第3話「修行の日々」 投稿者:偽・弓兵 投稿日:04/13-10:53 No.298
第3話「修行の日々」
とある開けた草原で、二人の人物が対峙していた。
一人は年若い、15,6の赤毛の少年。もう一人は20代前半の、手に日本刀を持ったこれまた年若い美人であった。そんな二人が、数十メートルの距離を開けて立っていた。
「それでは、士郎はん。始めまひょか」
美女――――「青山鶴子」がそう少年に告げる。
「はい、鶴子さん。お願いします」
少年――――「衛宮士郎」はそれに答える。
そして――――――――――――――――
鶴子はその手に携えていた刀を鞘から抜き放ち、下段に構えた。
対して士郎は、
――――創造の理念を鑑定し
――――基本となる骨子を想定し
――――構成された材質を複製し
――――制作に及ぶ技術を模倣し
――――成長に至る経験に共感し
――――蓄積された年月を再現し
今ここに、幻想を結び剣と成す―――!!!
「投影開始(トレースオン)!!」
投影を行い、その手には使い慣れた“干将莫耶”―――――黒白の双剣が現れた。
「では―――――
「ええ―――――
行きます!!!!!」」
同時に走り出す二人。その速さは常人――いや、同じ神鳴流の剣士や魔法使いからみても、凄まじい速度であった。
数十メートルはあった距離が、ほぼ一瞬で縮まった。
「瞬動術」―――――“気”や“魔力”を足元に集中し、爆発的な加速力を得る高等技術。達人同士の戦いには必須の技である。
お互い瞬動術を使い、距離を詰め剣を打ち合わせる。一撃、二撃、三撃……。
鶴子の刀と士郎の双剣が甲高い金属音を響かせながらぶつかりあう。
士郎が突きを放てば鶴子は刀で逸らし、鶴子が袈裟懸けに切ろうとすれば士郎が莫耶で受け止め、干将で薙ぐ。
そんな攻防もそう長くは続かなかった。
段々と士郎が防ぐ時間が長くなり、鶴子の攻撃がいよいよ鋭さを増していく。ついには士郎は防戦一方になり、攻撃の機会が無くなってしまった。
ますます鋭さを増していく鶴子の刀はまるで流星のように士郎に襲い掛かる。
ついには双剣にヒビが入り、次の攻撃を受けた瞬間粉々に砕け散ってしまった。
「――――っっ!!」
武器を失った士郎に、鶴子の斬撃が迫る。もはや避ける術はない――――
「投影開始(トレースオン)!!」
再び自らのスペルを唱え、新たな武器を投影する。
その手には、鶴子の持つ刀によく似た――――いや、まったく同じ刀が現れていた。
ギィィィィンンンンンンンン!!
鋭い音を響かせ、同じ刀がぶつかりあう。
「ほう…ウチの“止水”どすか。さすがは士郎はん、よくできとりますなぁ」
微笑し、刀を鍔迫り合いしながらそう話す鶴子。
「けど―――――」
一旦飛び離れて、刀を構える。そして――――
「斬鉄閃――――」
静かな声で技を放つ。
振り下ろされた刀から、螺旋状に気の刃が放たれた。
士郎はそれを瞬動術で横にかわすが――――
「甘いどすえ」
同じく瞬動術を使った鶴子が士郎の回避した場所で待ち構えていた。士郎の回避行動が読まれていたらしい。
そして、いまだ空中にいた士郎に向かって横薙ぎの斬撃をくらわせる。
「くっっ―――――!!」
避けられない。士郎はそう判断し、その薙ぎに対して“止水”を盾にして受け止めようとする。が――――――
バキッッ!!
鈍い音をたてて士郎の“止水”が砕け散った。
そして地面を転がっていく士郎に、鶴子の追い討ちが迫る。
「風塵乱舞―――」
いつのまにか手の中に現れた数本の手裏剣が鶴子の手から放たれる。鋭い音を立てながら、士郎に迫る手裏剣。いまだ地面に倒れる士郎にそれをかわす術などない。
―――――が、士郎の目には諦めは無い。そして左手を迫りくる刃にむけ、自らの信じる武装。最高の盾を作り出す。
「“熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”!!!」
七つの花弁の形をした盾の宝具。自らの持つ、投擲武器には最高の防御力を誇る盾で手裏剣を防いだ。
七つの花弁に阻まれ、手裏剣は全て弾かれた。士郎はすぐさま立ち上がり、鶴子に相対する。
「ほんまに士郎はんは何でもありやなぁ?」
感心した口調で話す鶴子。追撃の様子は見当たらない。しかし、相手は「神鳴流」の歴史の中でも一,二を争う剣士。一瞬の油断も許されない。
「でも、士郎はん? 残念やけど、剣士としての士郎はんではウチにはかないまへん。そろそろ本気で―――士郎はんの戦い方できなはれ」
そう士郎に向かって言う鶴子。
確かに士郎の身体能力や、セイバーとの訓練などで磨いた剣技は一流の物だ。が、士郎はもともと「作る者」。剣技では、かの騎士王や佐々木小次郎を名乗る暗殺者と比べても遜色がないほどの卓越した技を持つ鶴子に勝てよう筈も無い。
士郎の本来の戦いかた――――「魔術使い」としての戦い方でなければ、鶴子には対抗できない。
「ええ……解かってますよ、剣技で鶴子さんに勝てないことは。今の自分の力量を試したかったんですよ」
そう答える士郎。こちらに来た当初は始まってすぐに武器をへし折られ、気絶させられていた。その時からに比べれば雲泥の差だ。
「じゃあ―――――行きます!!!!」
士郎はそう言って再び投影を始める。
「――――投影開始(トレースオン)」
呪文を唱え、
「――――憑依経験、共感終了」
27本の魔術回路をフル稼働させ、
「――――工程完了(ロールアウト)。全投影待機(バレットクリア)」
「魔術使い」としての技を行う。
「っ―――停止解凍(フリーズアウト)、全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)………!!!」
そう唱えた士郎の周りから、何十もの剣が出現する。士郎の周りに浮かべられた剣群は、士郎の意思に従い、鶴子の元へと高速で射出される。
ガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!!!!!!!!
その剣群をかわしていく鶴子さすがにその顔には余裕が無い。一撃でもまともにくらえばそこで終わりだからだ。
次々とかわしていく鶴子に、士郎は次の手を打つ。元々この程度で倒せる相手とは思っていない。
「――――投影開始(トレースオン)」
士郎の両手に4本ずつ計8本の“黒鍵”が指に挟まっていた。
全ての剣群をかわし終え、動きを止めた鶴子に全ての黒鍵を鶴子に向かって放った。
空気を切り裂き迫る8本の黒鍵。
それを見て取った鶴子は、刀で弾こうとするが―――――――
鶴子の脳裏に危険信号がよぎる。その直感を信じて弾くのを取りやめ、黒鍵から身をかわす。
鶴子の側をかすめた黒鍵は木の幹に刺さり―――――
ザスッッッッ!!!!
柄のところまで刺さった。
「な―――――――!?」
その光景に、さすがの鶴子も驚きを隠せない。凄まじい貫通力である。おそらく人がまともにくらえば体がそのまま吹き飛んでいくだろう。
“鉄甲作用”――――士郎の世界で“埋葬機関”と呼ばれる吸血鬼狩りの人間がよく使う投擲技術。士郎はこの埋葬機関の“第七司祭”と出会い、これを教えてもらった。――余談ではあるが、この時の報酬は衛宮士郎秘伝の美味いカレーのレシピであった。
「ちっっ…!!」
さすがに焦りを隠せない鶴子。舌打ちをし、士郎の様子を伺う。
士郎もまた鶴子の様子を伺う。
そのまましばらく睨み合いが続き―――――――
鶴子が口を開いた。
「士郎はん。そろそろ時間も差し迫ったようやし、そろそろ決着を着けようやないか」
「そう…ですね。そろそろ夕食の時間ですし。今日は俺が当番ですから」
そう軽く話す二人だが、その間に漂う緊張感は無くならない―――いや、さらに増していく。
そして―――
「フゥゥゥゥ――――」
呼吸を整え、鶴子が技の準備をする。
一方士郎もまた、自らの最高の技を行う為に集中する。
「――――投影、開始(トレースオン)」
士郎の手に、巨大な斧剣が出現した。
「――――投影、装填(トリガー・オフ)」
士郎が行うは、かの大英雄が使いし弓の技が剣技へと昇華されたモノ――――
「神鳴流奥義―――――」
鶴子の刀に雷が纏わりつき、気が膨れ上がっていく。
一瞬、あたりの音が消え去ったような静寂が訪れる。
そして次の瞬間―――――
「極大雷鳴剣―――――――!!!!!!!!!」
鶴子の刀から放たれた雷が士郎に襲い掛かる。
迎え撃つは大英雄ヘラクレスの使いし御技――――
「全工程投影完了――――是、射殺す百頭(セット――――ナインライブスブレイドワークス)!!!!!!」
士郎は手に持った斧剣を振るった。その剣は九つの巨大な斬撃を放ち極大雷鳴剣を迎え撃つ。
轟音を立て、相打つ二つの神技。
斬撃と雷光――――――
その威力はほぼ同じであった。
二人の中間点でぶつかり合った技は、お互いを相殺し、土煙を立てた。
「はあっ、はあっ………」
荒い息をつき膝を突く士郎。さすがにかの大英雄の技を行使するにはまだ身体がついていかなかった。
一方鶴子は―――――
「ふう…とんでもない技どしたなあ……もう少し極大雷鳴剣の威力が弱ければ、大怪我するところでしたわ」
その姿はまったくの無傷に思える。が―――――
「でも、まさかアレを越えてウチに傷をつけるとは……」
そう呟く鶴子の腕から、一筋の血が―――
「さすが、士郎はん。ウチが見込んだ男ですわ~~」
傷つきながらも、どこか嬉しそうな様子の鶴子。
「でも、俺はもう限界です…今、鶴子さんが追撃したら負けますよ。―――――まだまだ、修行が足りません」
そう鶴子に向かって喋る士郎。体力の限界なのか、地面に寝転がる。
そんな様子の士郎に向かいながら、
「謙遜しなはんな。これだけの力量をもったお人は、神鳴流の門人のなかにも数えるほどしかおらへん。十分でっしゃろ――――――それに、士郎はんは宝具をあまり使わなかったやないの!! なんかウチ、手加減されたみたいでなんか悔しいわ~~」
確かに、士郎が高ランク宝具を「真名開放」して使えば、鶴子に勝つことも出来るだろう。しかし――――
「鶴子さん相手に手加減なんか、怖くてできませんよ~~。それに宝具に頼ってばかりじゃ、今以上に強くなれないですからね……」
そんな最もな意見に納得した鶴子は、
「そう、どすな。あまり武器に頼るのはあきまへん」
そういいながら、さらに士郎に近寄ってくる。
「ところで、士郎はん?」
「へっ? なんです? 鶴子さん」
寝転がったまま、訪ねる士郎。まだ身体が思うように動かせないようだ。
「ウチ、士郎はんに傷物にされてしもうたんや。これは士郎はんに責任をとってもらわんと!!!」
そう言いつつ、士郎にがばっと覆いかぶさる鶴子。その顔は物凄くイイ笑顔で溢れていた。
「ななななななななななななぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?」
あまりにも突然の出来事に言葉にならない士郎。
「当然やない? 士郎はんがウチを傷物にしたんやから」
笑顔で士郎の責任を問う鶴子。しかし、そこからにじみ出るプレッシャーは大きい。どうやら本気のようだ。
「な、なんでさーーーーーーー!!!!!!!」
つい、口癖がでてしまった士郎。
そんな様子に構わず、士郎を押し倒して服を脱がそうとする鶴子。―――――どうやらこの場で既成事実を作り、士郎をGETする作戦のようだ。危うし!!士郎の貞操!!
頭の中でこの状況から逃れる方法を探す士郎。こんなときこそスキル“心眼(真)”の見せ所――――今までの経験から、最善の方法を模索する――――!!!!
そう、悲しい事に彼はこんな状況になるのが初めてではなかった。以前の世界で、後輩やらそのサーヴァントやらロリブルマや腹黒シスターなどに押し倒されそうになった経験があった。――――――だからといって、慣れる訳がなかったが。
検索―――状況:自分の身体は動かず。敵(鶴子)は少しの疲労があるものの、身体能力に影響は無い。体勢は敵が上にいる、マウントポジション。手足は拘束ずみ。
対策:―――――んなものは無い。諦めろ。
自分自身のスキルに裏切られた士郎は、声も出せなかった。
(だれかーーーーーー!!! なにか対抗策をーーーーー!! へるぷみ~~~~!!!)
もはやすでに混乱の極みにある士郎の頭に救いの声が―――――
(ふん、所詮貴様はその程度だと言うことだ。―――女に溺れて溺死しろ)
するわけなかった。聞こえてきたのは赤い弓兵の皮肉気な声(電波)だった。
(台詞違うだろーがっ!! このガングロマッチョサーヴァントォォォォ!!)
そんな士郎をよそに、鶴子はゆっくりと士郎の服を脱がしていく。ああ、このまま士郎君は食われてしまうのか―――――?
――――が、そんな時、今度こそ救いの神が現れた。
「なっっ!? 士郎さん!?」
そんな叫び声が後ろから聞こえ―――――
「斬魔剣――――!!!!!!」
魔を断つ気の刃が、士郎の上の鶴子に迫る!!
「ちっっ!!」
寸前で避ける鶴子。
「うべらっっ!?」
その背後で何かの悲鳴が聞こえたが、誰も気にしなかった。
「誰や!? ウチがせっかく既成事実を作って士郎はんと無理やりけっこゲフンゲフン!!」
本音を喋りそうになって、慌てて咳でごまかす鶴子。―――どうやら、結婚までこぎつける予定らしかった。
「は?―――――あ、姉上~~~~~~!? な、なななな何をしてらっしゃるんですか~~~~~~!?」
そう叫んだのは、士郎と同じくらいの年頃で、髪をポニーテールにした鶴子によく似た美しい少女だった。
彼女―――――「青山素子」は、自分の姉である鶴子に詰問した。
「姉上!? 殿方を押し倒すなど、なんて破廉恥な!! 神鳴流の剣士としての自覚はどうしたんですか!?」
「ほほほほほほほほ。そんな物は恋する乙女には関係あらしまへん」
そんなことを言う鶴子に、
「はぁ? 恋する乙女? もう2ピー歳を越えてるのにそんなことを…」
反論する素子だったが、禁句をいってしまった。
「モトコはん? 今、何と?」
凄い笑顔で素子を見る鶴子。その目は笑っていない。全身から殺意が湧き上がるかのような様子に、素子も気がついた。
「い、いや、姉上。私は何も……」
なんとか取り繕おうとするが、時すでに遅し。
「モトコはん……どうやらウチは口の聞き方を教え損なっていたようやなぁ…」
変わらない笑顔で、素子に迫る鶴子。
「モトコはん? お仕置きや」
「あ、あねうえーーーーー!? お、おしおきはいや~~~~~~!!!!」
そう言って逃げ出す素子。
「ふふふふふ。逃げても無駄どすえ? モトコはん?」
そう言って追う鶴子。
そして、二人は森の方へ走り去っていき…
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」
しばらくして、あたりに素子の悲鳴が鳴り響いた―――――――
一方、放っておかれた士郎は―――
先ほどの素子の斬魔剣が直撃し、気を失っていた。
「おや~そこにいるには親父じゃないか~」
うわごとでこんな事を呟く士郎。
どうやら、死んだ親父と三途の川で再会したみたいだ。―――かなりやばい状態のようだ。
そんな士郎を、鶴子が思い出したのは素子のお仕置きが終わった2時間後の事であった。
第3話了
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