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第7話 バカレンジャーの無謀な挑戦(冒険編)-全ては最下位脱出のために!- 投稿者:夏野竜輝 投稿日:07/17-23:28 No.934
Interlude
ランディウスさんがバカレンジャー達を呼び寄せている間、僕は世界樹の下へとやって来ていた。
今日、明日菜さんとランディウスさんに言われた一言が頭の中をよぎってやまない。
『マギ……何とかを目指してるのか知らないけどさ。そんな風に中途半端な気持ちで先生やってる奴が担任なんて、教えられる生徒だって迷惑だと思うよ!』
『身も蓋もないが、そうだな。まずはネギ君自身の気持ちを整理しておくべきだ』
何がいけなかったのだろう……か。
テストまで残り後僅か、焦っていたことは確かだろう。バカレンジャーの件もそれに拍車をかけていたことは確かだと思う。
それでも、見えてなかった。バカレンジャー最強の明日菜といえど、自分なりの努力をしていたことを。
他の面子も何らかの形で努力しているに違いない。それこそ、自分が苦手としているはずの勉強に必死に立ち向かって。
お父さんみたいなマギステル・マギになりたいと思っていた自分。
お父さんだったら、きっと皆の頭を良くするなんて、魔法でチョチョイのチョイだろう。
だから、マギステル・マギを目指す僕も魔法で何とかできるかもしれない。
簡単に頭を良くすることが出来れば、きっと皆も喜んでくれるはず。
2-Aの皆が最下位脱出できれば、僕も先生としてやっていける。
危険はあるけど、一石二鳥な考えなはずだった。
でも、明日菜に拒絶された。
魔法に頼ろうとした。
見えていないどころか、僕は信じていなかったに違いない。
だからすぐにでも安全な領域に入れるように、魔法に頼ろうとしてしまった。
今の僕は、マギステル・マギでも麻帆良学園の先生でもない、中途半端な存在。
今の僕が求められているのは一体どっち?
困っているのは紛れも無い2-Aの生徒達。
ならば、僕がしなければならないのは、先生として彼女達を応援すること。
少しでもいい。完全に出来なくてもいい。今の僕が先生としてできる精一杯をすればいい。
「なら……」
今の僕にとって魔法の力は不要のもの。
魔法使いの僕ではなくて、先生として、2-Aの先生としての僕であろう。
それは戒め。
テスト中に無用なことをしないために。
僕が先生であるために……先生として、全力を尽くすために……
願いを込めて、封印を詠唱する。
「tria fila nigra promissiva mihi limitationem per tres dies!! 制約の黒い三本の糸よ―――我に3日間の制約を―――」
右手首に吸い付くようにして浮かぶ三本の黒い跡。
この跡が消えるまでは、僕は魔法使いではない。
そしてその3日間、先生として全力を尽くすことを誓う。
「よし、やるぞぉぉぉぉぉっ!」
明かりの消えた世界樹の下、僕は再び自分に活力が戻ってきたことを感じていた。
意味の無い自信かもしれない。
だけど、きっとやれる。あの2-Aの皆ならやれる。
やっと沸いてきた勇気。
僕はやっと前に進めそうな、そんな気に満ち溢れていた。
Interlude out
第7話 バカレンジャーの無謀な挑戦(冒険編)-全ては最下位脱出のために!-
夜、湖の孤島とでも言うべき図書館島の裏手に忍び寄る者達がいた。
そう、ただいま追い込まれているバカレンジャーである。その他に、明日菜に拉致られたネギ、図書館探検部の3人もいる。
この時間では開いていないので、図書館探検部しか知らない入口から行こうというわけだ。
「これが図書館島……」
「でも、大丈夫かなー? 下の階は中学生部員立入禁止で、危険なトラップとかあるらしいけど」
その懸念通り、図書館島の内部は危険極まりない。
ベテランのレンジャーがトラップを解除しつつ先導して、始めて進めるような所と言っても過言ではないだろう。
「大丈夫、それはアテがあるから」
「へ――――」
「ほら、ネギ出番よ! 魔法の力で私達を守ってね」
ネギの魔法をもってすれば、トラップの回避も楽勝……そう踏んだ明日菜はネギを拉致という名の下に連れてきている。
「え、あの……魔法なら僕、封印しましたよ」
「え、ええ~~~!?」
明日菜とランディウスに諌められた後、ネギは一教師として生身で生徒にぶつかるべく魔法を封印したのだ。期末テストまでという限定付きで。
自分の都合で物事を動かそうとしていたことを反省しての処置だったが――――見事なまでに、裏目に出てしまった。
もっとも、図書館島へ行くというカードなど突然湧いて出たようなものなのだが。
予想外の事態に絶叫する明日菜をよそに、入口が開かれる。
尚、パルとのどかは連絡要員として残った。
夕映によれば、この図書館島は明治の中頃に学園創立と同時に建設されたらしい。その規模は図書館として世界最大だとか。
二度に亘る大戦中、戦火を避けるべく世界各地から様々な貴重書が集められたという。
蔵書の増加に伴い、地下に向かって増改築が繰り返され――――現在では、その全貌を把握している者は皆無とされているようだ。
「そこで、これを調査するため麻帆良大学の提唱で発足したのが――――私達麻帆良学園図書館探検部なのです!」
中・高・大の合同サークルとして組織されているあたり、その本気度が窺える。
内部は図書館というより屋敷・城と言った方がいいくらい複雑な造りになっていた。
草木が茂っていたり、水が滝の如くだったり、外灯・自販機が設置されてたりと突っ込みどころ満載なあたりは、麻帆良学園だからの一言で終わりそうだ。
何よりもその蔵書の数。少なく見積もっても、この学園都市に通う生徒全員を3倍してもまだ足りないだろう。
本来なら学業に関係のない分野まで本が収められている――――本の需要はあるのかと問いたくなるのは、決して気のせいではない。
だが、しかし、まともでないのは蔵書の数だけではない。
コツンコツンと足音が響く中、地下階への階段を下りていく。
1階ごとに蔵書のジャンルが極端な狭い分野に分かれている。
しかも……
「な、なんで石造り?」
そう、1階までは建物の構造は、それこそ一般的とはかけ離れたものだったのだが、それでも鉄筋コンクリートの現代風な建物の内部であった。
しかし、地下への階段を降りていくごとに、何故か壁が石を積んで作られた石造りとなっているのだ。
気分はまさにダンジョンRPG。
「さて、ここから先は私達図書館探検部でも未知の領域なのです……くれぐれも余計なものに触らないようにしてください」
夕映の一言に一同全員生唾を飲む。
そこは地下3階。
一同の中では図書館についてベテランであるはずの夕映ですら予測のつかない世界。
多少の差はあれどビビリが入っている一同を見やる中で、夕映はただ1人ほくそ笑む。
「おもしろいです。ベテランの先輩方ですら未到達のこの領域……この手で制覇してみせるです!」
1人、ただ1人制覇の野望に燃える夕映。
そんな夕映を尻目に、ネギは1人寝惚けている。
寝入り端を明日菜にそのまま拉致され、手を引かれるようにして今に至る。
「一体何を探しに行くんだろう?」
ネギの疑問は当然のことながらである。
事情の説明も無しに明日菜に拉致され、そしてグイグイとここまで引き摺られるようにして今に至っているのである。
寝惚けていた先程とは違い、冷静になってみれば自分が理由も分からないままここに来ていることに気づいたのだ。
ここに侵入した面子は既に先へ進むためのルートを探し回っている。
そのため、ネギの傍には誰もいない。
しかし、
「あいあい、ネギ坊主。何か分からぬことでもござるのか?」
「あひゃっ、な、長瀬さん……びっくりしたじゃないですかー!」
音も無く、気配も無く、ネギが持つライトの薄明かり、その外側から現れたのは楓であった。
一同が緊張の面持ちの中、彼女だけはいつも通りの表情を変えない。
いきなりのことでビックリはしたものの、相手が楓だったということでネギは落ち着きを取り戻し、楓に尋ねた。
「いえ、ここに皆さん何を探しに来たのかなぁ……って」
「ふむ、拙者の又聞きでよければ……」
楓が離した事情。
それは、なんでもこの図書館島に【頭がよくなる本】があるということだった。
自分なりの努力はしているものの、テスト3日前の切羽詰まった中、縋れるものは何でも縋ろうと思い、
図書館島探検部の面子とバカレンジャーが揃ってここにやってきたということだった。
「まさか、そんな本がここに……」
「そうでござるな。拙者もそのようなことは初めて聞いたでござる。何はともあれ、眉唾なものでないとよいのでござるが……」
カラカラと笑い始める楓に、ネギは不安を隠せない。
何故なら笑っている楓自身も、そのバカレンジャーの面子の一人であるのだから……しかし、それを楓に突っ込んだところで暖簾に腕押しであろう。
ひとまずは頭の中を切り替え、彼女達の目的のものである頭がよくなる本について思考を巡らす。
(頭がよくなる本、か。有名な参考書みたいなものかな……それなら皆さんの勉強の役にも立つはずだ!)
「よし。絶対探しましょう、頭のよくなる本!」
「おやおや、ネギ坊主も元気を取り戻したようでござるな。それならば拙者も探すとするでござる」
では……と、ネギの元からルートを探しに行く楓。
ネギもそれに加わり、一行は新たな地下への入り口を探すのであった。
「これでこの階のマッピングは終了ですね……」
闇雲に探していたのではないだろう。
夕映が両手に広げていたのは、手書きで描かれたこの階の地図。
しかし、普通の地図とはあるところが異なっていた。
「あれ、何でこの地図透明なの?」
明日菜が疑問を上げるのも無理はない。
その地図が書かれていたのは、透明なフィルムのようなもの、俗にいうOHPで使うOHPシートと呼ばれるものだ。
「それは、これを重ねるとよく分かります」
夕映が持ってきた鞄から取り出したのは、同じOHPシート数枚。
端のところには異なる番号が書かれているのと、書かれている地図が異なるところを見ると、1枚1枚が別のものらしい。
「部室のデータからコピーしてきた、この図書館島で立ち入ることが出来る区域……つまり私達が今通ってきた階の地図です。
で、これを重ね合わせると……」
「「「「「「ああっ!」」」」」」
無色透明な地図数枚。それを重ねてみると、ある一点が共通していることに気づく。
「か、階段の位置が各階一緒になっている!」
「そうです。普通の洞窟とかならいざ知らず、建物……というのであれば、構造上同じ辺りの位置に階段を作らなければならないのです」
夕映が語ったその真実。
見知らぬ洞窟などではなく、ある程度知られた建物であれば、各階の構造を確かめてみれば階段という共通点が存在することになる。
無論、その建物の柱も同じ箇所に建てなければ、階層を連ねた建物など建てることすらできない。
なので、各階の地図を重ねれば何か分かることがあるのではないか。
そう考えた夕映は決行前に部室へ忍び込み、PCのデータからOHPペーパーにコピーしてきたというのである。
あくまで、魔法という何でも有りの条件を除けば……
「そして、考えられる未知の階への階段……それはこの辺りです!」
夕映が指差した先は、本棚に挟まれた何の変哲もない場所。
一同がそこに向かい、その周辺を探してみるも、何ら変わりの無い場所。
両隣の本棚も他の本棚と変わりはなく、雑多に置かれた本が置かれているだけ。
「本当にこんな所にあるの? ……何だか眉唾なような気がしてきたわ……」
何だか無駄な足掻きをしているような気がして、思わず溜息を吐く明日菜。
しかし、夕映は余裕の表情。チッチと指を揺らしながら、不敵な表情で振り返りもせずにある人物の名を呼ぶ。
「楓さん、床の辺りを調べてもらえませんか?」
「あいあい、合点承知の助~」
両手に腰を当てたまま、胡散臭げに楓が床を調べる様子を見る明日菜。
他の一同はこれから何が始まるのか、興味津々の眼差し。
楓は床に膝をついて四つん這いになると、両手を使って床を触り始めた。
周囲一体を触り終えた直後。
「ふむ……」
今度は右手に握り拳。コンコンとリズミカルに床を叩いていく。
数回ごとに叩く場所を変えていくこと数回。
「あっ!」
始めに気づいたのはネギ。
驚愕の声を上げると同時に、夕映と楓の表情がニヤリと笑う。
「そういうことです。後は、そこを開くには何か鍵となるものがあるはずなのですが……」
何が起きたのか分からない一同(ネギを除く)を置いて、夕映はさっさと辺りを見回しに入る。
楓もそれに倣い周囲の検索にあたるが、それでは収まらないのが、分からなかった残りの一同。
「な、なぁなぁネギ君。一体何が分かったん?」
「そうよ、あれだけで一体何が分かったというのよ。教えなさい!」
「え、えーとですね……」
途端に木乃香には右腕を捕まれ、明日菜には詰め寄られで困惑するネギ。
「音です。実際にやってみればわかりますよ」
試しに明日菜が先程の楓と同じように床を叩いていく。
何箇所か叩いているうちに、先ほど楓が叩くのを止めた位置を叩くと明日菜が困惑の表情を浮かべた。
「え……あれ?」
「1箇所だけ、今明日菜さんが叩いている所だけ音が響いているんです。つまり、そこには空洞が存在する――――イコール隠し道があるかもしれないということです」
明日菜の困惑を説明するかのように、ネギが説明する。
「おおー、さすがは先生というだけやるアルね」
クーの素直な賛辞にネギも頬を緩ませ、その後の説明を続けた。
「ですが、まだそこの道を開ける鍵となるものが見つかっていません。
穴を開けるわけにはいかないので、夕映さんと楓さんはその鍵となるものを探しているということです」
「案外さぁ、結構近い場所にあったりして……」
気楽な様子で明日菜が本棚に寄りかかったところ、そこで異様な音がその場に鳴り響いた。
ズズズズズッ……
まるで何かを引き摺ったかのようなその音。
その音が明日菜の背中から響いているのを察知し、明日菜はバッと後ろを振り返った。
そこには中途半端な位置で1冊だけ飛び出ているハードカバーの本。題名は何故か【明日への扉の鍵を探す12の方法】。
「ねえ、もしかしてこの本が鍵?」
「そうかもしれませんね……夕映さん、楓さん、鍵が見つかりましたよ!」
もう見つかったですか、とこちらに駆け寄る夕映と楓。
そこで明日菜が胡散臭げに呟きながら、
「まさかこんな簡単に秘密の地下への鍵が見つかるわけないじゃない。きっとこれも〈カチッ〉……え?」
「わ、わー! 明日菜さん、罠かもしれないのに勝手に押しちゃダメですよー!」
ネギの悲鳴の意味も無く、明日菜はその中途半端に飛び出ていた本を元に戻してしまう。
すると、何かが嵌まるかのような音が鳴り響き、その場にいた一同に緊張が走る。
ズズズズズッ……
再び何かが引き摺られるような音。
今度は、先程空洞があると分かった床の位置に人1人がやっとなぐらいの丸い穴が開いていたのである。
「ど、どんなもんよ。あたしだってやる時はやる〈ズズズズズッ…〉ん・だ・か・ら……」
明日菜が見栄を切ったその途中、再び何かが引き摺られるような音が鳴り響く。
しかも、こちらに近づいてきている気さえする。
「ね、ねぇ、あんな所に行き止まりなんてあったっけ?」
まき絵が指差した方には確かに壁。
行き止まりを示しているかのように、そこに壁が存在していた。
しかし……
「あれ、なんかだんだんこっちに近づいてきている気がしますよー!」
「アイヤー、反対側にも行き止まりアルよー!」
本棚に挟まれた一本道。その道の両端に出現した壁。
本棚の上に逃げようにも、天井までしっかり届いている本棚に逃げ場は無い。
「だ、駄目っ、この本棚ビクともしない!」
「うむ、完全に袋小路というわけでござるな……」
「って、冷静に判断してる場合じゃないですよ楓さぁーん!」
力自慢(?)の明日菜が本棚を押し倒して道を作ろうにも、その重量が勝っているのか、揺れることすらない本棚。
それを見てボソリと呟く楓に、律儀にもツッコミを返すネギ。
慌てふためく一同の中、夕映だけが冷静であった。
「皆さん、ここまで来たら逝くしかありません。さぁ、穴の中へ!」
ボンボンと背中を押され、1人ずつ穴の中へと叩き落とされていく。
最後に残ったのは夕映と楓のみ。
「フフッ、血が滾ります。勉強なんかしているよりも遥かに……では逝きましょう……」
「あいあいー」
ひょいと軽く穴の中に身を躍らせる2人。
ウォータースライダーのようなその長い滑り台の穴。
先に落とされた者達の叫びが木霊する。
「「「「「「【いく】の字が違うぅぅぅぅぅっ!」」」」」」
誰も居なくなった地下3階。
挟むようにして迫っていた壁。
その二つの壁はどういうことか、重なり合ったと同時にまた元の位置へとゆっくり戻っていった。
そして、バカレンジャー+が落ちていった穴もゆっくりと閉じられていく。
明らかに作為的なそれに、眺めていた影がそっと息を吐く。こっそりと連中をつけていたランディウスその人である。
「あの人しかいないな……全く」
やれやれと言いつつも、その壁が戻るのをじっと待つ。どうやら1度元に戻らないと、あの穴を開くことはできないようだ。
事実、鍵となった飛び出た本は納められたそのままの姿になっている。
「さて……危険な事態になる前に合流できればいいが……」
この仕掛けを考案する者の考えを何となく感じて、嫌な予感がするランディウス。
ちょうど自分がこの場所に辿り着いたと同時に穴が開き、そして全員がその穴に落ちていった(夕映と楓は異なるが)
「まぁ、今は待つしかないか…」
ゆっくりと戻っていく仕掛けを前にして、再び溜息を吐きざるをえないランディウスであった。
バカレンジャー+に視点を戻そう。
秘密の隠し通路を見つけた彼女達は、発動した罠によって先に強制的に進まざるを得なくなった。
隠し通路は急降下するかのような長い滑り台。
悲鳴を上げつつも、出口に辿り着いたのはすぐのことだった。
「えっ……?!」
ボスンという音共に、明日菜は自分が滑り台を抜けたことを自覚した。
しかし、困惑気な声を上げてしまったのは、抜けた瞬間に何か柔らかいものの上に乗っかった感触があったからである。
「こ、ここって?」
何となく混乱してしまったのは、行き着いた先が毛足の長い絨毯に覆われた床と、その先にコの字上に並べられた、
見るからにフカフカなソファーと四角い――――これも高級品であろう、マホガニーの四角い机があった。
およそ30畳くらいはあるだろうその空間。
見るからに通り道ですと言わんばかりに対面した向こう側の壁に穴がある。しかもご丁寧に『順路はこちら→』と看板まで銘打っていた。
「なになに……第365休憩室?」
この場所の意味を示してだろうか、三角のコーナーが机の上に立てられている。
しかも、隠し通路の先であるにも関わらず、カップジュースの自販機まで壁際に配置されている。
「ひとまずは、ここで休憩と逝きましょう……」
先生であるはずのネギを差し置いて、一行の行動を決定する夕映。心なしかニヤソと笑ってるように見えた。
そんな夕映に木乃香が近づいて、こっそり話しかけた。
「夕映、ひょっとして燃えてるやろ?」
夕映の返答に言葉は要らなかった。
ただ右手を握り締め、不敵な表情のまま親指だけを伸ばして、木乃香にそれを見せただけ。
休憩の間中に、自販機から買った思い思いのジュースを飲みながら、状況の説明をする夕映。
話を纏めれば、【頭のよくなる本】は地下11階にあるという噂らしい。
テスト前になると、何人もの食い詰め者がテストの点数UPを狙い、この図書館島を攻略しに訪れたという。
「今まであの地下3階から先に進めた者は居ません――――そう、私達が先駆者としてこの場に立っているのです!」
いつになく熱い語り口調の夕映。
無表情な彼女の顔の中に、爛々とその目だけが意思を持って輝いている。
「さぁ皆さん、そろそろ先に進みましょう――――では……度胸の貯蔵は十分ですか!?」
我先にと、その先にある順路(?)へと進む夕映。どこぞの錬剣者の台詞だと思えるのは気のせいである。
ブッチギリに突っ走ってしまっている夕映とは異なり、どこか置いてきぼりにされたかのような一同。
飲み終わったジュースの缶をゴミ箱に捨てると、先に行ってしまった夕映の後を追いかけるのであった。
再び進み始めた一行であるが……その先に待っていたものは人外魔境としか言いようがない。
本棚の上を通るのは当たり前、本棚と本棚の間にあるのは奈落と言えるかもしれないほどの闇。
やっとの思いでその本棚の場所を抜ければ、何故か存在する湖の中を歩くハメになっている――――
虎の石像が襲い掛かってきたり、鉄球が振り子の要領で迫ってきたりと危険には事欠かない。
これまたどこぞの錬剣者が投影したかの如く剣の群れが飛んできたり、パチンコ玉が降ってきたり……殺る気まんまんマン意外にどう言えばいいのだろう?
一歩間違えれば昇天を約束されかねない。まさにDEAD OR ALIVEだ。
そんなトラップの数々を持ち前のポテンシャルだけで乗り切るあたり、バカレンジャーの力が知れるであろう。
某生徒の『頭の中身と体力が反比例してる』とは言いえて妙かもしれない。
さて、迷宮探検組曲も終盤に入り、今度は巨大な本棚をビバークする羽目になるバカレンジャー+一行。
ご丁寧にも命綱を引っ掛ける場所とロープが準備してある時点で、どこかの仙人もどきの陰謀と考えてもおかしくない。
が、目的のものが近いためか疑うこともなく、一行は命綱を準備し、ゆっくりと降りていく。
先行したのは木乃香と夕映。図書館探検部というだけあって、他の一行を抜きん出てはいるが、それでも疲労の色は濃い。
下を見れば奈落と間違えそうになるくらいの暗い闇。
手にかかる負担と下から拭き抜ける冷風がプレッシャーとなり、精神を磨り減らしていく。
それでも諦めなかったおかげで、先に木乃香と夕映が辿り着く……その時!
「っ!」
「や、矢~~~~~~っ!?」
遥か高い天井を埋め尽くすほどの矢の雨。
某サガなフロンティア2の、弓術の全体攻撃と言えなくもない。
遮蔽物の無い通路上、しかも体力バカ達とは異なり、さほど運動神経良いわけではない2人。
楓とクーは慣れていない3人のフォローのために未だ降下の最中。
降りる一行の目の前で、降り注ぐ矢の嵐は無情にも2人との距離をグングン狭めていく。
絶望の前に、夕映が膝から崩れ落ちそうになる。
右は!? ……ダメっ!
左は!? ……これもダメっ!
前も後ろも横もまるで猫の子一匹通さなぬ程の矢衾。
距離が近づいてくるに従ってカウントされる自分の人生。後数秒でその終点となる。
頭をよぎる走馬灯。
久々に心躍るひと時を過ごし、そしてその目的が目の前に近づいているというのに――――近づいてくるオワリのトキ。
「もうすぐ、もうすぐなのに……」
怖いという感情を通り越して、夕映の頭の中は呆然という一言で塗り潰されていた。
大して面白みのなかった自分の人生。あっけない幕切れ。
それを甘受するかのように只見つめただけの自分。
その結末に抗うことは無駄なこと?
普段の自分なら鼻で笑って迎えただろう。
でも、今は。やっと面白くなってきた今だけは!
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
上げる。声を上げる。今までに無いくらいの声を上げる。
恥じも外聞もないくらいに、夕映はその運命に抗う。
その抗いすらも、運命の前には無力。
そんなことはとっくの昔に分かりきっていたこと。
それでも、最後の一瞬まで諦めることだけはしたくなかった。
後1メートル、時間にして後数秒――――そこに、盾を持った者が舞い降りた。
「屈んで低くしてろ!」
死への恐怖が身を束縛していたが、突如発せられた力強い声に動かされる。
その者の後ろで身を屈めた瞬間、断続的に鳴り響く甲高い音。カンカンと鳴り響くそれは、まるで終わりを知らない時の調べのよう。
もし、自分達の目の前にこの人が居なかったら?
想像するだけでその恐ろしさに、目をギュッと閉じざるを得ない。
身を竦ませるような音は5分ほど続いていたが、ある一時を境に鳴り止んだ。
終わったと同時に、短い舌打ちと同時に青年が聞き取れないほどの小声で1人ごとを呟く。
「チィッ! あ、あんの爺ィ……なんてものを仕掛けやがって……っと、大丈夫だったか?」
一瞬黒い感情に囚われそうであったその青年は、思い直したのか、後ろで庇っていた2人の方を振り向き、声をかけた。
両手で耳を塞ぎ、ギュッと目を瞑ったままの2人。青年のかけた声に気づく気配もない。
青年は2人のすぐ傍まで近寄ると、2人の肩を優しく叩いた。
「「え……?」」
夕映と木乃香は恐る恐る上体を起こし、自分達の肩を叩いた主を見る――――そう、2-A副担任のランディウスを。
最後の最後まで諦めなかった。それはいい。
きっとあの矢の嵐が自分を貫くまで、自分は声を上げていただろう。
それでも、自分の運命がすぐそこに来ていることは分かっていた。
予測された結果の上での無駄な足掻き。
それをいい意味でも裏切ってくれたランディウスの行動。
恐らく夕映も木乃香も、今自分が至った結末に信じられないという表情で一杯。
いや、現実感すら失っているかもしれない。
元の世界で帝国大統領から贈られたアキレウスの盾は、矢の豪雨を軽く凌いだかに見えた。
もしこの場にいた者が気づけば、きっとあることがおかしいことに気づくだろう。
5分も続いた矢の嵐。その割には地面に付き立っている矢の数がおかしいことに……
(魔法で矢を水増ししてたんだな……全く手の込んだことを…)
そんな思考をしているランディウス。
正気に戻りつつあった夕映と木乃香は涙交じりにランディウスを見つめる。
「ら……ら、ら……」
「ら、ランディ……ウス……先生?」
「ああ、俺だ――――怪我はないようだな。立てるか? ……っと」
人生終わりの烙印が押されかけたところでの救出劇。
夕映と木乃香は差し出された手に呆然と見つめていたが、助かったことに気づき、ランディウスに泣きついた。
声をかけた半ばでいきなり抱きつかれ、危うく体勢を崩しそうになる。
そこはランディウス、予想内の範疇だったか、すぐさま体勢を整え、彼女達をあやした。
「「こ、怖かった(です~)、もう死んじゃうかと思いました~……!」」
「あ、あーよしよし、もう大丈夫だからな~」
(……それ相応の報いを受けてもらわなければ釣り合わないな……)
これまでの罠に加え、死の匂いすら夕映と木乃香に匂わせたこの矢の嵐。
この罠を仕掛けた張本人に懲罰決定の判定を心の中で下すランディウスであった。
尚、泣きついた夕映とこのかであったが、なかなか泣き止む気配はなかったものの、
ランディウスの必死の懇願もあってか、遅れている5人が到着する前に何とかすることができたのである。
余談だが5人が到着した時、何故か夕映がランディウスの服の裾を握って離さなかったとか……
それも背中越しなので、5人から見えることはなかった――――案外計算されていたのかもしれない。
やがて遅れていた5人も到着し、ランディウスと合流。
その頃には夕映と木乃香も泣き止んでおり、ランディウスに泣きついてはいない。
それを見てホッとするランディウスは横においておくとしよう。
落ち着いた一同はランディウスがここにいるとこに驚き、ひとまずはここでミーティングを行うことなった。
「で、何でランディウス先生がここに?」
「君達が寮から抜け出したからさ。こっそり動いたつもりだろうが、バレバレだったぞ」
「うっ!」
「副担任・管理人・警備員として、座視という選択肢はないからな……で、ここにいる理由は?」
既に理由を知っているが、ネギ達はランディウスが知らないものと思ってるので改めて聞く必要があった。
ネギから説明を受けるにつれ、ランディウスの表情は呆れ気味になっていく。
「その、あるか分からない本を取るために危険を冒していると?」
「は、はい」
バカレンジャー+はハラハラしながら事の成り行きを見守っている。
もしかすると、帰れと言われるんじゃないか……そう思い顔が蒼くなっていた。
「一世一代の大勝負、と言えなくもないが……仕方ない」
「……じゃ、じゃあ!?」
「せっかくここまで来たんだ。最後までやり通せ――――ただし!」
「「「「「「「?」」」」」」」
「俺も同行させてもらう。見届け人がいても問題ないだろう?」
ランディウスの申し出を快諾したバカレンジャー+は意気揚々と道を進んでいった。
途中、細長い通路を屈んでいかなければならなくなるのも何のその、だ。
ここにも例外なく本が置かれているのは、もう驚嘆する他ない。
やっとの思いで到着したのは、よくあるRPGのラスボスの部屋っぽい場所。
まさに玉座の間と言わんばかりに、石造りのそれはこれまでの部屋とはまったく異なったある種のオーラを漂わせていた。
相変わらず本棚があるのだが、一番奥に置かれた2体の石像。
まるで何かを守っていますよと言わんがばかりの怪しさ全開だ。剣とハンマーなんかを持っているあたり、特に。
「頭が良くなる本の安置室です」
「こ、こんな場所が地下にあるなんて……」
(まるで古代魔法文明の遺跡だな)
どんな過程を経てできたのか、非常に気になる一同。
明らかに日本文化の発展上にはありえないその造り。
「!? えええっ、あれは!?」
「ん、どうしたのネギ?……っ!」
ネギが石像の間の台座に安置されている本に釘付けとなる。
それに気づいた明日菜がネギに問いかけるが、まったくの無反応。
まるでネギが固まってしまったかのようにうんともすんとも言わなくなってしまったのである。
「ちょ、ちょっとネギ、しっかりしてよ。ねぇ、ネギってば!」
「ちょ、明日菜、やりすぎだよー!」
ブンブンと両肩をそれこそ揺さぶるという言葉が生易しいくらいに激しく振る明日菜。
まき絵が慌ててそれの静止にかかるが、何よりもネギが反応を示さない。
時折何か数字の――――それこそ聞いたことが無いような公式を呟いている。
焦点の合わないネギの目が正気を取り戻すと、まるで驚愕するかのような表情でネギが喋り始めた。
「あ、あれは伝説のメルキセデクの書――――見たものに知恵を授けるという……! そんな、信じられない……僕も見るのは初めてというか……!!」
ネギの言葉に続きがあった。それはこの面子の中で事情を知っているランディウスと明日菜だけが知る魔法の力。
しかし、それをバラしてしまうと何故自分が魔法を知っているのかと尋ねられかねない。
特に、そういったことに興味のある木乃香などには……だけど、実際にネギがそれを見つめただけで、まるで脳内に語りかけてくるかのように知識が流れ込んできたのだ。
「てことは、ホンモノ……?」
「ホ、ホンモノも何も、あれは最高の魔法書ですよっ! 確かにあれなら、ちょっと頭を良くするくらい……!」
(気のせいか? あの本の奥から魔力の揺らぎを感じたのだが? ……と、そういうことか)
ランディウスは1人、これまでの仕掛けを拵えた人物のことを考える。
伝説と称される魔法の本と、その奥に控える2体の石像。本を挟んで対角上に位置するネギと石像。
少し考えてみれば、すぐ分かるその真実。
この図書館島に来て早何度目のため息になるか分からないランディウス。
さりとて、全てをバラしてしまってはネギのための試験である意味がない――――故に、そっと心の奥に真実をしまい込んだ。
その時、ブツを目の前にして気が緩んだバカレンジャーは、我こそ一番乗りと言わんばかりに走り出した。
「やった! これで最下位脱出よ!!」
ひとまずは仕掛けを作ったものの意図に従い、その場の雰囲気に合わせてランディウスが叫ぶ。
「おい、待て! あんな貴重な物をそのままにしておくはずないぞ!」
「絶対罠が仕掛けられてます! 気をつけて!」
ネギと一行についていかなかった木乃香も追いかける――――と、その瞬間、パカッと音を立てて割れる床。
当然重力に従い、バカレンジャー+は見事に落下する……といっても、さしたる高さではなかったため、大事には至らなかったが。
その床には、【☆英単語TWISTER☆ Ver10.5】と彫られている。
ご丁寧にも五十音と濁点・半濁点がローマ字と共に表記され……というか、まんまツイスターゲームだ。
……いつ更新されているのか、そもそも探検部ですら未到達のこの場所で誰がやるのかさえ疑問符が付く。
「……何が始まるのか分かった気がするな」
追いかけなかったので落下を避けられたランディウスは、これからの展開を予想してしまった。
心中で、はっちゃけてるな学園長、と思いながら。
〔フォフォフォ、この本が欲しくば……わしの質問に答えるのじゃ! フォーッフォフォフォ♪〕
バル○ン星人紛いの笑い声を発し、2体の石像が動く。なんと、石像は動く石像だった!
ネギはその声に聞き覚えがあるようだが――――一同の混乱っぷりは目を覆わんばかりである。
(いや、思いっきり遊んでるでしょ? むしろ遊びすぎですよ)
もういいやとばかりに、その場で胡座を掻いてしまうランディウス。
そんな彼を放置して、ゴーレムが畳み掛けてきた。
〔―――では第一問、【DIFFICULT】の日本語訳は?〕
「ええ――――!?」
「何ソレー!?」
英単語を日本語訳にする問題を出され、バカレンジャーはテンパってしまった。
「み、皆さん落ち着いて下さい! 【DIFFICULT】の訳をツイスターゲームの要領で踏むんです!」
「その訳が分かんないのよ!」
ネギがサポートするも、早くもお手上げ寸前な明日菜。
〔教えたら失格じゃぞ。ただし、ヒントならハブろう〕
「……EASY、【簡単じゃない】の反対です!」
ゴーレムの呟きを聞き取ったネギが、再度サポートに出た。
すると楓が『む』、まき絵が『ず』を押す。後は『か』・『し』・『い』の3文字なのだが――――明日菜は『い』を押した。
〔【難い】……正解じゃ〕
心なしかゴーレムは呆れかけている。
省略言葉が正解となったので、バカレンジャー+は喜んでいる。これでブツをゲットだと言わんばかりに。
〔次々いくぞぃ。第二問、【CUT】〕
「……って、コラ!」
「そんな~~~~~っ!!」
……世の中そんなに甘くなかった。
バカレンジャーの悲鳴を無視したまま、出題が続く。
〔―――第七問【REMEMBER】〕
――――『お』・『も』・『い』・『だ』・『す』……思い出す。
〔第11問【BASEBALL】〕
――――『や』・『き』・『ゅ』・『う』……野球。
あっちこっちに動くものだから、バカレンジャーは互いに絡み合う格好となっていった。
ほんのちょっと身をよじっただけで倒れかねない、この状況……作為的なものがある。
〔次が最後の問題じゃ〕
「やった! 最後だって!」
〔【DISH】の日本語訳は?〕
「鍵は食器だ。主におかずを置く際に使うものは?」
ランディウスがヒントを出した。
同時に、バカレンジャーは皿を思い浮かべる。
『お』と『さ』が押され、後は『ら』だけなのだが……態勢の悪さが影響して『る』を押してしまった。
お皿ではなくお猿――――よってハズレ。
〔ハズレじゃな。フォフォフォ♪〕
ハンマー持ちのゴーレムが、手持ちのそれで床を轟音と共に破砕した。
バカレンジャー+が底無しの穴に落ちていったのは当然の帰結である。
「アスナのおさる~~っ!!」
「いやああああ~~!」
ドップラー効果でしばらく聞こえていた悲鳴も消えた頃、ランディウスが立ち上がる。
「本当にノッてますね、学園長?」
〔な、何のことじゃ? それにわしは学園長ではないぞぃ〕
「シラを切るつもりですか? その言葉遣いと声、魔力の波動が明確な証拠でしょう」
〔ぐっ……〕
痛いところを突かれたのか、言葉に詰まるゴーレム……もとい、近右衛門。
「ま、この件は後々追求するとして〔するの!?〕……何か言いましたか?」
〔い、いや、何でもないんじゃ〕
ランディウスな非難するような視線から目を逸らす。
「……ネギ達は無事なんでしょうね? かなりの高さみたいですが」
〔それなら心配無用。最下層まで落ちたようじゃが、あそこは特殊な構造でのぅ〕
「なるほど。了解しました――――で、俺も行くってわけですか?」
〔うむ〕
「分かりました……ただし!」
右人差し指をピンと立てた。
「真名と刹那には学園長から説明して下さい。前もって俺が言ってるんですが、ここは責任者直々に行動していただかないと」
とっても嬉しそうな笑みを浮かべるランディウス。
〔な、何じゃと!? それは酷という「じゃあ、俺はこれで」……〕
さっさと穴に飛び込んでしまった。
その場には、呆然となっているゴーレムが2体残されているだけだった――――
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