第8話「家政夫と料理」 投稿者:偽・弓兵 投稿日:04/22-23:44 No.369
第8話「家政夫と料理」
エヴァンジェリン宅――――
「いい加減に起きんかっ!!」
ボクッッ!!!
「ぐはっっ!?」
エヴァに殴られた士郎が覚醒した。
「は?…ここはどこだ?」
起きた士郎は周りを見渡してそう呟いた。
そんな士郎に、
「ここはマスターの自宅です。衛宮先生」
茶々丸の冷静な声が聞こえた。
「あーそうか、あん時気絶させられてここに連れてこられたのか…」
あたた、と頭をさすりながら寝かせられていたソファーから身体を起こす。
「まあ、もうここに居るんだから仕方ないけど、ホントに良いのか?」
「まあ、一日くらいならかまわんさ。貴様に興味があったことだしな。それで、さっそくだが…」
士郎に色々聞こうとしたエヴァを茶々丸が遮る。
「マスター。そろそろ晩御飯の時間です。私が準備しますので、ご希望があればおっしゃって下さい。…衛宮先生もご希望があればどうぞ」
「む。もうそんな時間か。なら私は和食でなにか…」
そのエヴァの言葉を遮り、
「ああ、なら俺に作らせてもらえないか?」
士郎がそう言った。
「なに? お前が?…できるのか?」
その言葉に疑問を投げかけるエヴァ。
「まあ、それなりに自信はある。それに京都で和食についてはかなり勉強したからな」
その口調に自信を滲ませながらそう告げる士郎。
「いえ、衛宮先生。先生は客人ですから私が…」
そう言って断ろうとする茶々丸。
「なら、ここに泊めて貰う対価として作らせてもらえないか?」
「ふむ…そう言う事なら良いだろう。茶々丸。コイツに今日は任せてみろ」
エヴァがそう言って、士郎が作る事になった。
「じゃあ、俺が作るよ。和食でいいんだよな?」
そう言って立ちあがる士郎に、
「ああ…だが、私はこれでも舌は肥えてるんだ。下手なモノを出したら承知せんぞ?」
口元に不敵な笑みを浮かべながらそう言うエヴァ。
「ああ、そっちこそあまりの美味さにおどろくなよ?」
こちらもまた不敵な笑顔でそう答える。
「衛宮先生。こちらが台所です」
茶々丸が士郎をキッチンに案内する。それに――
「さあ、食材の貯蔵は充分か―――?」
そう言って戦場(台所)へと向かった。
台所――――
「さて、まずは―――」
精神を集中。投影するは至高の業物。かの干将莫耶に並ぶ衛宮士郎の相棒。あの紅い家政夫すらも唸らせた一品――――!!!!
――――創造の理念を鑑定し
――――基本となる骨子を想定し
――――構成された材質を複製し
――――制作に及ぶ技術を模倣し
――――成長に至る経験に共感し
――――蓄積された年月を再現し
あらゆる工程を凌駕しつくし!!
今ここに、幻想を結び剣と成す―――!!!
「――――投影開始(トレースオン)!!!!!!!」
剣の丘からソレが引き出される。剣の丘の中心に――――かの騎士王の聖剣や選王の黄金剣と並んで刺さっている究極にして最高の一品を。
士郎の手にそれは顕現する。それはある意味かの騎士王すらも打倒しえるモノ――――
それは――――
「包丁ですか?」
茶々丸の言葉が台所に響く。
そう、士郎の手に現れたのは、一本の包丁であった。
「ああ、これこそ俺が作り上げた、至高の包丁!! 剣製に剣製を重ねてついに生まれた最強の業物!! これで作り上げた料理にはかのハラペコ騎士王すらも泣いて土下座するほどの力を持つ!! まさにキングオブ包丁!!」
それを頭上に掲げた士郎の姿は、まるでかの英雄王が「乖離剣(かいりけん)エア」を構えたような絶対の自信に満ち溢れていた。
「そうなのですか?」
冷静に士郎の話を聞く茶々丸。
「ああ…これを作るのにはホントに苦労した…あかいあくまや後輩との料理対決。そして無限の胃袋を持つ飢えた獅子と虎。そして最大の敵、紅い家政夫ことアーチャー!!数々の激戦を潜り抜け、幾度となく折れてもまた立ち上がる…そう不死鳥のようにっ!!そんな過程を経てついに宝具と同等の伝説を持つに至った最強の包丁っ!!!」
感極まったようにその包丁を作り上げた過程を説明する士郎。
「現在の材質は宝石翁のじーさんにどこからか手に入れてもらった“ガン○ニュウム合金”!!今なお進化し続ける俺の最高の相棒っ!!」
ステキな笑顔でそう語る士郎。それにこれまた冷静に茶々丸が言う。
「それは凄いですね。衛宮先生」
「ああ…始めにアーチャーに見せた時は『ふっ、未熟者が私に(料理で)勝つにはそんなことでもしないと勝てないか。まあいい、ちょうどいいハンデだ。貴様に私の力(料理)を魅せてやろう…ついてこれるか――――?』…そう言ったアイツを激戦の末倒した俺は思ったよ…『そう、決してこの(料理に対する)思いは間違ってなんかいない…!! 決して、間違いなんかじゃないんだからっ……!!!!!』そう悟った俺はさらに試行錯誤を重ねて今のコレに至ったんだ…」
懐かしそうに包丁をみつめる士郎。その脳裏にはあの紅い戦場(衛宮家台所)での死闘(料理対決)が思い起こされていた。
「そうですか。それは素晴らしい物なのですね」
士郎の感動の記録を自らのデータベースに保存する茶々丸。士郎の言葉を真に受けて信じ込んでいるようだ。
「ああ…さて、それでは調理にかかろうか」
やっと帰ってきた士郎は料理を始める。
その動きは少しの間違いもなく、速く、そして正確な動き。まるでどこぞの料理マンガのようなスピードで料理をしていく士郎。それを手伝いながらも、士郎の動きを見て自らの記憶媒体に一瞬も逃さず記録する茶々丸。彼女も料理の正確性、スピードに自信はあったが、士郎の動きはどれも茶々丸を超えている。士郎の動き、調理方法を自分の能力向上に役立てようと頑張る。
そして30分後――――
エヴァの前には、どこの料亭だ――――といわんばかりの京風料理が並べられていた。
「は――――? いや、30分でこんなの出来るわけないだろうが!?」
エヴァのツッコミが入る。
「いえ、マスター。衛宮先生は30分でこの料理を作りました」
冷静な茶々丸の声が答える。
「いや、無理だろう!? 物理的に!?」
さらなるツッコミに、
「いえ、間違いありません。私も驚きました」
これまた冷静に答える茶々丸。だが、表情には何も浮かべていないが、その目は僅かに驚きの色があった。
「――――ま、まあそれはいい。肝心なのは味だからな」
そういって料理に箸をつける。
まずは焼魚。身をほぐし口に入れる。
「――――!?」
一口食べたエヴァは言葉を失う。
「くうっ――――!!」
そして次に赤だしの味噌汁を――――
「――――!!!!」
次々と箸の進むスピードが早くなる。
「フッ――――」
そんなエヴァの様子に士郎が微笑む。
「っ!? な、なんだ!!」
その表情にエヴァが士郎を睨む。
「いや――――味の感想を聞きたかったんだが…その表情を見たら聞く必要はないみたいだな?」
そう言ってまた口元に微笑を浮かべる。――――その表情はまるであの紅い弓兵のようだった。
「――――っっ!!!!」
その言葉が図星だったのか、絶句するエヴァ。その顔は真っ赤だ。
「くっ――――ま、まあ良い。確かに美味い事は認めよう。しかし…本当に貴様何者だ? あの戦闘能力に加えて、このプロ並み…いや、それ以上の料理の腕を持つとは…」
そんな疑問に、
「それは、まあ後で…それより冷めるから早く食べよう。…茶々丸さんって食べられるのかな?」
その言葉に、
「確かに食べることはできますが、それは擬装に過ぎません。ですから必要はありません」
そう答える茶々丸。
「いや、食べれるのなら一緒に食べよう。皆で食べた方が料理も美味しいしな」
その士郎の言葉に、
「――――わかりました。ご一緒させてもらいます」
茶々丸も席に座り、箸を取る。
しばらくは談笑しながら食事が続いた。
料理を食べ終え、後片付けも終わった後、食後のお茶を飲みながら話を始めるエヴァ。
「さて…じゃあ、お前の事を教えてもらおうか? 衛宮先生?」
そう告げるエヴァに、
「その前に、その先生っての止めてもらえないか? 俺も先生って柄じゃないし」
「ふむ…なら士郎…と呼ばせてもらうぞ?」
「ああ、そのほうがいい。絡繰さんも士郎でいいよ」
そう茶々丸に言う。
「では私も茶々丸で構いません」
「んー、なら茶々丸さんでいいかな」
「それで結構です」
そこにエヴァが、
「なら私もエヴァでかまわん」
士郎にそう言った。
「じゃ、エヴァちゃんで」
そう言った瞬間――――
ピシッッ!!
エヴァの持っていた湯のみにヒビが。
「エ、エヴァちゃん!?」
その言葉に震えながら俯くエヴァ。士郎からは見えないが、その顔は真っ赤だ。
「え…もしかして怒った…?」
顔を引きつらせながら士郎はそう呟く。その言葉に茶々丸が、
「いえ、マスターは呼ばれ慣れていない呼び方に対して照れているだけです」
あっさり主の状況を見抜く従者。
「ええい!! このボケロボットがっっ!! こうしてやる!!!」
茶々丸に飛び掛り、ゼンマイを回すエヴァ。その顔はまだ赤い。
「ああ…そんなにゼンマイを巻いては…」
震えながら言う茶々丸。
「えーと…それより、話の続きを…」
顔を引きつらせながらそう士郎が言った。
「…む。そ、そうだな。それより話の続きをしよう」
そう言って茶々丸から離れるエヴァ。
「コホン。あーでは、士郎のことを話してもらおうか?」
そう言うエヴァに士郎は自分のことを語り始めた。
第8話了
士郎とネギの麻帆良騒動記 | 第9話「エヴァンジェリン先生の魔法講座♪」 |