第1話「魔術使いと翼ある剣士と癒しなす姫君(前編)」 投稿者:偽・弓兵 投稿日:04/10-12:49 No.269
第1話「魔術使いと翼ある剣士と癒しなす姫君(前編)」
京都の森の中――――――
二人の少女が、森の中を散策していた。
「こ、このちゃん、そろそろ帰らへんと、怒られてまうで?」
片方の、髪をサイドで結んだ10歳ぐらいの少女がもう一人の少女に向かって言う。その少女は剣道着のような服を着ており、その小さな手には不釣合いの長大な刀が納まっていた。
もう一人の少女も10歳くらいで、こちらは着物を着た長い黒髪の少女。彼女はもう一人の少女にこう答えた。
「大丈夫やって、せっちゃん。 あんまり家からはなれてへんし、もう少ししたら帰るえ~」
のんきな口調でそう言う少女―――――「近衛木乃香」に、
「はぁ…わかったわ、このちゃん」
あきれたように彼女―――――「桜咲刹那」はそう答えた。
そう話ながら森を散策する二人に、突如として轟音が響き渡った。
「な、なんなん…? なにがあったん…?」
突然の事におびえる木乃香。しかし刹那は、別のことを考えていた。
(も、もしかして過激派の人がこのちゃんを狙って!?)
今、この京都で西日本の霊的守護を担う「関西呪術協会」は二つの対立派閥が存在していた。一方は長―――「近衛詠春」を主とする穏健派と、西洋魔術師を敵視している過激派の二つに。近頃、この過激派がなにか行動を起こすと噂されていたため、刹那も過敏になっていた。
(いくら、過激派の連中でもこのちゃん――――お嬢様をどうにかしようとはおもわないだろうが―――警戒に越した事はないだろう)
そう結論づけた刹那は、
「このちゃん、ウチがちょっと見て来るから、ここにおってな?」
さすがに木乃香を危険にさらす訳にはいかず、一人で行こうとする刹那。たとえ幼くとも「神鳴流」の剣士。そうそう遅れをとるつもりは無い。しかし―――
「え~、ウチも一緒にいくわ~」
そう答える木乃香に、ここに一人にしておくよりも自分と一緒の方が良いのかもしれないと思い直し、刹那は連れて行くことにした。
しばらく警戒しながら歩くと、少し開けたところに、クレーターのようなモノができておりその中心には煙が立ち込めていた。辺りに人影は無い。どうやら警戒していた過激派ではないようだ。隕石が落ちてきたのではないか――――と、刹那は推測した。
「このちゃん、どうやら隕石が落ちたようや」
少し警戒を解きながら木乃香にそう告げる刹那。
「へ~隕石か~ウチ、初めてみるわ~」
そういいながらクレーターに近づく木乃香。
「こ、このちゃん!! まだ熱いから危ないよ!!」
慌てて木乃香を止めようとするが、木乃香はすでにクレーターを覗き込んでいた。
「ん!? せ、せっちゃん!! 誰か穴の中に倒れとるで!?」
そう叫ぶ木乃香。確かに、穴の底に誰かが倒れている。
「ええっ!? こ、このちゃん!! そこから離れて!!」
再び警戒をする刹那。危険な人物かもしれないと考えたのだ。
その言葉が聞えないかのように、木乃香はクレーターの中へと入っていった。
「こ、このちゃん!?」
木乃香も行動に驚き、一瞬動きが止まるがすぐさま木乃香の後を追う。
木乃香は一メートル程の穴を下り、倒れている人物に駆け寄った。倒れている人物は、普通のトレーナーとジーパン。普通の格好だ。こんな現れ方をする人間には見えない。ゆっくりと彼に近づき、様子を伺う。どうやら、外見上怪我をしているようには見えない。単に気を失っているだけのようだ。そこへ刹那が追いついてきた。
「このちゃん!! 危ないやないの!? 危ない人やったらどないすんの!!」
「あ~ごめんな~せっちゃん。でも、人が倒れとるのにほっとくわけにはいかんやろ?」
その反論に、ぐっ、とつまる刹那。その彼女の優しいところが刹那は好きだった。
「う、う~ん……」
そんな時、倒れていた人が気がついた。
「あ、気がついたようや」
「むっ!!」
のんきな木乃香とは正反対に、刹那は再び警戒する。こんな所に現れるのだ。格好は普通でも、一般人ではありえまい。
うっすらと目を開く。そんな彼の第一声は―――――
「なんでさ」
それが彼―――――「衛宮士郎」の異世界での第一声だった。
第1話了
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