模様。

あまり手出しはしたくないが仕方ないと思い、ランディウスは一同を一喝した。

「待て!!」

よく通る声は騒ぎの声を掻き消し、一同の動きを止める。
もちろん、声を出すときに一瞬だけ【サイレント】の魔法を発動し、騒ぎの音を掻き消したのはいうまでもない。
静まり返ったところで、ランディウスは事態を収拾すべく切り出した。

「高等部、まずはネギを放せ」

初見で、見たこともない男性から強制力を伴った言葉が高2-Dのメンバーに浴びせられる。
その強制力があまりにも衝撃的だったせいか、大人しくネギを解放する。
ちまたで山賊先生と称されているランディウスに歯向かいたくなかったのもあるだろうが。
余談であるが、後にランディウスは山賊先生と言っている者を片っ端から狩ったとか。

「双方、一旦退け。このままでは解決しないぞ? それに、いい年した女の子が感情剥き出しで取っ組み合いなどエレガントとは言えないな」

中2-A、高2-D共にウッと怯む。
自らがしていたその行為、小学生にも劣る罵り合いと取っ組み合い――――彼女達とて馬鹿ではない。
自分がしでかしたことを冷静に振り返ってみれば、己の行為の幼稚さに気づく。
それでも年が若い分、きっかけは向こう側からだったと明日菜はランディウスに食って掛かった。

「で、でもランディウスさ……先生! あいつらが先に仕掛けてきたのよ!?」
「だが、こちらも手を出したんじゃないか? まぁ座して見過ごせとは言わないが……この国流に言うなら喧嘩両成敗だ。昔からな」

明日菜は反論できず黙った。真っ向から応戦したこともあり、自分に少なからず非があることを分かっているようだ。
そんな明日菜を見てか、高2-Dのメンバーがざまあみろと言わんばかりの視線を向ける。
しかし、そんな高2-Dのメンバーを振り返って、ランディウスはさらに切り込む。

「君達も君達だ。2-Aをお子ちゃまだガキだと言っているが、やってることは同じ……ならば同じガキということになる」

今度は高2-Dがヘコんだ。
改めて言われるまでもなく気付いていたことである――――嘲笑っていた中2-Aと同じことをしたのだから、同じ穴のムジナなのだ。

「とはいえ、このままではお互いに引っ込みもつかないだろう……ネギ、今日は体育があるんだよな?」
「えっ、は、はい、あります」
「よし。今日の2-Aの体育を2-Aと2-Dのスポーツ親善試合にして白黒はっきりさせるというのはどうだ」

この申し出に、一同は仰天した。

「今日2-Dのクラスに体育が同じ時間にあるなら、この提案を検討してもらいたい」
「は、はい。体育はあります」
「そうか。なら考えてみてくれ……それと、この親善試合は双方にリスクを背負ってもらう」

リスク――――この一言に緊張が走った。
瞬きすることもできず、一同はランディウスの言葉を待つ。
互いに腹を据えかねない犬猿の仲。
そんな相手が出すリスクとは……一同はランディウスの続きの言葉を固唾を飲んで待つ。

「2-Aが勝った場合、高等部は下級生に突っかからないこと。今回のような事が起こるのは好ましくないからな」
「……」
「逆に2-Dが勝ったなら、ネギ君は高等部の教生として異動すること(ここでネギ君の位置を教師だと認識してもらおう)」
「な……!?」

ランディウスが勝負後のリスクを発表したところ、一同には2種類の反応があった。
高2-Dの面子は余裕そのもの。もし万が一負けたとしても、単に下級生を無視すればいいだけ。
逆に年上である自分達が勝つ可能性は非常に高い。
試合をするだけで、この愛らしいマスコットようなネギを先生にすることができる。

それに対し、中2-Aのメンバーは反対に自分達の不利を悟らざるをえない。
冷静な高2-Dに対し、中2-Aは動揺しまくっていた。


「時間はあるから、ゆっくり「その必要はありません」……ほぅ?」
「私達は一向に構いませんよ? 負けることなど有り得ないのですから」

挑発するかのように言い放つ高2-Dの面々。
リーダーであろう少女には笑みを浮かべる余裕すらある。
ここまで言われては、中2-Aも黙ってはいられない。
喧嘩上等とばかりに明日菜がその挑戦に対し……

「っは、上等よ! 受けて立つわ! あとで後悔しないことね!!」

見得を切る。
このままにしていては収まったはずの場が、再び言い争いの場になりかねない。
そう判断したランディウスは話題を次へと進めた。

「ここに親善試合は成立した。種目は何にする?」

ここで高2-Dの1人が挙手した。
まるで教室の授業風景のようにも感じるかもしれないが、ランディウスはその生徒を指し、発言を促す。

「何かあるのか?」

指差された生徒は横目でチラチラと中2-Aのメンバーを見ながら、意見を述べる。

「はい。ドッジボールはどうでしょう? シンプルで早く終わりますよ……お子ちゃま達に私達の貴重な時間を割くのは勿体無いですし」
「……っ!」

その生徒の物言いにカチンとくるものの、ランディウスが視線で牽制しているので動けないあやか。

「君達もそれでいいか?」
「もちろんですっ!」
「それと、もう1つ。ハンディとしてこちらは11人、そっちは22人。もし必要なら、ネギ先生とランディウス先生も参加して下さい」

高2-Dの提案も承認され、いよいよ睨み合いが激しくなる。

「ほらほら、今は解散するんだ。周りに迷惑になる」

一同が解散する中、ネギはランディウスの背中を見ていた。
一国の大使をしていただけあって、非常に頼もしさを感じるられる。

(スゴイなぁランディウスさん、あっという間にまとめちゃった……)
「すまないなネギ君、勝手にリスクの対象にしてしまって……」
「へっ、あ……き、気にしないで下さい。僕、大丈夫ですから」
「……そっか」










そして、体育の時間――――親善試合という名の死闘(?)が始まろうとしていた。
高2-Dにしてみれば勝って当たり前なので余裕の表情だが、中2-Aは違う。負ければネギを取られるし、メンツもあるので負けられないというわけだ。

一同が集合すると共に、茶々丸が空砲で始まりを告げていたのは……スルーしてほしい。
まほらチアリーディングの柿崎美砂・釘宮円・椎名桜子の3人は中2-Aの応援に回っている――――後方支援に徹するようだ。
有数の戦力と目される刹那・真名・長瀬楓は傍観に回り、何を考えているのか分からないザジ=レイニーデイも見学組となる。
当然だがエヴァも見学組で、茶々丸とお茶を飲むつもりらしく湯飲み持参だった。
一見バラバラだが……お祭り好きが多い麻帆良学園ならではなのである。

さぁ試合開始と言う時、ランディウスが待ったをかける。

「2-A側も人数を絞った方がいい」
「えっ、どういうことですか?」
「宮崎に教えてもらったが、ドッジボールは定められたコート内で行なうもの……となると、大人数ならどうなるかな?」
「……あっ……!!」

そう、大人数では相手側の攻撃の時に身動きが取れなくなりかねない。下手をすれば大勢アウトにされる危険性を孕んでいるということだ。
高2-Dが自分達の2倍の人数でいいと言った時に、その術中に嵌っていたのである。

「ここは戦力になり得る子を残した方がいいだろう――――外れる子にはすまないがな」

ランディウスの提言にはブーイングがあったものの、真名・刹那・あやかの弁護により採用されることになった。
もっとも、あやかは負けたらネギを取られるのを座視するよりないので実利を重視したためであるが。

その結果、明石祐奈・亜子・大河内アキラ・明日菜・春日美空・古韮・まき絵・超鈴音・あやか――――以上の9人が選出された。
大部分が運動に関わりを持つ者で構成されている。
この9人にネギとランディウスを足して11人なのだが……当のランディウスは辞退した。そのため那波千鶴が代理となる。

「尚、審判は双方から1名ずつ出すように……ネギ君。2-Aから誰を出すかは君が決めてくれ」
「ぼ、僕がですか!?」
「そうだ。君が彼女達をよく見ているのなら、分かると思うよ

ランディウスがネギに耳打ちした。

「そ、そうですねー……じゃあ、宮崎のどかさん!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「宮崎さん、2-A側の審判として試合を見守ってほしいんですが……」
「ね、ネギ先生……」
「お願い、できますか?」

顔が真っ赤になるのどか。
しばらく戸惑っていたが――――意を決したように、ネギの方へ向いた。

「わ、分かりました。やらせていただきますっ」
「よかった……お願いしますね」
(ほぅ、なるほど)

ネギの人選が妥当だったことを裏付けるかのように、笑みを浮かべるランディウス。

図書館探検部に属しているので普段から本に接する機会がある夕映・早乙女ハルナ・のどかを有力候補とし、
中でもルールブックを持参しているのどかが一番適していると考えていたようだ。

やることは終わったとばかりに、一同から離れる。

「お前は参加しないのか?」
「ああ」

茶々丸の隣に腰を下ろしたランディウスはエヴァに答えた。

「この場での役目は2-Aの勝率を少しでも上げることだからな」
「それなら、お前が参加すればいい話じゃないか」
「いや、ダメだ」

ランディウスはカルザス帝国の革命を思い出す。

いくら圧政を打倒するための革命とはいえ、国民が自ら行動しなければ意味がないので、レナード公爵(議長)は危険を冒して国民を軍事作戦に加えていた。
直接革命に関わり、その後の政治に携わる機会を得たため関心は非常に高いのだ。
自らが政治に参加していると自覚し、少しでも国をより良くするために行動する――――そのかいあって、カルザス帝国は栄えている。

同じではないが、この場で似たようなことが言える。
ここでランディウスが参加すれば、中2-Aの圧勝は間違いないだろう。
しかし、それはランディウスへの依存心を高めることに他ならない――――自分達で何とかしようとせず、すぐランディウスに頼ろうとしかねない。
そのことを危惧したので、あえて自分は参加しなかったのである。
ここは彼女達とネギに任せ、お互いの絆を深める方が今後のためだと判断していた。

この事をエヴァに説明すると、彼女は酷く感心したようだった。

「なるほど。あいつら自身に行動させるということか」
「そうだ。これでネギ君と彼女達の距離が縮まれば充分さ」
「だが、戦術的には不利だろう?」
「否定はしない。けど彼女達なら大丈夫だ――――俺はそう信じている」

この時、エヴァはランディウスの人生が決して平坦なものではないことを感じ取った。
まぁ大使という職業の時点で平坦と言えないが……それを抜きにして、尚何かがあったと考える。

「どうした?」
「何でもない(折を見て聞くか)」

余談だが、この会話は真名と刹那も聞き耳を立てていた。



ランディウスの指摘通り、人数を絞っておいたことでそれなりに戦えている中2-A。
しばらくはシュートの応酬だったが、明日菜が高2-Dチームの1人をアウトにした。
実はネギの頭に当たったボールを明日菜がノーバンキャッチして、そのまま空中から投げて相手のに当てたのだが。

「……」
「どうした?」
「妙だ……向こうの思惑を排除したのに、まるで焦りがない」

むしろ高2-Dには余裕すら見える。
転がっていったボールは外野へと向かい、そのまま中2-Aキープ。そして、HIT率が高い内野である明日菜へと再びパスが回される。
しかし、高2-D陣は警戒することなく、陣内で散らばっているだけ。

「もらったぁぁぁぁっ!」

1・2・3とステップを踏むようにして一気に加速。その加速の力を振り被ったボールへと乗せて解き放つ。
ランディウスの座っている場所まで届くほどの轟音を立てて、高2-Dの1人に襲い掛かる。
が、しかし。

「フン……」

向かっていくボールは、いとも簡単にその手に押さえられた。

「え――――っ!?」
「アスナさんのバカ力全力投球を片手で……!?」
「バカ力バカ力うるさい!!」

驚く中2-A+ネギに明日菜が反論する……悲しいことに、半ばヤケ気味で。
何気にネギは失礼なことをサラッと言ったようだ。
一方、明日菜のシュートを止めた生徒の手はヒリヒリしている。全くの無傷でないあたりに明日菜の腕力を窺えるだろう。

「少しはやるようだけど、そもそもあんた達のような子ザル集団が私達に勝てるわけないのよ」
「何せ私達の正体は……」

ざっとポーズを決めるようにして立ち位置を固定。
まるで悪役のような笑みを浮かべ、

「ドッジボール関東大会優勝チーム、麻帆良ドッジ部【黒百合】!!」

ザッと勢いよく脱ぎ捨てられる彼女達の制服。

一同は仰天した。高校生でドッジ部という事実に。
ネギは目隠しをされた。すぐ傍にいた明日菜に。
ランディウスは視線を他所へと向けた。いらんツッコミを入れられないためにも。

しかし、その心配は無用のものだった。
ここに我有りとばかりにポーズを決める彼女達の恰好はユニフォーム。
ちょっと内心残念に思ったランディウスがいたとかいないとか。

それはさておき、呆気に取られていた中2-Aであったが、正気に戻ったか、その場で全員集合&ヒソヒソ話を始めた。
自分達の真実に恐れおののいているのだろうと笑みを浮かべている高2-Dであったが、聞こえてくるヒソヒソ話が雰囲気を冷めさせていた。
そして、それは高2-Dの耳まで届くようにして流れる。

「……高校生にもなってドッジ部……?」
「小学生ぐらいまでの遊びちゃうの?」
「関東大会ってあいつらしか出なかったんじゃない?」

「「「「「は、はうっ……言ってはいけないことを……」」」」」

高2-Dのダメージ甚大である。主に精神面で。
しかも、向けられている視線は冷気そのもの。
ただ1人――――純粋に凄いと思っているらしく、拍手しているネギがかなり浮いていた。

余裕の根源を知ったランディウスは、あぼーんな状態になっている。
彼も中2-Aと同じ意見らしく、高校生でドッジという現実に驚いたのだ。

「本当にドッジ部は……あるのか。広いものだな」

この世界は広いと思ってるのだが、断じて違うとだけ記しておく。

散々笑われたものの、優勝というだけあって黒百合は強かった。
特にトライアングルアタック(言った瞬間に大爆笑される)は運動神経がいい者達でも翻弄されるほどに。
何とか凌いでいたものの、流れを握られ千鶴がアウトにされてしまう。

「ふ、次はあんたね……しぃ、アレやるわよ!!」
「OK!!」

トスで上げられたボールに向かって飛ぶ黒百合のリーダー各・英子。
太陽を背にしたそれは――――

「必殺――――太陽拳!!」

どこぞの武道家のような技名だった。
太陽を直視できるわずもなく、明日菜の背中に盛大に当たった。
普通ならこれでアウトなのだが、あろうことか英子は上に飛んできたボールを取り、もう1度明日菜にぶつける。
これにはさすがに抗議が起こった。

「おだまり! どんな汚い手を使ってでも勝つ!! それが【黒百合】のポリシーなのよっ!!」

開き直りとも言うのだが……これにカチンときたネギが魔法を使おうとする。
が、明日菜のゲンコツで止められた。

「余計なことしないでよ。それじゃ、あいつらと同じじゃない。せっかくランディウスさ……先生がスポーツを提案してくれたんだから」
「……まぁ俺のことは置いといてだ。こちらも同じ手を使うのは感心できないな」

明日菜と、いつの間にか陣内に入ってきたランディウスが言う。

「スポーツでズルして勝っても嬉しくないのよ。正々堂々いきなさい……男の子でしょ」
「あ……アスナさん」

明日菜の言葉に、ネギはハッとなった。

「皆ごめん、後は頼んだー」

すまなそうに外野へと出ていく明日菜――――中2-Aを絶望という名の2文字が支配していく。
目に見えて士気が低下していた。

「み、皆諦めちゃダメですっ!」

中2-Aがネギに注目する。

「このまま後ろを向いたら狙われるだけですよ! 前を向けばボールを取れるかもしれません……が、頑張りましょう!!」

激励するネギの言葉には力強さがあった。
10歳でありながら先生をしている者の持つ強さ、と言うべきであろうか……

「ネギの言う通りだ。物事は最後まで分からないものだぞ? 諦めれば、そこで終わりだ」

今度はランディウスが注目を浴びる。

「諦めるというのは楽だ。逃げるだけなんだから……が、それでいいはずはない。逃げれば、次もその次も――――逃げの一手だけしか打てなくなる」

ギザロフ戦役の始まりはゴタール村での蜂起だった。
そこから義妹の救出と義父の仇討ちを、義弟と共にたった2人で始める……それは無謀以外の何者でもない。
だがランディウスは決して諦めることなく立ち向かっていった――――次第に仲間を集めつつ。

「君達はそれで満足か? 可能性があるのに、それに目を向けないままで」

承服できない。諦めたくない。このままは嫌……一同の気配が変わった。

「ならばやってみろ。この状況をひっくり返してな……那波、それに明日菜がアウトになったとはいえ9人残っている。
まだまだ事態がどう動くかは分からんさ――――勝ちへの執念、これが勝利の鍵だ!」

どこかで聞いたような決め言葉ではあるが、それは一同に浸透していく。

「ネギ先生……ランディウス先生……そ、そーだよね! 負けたらネギ君、あいつらに取られちゃうんだもんね!」
「う、うん! このままナメられて終われないよ!」
「よ――――し!」

士気が高まっていく。
チアリーディングの応援にも熱が入り、見学組の何人かは口元に笑みを浮かべた。

「調子が戻った、いやテンションが上がったか……頑張れよ。後は君達にかかってる」

言うことを言い終えたランディウスは、さっさと見学組の元へ戻っていった。

「お疲れ様です」
「人の心を掴むのが上手いじゃないか」
「そんなものか? 思っただけのことを言っただけなんだが」

茶々丸とエヴァの労いを受け、しっくりこないという表情になる。
が、今は試合の経過を見ることを優先した。

するとどうだ、5秒ルールで中2-Aにボールが渡ってからはツッコミどころ満載な展開が始まる。

まずはアキラ。
水泳部のホープでもある彼女は助走をつけず、そのままボールを投げる姿勢へと転じる。

「……いきます」

高々と左足が天を指し、その足先が天頂に届いた瞬間、左足を振り下ろす勢いのままにボールを放つ。
放たれたボールは全くの無回転。
狙われた高2-Dの生徒は、ユラユラと揺れながら自分に向かってくるボールに戸惑いを隠せない。

「えっ? えっ?」

右・左・全くの無回転ボールはスピード感覚を狂わせたまま、生徒に向かい……そして!

「えっ?」

カクンと軌道を変えて落ちるボール。
構えていたはずの両手をすり抜けてその生徒に足に当たる。
これで1人脱落。

「くっ、ガキンチョどもが生意気なぁっ!」

熱くなってしまったのだろうか。トライアングルアタックも忘れ、リーダー格であろう生徒が全力の投球を投げつける。
ボールが向かう先は亜子。
あっという間にボールは亜子へと強烈なアタックを向ける。
が、しかし!

「トラップ!」

胸のあたりでボールをトラップし、後ろに引いた力でスピードを相殺する。少々苦しげな表情をしたのは、そのボールの威力があったからであろう。
しかし、亜子は動きを止めない。ボールをトラップしてそのまま、利き足である左足を大きく後ろに振り被る。

「アンド、シュートッ!」

タイミングドンピシャで蹴ったボールは剛速球そのもの。
通常腕の2倍の力があるという足で蹴られたボールが向かった先は、誰も居ないファールボール。

「は、どこに蹴ってんだか……っ!?」

とんでもない方向へと飛んでいくボールを前に、鼻で笑う高2-D。
しかし、そのまま外野へと向かうと思われたボールは急角度で横へと曲がる。
取る構えすら見せていなかった高2-Dの生徒は突如襲い掛かったボールに反応すらできず、そのままHIT。

「や、やるじゃない。私達も熱くなりすぎたみたいね……なら……」

2人もやられ、冷静に戻らざるを得なかったのであろう。
リーダー格の少女は再びトライアングルアタックに入ろうと、外野にボールを回そうとする。
幸い中2-Aのメンバーは警戒し、中央に集まっている。
取られることはない、そう思って外野に向けたパスはやまなりに投げられた。

「もらったぁぁぁぁぁっ!」

気合一閃。
投げられたと同時に走り込んだ祐奈。ボールの軌道に合わせてジャンプし、そのままボールをゲット。
所謂インターセプトだ。

「し、しまった!」

慌てても時既に遅し。ボールは空中で祐奈の右手にしっかりと押さえられている。
そのままキャッチして、着地するだろうと思われたその時、祐奈はそこから思いっきり右手を振り下ろす。

「だぁぁんくっ、シュートッ!」

上空からの振り下ろされたボールは下向きに向かった勢いそのままに、高2-Dの生徒に襲い掛かる。

「あっ、太陽が!」

先程自分達が明日菜に行なったように、ボールが太陽を背にして向かってくる。
眼を押さえたのは一瞬、その間にボールはポテンとその生徒にHIT。

「くっ、今度こそ……」

二の足を踏まないと、先程とは違い、矢のような投球でトライアングルアタックを敢行しようとする。
1・2・3とボールが交わされ、最後の投球を行う生徒にボールがパスされようとした――――その瞬間!

「えいっ♪」

ボールを受け取る姿勢のまま、掻っ攫われるようにして消えたボール。
唖然として周囲を窺えば、まき絵が新体操のリボンを使って、絡めるようにしてボールを中に浮かせている。

「せ~の、ア~ン♪」

間の抜けるような声とは裏腹に、まき絵の意思を汲み取ったリボンはボールを掴んだまま、高2-Dの生徒に襲い掛かる。

「きゃっ!」

まずは1人。
HITしたボールはリボンを離れず、そのまままき絵の方へと引き戻される。

「ドゥ♪」

掛け声と同時に、今度は鞭のようなスピードで唸りを上げて高2-D陣内へ。

「「あうっ!」」

たまたま2人で固まっていたその生徒達にペシペシと音を立てて当たり、再びまき絵の方へと戻る。

「そ、そんな……」

一気に3人の仲間を失った高2-D陣内に戸惑いが生じる。
そして、まき絵は仕上げとばかりにリボンを勢い良く横に振り被った。

「トロワ~♪」

ギューンと弓なりに円を描くそれは、横一直線上に並んでいた黒百合メンバーに次々と当たり、
役目を終えたそのボールはリボンから解き放たれ、中2-Aの外野の手元に収まった。

ここに来て形勢逆転。一気に勝負がついてしまったかのような状況。
しかし、これは普通にドッジではない。

これには見学組も呆然としていた。

(宮崎のおかげで、ボールが渡ったまではよかった……何なんだ、これは)

心中で冷や汗を流すランディウス。
反則もへったくれもないうえに、内野同士のパスは指摘されていないのだ。
まぁこれは高2-Dもやっていたので、お互い様なのだが。

結果は古韮と鈴音のチャイナダブルアタックが炸裂したところで試合終了、9対1で中2-Aの大勝利である。

「やった――――ッ!」
「勝った――――――ッ!!」

湧きに湧き、勝利を噛み締める一同。
対して高2-Dは自分たちの敗北という現実にガックリ項垂れていた。

(くっ……それもこれも元はといえば、あの女が……!)

視線の先には明日菜が。

(このままでは済まさないわよ、神楽坂明日菜!!)

英子が明日菜の背後からボールをぶつけようとするが、肝心のボールが見当たらない。
振り返ると、ボールを片手にランディウスがいた。

「やめておけ。君は負け犬に堕する気か?」
「っ……!!」

中2-Aの方にボールを転がしつつ、のんびり言う。

「敗北は認めたくない。それはそうだ。が、君の行為はいただけないな」
「な、何のことですか?」

平静を装い、シラを切る英子。

「背後から明日菜にボールを投げようとしていた……違うか?」
「うっ!?」
「君の視線を見れば、すぐ分かる」

負けた者は、その原因となった存在に憎悪を抱く。
それを知っているランディウスは英子が明日菜を睨むのを把握していたというわけだ。

「君のやろうとしたことは、人として大切なものを冒涜する行為に他ならない……それは事実だ。自分でも分かっているんだろう?」
「そ……それは……」

ガクッと膝をつく英子。自分の両手を信じられないかのような表情で眺め、そして怯える。
自分が大切に思っていたプライド、それをもう少しで自分自身の手でブチ壊してしまうところだった。
震える。両手の震えが収まらない。
英子は震えの収まらない手を見つめたまま、愕然としている。
そこに……

「君達は、まだ1回負けただけに過ぎない」

ランディウスが、そっとその両手を自分の両手で包み込む。
突然感じた暖かさに驚きを隠せない英子。
その英子の視線が自分の視線と合ったのを確認して、フッと微笑む。

「この敗北を如何するかは君達次第だ。糧として活かすのも、目を逸らすのも、な」
「…………」

ランディウスの、精一杯の励まし。
英子は、いや高2-Dの面子にはまだ分からないかもしれない。受け止められないかもしれない。
だが、これが彼、ランディウスが言うことのできる、経験から即した心からの励まし。
まだランディウスの言葉を聴いたまま、答えることのできない英子に、ランディウスは元気付けの一言を送る。

「納得できないなら、また挑戦しろ。彼女達は受けてくれるさ」

ポンと軽く英子の肩を叩くと、ランディウスは中2-Aの方へと歩いていった。

「ランディウス、さん……」

英子の呟きは風の流れにかき消されていった。



その後の高2-Dは制約もあったが、下級生にチャチャを入れることはなくなった。

それどころか、他の上級生が下級生にチャチャを入れるのを止めたという……逆にランディウスに指導をお願いする黒百合メンバーの姿があったとかなかったとか。



親善試合を勝利へと導いたネギは一同に胴上げされた。
それを暖かく見守るランディウス。

(先生というより遊び相手だが……大分馴染んだかな)
「影の功労者はランディウスさんだな」
「おいおい、俺は大したことしてないぞ?」

苦笑いしつつ、真名に返す。

「いえ、適格なアドバイスと見事な鼓舞でした」

ブ○ートゥスよお前もか、と言いたげである。

「フフフ、今日はいいものを見せてもらった」
「そうか?」
「ああ。後で私の家に来い――――この間の続きだ」
「それでは、失礼します」

返事を聞かず、一礼した茶々丸と共に去っていくエヴァ。
強引だなと思いつつ、ランディウスは放課後の予定を組んだ。

「真名、刹那。夕食は遅くなるかもしれないから、適当に時間を潰しててくれ」

2人が頷くのを確認すると、仕事の続きへと戻っていく。
まずは目の前にある作業を終わらせることが第一というわけなのである。

魔法先生ネギま! ~副担任は大使~ 第6話 バカレンジャーの無謀な挑戦(始動編)-ギャンブラーな連中-

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